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夜空の星

作者:みすず
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突然あいつに…

 隣のニール家の屋敷に着いた。
 もし正門から入っちゃったら、ニールさんに見つかって面倒くさい事になりそう。
 裏門から入ろう。
 あたしは門をくぐった。
「やっぱり何度来ても広い庭ね…。」
 さすが、一応名門なだけあるわ。こればっかりは認めるしかない。
 小さい頃はここは遊び場だった。
 サラがいない時でも構わず一人でここに遊びにきてたっけ。
 ロビンを探しながら歩いていると、花壇の近くに小さいブランコを見つけた。
「懐かしい!これで遊んでたなぁ。」
 パイの箱を膝に乗せながら、思わずブランコに乗った。
「うわー、こんなにちっちゃかったんだ!」

 その時突然。
「後ろから押してやろうか?」
 ブランコの勢いが急に強くなった。
「きゃあっ!」
「驚きすぎだろ。」
 ロビンが笑いながらブランコの勢いを抑えた。
「ロビン、驚かさないで!」
「そっちこそ、お前の人影が部屋から見えてびっくりしたんだからな?よく親父に見つからなかったなぁ。」
 ロビンは着替えていたようで、服装も変わっていた。
 そう言いながら、後ろからゆっくりブランコを押す。
「裏門から入ったのよ。」
「そうだったのか。ガキの頃はよく遊んでたな、ここで。」
「そんな時もあったわね。」
「……。」
 ロビンが急に静かになった。
「?」
「俺らの親父が仲が悪い理由、知ってるか?」
「えっ?どうして急にそんな事聞くの?知らないけど…。パパは教えてくれないもの。」
「せっかくの機会だし、教えてやるよ。」
 ロビンはそのままブランコを押しながら話し出した。

「お前の母親のシェリーさんは、学生時代に親父ら二人に好かれてた。三角関係だったんだ。それで、シェリーさんが選んだのはトムさん。俺の親父はお見合いで俺のお袋と結婚した。しばらくは平穏だったらしいけど、シェリーさんが病気に掛かったこと覚えてるだろ?」
「うん、忘れた事なんてない。病気が判った時点で医者も匙を投げるほどに病状が進行していて、もう助かる見込みもないって言われたんだもの…。」
「シェリーさんがその後亡くなってから、また仲が一気に悪くなったんだ。俺の親父は
 “自分と結婚していれば、シェリーさんは死ななかった筈だ”って。そしてトムさんは
 “選ばれなかった奴が、何を言う”と反論して言い争い始めた。」
「そんな…!言い争ったってママはもう帰ってこないのに、なんて悲しい事を…!」
「俺は親父の言う事も一理あると思ったけどな。少なくとも医療にお金も掛けられただろうし。」
「それは違うわ!ママは確かにパパと一緒に雑貨店を切り盛りして大変な時もあったと思うけど、ママはいつも幸せそうだった!あたしたちにも沢山の愛情をくれたし、病気になってしまった時だって、“パパの傍にいられてすごく幸せだった”って言ってたのよ!?」
「俺の親父だって、シェリーさんを断腸の思いであきらめたって言ってたぞ!後悔しているって、今でも悔しそうにさ。」
「あたしたちのパパだって、ママが亡くなってからどんなに元気を無くしてたか、あんたは知らないでしょ!?当事者に向かってそんな言い草、ひどすぎる!10年近く掛けてあたしたちを一生懸命育てて、クリス姉さんやサラを結婚させる事ができて、やっと傷が癒えそうになってるのに!ニールさんの方こそ全然ママのことをふっきれていないじゃない!」
「当たり前だ!好きだった人を守れなかった上に、お前みたいな乱暴さや図太さだって持ち合わせてねえんだから!」
「…!」
 バシッ!!
「イテッ!」
 あたし、怒りのあまりに思わず立ち上がってパイの箱をロビンに投げつけてしまった。
「言っていい事と悪い事があるでしょ!?あたしのどこが乱暴で図太いっていうのよ!ひどい!!」
 あたしは裏門に向かって歩き出した。
「おい、何だよこの箱は!?」
「あたしが作ったレモンパイよ!風邪引きたくなかったらさっさと食べちゃってよね!」
 そのまま帰ろうとすると。
「待てよミレーヌ!」
 ロビンが箱を置くとあたしを追いかけ、腕を掴んだ。
「放して!いろいろ助けてくれて嬉しく思ってたのに…。人の気も知らないで勝手な事ばかり言っちゃって!」
「……。」
 腕を掴まれたまま、近くの木に寄せられた。
「ちょっと…!やめてよロビン、放してってば!」
 驚いてロビンの顔を見上げると、いつになく真剣な表情をしている。
「お前はずるいよ。」
「何言ってんの?お願いだから放し…!?」

 ロビンがあたしに……キスをしてきた。

「んっ…!!」
 言葉が…出せない…!!
 体が固まって…何も動けない…。
 ロビンはキスをしながらあたしの頭や頬を撫でると、背中に腕を回してきた。
 まるで恋人にするような優しい触れ方に困惑し、離れようとしても余計に抱きしめられて、身動きが取れない。
 次第に抵抗する気力を失ってしまったけど。
 一瞬だけ唇が離れ、何とか言葉を話せた。
「ロビン、どうして…?」
「お前が悪い。すげぇ気持ちいいけどお前は?」
「わかんないよ…。」
 ロビンが顔を赤くして聞いてきたのが、あまりにも意外すぎて、あたしは何も言えなかった。
「本当にずるいな。」
 するとロビンは再びあたしの唇を塞ぎ、キスの続きを始めた。
 あたしはしばらくの間、抱きしめられキスをされたまま動けなかった…。

 やがて、ロビンがキスをやめて、耳元で囁いた。
「こんなかわいい事されたら調子狂うだろ。ずっと我慢してたのに…。パイはもらっとく。お前も早く帰れ!」
 そう言うと振り向くこともなく、ロビンは箱を持って屋敷に戻っていってしまった。
 あたしは…放心したまま立ち尽くしていた。

 今…何が起こったの?
 ロビンがあたしに…ウソでしょ?
 あたしのファーストキスが、あいつに奪われるなんて。
 でも、全然いつものロビンじゃなかった。
 一人の…大人の男の人だった。
 
 

 
後書き
次回へ続く 
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