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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第百三話 春の穏やかな一日 後編

 内心ため息を吐きながら、レティの腰に腕をまわして歩く士郎。

(引き離したはいいが、どうしたものか……)

 それにレティ自身も士郎の肩に腕を乗せているの色々と柔らかいモノが当たっているため落ち着くことが出来ない。
 だからといって適当なところで開放してしまうと、またシグナム達のところに行きかねない。

(さて、本当に誰に預けたものか)

 士郎がそんなことを思いながらレティと共に歩いていると

「随分、見せつけてくれるね」
「それもレティ提督となんて」

 自身に火の粉が降りかからないと思っているランディとアレックス。

「まあ、レティさんのような綺麗な方に抱き着かれるのは役得かもですね」
「も~う士郎君、綺麗だなんて~」

 ランディとアレックスに見せつけるように腰にまわす腕に力を入れてレティと密着する。

「全然動揺しないんだね」
「相変わらず落ち着いているね……」

 士郎の行動に苦笑しているランディとアレックスだが

「でも役得は分け合ったほうがいいですよね?
 そういえばレティさん、ランディやアレックスにもお話があったんじゃありません?」
「ん? もっちろ~んあるわよ~」

 士郎とレティの会話に固まり引きつった表情を浮かべる二人。

「ぜひ、この機会にされてはいかがです?
 このような時じゃないとなかなか時間もないですし」

 どのようにこの場を離れようかとソワソワし出すが、もう遅い。

 士郎はレティを二人の前に降ろし

「さあ、付き合ってもらうわよ」

 逃げる暇もなくランディとアレックスはレティに確保された。

 そして、士郎は離れる前にランディとアレックスの耳元で小声で

「一般の方が来ているのでくれぐれもお相手をお願いします」

 押し付け、もとい、くれぐれもというところを強調してお願いする。

(酔っ払っている上司の相手もいい経験と思って諦めてもらおう)

 心の中で手を合わせ、離れる途中で知り合いから食べ物や飲み物を頂戴するのだが、その中にアルコールが入っているのはどうなのだろうかと内心思いながら受け取っておく。

 改めて周りに人があまりいない空間に腰を下ろす士郎。

 この場でのんびりと過ごしている面々を眺めながら、怒涛の一年だったなと改めて感慨に耽る士郎。

 平行世界を渡り、ジュエルシード事件、管理局との交渉、闇の書事件。
 僅か一年の間で大きな事件が二つ。

(こういうのを……トラブルに愛されているとでも言えばいいのだろうか)

 トラブルに巻き込まれる己の現状に落ち込んでいると士郎に近づく気配が一つ。

 無論、いくら平和とはいえ、それを察知できないほど士郎も鈍っていない。

「隣いいかしら?」
「ええ、どうぞ」

 そう言って士郎の隣に腰を下ろすエステート。

「先ほどはレティ提督をありがとう。
 あちらの方は一般の方だったのでしょう?」
「ええ、こちら側とは関わりのない方です。
 まあ、あの手の相手は慣れていますから、気になさらないでください」

 士郎が苦笑して、思い出すのは昔の情景。

 冬木の花見となれば、藤村組の面子が一緒なので規模が凄まじい。
 自然と士郎の酔っ払い相手のスキルが上がったのも道理である。

「そう言って貰えるなら幸いだわ。
 それにしても、こちらの世界ではこんなに大人数で集まるのが普通なの?」
「いえ、さすがにこちらの世界でもこの規模はまずないと思います」
「やっぱりそうなのね。
 でも本局でもこの規模の集まりなんて滅多にないから、局員の労いも兼ねて定期的にやるのも面白いかもしれないわね」
「それは面白いかもしれませんね」

 桜が舞い散る中で、皆が楽しみ、穏やかな時間を過ごす。
 若干、酔っ払った上司に泣かされているのもいるが平和なものだ。

 皆がこの平和な時を迎えることが出来、謳歌できるならと僅かに目を細める士郎。

 だが同時にそれが難しい事も士郎は身に染みている。

 来年、ここでまた花見をした時、誰一人戦いの中で欠ける事のない保証などどこにもない。

「……随分、眩しそうな顔をするのね」

 エステートが士郎の横顔を見つめながら、呟いた言葉に士郎は視線を合わせる。

「ええ、俺には眩しすぎる」

 士郎は再び花見を楽しむ面々に視線を向ける。
 楽しそうにおしゃべりに花を咲かせ、家族との団欒を楽しむ、士郎が守ると決めた人達。

 そして、見つめる自身の右手を見つめる士郎。

「だけど守ってみせる」

 士郎の瞳の中で自身の右手がどのように見えてたかは、士郎にしかわからない。
 だが、その紡がれた覚悟にエステートは何も言えずに見つめるしか出来なかった。

 僅かに重苦しくなった二人の空気。

 それを払うように

「一献、いかがですか?」

 士郎がエステートに差し出すお猪口。

「頂きます。
 ですが、お付き合いいただけるのですか?」
「この国では未成年者にお酒を勧めるのは違法ですが?」
「見た目の年齢が正しいとは限りません。
 私の勘でしたが、違いましたか?」

 その言葉にエステートを見つめる士郎。

 言葉通り勘ではあるのだろう。
 確証は持ってはいない。
 だがそこには士郎の事を調べ、この年齢に対する違和感という確信も持っていた。

「肯定も否定もしません。
 ですが、たまには羽目を外すのも悪くないですかね」

 士郎自身が呑む分のお猪口を取り出し、エステートに注ぎ、お返しにとエステートに酌をされる士郎。

「この穏やかな日に」
「ええ、この穏やかな日に」
「「乾杯」」

 士郎の杯を掲げる言葉にあわせ、エステートも杯を掲げ、ゆっくりと酒を酌み交わす。

 平和で穏やかな陽の下、桜を、少し離れた喧騒を眺めて、交わす言葉はなくともゆっくりとした時間が過ぎる。

 残念ながらそんな時間も長くは続かない。

 というのも

「「士郎く~ん」」

 離れていた喧騒が移動して来たためだ。
 とはいえ士郎もエステートも僅かに苦笑を交わすだけだったのだが、すぐに目を丸くする。

 レティと共に美由希がいたことには気がついていたが

「なんで美由希さんが飲んでるんですか!?」
「飲んでない! 飲んでないよ~」

 その美由希が顔を赤くしてコップを片手にレティと肩を組んでいるのが大問題である。

 二人の後、止めようとしながらも止められずに後から追いかけるようにやってきたアレックス達に少し強めに視線を向ける。

「なんで飲ませてるんですか?」
「いや、わざとじゃないんです。
 ジュースを取りにいっている間にレティさんが飲ませてしまったみたいで」

 頭が痛そうに士郎とエステートが頭を抑える。
 この二人、苦労人という意味では似ているのかもしれない。

「とりあえずお酒を取り上げましょうか」
「はい、未成年者にお酒はまずいです」

 当の本人はいいのかというアレックス達の視線は黙殺する。

「とりあえずコップを」
「いえ、まとめて対応しましょう」

 コップを取り上げようとしたエステートを止め、立ち上がる士郎。

「お二人ともとりあえず座りましょう。
 落ち着いてお話も出来ないですし」
「そうだよ、士郎君!
 最近、家でご飯も食べていかないし」
「リンディのこともあるじゃない。
 色々聞きたいことがあるのよ!」

 意識を自分に向け、座らせることに意識を向けた隙に握られたコップを掠め取り、座らせる。

「それでね、士郎君」
「レティさん、俺より先にエステート補佐官が相談があるそうですよ」
「あら、そうなの?」
「えっ!?」

 士郎のいきなりの言葉に目を丸くするエステート。
 まさか、ここでいきなり振られるとは思っていなかったらしい。

「はい、管理局の提督の立場から、ぜひ意見を聞きたいと」
「そうなの? じゃあ、聞かないわけにはいかないわね」

 真面目にエステートの前に座っているようだが、明らかにその身体は不安定に揺れている。

 視線だけで謝罪する士郎に、ため息を吐きながらレティの相手を始めるエステート。
 意識が離れたことを確認して

「ランディ、水を頼む。
 アレックスはリンディさんを連れてきてくれ。
 このまま相手をさせるわけにはいかないだろう」
「「了解」」

 士郎の言葉にすぐさま走っていくランディとアレックス。
 小学生に指示されるのはどうなのだろうと思っていると

「もうレティさんの相手ばっかり」

 膨れっ面で士郎に抱きついてくる美由希。
 こうなった酔っ払いを引き剥がそうとしても無駄な労力なので、可能な限り自身の身体に触れるやわらかいものを意識の外へと置き

「すみません、美由希さん」

 美由希を抱きしめ返す士郎。
 その際に宥めるように、髪を梳くように優しく撫でる。

「えへへ~」

 するとすぐに膨れっ面からほにゃと緩んだ表情に変わる。

 高校生と小学生だが立場は完全に逆である。

 士郎に撫でられて腕の力が抜けたところで、身体の密着を少し解き、美由希の背後から士郎が抱きしめるように移動する。

 目の前からいなくなった士郎に首を傾げるが、そこは酔っている者。
 後ろからの声と温もりにすぐに身体を預ける。

 その状態になったとき

「お待たせしました」
「もうレティったら」

 アレックスがリンディを連れて戻ってきて

「水を持ってきました」

 ランディが新たなコップ二つとペットボトルごと持ってくる。

 レティの方はリンディにお任せして、士郎は美由希を抱きしめたままコップを口元に持っていく。

「美由希さん、水ですよ」
「うん、ありがと~」

 大人しく水を口にする美由希。

 レティはともかく美由希は既に身体から力が抜け始め、眠りに落ち始めている。
 そのまま士郎はゆっくりと美由希を横たえ始め、自身の膝を美由希の枕とする。

「えへへ、士郎君の膝枕~」
「ええ、このまま少し休んでください」
「ありがと、でも大丈夫……すぐに………起きる…………から」

 膝枕しながら撫でられ、美由希はそのまま眠りに落ちる。
 素直に眠ってくれたことに安堵の息を吐きながらリンディとレティに視線を向けると、リンディに叱られているレティの姿。

「二人はこのままこっちで引き受けるから」
「ありがとう、助かったよ」
「ありがとう、士郎君」

 ランディとアレックスが疲れたように元場所に戻っていく。
 二人には酔っ払いのレティ相手は荷が重かったようである。

「はあ、まったく身内がごめんなさいね」
「構いませんよ。これもまた平和な証拠です」
「それもそうね」

 士郎とエスケートが苦笑していると、膝枕をしている美由希を見つけたなのはが様子を見に来る。

「お姉ちゃん、士郎君に膝枕してもらってって顔真っ赤!?
 お酒飲んじゃったの?」
「レティ提督に飲まされたらしい。
 別に倒れたというわけじゃなくて、眠っているだけだよ」

 士郎の言葉に、ほっとするなのはだが、士郎に視線を向けて僅かに首を傾げる。
 そのまま、士郎の傍に座り、顔を近づけて、鼻をすんすんとさせるなのは。

「どうした?」

 いきなりの行動に首を傾げる士郎だが

「士郎君ももしかしてお酒飲んだ?」
「ああ、エステート補佐官と少し酌み交わした」
「酌み交わしたって小学生だよ!?」

 平然と返答する士郎に目を丸くするなのはだが

「見た目と年齢があってないこともあるさ」
「まあ、そうだけど」

 士郎の反論に、言われてみればと納得しかけるも、納得していいものかとうなってしまう。

「たまの無礼講だ。
 大目に見てくれ」

 なのはを誤魔化す意味も込めて、優しく撫でる。

「もう、しょうがないな」

 しょうがないと言いながら、悩むのをやめて士郎に撫でられるなのは。

 となのはの視線が士郎の美由希を撫でている手に向かう。

「ふむ、なのはも美由希さんの横でどうだ?」
「どうって?」
「膝枕。
 まあ、男の膝枕だから寝心地は保障しないが、もう一人ぐらいなら大丈夫だぞ」

 なのはの顔が士郎の誘いに一気に赤くなる。

「えっと、じゃあ……少し……ほんの少しだけ、お邪魔します」

 ゆっくりと美由希の隣に並び、横になるなのは

 始めは顔を真っ赤にして、視線が交わるのが恥ずかしかったのか目を閉じる。

 その中で士郎に撫でられるうちに、静かな寝息を立て始めていた。 
 

 
後書き
ご無沙汰しております。セリカです。
八月中を目指してましたが予想以上に遅くなってしまい申し訳ない。
意外とお盆時期ってゆっくり出来ないものですね。

さて、これで花見編完結・・・・してません!!
三話でまとめるつもりがどうしてこうなったんでしょうね。

とはいえ次話で花見編も完結です。
その次は遂にPSP編予定。間に幕間を挟むかも?
PSP編久しくしていないから復習しておかないとですね。
ストーリの詳しく乗ってるページとかないかな・・・

ちなみにPSP編は基本的にGODのストーリベースで不足箇所はBOAですすめます。

ではまたの更新にお会いしましょう。

ではでは 
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