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匹夫の雄

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第四章

「どうにかなります」
「一人の力は知られておるか」
「由井の一派自体がそうで数が知れていましたので」
「どうにかなったか」
「数が少なかったので」
 謀反を企んだ者達のだ。
「ことは未然に済みました」
「匹夫の勇か」
 正之は服の袖の中で腕を組んで言った。
「所詮は」
「はい、確かに丸橋忠弥は強く由井正雪は切れ者でしたが」
「数が少なかった」
「それではです」
 どうしてもというのだ。
「匹夫の勇です」
「それに過ぎぬか」
「幾ら強い者、賢き者でも一人では」
 そして数が少なければというのだ。
「力も知れています」
「数があってこそじゃな」
「やはり数は力です」
「そういうことじゃな。では幕府も」
「これまで以上に数を備え」
「力を蓄えそして」
「天下を泰平にする力を備えましょうぞ」
 謀反は起ころうとした、しかしこのことから学んでというのだ。
「浪人達への政もしたうえで」
「この度のことの元も収めてな」
「はい、そうしてです」
「数も備えてな」
「幕府も匹夫にならぬ様にしましょう」
「確かな数を備えてな」
 正之は信綱に確かな声で応えた、由井正雪の謀反の件は幕府に様々な教訓を与えることになった。
 丸橋忠弥は確かに強かった、だが。
 後にある槍の達人もだ、一度に十人を相手にして負けた時にこう言った。
「幾ら強くともじゃ」
「一度に何人も相手にしては」
「それではですな」
「うむ、勝てぬ」
 こうその相手をしてくれた者達に言うのだった、汗に濡れた顔で。
「到底な」
「ですな、一人ではです」
「幾ら達人でもです」
「力は知れていますな」
「どうしても」
「そうじゃ、幾ら槍が強くとも一人ではたかが知れておるわ」
 また言うのだった。
「所詮な」
「ですな、そのことを踏まえて」
「そして、ですな」
「槍の鍛錬をしていく」
「そういうことですな」
「技だけでなく心も磨かねばな、幾ら強くとも所詮それだけでは多くを倒せぬわ」
 そうしたものに過ぎないというのだ、彼は槍の鍛錬の後で言った。丸橋忠弥のことは知らないがそれでも言ったのである。
 丸橋忠弥は確かに槍の達人だった、もっと言えば由井正雪も人望があり頭が切れた。しかし彼等は謀反を果たすだけの力はなかった。それでは匹夫の勇としか言えないであろうか。歴史に残る彼等を見て思うことである。


匹夫の勇   完


                      2015・7・19 
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