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ソードアート・オンライン《風林火山の女侍》

作者:涙カノ
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伍:戦後

 
前書き
今回は短めです。リハビリも兼ねて 

 
 
「………刀、が……!?」
「セリー!!」

 アスナが呼びかけるも、刀に気をとられていたせいでセリシールはそのまま地面へと落下する。立て直しつつあった姿勢も、刀が折れ砕け散る光景を目にしたセリシールには無駄だった。地面へと激突しそのまま体を滑らせる。

「あ、ぐぅっ……!!」
「オォォォォッ……」

 もちろんその隙を逃すことなく、74層ボス・グリームアイズはセリシールとの差を詰めていく。当然のように、狩れるものから狩っていくように。それに対し、セリシールは愛刀を失い、姿勢も崩れすぐに逃げ出すこともできない。防ぐ術もなく、ただ斬られてポリゴンへと姿を変えるだろう。

「…………っ……」

 ――ああ、終わった。ようやく死ねる。まさか、こんなところだとは思わなかったが、ようやく自分の死に場所と巡り合えた。最初から死ぬために戦っていた。それは風林火山に拾われてからも変わっていない。でも、違うのはこの場所が、みんなが楽しいなって。
 でも、それもこれで終わり。このボスの攻撃は耐えられない。わたしは、ただのポリゴンになって、そのままログアウト。あとは……命を落とすだけ。
 ……アスナにキリトは悲しむだろうか。風林火山のみんなは泣いてくれるだろうか。……師匠は、どんな反応をするだろう。
 ギラリ、と大剣が光り確実にセリシールを仕留めに来る。意識せずとも避けることのできたそれが襲い掛かってくる。そんな、気にも留めなかっただろう一瞬の恐怖が、セリシールの口から無意識に言葉を発し、改めて『死』を実感した。

「…………い、や…………」

 今まで『死』というのは、自分を楽にしてくれる逃げ道だと思っていた。死ねば楽になれる、どんな柵からも解放される。どんなものからも逃げられる。だが、そんな儚い希望は今振り下ろされようとしている大剣によってことごとく粉砕された。

 怖い、怖い怖い、怖い怖い怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 ただ、単純に怖い。敵の攻撃にあたってしまうのが?HPが減っていくのが?ナーヴギアに脳を焼かれるのが?
 違う、ただ単純に『怖い』。

「死ぬ……や、だ……いや、いやぁ!!」

 だからこそ、無意識に。

「いや……いや、ぁ………」

 死ぬのは、いやだ。死にたくないという、願いを口にしていた。

「あぁ、セリシール。お前ェをこんな奴にやらせはしねぇ」

 何処から聞こえてきたその声が諦めかけていたセリシールの意識を回復させた。その声は、いつの間にか、目の前で、ボスに対抗するかのように腰を落とし構えている。

「ォォオオオオオッッ!!」
「勢ッ……ァ!!」

 通常なら力負けして、刀もろともプレイヤーが斬られるはずなのだが、声の主――クライン――はただ一点、一瞬のタイミングを狙い、ソードスキルを放ち、大剣の振り下ろしをパリィした。

「ら、ぁ!……スイッチ!」
「応ッ!」

 武器と武器が衝突し、火花を散らす。大きな音響とともにボスの剣とクラインが真反対にノックバック、一瞬間合いができた。
 その好機を逃さずクラインは叫び、野太い声とともに二人が槍と杈を構え突撃する。硬直から解かれたボスは剣を振りかぶるも、セリシールに近づけまいとその巨体を押し返すように斬撃を繰り出す。

「姫、生きてっか、大丈夫か!」
「――っ……ぁ、ぁあ……ッ……」

 その間にセリシールの前にさらに一人現れ、声をかける。が、セリシールから得られたのはぽかんと口を開け、放心したような焦点のあっていない目。そして目から止まることなく落ちる大粒の涙だった。

「お前ぇの相手は……」
「こっちよっ!!」

 立て続けにボスの背面から細剣と大剣のソードスキルが突き刺さる。この攻撃でHPがガクンと減少するも、ターゲットを後ろに見定めたボスは、振り向きざまに軽々とその大剣で薙ぎ払う。

「うおッ……ッと!!」

 だが二人に攻撃が届くことはなく、ガァンという音とともに盾に阻まれる。続くようにキリトがウィンドウを閉じボスへ向かってダッシュする。

「ッ……スイッチ!」

 ガードした大剣を片手棍でパリィし、空間を作る。その隙間にキリトが左手で背中から剣を抜刀しつつ隙間へ入り抜き様の一撃を食らわす。

「グォォォォオオッッ!!」

 ボスは憤怒の咆哮を上げながら、炎を纏わせつつ上段から斬り下ろしを行う。それに対しキリトは今までの黒い直剣と新たに出した片手剣を交差させることで受け止めガードする。

「おめぇら!今のうちに出ろぉ!」

 クラインの声に今まで固まって戦況を見ていた軍のメンバーも体を小さくしながら入口へと向かう。その間にもキリトは剣劇を右から、左からと次々にボスへと入れていく。
 途中、剣がボスの大剣に阻まれようとキリトは止めようとはしない。一撃一撃が重く、速くボスの肉体へと突き刺さる。

「---ッ、ぁあああああ!!!!」

 そして雄叫びを上げ、懐へ一気に踏み込むとエフェクトを纏った一閃が胸の中央へと突き刺さる。キリトの声に反応するかのようにボスも同じように噴気を漏らしつつ雄叫びを上げた。だがプツリとその雄叫びが止まると、次にはその体を膨大な青い欠片となって爆散させた。

「…………終わった……のか……」
「……っ……」
「キ、リト君……?……キリト君、キリト君ッ!!」
「お、おい……姫!?」

 誰かがつぶやいたのか、戦闘の終わりを告げる言葉がこの一面に響いたとたん、その場で剣を収め立ち尽くしていたキリトと、支えられすべてを見ていたセリシールが体重すべてを投げ出すように地面へ倒れこんだ。

「…………」
「キリト君……キリト君!!」
「ぅ、あ……あぁ…こ、こは……」

 キリトが倒れて、次に意識を取り戻したのは立った数秒後だった。目をあけあたりを確認する暇もなくぺたんとすわったアスナにぎゅっとホールドされていた。

「バカ、無茶して……っ!」
「いつつ……そんなに、締めると俺のHPがなく……んぐっ!?」

 しかしまだ冗談をたたく口はあるらしくハイポーションを無理やり口の中に突っ込まれ無理やりHPを回復されていた。
 その間に風林火山の面子が今回の戦闘の被害状況の報告を受けていた。
 《軍》の精鋭部隊からコーバッツ中佐、他二名が死亡。ボス攻略戦で死者が出たのは67層以来のことだった。が、今までのボス戦に比べずとも今回の戦闘はボス攻略戦などと呼べるものではなかった。
 キリト曰く「二刀流」の隠し玉ともいえるスキルがなければ被害はさらに大きくなっていただろう。軍や風林火山が若干興奮気味に詳細を聞くも「いつの間にか習得していた、方法はわからない」とどうやらクラインの刀スキルやセリシールの太刀スキルのようなエクストラスキルとはまた別、いわゆるユニークスキルというものらしい。

「あの……クラインさん、セリーは大丈夫……?」
「っ……それが」

「……セリシール、大丈夫か、おいっ…!」

 アスナの問いにクラインは苦虫をかみつぶしたような顔を浮かべる。
 セリシールは彼とはまた別だった。風林火山のメンバーが彼女の名前を呼ぶも焦点の合わない目を開けずっと口をぽかんと開けている。

「…………」
「……とりあえず意識は確認できた、がよぉ……」
「……クラインさん、セリー……一体……」

 アスナと支えられたキリトがゆっくり歩み寄ってもセリシールの反応が変わることはない。ずっと何かを見ているのか、何も見ていないのかわからないよう視線がどこかへ行っている。

「……こんな状態のこいつは、初めて見た。……前の荒れてる時期とはまた違ってやがる」
「ねぇ、セリー……私だよ。アスナ、だよ……」

 だがセリシールの反応はなくアスナを見ているのか、それとも景色を見ているのか、何も視界に入っていないのか虚ろな目を浮かべるだけだった。

「……っ」
「……セリシール……っ」

 アスナとキリトは悲痛な面持ちでセリシールを見つめるが、変化はない。

「キリト、俺らはこいつ休ませるついでに上をアクティベートするつもりだけどよ。今日の立役者だしお前がやるか?」
「…………いや、いい。それよりもセリシールを」
「悪い。……お前らも気をつけて帰れよ」

 クラインはセリシールをおぶると軽く仲間に合図を出し、入ってきた方向とは逆にある大扉へ歩いていく。

「……なぁキリトよぉ。おめえが、軍の連中を助けに飛び込んでいったのもだけどよ」
「……どうした?」
「なんつぅか、嬉しかった。うちの弟子、守ってくれてありがとな。……そんだけだ」

 クラインはそう言い残すと風林火山を連れアスナとキリトを残し、74層を後にした。

 ―――――

「あ、ぁあ………刀……がっ……!?」

 目の前で刀が砕け散る。うまく体が動かずに地面にたたき落される。反撃を考えようにも体がすくんで動かない。それをお構いなしに目の前の悪魔――ザ・グリーム・アイズ――はセリシールの小さな体を殴り飛ばす。

「ひ、いぎっ!?」

 HPを見ずともわかる。次の一撃で死ぬ。
 死ぬのは唯一の逃げ道だと思っていた。デスゲームを宣言されたあの日から目的はそれだった。しかし逆に刀があれば何でもできると思っていた。敵を切り刻む、ねじ伏せる、始まりの街でおびえずとも先へ進める。

 でもそれは間違っていた。
 死はとてつもなく怖い。理由なんてない、単純に怖い。
 刀があっても何でもできるわけじゃない。

「いや、いや………っ」

 後ずさりしようにも後ろは壁、横にも逃げ道はなく目の前では悪魔が剣を振りかぶり今にも下ろそうとしている。
 セリシールの叫びも目の前の悪魔には届かずそのままその巨剣を、しりもちをついて動けない彼女へと……。

 ―――――

「いやぁああ!!----ッッ……!!……あ、あ……れ……?」

 目を開けたらそこはベッドの上だった。目の前に先ほどの悪魔はおらず、そこそこ大きいベッドに小さなテーブルが一つと、宿の個人部屋だった。
 時間は深夜2時から3時ほど。いつものようにこの部屋には女性ということでセリシールが一人となっている。きっと隣の部屋には雑魚寝しているクラインやほかの風林火山のメンバーがいるのだろう。

「……わ、たし……あの時……っ」

 刀を折られた先のことはぼんやりとしか覚えていない。セリシールをかばいつつキリトの準備を進めていたアスナやクラインのことをただ見ることしかできていなかった。その後は、キリトの新しいスキルの連撃によってボスのHPが0になったところで記憶は途切れている。

「あ、ぁああ……あああ!!」

 思い出すと震えが止まらない。刀を折られたこと。HPを0にされそうになったこと。市の直面に立たされたこと。両腕で体を抑えても収まるどころかさらに体が震えている。

 怖い怖い怖い、怖い怖い怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 敵の前に立つこと、フィールドへ出ること。そして刀を持つことが。

 フラッシュバックのように、自分の愛刀がおられ目の前にあの悪魔が立ちはだかるのが映像として脳裏に浮かぶ。振り払おうとも頭を何度たたいて、振ってもその映像が最初から流れるだけ、無限ループだ。
 このままでは確実に風林火山に、いや風林火山だけではなく攻略全体にも迷惑をかけてしまうだろう。武器を持っていない、戦闘にも参加できない。このような状態では攻略どころかフィールドに出ることすら危うい。

「いちゃ、いけ……ない……だ、め……」

 でも足手まといになりたくない。彼女の中でそれは譲れなかった。ウザがっていたというのも否定できないが、それでも風林火山がなければ今のセリシールはなかった。だからこそ自分が足手まといとなることでこのギルドを壊したくない。
 ならば今の自分にできることは一つ。

「………ご、めん……なさ、い………師匠……」

 その日、セリシールは誰にも告げることなく風林火山を退団した。
 
 

 
後書き
……さぁて、相当前にバイト中に思いついたことを書けた涙カノです。
ボス戦どうしよっかなぁ、普通に戦わせるのもそんなに面白くないしせっかくだし風林火山活躍させたいなって思って、こいつらが必死なうえにさらに必死になるのってやっぱり死が絡むとき?かなと
ってバイト中にふと感じてたまにコツコツ文章書いてました。

いやぁ、風林火山の武器と名前がないのって辛い。早く川原先生そこら辺の詳細情報はよ

あと映画素晴らしかったです毎週見に行きたいくらいですはい。 
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