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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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召喚者-ティファニア-part3/銀色の巨人

その日の朝、料理をしていたテファはちょうど調理に必要な食糧が少なくなっていることを知った。だから、この日シュウに、街を見てもらうついでに買い物を頼むことにしたのだ。
「あの…お願いしたいことがあるんだけど」
「?」
「エマと一緒にお買い物に出かけてくれるかしら?」
後ろに隠れているエマの頭に手を添えながらテファはシュウに申し出る。
「…飯が少なくなっているのか?」
「え、ええ。ここから港町ロサイスまで遠いけど、お願いできるかしら?」
エマを着いて行かせることにしたのは理由がある。エマも人見知りの激しい子だが、みなと比べてシュウへの敵意が薄い。それに、これは出会ってすぐに知ったことだが、シュウは文字を読むことはできなかった。不思議なことに国は違うのに言葉は通じる。でも文字は読めない。覚えるのにも時間を要するから、最低限の字を読むことのできるエマに付き添いを頼んだのだ。
「わかった」
あっさりと承諾したシュウ。すると、彼は小屋の傍らに置いていたバイクを押し出していく。
「それって、シュウが乗ってきた鉄の馬?」
「これの方が早い。…大きすぎるかもしれないが、これを被れ」
シュウはヘルメットを一つ取り出すと、それをエマに被らせる。まだ幼いエマには大きいサイズだったが、そこは紐の長さを調節することでカバーした。エマを後ろの席に座らせ、しっかり自分を掴むように言ったシュウは、バイクのエンジンを唸らせる。緊張しているためか、自然と力んだことでエマはしっかりとシュウの服を掴んだ。そしてシュウはハンドルを握ってバイクをゆっくりとエマをおびえさせない程度に走らせ、そのまま村からいなくなっていった。
この日シュウが、アルビオン大陸が空に浮かぶ浮遊大陸だと知るのは別の話である。
「本当に走るんだ…」
しかも馬と違って速度の調整が精密に効くという。あんな乗り物があるだなんて…。テファは自分が本当に箱入りなのだと思った。もっとも、バイクはハルケギニアに存在しない乗り物なのだが。
でも、引き受けてくれてよかった。この辺りには行商人もたまに来るのだが、本当にたまにあること程度だし、自分がエルフと知ると恐れて逃げる人も時折いる。だから、彼のように手伝ってくる人がいるのはありがたい。
さて、洗濯物でも乾かすか。洗濯籠を抱えて物干しへ向かうテファ。他の子たちは遊んでいたり、薪割りをやってくれていたりしている。そう言えばサムは、エマをシュウの付き添いにつれていくことを渋っていた。エマを人売りに引き渡すつもりじゃないのかと。テファはそこまで疑うつもりはなかったから異を唱えた。そんなことでは、いつまでたってもシュウと打ち解けることなんてないのだから。
シュウたちに買い物を頼んでから二時間以上は経った。洗濯物を干しながら、どうすれば彼をこの村な馴染ませることができるかを考え込む。しかしどうすると考えようにも、もともと自分は同年代の男と話したこともない。どんな方法を使えばいいのかもわからない。
いや、それ以前に彼は自分たちと馴染もうともしてないのに、こんなことを考えること自体おかしいのでは?実は内心で自分たちのことを許せないでいるのでは?そんな不安ばかりが募る。
その時、たった今彼女が洗濯物を干した物干しに、どこからか飛んできた矢が突き刺さった。ハッと振り返ると、傭兵らしき格好の一団が姿を見せた。
「へえ、こんな辺鄙な森の中の村に、こんなかわいい別嬪さんがいるとはなぁ」
顔に傷痕が深々と刻み付けられた、一団の親玉らしき男が下種な笑みを浮かべながらテファを見ている。
「あなたたちは?」
怯えながらテファはその男に尋ねる。
「なぁに、俺たちはどこにでもいる盗賊だよ。たまに傭兵として戦争に参加してはいるがね」
いやらしい笑みを浮かべたまま、親玉は言った。
「出て行ってください。あなたたちに渡すものなんかありません」
「ないだって?あるじゃねえか」
「え?」
「俺だってこんなちっぽけな村に金なんかねえことは見るだけでわかるぜ。俺たちが扱ってるのはよ、人さ。それも特に、あんたのような別嬪さんは高く売れるだろうぜ」
この盗賊たち、人さらいの目的でこの村に踏み込んできたようだ。すると、テファのピンチを見かけたのか、サムやジャックが盗賊たちの前に立ちふさがった。
「テファ姉ちゃんに触るな!悪者!」
「なんだガキ?てめえらみたいなのは趣味じゃねえ。命が惜しけりゃ引っ込んでろ」
盗賊の一人が邪魔をするなと二人を睨み付けてくる。その視線に二人はビクッと身を震わせたが、テファのためにもここから引き下がるわけにはいかない。
「なんだこのガキども!カッコつけて出てきた割に、足が震えてるじゃねえか!」
ぎゃはははは!!!盗賊たちはサムたちを見て馬鹿笑いし始める。
「何しているの二人とも!ここは私に任せて、下がって!」
しかしテファとて、この子たちの保護者。危険な目に合わせるわけにはいかない。杖を出して、唯一自分が使うことのできる魔法を使おうとした。が、相手は戦い慣れた盗賊の集団。そんな隙を与えるはずもない。彼女たち三人の足元に弓兵の盗賊の放った矢が突き刺さる。
「アニキ…こいつ、エルフじゃねえか?」
「ああ?エルフ?」
親玉の男が、部下にそう言われてテファの耳を見てみる。耳の先がとがっている。確かにエルフだ。テファはそう言われて耳に触れると、今日は村から遠く離れることがないだろうから帽子を被っていなかったことに気づく。
「やばいんじゃないですか?エルフってたった一人の奴を相手にするだけでも、俺たち人間じゃ1000の兵をそろえても勝ち目が薄いとか聞きますぜ?」
「知ったことかよ。この女…俺の長年の勘だがまともに戦ったこともねえ。つまりエルフだろうがなんだろうが、ビビるこったねえのさ。それにちょうどいいじゃねえか。エルフの女を捕まえたとなると、俺たちはエルフを捕まえた実力者にして功績者になって報酬も仕事もがっぽり入るだろうぜ。
ほれ、つべこべ言ってねえで捕まえんぞ」
親玉に言われるまま、部下の盗賊たちはテファに近づいて行くが、ここでサムとジャックが盗賊たちに飛びかかってきた。
「ぐ…この糞餓鬼ども!!」
「姉ちゃん!今のうちに!!」
「だめよ!あなたたちこそ早く!」
逃げるようにいうが、子供たちはテファのためにと危険を顧みないまま、盗賊を取り押さえようとするが、体格からして段違い。すぐに殴り飛ばされてしまう。
「商品になりそうにねえガキがでしゃばんじゃねえよ」
「やめて!あなたたちの狙いは私のはずよ!」
顔を殴られて青紫の痛々しい痣を刻み付けられたサムたちを見て、テファは悲痛に叫ぶ。
「商品が生意気な口聞くんじゃねえよ。ほら、このガキ共を殺されたくなかったら黙ってついて来い!」
親玉からどなられ、盗賊たちから縄で縛りつけられたテファは、そのまま盗賊たちに引っ張られていってしまった。
「お姉ちゃんを連れて行かないで!」
おそらくサムとジャックから隠れるように言われていたのだろう。ジムとサマンサがテファを連れて行く盗賊たちに向かって喚く。
「止めて!」
テファが再び盗賊たちに向かって叫ぶ。自分のことは言い、だが子供たちに手を出すこいつらの蛮行を看過するわけにはいかない。
「うるせえ。黙ってねえとあの餓鬼どもをぶっ殺すぞ」
「だったら、私は舌を噛み切って死にます!!」
そう言ってテファは自分の舌を軽く噛んで見せる。それを見た盗賊たちは、子供たちに向けた武器を一斉に下ろした。さすがに、貴重な商品としているテファが死体になってしまったら元も子もない。
「…ち、このエルフ女に感謝するんだな」
盗賊の親玉は舌打ちしながらも、自らテファを引っ張って歩き出した。
「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!」
サマンサがいかないでと泣き喚くが、結局それまででどうしようもない。盗賊たちは彼女の泣き声を非常に耳障りに思ったが、テファに舌を噛み切られてしまうわけにいかないので手を出さないまま村から立ち去っていく。絶望の歌がウエストウッド村に、ただ響き渡った。




「盗賊に襲われたのか!?」
マチルダはテファから、自分がいない間にそんな大事があったことに目をくわっと開くほど驚いていた。
「う、うん…」
その迫力に押されながらもテファは頷いて見せた。
「くっそ…あたしがそこにいなかったばっかりに…!!」
自分がそこにいればすぐにでも盗賊どもをゴーレムで踏みつぶしてやれたと言うのに、自分がそばにいてやれなかったことにマチルダはテファたちを怖い目に合わせた盗賊たちや自分へ怒りを募らせる。テファはこうして戻ってきているが、もしかしたらあいつらに嫁入り前の肌を穢されてしまったのでは…?そんな不安が募っていく。
「だ、大丈夫よ姉さん。私は見ての通り大丈夫よ。特に怪我もしなかったし」
「あ、そっか…」
テファのことだから、本当につらいことがあったらとても隠したままでいられるとは思えない。すぐ表情に表れるはずだ。でもそんなそぶりは一切ない。つまり汚される前に危機を脱したと言うことだろう。
「いつものように、あいつらに魔法を使ったんだろ」
「ううん、あの時の私は両手を縛られてて、魔法なんて使えない状況だった」
「え?」
じゃあ、この子はどうやって助かったのだ?いや、…もしや…。マチルダの脳裏に、ある人物の顔が浮かぶ。
「まさか、あいつが助けに来たと…?」
あり得ない話じゃない。自分を助けてきてくれた時のことも考えれば、合点も行く。
しかもテファは、はにかんだ笑みを見せて頷いている。
マチルダは瞬間的にこう思う。悪い奴に捕まった女の子を颯爽と助けに来る男。まるで、ハルケギニアで有名な童話『イーヴァルディの勇者』の主人公、イーヴァルディのようではないか。
その時のことを、テファは語り始めた。




もう夜の闇が空を覆い始めた頃だ。テファは盗賊たちの運転する大きな馬車に乗せられ、どこかへと運び出されていた。この時盗賊たちは目的地まで距離があるためか、ここで馬車を止めて休憩を取っていた。
「ひゃっはあ!!今日は大当たりだぜ!」
「しかもこの女はエルフだ。エルフ退治の功績で俺たちもがっぽり貴族共から金をもらえるだろうぜ」
「あとは、どこか高く買ってくれそうな奴にどこまでの値段で売りさばくか…けけ」
品格など程遠い声が、馬車に響く。馬車の荷台に乗せられたテファは背後に両手を縛られ、足もきつく縛られているために逃げることもできない。もがいてもほどける気配もなかった。すると、テファが放り込まれた馬車の荷台に男たちが入ってきた。
「しかし、改めてみると本当に上玉だな。暗くなっても眩しいもんだ」
「…何をする気?」
恐怖に駆られ震えながらも、テファはキッと男たちを睨みえ返す。
「何、ちょっくら味見をするのさ。大丈夫だって。すぐに痛くなくなるさ…」
気色悪く舌なめずりする、テファのすぐ目の前の男。その吐息は悪臭ばかり漂い、ただ死肉をむさぼって生きるハイエナよりも清潔感の欠片もない下品さがあった。その男の手が、テファの服を無理やり引き裂こうと伸びていく。
怖い。……誰か………。
「助けて…」
その時だった。
ブォオオオオオオオ!!!!
この音を聞いて、テファは目を見開いた。聞いたことがある。それもごく最近の時期に。音がどんどん大きくなって…違う!近づいてきているのだ。
「ち、るっせんだよ!!ブンブンブンよう!!!」
「いい加減にしねえと俺たち『灼塵』の…ふぐ!!?」
あまりの耳障りな男に苛立った盗賊たちだが、ドスッ!っと音が響くと、一番背後の男が急に倒れだした。
「お、おい!どうしt…ぁ…」
続いてもう一人の男も倒れる。盗賊たちは直ちにテファから手を放して馬車から降りる。
「ちっ、誰だ!?人様の至福のひと時を邪魔しやがった野暮天は!」
盗賊の親玉が猛獣の雄叫びのように怒鳴り散らす。が、その男は突如目の前に現れた影に腹を殴られた後、手刀を首筋裏に受けて昏倒した。
「なんだてめえは!!」
自分たちの親玉さえも倒され、混乱する盗賊たち。暗くなってはいたが、テファにははっきりと見えていた。
助けに来てくれたのは、まぎれもなくシュウだったのだ。後ろには彼のバイクが転がっている。バイクに乗って急いでここまで駆けつけてくれたのだ。
「……」
盗賊たちからの質問に、シュウは何も答えない。盗賊の一人が、シュウをナイフで刺し殺そうとしたが、その途端シュウは身を翻して避けると、腕に装備していたアイテム…パルスブレイカーを盗賊に押し当てる。すると、ほとばしる電撃が走り出し、盗賊は悲鳴を上げ、その場に倒れて気絶。その体は気絶してなお震え続けていた。
「あばばばばばばば!!!!!?」
「な、なんだこいつ!?メイジか!?いや…まさかこいつもエルフ!?」
彼らはシュウのことを、ただの変わった格好をした平民だと思っていた。しかし、パルスブレイカーを使って電撃を起こし、今彼を襲った盗賊を見て、魔法を使ったのかと勘違いを引き起こしていた。
パルスブレイカーは、仲間同士で連絡を取り合うためだけの道具ではない。いざと言うときは麻酔弾やビームガンの効果を持つ銃器やスタンガンにもなる強力な兵装でもあった。
「この野郎!」
最後に残った盗賊が、シュウに弓矢を放とうとした。奴が背後を取っている今なら脳天を貫ける、そう思っていた矢先、彼の持っていた弓矢は放たれることなく宙を舞った。シュウが鋭い蹴り上げで男の腕を蹴りつけたのだ。武器を失ったその盗賊になすすべはもう残っていなかった。直後にシュウの顔面パンチが炸裂、続けてシュ!!と鋭い音を立てた回し蹴りが盗賊のこめかみにクリーンヒットし、蹴られた盗賊は気絶した。
盗賊たちにはきっとメイジもいた。だが、魔法を使わせる隙も与えずに全滅させたシュウを、すごいとテファははっきりと思った。感動さえもしていた。そして、彼が助けに来てくれたことを、とてもうれしく思った。
シュウがテファの元に掛取り、盗賊が持っていたナイフでテファを縛る縄を切った。
「無事か?」
まっすぐテファを見て尋ねるシュウ。
「シュウ、どうして…」
逆にテファはシュウになぜと問いかけてくる。
「村の子供たちが、お前が盗賊にさらわれたと聞いてな、村にエマを置いて行ってすぐにここに来た」
「ここはもう村から遠く離れているのに…」
「よくわからないが見えたんだ。お前がここのケダモノたちに襲われている様が」
それって…。ふとテファはマチルダから使い魔についての説明を聞いたときのことを思い出す。確か彼女の話によると、使い魔は主人と目となり耳となって力となるなんてことを言っていた。もしや、自分の危機が彼の目か脳裏に浮かび、彼をここへ導いたと言うのか。でも…。
「なんで、私を…助けに来たの?」
自分が彼を故郷からここへ無理やり呼び出した、悪い言い方をすれば誘拐犯だ。この男たちと、その点については変わらない。加えてエルフの血も引いている。だから自分を助ける義理など彼にはないはずだ。
その問いに対してシュウは淡々としながらもこう答えてきた。
「人命救助にいちいち理由はいらない。お前が何者であっても変わらない」
すると、後ろで倒れていたはずの盗賊の親玉がむくっと体を起こすと、杖をシュウとテファに向けていた。
「このガキ…よくも俺たちの邪魔をしてくれたな…」
まだ二人は互いの会話に夢中になっているはず。今のうちに不意打ちで一気にぶっ殺してやろうと、彼は杖を振り下ろそうとした。と、その時だった。
「う、うわああああああああ!!!!」
その男は突如、どこからか伸びてきた触手に体をからみつかされ、引きずられていく。
「ピィイイイイイ!!!」
同時に、聞いたこともない生き物の泣き声らしき音も聞こえてくる。その音の先には、見るだけでも不快にさせるほどの奇怪な姿をしたナメクジの化け物がそこにいたのだ。それも一体…二体…合計で5体もいる。
「ビースト…!?」
「え?」
知っているのか?とテファが驚くと、ふと彼が自分の故郷のことについて話したことを思い出す。彼は確かスペースビーストと呼ばれる怪物と戦う仕事をしていたと言っていた。まさか、このナメクジの化け物が?
「ぎゃあああああ!!」
触手にとらえられた盗賊の親玉は、そのまま口を開けた怪物の口の中へ放り込まれた。あまりにも残酷な光景にテファは口を押えると、とっさにシュウが彼女の目を覆う。こんな光景をテファに見せるにはきつすぎたと思ったようだ。
自分たちを取り囲む体長約5mほどのビースト『ブロブタイプビースト・ペドレオン(クライン)』の群れ。見るからに自分たちを食らう気満々の様子だ。
「俺が隙を作る。ティファニア、その間にお前は先に村へ帰れ」
しかし、テファは一人で帰ることを躊躇っていた。たった一人でこんな恐ろしい怪物と戦うというのか?そんなのは無謀すぎるとしか思えなかった。しかし、シュウは戦うことに迷いを見せなかった。
「俺はナイトレイダーだ。人を襲う獣を倒し、人を守ることが仕事だ。だからこの手の奴らと戦うことには慣れているつもりだ」
「でも…!」
「いいから行け!!!」
そう怒鳴った時のシュウの顔は、いつものクールなポーカーフェイスではなくなっていた。必死の思い、それが彼の表情に表れていたのだ。いつも冷静というか、冷淡な彼がここまで感情を表に出す人だと思わなかった。
もしかしてこの人、本当は……。
いや、彼の言う通りここは村に戻った方がいい。
ちょうど今、彼がいつの間にか手に取っていた白い銃から発射された波動弾が、村の方角に待ち構えていた一体の怪物を破壊した。テファは走り出した。今消滅したペドレオンが塞いでいた、子供たちの待つウエストウッド村への道を。
しかし、元来からの性格からか、彼女はシュウを見捨てることができずそこで立ち止まった。振り返ると、シュウは銃を片手にたった一人でペドレオンと戦っていた。ただでさえ人間を超えた人外が相手。それも複数だ。とても一人だけで敵うとは思えない。魔法を使えたらまだわからなかったが…。
シュウはしばらくの抵抗の後、自らテファとは反対側の森の奥へと姿を消した。どこへ行くのだ。そちら側は村の反対側じゃないか。
「シュウ!」
テファは、何が何でも彼を放っておくことはできなかった。たとえ彼の言っていたことを無視したことを指摘され叱り飛ばされることになっても、彼を助けに行きたいと言う想いが強かった。
と、その時だった。シュウが姿を消した森の奥の方から、夜の闇をも切り裂く紅い光の柱が立ち上り、一体の銀色の巨人へと姿を変えた。
銀色の体に黒い模様、胸の赤いY字型の宝珠。出会った頃に、シュウが自分が何者でどこから来たのかを明かした時の、彼から一度聞いていた話の通りだった。テファは、まさかこの目で見ることになるとは思いもしなかったし、話に聞いていてもいなくても、このハルケギニアでは本来目にかかることだってないはずのその存在に、驚きのあまり目を奪われていた。
「あれが…ウルトラマン」
ウルトラマンの姿を見て残ったペドレオンたちは、中心の一体のペドレオンに向かって、他のペドレオンたちが気色悪くへばりつくような形でくっ付いて行く。中心の一体の体の中へ、他のペドレオンたちの肉体が食われるように吸収されていき、やがて最後の一体も中心にいたペドレオンに吸い込まれると、ついに一体となったペドレオンはその身を、約50mを誇る巨体へ変貌させた。ペドレオンはウルトラマンに対抗するべく、同じビッグサイズの形態『グロース』へと進化したのだ。
それを見て、何も動揺しなかったウルトラマン。寧ろ、これを待ち望んでいたように冷静だった。恐らく、敵が一個体に融合すればまとめて片付けることができるから、巨大なその姿をビーストに見せつけたのだろう。瞬時にウルトラマンは左手に装着された腕輪を胸に当ててから降ろすと、元の黒い模様の通常形態『アンファンス』から、胸のY字型のクリスタル『エナジーコア』の中央に新たなカラータイマー『コアゲージ』を埋め込み、血のような紅色に染めあがった模様をその身に刻んだ姿『ジュネッスブラッド』に変わった。
ジュネッスとは、シュウのいた世界を守り続けてきた、そして今シュウが変身したウルトラマンの所謂強化形態で、変身者によってその色が赤色・青色など様々に変化するのだ。
ペドレオンの前に立ち、左腕の肘に右手の握り拳を当てると、右腕を円を描くように回した後、空に掲げた。その右手から天に向かって光が放出され、その光は地上へ降り注いで一つのドームの形となり、ウルトラマンとペドレオンを包み込んだ。




周囲の景色が、あっと言う間に美しい金色の世界に変わった。
外から見ても、その光のドームの美しさは圧巻だった。その輝かしい光に見ているものが身をゆだねたくなるような暖かな金色の光。しばらくして光のドームが完成した、と思った途端、光のドームは頂上のあたりから見る見るうちに消滅していった。
「消えた……?…え!?」
テファは思わず目を見開いた。
なぜか彼女には、彼女の青く澄んだ瞳には、この時見えていたのだ。
星空のような暗がりの空と、その下に広がる赤い土の荒野の上で、光のドームに包まれて消えたはずのウルトラマンとビーストの激しい肉弾戦が展開されていた光景が。
ウルトラマンが作り出した、彼の戦闘亜空間『メタ・フィールド』。この空間の中では、ウルトラマンは己の本来の力を発揮…つまりパワーが上がり、逆にスペースビーストは力が落ちてしまうという、ウルトラマンにとって有利な戦闘が可能となる特殊な空間だった。この空間は、展開されて以降だと中へ入ることは許されない。シュウが所属していたナイトレイダーたちも、自分たちの乗りこなす戦闘機を使わなければこの中へ入れないのだ。
そんなメタ・フィールドの中で、ウルトラマンはペドレオンに連続で拳を叩き込み、続いて左の脇下にペドレオンの首を挟み込み左腕でそのまま締め付けると、がら空きの背中に右手の手刀を食らわせる。
次にペドレオンに膝蹴りをしてから背後に回り、尾を掴んで強引に投げ飛ばした。
地面に落下したペドレオンに、更なる追撃を仕掛けようと走り出したウルトラマン。しかし…。
「ギオオオオオ!!」
「ウアアアア!?」
ペドレオンもやられてばかりではなかった。開かれ発光した口からほとばしる衝撃波を放ってウルトラマンをぶっ飛ばした。そこからはペドレオンのターンが回った。ウルトラマンが立ち上がろうとして膝を着いていたところに、両手の鞭で背中を何度もたたいて妨害しダメージを与えていく。数度目の手の攻撃が繰り出されると、ウルトラマンはその手を掴んで攻撃を相殺、ペドレオンを軽く蹴ると、ペドレオンから数m程度の距離を開かせた。
すると、ペドレオンは体内の可燃性ガスを火球として発射し、ウルトラマンを狙い撃つ。しかし、ウルトラマンは瞬時に右手から光の盾〈サークルシールド〉を作り出し、ペドレオンの攻撃をあっさり遮断した。
ここからは、こちらの番だ。そう言うようにウルトラマンはファイティングポーズをとると、ペドレオンに接近し思い切り蹴飛ばして岩壁に叩きつけた。彼の反撃はまだ終わらない。今度は右手の指先を地面に向けてから念じると、彼の目の前で激しい大竜巻が発生、ペドレオンに一気に接近して包み込むと、ペドレオンの体は回転しながら地面に下半身がめり込んでしまった。まるで土木作業に使われるネジのように。
身動きを封じられた手負いのペドレオンなどもはや遅るるに足らず。ウルトラマンは右腕に血色のビームソード『シュトロームソード』を形成した。それも、本来の10m前後の長さではない。何十…いや、100もの長さを誇る長剣だった。彼はそれを頭上に振りあげると、頭を叩き割るように、ペドレオンの頭上へ一気に振り下ろした。
〈シュトローム・スラッシュ!〉
「デアアアア!!!」
「ギィイイイイイ!!!」
真っ二つに叩き割られたペドレオンの体は、青白く発光し断末魔と共にメタフィールドの空間内に、結晶となって消滅した。
ウルトラマンは剣を消すと、メタフィールドの消滅と同時に、自身もまた光となって姿を消した。


「すごい…」
テファはこの時、何もかもを忘れるくらい、ウルトラマンの戦いに魅入られていた。メタ・フィールドが消えても、少しの間その場に呆然と立っていたが、戦いが始まる直前までいたはずのシュウがいないことに気づく。
早く探さなくては。そう思った矢先だった。
「ぐぅう…」
まずい。シュウによって意識を手放していた盗賊たちが目を覚まし始めた。親玉がいなくなったとしても、シュウがいない今独断で自分をもう一度誘拐する可能性は否定できない。だが、まだ意識がはっきりしていない今ならチャンス。彼女は隠し持っていた杖を取り出した。
ナウシド・イサ・エイワーズ・ハガラズ・ユル・ベオグ……
杖の先に魔力が帯びられた影響からか、バチバチと一瞬だけ静電気が走る。
ニード・イス・アルジーズ……
「う…アニキは…?は!この女…!」
起き上がった盗賊の一人は、彼女の姿を見るや否や、言葉も放たず襲い掛かろうと近づく。
ベルカナ・マン・ラグー!!
テファが、楽団の前で指揮棒を振うコンダクターのごとき自信に満ちた態度で杖を振り遅す。それは風のようにその一帯を包み込んだ。風が止むと、テファを襲おうとしたその男は、人が変わったように呆然と夜空を見上げていた。
「あれ…ここはどこだ?なんで俺たち、こんなところにいるんだ?」
他の盗賊たちも起き出したが、さっきとは打って変わってさっきも下卑た笑みの欠片も見せなかった。明らかに様子が一変している。ティファニアは盗賊たちに、落ち着き払った声で教えた。
「あなたたちは森に偵察に来て、迷ったのよ」
「そ、そうか?」
「隊はあっちよ。森を抜けると街道に出るから、北にまっすぐ行って。夜道に気を付けてね」
「お、おう…すまねえな」
盗賊たちはたどたどしげにテファに礼を言うと、商品にするはずだった彼女を置いて森から歩き去って行った。
すると、そこへシュウがようやく走って戻ってきた。
「無事か?」
さっきも聞いた言葉。戻ってきた彼に対してテファも目を丸くした。
「シュウ、あなたこそ…!」
怪我と言えるものが何も見当たらない。あんな悍ましい怪物を何体も相手にしていたと言うのに。
「怪我は?どこか怪我してないの?」
「問題ない。ほんのちょっとやけどした程度だ」
「だったら早く治療しないと」
「俺はいい。村の治療道具は子供たちに使え。あの子たちにも怪我をした奴がいたはずだ」
その怪我をした奴…おそらくサムたちだ。シュウは自分よりもその子たちの方が盗賊たちにひどい怪我を負わされたこと、そしてこの村には金は多くないため薬や包帯と言った医療道具が少ないからそちらを優先するべきと進言した。
「でも…」
「いいから。それより…さっきのは、お前の魔法か?」
「あ、見てたのね…」
シュウはここに戻る直前、テファが盗賊たちに使った魔法を目の当たりにしたようだ。テファは自分の使った魔法について説明する。
「……彼らの記憶を奪ったの。森に来た目的の記憶よ。街道に出る頃には、わたしたちのこともすっかり忘れてるはずだわ。系統魔法が使えない私が使えるたった一つだけの魔法」
「記憶を…消すだと?」
「姉さんはエルフの先住魔法じゃないかって予想してたけど、呪文の唱え方はメイジの使うそれとさし違わないものだから、何か別のものかもしれないけど…」
「まるで、MPだな」
シュウは最後にそうポツリとつぶやいた。えむぴい?また聞きなれない単語が漏れ出たのでテファは首を傾げた。
「ねえ…さっきの銀色の巨人」
もう怪我のことも指摘しない方がいいだろう。テファはそう思って、今度はさっきの怪物と、それと戦っていた巨人のことを思い出す。シュウが自身の故郷のことを教えてくれた時に聞いていた通りだ。間違いないと思うが確信を得るために敢えて尋ねた。
「…ああ。間違いない。あれがウルトラマンだ」
「やっぱり…」
「しかし、なぜこの世界にも現れたんだろうな…」
腕を組んで考え込むシュウ。しかし自分のことでもないし、ましてや人とはかけ離れた存在のことを知り尽くすことなんて無理だ。
「…村に帰るか」
「う、うん…」




村に戻ってきた時、シュウとテファを村の子供たちが出迎えてきた。テファの無事な姿を見た途端、子供たちはテファの元に駆け寄りに泣きじゃくりながら抱きついた。
「あまりにエマやサマンサが泣くから、シュウはばいく…だったかな?そこの椅子の下に隠れた荷台から、細長い風船を取り出して、あの動物を作ってエマたちにあげたの。そうしたら、あの子たちったら彼を怖がってたことが嘘みたいに笑ったわ」
時間を現在に戻そう。テファは当時のことを笑みを見せながらマチルダに話した。
「そんなことが、あったんだね…」
あの無表情で何を考えているかわからない男が、子供たちやテファのために危険を冒した。忘れてしまいがちだが、彼はテファの使い魔。使い魔を主人が助けるのは当然だとは思っていたが、本当にここまであの子のために命を懸けた人間なんて自分以外で初めてだ。何せあの子はハーフエルフ、その血筋を恐れて近寄ろうとしない人間だっているはずなのに。
「サムたちも、ちょっとだけだけどシュウのことを認めてくれたみたい。前よりも話すようになったし、薪割りのコツもシュウに教えるようになったの」
「へえ…」
なんだかんだで、盗賊の一件でシュウはだんだんと村の子供たちにも、そしてテファにも受け入れられていったようで、マチルダは安心した。正直シュウが使い魔として現れ、その性格を目の当たりにしたときは本当にどうなるかと不安だったが、この調子ならきっとやっていけるだろう。
すると、シュウがちょうど戻ってきた。
「あ、シュウ!お帰りなさい!」
「…ああ」
しかし、人の性格は一朝一夕には変わらないのだろう。テファの出迎えの言葉に、いつものクールな声質で返事をしたシュウを見て、マチルダははあ…とため息を漏らした。
「ちょっとシュウ」
一言言ってやろうと、マチルダはシュウに手招きする。シュウは黙って彼女の元に歩み寄ると、マチルダは彼の耳元でこう囁いた。
「ちゃんとテファを守ってやるんだよ。守るって決めたんなら」
「…言われるまでもない」
結構プレッシャーをかけるように言ったつもりだったが、シュウは全く物怖じしなかった。最初から当然のことのようにその言葉を受け止めた。
「姉さん。シュウに何を言ったの?」
首を傾げるテファだが、マチルダは「いや、なんでもないよ」っと笑みを見せてはぐらかしたのだった。


彼は、私には持っていないたくさんのものを持っていました。
普段はちょっと冷たく見える人だけど、あの時の私は、確かにシュウの内面に眠る優しさと勇気に触れました。でも……。
この時の私は、彼が自ら孤独な道の上を歩こうとしていたことに、気づいてなかったのです。
BYティファニア




その夜。学院のある一角で、白い湯気が立ち上っていた。少し辿ってみよう。湯気の立っている場所には、大きな鉄鍋にアツアツのお湯が溜っていた。
そしてその中では、サイトが入浴タイムを満喫していたのである。この鍋はいずれ捨てるだろうと、学院の料理長であるマルトー親父が厨房の傍らに置いていたものだが、サイトが久しぶりにお湯の入った風呂の味を味わいたいと思い、もらっておいたのだ。四方向に石を並べ、その上に鉄鍋を置き、下に巻きを入れて火をつける。あっと言う間に風呂が出来上がった。
この世界での平民用の風呂は蒸し風呂なので、サイトは入りたがらなかったのでこうしてわざわざ作ったのだ。
「ったくルイズの奴…」
サイトは朝に受けたルイズの仕打ちを根に持ち続けていた。何せあれから一言も言わないし、謝りもしないのだ。せっかく少しはいい奴だと思えるようになったと言うのにあれはひどすぎるじゃないか。
まあ、湯船につかっていれば頭も覚めるだろう。そう思いながらサイトは湯の中に頭を鎮めて言った。
(そう言えば今朝、変な夢を見たよな)
サイトは、その日の朝の目覚めまでに、ある夢を見ていた。
それは、ある若いウルトラマンがまばゆい光を掴もうとしたとき、かの有名なウルトラセブンが突如その若いウルトラマンを止め、そしてゾフィーを筆頭にしたウルトラ兄弟たちの手で連行されていくと言う夢だった。ルイズと違って、サイトは内容をはっきりと掴んだままだった。
「あのシルエット…セブンに、エースに、ジャック、それにゾフィーか?でも、もう一人のあいつは…光を掴みとろうとした奴って…?」
どこかで見たことがあるような…?とサイトは記憶をたどってみたが、思い当たるものがありそうでない。まあ夢なんかで深く考えても仕方ないか…。再び彼は湯船に身を沈めた。
『…』
さっきのサイトが、自分が見た夢のことでぼやいていたのを、ゼロは聞き逃さなかった。実をいうと、あの夢の中で連行されていった若いウルトラマンとは…彼自身のことだったのである。光を掴むこと、それがウルトラマンの法律に触れてしまうほどのことだった。ではなぜゼロはその光を、法を逸脱することと知っても手にしようとしたのか。ゼロは当時のことを思い出したがっていないためか、夢として自分の過去を見たサイトには何も言わないままでいた。
ちょうどそこに、お盆とそれに乗せたカップを持って、その辺りを通ってきたシエスタが現れた。
「あれ…なにかしら?」
周りを囲った布の壁の向こうから湯気が出ている。気になったシエスタはその布の向こうにある布の壁に近づく。その向こうには、マルトーが捨てるはずだったと聞いていた鉄鍋いっぱいにお湯が溜っていたのだ。覗き込もうとすると、息を止めきれなかったサイトが湯の中から出てきた。
「きゃ、てサイトさん!?」
彼女は思わずお盆をひっくり返してしまい、メイド服を紅茶で濡らしてしまった。
「シエスタ!?ああこれはその…」
まさかシエスタが…女の子がここを通ると思っていなかったサイトは股間を隠して湯船に潜って縮こまる。
「あの…ごめんね。びっくりさせちゃって。服濡れたみたいだし…」
彼は縮こまった状態で赤面しシエスタから顔を反らし続ける。
「い、いえいいんです!そ、そこで何をなさってたのですか?」
気にしないでくれと言ったシエスタは、サイトにここで何をしていたかを尋ねる。
「ああ、俺の国の風呂。ここの平民の風呂って蒸し風呂だから、やっぱ俺はこうでないと」
「これがお風呂…ですか」
不思議そうに彼女は風呂を眺める。
「いいなあ…。私も入りたいです」
「じゃあ一緒に…なんて」
サイトはほんの冗談のつもりだった。が…予想だにしない事態が起こってしまった。
「いいんですか!?」
なんとシエスタがいきなり服を脱いで風呂に入り出した。
「ああああのシエスタさん!?俺一応男なんですけど…」
「サイトさんはそういうことしないってわかってますから。はあ〜気持ちいいです」
服を脱ぎ湯船につかる彼女の方をサイトは振り向けなかった。振り向いたら、きっと辛うじて保っている理性が崩壊しかねない。
『サイト~』
ふと、ゼロの声が頭の中に聞こえてきた。
『な~に女をはしたない格好で誘ってんだよ。いけないんだ~』
こいつ…!!サイトはもしここにゼロが自分と分離した状態で立っていたら今すぐにでも殴り飛ばしたい衝動に駆られた。
『あと、お前のアレ、…戦闘状態に入ってんぞ?』
『うるせえ!!!ちょっと黙ってろやこのタコ!!』
明らかにからかってきているゼロにサイトは苛立つ。が、思えば不思議だった。最初に会った時と打って変わって、やけに気軽に話しかけてきている。
「そんな照れないでください。私まで恥ずかしくなっちゃう…あの…こっち向いていいですよ。暗くてよく見えないし」
シエスタに声で我に返り、思わずビクッと身を震わせたサイトだが、おそるおそるシエスタの方を向いた。でも、うまく彼女の姿を見ることができない。いや、そもそも見てはいけないと思った。
「サイトさんの国のお風呂気持ちいいですね」
「そ、そう?気に入ってくれてよかったな…」
あはは…と渇いた笑みを浮かべるサイト。緊張しきっているのが見え見えである。
「そういえば、サイトさんって違う星から来たとか言ってましたよね?」
「あ、うん。そうだよ」
シエスタはからかっているんだろと言っていたし、信じてもらえないだろうけど、とサイトは苦笑いを浮かべた。
「実をいうと、私のひいおじいちゃんも同じことを言ってたんですよ」
「ひいおじいちゃん?」
サイトは首を傾げる。いや、今気になることを言った。同じことを…言っていた?そのひいおじいさんが?
「ええ、かなり遠いところから来たそうで、しかも空から」
「空から?」
「はい。『竜の羽衣』って呼ばれているものでやってきたそうです。今は村に安置されてい
る、村の宝なんです」
「シエスタ、それって…ってうわ!?」
サイトが彼女に尋ねようとした途端、シエスタはサイトの目の前で急に立ち上がった。湯船に隠れていた、見てはならない色々なものを見てしまいそうになったサイトはあわてて目を伏せる。
「ありがとうございます。お風呂気持ち良かったし、素敵でした。でも…」
風呂から上がり、シエスタは服を着終えると顔を赤くしながらサイトの方を向いて、恥ずかしそうにしながらも笑顔で告げた。
「一番素敵なのは…あなたかも」
「へ?」
サイトはそれを聞いて目が点になり、間抜けな声を漏らした。
「お休みなさい」
そう言って、顔を赤くしたままシエスタは走り去っていった。
「…のぼせたかな?」
去っていったシエスタを見て、サイトは自分もまたやけに体が熱くなっているのを感じたので、風呂から上がることにした。
『巨乳見て○○○立ちすぎ』
「うるせえ!!」
またゼロが馴れ馴れしく、そしてなんだか腹の立つ言い方で茶化してきたので、股間を隠したサイトは怒鳴ってゼロを黙らせた。
ちなみに、ルイズの部屋では、サイトの藁の寝床の上でデルフがこんなことをごちていた。
「なんか俺っちの役、ゼロってのにとられがちじゃね…?」
よよよ…とわざとらしくもどこか本気で嘆いていた。




「あの犬、どこをほっつき歩いてるのかしら」
一方で、夜遅くになってもサイトが戻ってこないのを気にしたルイズは、不機嫌そうにサイトを探していた。
全く、人のことを苛立たせるのが本当に得意な使い魔なんだから!最初に会った時は人を悪者みたいに言って説教足れるわ、ゴーレムに潰されそうになったときだって頬をぶつわ、本当にもう!使い魔として自覚あるのかしら!
一度反省したことなのに、あたかもサイトが悪いみたいに心の中でぼやき続けるルイズ。
まあでも、それでも…助けにでもいるのよね…。とルイズは若干頬を染めながらぼやく。でもすぐ、自分の顔が熱くなっていることに気づくと、そんなんじゃないんだから!と一人勝手に喚く。はたから見れば頭の残念な子にしか見られない。夜だから校庭に人がほとんどいないことが救いだ。
ふと、塔の傍らから湯気が妙に立ち上っているのを見つける。気になって彼女はそちらに走っていくと、彼女は見てはならないものを見てしまった。自分の使い魔がメイドと仲良く、鉄鍋の風呂に、もちろんのことだが何も身に着けていない状態で入ってるではないか。しかし、彼女は怒りよりも先に、もっと別の…何か違う感情が流れ込むのを感じた。顔だって、見たくもないものを見て衝撃を受けたもの。
「は、ははは裸で密会とはいい度胸じゃない…」
ブチブチブチ…。顔の血管が膨らみ、破裂しそうになる。さっきのショックを受けたような顔から一転して彼女はこめかみの血管を浮き立たせていた。
っていうか、なぜ自分が使い魔なんかのことでこんなにイライラしなくてはならない。ああもう!腹が立つ!!
朝からずっとこうだ。あの使い魔のことを考えると胸が高鳴るばかりでイライラが募る。一体なんなのだ、この感情は。正直言って訳が分からない。
地団駄を踏み、とても淑女とは思えない力強い足踏みをしながら彼女は部屋に戻って行った。
すると、校庭に設置されたテーブルに、ギーシュとモンモランシーが二人で仲睦まじく語らっていたのを目撃する。なんだか、ルイズはその光景を見ていると無性に腹が立った。なんだかよくわからないけど、男女のああいう姿を見ると無性に爆発を起こしたくなる衝動に駆られた。まさに、リア充爆発しろ!!と。
苛立って喉が乾ききっていた。ルイズはギーシュとモンモランシーの元に近づく。
「おや、ルイズじゃないか。こんな夜更けにいったいどうしたんだね?」
グラスに注がれたワインを揺らしながらギーシュが不思議に思って声をかけてきた。
「なんか妙に不機嫌ね。もしかして、サイトのことかしら?」
モンモランシーも奇妙に思ってそう尋ねる。が、今のルイズにサイトの名前は禁句レベルの単語だった。
「知らないわよ!!ああもう!これもらうわよ!」
「ああルイズ!まだ飲んでない…」
喚くルイズは、ギーシュが持っていたグラスを引っ手繰ると、その中のワインを一気にがぶ飲みしてしまったのだ。自分のワインを取られたギーシュ以上に、それを見たモンモランシーはあああ!!ッと声を上げてしまう。まるでなにか、明かされたくない秘密を暴かれてしまったように声を上げた。
「ごちそうさま!」
乱暴にグラスをテーブルに行くと、ルイズは部屋に戻って行った。
「も、モンモランシー…どうしたんだね?」
「やば…」
早く追いかけよう、モンモランシーはすぐにルイズを追いかけ始め、ギーシュも「待ってくれ!」と彼女を追って行った。
アンリエッタ来訪の前日、一つの騒動が起こる前兆の出来事であった…。




フーケ討伐任務で、サイトがテクターギア・ゼロの姿でシュウの変身したウルトラマンと正面から対峙した時のことだった。
サイトが失踪してからどれほどの時が過ぎただろうか。ハルナの精神は、もう限界に達しようとしていた。サイトが一向に見つからないままかなりの期間が経っていた。GUYSや警察の捜索隊による調査も、証拠が何一つ見つからないために中止となり、平賀才人という少年の死亡が確定となりつつあった。
ハルナはそれでもなおサイトがどこかで生きていると信じ続けていた。ただひたすら毎日、一途に彼女はサイトのことを考えていた。毎日サイトの家を訪ねて彼の義母と話したり、自分とサイトが一度クール星人に誘拐された秋葉原や、星人の宇宙船が破壊された空地に行ってみたり。しかしGUYSらが必死に探しても見つからない相手だ。ましてやたった一人の素人の少女が、手がかりを掴んだところでサイトを見つけるなどとあり得ない話だ。
女子クラスメートたちは、もうサイトのことは忘れて新しい恋に生きるべしと慰めてくれたが、ハルナは自分が思っている以上に一途で意固地だ。自分にサイトのことを諦めると言う選択肢を与えなかった。サイトに会いたい。たとえ何年経とうとも。それがハルナの決意であり覚悟であった。しかし強い意志の一方で、ハルナは精神的にも肉体的にもかなり衰弱し始めていた。この前の授業では倒れてしまったほど、彼女の症状は悪くなっていった。その日、彼女は体調不良を理由に早退することになった。
「…」
無言で、体調を崩した体をずるずると引きずりながらハルナは、病院へと向かう。足の歩きっぷりが様になっていない。とぼとぼとしていて弱々しい。
サイトに会いたい。ただ一途に思い続けるハルナは歩き続ける。
が、この日彼女にある魔の手が忍び寄っていた。
彼女を陰から覗き見る『何か』がいたのだ。それはハルナを建物の影からまっすぐ見つめ、ストーカーのごとく彼女を追っていく。シュコーシュコーと、まるでスキューバのレギュレーターを使った呼吸音のような息遣いをしながら、ハルナに忍び寄っていた。
その気配を、ハルナは背筋で感じ取った。誰かが、自分の背後から覗き見ている。痴漢か?それともストーカー?それとも…まさか、別の何か?
(何…なんなの?)
背筋がこれほど凍りつく思いを感じたのは初めてだった。これはさっき例に挙げた痴漢程度のものじゃない。何か、もっとこう…そう、例えるなら…。



―――中学時代にこの目で見た、ウルトラマンメビウスやGUYSを最も苦しめた凶悪な侵略者『暗黒宇宙大皇帝エンペラ星人』のような、身の毛もよだつどころでは済まされないモノ。



振り向いてはいけないはずだった。でも、ハルナは恐る恐る振り返ろうとする。振り向くことは確かに怖い。でも、湧き上がる興味と、得体の知れない存在への警戒のために後ろを振り返っていく。
『ダメだ!』
え…?誰の声だろう。急に頭の中に、たった今感じた寒気とは真逆のモノを感じる声が聞こえてきた。その声は必死にハルナに向けて呼びかけていく。
『後ろを振り返ってはいけない!!そのまま逃げるんだ!』
逃げる…?そうだ、何をしているんだ自分は。こういう時は何も見ないまま逃げるべし。ハルナはすぐさま走り出した。とにかく走り続けた。何が何でも走り続けた。でも、ハルナは感じていた。自分を追う『それ』が、自分をものすごい速さで追いかけていたことも。
「はあ、はあ、はあ…!!」
何秒、何分、何十分…。どこまで、いつまで走り続けていた。ハルナは息を切らしながら走り続けた。足が疲れ、体力を浪費させ、あまり運動が得意じゃなかった彼女は長く逃げ続けることはできなかった。
気付いたときには、酷い体力切れ状態で膝を着いていた。もう走る気力さえも残っていない。
あれ…?ハルナは首を傾げる。なんで自分は逃げているんだ?なんであの声の言う通りにしているんだろう?
息を切らしながら思うハルナ。顔を上げて立ち上がろうとした時、彼女の目の前にはあるものが目に入った。
もくもくと沸きあがる、赤黒い暗雲が彼女の頭上に湧き上がっていた。
「…!!!」
その暗雲の中に潜む闇は、ハルナの心を恐怖の闇に染め上げる。声にならない悲鳴を漏らしながら、ハルナは尻もちをついたまま後方へ後ずさる。
怖い…怖い…。
「やだ…来ないで!!!」
「!いかん!」
それをちょうど通りかかった、傘を被った壮年の僧が通りかかった。少女の頭上に立ち上っている暗雲。それがどんなに恐ろしいものかを、彼は以前から知っていたかのように理解した。その少女を助けようと彼女の元へ走り出す僧。
だが、彼の手が届く前に、その怪しげな暗雲から不気味な光があふれ出し、ハルナに向かって飛びかかってきた。





きゃああああああああああああああああああああああああああ!!!!





「!」
シュウのもといた次元世界の地球。フォートレスフリーダムの作戦参謀室。そこではイラストレータこと吉良沢優がいつも通り、今後のナイトレイダーたちの作戦のためにディスプレイの映像をじっと見つめていた。しかし、M78 ワールドの地球で、ハルナが謎の暗雲に襲われたとちょうど同じタイミングで、彼は突如顔を上げた。
その目は、恐ろしい何かを見ているようだった。背筋が凍りつくような、恐ろしい感覚だった。
「この感じ、以前にも感じたことがある…」
まさか…!!
いつものような余裕のある笑みを浮かべることができず、優は呆然としていた。

今、ハルケギニアを舞台に、また新たな災厄が訪れようとしていた。
 
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