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真田十勇士

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巻ノ十二 都その二

「それなら前から受けてな」
「そしてですか」
「受けて立って乗り越えてみせようぞ」
 その難も苦もというのだ。
「そうしてみせるわ」
「そうされますか」
「うむ、それが拙者の考えじゃ」
 こう強い声で言うのだった。
「そうしたことで逃げたくはない」
「ですか、難苦にはですか」
「どういったものでも」
「そうしたい」
「では、です」
「我等はその殿と一緒にいます」
「何時でも」
 笑顔で、だ。ここでこう言う家臣達だった。
「何かあればです」
「我等がいますので」
「お任せ下さい」
「例え火の中水の中でも」
「お供致します」
 こう話してだ、そしてだった。
 十人は幸村と共にいることも誓いだ、そのうえで。
 今は猪の肉を食う、清海はその肉を食いつつ言うのだった。
「獣の肉はじっくりとな」
「はい、火を通してです」
 伊佐はその兄に応えた。
「食せねばなりません」
「さもないとあたるからのう」
「兄上、川魚もですぞ」
 伊佐が兄にこちらもと言った。
「あちらもです」
「うむ、虫がおるからのう」
「だからです」
「よく火を通して食せねばな」
「さもなければ後で厄介なことになります」
 その虫のせいでというのだ。
「よく鯉を生で食べてです」
「後で虫が出てのう」
「身体の中に虫がいて騒ぎますので」
「注意して食わねばな」
「ですから獣や川魚、海のものでも漁れたてでなければ」
「火を通して食わねばな」
「そういうことです」
「魚を生で食うか」 
 穴山は二人の話に目を瞬かせて言った。
「わしはそれはないのう」
「わしもじゃ」
「わしもそれはな」
 由利と海野も言う。
「信濃ではな」
「それはないのう」
「うむ、若しそんな食い方をすればな」 
 霧隠も言うのだった、伊賀者の彼も。
「食あたりをしてしまう」
「山でそんなものは食わぬ」
 望月も同じだった。
「火を通して食う」
「海のところでないと魚なぞは生では食わぬな」 
 根津もこう言うのだった。
「岐阜でもなかったわ」
「刺身は相当新しくまた安心出来る魚以外で食ってはなりませぬ」 
 筧は学問の見地から述べた。
「食は身体を養うものですからな」
「ううむ、伊予ではそうして食うこともあるが、鯛とかをな」
 猿飛は自分の生まれの国のことから話した。
「上田ではそれはなさそうじゃな」
「うむ、ない」
 幸村は猿飛にはっきりと答えた。
「それはな」
「やはりそうですか」
「海がないからな」
「そして川魚も」
「そうしては食わぬ」
「伊佐が言う理由で、ですな」
「そうじゃ、そのことは我慢してもらう」
 刺身を食えぬことはというのだ。 
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