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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第百二話 春の穏やかな一日 中編

 フェイトの歌がゆっくりと終わり、その余韻を楽しむようなわずかな静寂。

 次の瞬間、歓声と拍手に包まれた。

「ど、どうも、ありがとうございました」

 顔を真っ赤にして、歓声と拍手に頭を下げるフェイト。

 マイクを美由希に返して、色々な人達からのお褒めの言葉と受け取りながら、元の場所に戻るフェイト。

 そんなフェイトを見つめ

「ふむ、フェイト君なら管理局の広報役にも良いかもしれないな」

 そんなことを呟くクラウン。

「一応、聞きますが、その広報役って戦闘技能のお手本としてですよね?」

 クラウンの呟きに嫌な予感を覚えたのか、士郎が念のため尋ねるが

「一般広報で戦闘技能を明かすようなことは出来ないよ。
 当然、管理局のイメージキャラクターとして、歌ってもらう系だよ」

 さも当然のように告げられる言葉。
 確かに一般広報で戦い方が広く知られるのはよろしくない。

 管理局の局員の人数から考えて、犯罪者がフェイトと直接戦う可能性は低いが、万が一、癖や戦闘スタイルに対する対策を練られていると危険の確率が増す。

 だからといって

「管理局のイメージキャラクターとして歌って広報役をするって局員はアイドルとは違うと思うのですが」
「……アイドル。
 なるほど、アイドルか」

 己の言葉に対するクラウンの反応を見て、士郎は先ほどの言葉が失言であったことを悟る。

「そうなると一人では少し寂しいな。
 なのは君、はやて君も入れて三人組ユニットなどどうだろう?」
「待て待て待て。
 いくらなんでも飛躍しすぎだ。
 本人の意思もあるだろう」

 あまりの案に敬語も忘れて突っ込む士郎。

「む、確かに。
 本局に戻ったら、エステートに調整を頼むかな」

 クラウンの言葉にため息を吐きながら、士郎はエステートにあまり苦労が掛かりませんようにと内心で祈るのであった。

 当然、士郎とクラウンがそんな話をしていることなど露知らず

「はあ、恥ずかしかった……」

 元いた席でまだ緊張で赤い頬を押さえている。

 そんなフェイトの前に最後の一押しをしたシグナムが座る。

「テスタロッサ」
「は、はい」

 そんなシグナムに緊張した面持ちで見つめるフェイト。

「いい歌だ。
 お前は歌がうまいんだな」
「あ、ありがとうございます。
 シグナム」

 だがそれもシグナムの一言で安堵と嬉しそうで、だが少し恥ずかしそうな笑顔を見せる。

 それを合図に回りにいたシャマルやアルフ達がフェイトの歌を褒め、さらに顔を赤くしていくフェイト。

「よい歌を聴くのは好きだ。
 よければこれからも時々聴かせてくれるか?」
「まあ、ご希望でしたら」
「それでいい」

 そんなシグナムとフェイトのやり取りに乗っかろうとする者もいたが

「褒めるのを悪いとは言わないが、その辺でな。
 フェイトがのぼせてしまうぞ」

 士郎がそんなフォローをしつつ、フェイトに冷えた新しい飲み物を渡し、優しく頭を撫でる。

 言葉こそないが士郎の思いは伝わったのか、冷たい飲み物で火照りを冷まし、フェイトが嬉しそうに笑う。

 そんな二人どこか通じ合ったやり取りに逆に好奇心を刺激されている面々がいるのだが、気がつかない振りをして、また調理に戻っていく士郎。

「衛宮の言うとおりだな。
 しかし、お前はいい加減その言葉遣いをやめろと言うのに」

 士郎の言葉に頷きつつ、いい機会だと話を変えるシグナム。

 というのが闇の書事件が終わり、管理局の局員として共に働き始めてもフェイトの言葉遣いが固いのだ。
 はやてと守護騎士を除くとシグナムと一番交流が多いのはフェイトであり、闇の書事件の時からお互いを意識していた相手である。

 故にシグナムは丁寧語をやめろと機会があるごとに言っているのだ。

「そんな事言っても、年上の人には丁寧語というのが家の家庭教師の教えなんですよ」

 そんなフェイトの言葉にどこか納得しきれないシグナム。

「まあ、あれです。
 模擬戦の勝率が五割を超えるようになったら胸を張って対等に話せますかね。
 えへんと」
「それじゃあ、一生無理だろう」
「無理じゃないです。
 まだまだこれから身長も魔力も伸びますしね」
「身長が伸びたぐらいで強くはならんが、私も立ち止まってはいないからな。
 せいぜい走って追いついて来い」
「はい!
 なるべく早めに、追い抜くつもりで」

 珍しく強気のフェイトの言葉に一瞬、シグナムが目を丸くするが

「ふ、生意気な」

 すぐに嬉しそうに笑みを浮かべるのであった。

 そんな二人のやり取りをどこか嬉しそうな笑みを浮かべながら、フェイト達への追加の料理を皿に盛り付けていた士郎だが、なにやら視線を感じて横を向く。
 そこにはなにやら顔を赤くしたアリサとすずかが士郎を見つめていた。

「どうしたんだ?
 二人とも」

 そんなにじっと見られている理由が見つからず首を傾げる士郎。
 それと同時に意識を復活させるアリサとすずか

「な、なんでもないわよ」
「う、うん」

 焦ったように明後日の方向に視線を逸らすアリサと誤魔化すように笑うすずか。
 ますます首を傾げる士郎だが

「レティさんが一本空けちゃって追加のワインを取りに来たのよ」
「うん、とりあえず向こうにはないお酒みたいだから一通りもって行こうと思って」
「一本空けたって、大丈夫なのか?」

 あまりのペースに士郎も僅かに眉をひそめるが

「すごくケロッとしてたけど」
「だね。
 リンディさんも底なしって言ってた」

 二人も士郎と同じ意見なのか、苦笑していた。

「じゃあ、アリサちゃん、すずかちゃん。
 レティさんにこれを持って行ってあげくれ」

 そんな会話を聞いていた高町士郎が白、赤、ロゼとワインボトルを差し出す。

「あと、ついでで悪いんだけどそちらに合流してもいいですか? と伝えてもらえるかな?
 クラウンさんとだけじゃなくて、レティさんやリンディさんとも話をしたいからね」

 高町士郎の言葉にアリサの父親も頷く。

「わかりました。
 伝えておきますね」
「なら私の母も誘っておきますね」

 アリサとすずかの言葉に頷いて二人を見送る父親達。

「さて、コップの中身を飲み干して行きますか」
「では私は高町さんたちの奥様と合流させていただきましょうか。
 プライベートとはいえ提督達が固くなるといけませんからね」
「クラウンさんにお気を使わせて申し訳ない」

 コップの酒を煽り、立ち上がる男性陣。

「でしたらこちらを手土産に」

 いつの間に用意したのか料理が載せられた大皿が二つ。

「シロ君、ありがとう」
「これで合流しやすくなりますね」

 士郎(父)達とクラウンがそれぞれ皿を持って目的の場所に移動を開始した。

 それと入れ替わるように

「シロ君、ごめんね。
 調理を任せっぱなしにして」
「いえ、大丈夫ですよ。
 そっちも一段落ですか?」
「何とかね」

 美由希達がやってきた。

「士郎君もずっとここ任せきりだから食べてないし、挨拶も出来てないでしょ?」
「だな。
 ここは引き継ぐからい少し休んでくれ。
 ただでさえ君は向こうでも働きすぎなんだから」

 エイミィとクロノの言葉に働きすぎなのはお互い様ではと内心思いながらも、挨拶がちゃんと出来ていないのも事実なので

「ならお言葉に甘えて、ちょっと行って来る」
「「は~い、ごゆっくり」」

 いそいそと早速調理に取り掛かるクロノと手を振るエイミィと美由希に見送られて士郎も移動を開始した。

 そして合流したのは

「こうして、はやてとのんびりするのも久しぶりだな」
「そやね。
 士郎君も最近忙しいもんな。
 てか学校にアルバイトに管理局と普通の社会人より急がしいんと違うの?」
「私もそう思います。
 主はやてからも言って下さい。
 家に帰ってからも魔術の鍛錬などで、見ているこちらが心配になります」

 はやてとリインフォースの二人組。

 守護騎士の面々も挨拶に行っており、はやてとリインフォースも挨拶が一段落しているところに士郎が合流した形である。

「それにしてもリインフォース。
 士郎君の騎士なんやから私の事を主って呼んで、士郎君を名前で呼ぶのはどうかと思うんや。
 私の事もはやてって呼ばん?」

 三人で他愛もない話をしながら、料理を摘んでいる中で、はやてがリインフォースに切り出した。

「契約こそ無くなりましたが、夜天の主として主はやてをお慕いしている事は代わりません。
 それに士郎は好きに呼べばいいと特に気にしていないのですが」

 リインフォースの言葉に、はやては士郎に本当に? という意思をこめて視線を向ける。

「ああ、呼ばなくてもリインフォースが主として認めてくれない、なんてこともないしな。
 それに稀に呼ぶこともあるぞ」
「そかも知れんけど。この前、街中で主呼ばれて周りの皆様の視線がな……」

 銀髪の美女に主と呼ばれる小学生の女の子。
 視線を集めないわけがない。

「確かにな。
 一般の方や石田先生の前などで主と呼ぶとな。
 管理局での仕事の時のみで普段は名前で呼んだらどうだ?
 管理外世界で目立たないようにするのも大切だぞ」

 士郎の言葉に同意するように頷くはやて。

「士郎と主、もとい、はやてがそう言うのでしたら」
「まあ、癖で言いそうになるだろうが、少しずつ慣れていけば良いさ。
 丁度、来られたみたいだしな」

 士郎が横に視線を向けた方から

「はやてちゃん!!
 ごめんなさい、遅くなっちゃった。
 士郎君とリインフォースさんも、こんにちは」

 石田先生がやってくる。

「あ、石田先生、いらっしゃい」
「「こんにちは、石田先生」」

 そんな石田先生に挨拶をするはやて、士郎とリインフォース。

「なんだかすごい人数ね。
 それにすごくいい場所」
「色々ご縁がありまして」

 石田先生とはやてはのんびりと話し始め、リインフォースはシグナム達に石田先生がこられた事を念話で伝える。

 そして、士郎は周囲に視線を奔らせていた。
 というのもこの中で唯一、管理局などの存在を知らない完全な一般人である石田先生である。

 下手に教えて巻き込むリスクを生む必要もないので、近くにいる者達の酔っ払い具合を把握していたのである。

 その間に一番近くにいたヴィータがやってきて、飲み物と食べ物を確保すべく再び離れていった。

「石田先生、今こういうこと言うんやあれですが、治療中は色々とお世話になりました」

 そのタイミングを見計らって、はやては石田先生に近づいて頭を下げる。

 それは呪いという治療では完治させることが出来ない病魔に絶望していたはやてを諦めず、支えてくれた感謝の言葉と想いであった。

 まだシグナム達という家族も居らず、ただ一人で病魔と闘っていた少女とそれを支え続けた医師。
 二人のやり取りに水を差さないように士郎とリインフォースは静かに少し離れて見つめていた。

 そうしている内に、シグナム達と大量の食べ物と飲み物を抱えたヴィータが戻ってくる。

 もって来た食べ物や飲み物を広げて準備している間、はやては改めて石田先生に向かい合う。

「石田先生、お医者さんとはちゃうけど、先生とよく似たお仕事をすることになると思います。
 悪いところ抑えて、ええところはええままでいられるようにするお仕事です。
 その時、私みたいな不良患者に辛抱強く接してくれた石田先生の事、きっと思い出します」

 一般人である石田先生に話せる範囲での精一杯のはやての覚悟。
 あまりに曖昧すぎるそれを、ただ理解は出来なくとも思いを感じ取るように真っ直ぐ見つめ、受け止める石田先生。

 とはいえ、はやての治療完結とも取れる宣言には釘を刺しておくのは、はやての事を真剣に考えてくれているからなのだろう。

 そこに、八神家と石田先生の穏やかな場に乱入者が現れる。

「おお~、いたいた~」

 普段の落ち着いた感じとは違い、身体はゆらゆらと揺れ、顔は赤く染まっている。

 アレはまずいとシグナム達が感じた時、それは既に動いていた。

「ヴォル、おっ」
「大丈夫ですか? レティさん」
「あら~、士郎く~ん」

 もやは完全に酔っ払っているようで、一般人の石田先生の前でヴォルケンリッターと叫ぼうとしたレティの腰に手を回しを抱きしめるように支える士郎。

 もっともレティがバランスを崩したのは士郎が抱き寄せたからなのだが、余計な発言はさせまいとする士郎の咄嗟の機転である。

「そういえば最近、落ち着いて話せていませんでしたよね?」
「そう~ね~。相変わらず忙しくてね~」
「付き合いますから、向こうに行きましょう?」

 興味を士郎自身に向けさせ、会話の主導を握る士郎。

「それならあの子達も」
「後で連れてきますから、二人だけのほうが話しやすいこともありますし、何より色々相談したいこともありますから」
「そう? な~ら、行きましょう!
 また後でね~」

 やけに手馴れた動きで酔っ払ったレティを誘導する士郎。

 士郎の手際とレティの酔っ払いぶりに半ば唖然としながら見送るはやて達であった。 
 

 
後書き
皆様、ご無沙汰しております。

前回の更新からおよそ十ヶ月。
おそ~くなってしまい、ホントごめんなさい。

そして、感想などで『待ってます』といった暖かいお言葉、本当にありがとうございます。
一度止めてしまったものを始めるにあたって一番の動力だったと思います。

さて、私のリアルのほうですが、忙しさが落ち着いたかと思えば、また始まる新たな忙しさで泣きたい位でしたが、ようやく徐々に落ち着きつつ、執筆をしています。

そして、やっぱり継続って力ですね。
久々に執筆していて、最初に思ったこと、それは・・・鈍ってる&忘れている
書くときの感覚というのか、話の組み立てがもうひどい。
それに書く前に自身の過去書いていた話をしっかりと読み直さないと自分自身忘れてしまっていることが、まあ、出て来る出て来る。

自分自身の錆落としをしながら、また更新を再開していきます。

次回の更新は未定ではありますが、翌月の八月には更新したいと思います。

それではまた次回にお会いしましょう。

ではでは 
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