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μ's+αの叶える物語〜どんなときもずっと〜

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第6話 ファーストライブ

1,2,3,4,5,6,7,8.....」

「こら穂乃果、ワンテンポ遅れてるぞ」

「はい!」

「海未!そこのステップちょっと早い!ことり!もっと大きく」

「「はいっ!!」」

「はい!ラスト〜っ!びしっと決めろ〜!」

俺は手拍子をしながらビシビシと彼女たちの悪いところを指摘していく。
終盤。ここはしっかり決めないと素晴らしいパフォーマンスが水の泡になってしまう。だから俺はここの決めは念入りに何度も指導している

穂乃果を中心に海未、ことりが真ん中に手を揃え、自分達の思いが空高く届けというイメージを作り出すポーズがこのライブの決めポーズ。

決まった........だけど、一瞬。ほんの一瞬だけ、穂乃果が遅れた。


「よし!これでどう?完璧だった?」

穂乃果はガッツポーズをして上手く行ったよとでも言いたげな表情をする。

「残念だったな穂乃果。一瞬だけ遅れたぞ。」

「そんなぁ〜」

穂乃果はペタんと地面に座り込み汗をぬぐう。海未もことりも立ってはいるものの息を荒くしている。最初から最後まで笑顔で踊り続けることは決して楽なことではない。それは俺が1番よくわかってるつもりだ。

「どんな時も始めと終わりが肝心なんだ。中身はある程度形になってはいるけどまだまだ君たちの動きにキレがない。柔軟がなってないから無駄な動きも生じるんだ。よし!5分休憩。そのあとは筋トレとストレッチをすること」



「「「はいっ!ありがとうございました!」」」


俺は彼女たちから少し離れ階段を見下ろしながらペットボトルに口をつける。なぜ俺がこんなコーチ地味たことをしているかだって?
それ昨日の放課後に遡る........










「ねぇ海未ちゃん」

「なんでしょうか」

「作詞も作曲も衣装も振り付けも準備できた。でも.....誰がそれを指導するの?」

「........」


ただ純粋に疑問に思った穂乃果に対し、しまったそれは考えていなかった、とでも言いたげな顔をする海未。それを見てあたふたすることり。
俺はただそれを見てやっぱり忘れてたのか...と予想が的中してしまったことに対してショックを受ける。俺は忘れてて彼女たちに言わなかっただけじゃない。できればその点に関しては海未がなんとかしてくれるだろうと心のどこかでそう思っていたのだ。だがしかし現実はそううまくはいかず、やっぱり海未も教えることはできないのだろう。別に素人目で判断するだけでもいいと思うんだけどな......


実は俺、笹倉大地は中学までダンス部に所属し、全国大会まで出場した経歴を持つ。まぁ...全国大会っていっても優勝どころか初戦敗退するようなグループだったけど。それでもまぁ.....ダンスが好きでそれがあそこまでいったんだと思う。だがしかし、なぜダンスをやっていたのかは当の本人である俺は全く持って覚えてないのである。小学6年の時も気がつけばやっていた。そのときにはすでにそこそこ踊れていたので多分もっと前からやっていたの『だろう』。



『だろう』
.......俺は小学6年以前の記憶が無い。何故かはわからない。中学の時一度だけ母さんに訪ねてみたが笑ってごまかして話を逸らされたことがある。つまりは『触れるな』と言いたいのだろう。



とと、話が逸れたな。つまりは俺には彼女たちを指導することができるかもしれない。というか、教えてあげたい。廃校阻止のためにも彼女たちのためにも。

「そもそも、全国のスクールアイドルの人達は一体誰がご指導なさってるのでしょうか」


「確かA-RISEはコーチみたいな人がいるらしいよ」

穂乃果の口からこぼれた『A-RISE』
全国で上位の人気を誇るスクールアイドルで、音乃木坂の近くにある
UTX高校を拠点にしている3人グループの事だ。
背が小さいながらもグループのリーダーを務める綺羅ツバサ。大人の魅力で男女の人気の高い統堂英玲奈。ふわふわしてて柔らかい物腰の優木あんじゅ。

最近テレビによく出るよな...あの子達。

「じゃあ私達もコーチみたいな人がいたらいいのかな?」

「そもそも私の近くにあるダンス経験の人なんているのでしょうか」

......しょうがない。助けてやるか




俺は黙って手を挙げる











「はい!休憩終わり!昨日LIKEで送ったメニューを確認して各自筋トレとストレッチ開始!特に穂乃果、サボるなよ」

「なんで穂乃果だけ〜っ!!」

頬をプクっと膨らましながらもキチッと筋トレを始める。
なんだかんだいってやる気は十分あるみたいだ。
穂乃果とことりにはキツいかもしれないけどこれだけやらないと到底人前で見せられるものではない。海未は有無を言わずこなしてるあたりを見るとらしいと言えばらしい。だけどリアクションがない為つまらない....
海未をいじるの面白いんだけどな〜








と、微かにではあるが階段の陰から赤髪が見えた。それは隠れてはチラッ隠れてはチラッを繰り返している。
恐らく俺の中で知っている赤髪の子と言えば....あの子しかいないだろう。


「あ......」」


すると俺とその子の目が合った。ヤバイと思ったのかすぐ隠れゆっくりゆっくり階段を下りる。もちろんそんな彼女を見逃すはずがない。

俺は筋トレをしている彼女たちをよそ目に俺は赤髪の子...西木野さんのところへ向かう。

「西木野さん!!」

「っっ!!!」

帰ろうとしてたのか、向こうを向いていて表情はわからない。ゆっくりとこちらを見たその顔は...安定の睨んでいる顔だった。どうして彼女に睨まれなきゃいけないのだろうか。


まぁとにかく

「西木野さん、作曲ありがとう」

俺は深々と礼をする
「やっぱり君に頼んで正解だったよ、ほんと感謝してる」

「べ、別にあんたのためにやったわけじゃないから!廃校になるとやっぱり私だって嫌だし.....」

最後の方はゴニョゴニョとなっていたがなんせ俺は地獄耳なわけでして何を言ったのか聞こえてるわけですよ。

「廃校なんて興味無いなんて言ったのはどこの誰だったかな〜?(ニヤリ)」

俺は空を見ながらニヤニヤする

「なっ!聞こえてたの!?てゆうか私そんなこと一言言ってませんけど!気のせいじゃないんですか!」

「さぁね〜」

シラを切るならそれでもいいや。ただしこの子敬語なってないな〜。
なんとかして使わせたいものだ

「.....//////」

「あっ!!西木野さんだ〜!」

後ろから穂乃果たちがやってきて声を上げる。
おい、筋トレはどうしたんだよ

「じ、じゃあ私はこれで失礼します」

居心地が悪そうにそそくさと逃げ出そうとする。それを穂乃果は取り押さえ、西木野さんに擦り寄る。
なんていうか....男性の俺からするとすごく嬉しい状況である。
穂乃果も西木野さんも可愛い方である、つまり2人が密着していると.....
いわゆる『百合』に見えてしまい、胸が高鳴る。
だが言っておく。決して百合好きではないぞ!違うぞ!!

「ちょ、なにするんですかっ!//////」

「まぁまぁ西木野さん〜いいからいいから〜」

「は、離してください!」
穂乃果は絡みつくように西木野さんの耳元で囁く。
「い...いや....いやああああああああっ!!」

西木野さんの黄色い悲鳴が響く。

「えい!」
瞬間、穂乃果は彼女の耳元にイヤホンを差し込む。

「西木野さんの作曲、海未ちゃんの歌詞と合わせてそれを歌ってみたの。聞いてみて」

「えっ?」

西木野さんはイヤホンに耳を傾ける。
穂乃果はミュージックプレーヤーを片手に西木野さんから離れ、海未とことりがそれを見守る。

「それじゃ〜、いっくよ〜。μ's...ミュージック〜」



「「「スタート!!!!」」」









〜☆〜



気がつけばμ'sの初ライブを明日に控えていた。俺たちは夕方の校門前で初ライブのビラ配りに励んでいた

「μ's!初ライブやりま〜す!是非来てくださいーー!」

「来なかったら慰謝料として2000円いただきま〜す!!」

ガスっ!

「いたっ!海未!なにすんだよ〜。せっかくビラ配りしてんのに」

「来なかったら慰謝料ってどうしてそんなこと言うんですか!ちゃんと真面目にやってください」

「へいへい....」

海未にチョップを喰らわされながらも少しずつチラシを消費していく。
チョップをかました当の本人は恥ずかしがってしまい全然減ってないけど

「海未は恥ずかしがり屋だな〜」

「な、なにがですか」

「チョップをかます暇があったらチラシ減らせっての。ほら、ことりを見てみろ。あいつもうほとんど無いじゃんか」

そう言ってことりを指さす。ことりも恥ずかしがりそうだと思っていたけどそんなことはなく、むしろ積極的に配っていた。持ち前の笑顔と脳をとろけさせるような甘い声でどんどんチラシを減らしている。そして俺の理性も....

穂乃果は穂乃果で太陽の笑顔と元気で配っていた。ことりほどではないが、海未よりかはずっと少ない。

「頑張れ〜恥ずかしがり屋の海未さん」

「〜〜〜っ!!」

そんなんでほんとにライブ大丈夫なのかよ.....






「あ、あの....」

「ん?あ、小泉さん。どうしたの?」

「あ、あの!その.....そのチラシいただけませんか?」

「あぁ、いいよ。はい....」

「ありがうございます。ライブ見に行きます」

「え!?ほんと!!」

小泉さんはそんなに大きな声で言ってはいないのに何故か遠くにいた穂乃果が反応して近くにやってきた。穂乃果......てめぇも地獄耳かよ。

「は、はい....ライブ...頑張ってください!」

真っ赤な顔をして俯きながらだけどその言葉を受けただけで頑張ってきたかいがあったと実感した。まだライブやってないけど

すごく嬉しかった。ライブを見に来てくれる子がいることはすごく励みになるし、もっとやる気が湧いてくる。





でも.....俺はとても嫌な予感がしていた。

穂乃果たちは気づいていないのかもしれない。生徒達がチラシを受け取るときの顔、受け取ったあとに呟く言葉の数々。

だけど俺はそんな言葉に耳をふさいでビラ配りに専念した。
どんなに頑張っても人には伝わらない時だってある。それはやっぱり仕方のないことだ。

でも、彼女たちの想いと努力を知ってる俺はそんなことになっていると言える訳が無い......



『世の中はそんなに甘くない』










〜☆〜


「よしっ!いい感じだぞ!3人とも!」

「やりました!やっと大地にいい感じに認めてもらえました」

「うん!大地くん、今日まで褒めたことなかったからすごく不安だったの。でもよかった〜」

「ふへぇ〜疲れた〜。大くん〜水とって〜」

「仕方ねぇな、ほらよ」

「ありがとう〜」


園田海未です。



ビラ配りを終えた私達はいつものように神社に訪れ最後の練習に励んでいました。ことりの言ったように大地はここ数日褒めることは一度もなく、
『そんなんで廃校を阻止しようとしてたのか!気持ちはあっても人に見せられるようなダンスじゃねぇぞ。ほんとにそれでいいのかよ』と、怒鳴られてばかりでした。大地がダンスをしていたことにも驚きましたけど、彼がこんなにスパルタだとは思いませんでした。
さすがの私も疲れました。でも今日やっと彼が納得いくようなダンスができたのだと。その証拠に彼は初めてわたし達を褒めてくれました。


『いい感じだぞ』

たったその一言だけですが、すごく嬉しいものです。
穂乃果もことりも途中で投げ出すものとばかり思っていましたし、特に穂乃果は朝練に遅刻するかとも思っていました。

でもそんなことはなく穂乃果もことりも本気で廃校を止めたいという熱意が伝わってきました

.....私も負けていられません。


「じゃあ5分休憩、そしたら今日は無理せずストレッチだけにして今日は終わりにしよう」

「えぇーっ!?なんで!?穂乃果まだ出来るよ!」

「だめだ、前日に無理して頑張ったってどうにもならない。少なくともダンス練習初日と比べたらかなりまともになった。正直大会に出るといったら予選敗退レベルだけど今の君達は人に見せても恥ずかしくない良い形になった。だから無理することはない」

そう告げ、彼はベンチに腰掛ける。
「そうだよ穂乃果ちゃん、大地くんから褒めてもらった。だから本番は大丈夫だよ」

「大地の言う通りです。無理することはありませんよ」

「でも.....うん。わかった」

穂乃果は納得してくれたみたいです。「や〜ダンスしたからお腹すいちゃった〜」と、言ってバックの中をごそごそと探り、パンを取り出す

「穂乃果は....」

私は少々呆れてしまいました。

ふと、大地の方を向きました。






「...........」





彼は無言でどこかを見つめています。その顔は先程までと違い不安そうな顔です。

ダンスがまずいのでしょうか....
いえそんなことはないはずです。先ほど褒めてくれたのは嘘ではないはずです。では何故大地はそんな顔をするのでしょうか......












〜☆〜

「以上を持ちまして新入生歓迎会を終わります。各部活とも体験入部を行っているので興味が終わったらどんどん覗いてみてください」





ついにこの時が来た。
俺はかなり緊張していた。もしかすると全国大会に出場していたときより緊張しているかもしれない。俺がダンスをするわけではないのにな。




新入生歓迎会が終了し、俺たちはすぐに最後のビラ配りを始めた。
だけど、みんなそれぞれの興味のある部活を見学に行き、俺たちのチラシに見向きもしない。受け取ってくれる生徒もいるが、昨日と比べると圧倒的に減る量が少ない。

「どうしよう大地くん」

「まだあきらめるなことり、まだ1時間も時間はあるんだ。もう少し頑張ろう」

「うん....」

遂にはことりをはじめ、海未や穂乃果にも不安の顔が現れてきた。
なんでここで君達が不安そうな顔するんだよ!!
俺は少し頭に血が上った。くだらないことで頭に血が上った俺は少し怒鳴ってしまった





「お前ら!そんな顔をするな!君達はスクールアイドルなんだろ!?なのに君達が不安がってどうするんだよ!アイドルは不安でも常に笑顔でいなきゃ!!そうだろ?」

少しは抑えたつもりだけどやっぱり声が荒くなってしまう
突然の怒声に驚いた3人はすぐに頷き、笑顔にもどる。



「「「うんっ!!!」」」



「μ's!午後4時から講堂でライブやりまーす!!」

「是非来てくださ〜い!!」

「お願いしま〜す!!」


「...よし」

俺はセッティングを始めるために彼女たちから離れ講堂に戻る。







「あれ?」

講堂に入ると見慣れない女子生徒が3人ほど機材の移動やらライトの準備をしていた。

「あの....君たちは?」

「えっ!?わたし達のこと覚えてないの!?クラスメートのヒデコだよ」


「わたしはミカ!」

「私はフミコ」

クラスにこんな子達いたっけ?まぁいいや

「ところでなにしてるんですか?」

「決まってるじゃん!μ'sのライブの準備だよ!」
と、ミカさんが答える

「大地くんはアイドル部の部員なんでしょ?だったら手伝ってよ〜重い物とか私には無理無理」
と、ヒデコさん

「...すいません、ありがとう」

「いいってことよ!わたし達だって廃校してほしくないし、なによりμ'sを応援してるもん!!」
と、フミコさん

「すごく助かります!」




初ライブまであとわずか












「ふぅ....」

私は今日やる仕事を終え、講堂の管理室に来ていた。
彼女たちの....無様なダンスを見るために。

「そこのあなた?」

「はいっ!?」

多分μ'sの手伝いをしてる生徒だろう。

「これから始まる彼女たちのダンスを動画に撮って」

「え?は、はいわかりました」

女子生徒は渋々動画撮影の準備にはいる。

彼女たちμ'sの行動は理解できない。廃校を止めたくてダンスでみんなを集める?そんな素人のダンスで人が集まると本気で思っているのかしら。
そんな思いつきの行動で廃校が無くなると?

だからあなたたちのダンスはどれだけ人を魅了できないか教えてあげるわ



そして彼.....笹倉大地といったかしら

共学化で彼がやってきた。それはまだいい、だけど何故あの子達の味方をするの?私にはそれが理解できない












俺の予想は...確信に迫ろうとしていた。
開演15分前なのに人が誰もやって来ない。穂乃果たちはステージ裏で準備をしているためこのことを知らない。



息がつまりそうなほどの静寂が空間を支配していた。

ヒデコ、フミコ、ミカ(通称ヒフミ)たちは最後の追い込みとしてビラ配りに行ってもらった。だけどその結果もあまり期待できそうにない。



穂乃果たちと出会って1ヶ月。俺にとって本当に中身の濃い1ヶ月だった。最初は学校に馴染むことで頭がいっぱいだった。俺は生きてここから卒業できるだろうか、とか友達できるのだろうか、とか。
だけど穂乃果をはじめとする海未やことりが俺を歓迎してくれた。
そして廃校を止めるためにスクールアイドルを立ち上げて、朝と夕方階段ダッシュや筋トレ、ストレッチ、ランニング、ダンス....

俺は彼女たちのために辛い練習を与えて、そして見守ってきた。
それに応えるように毎日毎日取り組む姿勢が変わり、絶対廃校を阻止するんだという彼女たちの想いが俺にまで届いた。
だからきっとライブは成功する。そう信じた。





いや....そう信じていたかったのかもしれない。



開演5分前。....今だ1人もやって来ない。

さすがにヒフミたちも戻ってきた。結果は予想通り。
万事休す........どうしようもなかった。


俺は....彼女たちに何をしてやれただろうか。
あぁ、こうなるかもしれない

心のどこかでそう思っていた筈なのに、逃げて、目をそらして、そうして来るはずのない夢を見続けていた。



「あんなに必死の彼女たちの想いが通じないなんて......」

そんな筋の通らない話があってたまるか!!!!



瞬間

始まりを告げるサイレンが鳴り響いた。

ゆっくりと幕が上がる







無音の静けさが講堂を支配する。


何も知らぬまま期待と緊張で胸を膨らましながら3人は手をつないでゆっくりと顔を上げる。



微妙な笑顔とその後にやってくる寂しげな表情。状況を理解してやっと口をポカンと開ける穂乃果。目を見開く海未。ポカンと口を開ける穂乃果を見ることり。彼女たちは今は何を思っているのだろうか。




悔しかった

こんな状況になってしまったことが悔しかった

彼女たちの想いが通じなかったことが悔しかった

そしてなにより


何もできなかった俺自身が悔しかった

「はは..........」

静寂を破ったのは穂乃果の空虚な笑い

「穂乃果.....」 「穂乃果ちゃん......」

穂乃果を不安げに見つめる


「そりゃ......そう...だ」







「世の中....そんなに甘くない!」




穂乃果は笑った。でもいつもの太陽のような笑顔ではなく。無理に出した作り笑いだった

そしてその笑顔は崩れ目に涙が溜まり、顔がくしゃくしゃへと変化する。

その顔を見た2人はつられて涙目になり始める




見ていられなかった。いやダメだ!俺は彼女を最後まで見届ける責任がある!ならば俺がすべき事は1つだけ


「穂乃果...海未....ことり...」



気がつけば俺も涙を流していた。それを拭き取り笑顔で告げる

「なにしてんだよ....ライブ....見せてくれよ.....今日まで頑張った成果を俺に...ヒデコさん、フミコさん、ミカさんに君達のダンスを見せてくれよ」





こんなことしかできなかった。


「確かに、こうして見てくれる人を集められなかった。アイドルやって学校をなんとかしたいという思いを...君達はみんなに伝えられなかったのかもしれない。もしかしたら、絢瀬会長の言う通りだったのかもしれない。思いつきでやったって何も止められない変えられない。ただの自己満足だったのかもしれない....」


「大くん......」




俺は悔しくて悔しくて思わずに手に力が入る。爪が肉に食い込むのをお構いなく、血が流れても痛くはない。

穂乃果の方が

海未の方が

ことりの方が

ずっと、ずっと痛いに決まってるから。



「だけど!!ここで諦めようとするんじゃねぇ!!ここで諦めたらお前達は何の為に毎日頑張ってきたのかわからなくなる!!穂乃果!!」

「は、はい!?」

いきなり呼ばれて戸惑う穂乃果だが、俺は無視して続ける。


「お前は!!アイドルをやって.....何がしたかったんだ!!何の為に海未やことりと一緒にアイドルをしたんだ!!」

「ほ、穂乃果は....」

「海未!!」

「はいっ!」

次に海未。

「どうして穂乃果とアイドルをしようと決めたんだ!1番アイドルするのを嫌ってたお前が!!」

「......」

「ことり!」

「はいっ」

「お前もだ!穂乃果と何を成し得たかったのか!衣装を作り、振り付けを考えてその成果を見せずにここで退場する気か!!」

「で、でも!見てもらうお客さんは1人も────」

「客ならここにいる!!!!」



そうして穂乃果達はハッと気付く。
目の前で大声を上げて穂乃果達を励まそうとする俺を見て...



「大勢だろうと1人だろうと....客は客だろ?なら、やる事は決まってるんじゃないのか?」

「大くん....」


穂乃果の目からさっきまでの悲観から希望の目へと変わる。


直後、












バンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!






確かに穂乃果の言う通り『世の中はそんなに甘くない』かもしれない


でも




「はぁ.....はぁ......あれ?ライブは...?」




『世の中....捨てたもんじゃない』!!!!!!!






「ライブぅ........」

やって来たのはメガネを付けた1年生、小泉花陽

彼女はライブが終わってしまったのだと思ったのだろう。
観客のいない席をキョロキョロ見渡しながら不安そうにしている

そういえばライブ見に行くってあの子行ってたな


「やろう!!」

「「えっ?」」

突如穂乃果が宣言する!



「やろう!全力で!」

「穂乃果.....」

「穂乃果ちゃん.....うん!」

周りのライトが消え辺りは真っ暗になる



そして.....彼女たちのダンスは...スクールアイドルは始まった
俺は座席の1番前に腰掛けて彼女達を見守る。


「I say....hey,hey,hey, START:DASH!!」





序盤のミスが1つもなく成功し、歌が始まる


俺からするとまだまだ全然足りない。ところどころ小さなミスが出ていて正直昨日の方がうまかったとおもう。

それでも3人のダンスはここにいる観客を魅了するには十分だった。
目を離すことができなかった。あの子達の想いがしっかりと
歌、ダンス、そして笑顔に込められていた。






〜☆〜


最後の決めまでしっかりこなし...彼女たちの初ライブは幕を閉じた。
俺は立ち上がり拍手をおくる。後ろから聞こえる拍手の数に疑問を感じ、
後ろを振り返る

ヒデコさんは管理室で音響の手伝いをしているのでフミコさんとミカさんの2人、小泉さんの後ろに星空さんがいた。小泉さんを探しに来たのだろうか。興味無さそうに見えた星空さんがしっかり拍手をおくっているところを見ると意外と興味あるのかもしれない。

講堂の出入り口のところには隠れるようにして西木野さん。

反対側の出入り口の近くの席に隠れるようにして黒髪ツインテールの少女がじっと見ていた。あの子も1年生なんだろうか.....

ステージでは笑顔でハイタッチをする3人.....


とにかく小泉さんの他にも1年生が来てくれてよかった。
また涙を流しそうになったのをぐっと堪えて拍手をおくり続ける


その中にコッコッと足音が混じっていた。
振り返ると......絢瀬会長がこっちに向かって来ていた。

忌み嫌っていた絢瀬会長が何故講堂にいるんだろうか.....


「生徒会長.....」

天敵の登場に穂乃果は顔を強ばらせる。


「これからどうするつもり?」

絢瀬会長は冷たく言い放つ....

「続けます!」

ライブをやってわざわざ聞くことでもないとおもうけどなぁ...
でも...たった数人しか集められなかったことを考えると、責められてもおかしくはない

「何故?これ以上続けても意味があるとは思えないけど」

空席の目立つ講堂を絢瀬会長は見渡しながら彼女らに活動の意義を問う



「やりたいからです!今...私もっともっと歌いたい、踊りたいって思ってます。きっとことりちゃんも海未ちゃんも」

絢瀬会長の冷徹な問いに対して穂乃果はとてもシンプルな答えを出した


「こんな気持ち初めてなんです!やって良かったって本気で思えたんです!今はこの気持ちを信じたい.....このまま誰も見向きもしてくれないかもしれない...応援なんて全然もらえないかもしれない。でも一生懸命頑張ってこの想いを届けたい!今私たちがここにいるこの想いを!!!」



「......」

絢瀬会長はじっと何かを考えるように穂乃果の想いを聞く。

「いつか........いつか必ず.........」




「ここを満員にしてみせます!!!」






「そう....ならそのまま続けていればいいわ」

それだけ言い残し絢瀬会長は講堂をあとにした。


「....貴方」

と、思ったら俺に振り向いた。


「俺?」


「貴方はここで何をしているの?」

絢瀬会長のの質問はいたって簡単な質問だった


「何をって.....決まってるじゃないですか」



俺はフッと笑みをこぼしてこう答えた。





「俺がしたいことをしてるだけですよ」


「この結果が?最初は誰も見に来ないでやっと来てもたったの数人。これが貴方のしたかった事?」

「そうですね〜。確かにこの結果は俺達の非ですから反省はしてますよ」

「わかってるなら...もう辞めることね。この先続けても結果が目に見えるだけよ」

やはり、この石頭会長は何もわかってない。わかってないから、そんな事が言えるんだ....

「そうじゃねぇんだな〜....そんなんだから、生徒会長は何も出来ない。」

「なんですって?」

「俺が穂乃果達のマネージャーとして活動してるのは自分の意志を持って活動しているからなんですよ。その点において、生徒会長には何も無い。」

「私に....自分の意志がない?そんなわけないでしょ」

会長は訝しげな顔つきで俺を見る。


「生徒会長さんは...どうして廃校を止めようと?」

「そんなの、生徒の代表としてこの大事な音ノ木坂を────」

「だーからっ、そこなんだってば。」

どういうこと?と言った表情で、だけど俺はスルーして穂乃果達のいるステージに上がる。そして俺は告げる。




















「わかんねぇならてめぇは一生泥ン中だ。そんな人間に、この学校を守れるなんて思えない。彼女達を否定するのもな。」

 
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