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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico?未来の前の大事

 
前書き
未来の前の大事/意:未来へ繋がる運命を決定づけてしまうほどの大事な時間である、というたとえ。 

 
†††Sideルシリオン†††

夏休みもそろそろ終わりに近づいてきた頃、査察課から俺にある任務が言い渡された。首都防衛隊。騎士ゼスト、クイントさん、メガーヌさんが所属している部隊からの応援要請で、俺は査察官として防衛隊の捜査に同行することになったのだ。
おそらく、先の次元世界で言う戦闘機人事件だろうと思う。が、ドクターやナンバーズは管理局員として生きている。そのドクターの代わりとして、プライソンという科学者が存在している。プロジェクトFを生み出し、それに最近知ったがギンガとスバルを造ったらしい科学者が。

(何かある。今回の任務)

戦闘機事件では騎士ゼストやクイントさん、防衛隊員数名が殺害され、メガーヌさんが拉致された。結果、ルーテシアもまた捕まってレリックウェポンの実験体にされてしまった。しかも今回は、許されざる嫉妬レヴィヤタン――いや、レヴィ・・・の転生体であるリヴィアも生まれている。となれば、あの子も実験体にされてしまうかもしれない。

(させるか、そんなこと・・・!)

そのためには首都防衛隊のメンバー全員を無事に帰す必要がある。先の次元世界では救えなかったが今回は違う。救える立場に俺は居る。

「準備は出来た? ルシル君」

俺の部屋にやって来たはやてに「ああ」そう答え、ボストンバッグを肩に掛ける。そして「ごめんな。急な仕事で、旅行・・・行けなくなった」予てから決まっていた海への旅行は俺だけキャンセルだ。行き先は去年と同じ月村家の別荘。アイリと海で遊ぶ約束をしていたが、反故にしてしまった。

「ううん、ええよ。それより気を付けてな。かなり危険な仕事やって聞いてるよ」

「大丈夫だよ。首都防衛隊の隊長たちはみんな強いし、それに・・・俺も居る!」

そう言って笑ってみせると「ぷはっ♪ そうやな! ルシル君、強いもんな!」はやては吹き出して、俺の右手を両手で取ると「お・ま・じ・な・い♪」ギュッと握りしめた。デート以降、はやてもなかなかに積極的になってきた。近いうちに告白されるかもしれない。そうなった時は・・・

「・・・ありがとう、はやて。おまじないのおかげで頑張れるよ」

「うんっ♪」

はやてと2人で俺の部屋を出、トランスポーターのある部屋へと向かう。俺を見送ってくれるためかそこにはシグナム達が待っていてくれた。そして「ルシル!」アイリが駆け寄って来て抱き付いてきた。

「アイリ。それにみんなも。俺は旅行には行けないけど、俺の分まで存分に楽しんできてほしい」

「はいですっ」

「おう」

「お言葉に甘えさせてもらうわね」

「すまないな、ルシリオン」

俺を除くチーム海鳴は予定通りに明日と明後日の1泊2日の旅行だ。ちなみに俺も今日はミッドに泊まって、明日早くから任務だ。順調に終われば最終日に合流しようとも考えているんだが・・・。

「いいさ。また休みの日はどこかに遊びに行こう。アイリもそれで良いな」

「う、うぅ~。・・・・約束だからね」

「ああ、約束だ」

俺にしがみ付いていたアイリが離れた。一度アイリの頭を撫でた俺はトランスポーターに入り、「じゃあ、行ってくる」手を振る。はやてとリインとシャマルは笑顔で手を振ってくれて、アイリは渋々と言った感じだが、それでも「気を付けてね」手を振ってくれた。そして俺は八神邸からスカラボへと直通転移。視界が光に閉ざされ、治まった時にはそこはすでに地球から遠く離れた時空管理局・本局。

「来たね、ルシリオン君」

「どうも、ドクター」

俺を出迎えてくれたのは神妙な面持ちのドクター、ジェイル・スカリエッティだった。ほぼ常にと言っていいほどに側に控えているウーノの姿はない。

「明日、ドクター・プライソンと関係があるとされるアジトの捜査に入るそうだね」

「ええ。首都防衛隊に同行する予定で」

「・・・私から言えるのは、細心の注意を払いたまえ、だ。彼はえげつない男だ。何を仕掛けているか判らない。いくら君のような戦闘力を有していても、仕掛けられた罠によっては君とて危ういだろう」

「忠告どうも。にしても・・・プライソンは、未だに性別を含めた個人情報が不明な、希有な犯罪者だ。ドクター、それを何故知っている・・・?」

そう訊くとドクターは無言になった。だから俺がその答えを代わりに言ってやろうかと思った時、「私の兄だからだ」ドクターがキッパリ断言した。やはりな。セインから、ドクターに兄が居ると聞き、そして通信で怒鳴り合っていると知ったその後、電子戦魔術ステガノグラフィアで探った結果、プライソンに辿り着いた。

「プライソン。本名はプライソン・スカリエッティ。気付いているだろうか。私とプライソンの名前には意味があることを」

「JailとPrison・・・。共に檻を意味している」

「ご名答。私と兄プライソンは檻の中に生きているというわけだよ」

最高評議会のことを言っているのか。ジェイル・スカリエッティの正体は、最高評議会がアルハザードの技術を使って生み出した人工生命体で、開発コードは無限の欲望アンリミテッドデザイア。だが、評議会の連中はきちんと手綱を握っていなかった。だから殺された。哀れなものだ。

「(ナンバーズやギンガ達の出生は変わっているが、恐らくドクターはそのままなのだろう)姿形が判る写真か何かは・・・?」

「すまないね。そういった物はない。それどころか顔も見たこともないのだよ」

そんなことを抜かすドクターに「はあ?」俺は本気で不快感を表してしまった。ドクターは苦笑して「ただ解るんだ。声を聴くだけで、私と彼は、2人で1人なんだと」そう言った。同じ方法で生み出された兄弟だとすると、共鳴のような現象が起きているのかもしれないな。

「しっかし。仮にも内務調査部に籍を置いてる俺にそんな重大な事を言うなんて、少々警戒が足らないんじゃないかな~?」

「あっはっは! まぁ、もしそうなったらそうなったで私は構わないよ。そんな時のために後継者を今、育てているからね」

そう言って少年のような笑みを見せたドクター。誰なのかはすぐに判った。おそらく「すずか、か」のことだろう。スカラボに入り浸って技術を学んでいると言っていたからな。

「これまたご名答。私がいつ居なくなっても良いように、すずか君には今の内にいろいろと叩き込んでおきたい。彼女は遠い将来、技術屋として大物になると私は確信している。うちの娘たちも同意見でね。ま、私が居なくなるという事を考えもしないから、すずか君がスカラボのリーダーになることはないと思っているがね」

「なるほど。俺としてはすずか本人が決めることだから口を出すつもりはないよ」

「それは良かった。てっきりまた敵意を向けられてしまうと思っていたからね」

「・・・?」

「初めて私と顔合わせをした時、君は私に対して明らかに警戒心、それだけでなく敵意を向けていた。初対面であれほどの敵意を向けられるとは思わなかったため、かなり驚いたものだよ」

そらそうだろう。先の次元世界でだがドクターとは敵対していたのだから警戒は当然だし、ヴィヴィオを苦しめ泣かせたクソ野郎だ。敵意を向けるのだって当たり前の話だ。だが、この世界でのドクターは良い男だった。変われば変わるものだな。

「とにかく何が言いたいのかと言うと・・・、遠慮なしで私の兄、プライソンを止めてくれ」

「・・・了解! じゃあ俺はこれで」

「ああ。無事にここへ戻ってくるのを待っているよ」

俺はドクターと別れてスカラボを出、ミッドへ降りるために次元航行船の発着場である次元港へ向かい、そして船に乗る。船内ではやてが昼食として作ってくれたサンドイッチを美味しく頂き、「着いたぁ~」ミッド中央区画の次元港に到着。ここで1泊するためホテルの宿泊を予定していたんだが・・・

「お、来た来た! おーい、こっちよー!」

俺を出迎えてくれていた人が居た。その人は「クイント准陸尉・・・?」だった。俺は局の制服ではなく私服姿のクイントさんに駆け寄って「明日はお願いします」敬礼をした。すると「うん、お願いね♪」クイントさんは敬礼を返してくれて、「はーい。それじゃあナカジマ家へご案内しま~す♪」俺が肩に掛けているボストンバッグをスッと手に取り、自分の肩に掛けた。

「クイント准陸尉・・・?」

「ほら、行くよ。おとーさんや娘たちにも許可は貰ったし、今日は家に泊まってね」

「へ? え、あの、何も聞いてないんですが・・・」

「ええ。だって今、話したから♪」

反論する間もなくクイントさんが次元港まで乗って来た車に俺は乗せられた。すごい押しの強さだ。そしてクイントさんが駆る車は一路ナカジマ邸へ向かって走り出した。

「いや~。君のような有名人と仕事が出来るなんて嬉しいね」

「はあ・・・有名人、ですか・・・」

「そうよ。チーム海鳴は、クラナガンの悪夢での戦闘・避難誘導、リンドヴルム本拠地に乗り込んで壊滅させた立役者として有名だし、八神家はパラディース・ヴェヒターとして局内でも有名だし。君のような可愛い男の子があのランサーだと知った時の衝撃ったら。ふふ♪」

「やっぱ気味悪いですか? こんな子供が有名になるほどの強さを持っていて」

「ぷふっ! なにそれ自慢?♪ 」

「わっ?」

くしゃくしゃと乱暴に頭を撫でられてしまった。本当に豪快な人だったよな。それでいて優しくて、温かくて。これが母親なんだって憧れもあった。俺はそんなクイントさんが好きだった。だから亡くなったと知った時、その原因がスカリエッティと知った時、どれだけ心が乱されたか。

「気色悪いなんて思わないよ。というか羨ましい! それほどの強さがあれば何だって出来るから! だから君はその力を正しく使って、弱い人を守っていってほしい。私はそう思うな」

本当に楽しそうに笑うクイントさん。この笑顔をナカジマ家から無くさせるわけにはいかない。グッと握り拳を作り、決意を新たに固める。そしてナカジマ邸へと着き、「ようこそ。ナカジマ家へ♪」クイントさんと一緒に庭へと入る。広い庭にはギンガとスバルが居て、ギンガはすでにシューティングーツの型の練習をしていた。スバルは庭に設けられている長椅子に座って、ギンガの練習風景を眺めていた。

「ただいま、ギンガ、スバル!」

「「あ、おかえりなさい!」」

2人は満面の笑顔を浮かべてクイントさんの側に駆け寄って来て、その後ろについて来ていた俺を見たら、「こんにちは!」ギンガは笑顔を崩さずにお辞儀をしてくれた。まぁ、スバルはギンガの後ろに隠れるようにして「こんにちは・・・」おどおどと挨拶。やっぱこの時期はまだ人見知りの気があるか。

「こんにちは。今日1日お世話になる、時空管理局・本局、内務調査部・査察課・査察官、あと捜査部・特別技能捜査課・捜査官のルシリオン・セインテストです。よろしくお願いします」

「えっと、よろしくお願いします?」

こちらも笑顔を作ってビシッと敬礼入りの挨拶をして見せると、ギンガはどう返せば良いのか思い浮かばなかったのかそう返した。クイントさんが「いらっしゃい、で良いと思うよ」そう言うと、「いらっしゃい、ルシリオンさん!」ギンガはそう言い直した。

「あの・・・いらっしゃい」

遅れてスバルも挨拶してくれた。それから家の中に案内されたところで「コレ、おみやです。みんなで頂いて下さい。我が手に携えしは確かなる幻想」創世結界内から菓子折りを取り出して、クイントさんに手渡す。何も無いところから急に手土産が出現した所為かギンガとスバルは目を丸くしていた。

「1つはラスク、1つはロールケーキです。お口に合えば良いのですが・・・」

ラスクは俺の手作りで、ロールケーキは翠屋のものだ。俺の物はともかく翠屋のロールケーキは高評価だと思う。

「わざわざありがとう、ルシル君♪ おやつの時間に頂こうか♪」

「「はーい!」」

「じゃあ、ルシル君、客室に案内するからついて来て」

「あ、はいっ」

1階にある来客用の洋室に案内される。そこは7帖ほどの広さがあり、客室にしてはちゃんとクローゼットや鏡台、脚の短いテーブルにデスクもある。とりあえずベッド側にボストンバッグをドサッと置き、リビングへ戻る。クイントさんは冷蔵庫を開けて中身を確認中のようだ。そしてギンガはシューティングアーツの練習を再開していて、スバルもまたさっきと同じように長椅子に座ってギンガの練習風景を眺めている。

(さーて。これからどうやって時間を潰そうか・・・)

ホテルに泊まる気だったため、任務までの時間は適当に外を出歩いたりしようとしていたんだが、こうなってはそれでも出来ない。リビングでウロウロしていると「そうだルシル君。良かったらだけど、ギンガの組手の相手をしてあげてくれない?」クイントさんにそうお願いされた。

「俺は構わないですけど・・・」

「あの子からのお願いでもあるの。管理局の中でも指折りの実力者だって伝えたら、是非って」

チラッと庭に居るギンガの方に目を向けたら、偶然か目が合った。するとギンガはペコっと頭を下げた。クイントさんとギンガ本人からお願いされたとあっては「良いですよ」承諾するしかないだろう。

「ありがとう。じゃあ、私は夕飯の買い物に行ってくるから、娘たちと一緒にお留守番をお願いね」

「判りました。お任せください」

「ん。あぁ、そうだ、ルシル君。何か食べたい物とかある? リクエストがあれば言って」

「お任せします。けど強いて挙げるなら、クイント准陸尉の得意料理で」

「私の得意料理・・・。判った! じゃあ今夜はそれで行こう!」

そうして俺はギンガの相手をすることになり、クイントさんは「いってらっしゃーい!」ギンガとスバル、ついでに「いってらっしゃい」俺にも見送られながら、「いってきま~す♪」買い物に出かけた。

「えっとじゃあ、ギンガ、と呼んでも良いかな?」

「あ、はい。それで良いですよ、ルシリオンさん」

「ルシルで良いよ、ギンガ」

「え、あ、それじゃあ・・・ルシル・・さん」

「OK。よし。始めようか」

制服のジャケットだけを脱いでYシャツとスラックスになって、軽く準備運動を終える。ナカジマ邸の庭は八神邸より広いから自由に動けるスペースがかなりある。ま、徒手空拳の練習だからそんなに広さは無くても良いんだがな。そして俺とギンガは庭の中央で向かい合い、「よろしくお願いします」礼をし合う。そして・・・

「行きます!」

ギンガは先手必勝とでも言うようにいきなりの正拳突き。俺はいなすことはせずに右前腕を掲げてガードする。いきなり本気を出して差を見せつけるようなことはしない。今はとにかくギンガのレベルを計る。そしてギンガのレベルに合わせて、そこから段階的にレベルを上げていけば、ギンガも俺の動きに引っ張られてレベルアップしやすいはずだ。

(しかし、重い一撃だな・・・!)

魔力強化が必要ないほどに重い拳打。ギンガはもちろんスバルも練習すればこれくらいの重みを実現できるだろう。俺も反撃として速度を落とした正拳突きを繰り出すと、ギンガはフットワークを活かして拳が届かない距離まで後退して、「はっ!」即座に距離を詰めて来て、上段蹴りを繰り出してきた。それをまた右前腕を掲げてガード。ギンガの攻撃は全てガード、俺の攻撃は防御も回避もしやすい手加減したもの。その応酬を繰り返すこと3分。PiPiPiと電子音が鳴った。

「あ、ルシルさん、インターバルを挟みます!」

ギンガがそう言いながら構えを解いたため、俺は繰り出しそうになっていた拳を緊急停止。スバルが腰かけている長椅子にギンガと一緒に座る。インターバルについて話を聴けば本気の組手の時は、3分ごとに1分のインターバルを挟むようにクイントさんから言われているそうだ。

「おねーちゃん、タオル」

「ありがとう、スバル♪ ルシルさんもどうぞ」

用意していたタオルをスバルから受け取ったギンガが、俺にもタオルを手渡そうとしてくれた。実際、本気を出していないから汗はかいてないんだが、受け取るのを拒否すると変に思われそうだから「ありがとう」タオルを受け取り、汗を拭くフリをする。

(今の3分間でギンガの大体のスペックは確認できた)

次の3分はギンガに合わつつ、少しずつレベルを上げていく。最初は困惑するだろうが、ついて来ることが出来るようになっていればその時はレベルアップを果たしたことになるわけだ。

「ルシルさん。もう一試合、お願いします!」

「ああ、喜んで」

第2ラウンドだな。ギンガと一緒にまた庭の中央で向かい合い、「よろしくお願いします!」礼をし、構える。そして「せいっ!」先手はギンガで、繰り出すのは中段蹴り。それを両手でパシッと受け止めて押し返す。ギンガが少しよろけたところですかさず反撃のデコピン。

「あたっ・・・?」

目を瞑ったその隙を突いて追撃も出来たが、それではすぐに終わる。ギンガが体勢を整えるまで待機だ。ギンガはさっきまでとの俺とは違うとすぐに察したから構えたまま警戒に入った。

「どうした、ギンガ。来ないなら、こちらから行くぞ」

「っ!」

ギンガとの距離を詰めて連続デコピン。速度は加減してあるため「っく・・・!」ギンガは防御できている。それに不自然にならないようわざと隙を作れば、まだまだ荒いがちゃんと突いて来る。動体視力もなかなかだ。俺のデコピンを受けないよう必死に防御をしながらも反撃するギンガ。互いに一歩も引かない攻防を続けて1分半。

(さぁ、ギアを上げていくぞギンガ・・・!)

デコピンだけでなく蹴りを加えると、「うぐ!?」ギンガは反応しきれずに蹴り飛ばされてしまった。

「おねーちゃん!」

「だ、大丈夫! お姉ちゃんは大丈夫だから! 行きます!」

ギンガは服に付いた汚れを払うことなく向かって来た。彼女もさらにギアを上げて、まだ拙いがコンビネーションを仕掛けてきた。そんな攻防を続けて第2ラウンドは終了。ギンガは第1ラウンド以上に息を切らし、汗をかいていた。

「おねーちゃん・・・!」

「つ、強い・・・! やっぱり・・・というか・・・!」

スバルが用意した濡れタオルを、ギンガは仰向けになって目の上に置いている。少しばかりギアを上げる速度が速過ぎたようだ。完全に俺のミスだな。そんなギンガの様子に「どうして?」スバルがポツリと漏らした。

「おねーちゃん。いろんなところ擦りむいて痛そう。それなのに、どうしてそんなに頑張れるの・・・? 痛いの嫌じゃないの・・・?」

「スバル・・・」

「あたし、痛いのも怖いのも嫌い。自分がそうなるのは嫌いで、誰かにそうするのはもっと嫌い。あたしとおねーちゃんの体、普通の人たちと違うから。だから壊したくないものまで壊しちゃうのは・・・すごく怖いよ」

自分が傷つけられたり、誰かを傷つけて与える痛みを嫌っているスバル。そんな彼女は「ルシル・・・さんは、どうして?」俺にも訊いてきた。

「誰だって痛いのも怖いのも嫌だと思うよ。俺だって傷つけたり傷つけられたりするのは嫌だからな」

「じゃあなんで・・・?」

「そうしないと大事な人を守れないから。傷つけないで済めばそれで良い。けど、全てが話し合いで解決できるほど世界は優しくない。ごめんな。こんな夢のないことを話すべきじゃないんだろうけど、でも現実だ。だから俺は強くなりたい。守りたい人を守りたいから」

そう答えると、「すごい・・・」ギンガは感嘆の声を漏らし、スバルは自分の両手を見詰め、「守るための強さ・・・」弱い力ながらも握り拳を作った。

「あたしも・・・強くならないとダメ・・・なのかな?」

「大丈夫だよスバル。父さんも母さんも、私も居るから」

ギンガが体を起こしてスバルに微笑みかけるが、「でも・・・」スバルには迷いが生まれてしまっていた。後に機動六課が設立されるかどうか判らない今、ここでスバルの将来を決定づけてしまわないか不安だが・・・

「スバルは支えになれば良いんじゃないかな」

「「支え・・・?」」

「スバルは優しい女の子だ。強くならなくても、支えることは出来ると思う。強さで守ること、優しさで支えること、出来ることをやればいいさ」

そう言って笑ってやると、「ルシルさんの言う通りだよ、スバル!」ギンガもそう言ってスバルに微笑みかけた。そしてスバルは「うんっ!」笑顔で頷いた。それから俺とギンガはもう1戦だけ組手をした後、俺は2人の勉強を見たりしてクイントさんが買い物から帰って来るまでの時間を潰した。

「ただいまー!」

「「おかえりなさーい!」」

「おかえりなさい、クイント准陸尉」

買い物から帰って来たクイントさんを出迎える俺たち。ギンガとスバルは車に積んである買い物袋を1袋ずつ手にして、えっちらおっちらと家の中へ入っていく。もちろん「俺も手伝います!」残り2袋を両手に持っていこうとしたら、「お客さんにさせられないわ」クイントさんは微笑んで、軽々と重そうな買い物袋を持った。

「今日はみんな大好き鍋料理よ!」

「やった!」「わーい!」

冷蔵庫に食材をしまい込むクイントさんとギンガとスバル。微笑ましい光景に俺も笑みを浮かべた。そして「じゃ、ルシル君のお土産を頂こうか!」ということになり、ロールケーキの箱を開封。

「おお!」「「わぁ♪」」

「チーム海鳴の1人、高町なのはのお母さんは菓子職人でして。とっても美味しいんですよ」

「そうなんだ! じゃあこのラスクも?」

「あー、いえ。それは俺の手作りでして。すいません、手作りの物で」

味には自信はあるが、店の物じゃないということがちょっとな、と思う俺も居るわけで。でも「すごい!」クイントさんや、「手作りなんですか!?」ギンガや、「美味しそう!」スバルはそんなこと気にしてはいなかった。

「あの、食べて良いですか!?」

「あ、あたしも・・・!」

「もちろんだとも♪ 色によって味も違うから、楽しんでもらえると思う」

「それじゃあおかーさんも♪」

ギンガはハチミツ、スバルはストロベリー、クイントさんはココアのラスクを手に取ってパクっと一口。口に合えば良いなぁと思っていると、「美味しい!♪」3人とも笑顔になってくれた。俺はホッと一安心。

「本当に美味しい! ルシル君、君すごいわ!」

「味が違うから止まらないです!」

「あ、おねーちゃん、ソレあたしが食べようって思ってたのに!」

「まだ同じ味があるから良いでしょ!」

「むぅ~」

ギンガとスバルの小さな争奪戦に、俺とクイントさんは顔を見合わせて「ふふ♪」笑い合った。ナカジマ一尉の分はしっかり残しておくってことになり、今度はロールケーキだ。クイントさんが4枚に切り分けて、ロールケーキも頂く。もちろん翠屋のロールケーキも好評だったよ。世界を超えて好評な桃子さんのロールケーキ・・・すごいなぁ。
そうしておやつの時間も終わり、ギンガは俺との組手の影響か眠ってしまい、スバルも釣られてお昼寝だ。そして俺は、クイントさんの願いでラスクの作り方を教えることに。よほど気に入ってもらえたらしく、「旦那や娘たちにいつでも作ってあげたいから」そう言ってくれた。

「ただいま~!」

それから夕方。クイントさんが夕飯を作り始め、ギンガとスバルが昼寝から起きて来てそう間もなく、ナカジマ一尉が帰宅した。クイントさん達は「おかえりなさい!」と出迎え、俺も「お邪魔しています、ナカジマ一尉」敬礼して出迎える。

「おう、坊主。ちゃんとゆっくりしているか? 明日は重要な任務があるからな」

そう言って俺の頭をくしゃくしゃ撫でたナカジマ一尉は「ちょっと着替えてくるわ」と、一旦自室らしい部屋へ向かい、ラフな格好に着替えてリビングに戻って来た。

「おとーさん! ルシルさんが作ったお菓子すごい美味しいんだよ!」

「それにすごく強いんです! 私、全然敵わなかったです!」

「あと、勉強も出来るんだよ! 先生よりも判り易かったからすぐに宿題終わったんだよ!」

そしてダイニングテーブルに着くや否やギンガとスバルが今日の出来事を話し始めた。楽しそうに話す2人の様子に「そうかい、そうかい」ナカジマ一尉も笑顔で相槌を打っている。

「悪かったな坊主。娘たちの遊び相手になってくれてよ。大変だったろ」

「いえ、そんなことは。俺も楽しかったので」

改めて家族って良いなぁって思える大切な時間だった。だから本心からそう返すと、ナカジマ一尉は「なら良かった」と、本当に嬉しそうに微笑んだ。
 
 

 
後書き
グーテン・モルゲン。グーテン・ターク。グーテン・アーベント。
捜査開始前としてナカジマ家とルシルのエピソードをぶっ込みました。実はこれ、前作で書きたかった話なんですよね。
前作のSTRIKERS編では、ルシルはすでにナカジマ家と親しかったという、あまりに唐突な設定を立てましたからね。あれは完全に大失敗な話です。あの頃はひたすらにオリジナルエピソードに入りたい一心で更新していたため、そういう裏話を蔑にしてました。
暇があれば前作にもそういった描かれなかった話を書き加えたいと思っていたんですが、今はまずこちらの完結を最優先しますので、それは夢のまた夢の話ですな。
 
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