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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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魔人‐ファウスト‐part1/災いを呼ぶ少女

ウエストウッド村。
盗賊に誘拐されたティファニアを、シュウが救出して以来、村の子供たちのシュウへの反応は変わりつつあった。エマは未だシュウの無言のオーラに緊張しながらも、初めて彼を見た時と比べて積極的に話しかけるようになった。彼女から筆頭してシュウのことを『シュウ兄』と呼ぶようになり、それが少しずつ村の子供たちからの彼への呼称となっていった。
「シュウ兄、何かお話して?」
「…話?」
もしかして、何か童話でも聞かせたらいいのか?シュウは基本的に少々無口で言いたいこと以外はあまり口に出さない。子供たちが喜ぶような話をしたことなどほとんどなかった。参ったな…と彼は悩む。地球にいた頃、憐が迷子センターの子供に昔話を聞かせて元気づけようとした姿は幾度か見たことがある。が…自分があいつほど人懐こい性格じゃないからうまく伝えられるか考え物だ。
「……」
「えっと…」
やっぱり無理だったのかな…と不安になるエマ。彼はアルビオン人じゃないから、きっと自分たちの知らない話をいくつも持っていると思っていたが、よくよく考えたら彼はあまりしゃべりたがる性格じゃないのを忘れていた。やっぱり無理をさせたかと思うと、シュウが口を開いてきた。
「…何の話を聞かせればいい?」
してほしい話の話題を尋ねてきたのだ。断るのも悪いとでも思ったのだろうか。
それを振られたエマは戸惑い、自分が具体的にどんな話を求めたか明確にしていないことに気づく。
「んっと…えっと…じゃあ、シュウ兄が知ってる昔話!」
「俺が知ってる昔話?」
結局本当に童話とかそのあたりの話だったようだ。自分が知ってる昔話…。シュウはあまり童話とかを読んだ経験がないからよく覚えていない。
「……」
シュウを腕を組んで、考え込む。我ながら不思議なものだと思っていた。子供は正直苦手なタチの自分が、子供のために話をしてあげるというシチュが増えたのは。
(憐の影響か…?いや…)
だとしても、俺に本来こんな時間を与えられるのは許されることじゃないはずだ。それなのに…地球だろうがどこだろうが、こんな平凡な日々に甘んじてる自分がいる。
情けないな…俺にはもう……。
(幸せを掴む権利なんて、ないのにな…)
「シュウ兄?」
「…なんだ?」
気付くと、エマがシュウの顔を覗き込んでいた。
「お顔、ちょっと怖かった…」
…顔に出ていたのか?結構ポーカーフェイスとか言われていたが、なぜか自分は無表情以外で浮かべる顔は不機嫌な顔だけ。遊園地でバイトをする以上そんなことではいけません!と憐から指摘されたのを思い出した。
「えっと…無理…かな?」
「いや、待て。そうだな…」
話を振って来たならちゃんと言わせてほしい。腕を組んで悩むと、パッと浮かんだのはたった一つ。
(…桃太郎とかそのあたりしかないな。覚えているのは。憐たちにもう少し聞いとけばよかったか?)
いや、後悔しても現実は変わらない。ちゃんと話でも聞かせよう。
「昔の友達から聞いた話でもしよう」
「うん!」
洗濯物を干しながら、そんな二人を遠くから見ていたテファは、温かい目で二人を見ていた。エマはまるで、シュウを兄と呼んでなつき始めている。シュウも、乗り気じゃなさそうでちゃんと相手によってうまく対応しようと考えてくれている。
でもテファ自身、時々考える。彼はここにいてはならない、故郷にいなくてはならない。召喚した身でありながら、我ながら無責任なことを考えてしまうのだ。彼の故郷にはきっと友人がいる、家族がいる。きっとみんなが彼のことを心配している。二度と帰れないと言っても過言じゃない身の彼を、村になじみ始めた彼をこの村から…。
「テファ姉ちゃん」
テファはふと、後ろから声をかけられた。シュウに対して反抗的な態度をとっていたサムだった。
「あいつ、エマと何をしてるんだ?」
「お話を聞かせてるんだって」
「…話…ねえ」
サムは、まだシュウの存在について懐疑的だった。
「まだ、シュウのこと信じてあげられない?」
「…確かにあいつは、姉ちゃんを助けてくれた。でも…」
テファは俯いてどこか悔しげに呟くサムを、優しく撫でた。この子は戦災孤児だ。どんな過去があったかは厳密にはわからないが、目の前で親を亡くしたり酷い裏切りに合ったりなど、人間不信に陥るくらいの、世界の裏を垣間見たような出来事があったに違いない。
だから疑った。シュウが実は、テファを浚ったあの盗賊たちとグルではないのかと。でも、予想は外れて彼はテファを連れ帰ってきた。大事な家族を取り戻してくれたこちには感謝している。でも、同時に悔しくもあった。自分が何もできなかったのに、平民が勝てっこないと常識として伝わっているメイジを一人であっさりと打ち倒した。はてはどことなく出現した怪物に対しても物怖じすることなく、テファを先に危機的状況から脱出させたという事実を聞いて、自分がなんて無力なのだと思い知らされた。早い話、嫉妬の感情をサムはシュウに対して強く抱いていた。自分にも、彼のような力と精神があれば、テファ姉ちゃんを守ってあげられたのに…。
「大丈夫。シュウは、あなたの力にもなってくれるはずよ」
彼女はサムをそう言ってなだめた。
テファは信じた。シュウは、決して悪い人などではないと。そうでなければ、あの時自分を助けに来てくれるはずがないと。
でも、まだだ。まだ自分と彼は、お友達と堂々と言えるような関係とは言いにくかった。
彼は故郷からここへ呼び出した自分を恨んではいないといは言っていた。でも、故郷にいる友人や家族のことは気になっているはずだ。それなのに、彼は一言も「帰りたい」とは言わなかった。なぜ、一言でもそういったことを言わないのか。彼から恨まれても仕方ない自分をどうして助けてくれたのか、その明確な理由がいまだ不透明だ。
シュウは確かに悪い人間じゃない。でも子供たちの面倒を見てきたことで、ある程度の相手の行動の意味を読めるようなったおかげか、彼は他者とは一定以上の関係になるのを拒んでいるように見えた。一見エマとの会話も、彼女と仲良くしようとしていると言うより、うまく乗ってあげなかったがめにエマを泣かせてしまうと言う後の厄介ごとを適当に払うためにしているようにも見える。
自分に降りかかってきた運命を、たとえどんなに悲しいことだとしてもありのまま受け入れようとしているようだ。
子供たちを育てて母性本能と言う者が強くなったからだろうか。放っておくことができなかった。テファは、彼のことをもっと知りたいと思うようになった。



M78星雲、光の国。
その世界は、地球人から見れば見るだけで感動を催す光景が星全体に広がっていた。一点の闇さえもないほどの光輝いた都市の、人間の作るビルなんて比べ物にならない巨大な建物の群れは鏡のように反射している。
建物の根本の道には、数多くのM78星雲人たちが地球人たちと同様に、友人同士で喋りあったり、自分たちの腕の中にいる赤ん坊を抱きしめる夫婦がいたり、道上を走りながらはしゃぐ子供たちと様々だった。
この街は『クリスタルタウン』。歴代のウルトラ戦士たちの所属する宇宙警備隊の本部もこの街に存在している。
すると、その本部に向かって飛来する二人の戦士がいた。
一人は、M78星雲人の中で最初に地球に訪れたとされ、科学特捜隊の『ハヤタ・シン』と同化し地球を守ったウルトラ兄弟のNo.2『初代ウルトラマン』。もう一人は、その次に地球を訪れ、『モロボシ・ダン』としてウルトラ警備隊に参加した元恒点観測員340号にしてウルトラ兄弟No.3『ウルトラセブン』。
赤色の豪勢で立派なマント『ウルトラマント』を靡かせ空を飛行しながら、彼ら二人は宇宙警備隊本部へ降り立った。
「大丈夫かハヤタ、それにセブンよ」
彼らを出迎えてきたのは、宇宙警備隊の隊長にしてウルトラ兄弟No.1『ゾフィー』。長く地球に留まった経験はないが、幾度か地球を訪れ、他の兄弟たちと共に守ったウルトラ戦士だ。
ウルトラマンはもともと地球人の言う名前と言う概念はなかったのだが、セブンが地球を守りその任を果たして以降から、個別の名前を持つM78星雲人たちが広がり始めていた。
初代ウルトラマンもまたそれに因んで、自分がかつて同化していた男、またはその当時の名残で再び地球に訪れたときには彼の姿を借りたこともあって、ハヤタの名前で呼ばれることが多くなっていた。
「しばらく連絡が取れなくなったから心配しました」
そう言ってきたのは、凶悪な侵略者『異次元人ヤプール』と戦ったウルトラ兄弟の5番目の戦士『ウルトラマンエース』。ウルトラ兄弟の中で最も多くの光線技を保有し『技のエース』とも呼ばれている。現在の彼は、防衛チーム『TAC』に所属していた地球人『北斗星司』と完全に一体化しているため、彼の意識は地球人北斗星司でもありウルトラマンエースでもあると言う特殊な存在にもなった。
「まさか、『奴』自ら直接干渉があったとは。お蔭でしばらく石像になってしまった」
済まないと初代ウルトラマンは頭を下げた。
「私も、メビウスたちが破壊したはずのあの鎧を封じるのに手いっぱいだった。ある若者のおかげで、こうして戻ってくることができたのだが」
セブンも自身の無力さを嘆くように拳を握った。
「でも、無事で本当によかったです。ハヤタ兄さん、セブン兄さん」
次に現れたのは、若々しさを放つウルトラマンだった。
サイトが中学生だった頃、26年ぶりにウルトラマンの存在をその身で地球人全てに認知させた、ウルトラ兄弟のNo.10の若きルーキー『ウルトラマンメビウス』である。地球人の新生CREW GUYSの隊員『ヒビノ・ミライ』として行動する際、ウルトラマンで初めて防衛軍の仲間や世間にその正体を知られてなお、愛する仲間と地球人のために最後まで戦い抜いた戦士でもある。
ふと、セブンが兄弟たちに尋ねてきた。
「ところで、ゼロはどうしている?」
ゼロとは、間違いなくハルケギニアで戦っている若き戦士『テクターギア・ゼロ』のことだ。
「それが、レオとアストラの報告だと、二人がK76星に二人を狙ってやってきた星人と戦っている間に、隙を見て逃げ出したと」
「何!?」
エースが言いにくそうにしながらも報告すると、初代ウルトラマンは耳を疑った。
「K76星から一体どこへ?」
セブンがもう一度訪ねると、今度はゾフィーがその問いに答えた。
「アストラの報告だと、地球に向かってからの痕跡が途絶えてしまったとのことだ」
「まだ彼は、正義を持たない力の危険性を理解していません。早く見つけ、連れ戻さなくては」
メビウスもゼロ、そして彼の身を案じるセブンを心配してそう言った。
「まだ奴は、レオに預けている身。すべての修行が終わらない限り、ウルトラ戦士としてもう一度戦う資格を与えてはならないのだ」
セブンもまた、遠くの空を見上げながら、どこかで生きているであろうゼロを思う。
「ゼロ、お前はまだ学ばなければならないのだ。真の強さとは、見かけの力などではない。もっと根源的で、どのような存在においても大切なものから起こるものでなければならないのだ」



一方でそのゼロはというと…。
「行っちゃやだやだ!!」
「『…なんじゃこりゃ』」
ルイズは高貴車でわがままで、頭に血が上りやすい短気な性格で、それ故にせっかくの頭の良さを台無しにしている、でもどこか素直じゃない優しさを持ってもいる、いわゆるツンデレ属性の女の子…のはず。
なのに、なんだろう…本当に…なんじゃこりゃ。
がっしりと泣きじゃくりながらサイトに抱きついている。ツンなんか欠片もない、ただのデレデレ娘に変貌しているではないか。

こうなったのには理由がある。それは昨日のことだ。シエスタと二人きりで入浴すると言う、思春期少年にとってあまりにも刺激的すぎる入浴タイムを満喫したサイトだったが、部屋に戻ってどういうわけか不機嫌そうなルイズと喋っていると、発熱したかのようにルイズの顔が赤く染まりあがったのだ。一体どうしたんだと思ってサイトが心配になると、急にルイズは子供のように鳴き出し、サイトの胸に飛び込んできたのである。
「サイトのバカバカ!!私の方がサイトのこと好きなのに、あのメイドの子と一緒に入るなんて~!!」
え?何!?どうしちゃったんでやがんすかうちのご主人様は!っていうかシエスタとの風呂ばれてた!?
訳が分からず、ただルイズからの熱い抱擁を受けるがままのサイトは固まってしまう。すると、そこへモンモランシーと彼女を追ってきたギーシュがサイトたちがいるルイズの部屋へとやってきたのであった。
「ほ、惚れ薬!?」
モンモランシーから話を聞いたサイトは声を上げた。
「し!声が大き過ぎるわよ!」
モンモランシーはしーっと人差し指で声を出さないようにサイトに言う。惚れ薬、間違いなく言葉通りの効果を服用者にもたらす薬だ。でなければあのツンツンルイズがあんなにデレデレキャラになるわけがない。
「なんでルイズがそんなもんを飲んだんだよ?もしかして飲ませたのか?」
「違うわよ!あの子が勝手に飲んだのよ!」
「勝手に飲んだ?ま、まさかモンモランシー…君があの時くれたグラスの中に…」
ギーシュはさっきまでのモンモランシーとの二人きりの時間の際、彼女から二つの内片方のグラスを与えられたのを思い出す。「あ!裸の美女が空飛んでる!」なんてくだらない嘘に引っかかっている間に、彼女が惚れ薬をギーシュのグラスに仕込んでいたのだ。
すると、モンモランシーは人差し指を突き出してその指先をギーシュの花に押し当てる。
「仕方ないでしょ!あなたが悪いのよ!どうしてもよりを戻したいってあなたがかわいそうだったから仕方なく!もう一度付き合ってあげてるのに、言った傍からまた他の女の子たちと仲良くしてばっかいるんだから!」
乙女の悩みとギーシュの浮気性が絡んでいるのはわかったが、ただの逆切れであることに変わりない。
だが、それは言い換えればそれほどギーシュを思う気持ちの表れとも言えた。それを察知したギーシュが熱のこもった視線をモンモランシーに向ける。
「そんなに僕のことを…なんといじらしいんだ!」
「ふん、別にあなたじゃなくてもいいのよ。付き合ってあげてるのもただの暇つぶし。でも、ただ私は浮気がされるのが嫌なだけ」
ギーシュの視線から目を背けて頬を染め、高慢なセリフを言って見せてはいるが、内に秘めた感情を全く持って隠しきれていない。
「浮気なんて…僕は君のための永久の奉仕者なんだよ」
ギーシュはサイトと、サイトにデレデレとした笑みを浮かべたままべったりとくっつくルイズの前だと言うのにモンモランシーを抱き寄せ、彼女の唇に口づけしようとする。モンモランシーもまんざらでもなく目を閉ざそうとしたが、サイトが二人の間に割って入った。
「仲がいいのは結構だけどさ、後にしてくれ」
「君は野暮だな」
やれやれとギーシュはため息を漏らす。
「とにかくモンモン。早くルイズを元に戻してくれ」
「モンモランシーよ!それと薬の効果だけど、そのうち治るわよ」
「そのうちっていつだよ?」
目を細めるサイトにモンモランシーは首を傾げながら答える。
「個人差があるから…そうねえ…一日だけかもしれないし、一か月か一年後か…」
「ちょっと待て。それって、下手をしたら最悪一生このままってことか?」
それを聞くと、さすがにギーシュも青くなってしまった。さすがにここまで一途すぎる愛は危険な意味でたまらないらしい。
「で、でもよかったじゃない。この子あなたに対して結構暴力的だったのに、大人しくなってくれたんだし」
確かに怒りんぼじゃなくなったのはいいことかもしれないが、これはこれで冗談じゃない。これだけべったりしてくるのだ。ほんの少しでも離そうとすると四六時中ずっと一緒じゃないとダメみたいなことを言ってくる。
「言い訳あるか」
サイトは好かれること自体決して嫌いではない。でも、薬とかそんな形での愛を望むほど寂しい思いをした覚えはない。リア充を羨む気持ちがないわけではないが…。
「解除薬って奴、あんだろ?作れよ」
「つ、作ろうにも今すぐは無理よ!お金がないんだもの!」
「なんで?お前ら貴族って金持ちじゃないのか?」
なのに金がない?サイトは信じられないと叫ぶが、ギーシュとモンモランシーは互いに顔を見合わせた。
「貴族と言っても、私たち学生の身分よ。自分で持てるお金が限られるわ」
「領地でもお金を持っているのは実家の父上たちだしな。
いいかサイト、貴族には二種類存在するんだ。一つはお金に縁のない貴族と、お金と仲良しの貴族だ。例えばモンモランシーの実家『モンモランシ家』は干拓に失敗して領地の経営が苦しくなっている」
「そしてギーシュの実家のグラモン家は出征の際に見栄を張りすぎてせっかくのお金を無駄遣いして使い放してしまったり…」
「貴族としての名誉を守るのはこれでも大変なのさ。平民の君にはわからないだろうけどね」
『こいつら使えねーな…』
サイトの中で、ゼロは呆れかえっていた。ウルトラの星は地球やこのハルケギニアほどお金に拘るようなことはないのだが、さすがに無駄使いの愚かさを知っているようだ。
「他に手は?」
「正直打つ手なしね…入荷だって絶望的なのよ」
使えねー。サイトもゼロに同調するように心の中でぼやいた。
「ああもう、とにかく。近いうちに何とかしろよモンモン」
「できたらね…」
できたらねって、このやろ…。サイトは地味にムッとした。ギーシュがサイトの不機嫌な態度を見かねて口を開く。
「仕方ないさ。解除薬を作ろうにも、二日後…まあもう明日と言うべき時間だと思うが、アンリエッタ姫殿下がこの魔法学院にお越しになるのだ。今はあの方をお出迎えするための準備を一日で終わらせなくてはならない。」
適当に言い訳作って逃げるんじゃないよな…と横目でサイトはギーシュとモンモランシーを見る。と、ルイズはサイトの服をぎゅっと握ってきた。
「モンモランシーがいいの?」
「え?」
「モンモランシーの方がいいのね!!私の方がサイトのこと好きなのにーー!!」
バカバカ!と両手でサイトの胸をどんどんと叩き続けるルイズ。サイトが自分に構わずモンモランシーと喋っていたから嫉妬していたようだ。
「ち、違うって!大事なことを話してただけだ!」
「安心したまえルイズ!そもそもモンモランシーは僕にとって愛の象徴なのだからね!」
モンモランシーを話の出しにされて危機感を抱いたのか、ギーシュも断固否定した。
「効果抜群ね…」
「他人事みたいに言うなよ!!」
我ながらすごい出来映えと思わず自画自賛したモンモランシーに、サイトは突っ込みを入れた。



っとまあ、これが昨夜起った一部始終。ルイズはあれからサイトにべったりとくっついてくる。モテたことのない男としてはうれしくも、ちょっと厄介。つまりありがた迷惑でもあった。昨日の夜は一緒のベッドで寝てくれないと嫌だと駄々をこねてきたところを何とかなだめ、いつも通り藁の寝床に寝転がったのだが、自分が寝ている間にルイズは自分まで藁の寝床に入り込んできたのだ。おまけに、サイトは自分のものであると言う証明書代わりに、首筋に何度も噛みつくわキスするわと大変だった。
これはもうたまらない。ルイズを引っぺがして外に出てシエスタの賄を食べに行ったのだが、ルイズが「待って!!置いてかないで!」とサイトを追いかけ始めたのだ。周囲の生徒たちは女王来訪に備えた準備に取り掛かっていると言うのに、本来真面目なはずのルイズの学校行事をないがしろにする行為に誰もが奇妙に思っていた。
適当に撒きながら厨房にたどり着き、サイトはシエスタを見ると、縋るように助けを求める。
「シエスタ頼む!匿って!」
「え?え?」
いつも通り賄を頼みに来たのかと思ったシエスタだったが、サイトが自分の言葉も遮って匿ってくれと頼んできたのだから混乱するしかない。サイトが、扉とは反対側に口を開けた厨房の流し台の下にある隙間に隠れると、サイトを追ってきたルイズが駆け込み乗車のごとく入ってきた。
「ちょっとメイド!サイトを見なかった?」
「え?えっと…来てませんが…」
「やっぱりこのメイドの方がいいのね!!私があんなに愛してるのに…昨日の夜だってキスしてあげたっていうのに!!サイトの馬鹿!!!見つけたらお仕置きなんだから!!」
何かものすごく勘違いされやすいことを喚きながらルイズは厨房から出て行った。
「ふ、ふう…とりあえず助かった…かな?」
「モテモテですね。サイトさん」
サイトはその声を聴いて思わずゾクッとした。振り返ると、表情こそ笑っているが目が全然笑っていない、どす黒いオーラを出しているシエスタがそこにいた。
ちなみに、このシエスタの姿はあのゼロでさえ内心恐怖を覚えていた。
『こいつのこのオーラ…マジで人間か…すげえ冷たいんですが…』
人間の常識など露も知らなかったゼロに、よもや乙女のジェラシーの意味など理解できるはずもなかった。
「あ、あの…なんで怒っていらっしゃるんですか?シエスタさん?」
「い~え、怒ってなんかいませんヨ?サイトさんもおかしなことを仰るんですNe~」
だったらなんで、いかにも怒ってますみたいな感じの声で言うんですか!明らかに言ってることとお顔があってません!矛盾してますよ!サイトは心の中で泣きたくなる。
いや、ここは勇気を出して真実を言うのだ!
「あ、あのさシエスタ!あれはルイズの本心じゃないんだ。誤って惚れ薬を飲んであんなふうになっただけなんだよ」
「そんな嘘つかなくたって私気にしませんよ。首についてる真っ赤っかなものが付いてたって気にしませんからね」
「はぅあ!?」
思わず首筋を隠すサイト。シエスタにははっきり見てていたのだ。サイトの首筋に、ルイズがしっかり刻み付けたキスマークが残っていたのである。
「惚れ薬のように、人の心を変える薬は法律で禁じられていることくらい、平民の私だって知ってますから」
「なんだって!?」
惚れ薬が、ご禁制!?いや、確かに一理ある。ルイズは自分に対してこれと言った好意を抱いたわけじゃない。そんな彼女が自分にたった一日で惚れる作用を与える薬。これは言い換えれば、非人道的な洗脳だ。人間を心変わりさせる手段は、かつて地球を狙った侵略者の一部も用いたことがある。許していいはずがない。
「…キスなら私だってしたのに…ぼそ」
ふと、シエスタが俯いて何かつぶやきだした。
「え?シエスタ、今なんて…?」
「なんでもありません!!私、これから仕事なので…失礼させてもらいます。王女殿下が明日お越しになりますので忙しいから、邪魔はしないでくださいね」
聞き直そうとするサイトを否定し、シエスタはすごく冷たい言い方までおまけに付けてどこかへ歩き去ってしまった。
『なるほど、禁制の品だったのか』
「ああ、モンモンめ…」
こうなったらもう一度モンモンに…!
サイトは部屋に戻ってデルフを担ぎ、まっすぐモンモランシーのところへ向かって行った。



「惚れ薬なんて必要ないさ、僕の心は常に君の…」
サイトがモンモランシーの元へ向かう中、室内の噴水近くでモンモランシーは汚れた床を水に浸し、ギーシュがワルキューレに掃除用具を持たせ、濡れた床の掃除をさせていた。二人は噴水のすぐ脇の椅子に座っていた。
「皆アンリエッタ様来訪の準備に取り掛かっているから口説く相手がいないだけでしょ」
そう言われてギクッと声を漏らすギーシュ。しまらない残念ツケメン僕イケメンな奴である。
「やいモンモン!」
ここで再びサイト登場。二人の前にノシノシと歩いてきた。
「な、何よ?」
「改めて申し上げます。解除薬を」
「ちょ、ここ人が通るのよ!黙ってて頂戴!」
必死になってシーっと黙るように言うモンモランシーを見て、サイトは確信を得た。惚れくするのことをよほどバラされたくないのだと。
「ほっほぅ…?」
「…な、何?」
「やっぱりそうか~、惚れ薬ってご禁制だったのか~ほっほぅ…」
モンモランシーはうっ…と息を詰まらせる。サイトはきっと知らないから舐めていたのだが、やはり知っていたようだ。
「とりあえず、学院長に~、報告に行こうかな~。なんかの準備作業とかで~、忙しいみたいだけど~、ことが終わった後で~…」
わざとだらだらと、そしてイヤーな笑みを浮かべるサイトに、モンモランシーは返答する言葉を完全に絞られてしまった。
「わ、わかったわよ!作るから!!ちゃんと作りますから!作ればいいんでしょ!」
計画通り…サイトがそんなふうに呟くと、モンモランシーは悔しそうにくー…っと歯をかみしめる。
「いいじゃねえの、がみがみ言われないで済むんだしよ」
すると、デルフは鞘から顔を出して茶化してきた。
「そう言うわけにいくかよ。お前までそんなこと言うなよデルフ」
「おや、君はルイズが好きだったんじゃないのかね?」
ギーシュがそう言ったが、サイトは正面から首を横に振った。
「いつ誰がそこまで言ったんだよ。第一俺はあんな薬で好かれたって嬉しくもなんともない。所でモンモン、いくら金がないって言っても、材料とかまだ残っているだろ」
「まあ、ある程度はそろってるけど、あと一つだけ足りないのよ」
「何が?」
「『精霊の涙』よ。それはラグドリアン湖の湖に住む水の精霊からとるの。といっても、うちの実家が交渉し、ちゃんと了承を得てもらわないといけないの。簡単じゃないのよ?精霊の機嫌を損ねたら命だって危ないもの。それに再入荷も難しいってことだけど、これは最近精霊との連絡がつかなくなったからなのよ。行ったところで手に入れられるかどうかも…」
「よし、手だてがあるなら今すぐ行くぞ!」
残った材料の出所が分かった途端、サイトはすぐに出発すると言いだした。それを聞いたモンモランシーはちょっとする。
「今から!?今学校じゃアンリエッタ様のご来訪の準備をしてるのよ!?もしそっちをほったらかして私的なことにかまけてたら…」
「掃除っつっても、まる一日中やるわけじゃないだろ?それにここからラグドリアン湖って、結構遠いかもしれないだろ」
「で、でも…」
「じゃあ臭い飯を食いたいのかな~?確かここに来る途中でコルベール先生って人を見かけたな~」
ここで再びサイトが、邪悪な笑みを見せびらかしてモンモランシーに言う。…というか立派な脅迫である。これがウルトラマンと同化している男の姿らしき姿なのか疑問だ。
「い、行くわよ!行けばいいでしょ!!」
それを聞いてにへへ…と再び笑うサイトに、モンモランシーは悔しそうに歯噛みするしかない。
「ふむ、まあ確かに、あの状態のルイズを見て、他の生徒たちはかなり怪しんでいたからね。僕も早いうちに手を打った方がいいと思うぞ」
「しょうがないわね…もう…」
ここからラグドリアン湖は遠い。それもガリアの国境沿いにあるという。それに水の精霊は彼女の実家モンモランシ家が密接にかかわっていた身。それについての気苦労も人一倍知っているだろうから、モンモランシーとしては正直行きたくない。だがサイトに弱みを握られている身だ。バレてしまったら間違いなく貴族の地位から追い落とされてしまう。『Yes!Yes!Yes!』と『だが断る』の内、モンモランシーに与えられた選択はただ一つ、肯定の『Yes!Yes!Yes!』だけである。
「でも、行くにしても、今日はアンリエッタ様をお出迎えする準備が…」
「いや、アンリエッタ姫殿下の出迎えの準備で今日の授業は全部休校になったと言っても、丸一日中全員が当たるわけではない。僕たちが学院から抜けたくらいではばれないさ」
アンリエッタ姫ねえ…サイトはどんな人だろうかと想像してみる。やはりこのファンタジックな世界観にして、ギーシュたちもなかなか気にしている存在であることから、民たちから人気のある存在なのだろうか。そして同時に、すごい綺麗な美人さんなのか?って何を考えているんだ俺は!!今はルイズのことが優先だろう!煩悩に駆られかけたサイトは自分の両頬をバシバシと叩く。
「よし、じゃあラグドリアン湖ってとこに向かって出発だ!」



気が付けば夕日が沈み始めた時刻。モンモランシー曰くこの時間帯でしか水の精霊は姿を見せないと言うので、ちょうどよかった。
サイトたちはラグドリアン湖へたどり着いた。ルイズも一緒に連れて行ってくれなきゃいやだと駄々をこねてきたので仕方なく連れて行くことにした。この時ルイズからサイトは、彼女が謎の編み物をもらったのだが、ルイズ曰くセーターだという。ルイズが泣きだすだろうからしょうがなく来てみたのだが、胸のあたりまでしか隠しきれてない上に袖のない、そもそもセーターどころか服と言うべきものとは言い難いものだった。…動きにくいのですぐに着替えた。
しかし、ここで問題が発生した。ラグドリアン湖付近の村が、謎の水没を引き起こしていたのだ。
「どうなってんだ?」
水かさが増した影響で沈んでしまった村を見下ろしながらサイトはモンモランシーに尋ねる。
「私たちモンモランシ家は王家と水の精霊の古い盟約の下その交渉役を務めてきたの。私も子供の頃父上とここへ来たことがあったわ。でも、村を沈めるなんてことはなかった。きっと水の精霊は怒ってるみたいね…」
ふと、モンモランシーの肩に一匹の黄色い蛙が乗ってきた。
「なんだ、その蛙?」
色合いからして毒々しくも見える。
「この子はロビン、私の使い魔よ」
証拠なのか、ロビンと呼ばれたその蛙の額には彼女との契約の証のルーンが刻み込まれている。と、ルイズはロビンを見た途端サイトにガシッと捕まってきた。
「い、いやあああ!!!蛙!!蛙…!!」
サイトの胸の中に顔をうずめ、絶対に見たくないと悲鳴を上げるルイズに、サイトはオロオロする。
「お、落ち着けって!あれはモンモンの使い魔だから大丈夫だよ!!」
何とかなだめようとするが、ルイズはサイトからなかなか離れてくれない。実は彼女、蛙が大嫌いなのである。
「失礼な子ね、いくら嫌いな動物だからって人の大切な使い魔を化け物みたいに…」
蛙とはいえ、モンモランシーはロビンを気に入っているからこんなふうに悪く思われるとあまり気持ちがいいものではない。彼女はロビンを湖畔に下ろし、針で自分の指先を軽く刺して一滴の血を出し、ロビンの頭に乗せる。
「いいことロビン。古い友達と連絡を取りたいの。私が付けたその血で、私のことがわかるはず。あなたの盟約者が来たと、水の精霊に伝えてちょうだい」
主からの命令を受け、ロビンは水の中へ飛び込んでいった。
「これでもう少し待てば、ロビンが連れてきてくれるはずよ。私の血を覚えていてくれたら、の話だけどね」
「来てくれるだろうか…?」
ギーシュがサイトに言うが、「さあね」とサイトは呟いた。
…しかし、意外と早くロビンは戻ってきた。同時に、ルイズはヒシッっとサイトにしがみつく。
「どう、水の精霊は連れてきた?」
モンモランシーがロビンに尋ねるが、ロビンは意外なことに首を横に振ってきた。
「もう私のことなんて覚えてないのかしら?」
「そんな!じゃあルイズはどうなるんだよ!」
ここまで来て、目的の品も代わりもなしに帰ることになるのか?が、次にモンモランシーは顔色を一気に変えた。
「湖の中に何かがいる!?」
穏やかでないその叫びに、サイトとギーシュも目の色を変えた。
「何かがいるって、それはどういうことだい?モンモランシー」
「言葉通り、ロビンが言うには、水の精霊はこの湖底に身を隠している何かを閉じ込めているの。それも、かなりの大きさで力もすごいみたい。だからこの辺りの水かさが増していたのね」
モンモランシーはそう言って、水かさの増したラグドリアン湖の湖畔を睨む。
「閉じ込めている何かって…ドラゴンとかかい?」
何となく恐怖を感じたギーシュが恐る恐るモンモランシーに尋ねる。
「ドラゴンよりも恐ろしいものよ」
ドラゴンより恐ろしい。それを聞いて瞬間的にサイトは確信した。
「怪獣…だな」
「かか、怪獣!?」
聞いた途端ギーシュが青ざめる。腰を抜かした思い人の姿に困ったようにモンモランシーはため息を漏らす。
「そんなに怖いなら、別についてこなくてもいいのに…私も正直帰りたいけど」
「い、いや!僕はモンモランシー、君のナイトだ!だから怪獣が相手だろうが、絶対に守って見せる!!」
気合を入れてかっこいいことを言って見せるギーシュだが、足が震えてとてもじゃないがかっこよくない。期待はしないでおこう…モンモランシーはそう誓った。サイトは虚勢を張るギーシュを無視して湖畔の中を覗き見る。
「にしても、ここはちょっと懐かしい気分になるな~」
ふと、デルフが顔を出して呟いた。
「懐かしい?」
こいつは昔ここに来たことが、…いや、剣だから連れてこられたことがあるのだろうかとサイトは首を傾げる。
『なんだか、匂うな…』
と、ゼロがここで声を漏らしてきた。
『匂う?』
サイトは気になって、その言葉がどういう意味かを聞く。
『ああ、俺たちがよく嗅ぎ続けてきた匂いだ』
『なんだよ、やけに真面目だな』
これまでのゼロを思い出しながら、サイトはそう呟くと、ゼロはサイトに対して抗議する。
『茶化してんじゃねえ。俺だってこれでも真面目にやってきてんだぜ。それに…』
さらに神妙な声になるゼロ。まだ、何か思うことがるのか。サイトもより一層目つきを変えながら耳を貸す。
『気を付けろ。正直言って、近くにやばい気配を感じる…』
『やばい気配?』
『わからねえ。けど…妙なんだ。この気配、俺たちウルトラマンと近いようで…対局の…そう…』
――――闇の匂いがする
そうゼロが告げた時だった。彼らに耳に足音が聞こえてきた。それもこちらにだんだんと近づいてくる音。誰かがここに来るのか?こんな、村が湖の一部となったこの荒れた場所に。気になったサイトは視線をそちらの方に寄せると、そこに現れたのは予想外の人物だった。
「あれ?お前…」「む…?」
そこにいたのは、以前の軍服姿ではない…黒い上着の下に赤いシャツという組み合わせの私服を着たシュウだった。そんなサイトの視線に気が付いたシュウも、サイトたちの方を見返した。

誰もが寝静まった夜の、ガリア国境の付近の小さな村の近くに、双月の輝きに照らされた湖があった。ここがモンモランシーがサイトに紹介した湖、ラグドリアン湖である。しかし、この湖では、ある脅威がすでに及んでいたのである。
湖畔に黒装束を身に着けた怪しい集団がいた。左に立つのは男性、隣には妖艶な雰囲気をまとった女性もいる。
『さて、水の精霊よ。もらうとしようか。お前の秘宝を』
彼がそう言うと、隣の女性が懐から青い模様の四角い機械を取り出す。
《バトルナイザー・モンスロード!》
電子音と共に、四角い機械からカードの形をした紫色の光が飛び出し、湖の中に消えていった。すると、ラグドリアン湖の水面が一気に吹き上がった。
『ギィイイィィイィィ!!』
水の中から、猛獣さえも慄くような鳴き声が轟いた。水は津波のようにうねり、氾濫を起こす。その溢れる水の猛威に、二人はたじろぐことはなかった。
すると、水の中から別の人影が出現し、二人の前に跪く。その手には、紫色の宝珠のおさめられた指輪が握られていた。月光の逆光のせいか、その姿はうまく確認できなかった。
『目的の品を回収いたしました』
指輪を男性に献上すると、男性は満足そうに笑みを見せた。
『ははははは!!!手に入ったぞ…!これで、この○○○○○○は『虚無』を手に入れたのだ!!!』
その指輪を中指にはめた左腕を掲げながら、その男は天を仰ぎながら高笑いを浮かべていた。その後、彼らは氾濫を起こして周囲の湖さえも飲みこんだラグドリアン湖から退散したのだった。
「…」
男が高笑いを浮かべるその様は、シュウが見た過去のヴィジョンだった。
彼の変身するウルトラマンに選ばれた人間=『適能者(デュナミスト)』には、変身アイテムと護身用の銃だけじゃない。他にも特殊な能力を与えられる。それはビーストに襲われる、またはすでに襲われた場所で起こった惨劇を、ヴィジョンとして見ることが可能なのである。その能力があったからこそ、彼はフーケことマチルダを救出に向かうことができた。
だが…そうなると一つ思うのはテファの場合だ。彼女は盗賊に襲われた際、まだビーストに襲われいなかった。なのに、彼女の危機をその目でライブ映像のごとく見ることができたことに、シュウは疑問を抱く。
とにかく、今回もまたヴィジョンに先ほどのような光景を見たシュウは、このラグドリアン湖に何かがいることを知り、ウエストウッド村からこの氾濫を起こした湖へとやってきた。テファたちには、前にテファを浚った盗賊のような悪党が村の周囲にいないか探索すると言っていた。しかし、湖に着くと…。
「あれ?お前…」「む…?」
自分と同じ黒髪の少年、他に貴族と見受けられるウェーブのかかった桃色の髪の少女、あまりファッションセンスがよろしく見えないキザな少年と金髪ロール髪にそばかすの少女の三人組がそこにいたのだった。
(俺と同じ黒い髪、それにあの服装は…)
青と白のパーカーにジーンズ、そしてスニーカー。ハルケギニアの服装ではない服のワンセットを、偶然にも鉢合わせしたその少年が来ていると言う事実にシュウは怪しんだ。
もしや、こいつも自分と同じ地球人なのか?
「まあ!素敵な人!」
モンモランシーもシュウに気づくと、そのギーシュにも匹敵する上にクールでしまりのある容姿を見てうっとりと見とれてしまった。そんな彼女の様子に過敏に反応したギーシュは焦る。
「あ、あの…モンモランシー?」
「あら、あんたまだいたの?」
「そ、そんな…」
モンモランシーは話しかけたギーシュに対して冷たい視線を浴びせ、対するギーシュは冷たい目と言葉で返されて涙目になってしまう。ルイズはシュウを不審人物と見なしたのか、不安に思ってサイトの後ろに隠れた。まるで幼子のようにも見える。
「ねえ、サイト。この人あなたの知り合い?」
「え?」
いきなり話を振られて戸惑うサイトは目を丸くする。目線が熱っぽくなっている辺り、かなり来ている。
「だって、あなたこの人のこと知ってるみたいじゃない。彼の格好もあなたのと似ているし」
「い、いや…知ってるって訳じゃないんだ。ただちょっと見たことがあるだけで…」
まだ何度か姿を見たことがあるくらいだ。その内の中でも、人間の姿で見たのはただ一度きり。でも、サイトの…そしてゼロの記憶にも彼の姿は色濃く残っていた。この世界で自分たち以外で現れたウルトラマン、それも変身している人間はおそらく地球人。気にならないわけがない。一体何者なのか、どうしてウルトラマンに変身できるのか、なぜあの時フーケを助けたのか、とにかく話が尽きそうにない。
なんだ…とちょっぴりがっかりしたモンモランシーだが、そのがっかり具合で冷静さを取り戻したことでふと疑問が浮かぶ。どうしてこんな場所に彼が来たのか、ということに。
「おめえさん、ここで何をしてるのさ?」
鞘から顔を出してきたデルフがシュウに尋ねるが、逆にシュウも喋る剣という奇妙な存在に戸惑いを覚えつつも、問い返すついでに警告する。
(剣が喋るとはな…)「お前たちこそ何をしている?早く逃げた方がいい」
「やっぱり、この湖に何かいるのか?」
サイトが尋ねると、シュウは「ああ」と頷いた。
「湖の中に、デカい怪物が息をひそめているのが見える。何者かが水の精霊を殺すために放ったままの奴が放置され、それを水の精霊が閉じ込めるのに必死で退治には至らないまま長い期間が経っているようだ」
「な、なんでそんなことがわかるんだい?」
自分たちの話を聞いていたわけでもないのに水の精霊のことを以前から知っていたし、ロビンが見つけたと言う湖底の怪物のことも知ってる。何者なのかを尋ねずにはいられない。
「とにかくここから退け。水の精霊もいつ限界を起こすかわからない以上、ここにいるのは危険だ」
「でも…!」
ルイズのことがある。ギーシュと、事の発端であるとはいえモンモランシーも巻き込み、ここまで来て元に戻さないまま逃げるわけにはいかないのだ。それに、サイトはシュウからたくさんのことを聞きたいと強く想っていた。お前は何者なのかとか、どうしてウルトラマンになれるのかとか、もう腐るほどと言える。
「待てって。おめえさんこそ一体…」
デルフがいきなり逃げろと言われても納得しかねると抗議し、彼に近づいたその時だった。瞬間、ドン!!の音と共に、彼らの足元近くの地面が爆発した。
「!?」「うわ!!」「きゃあ!!」
いや、正確には何者かが彼らの足元に攻撃してきたのだ。すると、次々とサイトたちに向かってどこからか謎の黒い物体が次々と飛び出してくる。
「ルイズ!」「モンモランシー!」
「「きゃああ!!」」
サイトとギーシュが、それぞれ女性陣を引っ張って散り、襲いくる飛び道具から逃げる。
これは、爆弾!?シュウも地面の上を転がり砂まみれになりながらも避けていく。避けると同時に彼の建っていた場所には、投げつけられた爆弾が降りかかり、爆発していく。爆弾が止んだのか、シュウは顔を上げると、彼の浮かべる顔にしては珍しく、驚愕の表情を浮かべた。
女、か?顔を完全に覆い尽くすほどの黒いローブに身を包んだ、同じかほんの少しだけ下の年齢に見受けられる女がそこに立っていた。
「…誰だ?」
シュウが女に問う。サイトたちもまた、その姿を確認する。意外な姿の襲撃者に目を丸くした。
「女…?」
それも、あまり年上って感じの雰囲気じゃない。年齢は近しく見受けられるが…いったい誰なんだ?どうして俺たちを襲ってきたんだ?
「サイト、あの女の子がいいの?」
「違うわ!状況からしてそんな雰囲気じゃないだろ!!」
ジトッと、こんな時でも嫉妬するルイズにサイトは焦る。
「これは、なかなか麗しそうな少女だ。できればそのローブに隠れた可憐な花さえも恥じらう顔を拝見したいところだね」
「真面目な顔して何襲ってきた奴を異性として見てんの!」
ギーシュらしい感想だが、その言い方には呆れるものだ。ブレないギーシュに対してモンモランシーがツッコミを入れた。
「お褒めの言葉をありがとさん。じゃあ、お礼に…くれてやるよ!」
女は、懐から黒い爆弾を出すと、それをサイトたちやシュウに向かって投げつける。考えている暇はない。シュウはブラストショットを取り出して一発撃ち、その爆弾は地面に着弾する前に波動弾を受けて暴発、相殺された。それからも少女は爆弾を投げ続けるが、それらすべてが、シュウのブラストショットによって爆発する前に破壊された。
すげえ…なんだあの銃。サイトはシュウの持つ銃の威力に驚く。それがギーシュたちも同じだが、ルイズは恐怖でサイトにしがみついたままで、まともに直視してもいない。
「サイト~!!」
怯えながらサイトにしがみつくルイズに、サイトは目くじらを立てる。
「これじゃあデルフに触れないだろ!危ないから離れろよ!」
「やだやだ!!怖いんだもん!」
上目づかいで甘えると事はかわいいとは思うし、怖いのはわかるが…サイトとゼロは同時に思っていた。正直言うと、『かなり邪魔』になっている。それに緊急事態における最適手段=変身だってロクにできない。余計に元に戻してあげなくてはならないと思うようになった。
「やるね…でも、ここからが本番だよ」
ローブの下にわずかに見え隠れした女の口が曲がる。勝気のようでも、享楽的にもとれる声で女は言うと、彼女の体が突然紫色の怪しい光に包まれ、面影すらかけらもない姿へと変貌した。
「な…!!」
サイトは絶句した。襲撃を仕掛けてきたその少女が変身した、その異様な姿に。
「お前は…!!!」
シュウもその姿に声を漏らす。死人のような漆黒の瞳と胸の真ん中に埋め込まれた黒いクリスタル、道化のような黒と赤の配色。中性的な体つきに、そして額から斜めに伸びる二本の細長い角。シュウは画像と映像のみだが、フォートレスフリーダムのデータベースで見たことがあった。


「ファウスト…」


死人のような不気味な笑い声で、その黒い死の闇『ダークファウスト』は名乗った。

 
 

 
後書き
初代ウルトラマンが「ハヤタ」の名前で呼ばれたのは、映画「大決戦!超ウルトラ8兄弟」でミライが異次元のハヤタを「ハヤタ兄さん」と呼んだことに因んでます。 
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