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匹夫の雄

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第三章

「間違いないな」
「はい、それでは」
「丸橋忠弥に人をつけようぞ」
「そして由井正雪にも」
「あの者達は間違いなく謀反を企んでおる」
 正之は確信して言った。
「だからな」
「人を常につけて」
「そして手掛かりを掴み」
「そのうえですぐに」
「おかしな動きがあってもじゃ」
 その時もというのだ。
「全員捕らえようぞ」
「そして江戸城の守りもですな」
「固めておこう」
 用心に用心を重ねてだ、そのうえでというのだ。
 正之は信綱の言葉を受けて万全の備えを敷いたうえで由井と丸橋をこれまで以上に見張った。そして謀反の確かな証拠を手に入れてだ。
 すぐにだ、丸橋に多くの者を向けて捕らえにかかった、丸橋はそれを察してだった。 
 自慢の槍を手に外で彼等を待ち受けた、彼は夜の町の中己を囲むその者達に対して強い声で怒鳴って言った。
「御主達、わしと戦をするつもりか」
「そのつもりで来たのじゃ」
「この数で相手になると思うか」
「神妙に致せ」
 周りの者達は丸橋に言う、そしてだった。 
 一斉にかかる、しかし。
 丸橋はその手に持っている槍を縦横無尽に振るい倒していく、だが。
 捕まえに来た者の数は多く次から次にだった。
 丸橋にかかりだ、梯子や縄まで使ってだった。
 遂に丸橋を捕らえた、そして由井正雪と彼の周りの者達もだ。
 追い詰め捕らえようとしたが腹を切られてしまった、だがこれで幕府は謀反の企みを防ぐことが出来た。その後で。
 正之は信綱にだ、こう言ったのだった。
「貴殿が教えてくれたからこそ」
「堀のことですな」
「助かった」
「いえ、当然のことをしたまでです」
 幕臣としてだとだ、信綱は正之に答えた。
「それだけのことです」
「そう言われるか」
「はい」
「堀に石を投げ込む」
 正之は信綱にこのことも話した。
「堀の深さを石が堀を落ちる音で探っていた」
「そのことを見て何よりでした」
「全くじゃ、そして丸橋を捕らえたが」
「その時のことですか」
「多くの者を捕らえる為に送ったがよく捕まえられた」
 このことをだ、正之は喜んで言った。
「それも何より。しかし」
「しかしとは」
「幾ら丸橋が槍の達人でも」
「はい、一人でしたので」
 捕らえる相手は丸橋忠弥一人だった、だからだと言う信綱だった。
「人を多く送れば」
「捕らえられるか」
「所詮一人です」 
 如何に丸橋が強かろうともというのだ。
「それならばどうとでもなります」
「天下の槍の使い手もか」
「一人ならばです」
 それならというのだ。 
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