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魔王の友を持つ魔王

作者:千夜
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§67 船頭多くして船山に登る

 
前書き
黎斗「前回の魔王の友を持つ魔王は!」

エル「……以下省略」

黎斗「ちょっ」

や、本気であらすじ入れなければレベルで間が開きましてなんといえばよいか……

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 イケメンが恵那と一緒に帰ってきた。局面だけ切り取れば、黎斗が焦って飛び出しそうな内容なのだが。件の色男が黎斗に即、叩頭してしまい。黎斗はわずかに、動揺する。人から敬意を向けられることには慣れていない。昔だって影の宰相とか王の友人の農民とか、そんなポジションばっかだったから、誰とでも対等な立場に慣れきって。相手から敬われると自分が世界を動かしているかのような錯覚を覚える。カンピオーネという存在になった時点で世界を動かしている一握りになってるのかもしれないが。

「ビアンキさん、でしたっけ?」

 脳内で検索。記憶を頼りに尋ねた名前に、ビアンキと名乗った青年は首肯する。大仰で役者のような大仰な振る舞い。だけど青年に似合う動きで。

「覚えていていただけるとは。我が非才なる名を偉大なる御身の高貴な脳裏に留めていただけるだけでこのビアンキ、死を喜んで賜りましょう」

 なにこの人めんどくさい。引き攣りそうになる顔を必死で抑えて営業スマイル。たしか部下になってくれる人だったはずだ。ここで友好的な関係を気づいておかないと今後に支障が出るだろう。

「……いや、別に死ななくていいです」

「ダメだなぁ黎斗。ここは「二回死ねぇ!!」って言わなくちゃ。僕は日本の文化でそう学んだよ?」

 館の主だから、と同席を許したドニだが開幕ソレはないだろう。それが許されるのはツンデレ美少女だけだ。ダサい男子高校生が言ったらただの暴言にしかならない。

「黙れエセオタク。発言者を考えて発言者を」

 ドニが肩を竦めてため息をつく。せっかくアドバイスしてやったのに、と言わんばかりの表情にすかさず羅濠教主が肘を打ち込む。

「黙りなさい某。次に喋ればその舌を抜きますよ」

 呆れ五割、敵意五割で羅濠教主がドニに宣告する。殺し合いにならないだけ仲が良い、などと思う自分は若干思考が終わってきているのだろうか。

「……姐さんホントにやりそうで怖いから黙る黙るよ黙ります」

「喋りましたね?」

「え?」

「よし某、そこに正座しなさい!! いますぐこの私が舌を引っこ抜いてやりましょう!!」

「ちょっ、まてまってー!!?」

……やっぱこいつら仲良いのかもしれない

「マスター、止めた方が良いのでは?」

「そーだよ。早く止めないと町が灰になるよ?

 エルと恵那の言葉に取り合おうとして―――――脳裏に浮かんだのは三馬鹿の姿。

「……なんで。僕が毎回貧乏くじをひかなきゃいけないんだよ」

 三馬鹿が暴れたら黎斗が職員室に呼び出され。ドニと羅濠教主が暴れたら、黎斗が止めなかったからと悪評が流れる。なんだこれは。こんなことが許されるのか。運を司る神がいたら絶対に殺して、この理不尽な運命を変えてやる。

「……しょうがない」

 幸いまだドニの切り裂く(Silver-arm)銀の腕(the Ripper)による権能封印を破壊した効果はもう少し残りそうだ。

「少し頭冷やさせるか」

 顕聖次郎神君の権能で変化。斉天大聖の姿になる。腰に括り付けてあった瓢箪を手に取って。

「ドニ、翠蓮」

「なんだい?」

「なんでしょうかお義兄様?」

 声に応えれば、それで終わり。

「君たち近所迷惑を考えなさい。少し頭冷やそうか」

 黎斗の呟く声と同時に、瓢箪が二人の魔王に狙いを定める。

「うわっ!!?」

「きゃっ!?」

 抵抗は出来たかどうかも疑わしい。あっという間に吸い込まれ、静けさが一瞬で戻ってくる。

「っ……」

「あー……ごめん恵那」

 そういえばこの姿は恵那には嫌な思い出か。身体乗っ取られて大暴れとか黎斗だったらトラウマになりかねない。

「大丈夫。れーとさんについてくなら、この位で弱ってられないよ」

 そう言って、弱弱しながらも笑みを見せる恵那。マジキチばっかり見てきたせいで、恵那が凄い女神に見える。この子はそうまでして自分と一緒に居てくれるのか。

「そ、っか…………」

 変化を解いて、恵那をじっと見る。こうしてまじまじと見るのは初めてかもしれない。ここまで純粋な意味での好意を持ってくれた人はいつぶりだったか―――――

「恵那。ぼくううおおおおおぉぉぉ!!?」

 恵那に声をかけようとした瞬間。腹部に重い一撃。身体が弾け壁に弾ける。鮮血で染まる白亜の塗り壁。

「……せっかく良い雰囲気になりそうだから黙ってたんですが。流石にそうは問屋が降ろしませんね」

 苦笑染みたエルの視線の先には、煤だらけのドニと泰然とした様子の羅濠教主。煤程度で済むドニも大概だが無傷で余裕たっぷりの羅濠教主はいったいなんなんだろうか。

「黎斗、いきなり狭い部屋に押し込めないでよビックリしたじゃん。しかもなんかヒリヒリする部屋だし。入れられた瞬間に姐さんが三馬鹿(ヘンタイ)見る目でこっち見るし」

「お義兄様。この某と一緒の場所にいれないでくださいませ。これでも私。汚れを知らぬ乙女なのですから。お義兄様や護堂(おとうと)以外の者と一緒の部屋など、それだけで身の毛もよだつ思いです」

「マスターも頭冷やせ、ってニュアンスでしか使ってないようですが……これ即死攻撃のハズなんですが」

「偉大なる眷属様。神殺しの方々を我々の常識で計るだけ無駄というものです」

 厳かに告げるビアンキに「それもそうですね」と呆れを返すエル。若干頬を染めたエリカが、苦笑しながらその光景を眺めていた。



○○○



 さて、組織を作るならばまず必要なものは名前だろう。名前はどんなのが良いだろう。

「まぁルビは必須だよね」

「るび……?」

 かわいらしく小首を傾げて、大きな瞳を真ん丸に。きっとマンガとかなら盛大なハテナマークが頭に浮かぶことだろう。しかも美少女。いともたやすく行われるあざとい行為。あざとく見えないのは恵那の中身が野生児(ぽんこつ)だからか。

「恵那さん、真面目に考えたら負けですよ。どうせマスターの妄言なんですから。っていうか今のマスターの表情的に絶対ロクなこと考えてませんよ」

「そっか。それもそうだね」

「君達酷くない!?」

 一応、これでも必死に名前を考えているというのにその扱いは酷いと思う。名は体を表すというし、組織名なんて重要なはずだ。

「泣くぞ? すぐ泣くぞ? 絶対泣くぞ!?」

「マスターが泣けば神殺しを泣かせたキツネとして歴史に残りますかね?」

「じゃあ私は神殺しを泣かせた巫女?」

「お義兄様を泣かせる……そんな栄誉ある行動を……」

 いうに事欠いてこのキツネと女子高生は何を言い出すのだろうか。そして羅濠教主の方向性がヤバい。

「この鬼、悪魔、ひとでなしどもがー!!」

「いや恵那さんはともかく私キツネで人じゃないですし」

 知ってるよ! そんなことが言いたいんじゃないやい! 喉まで出かかった言葉を飲み込む。なんか言ったら負けな気がした。

「エルちゃんそういうわけじゃないんじゃないかな……?」

「恵那ぁああ!!!」

 本当に味方は恵那だけだ。

「あーよしよし……マジ泣きする程の事なのかな?」

 恵那に泣きつく黎斗をよそに、エルが呆れた視線を向ける。

「ベイビーズソウルテンサウザンド。世紀末ははミレニアム。エロゲの歴史ここにあり、ってやつですね。マスターいい加減老成したらどうですか?」

「……何それ」

 胡乱な目を向ける恵那を意に介さず、エルは自慢げにしっぽを振る。

「私は学のあるキツネなのです! マスターが日本のことわざについて須佐之男命様と議論しているのを聞いていたのです! なんでも幼い頃の性癖は大人になっても治らない、とかそんな感じの!」

「そんな諺が。流石お義兄様。この羅濠。自らの浅学の至らなさに嘆くばかりであること、お許しください……」

 いや、そんなマジレスやめてください。ノリで言っただけでそんなことわざないんです。すごい弁解したいけど、となりの視線が黎斗に口を出させることを許さない。

「れーとさん……」

 ドヤ顔するエル、冷めた視線を向ける恵那。二人をしり目に冷や汗を流し後ずさる。うんごめんなさい。あの時は正直若かった。ドン引きした玻璃の媛の表情とすごくどうでもよさそうな黒衣の僧正、肩をすくめる茨木童子達を余所に酒呑童子と須佐之男命、黎斗の三人で朝まで語り明かしたものだ。翌日、飲みすぎたせいで須佐之男命の部屋がゲロまみれになり玻璃の媛がしばらく家出したのが遠い過去にすら思える。いや実際数百年前だけど。

「そういや酒にトラウマ抱えてた酒呑の大将に無理やり一気させてゲロ吐かせたんだよなぁ……」

 一歩間違えばガチで乱闘だった。※お酒の一気飲みはやめましょう

「流石マスター。現実逃避とは余裕ですね」

「エルちゃん、突っ込んだら負けだよ」

 みんなの言葉を背に、黎斗は黙って布団に包まった。



○○○



漆黒螺旋の奈落戦団(ナイトメアソルジャーズ)とか」

「何ですかそれ」

「どうしたらそんな読み方になるのさ」

「王よ、流石にその名乗りは……」

 三者三様の否定をされる。

「解せぬ」

 滅茶苦茶心にクるものがあるじゃん、などと思いながらも取り下げる。これが大人の対応!、などと阿呆なことを考えながら既に考えておいた別案を出す。

「愉快痛快幽世団」

「ふざけすぎですよ」

 うん、ごめん。自分でも正直そう思う。

「全日本引きこもり連盟。略して全引連」

「……ビアンキさん何か案あります?」

 あまりにくだらない案を出し続ける黎斗に業を煮やして、エルがビアンキに話を振る。

「魔王陛下の奴隷達」

 即答する。が、その中身は残念極まりない。

「この人もダメだったー!?」

 羅濠教主なら。羅濠教主ならきっと……!! そう思って希望を向ければ

「お義兄様とその下僕」

「……流石に二番煎じはねーわ」

 思わず真顔で突っ込んでしまう。

「なっ!? に、にばっ……!!?」

 顔を真っ赤にする羅濠教主。何気にこんな教主はレアかもしれない。高木辺りに売りつければゲーム貸してもらえないだろうか?

「†デウス∞クルセイド†~漆黒の昏き神威征伐者~」

 ドニの発言は発言で痛い。いや、厨二病患者(じぶん)が他者のセンスを痛いと表現する日がこようとは。

「†ってどう発音すんだよ」

「うーん。やっぱダメかー。黎斗こういうのすごい好きそうだと思ったんだけどな」

 ごめんなさい痛いから名乗りたくないけどそういうのすごい好きです!!

「ドニ……私の思考を読むとは。貴様が私の倒すべき真の敵なのかもしれぬな」

 思わず厨二っぽい台詞で返してみれば。

「うん? まさか敵認定してくれたのかい!!? ここで今すぐ殺っちゃう!!? 殺っちゃう!!?」

「今日は疲れたからナシ! ナシ!!」

「つれないこと言うなよ兄弟!!」

「こいつめんどくせぇええええええええええええええええええええ!!!!!」

 結局名前が招魔の庭園(サモンクリファ)に決定したのは、それから数時間後の事だった。 
 

 
後書き


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すいません遅れました(平謝り 
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