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真田十勇士

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巻ノ十四 大坂その九

「金持ちらしき者はおらぬ」
「大坂にもお大尽の方がおられますが」
「しかしこの店はか」
「はい」
 まさにとだ、老人は霧隠に答えた。
「普通の町人達の店です」
「流石に銭は高いと思うが」
「これだけの鍋を口にするとなれば」
「それでもか」
「はい、確かに多少奮発はせねばなりませぬが」
 銭をというのだ。
「しかしです」
「それでもか」
「町人が普通に入られる店です」
「これ程の店でもか」
「それが大坂なのです」
 そうだというのだ。
「羽柴様がそうでありますし」
「飾ったところがないと」
「はい、そうした方なので」
「大坂の者もか」
「この様に飾らず」
 そしてと、老人は幸村に話した。
「しかも賑やかで明るいのです」
「そして食もか」
「この様に誰もがこうしたものを食します」
「そうなのか、この様なものを高いとはいえ町人達が食えるとは」
「大坂はよい町と」
「そう思う」
 幸村は鯛を食いつつ答えた、はじめて食う鯛は実に美味かった。その味舌触りも楽しみながらの言葉だ。
「この町は天下一の町になるな」
「ですな、羽柴様の下で」
「羽柴殿はよき場所を選ばれた」
「前右府様もここに城を築かれるおつもりでした」
 老人は信長の名前も出した。
「あの方も」
「石山の跡地にか」
「そしてこの様な町を置かれるおつもりでしたが」
「そうだったのか」
「はい、しかし」 
 それでもというのだ。
「あの様なことがあったので」
「本能寺のか」
「ですからあの方は果たせませんでした」
「それを羽柴殿が行われているか」
「そうなります」
「どちらにしてもこの地は栄えるべくして栄える地か」
「そうなと。このままです」
 まさにというのだ。
「この町はどんどん栄えるでしょう」
「こうしたものも普通に食せてか」
「凄い町になりますぞ」
「そもそもわしは伊予の生まれで海のものはよく食ってきたが」
 猿飛は老人に言って来た。
「ここまで海のものが豊かな町もないぞ」
「それだけでもですな」
「大きいわ、それに川がまことに多いな」
「船を使うにも便利です」
「そのことも大きいか」
「この地には橋が多くなると殿が仰ったが」
 霧隠は幸村の先程の言葉をここから出した。
「これだけ川が多いと」
「その多さもですな」
「橋が行き来するのに必要じゃからな」
「尋常でない数になりますな」
「そうであろうな、何百と出来るか」
 その橋がというのだ。
「それだけ橋が多い町も他にはないであろう」
「その橋も出来ております」
 現在進行形で、というのだ。 
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