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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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召喚者-ティファニア-part2/もう一人の地球人

テファの家には、彼女とマチルダに用意されたベッドが計二つ用意されていた。
青年をマチルダが使うベッドに寝かせ、上半身の服を脱がせて汗と血をふき取る。この青年の身に着けている服は、ハルケギニアでは見かけないものだった。腕にはブレスレッドとも思えない何か変なものをくっつけていた。
それにしても思った以上の怪我だった。さっきの衝撃だけではない。それ以前に彼は何かしらのことが原因で怪我を負っていた。やけど、切り傷などが鍛えられた体に生々しく残っている。
「テファ、いくら同年代の男を見たことないからって見とれてんじゃないよね?」
「ち、違うわ!もう!!」
傍から見たら男の裸に興奮する変態女子に見られるかもしれない姿にマチルダが呆れ混じりの茶々を入れると、テファは顔を赤くして抗議した。ともあれ、気を取り直して傷の手当てを続けた。決して女子特有の煩悩があったわけじゃない。ただ、テファはこれまで同年代の男子と関わった経験がなかった。だからこの青年に不安がなかったわけじゃない。でも、彼は怪我人だ。それも自分が使い魔として呼び出した。だったら責任持って彼を手当てする義務がある。せっせと彼女は濡れタオルで彼の体を拭き取り、そして薬草から作った消毒薬を傷口に塗る。後は新品の包帯で傷を巻き上げ、手当は一通り終了した。
「しっかし、まさか人間の…それも若い男を召還するなんて意外だったね」
ベッドに寝かされた、未だに意識の戻らない青年を見ながらマチルダは呟いた。これまでドラゴンを召還する凄腕メイジがいたのを見たことがあるが、人間は初めてのことだった。それもまさか、我が妹分がそれをやってのけた。これはなんの縁だろうか?もしや始祖がテファのために用意した婿候補と?いやいや、確かにテファはエルフであるため、旦那と言える奴をそう簡単に作れる立場じゃないが、それはいくらなんでも余計なお世話というものだ。ともかく、こいつが目を覚ましたらいろいろと尋ねなければならない。素性や名前、一体どこから来たのか、その他もろもろを。まず話を聞かない限りは信用することもままならないのだから。
「…う」
青年の口からうめき声が漏れ出ている。もうすぐ目を覚ますようだ。あ、そう言えば一つ忘れていたことがあった。
「そうだ、まだ使い魔との契約の儀式が終わってなかったろ」
マチルダはまだ、この青年とテファの契約の儀式を澄ませていなかったことに気づく。
「え?契約って?」
まだそのあたりの説明をされていなかったから、テファは何のことかわからず首を傾げる。ただ召喚するだけじゃだめなのだろうか。
「召喚したそいつを自分の使い魔だって証をたてるために、召喚者であるメイジは使い魔に口づけをしないといけないんだ」
「口づけ…………え!!!!!?」
口づけ…それはつまりキスだ。それをこれからする相手は自分が召喚した使い魔。そしてその使い魔は…ほぼ同年代の人間の青年。
意味を理解したテファの顔が耳の先まで真っ赤に染まりあがった。この青年と…会ったばかりのこの男の人と…キス!!!?
「む、無理無理無理無理!!!無理よぉ!!だって私この人と別に恋人でもないのに……」
必死にその細い首を横に振りながらできないと抗議した。
「テファお姉ちゃんチューするのー?」
「ちゅーって、好きな人にするんじゃないの?」
「じゃあ、この人がお姉ちゃんの旦那さんになんのか?」
「わーー!!お姉ちゃん結婚するんだ!!」
「使い魔って、旦那さんのことだったんだーー!」
しかしこれを見ていた子供たちは話を誇張して騒ぎ立て始めた、姉と慕う人物のスピード結婚を祝うことになるのか、と思い込んでいた。子供たちの勝手な言い分にテファはムキになって叫ぶ。
「み、皆まで何を言い出すの!!違うってば!!」
マチルダの次の、それも普段はこの子たちをまとめるためにいる年長者の姿には見えない。赤面しながら断固否定しているテファの姿は、まるで子供のようであった。
「そ、それにこの人は人間よ。私の勝手な都合で呼び出してしまった人なの。だから…」
この人を勝手に使い魔にすることなんて許せるのか?きっとこの人の家族や友人が心配して帰りを待っているのではないか?そう思うと、テファの心に罪悪感が募る。ああ、自分は何て事をしたんだ。これではまるで人さらいではないか。
「ど、どうしようマチルダ姉さん…」
「うーん…」
確かにテファの言い分は間違っていない。そう考えるとマチルダも困ってしまった。でも、もうこの青年を召還してしまったのだ。もうゲートは彼を吐きだした直後に消滅したし、仮にまだ存在していたとしても送りかえることなんてできないのだ。
「こうなっちまったもんは仕方ないよ。責任もってこの子を保護するくらいはしとかないと。契約するかしないかは、テファ、あんたに任せるさ。まぁ…呼び出しておいて気に入らないから放り出してしまえなんて、あたしとしては賛成しかねるけど」
「そ、そんなことしないわ!!」
ジトッと見てくる姉に、テファは両手を振って否定する。
「だったら躊躇ってないでさっさと済ませちまいな。あたしも言いだしっぺだから一緒に責任を請け負うからさ。
そうそう、呪文は『五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我の使い魔となせ』だよ」
「うぅ…はい…」
「まあ、気に病んだって仕方ないし、ここはあえて役得って思ってみるのも手だ。あたしは結構世間を渡って来たけど、キスする相手としてはこの子の顔だち、なかなか悪くないじゃないか」
「男の人となんて滅多に話さないし、そういう問題でもないのに…もぅ…」
もうここまで来たら後には引けない。テファはもじもじしながらも、うめき声をあげる青年に、杖を掲げながら顔を近づける。
「い、五つの力を司るペンタゴン…この者に祝福を与え、我の使い魔となせ…」
額に杖を軽く当て、杖をいったんおろし、彼の両頬を両手で包んで自分の唇を近づけるテファ。心臓がバクバクしていて自分でもうるさく思えるくらいだ。
やわらかく甘い、艶やかな唇が、青年のそれに触れた。
「ん…」
テファの鼓動は爆発直前のエンジンのように止まることを知らない。この鼓動が彼に伝わらないでほしいものだ。しかし、鼓動に気づかれる以前に、唇と唇を重ねた感触が、童話の眠り姫を目覚めさせるかのように、青年の目を覚まさせてしまったのだった。
「!!!!!!!!!???」
目覚めた青年はテファに…別に恋人でも友人でもなく、会ったこともない口づけされているという事態に激しく動揺し、唇同士が触れ合ったままの状態で息を詰まらせた。テファも彼の目覚めに気づき、慌てて唇を放した。
「ごごご…ごめんなさい!これは、その…えっと…深い事情が…」
顔を真っ赤にして、彼にわかるように説明しようにも、申し訳なさと恥ずかしさが完全に彼女の冷静さを奪っていた。対する青年も口元を押さえてテファたちから視線を背け、羞恥のあまり顔が朱色に染まっているが、直後に彼に激痛が襲いかかる。
「…っぐ!!!?…がああ…!!!」
「大丈夫!?」
彼が急に胸を押さえて苦しみだした。テファはもしかしたら傷が痛みだしたのではないかと思ったが、マチルダは落ち着けと彼女の肩を両手でつかんだ。
「使い魔のルーンが刻まれてるんだ。命に別状はないよ」
あまり間を置かないうちに、青年の痛みに耐える悲鳴は収まった。
「はぁ…はぁ…」
胸を押さえながら青年は激しく息を切らした。恐らくルーンを刻み終えたのだろうとマチルダは思った。しかし、ルーンは一体どこに刻まれたのだ?見たところあまり…いや、よく見ると胸に刻まれている。見たこともない文字のようなものが…地球のヨーロッパで使われているルーン文字のようなものが彼の胸に刻みつけられていた。
「どうやら成功したみたいだね」
「あの、大丈…きゃ!!」
テファが彼を心配して手を伸ばしてきたが、突如彼女は腕を引っ張られた。羽織い締めにされた彼女は、同時に激しい警戒心を抱いた目を向け、左手首に装備していた奇妙なアイテムを変形させ、テファの首筋に当てた。
「お姉ちゃん!」
子供たちは急な出来事に驚愕し、青年への恐怖心と警戒心を抱く。
よく見ると、あのアイテムには銃口らしき穴が小さく口を開けている。銃火器系統の武器と見た。マチルダは青年が刃向ってきたという事態に驚きながらも、妹を傷つけられるわけにはいかないと杖を構えた。
「いきなり何をしてんだい!!」
「…それはこちらのセリフだ。俺にいったい何をした…?」
まるで凶暴な獣のような目で、子供たちを含めた全員を睨み付けている。
「この人悪い奴だ!」
「テファお姉ちゃんになにしてるんだ!」
「お姉ちゃんに変なことするな!僕が相手になってやる!」
子供たちはなだれ込むように果敢に立ち向かおうとしたが、「だめだ!」とすぐにマチルダが動かないように言った。下手に動けばテファが危ない。それに気づいて子供たちは辛うじてその場で立ち止まった。
マチルダは青年のとった行動に動揺せざるを得なかった。使い魔は主には忠実な存在。すでにテファと彼は、自分たちの勝手に行ってしまったことだが契約を完了してしまった。だが、この青年は人間だからだろうか。警戒を抱いているためか自分たちに…それもテファに対して明らかに反抗的だった。テファが人質の状態。この距離では詠唱が間に合わないし、迂闊に攻撃はできない。召喚の儀式を勧めた自分がこの事態を招いた。ならば責任もってこの青年をどうにかしなければならないか?我ながら勝手とはいえ、これもテファの安全のためとしたマチルダはどうにかテファを救出できないかと、動かないまま青年の動きを探る。
「ま、待ってみんな!この人はただ、いきなりここに呼び出されて混乱しているだけだから!」
しかしテファは捕まっている身だと言うのに彼に敵意を向けなかった。彼がこんな行動をとったことを恨みもしなかった。そもそもこの青年をこの村に召喚したのは自分だ。怒るべきは自分たちではなくこの人の方。まずは落ち着いて話をするべきと判断した。
「ごめんなさい。でも安心して。私たちは、あなたの敵じゃないわ」
そっと彼の手に触れたテファは青年に落ち着くように言った。
「…………」
青年はテファの目を見る。裏表のない純粋な目。嘘は言っていなかった。青年はテファを放し、腕のアイテムを元の形に戻し、ベッドに腰掛ける。
「あの……私、ティファニアって言います。あなたの名前を教えてもらえるかしら?」
青年と向きあい、落ち着いて彼の話に耳を傾けた。我が妹ながらなかなかどうして冷静なのだろう。これもテファの元来からの純粋すぎる優しさがそうさせたのか。マチルダはテファに対しても内心では驚きの感情を抱く。
「………黒崎、修平」
「クロサキ、シュウヘイ?」
「修平が名前で、黒崎がファミリーネームだ」
変わった名前だ。名前もそうだが、黒い髪と瞳、少なくともアルビオンの人間ではないだろう。


ひとまず、もっと落ち着いて話をする環境を求めて、居間の椅子とテーブルに移った。
テファとマチルダは隣同士、シュウとは向かい合う形で座った。
「…俺から聞きたいことがある」
「え、ええ…」
テファは若干彼のことを怖がっているように見えた。気弱なこともあるし、自分が無理やり彼の地元からここへ召喚したことの責任もあって、彼に逆らえる理由がないのだ。
少しでも始祖が用意した旦那候補なんて馬鹿らしいことを考えた自分は本当に馬鹿だとマチルダは思った。この男、かなり態度が尊大というか、毅然としすぎていると言うか…テファが間違いなく苦手意識を持たされるタイプに見える。今更ながら不安に思えてきた。テファに召喚させておいてなんだが、この青年は本当にテファの使い魔をやってくれるのか?と。
「一つ目に、ここはどこだ?」
「えっと…アルビオン王国のサウスゴータ領にある、ウエストウッド村…です…」
やはり思った通り、テファは彼の敵意にも見えそうな鋭い視線に押されている。すると、青年…シュウはジロッと鋭い視線でテファとマチルダを見つめ返す。
「…二日酔いか?それとも…俺をからかっているのか…?」
「い、いえ!!そんなことありません!」
睨まれた蛙のようにおびえるあまり、テファは必死に首を横に振る。
「おいお前!!」
すると、この村に住む子供たちの中で年長者と見える少年がシュウに果敢に言い放った。
「テファ姉ちゃんを怖がらせるな!!それ以上偉そうな態度をとるなら俺が…「ガキに用はない。俺はそこの女と話しているんだ。黙っていろ」…ぅ…!」
しかし、遮るようにシュウが凄みある気迫を込めた言葉を放ってその少年を黙らせた。
子供にも女にも容赦がない。デリカシーを知らないのか?マチルダは目を細める。
「ふざけているも何も、本当のことさ。ここはアルビオンって国のサウスゴータ領、ウエストウッド村」
「……」
まだ青年は疑わしげにこちらを見ている。何か証拠を見せないと納得しないだろうか…?でもこんな男を納得させられるものとはなんだろうか。
いや、ここはひとまずこの男がどこから来たのかを聞いてみよう。正直どこの国なのか見当もつかない格好をしていたし、あの鉄の塊みたいな乗り物についても聞いておかなくては。姉として、そして使い魔召喚を勧めた身として、こいつが本当にテファの使い魔を務めてくれるのかを見極めなくてはならないのだから。
「じゃあ、今度はこっちが聞くけど…えっと…シュウ…マイ?」
「修平だ」
間違えるなと言いたげに言い返してきたシュウ。この時のシュウはなぜ俺が食い物みたいな名前で呼ばれないといけない?と不快に思っていた。
いけない、相手を不機嫌にさせたか。しかし、変わった名前名だけあってなんだか呼びにくい。
「間違えて悪いね。あのさ、ちょっとばかし呼びにくいから、ばっさり『シュウ』って呼ばせてもらうけど…構わないかい?」
「好きにしてくれ」
不躾な願いを、意外にも聞いてくれたようだ。寧ろいらないあだ名で呼ばれるのを嫌がりそうなキャラをしているのに。いや、気にするところがズレてきている。この男について聞かなくては。
「じゃあ改めてシュウ、あんたはどこの国から来たんだ?」
「…日本の東京、新宿」
は?それを聞いたときの、テファとマチルダは耳を疑う。なんだ、こいつこそ二日酔いじゃないのかと思わされた。それともさっきの鉄の乗り物から転げ落ちた際に頭を強く打ったのか?でも、こいつはどう見ても酔ってもいないし、頭を打って頭がおかしくなっているようなそぶりもない。いや、待てよ。マチルダは青年の左手首に装備されたものに目を向けた。銃器のつもりでテファに向けてきたが、あの鉄の乗り物もこの男の服装もそうだが、あんな銃はハルケギニアでは絶対に見ないモノだ。
「…次の質問をする。俺はどうしてここにいる?」
今度はこの村にいる訳をシュウは尋ねてきた。どうしようか。まだこの男は自分たちを疑っているように見える。
「えっと…こいつは真面目に言ってるんだから聞いとくれよ。そいつは、テファがあんたを、使い魔としてサモン・サーヴァントって魔法で召喚したからさ。この村の生活の手伝いをしてほしくてね」
「…使い魔?…それに魔法だと?」
お?何か反応がある、と思ったらシュウはこう吐き捨ててきた。
「そんな非科学的なものがあるというのか?」
「ヒガガク…的?」
意味が分からない言葉を使ってきたが、どうもまだ信用していないらしい。
「えっと…マチルダ姉さんは優秀なメイジなんです。私に使い魔召喚の魔法を教えて、早速使ってみたんです。そうしたら…あなたが現れて…」
テファも説明を入れてみるが、やはりシュウは納得しているように見えない。というか、どうも彼は魔法というものを信用していないように見受けられる。さっき、まるで魔法そのものを知らないような言い方をしていたのだ。何かあるのだろうか。
「あんた、魔法を知らないのか?」
「魔法なんて、空想の産物でしかないはずだ」
試しに聞いてみたのだが、まさか本当に魔法を知らない…というか、現実にはないものと彼は言いきった。なぜだ?マチルダは疑問ばかり浮かぶ。ハルケギニアにも遠い地にも魔法という存在は誰でも知っていることのはずなのに、一体どこから来たんだ?それとも単に世間知らずなだけなのか。
と、ここでシュウは左手首のアイテムに目を向け、席を立ちあがると、それをピッピッと指先で押し始めた。
「あの…何か…?」
やはり自分たちに対して怒っているのか?テファはおびえながらもシュウに問う。が、シュウは聞いていなかった。
「お、おい!勝手に出ていくなよ!まだ話は終わってないんだから!」
マチルダは、シュウが付き合ってられないとばかりにここを出て行こうとしていると疑ったが、シュウは小屋から庭に出たところで立ち止まった。この時のシュウは最初にこうするべきだったな、と心の中でぼやいていた。小屋の入り口に出たところで彼は何かをつぶやき始めた。
「こちら黒崎。隊長、聞こえますか?」
しかし、アイテムからはザザザ…と奇妙な音しか聞こえてこなかった。テファたちは読めなかったが、漢字で『圏外』と画面に表示されていた。それからシュウはため息交じりに頭上の夜空を見上げると、一瞬だけ動きが止まった。
「月が…二つ…?」
マチルダとテファは、そして子供たちは確かにそう聞いた。月が二つあることも知らないのか?すると、
「…嘘は言っていないようだな」
「やっと信じてくれる気になったのかい?」
「一つだけのはずの月が二つある。信じるしかない」
やはりこの男。子供でも知っているはずなのに月が二つあることも知らなかったようだ。何かがおかしい。妙なアイテムを持っているし、何者なのだろうか?シュウは再び小屋の中に戻り、自分の席に座る。
目の前の青年が、月が二つあることを知らない、それについて奇妙に思うウエストウッド村の住人達。マチルダが率先し新たな質問をし、シュウはそれに答えていく。
日本とは彼が住んでいた国の名前で、東京はその首都だという。そもそも彼のいた世界はハルケギニアなんて名前ではなく、チキュウという名前で、生まれはアメリカという名前の国だとも語った。子供たちやテファはもちろんだが、マチルダでも知らない地名だった。
「マチルダ姉さんでも知らないんだ…」
マチルダは各地を回った経験があるから、かなりの土地勘があるとテファも知っている。そんな彼女でさえも知らない場所だという。
「じゃあ、仕事は何を?」
「…ナイトレイダー」
テファからの質問に、またわからない単語で返してきた。簡潔にまとめると、彼は軍属関係の仕事についていて、それも直接戦場に出て戦うことを生業としていたと語った。その組織名が『ティルト』と呼ばれる、つい最近までは存在を隠していた元極秘の組織で、現在はその存在が世間に公表されたことも話した。月が二つあることを知ったためか、彼はマチルダとテファも、子供たちもそのことを知らなかったことについて、もう驚くことはなかった。
「あんたの国も戦争しているんだね。相手は化け物みたいだけど」
このアルビオンも、最近レコンキスタとかいうはた迷惑な反乱軍が起こっていることをマチルダは知っている。どこの国でも人間同士、それも国のお偉いさんの勝手な都合で、今この村にいる子供たちのような、つらい経験に巻き込まれる子もきっといるだろうと思うとやるせなかった。
そして彼がティルトという組織のことを、そして彼の所属するナイトレイダーというグループのことを語る以上、『ウルトラマン』と呼ばれる巨人と『スペースビースト』のことは決して避けられなかった。
「でも、やはり聞いたことないねえ…その、銀色の巨人と一緒にあんたのような軍人が、デカい化け物が戦うなんて話、普通なら世間に知れ渡ってるはずなのにね」
そもそも、にわかに信じられないことだ。シュウの語ることすべてのなかで、特にウルトラマンという巨人がらみの話については。
「やはり、知らないのか…月が二つという時点で、知っていたら逆におかしいとは思っていたが。ところで、俺は帰れるのか?」
それを聞いて、ティファニアは本当に申し訳なさそうに頭を垂れる。
「ごめんなさい。それは、無理なの……」
「何?」
「召喚の儀を行えるのは一人のメイジ…ああメイジってのはね、魔法を使う奴のことだよ。そいつ一人につき、一体の使い魔と相場が決まっているのさ。だが、もし使い魔が死ぬようなことがあれば、メイジは使い魔を再度召喚することができるんだよ。もっとも、その逆はないけどね」
「…では、さっきの口づけでつけられたこの胸のしるしは一生残るのか。そして俺は…二度と地球へ帰れないと?」
シュウはふと、自分の胸に刻まれた使い魔のルーンを見る。撫でるように消してみようとしても、こすっても全然消える気配がない。ただの刺青でもない。本当に魔法なのだと、彼はこのとき実感したのかもしれない。
「…ごめんなさい。本当に、私なんて謝ったらいいのか…」
テファは申し訳ない気持ちでいっぱいになり、澄んだ海のように蒼い瞳がうっすらと涙で滲み歪んでいく。
「ああ!テファ姉ちゃんを泣かしたな!」
少年の一人が指を指してきた。
「いけないんだ!!いけないんだ!!」
「皆止めて!全部私が悪いんだから」
ここでテファが、暴走しがちな子供たちに、子供を叱る母親のようにぴしゃりとしかりつけると、子供たちは渋々ながらも手を引いた。
「本当に、勝手にこんな場所に呼び出してごめんなさい。でも安心して。これからあなたに満足できるご飯だって用意するし、寝る場所もキチンと確保するわ」
「……」
彼はテファたちから視線を外し、腕を組んで考え込む。やはり、こんな自分の使い魔になんかなってくれるはずもない。きっとここから出ていくのだろう。自分にそれを引き留める権利はない。テファはきっと青年が自分を故郷から無理やり引き離したことを恨んでいるだろうと思い、気を落としていく。
「……………わかった。ここで暮らす」
少しの間の沈黙を経て、シュウはそう言った。
「え!?」
意外な返答だった。テファは驚いてシュウを再び見る。使い魔をやってくれると言うのか?
「どうせ俺は帰れないのだろう?そしてあんたは俺にここで暮らせと言っている。なら、俺の寝床へ案内してくれ。村から追い出すタイミングもそっちの好きにしてくれ」
「お、追い出すなんて!そんなことしません!」
二人の会話を聞いていたマチルダも、意外だと思っていた。あれだけ反抗的というか、こちらを鋭い目でにらんできた相手がこうもあっさり引き受けてくれるとは。でも、これでひとまず安心と言ったところ。こいつは戦うことを仕事としていたと言う話が本当なら、テファや子供たちの護衛も勤まるはず。しかし、まだ彼のことを知り尽くしたわけじゃない。まだ信頼できるに値すると決めるのは早計だ。子供たちも、シュウに対する警戒を抱いたまま、隠れながら彼を見る子や敵意を向ける子もいる。逆に厄介ごとを増やしただけにならなければいいが…。
「あんたはそれでいいのかい?」
父や母、兄弟。そういった帰りを待っている家族がいるのでは?そう尋ねたマチルダだが、シュウは彼女たちにこう言い捨ててきた。
「泣き言を言えば俺は帰れるのか?それに………俺に家族はいない」
そう告げた彼は、鉄の乗り物―――後にバイクと言う名前だと聞いた―――に積んであったいくつかの風変わりな荷物を持って、自分の寝床へとテファに案内されていった。
(…こいつもまた、孤児のようだね)
マチルダは、妹分に案内される彼の、どこか強い孤独感のある後ろ姿を見てそう思った。
月が一つしか存在せず、怪物と戦う組織にいたと語る青年。それも自分に家族がいないと、はっきり言い切った。
シュウはこうしてウエストウッド村に迎え入れられたのだった。

信じる信じないかは別において、シュウの話には信憑性は存在していた。彼が所持していた武器や服、私物は全部ハルケギニアでは見かけないものしかなかった。これらを売ったらこの子たちの生活の何か月分の金が手に入るだろう…とマチルダは自分の盗賊としての癖のあまりそんなことを考えていた。そして村で三日ほど過ごしている間の彼を遠くから観察して、彼が言っていた言葉は演技ではなかったことも悟った。
彼は掃除・薪割り・洗濯も何も文句を言わずにこなしてはいた。一人暮らしの経験があったためか、ある程度はできるそうだ。それについて問題は何もなかったのだが…。
少なくとも再び自分が出稼ぎ…もとい盗賊稼業へ出かける中、彼はあまり村の人間たちとは馴染もうともしていなかった。軍人気質だからか迂闊に他者へ心を許さないことを心掛けた結果が、子供たちからの反感を買っていたのだ。何せその気質が、テファを怖がらせていたのだから。いかにある程度のことができるにしても、他者と触れ合おうとしない。これはこれで問題だった。
そして同時に、テファもシュウの態度に怖がる以前の問題を抱えているために、シュウとあまり打ち解けることができないでいた。理由はある。それは彼女がハルケギニアにおいて恐れられている種族『エルフ』の血を引いている身だからだ。それも純潔のエルフではなく、今は亡きメイジで人間の父とエルフの母を持つ『ハーフエルフ』なのだ。シュウはそのことに触れてきていない。ハルケギニアでは恐れられているが、彼の地元にエルフは存在していない。逆にいないはずの存在がいると言う事実が彼を警戒させ、触れようともしないでいるのではと思った。
それでもやはりこれではいけないと思い、彼女はシュウに何か話をしてみることにした。タンクトップ姿で薪割りをしていたシュウに、声をかけるテファ。
「あの…シュウ…?」
「…なんだ?」
斧を置いてシュウはテファをじっと見てくる。高圧的な空気を漂わせるから、どうも話しかけ辛い。でもテファは彼と話す必要があると思うし、なぜ彼が他人を避けるのか、いつまでかはわからないが共に暮らしている以上その理由を知り、解決する必要もあると思った。
「えっと…できれば、子供たちとも仲良くしてほしいんだけど…」
「………」
黙り込むシュウ。不愉快にさせてしまったか!?不安に思ったが、何とか踏みとどまる。
「あの…やっぱり、私が怖い?」
「………?」
なぜと言わんばかりに彼は首を傾げてきた。怖いわけじゃないのか?
「だって、私ハーフエルフだし、エルフってハルケギニアの人たちから怖がられてるから…だから…」
「お前がエルフだから、俺が恐れていると?」
「え、ええ…」
「そんなことに興味はない」
きついものの言い方だったが、これはこれで意外な答えが返ってきた。シュウはテファがエルフであると言うことに疑問を抱こうともしていなかったのである。
「話は終わりか?まだ薪割りは終わっていない」
「ご、ごめんなさい…邪魔しちゃって」
「気にしていない」
結局会話はそこで途切れてしまった。少なくともエルフを怖がっていないことは嬉しいし理解できたが、彼と馴染めた感じが全くない。テファはかえって困ってしまうことになった。
さっきも挙げたが、シュウは子供たちとはテファ以上に馴染めない傾向にあった。性格上、子供と触れ合うことが嫌なのかもしれないが、テファと同様彼らとも同じ屋根…もとい村で暮らすことになったのだから打ち解けた方がいいのだが…。
ある朝の朝食前のことだった。この村の朝は結構早いが、シュウは難なく起きていた。子供たちは眠そうに目をこすっている子や、そんなことたちに「起きろ」と年上らしく言ってくれる子もいる。パンの香ばしい匂いが漂う厨房で、テファはすでに調理に当たっていた。
「あ、…早かった、ね。えっと…おはよう」
ふと後ろを振り返り、子供たちだけでなくシュウも起きていたことを知ったテファはぎこちなく朝の挨拶をする。すると、まだ6・7歳程度の幼い少女がシュウの姿を見るとテファの陰に隠れるようにすり寄った。
「お姉ちゃん…」
「えっと…シュウ。この子はエマって言うの。ほら、あいさつ」
「…えっと…エマ…です」
少しでも仲良くしてほしいと願うテファはエマと呼んだその少女に自己紹介を促す。シュウへの恐怖と、そして恥ずかしがりな性格があって声が小さい。
「……」
シュウはよく聞き取れなかったのか無反応。エマは限界に来たのか再びテファの後ろに隠れた。
元気のいい男の子が「テファ姉ちゃんおはよう!」とちゃんと朝の挨拶をする。すると、今度はマチルダも起きてシュウたちのいる居間にやってきた。
「おう、テファ。今日の朝飯もうまそうだね」
「もうすぐできるからね。先に座ってて待ってて」
テファが皆にそう言うと、子供たちとマチルダは庭のテーブルの席に座ってテファの手料理を待つ。シュウも後に続いて適当に空いていた席に座った。
「マチルダ姉ちゃん、なんでこいつまでいるんだよ!」
すると、一人の栗色の髪の少年が、シュウがいることに納得できないと抗議してきた。
「ジャック、そういうもんじゃないよ。この子はあたしのせいでここにいるようなもんだからさ。こいつが悪いみたいな言い方はよしな」
なだめようとそう言ったマチルダだが、そのジャックという少年だけじゃない。テファの次の年長者の少年…この子供たちのリーダーといえる、12・3歳ほどの橙色の髪の少年も同意見だった。
「いくらテファ姉ちゃんが召喚したからって…こいつが来てからこの村の空気が重くなってる。反省もしてないし、いっそ村から…」
「はいはいサム。滅多なことは言わないの」
これ以上言ったらいくらシュウでも不快に思うだろう、マチルダはそう思ってそれ以上言わないように注意し、サムは渋々ながらも黙った。
テファが朝の料理を持ってきたところで早速朝食となった。しかし、シュウというイレギュラーな存在が影響して、空気はあまり軽いものではなかった。飯を食っている中、二名の男の子たちはシュウを睨み、女の子たちと残りの気弱そうな男の子はシュウを怖がっていた。そんな子供たちの態度に、シュウは全く意に返すそぶりも見せなかった。ただ黙々とテファの作ったパンをむさぼっていた。
食後に、まだ子供たちの名前を聞いていなかったようなので自己紹介をテファからの勧めで行われた。サムとジャック、次に赤い髪で男の子の中で一番幼い少年がジム、亜麻色の髪の女の子がサマンサといった。エマも改めて自己紹介してくれた
マチルダはあちゃ…と額に手を当てていた。一応あの二人は主人と使い魔という関係にある。使い魔はメイジとは深い絆で結ばれているのが当たり前。でも、あの二人に絆と言えるものがあるだろうか?なんだか先が思いやられる思いで彼女は、食器を片づけるシュウに近づいて一言物申すことにした。
「あのさ、シュウ」
「…なんだ?」
「あの子は血縁上あまり友達を作れないし、そのくせ人見知りが激しい箱入りんだよ。それにここの子供たちは、戦争とか盗賊で家族を亡くしちゃったから辛い経験もしてきて、あまり知らない奴に心を開きにくくてね。だからこそ、気軽に話をするくらいの仲にはなってくれたら助かるんだけどね…」
「…………考えておこう」
ただ無表情にそう言い返したシュウ。初めて会ってから一度も彼は笑みを見せるどころか表情一つ変えない。まるで仮面のようなポーカーフェイスをぶっ通し続けていた。考えておこうじゃなくて、わかりましたって言ってくれよ…とついぼやいてしまったマチルダだった。




時を戻して現在。
「結局、あいつが無愛想で何を考えているかよくわからないってことだねぇ…」
元軍人+無愛想+無関心+クールな奴。確かに色々とつかみにくい奴だ。自分がこの村から出稼ぎで出るまで、結局彼は村の子たちと馴染まないままだった。この村に戻ってからはまだ様子を見ていないが、あんな調子でこの先やっていけるのだろうか。どうしたものかと悩むマチルダ。テファに召喚を勧めた責任があるから、シュウへの扱いをないがしろにするわけにはいかない。
「腹の奥底で何か悪いこと企んでなきゃいいけどな…」
故郷から無理やりこんな田舎へ呼び出されたというのに、シュウは自分たちに何一つそのことについて恨み節を言ってこないことは不思議だ。いや、口には出さないままで実際は心の奥底でどす黒い感情を湧き上がらせようとしているのでは?
しかし、それを聞いていたテファが首を横に振ってそれを否定してきた。
「ううん、そんなことないわ、マチルダ姉さん。シュウは、ああ見えてとても優しいひとなの」
「え…!?」
まさか妹分からこんな言葉を聞くとは思いもしなかった。なにせテファはシュウに引け目やら恐怖やらも感じて、彼に勇気を出して喋ろうとしても話が全く持って続かないほど馴染み切れていなかったというのに。
「ほら、あれ」
テファがふと、庭の草原の上で笑みを見せあっているサマンサとエマの二人が手に、何か膨らみきった色の物体を持っている。なんだあれは?マチルダは目を細める。
「あれは、細長く作られた風船を膨らまして、適当にねじって作った動物なの。シュウは『ペンシルバルーン』って呼んでいたわ。故郷から偶然持ってきていたものを、あの子たちのために作ってくれたの」
「あいつが…かい…!?」
ペンシルバルーン、というものがなんなのかはわからないが、確かにサマンサたちの持っている細長い風船をねじって適当な形にしたものは、犬やウサギのような形をしている。だがそれ以上に意外なのは、あの他人に対して冷たい印象しか抱かせないような男が子供たちのために貴重な私物を使ったと言うこと。自分が一度村を離れている間に何かあったのだろうか?
「姉さんが戻ってくる先週のことなんだけど…」
テファの口から、どうして彼のことを優しいなどという言葉が出たのか…その理由が明かされた。
 
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