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龍が如く‐未来想う者たち‐

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冴島 大河
第一章 刑期中の悲報
  第三話 背負う罪

興味がある、その言葉は2人を困惑させる。
意図はわからないが、考えもなしに言った訳ではなさそうだった。


「何で、俺に興味あんねん」
「……忘れたとは言わせんぞ、極道18人殺しのあの事を」


冴島の顔が、さらに歪む。
極道18人殺し……。
その事を忘れた事は、一時もなかった。

元々冴島は、東城会の笹井組に所属していた。
だがある事件がキッカケになり、長い監獄生活を強いられる。
それが、極道18人殺し。
笹井組の出世の為に、自身は罪を背負った。
結果的に笹井組は消え失せ、冴島自身も誰も殺害していないと聞かされる。

無駄だったとしても、この罪からは逃れられない。
一生背負うべき烙印なのだ。


「……忘れるわけ無いやろ。それと何の関係があんねん」
「俺はお前の力を買ってんだよ。なぁ?俺と一緒に組まねぇか?」


突然の申し出。
だがそれで、何となく理解した。
こいつは、元極道なんだと。
18人殺しを知っていたから、そんな理由じゃ無い。
腹の底に見える何かの気配が、ただの堅気の雰囲気では無かった。
冴島は小さく舌打ちすると、檜山に背を向け歩き出す。


「冴島。東城会幹部なら、南にある公園にいたぞ。信じるか信じないかは、お前次第だ」


檜山の言葉に、思わずピクリと体が反応する。
振り返らずとも、奴がどういう顔で立っているか容易に想像出来た。
だからこそ、余計に腹が立つ。


「行くで、兄弟」


2人は檜山にそれ以上言葉を交わさないまま、足早にその場を去った。




道中、冴島も真島も黙ったまま俯いていた。
互いに考え込んでいたせいか、嫌に空気が重い。


「兄弟」
「何や?」
「佐川っちゅう男、誰や。初耳やぞ」


空気を変えようと口を開いたが、出てくる言葉がそれしかなかった。
ずっと頭にモヤモヤと残る、佐川という名前。
もやを晴らしてくれる、答えが欲しかった。
溜息ついてばかりの真島は、また深い溜息をつく。


「お前がまだ収監されとった時、ワシは大阪におった……」


忘れる事のない、大阪の思い出。
18人殺しの1件で極道社会から追放され、追いやられた先は大阪だった。
キャバレーの支配人として名をあげるも、監視され続ける生活はまるで牢獄。
真島なりに罪を背負い、生きていく。

そこで出会ったのが、佐川だった。
金を稼げば、真島の親父である嶋野に話を通す。
それが、真島と交わした約束だった。
だが、ある女性の存在によりその約束は消える。
マキムラマコト。
彼女の存在が全ての運命を変え、そして佐川の結末をも変えてしまった。


「佐川は死んだ……ワシはそう聞いたんや」
「せやけど、顔がそっくりな檜山が現れビックリした訳やな」
「似過ぎや、アイツ。兄弟とかそんなんじゃない、まるで佐川自身や」


あの真島が取り乱す程の男。
たとえそっくりだとしても、2人に接触してきたからには脅威になるに違いない。
もし檜山と対峙するようなら……。


「罪を背負ってたのは、俺だけやなかってんな」


独り言のように、ボソリと呟く冴島。
だが真島は聞いていたのか、煙草に火を点け言葉を漏らす。


「人は誰でも、何かを背負って生きてる。何も背負わない人間なんて、この世にはいない。俺らみたいな極道者は、それが罪っていうだけ。俺も、お前も……桐生ちゃんもな」
「……兄弟」
「あぁ?」
「関西弁なくなっとんで」


冴島に言われ、ハッと気付く真島。
知っていた。
真島から関西弁が無くなった時は、真面目な時だと。
落としそうになった煙草を何とか掴み、さっきまで溜息を吐いていたとは思えない程の笑顔を見せる。


「しけとる場合ちゃうわ。檜山の言葉信じとる訳やないけど、はよ行こうや」
「わかっとるわ、真島」


いつもの笑顔に戻る2人。
あの頃2人でやっていた事を思い出し、何だか懐かしい空気に浸る。
そうだ、こんな感じだった。


歩む足は、南へと向いていた。
 
 

 
後書き
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