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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico36天空城レンアオム~Land of a Decisive Battle~

†††Sideはやて†††

シャルちゃんのお家から本局の艦船ドック近くの待機室に移動したわたしら特戦班。そこで「主はやて、ルシル、リイン!」海鳴市で留守番してたシグナムとシャマルとザフィーラ、そんで「フェイト、アリシア!」アルフが合流。そんで今は、リンドヴルムの本拠地であると思われる世界へ向かうための次元航行艦の手配、出港の手続きが終わるのを待ってる。

「それにしても、たった3時間で出港許可が下りるなんて異例だよね」

「うん、うん。発見されたばかりの世界へ渡航する時って、調査班の編成とかの手間で数日は掛かるのに。フィレス二尉や一課、どんな手品を使ったんだろう?」

セレスちゃんとルミナがそんな会話をしてるのを横で聞く。そこの事情はまだよう知らへんけど、今回の手続きが許可されるまでの速さは有り得ん程のものらしい。そんな2人の疑問に答えるのが「どうやらリアンシェルト少将閣下がお手伝いなさったそうですよ」ベッキー先輩や。んで、その話に一番反応を示すんがシグナムら、わたしの愛する家族や。

「ベッキーちゃん。その話、どこで・・・?」

「え? はい。特捜課のオフィスに寄った際にガアプ課長とセイジ課長補佐が、そのような話をしていたのを小耳に挟んだんですけど・・・」

シャマルの質問にベッキー先輩が答える。そんでシグナムとヴィータとザフィーラ、シャマルはなんか考え込むような仕草をした。やっぱりリアンシェルト総部長と、シグナムらの間になんかあるんや。今度こそそれについて問い質そうとした時・・・

「カートリッジ組に、神秘カートリッジを配布する。1人につき10発。連続ロードは、シグナムとヴィータは3発まで。なのは達は、リンカーコアがまだ成長しきっていないため2発まで。シャル、君もだ」

「はーい!」

スライド式の扉から入って来たのは、ジェラルミンケースを両手に携えたルシル君とシャルちゃんや。2人はソファの上にケースを置いてガチャッと開けた。中身は話の通りいろんな口径のカートリッジ、それになのはちゃんとアリサちゃん専用のマガジンが入ってた。
ルシル君は出港までの時間の空きを利用して、神秘を含んだ魔力が込められたカートリッジを作ってくれてた。なのはちゃん達にカートリッジを手渡してくルシル君とシャルちゃんやけど、「大丈夫か? ルシル君」の顔色が若干悪い気がしたから声を掛けてみる。

「ああ、大丈夫だよ。回収してある神器から神秘も魔力も吸収したことで、俺自身の魔力は使っていないから疲労も魔力消費も無いよ。もし、俺を見て体調が悪い、みたいなことを考えたのならそれは・・・」

そこまで言ったところでルシル君は明後日の方を遠い目で見た。ドキッとする。そやけどいつもの胸の高まりとは全然ちゃう。今のルシル君の目にわたしらのことは見えてへんって判る。ルシル君がどこか遠いところへ行ってしまうような・・・そんな不安がわたしを襲ってきた。

「ルシル君・・・!」

ルシル君の制服の袖を掴む。ルシル君がどこにも行かへんように、わたしの側に繋ぎ止めておきたいために。するとルシル君は「ん? はやて、どうした?」いつも通りの、わたしの大好きな微笑みを向けてくれた。顔が一気に熱くなる。それと同時に「ううん。なんでもあらへんよ♪」嬉しさもいっぱいになって不安が消えたから、微笑み返しつつルシル君の袖から手を離す。

「で、だ。カートリッジシステム搭載のデバイス持ちじゃない魔導師・騎士には、・・・コレを渡しておく。我が手に携えしは確かなる幻想」

2つのケースの隣にいくつものカードホルダーが現れた。カード組になるわたしは「コレはなんなん?」って指さして訊いてみた。

「対神器の切り札だよ。神器の能力を抑え込み、なおかつ神秘を封じる札だ。使い方はこうだ。ホルダーから札を出し、投げる」

実際にホルダーからお札1枚を取り出して投げる仕草をしたルシル君。アリシアちゃんが「どうしたの、そのお札」って質問。返ってきたのは「造った」の一言だけ。わたしらが呆けると、「あれ、言ってなかったか? 俺は、神器を造れるんだ」そう言って自慢げに笑った。
話を聴けば、ルシル君のご先祖様には神器作成スキルを持ってる人が居ったらしくて、ルシル君はそのスキルも継承してるとの事。そやけどやっぱり材料の問題や、ルシル君自身の魔力・神秘の消費が著しいから多用は出来ひんらしい。

「一度投げれば後は勝手に神器へ向かって飛んでくれる、追尾機能を付けておいた。迎撃される場合もあるが、神器に当たればその能力を封じられるようになるから、対神器戦はかなり楽になると思う。もっと早く渡したかったが、この枚数と対神器効果だからな。作り終えるのにこの今まで掛かってしまった」

そう謝るルシル君やったけど、時間を掛けた分だけのアイテムを造ってくれたことにみんな感謝してる。わたしもホルダーを受け取って、制服のスカートのベルトに引っかけた。それからフィレス二尉が戻ってくるまでわたしらはリンドヴルムとどう戦うかの作戦を考えた。神器を所有する兵を見つけたら連携して、神器封じのお札で神器を封印、そんでバインドで拘束。問題はハート2やけど、今度はルシル君以外のみんなが一緒に戦うから、きっと大丈夫や。

「みんな、お待たせ。艦の手続きも、応援メンバーの選出も、神器の詰め込みも無事に終わったわ。さ。移動、移動」

手続きを終えて戻ってきたフィレス二尉の指示に「了解!」敬礼して、待機室を出た。ドック横の廊下を歩く中、わたしらが乗艦する次元航行艦が窓ガラス越しに見る。フィレス二尉から聞いた話やとアースラの同型艦で、巡航L級3番艦、艦名はジャスミン。アースラは確か・・・8番艦やったな。
そんでわたしらはジャスミンに乗艦して、ブリッジのスタッフさん達に挨拶。その後はレクリエーションルームで英気を養うことになったんやけど・・・

「ガアプ課長!?」

レクリエーションルームには先客が居った。真っ先に視界に入ったのは、わたしら八神家やシャルちゃん、ルミナ、ベッキー先輩が所属してる特別技能捜査課の課長、クー・ガアプ一等陸佐やった。居ったのはガアプ課長だけやない。

「トゥーリア一尉・・・!」

「エレフ二尉も」

「テレジアさんも居るですぅ!」

「クララちゃん!」

「テレサ先輩やエリザ先輩もか」

海鳴温泉の時にも応援として来てくれたトゥーリア・サクロス一等陸尉。八神家の教育係を担当してくれてたエレフテリア・マーヴ二等空尉。それにテレジア・エイルプス准空尉先輩。クララ・リークエイジ准陸尉先輩。テレサ・テレメトリー一等空士先輩。エリザヴェータ・テルアウンチェア一等陸尉先輩、といった先輩方、あと機動一課の実働部隊の面々がそろってお茶してた。

「ご苦労様、みんな。あなた達も今のうちに英気を養っておきなさい」

「どーんと先輩たちを頼っておきなって! このテレサが、並み居るリンドヴルム兵をコテンパンにしちゃうから♪ ね? クララ、テレジア♪」

「私も全力で頑張るよ!」

「当然です。同じ特捜課の仲間を、管理局をここまでコケにされて黙っていられない」

「シュヴァリエル相手じゃ散々で、神器持ちには勝てないみたいだけど、ただの魔導師相手なら負けない!」

「今日こそリンドヴルムとの長年の因縁に決着をつける・・・!」

「うちの会社にも何度か手を付けられてますから、その借りも一緒に返しましょう」

頼りになる先輩方とも合流して、わたしら機動一課+特別技能捜査課(全員やないけど・・・)は一路リンドヴルムの拠点があると思しき世界へと出撃した。

†††Sideはやて⇒なのは†††

3時間くらい掛けて次元空間内を航行して辿り着いた、本局でもまだ発見できてなかった異世界に到着。新発見されたばかりな世界への渡航は本来なら調査隊だけしか許されないって聴いた。
まずは調査隊を編成して、魔法文化の有無や生態系などなどを何ヵ月と掛けて調べて、その結果魔法文化があって、生態系に問題がないようなら、管理世界への加入を勧めるためにコンタクトを取る。上手くいけば新しい管理世界の誕生。でも、管理局が設立されてから何度か拒否を受けて戦争になっちゃったりしたとも聞いてる。ちなみに魔法文化が無かったらそのまま管理外世界に認定されて終わりだそう。

「ケリオン君・・・今、助けるからね」

ジャスミンのトランスポーターホールにみんなで集まって、巨大モニターで宇宙の中に輝く1つの星を見る。ルシル君がシュヴァリエルさんに付けた発信機の役割を果たす魔術が示す座標の世界。そして今は、あの世界にサーチャーを飛ばして偵察中。その映像が・・・・来た。星の映像が世界内の映像に切り変わる。自然豊かな世界みたいで、見たことも無い動植物たちが自然を謳歌してた。

『こちらブリッジ。ザッと生命反応を確認した結果、無人世界であると思われる。あと、この映像を・・・』

また映像が切り替わる。異様な光景がモニターに移った。夢の国ほどに大きな島が空に浮いていて、ゆっくりと移動してた。続いて『この島から多数の生命反応を感知した』とのこと。ここで、「間違いない。アレがシュヴァリエルの、リンドヴルムの本拠地だ」ルシル君が断言した。

「ルシル君、判るの?」

「はい、まぁ。あの浮遊島に意識を集中させると、シュヴァリエルに付けさせた自分の魔力や神秘が判り、それに・・・これは・・・」

ガアプ一佐の質問に途中まで答えたルシル君が押し黙っちゃった。みんなで小首を傾げてると、「とてもまずい神秘を感じるんです」そんな今、聞いておいて良かったのか悪かったのかどうか判らないことを言った。シュヴァリエルさんやハート2以上に厄介な何かがあの島に居る、もしくは在る、みたい・・・。

「とにかく、です。神器持ちやハート2は特戦班で対応し、シュヴァリエルは自分が。ガアプ課長たちは・・・」

「ええ。神器持ち以外の一般兵の逮捕ね。大丈夫。何十人、何百人居ようとも私たち特捜課のスキルを使えば、拘束から即拘置所へ送り込める」

ガアプ一佐や特別技能捜査課のみんなが強く頷き合った。そしてジャスミンは、浮遊島から距離を置くようにして無人世界へと降下を開始。何故なら浮遊島外周には砲台のような物が十数基と並んでるのを確認したから。降下中に集中砲火なんて受けたら一溜まりもないし。大気圏内に降下完了したら、浮遊島へとゆっくり進む。

『ルシリオン捜査官。準備はよろしいか?』

『はい。このままの速度で直進をお願いします、艦長。東部の砲台3基を片付けます。その後は・・・』

『全速前進で浮遊島直上へ突入・・・。その後は機動一課と特別技能捜査課の面々が浮遊島へ降下。戦闘開始。我々ジャスミンは島から距離を取り待機』

ブリッジの艦長と甲板にひとり佇んでるルシル君が通信で今後の私たちの作戦内容を確認した。私たちのこれからの動きはおおよそ2人の話した通りになる予定。モニターに映るルシル君が騎士服のポケットから蒼く輝く石を取り出した。神器から吸収した魔力を物質化させた物で、ルシル君が言うにはドーピング。初めて見た時、ジュエルシードにそっくりだって思った。

力神の化身(コード・マグニ)戦滅神の破槍(コード・ヴィズル)女神の宝閃(コード・ゲルセミ)女神の陽光(コード・ソール)・・・』

ルシル君の全身がサファイアブルーの魔力に覆われて、頭上にルシル君独自の魔法陣が3つと展開。そして『ジャッジメント!』その号令の下に3つの魔法陣から、雷撃、火炎、光の砲撃が同時に発射された。
砲速はとんでもなく速くて、特に速いのは雷の砲撃。ジャスミンと砲台の距離は10km近く離れてるのに、発射から着弾まで5秒と掛からずに真正面の砲台に着弾。遅れて他2発が左右の砲台に着弾、派手に起こる魔力爆発。

(うわぁ・・・、あの距離でも当てることが出来るんだぁ・・・)

モニターに映る爆炎に、「おお!」レクリエーションルームに居る一課の人たちが歓声を上げて、指笛まで鳴らした。みんな、砲撃の威力、射程、命中率に驚いてるみたい。正直、私たちルシル君の友達組も驚きだよ。威力や命中率は、模擬戦する度に思い知らされてるから判ってたけど、目標が10km先でも完璧に着弾させることが出来るの射程の広さには驚き・・・というより、若干引いた。

『各員、これよりジャスミンは浮遊島上空へ進入する。トランスポーターの転移先は島の陸地。その後、本艦は後退する。ルシリオン捜査官、引き続き砲台の破壊を頼む』

『了解です』

「ルシル君。シュヴァリエルとの戦いのために魔力温存しとかんと・・・」

はやてちゃんが、砲撃発射準備に入ったルシル君にそう伝える。すると『ありがとう。でも大丈夫』ルシル君がそう言って微笑んだ。はやてちゃんは「ルシル君の大丈夫って、どこか信頼度が足りひんわ」ボソって呟いた。付き合いの長いはやてちゃんだからこその呟きかも。

『浮遊島上空まで10秒!』

ブリッジクルーからのカウントに、私たちはグッとデバイスを握り直したり、深呼吸したり、頬を叩いて気合を入れたり、それぞれ戦闘意識を高める。そこに「フェイト、アルフ、みんな! 頑張って!」ジャスミンにお留守番するアリシアちゃんが応援してくれたから、「うんっ!」、「はいっ!」みんな頷き返した。

「――5、4、3、2、1、降下!』

転移時に発生する光で視界が一瞬だけ真っ白に染まって、光が治まったらそこは「ここが、リンドヴルムの本拠地・・・!」ザンクト=オルフェンと同じような石畳の街路が四方八方に伸びてる、浮遊島の中だ。

「あちこちから鐘の音がして耳が痛いね・・・!」

「侵入者を報せるための警鐘だろう」

アルフとザフィーラの耳がペタッと伏せられてる。聴覚は私たちの中の誰よりも優れてるから余計にうるさく感じるんだね。

「テレジア、お願い出来る?」

「お任せを、ガアプ課長」

テレジアさんが両腕をバッと左右に広げて目をスッと閉じると「すごい数。一斉にこちらへ敵兵が向かって来ます」そう言って、今わたし達が居る地点からどの辺りに、どれだけの人数が、これから私たちに対してどうするか、そういう情報を教えてくれた。

「すごいね・・・」

「うん」

フェイトちゃんの驚きに同意する私。テレジアさんのスキル・広域捜索っていうのは、半径5km圏内に居る悪い思考を持つ人の考えてる事を読み取るいうもので、奇襲などの突発的な状況変化を前以て察知できるとのこと。そして、「侵入者を発見!」神器じゃなくてデバイス持ちのリンドヴルム兵が十数人とあらゆる路地から飛び出して来た。

「ただの魔導師ね。1人だけ残して、他は拘置所送りにしましょうか。みんな、バインドを!」

ガアプ一佐の指示に従って、バインド魔法が出来る魔導師全員でリンドヴルム兵を拘束してくと、「参ります!」クララさんがバインドから逃れようともがく兵たちにちょんっと両手で触れてく。するとクララさんに触られた兵たちが一瞬で消えた。クララさんのスキルは強制転送。手で触れた物を、知ってる座標に転送させることが出来るっていうものらしくて、今の兵たちは管理局が運営する数多くの拘置所(武装隊が待ち構えてる)へと飛ばされた。

「ガアプ課長。よろしくお願いします」

「ええ」

唯一強制転送から助かった兵が1人。すずかちゃんのリングバインドで拘束されたその兵にガアプ一佐が駆け足で近寄って、「時空管理局・特別技能捜査課課長、クー・ガアプ一等陸佐です」ジッとその兵と目を合わせて所属、それに名前を告げた。

「どうやってこの世界に!? この世界は未だに管理局の調査が行われていないのに・・・!」

「企業秘密です。では、答えてください。神器を持つ本隊、神器やロストロギアがしまわれている場所、リンドヴルム首領や拉致したケリオンの居所、兵の配置・・・、あぁ、あと、この浮遊島の地図を持っているならください」

「ふざけ――・・・はい。これがマップデータです。本隊やボスはここ、レンアオムの中央の位置する本城に居るはずです。これから転移門を開くと言っていたので」

「レンアオムとは、この浮遊島の名称ですか?」

「そうです。天空城レンアオムは、上層部には多数の城と塔、下層部には次元航行艦を4隻、ロストロギア艦を3隻と格納されているドックがあります。神器やロストロギアの格納庫はこの4つの城内にあります。兵の配置は・・・こうです。ケリオンというのは判りません」

普通なら黙秘するんだろうけど、その兵はスラスラと話してくれた。ガアプ一佐のスキル・強制聴取は、相手と目を3秒間合わせることが発動条件で、一度発動すると相手から嘘偽りのない話を引き出せることが出来るようになる。重大事件の被疑者への取り調べはガアプ一佐が選任してるって聴いた。

「情報は引き出せました。クララ、お願い」

「了解です! さぁ、楽しい拘置所生活が待ってるよ」

クララさんがトンッと肩に手を置いた瞬間、その兵もどこかの拘置所へと強制的に転移させられた。

「転移門。ケリオンのことね。・・・特戦班はこれより本城を目指してください。特捜課は機動一課と共に一般兵の排除とロストロギア・神器の回収を行います」

そうして私たちは一旦分散することになった。私たち対神器の特戦班が目指すは浮遊島――天空城レンアオムの中央にそびえ立つ本城。そこにケリオン君、それにシュヴァリエルさん達、そして・・・リンドヴルムの首領が居る。

†††Sideなのは⇒フェイト†††

リンドヴルムの本拠地があると思われるある無人世界へとやって来た私たちは、リンドヴルムの本拠地・天空城レンアオムっていう空に浮かぶ巨大な島へと降り立った。
そして今は、神器を所有するロストロギア蒐集実行部隊やリンドヴルム首領、それに拉致されたケリオンの居る本城とかいう中央に建つ城へ向かっている最中。

『こちらルシリオン。砲台12基は片付けた。行き先は・・・中央の城、でいいか?』

「こちらフィレス二尉。そうよ。本隊と首領、ケリオンが居ると、構成員より情報を引き出せた。それと、転移門を開こうとしている、との情報アリ」

『転移門を開く・・・、ということは・・・まさか! 了解です。先行します!』

空を見上げれば、蒼い光の尾を引いて本城へと向かって行くルシルの姿を確認できる。私たちも速度を上げていく。と、『実行部隊を確認。本城入口を護っている。数は12』ルシルから報告を受けた直後、地上からルシルに向かって射撃や砲撃やら斬撃が何十発と放たれた。だけど今のルシルは空戦形態ヘルモーズ。掠りもしていない。そしてお返しとばかりにルシルも魔術の砲撃を連射。一方的な爆撃だ。

「今の内に突撃します! デュック・グラス、力を貸してください!」

フィレス二尉が神器、“デュック・グラス”を武装した。両腕と背中に氷のアーマーが生まれて、右腕と同化するかのように大剣が、左腕に同化するかのように1m近い楕円形の盾が造られた。そして、私たちも遅ればせながらも本城の庭に到着。

「新手だ! 例の対神器部隊だ!」

神器を持った兵たちが私たちに気付いた。数人がルシルを撃墜しようとしたままで、他数人が私たちに向き直った。すぐさますずかとルミナとベッキーが、ルシルから渡されていたカードホルダーから札を数枚と取り出して投げた。札は高速で飛んで行って、兵たちは迎撃しようとしたけどそれより早くそれぞれの神器に付着。

「ん? あれ? おい、神器の能力が発動しな――」

――ソニックムーブ――

――閃駆――

――ヒルンダプス・カウダクトゥス――

――フォックスバット・ラン――

私とアリサとシャルとシグナムの4人で高速突撃。神器が使えなくなって慌てふためく兵たちの手から神器を弾き飛ばして、なのは達が一斉にバインドで拘束していく。1ヵ月前にクラナガンで戦った神器兵たちも当然その居たけど、いとも簡単に無力化することが出来た。

「なんていうか、ルシル様様ね」

残りの神器兵を余裕で撃破し終えたルシルを見てアリサが呆れ気味に小さく笑った。ヴィータも「連中にとっての最大の不幸は、こっちにルシルが居たことだな」って、“グラーフアイゼン”の柄で肩を叩きながら笑うから、私やなのは達は「うん、うん」頷いて同意を示した。

『次から次へと来るぞ! 注意!』

空に留まったままのルシルからそんな知らせが入る。やることはさっきと変わらない。垣根や庭に乱立している柱に身を隠して、私たちを迎撃しようと躍起になっているエントランスから飛び出して来る神器兵たちを待ち伏せ。
すずか達が神器封じの札を使って神器兵たちの神器を無力化して、私たちで神器を弾き飛ばして、なのは達がバインドで拘束。ルシルもルシルで城内に直接魔術砲撃を撃ち込んでいっていて・・・綺麗だった本城が見るも無残な廃墟へ変化していった。

「・・・粗方終わった・・・かな?」

エントランスから出て来ていた神器兵がようやく途絶えた。警戒態勢のまま庭に散っていた私たちは庭の中央で合流。そしてすずかが「サーチャーで城内を探ってみる」そう言って足元に魔法陣を展開。周囲に4つの魔力球――サーチャーを創り出して、エントランスから侵入させた。

「広域遠隔目視観測魔法、ワイドエリアサーチ。コレに先行させてみよう」

4つのサーチャーに続いて私たちも侵入しようとしたその瞬間、私たちは目を疑うような光景を目の当たりにした。空に飛んでもなく大きな黄金の門が現れたのだ。大きさの違いこそあれ、あの門の正体を私たちはきっと知っている。
そう、「ケリオン君・・・!?」ここ数ヵ月と一緒に過ごしてきた私たちの友達、ケリオンで間違いない。あの子の正体である転移門の本来の姿がきっとアレなんだ。その偉容に私たちが呆けていると、ジャスミンから通信が入った。

『レンアオムの下層ドックより次元航行艦と思しき艦艇2隻の出港を確認した! 目的地はおそらくあの巨大な門と思われる!』

ここで私たちは気付いた。神器兵たちは、アールヴヘイムへ向かう人(おそらく首領)が門を潜るまでの時間稼ぎ役――スケープゴートにされたんだって。一番早く行動に移ったのは「これ以上アールヴヘイムで好き勝手をさせてなるものか!」ルシルと、「私も・・・!」すずかだった。
ルシルは空戦形態中だからあっという間に遥か彼方へと飛んで行ったけど、すずかの飛行速度は普通だから完全に置いてけぼりを食らった。でも、行動が遅れた私たちにとっては幸運だった。私たちも急いで空に上がってすずかと合流、ルシルの後を追おうとしたんだけど・・・

――クヴィウート・キブーシュ――

半透明な半球状の結界が張られてしまって、私たちは閉じ込められてしまった。そして、続けてこの結界を張った術者の姿を視認することになった。本城の屋根に立っている人影。頭上に虹色に輝く環があって、背中からは4枚の白い羽、彫刻のような白い体を持つ・・・

「ハート2・・・!」

天使をその身に宿すことが出来るという、人造生命体・・・ホムンクルス、シュヴァリエル並みに厄介な神秘を有する超常的な存在、ハート2がそこに居た。

・―・―・―・―・―・

ルシリオンの魔術によって天空城レンアオムの対空防衛砲台の3基が破壊されていたその時、本城にてある動きがあった。シュヴァリエルとアイリ、それに女性1人の計3人が、ここレンアオムの下層ドッグへ続くエレベーターへ向かって歩いて(アイリは本来の姿のため、浮遊している)いた。

「それじゃあ、ハート3は、ハート2と共に本城に残って管理局どもを足止めしておけ」

「了解です、シュヴァリエルさん。・・・あの、転移門の少年と何やら約束していましたが、それは今後も適用されるのですか?」

「ハート2に限って言えば、な。お前には厳守しろ、とは言わないが。まぁ、少しは心がけてやってくれ。ケリオンの最後の願いだ」

「了解です。では、私はこのまま本城の警備、管理局員の足止めの任に就きます」

「ああ、頼む。あー、そうだ。言い忘れていた。命令1個追加だ。神器王・・・、銀髪・虹彩異色のガキは素通りさせていい」

「銀髪・虹彩異色の少年ですね。了解しました」

女性――ハート3は足を止め、下層ドックへ続くエレベーターに乗ったシュヴァリエルとアイリを見送った。扉が閉まり始めた中、アイリはそんな彼女を横目で一度見た後、シュヴァリエルの顔の前へと移動。降下して行くエレベーター内でアイリは「何を考えてるの?」そう訊ねた。

「んあ? 決まっているだろ、この手で神器王を殺す為さ。ハート2やハート3じゃ敵わないだろうしな」

「・・・その為に、イシュリエルっていうサーチャーに気付いていながらも放置してたわけね?」

シュヴァリエルは、ルシルが発信機として使用したサーチャー代わりの魔術・イシュリエルの存在に気付いていた。だが、気付いていながらも彼は何もしなかった。それが不思議でならないアイリは「どうして放置したの?」とさらに質問を続ける。

「神器王はリンドヴルムの本拠地、ここ天空城レンアオムの場所を知ろうとした。それはつまり乗り込もうという意思表示だ。となれば、奴も本気の全力全開で戦いに来るだろう。そして、俺を打倒するつもりということは何かしらの対抗策を得ていると考えられる。そんなアイツを相手に逃げるわけにはいかないだろうが。真っ向からその手を叩き潰す」

拳を強く作ったシュヴァリエルは、「マイスターは負けないもんね、絶対に!」希望を諦めていないアイリを見て鼻で笑った。当然「何が可笑しいの!?」アイリは怒る。アイリは信じて待っていた。自分を助けに来てくれるその日を。そして最も敬愛するマイスター・・・ルシリオンや、かつての家族だったシグナムら守護騎士の元へ帰ることが出来る日を。それを笑われたのだから仕方のないことだ。

「いや別に・・・。あぁ、そうだ、アイリ。お前、俺とユニゾンしろ」

「・・・・・・・・・はぁ!?」

「そんなに驚くことか?」

「あ、当たり前だよね! アイリと融合!? 正気!?」

シュヴァリエルの命令にアイリが、信じられない、という風に驚愕する。それでも「当たり前だ。思考回路にバグは無い。俺は、正気だ」と、シュヴァリエルはその考えを改めようとはしない。

「融合事故って知ってるよね? シュヴァリエル」

「融合騎が融合した騎士の意識を乗っ取るっていうあれだろ」

「アイリ。マイスターのことが大好き、愛してる。そんなマイスターとの戦いで、アイリがシュヴァリエルの味方になると思うわけ?」

「おいおい。奴と一緒に居た時間は1年も無いんだろ? 俺とお前の関係はベルカ崩壊時からだ。ちょっとくらいは俺の事を大事に思ってくれないわけ?」

シュヴァリエルは真っ直ぐアイリの目を見てそう訊いた。共に過ごした時間が1年と満たないルシリオンより、何百年と共に居る自分に情があるだろう、と。

「・・・そうだね。あなたは野蛮で乱暴で、紳士には程遠過ぎるけど・・・でも、好感は持ってるよ。あなたの言う通りね」

何かと悪態を吐き合う間柄だったアイリとシュヴァリエル。関係としては良好な部類に入ることだろう。それでも「けど。あなたとマイスターとの好感度の差は、何があっても覆らないの」アイリにとって一番の特別は、ルシリオンなのだ。

「マイスターはね。アイリにたくさんの初めてをくれたのね。初めてのアイリだけの名前。初めての家族。初めての友達。初めての温かな暮らし。初めての恋。初めての悲しい別れ、初めての嬉しい再会。・・・みんな、アイリにとって大事な初めて。・・・でももし、マイスターより先にシュヴァリエルに会ってたら、アイリは身も心もあなたやリンドヴルムに捧げてたかもね」

頬をピンク色に染めてテレ笑いのような笑顔を浮かべるアイリ。シュヴァリエルは「そうかい。・・・それじゃあ、お前に新しい初めてをやるよ。好きな奴との永遠の別れってやつを、な」と、口端をつり上げて笑った。

「最悪だね、そんな初めて」

「俺の中っていう特等席で見せてやるよ。神器王の死に様を」

「アイリと融合したこと、後悔しないように気を付けてよね」

「フッ。・・・無駄話はここまでにしておこうか。ロストロギア艦・ラレス・ウィアレス1番艦に乗艦後、俺たちはアールヴヘイムへ向かう。神器王も追って来るだろう。奴にとって思い出深いあの世界で、奴の人生を終わらせてやるさ」

エレベーターが止まり、両開きドアがスライドして開く。そこはリンドヴルムが所有する移動手段の1つ、通常の次元航行艦やロストロギアに分類される戦艦が停泊しているドック。シュヴァリエルとアイリは一番手前に停泊している戦艦、“ラレス・ウィアレス”の1番艦へと歩いて行く。

「ねぇ、シュヴァリエル。コレでちゃんとアールヴヘイムに行けるの? 以前みたくスクラップやミイラ化するような最悪は御免被りたいんだけどね」

「問題ないだろ。きちんと座標設定を行うからな」

「ならいいけど」

搭乗口より乗艦した2人はそのまま艦橋へ向かい・・・

「シュヴァリエル、アイリ、搭乗完了です。・・・ボス」

そしてシュヴァリエルは、艦長席に座る何者かへそう報告した。

――アールヴヘイム再侵攻まで、残り・・・・20分――
 
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