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真田十勇士

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巻ノ十二 都その一

                 巻ノ十二  都
 猿飛佐助も加えた幸村主従はそのままだった、都に向かっていた。都に着くまでにはこれといったこともなかった。
 それでだ、翌朝都が見えるという場所まで来て野宿した時にだ、幸村はこんなことを言った。
「いや、まさかな」
「まさか?」
「まさかといいますと」
「うむ、佐助が入ってからはな」
「これといってですか」
「何も騒動がないと」
「うむ、旅人と擦れ違っても稀で擦れ違うだけじゃった」
 それでというのだ。
「これといって何もなかったのう」
「ですな、確かに」
 穴山が幸村のその言葉に答えた。一行は今は火を囲んでそのうえで話をしている。火の周りには肉が枝に刺されて焼かれている。
 その肉が焼けたと見れば一行はそれぞれ取って食べている、見れば一行の横には猪が横たわっている。
「これまでは何かとです」
「話があってな」
「我等が殿の下に集まりましたが」
「そうしたことが急になくなった」
 こう言うのだった。
「少なくともここまではな」
「そうですな、しかしです」
 幸村にだ、筧が言うことはというと。
「そうしたこともです」
「あるか」
「都までの道はそもそも人が少ないので」
「誰かと話すこともじゃな」
「ありませぬ、それに我等は獣の群れにも遭いませぬが」
「我等の数が多いからじゃな」
「そうです、獣も獲物の数が多いと来ませぬ」
 筧はこのことも話した。
「それ故にです」
「我等は今は何もないか」
「左様です」
「人も獣もいなくては何もない」
 由利も言う。
「そういうことですな」
「そうじゃな、しかしこれが普通の旅じゃな」
「はい、むしろです」
「これまでがか」
「何かと起こり過ぎていたのです」
 そうだったというのだ。
「殿には」
「そういえば殿はです」
 伊佐は主の顔を見てこんなことを言った。
「動乱の相がありますな」
「動乱のか」
「非常によい相ですが様々な物事かやって来る」
「そうした相か」
「左様です」
「だからこれまでも何かがあったのか」
「そうかと。ですから今は静かですが」
 その静かが、というのだ。
「すぐにです」
「動乱に変わるか」
「そうかと。山中鹿之助は七難八苦でしたが」
 このことは自ら神に与えよと言ったのだ。
「しかし殿はおそらく」
「その山中殿以上にじゃな」
「多くの難と苦しみが来るやも知れませぬ」
「左様か」
「それでも宜しいですか」
「構わぬ」
 幸村は微笑んで伊佐にこう返した。
「それでもな」
「左様ですか」
「うむ、それもまた人生」
 達観している言葉だった。 
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