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真田十勇士

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巻ノ十四 大坂その八

「その烏賊とやらに似ておるな」
「それは蛸です」
「蛸か」
「そうです、それもまた海のものです」
「そうなのか」
「はい、これも美味いですな」
「確かに」
 海野は蛸を食べつつ老人に答えた。
「これはよい」
「生臭さがない」
 由利は鍋全体について述べた。
「味噌のお陰か」
「そうです、味噌で味付けをしたうえで」
「匂いもか」
「それも消しています」
「そうか、それの味もあるか」
「そうなのです」
「わかった、これは美味い」
 由利も食べつつ述べる。
「信濃にはない味じゃ」
「しかも野菜も大層入っておる」
 望月は葱や大根も食べている、鍋にはそうしたものも多い。
「これもよいのう」
「茸もな」
 根津はそれも食べている。
「しかもかなり多い」
「量も種類もな」
「ここまで色々入っているとは」
「海に山もじゃ」
「まさに山海の珍味じゃ」
「この摂津は海と山がすぐ近くにある」
 筧は鍋を落ち着いた顔で食べつつ言った。
「それ故ここまで集まるか」
「そうです、それもどれも安く早くです」
「揃うのですな」
「生で食べることも多いです」
 大坂においてはというのだ。
「海のものを」
「それはまずくはないか」
 幸村は海のものを生で食べることも多いと聞いてだ、老人に問い返した。
「幾ら何でも」
「いえ、すぐ傍が海なので」
「しかし魚には虫がおる」
「海のものにはおりませぬ」
「川や池のものとは違いか」
「だから安心なのです」
 生で食してもというのだ。
「海のものならば」
「そうなのか」
「確かに鯉や鮭、鮎は生で食べては危ういです」
「その時はよくとも後が怖い」
「しかし海のものは漁ったばかりならば」
「生で食してもか」
「よいのです、貝や海老も」
 そうしたものもというのだ。
「ですから機会があればそちらもお楽しみ下さい」
「海のものはよいか」
「そうなのです」
「わかった、では機会があればな」
「その時は」
「それを食しよう」
 刺身をというのだ。
「是非な」
「さすれば」
「そういえば水滸伝で出ていたわ」
 幸村はここでこの書の名を出した。
「宋江殿が刺身を食しておった」
「あれは鯉でしたな」
「そうであったな、川魚であったが」
「刺身でしたな」
「刺身はよいものじゃな」
「はい、ですから機会があれば」
「刺身を食事してもな」
「よいかと」
 老人は幸村に微笑んで勧めた。
「是非」
「客は皆普通の民じゃな」
 霧隠は自分達以外の客達を見て述べた。 
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