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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第44話 悪魔と契約



 突如、酒場に現れた女性は正に自他ともに認める? 神の使いだろう。
 その神秘的な姿。現れたと殆ど同時に、周りは暗い筈なのにああ……ロゼの後ろに後光が射してみえる……。


――……ああ、彼女はまさに神の使い……。まさに今、ここに女神が舞い降りた……。

 
 その有難い光景に皆が膝をついて拝む姿勢に入る。


「って、んなわけあるか!」

 ユーリは、さっさと 酒場の灯りをつけ直し、そして ロゼの後ろで点っている魔法ランプの光を消した。自分でいつの間にか、皆に気づかれない様に登場を演出をしたらしい。やはり 彼女は相変わらずなのである。

「あぁんっ、んもう、いけずなんだから!」
「やかましいわっ!」

 何故か、モジモジとさせながらそう言っているロゼ。全くをもって似合わない仕草だろう。ユーリは、とりあえず、何処からともなく取り出したハリセンでロゼに1発ツッコミを入れていた。

「何を、漫才をしてるのだ。貴様らは」
「あ、お久しぶりです。ロゼさん」
「カスタムの方でしたか……ん? でも なんでココに? たしか、カスタムは今は包囲されてる筈じゃ……」

 突然のロゼの登場に呆気にとられていた3人だったが……、とりあえずいつもの調子に戻っていた。
 そして、かなみの疑問はユーリも聞きたかった事だったが……あまりにインパクトのある登場だったから、訊く事は無い。……かなみにとってそれは僥倖、と言えるだろう。恐らくは直ぐにバレてしまうだろうけれど、これみよがしにからかわれるのは目に見えているから。

「ふっふっふ~。まぁ、当然の疑問よね? ま、あの子達って本当に頑固だからさ。『誰かに、何とかして欲しいわ~』って 思ってココに来たのよ?」
「……逃げてきたんじゃないのか? それ」
「あははー。そんなわけ無いじゃないー(棒)」

 ロゼは、どうやら逃げてきたみたいだ。

 現実主義である彼女にはありがちなパターンではあると思えるが……。ランスは、ランスで助けを求めに来た(自分に)と思っちゃったようだ。

「がははは、英雄であるオレ様に助けを求めに来たのだな? よし! 報酬はお前の身体で良いぞ?がははは」
「ん~、ランスは たーしかに 体力はあるんだけど、テクがイマイチだしね~。やっぱ Hは悪魔と相場が決まってるから。あ、勿論 ご寄付を頂けるなら、喜んで昇天させてあげますわよ♪」

 ロゼは、ランスに、と言うより、ランスのテクに全く興味が無い様にそう言う。その時、ランスはロゼの事を完全に思い出していた。

「……そうだった、お前はシスターの癖に教会で悪魔とHをしてたキチガイ破戒僧だったな」
「キチガイとは失礼ね。悪魔の方が私を満足させてくれるだけよ? だって、体力も違うし、アソコの形、大きさもまるで違う。ピンポイントなのよね~。私の?????に更にフィットして✖✖✖のあれが……etc」
「バカなことばっか言わないで本題に入れ、本題に」

 ロゼは、放送禁止用語をバンバン使っている上に終わりそうにないから、ユーリは再びハリセンでロゼを叩いて先へと誘導させた。

「どうせ、戦争から逃げてきたんだろう? シスターは、戦争で傷ついた人たちを助けたりするのが、仕事だろうが。カスタムの奴らを見捨てて来たのかよ」

 ランスにしては、まともな事を言うものだ。
 ランスが神官だったら、絶対にロゼのよーになりそうだと思えるのだが。

「そんなのナンセンスよ? 慈善事業は今時どこの国の神官だってしてないし~。ユーリだって知ってのとおり、AL教だって、中身はどろっどろなんだから。特権使って優先的に安全なところに逃げるのが流行りだし。後は安全なところで戦争を非難することが仕事」
「あーつまりは、根っからの現実主義者って事だろ? まぁ 確かに間違えては無いが、心情的には同意しかねる」

 ユーリは、ロゼにそう言っていた。
 つまりは、あのカスタムの皆を見捨ててきたと言っているも同然なのだ。……だが、それがロゼの本心なのか?と思えば簡単に首を縦に振ることは出来ない。何だかんだで、色々と世話をやいてくれているのは事実だからだ。以前のカスタムでの戦いでもそうだった。

「あっはっはっは! ま~、あの町には、からかいがいのあるコが多いからね? 私としては、ユーリやランスのよーな人を探してたのよ? 無償で街を助けてくれる正義の戦士さんたちを」
「おいコラ、誰が無償で働くか! 報酬はしっかりと頂くぞ」
「えぇ 早くにスポンサーを見つけてこの自由都市にも私の教会を立てて、寄付金でがっぽがっぽ~生活が出来る様になったらね? 今はスッカラカンだし、どこかに金持ちで、神を信じてる馬鹿がいないかしらっと探してる最中」
「……流石のオレ様もお前には引くわ」

 ランスをも 引いてしまう程の女シスターロゼ。やはり恐るべし……といったところだろう。

 だが、それよりも 今はカスタムの状況だ。

「あー、はいはい。物欲しそうな顔しなくても教えるわよ。ヘルマンの大軍がせめて来てるけど、マリアや志津香が中心になって果敢に防衛をしてるわ。ふふ、あのコ達も《誰かさん》にもう一度会うまでは死ぬもんですか! っとかなんとかって言ってたわよ?」
「がははは! それは勿論、オレ様だな! 可愛い所もあるではないか、マリアに志津香は」

 ランスは、腰に両手を当てながら、いつも通りのがはは笑いをしていた。
 そしてこれは、簡単に想像出来る。志津香が盛大にランスにツッコミを入れるか、もしくは魔法。主に炎を飛ばしてランスを焼いている姿が。マリアは、否定しつつも、何処か満更でもない様子が。

「はいはい。そうだな。待ってる女の為にも頑張らないとな。オレに負けるなよ」

 ユーリはランスを乗せようとする発言に切り替えていた。

 今回はロゼがいるのだ。

 これまで通りの作戦で行けば、どうなってしまうのかわからない。変に広げられてしまう可能性が高いのだ。1言えば10は、内容が変わっているのが、ロゼなのだから。……それって、最初の内容と全く違う、と言う事だから 捏造じゃ? と思える程。

「ふふ、まぁ半分は正解だけどね~。流石はユーリ! 私が鍛えたダケの事、あるわね~?」

 ロゼは、ニヤニヤと笑いながら見ていた。

 勿論、2人には気づかれない様に。

 遠くから見守り……もとい、付かず離れずに 茶々を入れるのがやっぱり面白い。
 ユーリには何言っても信じてくれそうにないから、やはり あのコと一緒にいる時にからかうのが一番だとロゼは改めて思っていた。昔から散々からかいまくってきた事もあるだろう。他人に好意の目で見られたとしても……、自身の顔面に自信が持てない、と言うのが無意識下に脳裏に浮かんでいるようだ。だからこそ、真知子やトマト、志津香、ラン……そして、このかなみの好意もサラリと受け流してしまっているのだと思える。

 更に絶対に他にもいるだろうとも……。

「さっきから、何をニヤニヤ笑ってるんだ? 早くカスタムへ入る方法を教えてくれ。正面突破は、戦力を分散させると言う意味ではカスタムの皆には都合が良いかもしれないが、流石に無理だ」
「まっ、いくらユーリでもそれはキツそうね」
「キツいくらいで済むならそちらを迷わず選ぶがな」

 ユーリはそう言うと、ため息を吐いていた。

 等のロゼもその辺は重々察している。
 以前には指輪で強化された最早、人間じゃなくなっているラギシス。そして、AL教の実行部隊であるテンプルナイツ。それら相手に戦って生きているユーリの腕を知らないわけじゃないが、状況が違いすぎるだろう。ラギシス程の相手はいるとは思えないが、一体多数では、どうしても限界があると考えてる。

「この町とカスタムの間には、悪魔回廊というのがあってね。私はそこを通ってきたの。対価は私! ああ~楽しかったわよ」
「……悪魔と言う名が出て楽しいと言ってのけるシスターはお前以外他にはいないだろ、絶対」
「おい、そんな事より、何故悪魔の通路を通れば楽しいのだ? 何かエロいイベントでもあるのか? 美人悪魔ちゃんがいるとか」
「ふっふっふー、ま、私が会った悪魔はぜ~んぶ男! 残念でした」

 ロゼは、にやっと笑ってそう言うと、ランスはあからさまに嫌な顔をした。人間であろうが悪魔であろうが、男はいらない。といった具合だろうか。

「オレ様、帰る」
「おー、そーかそーか、帰れ帰れ。オレが後はヤっとくから。別に行きたくないなら、も 良い。じゃあな」
「むっかーーー!! 貴様っ! さっきからオレ様に失礼じゃないか!」
「お前が何度も何度も帰る帰るって、言って聞かないからだろうが! 行く気があるなら何度も言うな」
「ガキにはわからん大人の悩みと言うものがあるのだ! お前には一生わからん!」
「アホなこというな! 《面倒+男の悪魔》ってだけだろうが! 男しかいないから、やる気が削がれただけだろ!」
「なにっ!? よくわかったな、猪口才なっ! ガキのくせに!」
「オレの方が歳上だ!! 敬え! クソガキ!」

 ランスとユーリは、やいのやいのと言い争っている。
 当人同士は、結構な喧嘩だと思っているのだが、傍から見たら……。

「あ~ら? なんだか、仲良しになってるの? この2人。似た匂いがするのかしら?」
「あ……ははは。私もそう思えてきてますよ。ランス様も何処か楽しそうで……」
「はぁ……、ユーリさんとランスを一緒のくらいにして欲しくないけど……」

 3人はその2人を見て其々そう感想を言い合っていた。

 仲良しかどうか……? と言えば、はっきりと肯定は出来ないのである。そして、話を元に戻そう。

「でね? 悪魔回廊には凶悪な悪魔たちが無数に存在するみたいだわ。特に所々にいるリターンデーモンたちは最強って言っていいわね。そんな彼らが大好きなのが人間の女。あ~、思い出しただけで濡れちゃうくらいの快楽! 何体ものデーモンに抱かれちゃったの。そして、ここまで来たって事」
「……そりゃ、お前にしか出来ない芸当だな。他の連中は死んでも嫌だろう」
「当たり前だ! 他の女たちは皆オレ様の女! 腐れ悪魔にやる女など1人もおらん! それにロゼは、まったくとことんまで、悪魔とのSE○が好きなんだな。……その上性格まで難あり。結構可愛いくせにもったいないぞ」
「あら そ~お? 褒め言葉として受け止めておくけど、私 悪魔とじゃないともう、感じないから、お断り」
「誘ってないし、褒めてないわ! オレ様のハイパー兵器でも、貴様には勃たんわ!」

 ランスは、ロゼは抱かない宣言をした。
 それはそれで、ユーリとかなみは少し驚いた表情をしていた。

「……珍しい絵を見たな」
「ランスが女の人を抱かないって言うのは……、でも、ロゼさんは……」
「かなみのその感覚は間違えてない。ロゼが特別だって思ってればいいさ。いろんな意味で」

 ロゼは、おそらくはその悪魔の通路での事を思い出しているのだろう。身体をくねらせながら悶えている表情をしていた。

 ……本人が楽しいなら、何も言う事はない。

「とにかく、その悪魔の通路を通ればいけるんだな?」
「ええ、勿論。んん、そーだそーだ」

 ロゼはニヤリと笑った。
 それだけで、大体は理解しているのはユーリだ。

「はいはい。ほら、案内を頼むよ。丁度300くらいしか無いが良いか?」
「ま~いどー! さ~すが、ユーリね~? 私達、通じ合ってるのかしら?」
「っっ!?!?」

 かなみは、その言葉を聞いて動揺をしてしまう。ロゼと言う人物像は大体は把握してきたつもりだが、ランスとの会話では決して出なかった言葉がユーリでは出てきている。……ひょっとしたら、ライバルとなるのか?と思ってしまったようだ。

「勘弁してくれ。苦い思い出が多すぎだ。これ以上は嫌だ。通じ合いたくない」
「あ~ら、つれないわね~。でもまっ! アンタと一緒だと退屈しないのよ」

 ロゼはそう言うと、かなみに耳打ちをする。

「ふっふっふ~、貴女、彼を狙ってるみたいだけど 正直、茨の道よ? 茨っていうより 剣山? マグマの上? ま、言えるのは、これから通る通路よりずっと凶悪で険しいって事」
「っっ!?!? な、何を……っっ!!? あ、あったばかりなのに??」
「……バレないとでも思ってるのかしらね? このコは」

 あからさまに動揺しまくっているかなみを見て、思わず苦笑いをしてしまうロゼだった。
 そして、新たな楽しみが増えて喜ぶのだった。







~カンラの町 武器屋~


 ロゼを含めた一行は、まず武器屋へと足を運んでいた。
 ユーリや、かなみは兎も角、ランスは金の為と自身の武器防具も売り払っており、最低限の装備しかしてないのだ。……ランスは良いとしてもシィルには酷すぎると言う事で、武器屋へと入っていた。

 そして、入口を潜った先にあったもの。それは……。

「おおおっ、いい女が着替え中じゃないか!!」

 ランスは鼻の下を伸ばして見入っていた。
 カウンターには、こちらに視線を向け、着替えを見せつけているような女の子がいたのだ。と言うか……これは実物ではなく。

「違うだろ? これはポスターだ」
「へ?」
「あ、そうですね。店員さんは、その隣にいる小さなおじさんですよ」
「そーそー、ここって、このポスターを売りにして客足を増やしてるのよ? まっ 飽きられそうだけど、結構入りは良いみたいだけどね?」

 ロゼが色々と説明をしてくれた。
 ユーリとしては、初めて来たわけじゃないが、話題性と言えば、このしゃもじオヤジの方がデカイと思えるが……、これも慣れれば同じなのである。

「はい。まいどまいど。沢山武器を買ってくださいね?」
「オレ様としては、そのポスターが欲しいぞ」
「ああ、これは私の宝物なんですよ。雑誌に載っていたグラビアのカラーコピーで、更に拡大して大きくしたんです。……高かったので勘弁してください」
「武器を買え、武器を」
「ふん。もう既に選び終わってる」

 ランスはそう言うと、刀をカウンターの上に置いた。見る限り、かなりの業物のようだ。

「お前……値段見て選んでるか? 持ってるんだろうな?」
「がはは、馬鹿言うな。払うのはお前だお前」
「何度も同じパターンじゃ、飽きられるだろ?この刀……、村正は5000GOLD。んな 金は無い。あったら、速攻で聖剣と聖鎧を買い戻してる」

 ユーリはため息を吐きながらそう言っていた。
 ここまでで、モンスターたちを屠っているが、そこまで金額が得られたわけではないのだ。ランスの所持金=ユーリの所持金と言っていいくらいの値段しか無い。否、あの依頼の報酬は全額ランスが握っているから、ユーリにはランス程の金はないのだ。

「ちっ、使えん下僕だ」
「働かざるもの、食うべからずとも言うだろ。これくらいの良い武器が欲しいなら、もっと働け」
「剣は食えんわ。馬鹿者」
「……例えだっつーの」

 ユーリはため息を吐いていた。
 ランスのとの言葉のキャッチボールは結構続くから、疲れてしまいかねない。……まんざらでもなさそうな時もあるが、それは置いておくとしよう。

 その後色々と一悶着はあったものの、装備を整える事は出来たようだ。


□ ランスは《ロングソード②》
□ かなみは元々持っていた《忍者刀 コテツ》
□ シィルは《魔法のアイス棒》
□ ロゼは、戦う気はサラサラ無いため、いつも通りのローブのみ。
□ ユーリは、《妃円の剣》《忍者刀 サスケ》そして、セカンド武器として袋の中に《幻獣の剣》


 それらを装備して、悪魔の通路へと向かっていった。





――丁度その頃。




~悪魔回廊 入口前~


 そこには、何処か哀愁を漂わせている者がいた。

「うぅぅ……、フィオリ様……殺生ですよぉ……」

 ぐすっ……と、涙目を浮かべながら愚痴ってしまう女悪魔がそこにはいた。
 ロゼが通っていた時にはいなかった女の悪魔だ。

「っ……それもこれもあのランスのせいだ! 私の初仕事を台無しにした上に、こんな下っ端にさせられて……。あぁ……六階級だったのに……五や四だって、すぐだって思ってたのに……」

 人生とはそんなものである。
 思ったとおりにいかないのが、人生であり、山あり谷あり……と言いたいのだが、彼女にとっての谷は、まだこの程度ではない。寧ろ浅すぎると言うものである。

「ぶるっ……、なんだろ? 変な悪寒が……」

 悪魔なのに、悪寒を感じる時があるようだ。
 彼女もどうやら、《天の声》を察する資質?があるみたいだ。……何故だかわからないが、彼女に不快感を与えたようだ。

「ああああ!!!! もうっ! 今度あったら 八つ裂きにしてやるぅぅ!! 切り裂いて、魂引っこ抜いてやるぅぅぅ!!」

 魂は、そうやって、奪えるモノでは無い気がするが……、おいておこう。奪える悪魔もいるかもしれないが、彼女はどうなのだろう? 判らないので、こちらもおいておこう。

 この吠えてる悪魔。

 ……そう、彼女こそカスタム事件で出会った《悪魔フェリス》

 ランスが手に入れた札によって、召喚され、更には人間にヤられてしまうと言う醜態をさらし、その上に契約を破棄されて……、その事が原因で上司に降格処分を言い渡された。この時点で不幸と言えるモノだが……。彼女を待っているモノは更に深く、重く、大きい。

「……絶対に返り咲いてやるっ!」

 ぐっと拳を握り締めるフェリス。……だが、彼女は知らない。

 これまでの不幸がまるで、お子様ランチと思えるような、濃厚なディナーが。……濃厚な不幸が迫ってきている事を。



~悪魔回廊 入口 ~



 ランスたちは、ロゼの案内通りに悪魔の通路へと到着した。

「はいはい。ここがそうよ? まいどー」
「『ここから先は、追加料金発生します』 とか言わないよな?」
「ん~、言って欲しい?」
「いや、所持金が少ないんだ。リーザスを解放するまで待ってくれ」
「おー、そりゃ、たんまりと貰えそうね。期待しとくわ」

 ユーリとロゼがやり取りをしている時、ランスとシィルは一足先に入口の方へと向かった。

「ふむふむ、ここにオレ様の女を狙う腐れ悪魔がいる場所か」
「あ、ランス様、あそこに誰かがいます」
「何? むむ……、女の子だな? がはは オレ様を出迎えてくれているようだ!」

 ランスは、そう言うと意気揚々と奥へと進んでいった。

「ユーリさん、入口に誰かがいるみたいです」
「ん? 入口に? ……門番みたいなのがいるのか?」
「いーえ? 私が通ってきた時は誰もいなかったわよ。いたのは 巨根悪魔たちだけ」
「そんな情報はいらん」

 そう言うと、奥へと3人は進んでいった。入口に立ちふさがっていたのは……。

「魔物……?」
「いや、アイツは確か……」

 見えてきたのは、本当に見覚えのある姿。そして、その相手もこちら側に気づいた様だ。

「ああああああああああ!!!! お前は!!お前らは!!!」

 ランス達に気がついたようで、悲鳴めいた叫びを上げていた。

 通路内部であれば、それなりに声が響くだろう。……入口であって良かったというのものだ。

「お前は、悪魔よりも、もっともっと、も~~~っとひどい、悪魔鬼畜変態凶悪戦士ランス!!! どうしてここに!!」

 最初の絶叫に負けないくらい声で、そう言う悪魔。
 かなみは、どうやら、この悪魔とランスは知り合いと言う事は理解できたようだ。ユーリの方を見ると、何処か苦笑いをしているようだ。

「……何? ランスと知り合いなの?」
「がははは、思い出したぞ? いつぞやのドジな悪魔だ。オレ様の冴え渡る頭脳によって、敗れ去ったのだ。がははは! そして、抱いてやったのだ!」
「~~~~~~~……!! 今思い返しても腹の立つ……! それに、ドジとはなんだ! 悪魔を騙した卑怯者のくせに!!」

 キーーっと、持っている鎌を縦横無尽に振り回すフェリス。

「いや……、卑怯かどうか? と言われれば、今回ばかりは、お前の脇が甘すぎるのが原因だと思うがな」
「むきぃぃ!!! ああ、アンタもあの時のっ!」

 フェリスはユーリの方を見て指をさした。
 人様に指を向けるものじゃない、と言おうとしたが、相手は悪魔だし、と考え直して何も言わなかった。

「え? ええ? ユーリさんも会った事があるんですか?」
「ああ……、以前にちょっとな。普通、悪魔の契約なら、禁止事項は徹底して言う筈だが……、このコの場合は、基本である『取引を無かった事にする事はダメ』を言い忘れた様でな。そこをランスにつかれた」
「……それは、最後の願いを~の時にですか?」
「その通り」

 かなみは、その言葉を聞いて彼女の心中を察した。ランスが望むモノなんて決まってるも同然だからだ。

「……どれだけ節操が無いのよ。あんたは。それにずっる」
「がはははは、ユーリも言っていたではないか。脇が甘甘なのが、悪い。騙されるお前が悪いのだ! そもそも、人を騙す悪魔が騙されて卑怯とは、これは笑うしかないではないか、がははははははは!!」
「うるさぁぁぁい!!」

 ランスと言い争っているその時だ。ロゼが疑問を口にしていた。

「ちょいまち。そのコって、魂回収の悪魔? だったら、結構上位悪魔な筈だけど? なーんで、こんなところで門番みたいな真似をしてるのかしら?」

 それが、ロゼの疑問だった。

 ……実はロゼにはある確信があった。
 彼女が備えている『面白センサー』それが、感度良好、ばっちりと反応しているのだ。

 この目の前の彼女に。

 以前感じたそれと全くの同質のものだったのだ。ここまで来たら、殆ど予知地味た超能力であろう……。

「うぐっ……」

 痛いところを聞かれてしまったと、フェリスは思わず項垂れてしまう。その姿を見ただけでも十分だった。

「……ほんと、ロゼって悪魔のこと詳しいな」
「これくらい、一般常識よ? シスターやってたら、精通するってものよ」
「神を崇めてる人間のくせに、そんなもんするわけないだろっ!」
「それはそーと、どうなの? まぁ……大体は察してるけど、失敗したって言ってたわよね? ランスの魂回収に。なら……」

 ロゼがそういったその次の瞬間だった。弾かれた様に、フェリスは声を上げた。

「うがあああ、そうよ!! お前の……ランスのせいで、六階級の悪魔だった私は、今じゃ九……三段階も降格させられたのよ!!」
「がははは! そんなもの、自業自得と言うヤツではないか」

 フェリスの不幸話を聞いて更に笑いを上げているランス。
 今回ばかりは、ランスに非は少ない?だろう。魂を取ろうとする以上、人間を騙す以上は、それなりにリスクと覚悟をもってするべきだったと、悔い改めるべきだ。次?に活かすためにも。

「まぁ……ロゼ程ではないが、オレも少しは知識はある。見たところ、お前はカラーから悪魔化したんだろう? なら……」
「うわぁぁぁ、言うなっっ!!」

 ユーリの言葉に思わず取り乱してしまうフェリス。

「え? ええ? どういう事ですか?」

 かなみは疑問に思ったようで、ロゼの方を向いた。

「カラーから悪魔化する場合は、基本的に八階級の悪魔からスタートするって事、つまり彼女はその更に下。ま、はっきり言えば、ど新人悪魔にも使いっぱしりにされるレベル。六階級に比べたら、正社員の部長から、新人パートのおばちゃん位の差はあるわね」
「…………」

 そのロゼの言葉に、ついに黙りこくってしまうフェリス。
 どうやら、ロゼの言う事は殆ど正解、いや完全に正解のようで、反論のしようも無いようだ。事実 この場所にいる悪魔達も、掌を変えた様に接し方が変わっているのだから。

 これ以上失うモノは無いと言わんばかりに、フェリスはどっしりと構えた。

「人間は立ち去りなさい。ここは悪魔以外は立ち入ってはいけない場所です」
「何ケチケチしてるのだ。オレ様はその洞窟に用事があるのだ。下っ端」
「うっさい!!! っっ、こほんっ! ……悪魔でない貴方達を通すわけにはいきません」
「オレ様を怒らせると怖いぞ!!SE○100連発の系だぞ!!」
「ら、ランス様……もう怒ってますよ」

 シィルは、ランスにそう突っ込むが、ランスは聞いていないようだ。聞こえていない……が正しいかもしれないが。

「……今回は契約は切れてますし、抱かれる筋合いなんて、ま~~~~~ったくありませんから。それに地味な仕事だけど、頑張って任務をこなしていれば、ふぃ……上司に元の階級に戻してもらうんだから。とにかく、ここを通す訳には行かないわ」

 フェリスの言葉には、結構な重さがある。

「切実だな……。随分ひどい目にあったようだ」
「そりゃそうよ? 悪魔は、完全な階級制、下っ端は上司にはぜ~ったいに逆らえないのよ。あのコは、成り立て悪魔の新人の命令だって逆らえないの。あー、目に浮かぶわ、その光景」
「後輩も同然のヤツにも使われるか……、可哀想に見えてきた。あの時より」
「同感です……」

 その会話は勿論フェリスにも聞こえている。
 ワナワナと身体を震わせているが……とにかく必死に任務を全うしようと頑張っているようだ。応援したいとも思えるが、ランス同様、この先に用があるのだから引くわけにはいかない。

「力づくでも通してもらうぞ! その上にアヘアヘに犯してやるぞ!!」
「……やる気? この私と」

 ランスが、殺気を見せたその瞬間。

 彼女を纏う空気も一変した。これまではコメディだったのが、突然バイオレンスアクション系に変わったかのようだ。比喩ではなく、彼女からはランスとは比べ物にならない程の殺気が放たれているのだから。

「悪魔の力……侮らない方が身の為よ」

 ゆっくりと、鎌を構えるフェリス。その仕草だけでも判る。強大な力を持っていると言う事が。

「……この先にオレは行かなければならない。押し通らせてもらうぞ」

 ユーリは、剣の柄を握り締めた。

 その額から汗が一筋……流れている。ロゼの言うように、下っ端が放てる殺気では無いのだ。

「ユーリさん……」
「……相当出来るな。あの時の魔人に匹敵する力を感じる」
「言い得て妙ね、ユーリ。ま 流石って所ね。多分あのコ、地位的には九階級っぽいけど、まだ、日が浅いからなのか、その上司って人のせめてもの情けなのかはわかんないけど。多分 能力的には まだ六階級。下級の魔人クラスなら渡り合えるクラスよ」
「はっ……、短期間でこれだけの強敵と合間みえるとはな。……だが 正直、こいつとは複雑な気分だが」

 いつものユーリならば、戦闘狂所以か、相手が強ければそれなりに燃える様な男だ。

 だが、何処かその気配が薄れている。
 戦わなければ、カスタムへといけないのを知っている筈なのだが。それだけでは無い様子だった。

「……愚かな人間ね。でも、丁度良い。ランスには殺しても殺しても………何度殺しても足りないくらい恨みがある。あの時回収損ねた魂。もらっていくわ!」
「ふん! 返り討ちにしてくれるわ!」
「ら、ランス様……」

 互いに火花を散らせていた。
 だが、その死線の中を悠々と歩いてくる者がいたのだ。

「あーら? そんなにやる気出しちゃって、やっぱり、男の子ね~」

 ロゼだった。
 不敵にも、ランス、ユーリとフェリスの間に入って来たのだ。ヒーラーであって 非戦闘要員の彼女が。

「おい。流石に 今回は空気を読まないと、危ないじゃ済まないぞ?」
「そうね。私は老若男女問わずなんだけど……?」

 殺気と殺気に挟まれても悠然とするロゼ。

「ふふ。これを見てもまだ、そんな顔、してられるかしら? ちょこっと 言ったら終わらせるつもりだったけど……、この正義のシスターロゼを怒らせちゃったわね? 悪魔コちゃん」

 ロゼはそう言うと、指を上に掲げた。その瞬間……空間に歪みが発生したのだ。

「来なさい。ダ・ゲイル」
「ななっ!?!?」

 現れたのは、いつか……ロゼが言っていたSE○フレンドである悪魔。ダ・ゲイルだった。その悪魔の姿を見たフェリスは、思わず目を見開いた。まさか、人間が悪魔を召喚するなど、考えもしなかったようだ。

「な、そんなっ!! 悪魔と、契約してる……なんて!」
「ふふ、言ったでしょ? そんな顔、してられるかしら? って。正義のシスターロゼに不可能は無いのよ!」
「悪魔と契約してるアンタの何処が正義だ!! この悪魔ーー!!」
「あははは! まさか、悪魔に悪魔~って言われる日がくるとはねん♪」

 何故か、フェリスは取り乱し始めた。出会った当初の彼女に戻った印象だ。

 そして、ロゼはと言うと、呼ばれて新鮮だった?ようで和やか~に笑っていた。

「ふふ、無償で、通してもらうだけにしようって思ったけど、気が変わったわ。ねぇ? 皆? 悪魔の下僕。欲しくない?」
「何を……??」
「どういう事だ?」
「え?」
「下僕?」

 当然だが、ロゼ以外のメンバーは首をひねっていた。
 ユーリもある程度は知っているつもりだったが、ロゼが言っている言葉の意味はわからなかったようだ。だが、ロゼの悪女は思いの外似合う……と思ってしまったのは皆だった。

「っっっ!!」

 フェリスはこれまでにない程、動揺をしていた。身体は小刻みに震えており、なんだか、いじめているようにもみえる。

「情報は命って言うけどね~今回はズバリね。アンタ、自分で自分の階級のこと言っちゃったわよね? ちなみに私のダ・ゲイルは八級」
「そうだべ。んで、お前は自分で言っただな? 九階級だと。命令には従ってもらうべ」
「うぅ……」
「涙目で見たってダメ。悪魔界は、絶対階級制なんだから」
「んだ。わかったら、さっさと返事するだ」
「は、はい……」

 ここまでくると、本当に哀れで仕方がないといった具合だ。

「ユーリさん……、私たちって、悪者に見えてません? 傍から見たら……」
「そう言うな。……その印象は間違ってないと思うが……。背に腹は変えられないだろう? ……俺も正直複雑だ」
「ですよね……」
「がははは!! 悪魔の下僕とは、いいものを拾った! がははは!」

 ランスはランスで、喜んでいた。この後の展開が大体読めたようだから。

「でも、神官が悪魔と契約してるのって……ちょっと」
「それも言うな。そう言うのもいるとだけ頭に入れておけばいい。ロゼに世の常識はあまり通じない」
「あ~ら、ひっどい言われようね~。でもまっ ユーリにも楽しませてもらってるし。常識が通じないのはユーリもだと思うけどね~♪」
「……ふん」
「それに、かなみちゃん? だったかしら。悪魔って、長生きしてるだけあって、人間よりよっぽど、上手いし モノもぜ~~んぜん違うのよ? 一度シたらヤミツキ間違いなし! 今夜ヤってみる? どんな命令も聞いてくれるからね~」
「い、嫌です!!!」

 かなみは、ブンブンと首を振った。
 ランスからをも守り通している純潔を悪魔に奪われるのは、ランスに匹敵する程嫌なことなのだ。……ランス≧悪魔と言う構図もある意味凄いと思うが、仕方ないのである。

「おい、ロゼ! 何をするつもりか知らんが、下僕を作れるのなら、さっさとしないか。オレ様が下僕にしてやるからな。がははは」
「はいはい。大丈夫よ? ほんと、あっという間だから」
「んだ。ほんだば、真の名を教えてもらうべ」
「っ……」

 その言葉を聞いたフェリスの表情は一気に真っ青になった。基本的に、人間と肌の色合いは違うのだが……、それでもはっきりとわかった。

「命令だべ」
「……フェリス……です」

 がっくりと肩を落とすフェリス。
 真の名を知られると言う事実が何を意味しているのかを理解しているから。

「これでOK」
「どういう事なの……?」

 かなみがロゼに聞いた。どうやら、意味がわからないようだ。ユーリは大体察したようだった。名前は、それだけ有名なモノなのだろう。呪術をかける際に必要とする時だってあるのだから。

「悪魔を下僕にするには1つのキーワードを知ればいいのよ。それが、悪魔の真の名。ま、悪魔に限らず、妖精、天使にしたって、それを知られたら、絶対に服従を誓わないといけないの。ただし、ひとりの人間では、一つの真の名だけ、あーそんな制約がなかったら、私はダ・ゲイル以外の悪魔も呼んで、乱交パーティと洒落込みたいんだけどね」
「支配下におけるのは常に1人のみか、確かにケチな話だ」

 ロゼの後半部分の話をランスも同意したようだ。フェリスの様なパターンは希も希な筈だから、そう上手く良くとは思えないのだが。

「さ、今なら誰でもこのコと契約し放題よ?」
「う、ううっ……」

 本当にこっちが悪者に見えてくる。ランスは常に立ち位置が同じようなものだから、問題なく行くようだ。

「悪魔フェリス。契約に基づき命じる。この英雄ランス様に従え!」
「うぅ……」

 フェリスはさっきから、うめき声しか言えなくなってしまった。

 だが、断ることはできないのだ。自分の命が惜しいのなら……。

「悪魔は、契約を無視したら 灰になって消えちゃうのよ? それでも良いの?」
「……はい。ランス様。第九階級魔神フェリスは、これよりランス様の忠実な下僕になる事を誓います」

 肩を更に一段階落としたフェリス。

 ……もう、悪魔として これ以上堕ちるところは無いと思える程見事に堕ちてしまっていた。

「がははは、悪魔の下僕ゲット! 流石はオレ様! がははは!」
「お前は何もしてないだろうに……、まぁ それはそれとして、とりあえず。悪魔フェリス。契約に基づき命じる。このユーリ・ローランドに従え」
「ええっっ!?」
「え!」
「なぬ!?」

 かなみやシィル。果てはランスにまで驚かれたユーリ。どうやら、みんなはしないと思っていたようだ。

「おいコラ! オレ様の下僕を取るとはいい度胸だな!!」
「いや、話を聞いてなかったのか? 誰とでも契約は結べるって言ってただろうに。それに、んな馬鹿な事はしない」
「ふん! 見つけた時は極刑だからな!」
「はぁ……オレはお前と違って、互いに同意が無い時に、行為はしない。……オレ()だがな」

 ユーリはそうツッコミを入れていた時だ。

「はい。……ユーリ・ローランド様。第九階級魔神フェリス。ユーリ・ローランド様にも、忠実な下僕になる事をここに誓います」

 フェリスは、俯いた顔をもう、上げることができなくなってしまっていた。その姿が哀れなのだが……

「ユーリさん……、悪魔と契約なんて……」
「危険だ、って思うんだろう?」
「そうです。……ユーリさん、とても優しいから、ランスの馬鹿の暴走を止めようって思ってるんじゃ……」

 かなみが思えたのはそこだった。

 ランスがこの悪魔のコにナニを命じるのか。火を見るよりも明らかなのだ。十中八九……九割九分九輪……。哀れに思えているユーリなら、そうするのでは?とかなみは思ったのだ。
 ランスと一緒にいる時は兎も角、別々の時だったら、多分、先に召喚をしていれば、ユーリの命令を優先させる可能性もあるから。

「ま、それもユーリが考えそうな事よね~、でも、ワケありな面が強いとはいえ、さっきまでアンタ達に襲いかかろうとしたコなのよ?」
「原因の8割以上はこっちにあるだろ? 後はフェリスのミスだがな。それにそういうわけでもない。ああ、後フェリス」
「……はい。なんでしょう、ユーリ・ローランド様」
「ついフルネームで言ってしまったが、それじゃ、長いだろう? ユーリでいい。出来れば《様》もいらないし、敬語も無しでいい。大丈夫か?」
「……はい。はい。大丈夫。判った。……ユーリ」

 フェリスは、ほんの少し……ほんの少しだけ、表情が柔かくなっていた。もう片方が最も問題なのだから。

「うしししし……、あの時以来だな。悪魔を抱くのは。締まりが最高だったのは覚えているぞ? 喜べ、がはははは」
「………」

 ランスの存在。
 ユーリは、何処か悪意の類が感じないと思えている節があった様な気もするのだ。

 だが、悪魔を好いている人間など希も希であり、基本的には 怖がった彼女達の反応が正しい。

 それが、ランスやロゼ、そして 色々と感じるユーリ、3人も同時に会ったのだ(意味合いは最悪だが)。これ以上の偶然はありえないと、頭を振った。

「さーて他は良いのかしら?」
「……私は良いです。悪魔となんて、怖いし」
「私も……ランス様が契約したので。……私も……怖いです……」

 シィルとかなみも同意見だったようだ。

 悪魔は怖い。それが世の常識だろう。

 だが……ユーリは違う。勿論、ランスとの意味合いとも違う。

「……オレは、神か悪魔かと言われれば悪魔を選ぶ、かな。……まだ、悪魔の方が好ましい。頂点(・・)は似たようなものらしいが、まだ……な」

 誰にも聞かれない様に、ボソリとそう呟いていた。だが、ロゼは聞いていた。

 ユーリの言っていた。『そういうわけでもない』と。

「……ユーリは悪魔が好きだった訳ね。同類って事か! こりゃ、志津香達に振り向かない筈よね」

 これは、間違いである。
 だが、ロゼもそれは重々解っている。

 もっと、もっと闇よりも深い何かがあるのだと、直感したのだから。初めてユーリに出会ったあの時も、彼の中にある《何か》を感じたのだから。

 それは、今は触れてはいけない事だとも思えた。何より、ロゼが考えている面白いとは、全くの別物だと思えるから聞かないと言うのもあるだろう。



~悪魔回廊 C層~


 一行は、カスタムの町を目指して、洞窟の更に奥へと入っていった。一応モンスター達も現れるが、強さはどうか?と問われれば、まるで問題はない。

「がははは、ハニーが怖がる程度のモンスター如きがオレ様に敵う訳がないだろうが!」
「まぁ、フェリスは別だしな。悪魔とモンスターは比べる事さえ間違えている。」

 ランスの大笑いに、ユーリはそう言っていた。
 確かにモンスターにも悪魔にもランクと言うものはあるが、それをふまえてでも、比べるまでも無いのだ。

 そして、更に奥へと進んだ所で光が見えてきた。

「……ん?」
「なんでしょうか……あれ」

 かなみも気がついたようだ。

 どうやら、陽の光や灯篭の光と言った類とは違うようだ。そして、その傍らには猫のような生物が、宙に浮いていた。フェリスの様な門番の類か?と一瞬警戒したユーリだったが。

「おやおや、お客様ですね」

 気さくに話しかけて来た事で、警戒は直ぐに解いた。

「大丈夫大丈夫。ここ、私も通ったし、超簡単な手順を踏むだけでいいから。文字通りってね」
「ん? 文字通り?」
「ここは悪魔回廊です。なので、善良な心を持つ人間は通る事ができません。速やかにお帰りください」

 疑問を聞こうと思った矢先、その猫が言ってきた。気さくだが、どうやらフェリスと同じらしい。

「簡単な仕掛けなのよ。あの部屋にある光の神のプレートを踏んづければ、OK。信仰心を調べてるみたいなのよ。こんなもんで調べられる筈無いんだけどね」
「………」

 ユーリはその光のプレートを見た。

 ……聞くだけなら仰々しい名前だが、それは、プロマイドの様なモノだ。ご丁寧に、名前まで書いてある。

「光の神 G.O.D.……か」

 ユーリは躊躇をしているようだ。踏むことは、別段何も気にしていない。だが、問題はそこではないのだ。

「(……悟られる可能性は0じゃないか)」
「ユーリさん?」
「ああ、何でもない」
「なーに? ユーリって信仰とかあるの?ダメよ、アンタも知ってると思うけど、AL教程、腐ってるものはないんだから。AL教って言うか、AL狂よね。いや、凶って漢字の方が良いかしら?」
「所属してるくせに何を言ってんだか……」

 ロゼの言い方に肩の力を抜いた。
 どの道、ここを通らなければ、先へは進めないんだ。それに……踏まなくても行ける可能性はある。

「ほら、ランスを見習ったら?」
「ん?」

 ロゼに言われた通り、ランスの方を見てみると。

「がはは、こんなもんで良ければ何度でもふみつけてやるわ。“ゲシッ、ゲシゲシッ!!”」

 笑いながら踏みつけるランス。いや、踏みまくっていると言う方が正しいだろうか。そして、何度も踏み抜いたせいか……そのプロマイドは、音を立てながら、盛大に割れてしまった。

 丁度顔の部分が、綺麗に真っ二つに。

「がはは、この程度で割れるとは なんとも情けない絵だ。これで神とは片腹痛いわ!」
「ら、ランス様……そこは、絵ですから、仕方ないのでは?」
「うるさい。奴隷が意見をするんじゃない」
「ひんひん……」

 その光景を見ていたユーリ。盛大にため息を吐くと。

「見習いたいって思える訳無いだろ。どんな理由であれ」
「あっはっは! ほんっと、面白いコよね~人間にしとくには惜しいわ」

 ロゼも楽しそうに笑っていた。ランスの女バージョン候補の1人がロゼではないか、とこの時思ってしまった。

「あっ……、絵の端を踏んでしまいました、御免なさい……」
「何で絵に謝っておるのだ。馬鹿者」
「ひんひん……あ、あれ? 結界、突破出来ました??」

 シィルは困惑してしまっていた。
 踏んだ……と、言えるかどうか微妙な程の行為だったのだ。と言うかシィルじゃなければ気づかない程の大きさの欠片。砕けた硝子片とも言える程の大きさ。それを踏んだだけで大丈夫なら。

「ま、嫌な予感がするし、このくらいなら大丈夫だろう」

 ユーリは、ランスが踏み壊した破片を拾い上げると、かなみの前の地面に置いた。

「そうですね。悪魔なら兎も角……神様ですから。私もこの欠片だけにしておきます」
「ああ」

 ユーリとかなみもその欠片を踏んづけた。
 すると、どうやら結界を超える事が出来る様になったようだ。

「壊したのは、ランスです。私たちは何もしてません……」

 かなみは、南無南無~っと拝みを入れる。
 別に信仰心があった訳でも無いが、こう、神々しく光っている物は初めてだったから、思わずしてしまったようだ。

「まぁ、形有る物いつかは壊れるものだ……悔いても仕方ないだろう。俺たち以降に踏む者もいなくなったと考えたらいい」
「そう……ですね」

 かなみも、ユーリの言葉に頷いて先へと進んだ。

 そして、誰もそこにいなくなったその時だ。光の粒が部屋を照らした。それは、どうやら、飛び散った破片の一つ一つが光ってるようだ。

 光が一つに集まったその時。


『……許さん。あのランスとかいう男、絶対バチを与えてやる……』


 恨みつらみの声が部屋に響いていた。奇しくも、ランスのおかげで、他の3人は陰ってしまったようで、目をつけられなかったようだ。これは、ある者にとっては僥倖なのである。




~悪魔回廊 D層~

 結界を越えた先。ワープをした先に進む一行。

「さて、ここからが悪魔の通路の本番よ。この先にはリターンデーモンの住処になってるわ」
「リターンデーモン……ああ、あのリターンを使ってくるヤツか」
「そのまんまではないか! 馬鹿者、もっとわかりやすく言え」

 ロゼとユーリはリターンデーモンについては知っているようだが、他の皆は知らないようだ。ロゼが説明にはいる。

「ん~、リターンデーモンって言うのは、戦闘力こそは無いけど、戦うとなったら、厄介な相手なの。戦おうとしたら直ぐにユーリの言った『リターン』を唱えられて入口まですっ飛ばされてしまうのよ。無限ループって思えばいいかしら?」
「えっ! そんな……、ここから先に進めないって事ですか?」
「方法は無いわけではないわよ? リターンデーモンは、女を抱く事でその女の最高潮をエネルギーに換えて摂取するの。つまり……」
「絶対イヤっ!!」
「わ、わたしも嫌です~……」

 ロゼの言葉に絶句してしまうかなみ。それも無理はないだろう、戦わずして回避する。ある意味、無敗の相手なのだから。そして、解決方も女性陣皆嫌がった。

 ロゼは殆ど答えを言っているのだから。

 つまるところ……、女の身体を差し出したら、通れると言う事。身体を使わなければならないと言う事なんだから。

「まぁ……別に問題はない」
「ユーリなら、そう言うわね。ここからは別行動と行きましょう。ここをまっすぐ進んでいけば、カスタムに出られるわ」
「え? ロゼさんはどうするんですか?」

 シィルはそう聞くが……、ユーリは大体解っている。

「何かあるんだろうさ。用事が終わったら帰ってくるんだろ? カスタムに」
「ええ~。ああ……思い出しただけで、濡れてきちゃった……、あのねちっこい責めは、ダ・ゲイルとは違った味があるのよね……。ユーリ? あんまし、虐めちゃダメよ? 楽しみの数が減っちゃう」
「善処出来ない」

 ユーリはやれやれとしていた。ロゼは、手を軽く振りながら別れていった。シィルとかなみは、何故別れていったのか分からなかったから、心配そうに見ていたが……ユーリは問題ないとだけ伝えていた。

「それで、どうすると言うのだ? ユーリ」
「ランス、お前はシィルちゃんを差し出すなんて真似、したくないだろ?」
「当たり前だ!」
「ん、悪魔に抱かれる女の子も見たくない。つまり かなみも却下だ」
「当然。いずれはオレ様が抱く身体だ。オレ様のものだ!」
「誰が、ランスのものよ!! (わ、私の初めてはゆー……さんに……///)」

 最後の方のかなみの言葉は聞こえていないのは、当然である。

「なら、一先ずオレに任せてくれ。ランスが介入してきたら、あっという間に入口に飛ばされる」
「む……? そこまでいうのなら自信があるんだろうな? 失敗したら、お前の顔写真をリーザス中にばら蒔くからな?『僕、ユーリくん。13歳です!』とコメントも付けるぞ!」

 ランスは、真剣なのか、ふざけてるののか、判らない表情でユーリを見てそういった。その妙にリアルな年齢も何処かユーリの苛立ちを倍化させる。

「……相変わらず他人を怒らせるのが上手い男だなっ!! 気合と言うより、殺気が入ったわ!」

 ユーリは、四つ角を頭に複数作ると……、剣の柄を握り締めた。

「ユーリさん……」
「大丈夫だ。任せておけ。……悪魔となんて、嫌だろう? それが普通だ」
「あ……はい……あ、ありがとうございます……」

 ユーリはそのまま、ゆっくりとリターンデーモンに近づいた。

「あん? 人間がなんでこんなとこにおんねん。まぁ、なんでもええけど。見てもうたからにはここは通せんな。まっ、願いを聞いてくれたらええけど」
「ん? 願いってなんだ?」
「なーに、簡単な事や。人間の女を連れてきてや。つい最近も良いねーちゃんがいて、色々ヤったんやけど、ヤられすぎて、逆にもー無理なんやわ。ほんま、きっついわ。あのねーちゃん」
「……ロゼ。悪魔相手にここまでしたのか」

 リターンデーモンの話を訊いていく内に、ロゼがどの様に通ったのかを垣間見た。
 無数にいるらしい、このデカい悪魔達の全てを吸い尽くして出て行ったとの事だ。

「やけん、ここ通りたいんやったら、なんか、エロいの見せて、ちんぴくさせてーな。そしたら、考えるわ。ここにおるワシら、みーんな 片ひざついとるけど、もー、腰が動かせへんねん」
「………。そりゃ大変だな。相手が悪かったと思ってくれ。アイツは人外だから」
「おー、あのねーちゃんと知り合いなんか。そりゃもう、身にしみてるわ~。で? どないや? 見せてくれたら、ここを通してm“どっ!!” げふぅっ!!」

 それは、突然だった。普通に話をしていた筈なのに、視界が暗くなり、意識が遠のいていく。この時リターンデーモンは、あの以前通った女、ロゼとヤリすぎが祟ったのだろうか? と思っていたのだが、それは間違いである。

「煉獄・居合」

 既にユーリは、剣を鞘に収めており、抜刀の気配すらみせていない。


「み……見えませんでした」

 かなみは絶句していた。
 どうやら、ユーリは素早くリターンデーモンの首筋に剣を当てた様だ。あまりの速度、意識の外側から受けた見えない攻撃。つまり、本人の防御力など殆ど関係なく、身体の急所に一撃を放たれ、リターンデーモンは、昏倒したようだ。……だが、これは状況から推察しただけであり、かなみは、その太刀筋は愚か、剣を鞘に収める瞬間でさえ見ることが出来なかった。

「ふん、なんだ。この程度ならオレ様でも十分だ。それにしても鬼畜なヤツめ。不意打ちアタックとは!」
「ランス様もしている事だと思いますが」
「やかましい!」
「ひんひん……」

 いつも通りの2人だ。

 どうやら、ランスはあの太刀筋が見えていた様だ。
 自分よりもレベルが確実に低いランスが、あの太刀筋を見極めていた?かなみは、いつしかユーリが言っていた言葉、『ランスを侮るな』を思い出していた。決して忘れていた訳ではないが、そこまでとは思ってなかったようだ。

「……さて、他にもいるだろうから、最短で行くぞ。峰打ちとはいえ、丸腰の相手を斬るのはあまり好ましいものじゃない」
「ズバッ! と斬ってる癖に今更だ馬鹿」
「……お前には言われたくないがな。似たような事、してるだろ。っつーか、ズバッ! は無いだろ。ドカッ! だ」

 ユーリはため息を吐きながらそう言っていた。

「悪魔を……倒しちゃった。すごいです。ユーリさん」
「ああ、アイツ等は、基本的に全パワーをリターンに込めている。だからこそ、それ以外の身体能力は皆無なんだ。だが、魔法を放つ前に斬らなきゃ負けだから、神経を使うがな。まぁ、後はロゼのおかげ、と言う所もあるだろ。足腰立たないんじゃ、話にならない」
「はぁ……」

 鮮やかな剣技を目の当たりにしたかなみ。改めてユーリの技量に驚くかなみだった。

 だが、ロゼのおかげで~と言う件は、ちょっと 納得しかねていた。







――丁度その頃のロゼ。



 その洞窟の中で、声が響き渡る。それは、艶っぽい声、喘ぎ声である。

「あんっ、ああっ!! いい、良いわっ! この責めっ……!!」

 リターンデーモン一体だけではなく、数体を巻き込んだ乱交が行われていたのだ。その中心にいるのが、勿論ロゼである。

「あんっ!! こ、こんな最高なコ達を……んんぃ! こ、ころしちゃうなんて、とんでもないわっ! ……あんっ!!」
「何言ってんねん! ワイらをヤレる人間なんかおるわけないやんか」
「そやそや! ってか、よかったわ~。ワイら、外しとったけん あんたが前通った時、おらんかったんや。キッツイゆーてたけど、体験してみたかったんやで~」
「いいわっ!! どんどん、体験してっ! そこっ、そこが私のGス○ットぉぉ!! も、もっと~~~!!」

 乱交パーティはその後も一行に収まる気配はない。

 そして、大音量の為 その狂乱の宴の声は当然ながら、ランス達にも聞き届いていた。

 ……かなみとシィルは、ひょっとしたら、ああなってしまったかも知れないと想い、身震いをしてしまっていた。


 因みに、以前、通った時に相手にしていなかったリターンデーモンは、まだ無数にいたのだが、最終的にはロゼに殆どを絞り出されてしまい、満足に立つ事も出来なくなって 片膝を常にしなければならなくなった。

 つまり、悪魔回廊のリターンデーモン。ある意味、全滅なのである。




























〜人物紹介〜


□ フェリス(3)

Lv-/-
技能 悪魔Lv2

元々はエリート街道まっしぐらだった……筈の悪魔。
……が、ランスに出会ったあの時から、歯車が狂ってしまい、降格させられた上に人間の下僕となってしまう屈辱を味合わされてしまう。だが、彼女はまだめげていない様子だ。


……悪魔界に帰ったその日の内に、ドS上司に何されたのかは……ご想像にお任せします。




〜モンスター紹介〜


□ リターンデーモン

悪魔の洞窟に生息する身体の大きなデーモン達。
洞窟を通ろうとする者を入口へ転移させる。女性を抱かないと力を維持出来ないらしい。

リターンを使うことだけに全パワーを使っている為か、戦闘力と言う意味では最下位である。

基本的に戦闘に入った瞬間、リターンが飛ぶのだが、不意打ち+速攻のでユーリに瞬殺?されてしまった。リターンデーモン攻略の唯一の手段でもある。

因みに、本来では峰ではなく斬るつもりだったのだが、ロゼにむちゃくちゃにされた事、と何処となく人間臭さがあった事、そして悪魔である事が重なり、ユーリは峰打ちに変えた。
普通に抜刀していれば、首が飛んでいたであろうから、命拾いをした結果になったのである。



〜装備紹介〜


□ ロングソード②

ランスが購入した剣。
名の通り長剣。普通のロングソードよりも強度があり、切れ味もある為?と言う数字が付けられている。


□ 忍者刀 コテツ

かなみ愛用の忍者刀。
メナドとの特訓を見た将校の1人がメナドの武器と一緒に与えたJAPAN製の忍者刀。
基本的に忍者用の武器が少ない為、かなりの希少武器でもある。


□ 魔法のアイス棒

シィルが購入した杖。
魔法使い専用の杖であり、魔法力を高める青い玉が先端に付いている。
舐めたら美味し……?くは無いから舐めない様に。


□ 忍者刀 サスケ

ユーリが所持している忍者刀。
以前、カスタムでかなみがユーリにプレゼントした刀であり、切れ味はユーリも頷かせている。
武器を選ぶ彼が今も愛用しているのはそう言う事であり、使ってくれているのを見たかなみは、正直飛び上がる程嬉しかったとか。











 
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