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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§ 68 最恐にして最強

 
前書き
※汚いです。食事中の方は見ないでくださいすみません


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 異変に気付いたのは、その少し後の話だ。

「町が騒がしい……?」

 名前決めで精根尽き果て疲れ果て、机に伏せる女性たち。羅濠教主は本拠地に戻り、ドニと二人で格闘ゲームをプレイしていた矢先だ。ちなみに黎斗の全戦全敗。そんな折の事。ドニがぴくりと反応し、遅れて黎斗も反応する。

「地獄耳だなお前は。私の小言もそれくらい真面目に聞いてくれ……」

 アンドレアが呆れたようにこめかみを抑える。そんな彼は今黎斗とドニに給仕をしている。別にしなくても良いとはいったのだが「日頃の礼を込めて」と言われたら断れない。実際イケメン執事の気配りは完璧だ。喉が欲しいと思った時には喉を潤す飲み物が用意されている。エスパーかこいつは。

「ほんとだ。なんだろーね」

 興味本位で窓を開けてみる。祭りでも始まったか。あるいはデモか。そう思って外を眺めれば、真っ赤に染まるわが身かな。

「れーとさん!?」

開けた瞬間、手榴弾が直撃、黎斗が爆ぜた。飛び散る肉塊。脳漿やら内臓やら見えてはいけないモノが辺りに飛び散って――――灰になる。

「……まだ権能封印モードになってなくて良かったー」

 即復活を遂げた黎斗は、飛び散った自分が何かに付着する前に自分を焼いて消滅させる。なんか自分の内臓を焼くスキルが順調にあがっている気がする。世界広しといえども自分の脳や臓器を焼いたことのある人間は黎斗だけだろう。

「何この世紀末」

 こっそり外を眺めてみれば暴動だ。鉄パイプを持って殴り合う老人。銃を乱射する婦人。車で暴走する男性に消火器を噴射して高笑いする学生。踏みつけられた子犬がきゃん、と切なげな声を上げ――――そして、皆が倒れて気絶する。

「!?」

「えっ、どうなってるの……?」

 混乱する黎斗と恵那の隣で、ドニが興味深げな笑みを浮かべる。

「……おーすごい、黎斗の視線の先の人間みんな倒れていくねぇ」

 それならば、思い当たるのはひとつしかない。

「邪眼の影響か。そういえばアテナとやりあった時から本気モードしっぱだったな」

 オフにしていなくて良かったとみるべきか。元々正体がバレるのを防ぐためにオフにしていたようなものだし、もうずっとオンでもいいのかもしれない。

「あーでもそしたら困る人もいるか。やっぱオフだな……ってそうじゃない。まつろわぬ神、か」

 邪眼云々で悩むより先にすることは、まつろわぬ神の対策だ。

「黎斗、コイツは僕の獲物だ。さっきは譲ったんだから――――いいよね?」

 断るなら斬るよ、と言わんばかりに国旗を持ってドニが言う。どうでもいいが国旗を銀の腕で無敵の剣に出来るのだろうか。銀の腕で国旗を振り大陸を切断する光景なんてギャグにしか見えないのだけれど。

「どうぞどうぞ」

「……つまんないなー。ここは「俺の獲物だッ!!」って言ってやり合うとこじゃないの?」

 熱血展開ならアリだろう。だけど残念ながら、そこまで意地を張る必要性が黎斗には見受けられなかった。

「自分そんな趣味ないんで。任せた」

「ホント淡泊だねぇ。まー騒ぎの中心に行けば神様いるかな」

 適材適所だ。戦いたいヤツに戦ってもらうにこしたことはない。そんな黎斗にとって、ドニの発言は渡りに船だ。あっさりとドニを見送って、

「よし寝よう」

 布団に潜ろうとしてエルにひっぱたかれる。

「馬鹿なこと言ってないで暴徒鎮圧に行きますよマスター」

「えーアンドレア卿にお願いすればいいじゃん……」

 知ってた。結局ドニが行っても黎斗は黎斗ですることがあるのだ。権能による影響ということは、人間が行ってもミイラ取りがミイラになって終わってしまう。暴走するアンドレアとか厄介な事この上ない。ドニのストッパーがいなくなる。黎斗はドニのストッパーになる気などない。阿呆のお守りは三馬鹿だけで限界だ。三馬鹿すらも満足に出来ている気がしないし。

「しゃーないか」

 引きこもれるのはいつの日だ、そう思って出ようとしたら。

「黎斗、頼む……ヤツは美術館にいる。僕の代わりに、倒してくれ……」

 早い、という感想よりも。帰還してきた、という事実に驚く。

「はぁ!!?」

 誰が予想できるだろう。ドニが、サルバトーレ・ドニが、戦闘から逃げ帰ってくるなど。

あれ(・・)はダメだ。僕じゃ勝てない」

「ドニ、お前……」

 恐怖に顔を歪めてドニが呻く。ドニの戦意喪失という事態にアンドレアまでもが呆然とする。

「……どんな権能を」

使うの、と尋ねようとした矢先に爆音が響く。ドニの顔が青褪める。

「うわああああ!!!!」

 ドニが発狂したかのように叫びだす。銀に光った腕が屋敷を一瞬で破壊する。そのまま彼方へ駆け出すドニ。なんだこれは。いったい何が起きている。

「……恵那、アンドレア卿。ドニをお願いします。エル、一応翠蓮と護堂に連絡を」

 この様子、相手はドニに完勝した、と言ってよいだろう。そんな相手に勝てる保証などない。最悪の事態を想定する必要があるだろう。むざむざと負ける気はないけれど。

「マスター!?」

「れーとさん!?」

「大丈夫。最悪情報だけでも持ち帰る」

 エルと恵那は動揺した。だって彼女たちにとって初めての黎斗の”弱気”な発言なのだから。何世紀も共にしたエルですら聞いたことはない。

「……御武運を、マイマスター」

「……我らの王よ、御身に勝利を」

 恭しく、しかし想いを込めて。眷属と巫女は勝利を願い。

「申し訳ありません。破魔の王よ」

「偉大なる王、貴方様に栄光あれ」

 王の執事の心からの謝罪と、貴公子の祈りと。

「----」

 黎斗は、何も答えず姿を消した。かつてない強敵に、気を張り巡らせながら。



○○○



 歩く。こつ、こつ、こつ、と。伽藍とした廊下に黎斗の足音が響いて消える。どうせ気づいている筈だ。流浪の守護により気配は感じ取れないだろうが、無数の”視線”は誤魔化せない。絵に描かれた人物が、動物が、侵入者の姿を把握しているのだから。絵の中からじろじろと見てくる無遠慮な視線。絵と絵の間を移動して、黎斗に中指を立てる者もいる。ゆえに、隠す気などない。著名な画家によって命を吹き込まれたかのような名画の数々。それらが本当に動くなんて、こんな事態でもなければじっくり見たいものだ。だけど、今はそんな考えも命取りになる。神経を張りつめて、油断せずに、しかして自然体で。絵画の森を抜けて、黎斗は気配の方へ歩く。

「で。君が噂の悪魔か」

 美術館の最奥で、有名な絵画を眺める男に語りかける。

「……ふむ。君も先ほど来た金髪の男の同類、神殺しか。私を殺すかい?」

 角を生やした悪魔然とした相貌。着込んだスーツと相まって高貴な悪魔なのだろうと思わせる。神話に明るくない黎斗には、その姿から彼の悪魔の出自を探ることは出来なかった。もとより素性の把握などする気もない。相手は短期間でドニを圧倒するまさに怪物。気合いを入れてかかるほかない。僅か数分で神殺しを敗走させる存在など、黎斗の長きにわたる人生でも今まで一度も目にしたことはない。

「そうだねー。どうしよっか。都市で人が殺し合いをしている。貴方の影響? ならばやむなしかな。止めてくれるなら僕としては戦う必要性を感じないんだけどね。っーか正直、戦いたくない」

 ドニ相手に圧勝するような怪物と戦いたい、なんていうのはバトルジャンキーに任せれば良いのだ。ヴォバンとか護堂とか。飄々とした口調を装いながら、唇が渇いていることに気づく。気づけただけまだ冷静か。

「戦いたくない、とは珍しいな。悲しいことだがそれは無理だ。なぜなら私は人間が大嫌いなのだからね。人間なんて滅べばいい」

「過激だね……」

 交渉と呼べるほどのものでもないが、話し合いはやっぱり無理だった。ならばここから戦うのみ。人間嫌い。美術館に縁がある悪魔らしき存在。人を狂わせる。これだけヒントがあれば絞り込めそうだ。護堂とかとは案外相性が良い相手なのかもしれない。戦士の権能でなんとかしてもらうか。そんな逃避を脳裏でしつつ。剣を取り出す。価値ある絵画を壊すのも忍びないし、接近戦でどうにかするのが最善だろう。自分の考えに失笑。緊張していても、いざ戦うとなれば周囲への配慮を考えているうちに緊張なんてどこかに飛んで行ってしまうのか。

「ならば覚----え?」

 切りかかろうとした黎斗の横を掠める弾丸。あり得ないものを見た黎斗は呆気にとられて二度見する。それは茶色い物体だった。それは悪臭を放っていた。それを認識した瞬間、彼の顔が引き攣った。ドニが逃走した理由も同時に理解。戦意が急速に萎んでいく。背後に物体が着弾。展示コーナーを一瞬で崩壊させつつ弾丸は飛び散る。黎斗はそれを回避する。これだけは、絶対に当たるわけにはいかない。当たったら、死ぬ。色んな意味で。

「……マジ?」

 ショックに立ち直れずに眼前を見ると、悪魔がこちらに手を向けている。彼の周囲には、水が渦巻いている。水の中には、茶色い物体と、トイレットペーパー。

「そりゃドニも逃げるわ」

 なるほど。ドニでは勝てないワケだ。アレを斬りたくは無い。権能とか技術とか以前の問題だ。中世に戻しても無意味。鋼の身体になった日にはあれをこびりつかせる羽目になる。それだけは絶対に嫌だ。第一、戦った時点で負けの気がする。そう考えるとドニは勝利していたといえるだろう。「逃げるが勝ち」という戦法によって。

「あんにゃろう……押しつけやがったな。っーか臭い。ヤバい。無理だこれ」

 彼の悪魔が汚水を展開するのと同時に激臭が周囲を包み込む。圧倒的な、他を隔絶する臭い。鼻がひん曲がる。これ以上ここに居たら自分にこの臭いが移りそうだ。そうしたらやっぱり死ねる。もうこの場にいるだけで負けだろうこれは。

「どうした、来ないのか?」

 そういう悪魔の背後で汚水が勢いよく立ち上る。下水パイプが破裂でもしたのか。

「糞尿に塗れて溺死しろ」

「それだけは絶対嫌だあああ!!!」

 大便の弾丸を掻い潜り、小便の雨を吹き飛ばし、絶対に触れないように細心の注意を払いつつ。黎斗は全力で逃げ出した。脇目も振らずに、恥も外聞も投げ捨てて。

「我が名は魔王、ベルフェゴール」

 老悪魔の名乗りを湛えるようにあらゆる名画が喝采する。

「便器を王座とせし怠惰の魔神也!!」

 彼の大悪魔の名乗りを聞いた存在は、誰もいない。 
 

 
後書き
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ごめんなさい(汗
いつか出そうと思ってたネタ。
下品で申し訳なく……

かつてここまでアレな権能を出したカンピSSがあっただろうか…… 
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