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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico?約束~Contract of a Devil~

ドクター・プライソン。時空管理局の捜査部に勤める局員であれば誰もが知る次元犯罪者だ。首都防衛隊9名、それに加えて本局・内務調査部・査察課の査察官ルシリオンが、そのプライソンと関わりがあるとされる研究施設へと潜入捜査を開始した。
ルシリオンは施設のメインルームと思われるドーム状の部屋にて、メインコンピュータから施設内に残されたデータの回収作業を行い、首都防衛隊は隊長のゼストと他2名の1班、分隊長のクイントと他2名の2班、同じく分隊長のメガーヌと他2名の3班と、3つの班に分かれてメインルームの両側から伸びる6つの通路を捜索し始めた。

『ナカジマ分隊長。やはり分厚い隔壁をどうにかしないとダメみたいです』

『う~ん。流石にこの分厚さは私でも破壊できないかな~』

『というか、そんなことしたら1発で気付かれるでしょうけどね』

クイント班が調べるために入った通路の先には半月状の隔壁があり、彼女たちの行く手を遮っていた。班員の1人である青年・クラッコは『気付かれないようにサッと開けて、サッと閉めれば・・・』そう提案した。

『開けた瞬間を見られたらアウトじゃないかな?』

『俺たちの姿はセインテスト査察官の幻術魔法で見えていない。隔壁が開いたところを見られても誤作動って思われるんじゃないか?』

『・・・ダメ。見られたら原因を調査するだろうから、ルシル君がメインコンピュータにアクセスしているのに気付かれる可能性がある。この隔壁の先がどうなっているか判らない以上、そんな危ない賭けは出来ない』

完全に手詰まりなクイント班は隔壁の前で立ち往生。だからクイントは『しょうがない。ここの通路の捜査は諦めよう』目の前に立ちはだかる隔壁をコツンとノックし、隊長のゼストに念話を繋げた。

『隊長。ナカジマ班ですが、割り当てられた通路が隔壁に閉ざされているので、別通路の捜査へ移ります』

『そうか。こちらの通路は今のところ隔壁は全て開いているが・・・。もしかするとそちらの通路がアタリなのかもしれんが・・・。まずは開いているところから確実に攻めて行こう』

『了解です』

ゼストから許可を貰ったことでクイント班は来た道を後戻りする。その道中、『こちらクイント。一旦そっちに戻るからね。・・・ルシル君の方は何か判った?』メインルームへ戻る前にクイントはルシリオンへと連絡した。

『最悪な事ばかり判りました。とりあえず皆さんが集まってから話します』

ルシリオンとの念話を切った後、『どういうことでしょうね今の』同じ班員である青年、アベオが腕を組んで小首を傾げた。

『まぁ、詳しい事は集合してから話してくれるようだから、私たちは仕事を果たすことに専念。いいわね?』

『『はいっ』』

そしてクイント班がルシリオンの居るメインルームの入り口に着いた時、クイントは見た。メインルームの至るところにある影の1つから何者かの頭が音も無く出て来たのを。

「・・・っ!?」

それは10代後半ほどの少女だった。バイオレットのショートヘアの髪型はインテークで、カチューシャを付けている。クリムゾンの瞳は猫目で、口もどことなく猫口。ハイネックの黒セーターに白のロングコート、裾から覗くズボンも黒、そして茶色のブーツという格好だ。
影から出て来た少女は迷う素振りも見せず、視認できないはずのルシリオンへ向かって音も無く一足飛びで接近。しかも拳に黒い靄のような纏わせている。完全に攻撃体勢。メインコンピュータのキーを叩いているルシリオンは気付いていない様子だ。それが判ったからこそ・・・

「ルシル君ッ!! うし――」

――闇の女王の鉄拳(サリュ・マンソンジュ)――

クイントは大きく声を上げた。しかし最後まで言い切るより先に、ドゴンッ!およそ人を殴った時に出る音とは思えない程の轟音と共に、「ぐぁ・・・っ!?」ルシリオンは殴られ、さらに黒い靄が拳の形となって彼を吹き飛ばした。その衝撃で幻術は解かれ、姿が露わになったルシリオンは空間モニターを突き破り、その奥の壁に叩き付けられてしまった。

「むふふ、絶景かな、絶景かな♪」

「ルシル君!」

「なんだ今の・・・!?」

「影から女の子が出て来た・・・!?」

壁に出来たクレーターの中心で「ぅ・・・ぐ・・・」苦悶の声を漏らすルシリオン。少女はさらに追撃を行おうとしているのかルシリオンに向けて手の平を翳した。彼の愛称「ルシル君!」とクイントは叫び、自らの存在を隠すような真似をせずに「このぉぉぉぉ!」少女へと立ち向かって行った。

「カートリッジロード!」

クイントの両手には“リボルバーナックル”という、カートリッジシステム搭載・非人格式・拳装着型のアームドデバイスが装着されている。手首部分には歯車状のパーツ、その名称をナックルスピナーという機構があり、ソレが高速回転することで回転力による打撃の威力強化や、魔力を加速させて撃ち出すことが可能だ。

「はぁぁぁぁぁぁッ!」

クイントの両脚にはローラーが4基付いたブーツが装着されている。それゆえに陸上での高機動戦を可能としている。クイントはナックルスピナーを高速回転させた右の“リボルバーナックル”を振りかぶり、ローラーブーツによる瞬発力で少女へと高速で突撃して行った。

「ナックルダスタァァァァーーーーーッッ!」

そして繰り出すのは魔力を圧縮し、上体から拳を強化して直接相手を殴りつける一撃ナックルダスター。ルシリオンを一心に見つめる少女は避けようとも防ごうともせず、クイントの一撃をまともに右頬に受けた。アベオとクラッコが「直撃!」とガッツポーズをしたが、クイントは「うそ・・・」その顔を驚愕に染めた。

「ちょっと~。僕の邪魔をしないでほしいんだけど」

クイントの拳をまともに受けながら、少女はよろけるどころか、殴られていながらも痛がる素振りも一切見せない。そして少女は、自分の頬を打った見えないクイントの右拳をギュッと掴んだ。

「どういう方法で姿を消してるのか知らないけどさ。こうして触れられていればどこに居るか判るし、それ以前に移動時にすごく音がするんだよね。ホイール音って言うんだっけ? あれでも位置が掴めるんだよ」

「っ・・・うっ!」

「「ナカジマ分隊長!」」

少女はクイントの右拳を鷲掴んだまま旋回して、クイントをアベオとクラッコの居る場所へ向かって放り投げた。飛ばされた来たクイントを抱き止めた2人は「おわっ!」その衝撃に踏ん張りきれずに吹っ飛び、仰向けに倒れ込んだ。それと同時に3人の幻術も解除されてしまった。

「そのまま寝てれば? 僕の邪魔しようっていうんなら・・・マジで()っちゃうよ?」

少女が起き上がり途中のクイント達に振り返った。ただ佇んで居るだけなのにその言いようのない威圧感に、「っ!」アベオとクラッコは委縮してしまっていた。しかし「管理局員である前に大人として、親として、子供を護るのが務めよ!」クイントだけは懸命に自分を奮い立たせた。

「へぇ。神器王とのガチンコの前哨戦としてちょろっと遊んであげるよ」

「(ジンギ王? ルシル君のこと・・・? ううん、そんなことは今はどうでもいい)来なさい!」

「いいよ、行っちゃうから♪」

クイントへ向かって駆ける少女。クイントは待ち構え、「パ~ンチ♪」少女が繰り出して来た正拳突きをボクシングで言うダッキング(頭を素早く下げて回避する行為)をすることで躱し、即座にカウンターを打つ。

「ナックルバンカー!」

“リボルバーナックル”のスピナーを高速回転させて魔力を高め、拳の前面に硬質の魔力フィールドを作り出し、そのフィールドごと相手に衝撃を叩き込むカウンター用の魔法を発動。その一撃は少女の鳩尾に確実に打ち込まれた。

「これで! これで・・・?」

「あのさぁ、もっと本気で打ち込んでよ。僕、全然感じないよ♪」

「そんな・・・!」

クイントの目が大きく見開かれる。1ヵ月入院コース送り覚悟の一撃だった。それでも少女は一切の防御をせずに、その一撃を受けながらも全くと言っていいほどにダメージを被っていなかった。

「理解できた? お姉さん。どれだけ頑張っても届かない高みって言うものがこの世には在るんだよ」

ショックで僅かに後退したクイントに手の甲による裏ビンタが襲う。腕を顔の横にまで掲げることでギリギリ防御態勢に入れたが「きゃあああああ!」その衝撃はあまりにも凄まじく、クイントは十数mと弾き飛ばされて壁に叩き付けられてしまった。

「ナカジマ分隊長!」

「子供だからって容赦しねぇぞ!」

アベオとクラッコが武装隊で使われているストレージデバイスの杖を少女に向け、「当たれ!」同時に砲撃を放った。少女は「めんどくさ」そう言って肩を竦めて、2つの砲撃の直撃を受けた。魔力爆発によって起きた煙に覆われる少女を警戒しながら、クラッコはクイントの側へ駆け寄り、アベオはルシリオンの元に駆け寄った。

「分隊長、しっかり!」

「げほっ、げほっ・・・! 私は大丈夫・・・。ルシル君は!」

クイントは自分の身よりルシリオンの身を心配した。ただの裏ビンタでこの威力。しかしルシリオンは拳打で、さらには魔法付きの一撃を受けた。自分が受けたものに比べて威力は何倍もあるだろうと、クイントは気が気ではない。アベオが「セインテスト査察官!」クレーターにめり込んでいるルシリオンを助けようとした時・・・

――地断つ黒光の鎧壁(ミュール・デカローグ)――

ルシリオンとアベオを隔てるように真っ黒な壁が生まれた。そして「せっかくの磔刑なんだからさ、降ろそうとすんなよな~」晴れた煙の中か現れた無傷な少女がアベオに声を掛けた。

「こなくそ!」

クラッコがさらに砲撃を発射。少女は迫る砲撃を裏ビンタで迎撃、粉砕した。アベオもまた砲撃を放つが、少女は手の平を翳したかと思えばそのまま受け止め、同時に握り潰した。クイント達はようやく思い知った。勝てる相手じゃない、と。

「は~い。心が折れた音がしたよ~」

ゴツゴツとブーツの音を鳴らして歩く少女。クイント達は無意識に1歩2歩と後退した。少女は猫口を釣り上げて笑顔を作り、「ほら~、後悔してるでしょ。だから言ったの、に!」少女がクイント達の元へ一足飛びで接近しようとした、その時・・・

――舞い降るは(コード)汝の煌閃(マカティエル)――

サファイアブルーに光り輝く30本の槍が柵のようにクイント班と少女の間に突き立てられていった。直後「レーゼフェアァァァァーーーーッ!」ルシリオンが少女の名前を怒声で叫びながら・・・

――集い纏え(コード)汝の閃光槍(ポースゼルエル)――

真っ黒な壁を蒼い光に覆われた“エヴェストルム”で斬り裂き、レーゼフェアに斬り掛かるも「もう! コイツらで遊ぶんじゃなかった!」彼女は頬を膨らませつつ後退して躱す。

「これ以上クイントさん達には指1本触れさせない!」

――舞い降るは(コード)汝の煌閃(マカティエル)――

レーゼフェアの後退を妨げるようにして再び光の槍が30本と降り注ぎ、彼女をU字に囲った。

――戦滅神の破槍(コード・ヴィズル)――

間髪入れずにルシリオンは“エヴェストルム”の先端より「おらぁぁぁぁぁッ!」彼の有する雷撃系砲撃術式においての最強の一撃・ヴィズルをレーゼフェアの至近距離で発射した。

「ぅく・・・!」

「すげぇ魔力だ!」

「女の子が吹っ飛んだ!?」

クイント班がルシリオンの魔法、いや魔術の威力に驚愕。レーゼフェアは雷撃砲の一撃の直撃を受け、この施設の入り口である洞窟の奥へと消えて行った。ルシリオンはそれを見届けた直後、「ぐ・・・」両膝を突いてしまった。

「ルシル君!」「「セインテスト査察官!」」

クイント班が口から血を流すルシリオンの側へ駆け寄った。

「俺は大丈夫です。クイント准陸尉たちは・・・?」

「私は大丈夫! それより君、血が・・・」

クイントに続き「俺も」クラッコや「僕も」アベオも無事を伝えるために頷いた。ルシリオンも「問題ありません・・・。治癒魔法を掛けたので」と、袖口で口から流れた血を拭い去った。

「アイツの相手は俺がします。クイント准陸尉たちは、グランガイツ一尉たちと合流してください。一尉たちの元にも防衛戦力が向かっているかもしれません。隊を3班に分けている今はかなり危険です。合流して戦力を整えてください」

クイント班はハッと思い至った。レーゼフェアばかりに意識が向いていたために考えが遅れてしまっていた。ゼストや分隊長メガーヌの班にも敵が迫っているかもしれない、最悪交戦に入っているかもしれないことを。

「いやいや、セインテスト査察官のあんなトンデモ砲撃を受けてまだ動けるなんてありえ――」

――昏き淵より手招く罪深き聖域(サンクテュエール・コンフェッシオン)――

クラッコがレーゼフェアの消えて行った通路へと目をやった直後、通路からウネウネとした真っ黒な影の触手がブワッと溢れだしてきた。アベオとクラッコは「ヒッ」身を引いて、「行ってください! 早く!」ルシリオンがクイント班を護るように前に躍り出た。

「でも、ルシル君1人置いて行くなんて・・・!」

「俺は良いですから! 元々俺が相手しないといけないんですよアイツは! それがセインテストの宿命なので!」

――瞬神の飛翔(コード・ヘルモーズ)――

ルシリオンの背中から剣状の魔力翼12枚、細長いひし形の魔力翼10枚、計22枚の魔力翼が展開された。空戦において絶大な機動力を叩き出せる空戦形態だ。クイントは無力さに歯噛みしたが、「こちらナカジマ班! 隊長、メガーヌ! 応答願います!」ルシリオンの指示通りにゼスト達との合流をすべく、2人に通信を入れるがノイズが混じり繋がらなかった。

「ジャミング・・・!? それじゃあ念話は!・・・念話もダメ!」

「ステガノグラフィア! 力尽くでサーバーに侵入し、管理者権限を奪え! 防衛隊が一刻も早く合流できるように隔壁の開閉を行え! あとナビもだ!」

『ヤー!( ̄^ ̄)ゞ』

メインルーム内に隔壁が開閉する音が木霊する。それと同時、「行ってください!」ルシリオンがそう言い、通路から溢れ出す影の触手の中から歩いて出て来たレーゼフェアへと対峙する。そしてクイント班は、『こちらですε=ε=ε=(┌ ^ω^)┘』ステガノグラフィアのナビゲーションに従って、ある通路へ向かって駆けて行った。

「ルシル君!」

「はいっ!」

「一緒に帰ろうね!」

「もちろんです!」

クイントはルシリオンにそれだけを伝えて、メインルームから出て行く。そして残されたルシリオンと、闇黒系の“堕天使エグリゴリ”、レーゼフェア・ブリュンヒルデ・ヴァルキュリアの死闘の幕が切って落とされた。

・―・―・―・―・

ルシリオンとレーゼフェアを残し、まずはクイントと同じ分隊長であるメガーヌが率いる班との合流を目指すこととなったクイント班。隔壁が次々と開いていき、何者にも邪魔される事なく順調に通路を走って行く。

「セインテスト査察官、本当に大丈夫でしょうか?」

「俺たちが心配してもしょうがない気もするけどな。ナカジマ分隊長の一撃を食らっても平気だったんだぜ、あの子。けど査察官の攻撃には普通に吹っ飛んでた」

「悔しい話だけど、私たちと、ルシル君やあの少女との間には大きな差がある。私たちが居てもかえって邪魔になるだけ。今は信じるしかない・・・!」

「そう・・・ですね・・・」

ひたすら通路を走るクイント班に『こっち近道~щ(゚Д゚щ)』ステガノグラフィアから指示が出たため、開いたばかりの隔壁を潜ると壁面がガラス張りの通路へと出た。そこで見た光景にクイント班は絶句した。

「なんっだこれ・・・!?」

「航空機・・・?」

50m近い空中通路の下には大きなドックのような空間があり、航空機のような物が4種類1機ずつ並んでいた。ステガノグラフィアが『解読済みのデータにあります。出しますか?』そう確認する。クイントは「道すがらお願い!」と答え、部下2人と共に再び走り出した。

『先ほど並んでいた内の2種はXUFシリーズ・シームルグ。XUSシリーズ・シャックスと断定。Xは試作、Uは無人、Fは戦闘機、Sは掩護機、となるようです。ですが、あと2種は未だに解読できてません(>人<)』

ステガノグラフィアからの話にクイント班は再び絶句した。ここの施設が兵器開発工場なのだと判ったから。質量兵器開発は現代の次元世界では御法度となっている。旧暦の次元世界はルール無用の質量兵器群の所為で、幾度と滅びに直面することがあった。しかし管理局が発足されたことで新暦となり、それらが違法とされ、質量兵器の無い時代が訪れた。

「ドクター・プライソン! こんな兵器を造って一体何をするつもり!?」

「明らかに世界に対して戦争を仕掛けるつもりですよ!」

「絶対に生きて本部に戻らないといけないですね!」

この事実を伝える為、改めて意地でも生き抜く覚悟を決めたクイント班。通路を駆け続けてようやく「メガーヌ!」の班と合流することが出来た。メガーヌ班の幻術は解除されており、それを指摘したクイントに、「どういうわけか勝手に解除されたわ」メガーヌが不思議そうに小首を傾げた。

「ルシル君、その余裕が無くなってる・・・?」

「どういうこと?」

クイントとメガーヌは互いの班に起きたことを報告し合う。メガーヌ班はここまで何事もなく彷徨っていたとのことだ。しかし「兵器開発工場・・・!?」クイント班からの報告に耳を疑った。

「問題はもう1つあるの! 今、ルシル君がプライソンの手先らしい魔導師と交戦中で、たぶんS+ランク並」

「隊長やルシル君と同格・・・!」

「他にも防衛戦力が居るかもしれないからこうして合流を、と思って!」

クイントのあまりの必死さに、メガーヌや部下2人は今の状況がかなり危ういものだと察した。メガーヌがすぐに「隊長たちにも連絡を!」ゼストに通信を繋げるが、「やっぱりジャミングが・・・」クイントが悔しげに呻いたように繋がらなかった。

「念話もダメのようです!」

「えっと、ステガノグラフィア・・・? うちの隊長たちのところまでナビお願い出来る?」

『はい。マスターからの命令は、みなさんを合流させることですので!(/"`・ω・´)』

そうしてクイント班とメガーヌ班は合流を果たし、今度はゼストの班と合流するべく通路を駆けだした。それから防衛戦力と対峙することもなく順調に来ていたが・・・

『Warning ! Warning ! Warning !ヽ(´゚д゚`;≡;´゚д゚`)ノ』

『敵性戦力を感知! (>д<)』

『隔壁を閉じ・・・、あれ!? 管理者権限が奪い返された!?ヾ(#`Д´#)ノ』

『状況最悪!ヽ(゚`Д´゚)ノ』

『各員、臨戦態勢!(p>_<q)』

ステガノグラフィアからの警告に、クイント達は臨戦態勢に入った。そして彼女たちの目の前にガシャガシャと音を立てながらソレらは現れた。30体ほどの多脚歩行型の機械兵器の一群だ。鎌のような手や足を持ち、頭部らしき部分には目のような光が2つ輝いている。

「陸戦兵器も完備ってわけですね・・・!」

「どうします? 分隊長」

「この数を一々相手にしていたら物量で押し切られる」

「一点突破で逃げの一手ね」

クイントとメガーヌが即決した作戦は、全員の攻撃を一点集中し、機械兵器の一群に穴を開け、そこを通ってひたすらに逃げるといものだ。全員が「5!」カウントを開始。それぞれが中距離ないし遠距離の魔法をスタンバイ。そして「今!」の号令で、それぞれが魔法を撃ち放った。魔法は機械兵器数体を薙ぎ払い、逃げ道を確保した。

「走って!」

『管理者権限を奪還! 急いで隔壁を越えてください! 閉めます!ε=ε=ε=(┌ ^ω^)┘』

『アメナディエル! 管理者権限がまた奪還されそう!(TдT)』

『コイツ手強いよぉ~!(´;ω;`)』

『ステガノグラフィアたるわたし達が遅れを取るなんて信じらんない!(# ゚Д゚)』

クイント達はステガノグラフィアの懸命な働きに感謝しつつ、逃げ道を走り抜けて機械兵器の包囲を突破。そして閉まり始めていた隔壁を潜り抜けた瞬間、「え・・・?」最後を走っていたアベオとクラッコ、それにメガーヌ班の青年局員、ジューク二等陸士に異変が起きた。それに気付いたクイント達が振り返り、その3人が腹から血を流し、宙に浮いているのを見た。

「「「お゛お゛? ・・・が・・・あぁ゛!? お゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!??」」」

最初は何が起きているのか本人たちも理解していなかったが、自分たちの体を何かが貫いていると理解した瞬間、口から多量の血反吐を吐いて断末魔の叫び声を上げた。それと同時、彼らの背後から先程の機械兵器3体がスッと姿を見せた。機械兵器にもステルス機能があったのだ。

「アベオ、クラッコ!」

「ジューク!」

「ジューク先輩!」

駆け寄ろうとしたクイント達だったが、無慈悲にも隔壁が閉まりきった。メガーヌが「開けて!」と、モニターに映るステガノグラフィアに叫ぶ。しかしステガノグラフィアの天使5体はふるふると首を横に振った。

『ダメです(;Д;)』

『開けることは出来ないよ(;Д;)』

『開けたら最後、あなた達も殺される(;Д;)』

『みんなを生かすのがアタシ達の役目(;Д;)』

『それにもう・・・あの3人は助けられない(;Д;)』

メガーヌも、クイント達も本当は理解している。アベオ達の傷は明らかに致命傷で、出血も多量。医療施設が今、この場にない時点で救うことは不可能だということくらいは。それでも感情が追いつかない。それまでに悲惨な光景を見てしまったのだ。

「メガーヌ、スタウト。・・・行こう」

クイントが隔壁に背を向けて歩を進み始めた。彼女は両拳を力強く握り締め、唇からは歯を噛みしめ続けた所為で一筋の血が流れていた。メガーヌ、そして最年少の20歳の青年であるスタウト三等陸士は後ろ髪を引かれる思いで隔壁に背を向けて「ごめんなさい・・・」ここで犠牲になったアベオ達に謝り、再び通路を駆け始めた。

『敵性戦力を迂回するように隔壁を開閉します!( ´∀`)』

『マカリエル、メナディエル、ライシエル! 管理者権限を取り返されないように!∠( ゚д゚)/』

『ヤー!』『シン!』『イエス!』

ステガノグラフィアは必死にこの施設の管理者権限を取り返されないように頑張っている。クイント達もゼストの班に合流するべく通路を駆ける。しかし『あっ!』ステガノグラフィアが一斉に声を上げた。それと同時、先程まで開いていた隔壁が閉じ、また別の隔壁が開いた。

「ステガノグラフィア・・・?」

『ダメです! 管理者権限はこっちにあるのに、ここの隔壁だけ乗っ取れない!?(;´Д`)』

ステガノグラフィアの話に「やっぱり罠かしら?」メガーヌが警戒した。クイントは「だろうけど。こうなったら行くしかない」そう言って、開いた隔壁の方へと進み始めたことで、メガーヌとスタウトも続いて進みだした。
そうして通路を進み、辿り着いたのはメインルームと同じ大きさくらいのドーム状の空間。足を踏み入れてすぐ『敵性戦力の接近を感知!ヽ(´Д`;)ノ』警告が入る。クイント達3人は背を向け合って身構え、どこから来ても対応できるようにする。

「お? 新手がまた来たよ、アルファお姉ちゃん、ベータお姉ちゃん」

クイント達が入って来た通路の反対側にある通路より3人の少女が現れた。身に纏っている服はまるで学校の制服のようで、白のブラウス、赤いリボン、裾付近に白のラインが1本入った黒のプリーツスカートとなっている。

「あらいやだ。ついさっき一仕事終えたばかりなのに、もう次の仕事?」

アルファと呼ばれた18歳ほどの少女はさらに藍色のブレザーを着ている。身長は165cmほど。ブロンドのウェーブの掛かったロングヘア。

「アルファ姉さんの言うように、人使いが荒いよね」

ベータと呼ばれた少女は黒いセーターを腰に巻いている。身長は160cmほど。栗色のボブで、左目が前髪で隠れている。

「デルタ、頑張っちゃおう♪」

デルタと自称した12歳ほどの少女はクリーム色のベストを着ている。身長は140cmほど。オレンジ色をしたロングヘアをポニーテールにしている。そんな3人の瞳は揃って銀色をしていた。

「あなた達もドクター・プライソンの手の者なの!?」

クイントがそう問い質すと、「パパだよ~。ま、パパが言うには製作者ってことだけど!」デルタが満面の笑顔で答えた。製作者。この一言でクイント達は、アルファ達が純粋な人間じゃないことを察した。特にクイントは、娘のギンガやスバルと同じ存在なのだと察した。

「ちょっと待って! さっき新手が来た、と言ったわね? まさか・・・!」

メガーヌが声を震わせると、「うん? コイツらのことかな?」ベータがクイント達の目の前にモニターを1枚展開した。そこに映し出されている光景にクイント達は言葉を失った。

「そんな・・・、こんなことが・・・」

「隊長・・・、グアナーさん、ライナーさん・・・」

スタウトはその場にへたり込み、クイントとメガーヌは悲惨な姿になっているゼスト達3人に、思わず構えを解いてしまった。さらには『マスター!?』そんな切羽詰まった声を残し、ステガノグラフィアがモニターごと消えてしまった。

「ステガノグラフィア・・・!?」

「まさかルシル君の身に何か・・・!」

「ルシル君? あー、レーゼフェア様が相手にするって言ってた子供のことだよね? そう言えばどうなったんだろう?」

今度はデルタが新たにモニターを展開する。そして映し出された映像に、クイント達の心が音を立てて崩れた。ルシリオンが血だらけで倒れ伏していたのだ。側にはレーゼフェアが居り、映像の角度からしてその姿の全体が見えないが、彼女の他にもう2人誰か居る。つまりルシリオンは、3対1の戦いを仕掛けられていたのだ。

「私たちの別荘に勝手に入り込んだその罪はしっかりと償ってもらわないとね。IS発動。メタルダイナスト」

「土足で上がり込んだ無礼者には礼儀を教えなければね。IS発動。ヴァイオレントトレーナー」

「IS発動! ショックブレイカー♪」

アルファの足元には金色の、ベータの足元には紫色の、デルタの足元には赤色の、魔法陣状のテンプレートが展開された。するとアルファの足元の床が生き物みたく蠢き始め、ベータの両手には紫色に輝く光の鞭が現れ、デルタの手には彼女の身長を超すほどのハンマーが現れた。

(隊長たちだけでなくルシル君まで・・・!)

(退却しようにもステガノグラフィアの案内が無いと・・・)

(死んだ・・・、僕たちも殺される・・・)

心の拠り所でもあったゼストやルシリオンの敗北にショックを受けつつも、クイントとメガーヌは必死に考えを巡らせる。しかしスタウトはもはや生き残ることを諦めている。そんなクイント達へとジリジリと距離を詰め始めるアルファ達。

(ルーテシア、リヴィア・・・。ごめんね・・・。でも!)

メガーヌの脳裏に過るのは娘たちの笑顔。父を亡くし、母である自分もここで絶えるかもしれない。死の恐怖が彼女の両足を捉えるが、それでもなお目には戦い、勝ち、生き残る、という強い光を宿していた。

――おかーさん、頑張ってね――

(どんなに絶望的でも負けるわけにはいかない! 約束したもんね、ギンガ、スバル、おとーさん。必ず帰るって!)

クイントもまだ諦めていなかった。そして信じていた。ゼストやルシリオンの生存を。だからクイントも、メガーヌも再び構えを取った。生き残るために。

「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」」

そしてクイントとメガーヌは、余裕に満ち溢れているアルファ達と戦闘を開始した。

・―・―・―・―・

時空管理局は本局、その一室。そこは一切の照明器の無い部屋で、さほど広くもない。その部屋に在るのは円卓と13脚の椅子のみ。13脚の椅子の内1脚には人の形をしたホログラムが座っている。ミッドチルダ地上本部の司令、レジアス・ゲイズ中将だ。
さらに別の3脚にはローマ数字のⅠとⅡとⅢが描かれた時空管理局のエンブレムが浮いている。最高評議会と称される3人だ。そしてもう1脚にはSoundonlyと表示されたモニターが浮いている。彼らは時空管理局評議会。管理局運営とはまた違う事柄を決定する機関であり、通称権威の円卓。

『話が違うじゃないか、レジアス中将。首都防衛隊の連中が俺の別荘にまで捜査に来たぞ。お前は言ったよな。俺は捕まえないと。お前の願い、ミッドチルダから犯罪を無くすために』

Soundonlyと表示されたモニターから呆れが含まれた声が発せられた。声の主はどうやらプライソン本人の物のようだ。管理局に広域指名手配されている犯罪者でありながら、プライソンは管理局の上層部と癒着していた。

『私とて止めるつもりだったのだ! しかし・・・命令が届く前に向かってしまったのだ・・・!』

レジアスの顔が苦悶に歪む。首都防衛隊がプライソンの研究施設の1つに潜入捜査に行くと知ったのは最近のことだったのだ。すぐに理由を付けて捜査が出来ないようにつもりだったのだが、それが間に合わなかった。

『それは互いに残念だったな。しょうがないから迎撃したぞ』

円卓上に数枚のモニターが展開された。映し出されているのは首都防衛隊のメンバーで、誰も彼もが凄惨な様をしていた。

『ゼスト・・・!』

隊長のゼストは全身が鞭に叩かれたようにズタズタにされ、彼の班員だったグアラ空曹は床に出来たクレーターの底に倒れ伏し、ライナー一等陸士の胴体には刃物傷がいくつも付いていた。
メガーヌは四肢がへし折られ、頭や目、耳、鼻、口から血を流した状態で床に叩き付けられており、スタウトは下半身がぺちゃんこに叩き潰されていた。クイントは“リボルバーナックル”を装着していた両腕とローラーブーツを装着していた両脚が断ち切られ、せり上がっている鉄製の床2枚に挟まれていた。アベオとクラッコとジュークは機械兵器からの刺突を受け、床に倒れ伏していた。

『こっちの引っ越しはもうじき終わる。あとは好きに持って行ってくれ。あー、そうそう、クイント・ナカジマとメガーヌ・アルピーノは俺が貰う。2人とも俺の作品としてなかなかの適性を叩き出したからな。それに、俺の作品からあれだけ攻撃を受けながら未だに生きている。大した生命力だ。良い作品になるだろう。それとゼスト・グランガイツ、アレも一応生きてはいるし、人造魔導師素体として使えるが、レジアス中将とはこれからも仲良くしたいから返そう』

『っ!! ふざけるなッ! 私の戦友を、その部下を愚弄することは許さん!』

レジアスが怒鳴りつけるが、『議長。メガーヌには子供が2人居るそうじゃないか。寄越してくれ』プライソンは空吹く風と聞き流し、メガーヌの娘ルーテシアとリヴィアまで実験素体にしたいからと、2人を研究施設に送るようにリクエストした。

『良かろう。必要な物があれば言うがいい。用意しよう』

評議会議長デュランゴは協力を惜しまなかった。レジアスが強く歯噛みしているところに『お前の願いの為だ。多少の犠牲は仕方ないだろう』評議会議員リョーガが彼に声を掛ける。レジアスは地上の平和を確立したかった。だから犯罪者を、行われる犯罪を、必死に黙認していた。しかし今、戦友ゼストとその部下を好きなようにされたことで、レジアスは揺らぎ始めていた。

『もう少しだぞ、レジアス中将。恒久的な平和がミッド地上に訪れるまで』

甘い蜜のような言葉がプライソンより発せられる。レジアスが無言を貫くこと数分。歯噛みをようやく止めた。プライソンを支持することを選んだのだ。

『プライソン。ルシリオンはどうするのだ?』

『うちの上客の意向で手は出さないことにした。逆らうとこっちが全滅させられるからな。ま、タダで返すことだけは出来ないと言ったら、遺伝子情報とリンカーコアの一部だけ採取することを許された。最高の気分だ』

評議会書記トレイルがそう訊ね、返答したプライソンの声には興奮と喜色が満ちていた。

『そういうわけだから後始末はそっちに任せよう。俺はこれからクイントとメガーヌをイジるから、しばらくは連絡はつかないと思ってくれ。じゃあな』

プライソンとの通信が切れ、続けて評議会3人のモニターも消え、室内に静寂が訪れた。残るはレジアスのホログラムだけとなった。

『・・・すまない、ゼスト・・・許してくれ・・・』

レジアスの謝罪だけが、寂しく木霊した。
 
 

 
後書き
ブエノス・ディアス。ブエナス・ルデス。ブエナス・ーチェス。
首都防衛隊全滅! やはり覆らなかった全滅。ですが原作とは違い、無事ではないですがある意味クイントさんとゼストさんは生き続けます。
そして新たな兵器・無人戦闘機が登場。ついでにガジェットドローンⅣ型も登場。さらにはプライソン製のナンバーズの登場となりました。ISとか武器とか考えるのかなり面倒でした。あ、ガンマは忘れてませんよ? 今話に出さなかっただけです。
まぁ、そんなこんなで今話の内容で、エピソードⅣの大まかな流れが読者の皆さんも予想できるようになったことかと思います。そういう流れでエピソードⅣをやって行きます。
ルシルとレーゼフェア+αの戦いは次回、彼の回想という形でお送りするかと思います。あー、次回の話書くのちょっと辛いなぁ~。
 
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