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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第3章 リーザス陥落
  第37話 封印の鍵を求めて



 それは、アイスの町へと帰る道中の事、だった。

 ふと、ヒトミが先の道ではなく、獣道の様に草木が繁っている方を見たのだ。その理由を突き詰めたとしたら、ただ何となくと言う他ない。女の子モンスターとしての感覚を用いたとしても、気づける様な気配を感じた、と言う訳ではない。微かな予感だった。
 誰かがいると感じたのだ。そして、その感じは確信に変わる。

 朝日も昇り 視界も開けてきているのに、視認しずらいそれが拍車をかけていた。恐らく、隠密の類では無いだろうかと、ヒトミは直感した。

「お兄ちゃん……、あそこに、誰かいるよ」

 ヒトミは、茂みの方を指差した。その言葉に反応して、ユーリはそちらを見た。ヒトミの感覚器官は、女の子モンスター故か、人間の五感を遥かに凌いでいるのだ。
 確信を得た彼女がそう言う以上、何かがいるのだろうと、判った。

「……本当だな。……人?」

 茂みの奥で草が揺れるのを見る事が出来た。

 それは、時折揺れ、そして 別の場所でまた揺れ……、気配を断ちゆっくりと忍び足で歩いているようだ。人影も確認できた。尾行をされていたのだろうか? と思ったがが、そうならば 何故草木を揺らせたりする必要はない。自らの存在を明かすような行為をする筈がない。

 ここはアイスの町の外れだ。気配を断って近づいた所で、町に何か有益な物があるとは思えなかった。

 丁度、その時だ。……より大きく揺れた。どうやら、その人物は その場に倒れてしまったのだとユーリは悟った。つまり。

「ッ……」
「お兄ちゃん!」

 すぐさま2人は駆け出した。
 怪我をしているのか疲弊しているのかはわからないが、只事ではないのは判ったのだ。ここは、モンスターも多数現れる云わば危険地帯に分類される。そんな場所で倒れでもすれば、意識を失ってしまえば、どうなってしまうのか、考えるまでも無いのだ。瞬く間にモンスター達の餌食になってしまうだろう。

 ユーリ達は近づき、倒れているのが誰なのかを確認する。

 その人物は、衣服の所処が肌蹴、破れ、そして その脚には傷が多数付いている。腕には、恐らくは矢傷の類であろう傷があり、包帯を巻いているが血が滲んでいるのも確認できた。

 そして、何よりもその容姿。紫色の長い髪に忍者の風貌の娘。

「かなみッ!」
 
 その正体は、リーザスの忍者。

 忠臣を目指し日夜努力を惜しまず、自分の事が目標だと言ってくれた少女だった。その少女が、何故か自由都市圏内、アイスの町の外れで倒れていたのだ。どうしてなのかは判らない。だが 只事ではないと言う事はよく判った。

 ユーリは彼女を抱き起こす。

「かなみ、しっかりしろ!」
「お、お兄ちゃんの知ってる人? た、大変だよ。この傷も、深いっ……」
「ヒトミ、世色癌を頼む! 後、止血剤、元気の薬だ」

 ユーリは、意識の無い彼女だったが、息や鼓動ははっきりとしているの確認すると、彼女の口に薬を入れ、元気の薬で体内に流し込んだ。それと同時進行で、ヒトミが傷口を抑え、止血。簡易救急セットの中にある包帯を巻く。

 そして、どうにか応急処置は、終了。まだ、完全に安心する事は出来ないが、彼女の状態は今より悪くなる事はないだろう。後は安静に出来る場所へ向かうだけだ。

「お兄ちゃん、お家に急ごう!」
「ああ」

 ユーリはかなみを抱えると、そのまま走り出した。
 極力、彼女の負担にならないように慎重に、それでいて早く。家に戻れば病院ほどではなくとも、医療具も揃っているのだから。冒険者として 怪我をする事は常に想定をしている。故にそれなりに揃えており、備蓄もしているのだ。信頼出来る病院が傍にあると言うのも、豊富に揃っている理由だ。

 それはかなみにとっての1つの幸運である。

 それが、ユーリが偶然か必然か、レッドの町からの帰りの予定を早めにした事だった。
 あの時、ユーリが帰らなければ 1日は放置されてしまい、見つけられるのは更に後、勿論 危険地帯だからこそ、命の危機もあったが。……それよりも不快に思えるのは、偶々通りかかったランスに見つかってしまうと言う運命だ。
 確かに、かなみにとって 目的にランスは含まれており、ランスと会うのは絶対条件の一つだ。

 だが、接触の順番がランスからであれば……それは彼女にとって不運、悪夢でしかない。

 そうなってしまえば、『助けてやったお礼を~……』と身体を要求!そうなるのは火を見るより明らかだった。ユーリと一緒ならば、回避出来る可能性がとも思えていたのだ。そして、そのもしも、の事態に陥ってしまったら、彼女の未来は決定してしまう。彼女が幸福を得られる事は、無いと言う悪夢の未来に。それは 兎も角、かなみにとっても、初めては好きな人とが良いからと思っているのは事実だ。

 そして、勿論この話は《IF》の話であり、現時間軸、現世界では今、先にユーリが彼女を見つけた以上はそんな展開にはならないだろうと期待は出来る。
 
 ……かなみとすれば、ユーリならば、と考えなくも無いようだが、今は意識が無いのでスルーをしておく。

 だが、意識の無かった彼女だったが……、世色癌のおかげなのか、元気の薬のおかげなのか、……あるいは、身体を抱えてくれた男のおかげなのか。

 ゆっくりと瞼を開ける事が出来た。勿論、身体はもう指先すら動かす事は出来ない。最後に覚えているのは、せめて誰にも見つからない様に 茂みの中で伏せる様に意識を手放した時だ。

 目を開けて、混濁する意識の中、視界の中、彼女は確かに見た。

「(ゆー……りさん?)」

 目の前の人の姿を、霞が掛かっていた視界だったが、確かに見る事が出来た。その視界が更に歪む、ぼやけてしまう。それが、自分の涙だと言う事には気づかない。

「(あ、ああ……かみさま……)」

 かなみはこの時……思わず神に感謝をせずにはいられなかった。
 ついに意識も無くなり、倒れてしまった時。リア様やマリス様の最後の希望として、逃がしてくれたのに……と
自 分の不甲斐なさを呪うしかなかったんだ。最低限度の行動をしたとは言え、意識を手放し……このまま死ぬとさえ思ってしまった。

 だが、次に目を覚ましたらそこには、今最も会いたかった人物がいたんだ。その優しい腕に包まれていて温かった。

「(ユーリさん……ゆー……り……)」

 かなみは、安堵感からか再び瞼が閉じ 意識を手放した。その温もりを最後まで感じながら……。








~???????~




 少女は悪夢に魘されていた。

 それは、極めてリアルに近い夢。故に、少女には現実にしか感じられなかっただろう。

 必至に城外周部より脱出出来たのだが、敵部隊は城外にも配置されていたのだ。誰一人として逃がさない。そう言う意志を向けられた気分だった。

 だが、それでもか彼女は必至に走った。

 途中で見つかり、切傷をつけられ、矢を放たれたが、闇に紛れて逃げ出す事が出来たのだ。その途中で出会ったあの恐怖を忘れる事が出来ない。隆々たる体躯と鼻の上に一本傷を持つ赤髪の女兵士。軽々と、その凶悪な斧を振りかざすその姿は悪鬼のそれだった。そして実力も一目見ただけで判った。訓練を受け続けて来て、多少なりとも 力を付けたからこそ判る。

 今の自分じゃ決して勝てないという事を。

「はぁっ……はぁっ……」

 何本もの矢が打ち放たれた。
 被弾はしてしまったが、決して動けないほどではない。必至に逃げ回り何とか森の中へと入ろうとしていた。森ならば死角が多数でき、逃げ切れると思ったからだ。

「ふん……」
「ミネバ様、どう致しましょう?」

 弓兵の1人が、あの女兵士に、恐らくは隊長クラスの手練の女に、そう言っているのに気づいた。

「あんな小娘に何ができるって言うのさ? 今はもう深夜だ。無意味な事だよ。後この件は報告はいらないよ。何か出来るわけでもなさそうな小娘1匹逃がしたくらいであの馬鹿皇子に責任つけられるのも癪だ」

 大きな斧をぶんっと風切り音を出しながら振り下ろした。どうやら、追撃はしてこない様だ。……だけど。

「ふふふ」

 笑っていたのが判った。

 即ち、わざと逃がしてくれたようだ。
 何ができるのか? と言っていたところを見ると、追う必要性が無いとも思っているようだ。

「くっ……」

 少女は、歯軋りをする。
 自分は何も出来ずに、一矢報いる事さえも出来ず逃げる事しか出来ない。でも、今は走るしか出来ないんだ。

「ああ……、でもまぁ 追う必要はなくても、……生かしておく理由も無いんだよねぇ。こんなに近くにいたら、さぁ?」

 その時だった。
 間違いなく、少女から何10mも離れている筈なのに、あのミネバと呼ばれる女が目の前にいたのだ。それはまるで、瞬間移動をしたかのように急に。

「なっ!! あぐっ……!」

 少女は 思わず距離を取ろうとしたが、それよりも早く首根っこをつかまれてしまった。まるで万力に締められている様に、ギリギリ……と鈍い音を響かせながら力を加えられていく。

「鼠みたいな相手だ。だが、それでも、ちょろちょろされるのも目障り、ってもんだろ? ふふふ……」
「ひっ……」

 その凶悪極まりない笑みを至近距離で見てしまった少女。……身体の芯から震えてくる。こんな感覚は、あの時(・・・)以来だった。

「そうさね。……死ぬ前に良いものを見せてやろうか」

 女兵士、ミネバと呼ばれた女は、はそう言うと、乱暴に少女の首を掴みながら、無理矢理にある方向へと視線を向けた。そこには……。

「あ、……ああっ……」

 目を逸らしたくなる様な光景がそこにはあった。

 磔にされている主君の姿があったのだ。

 その隣には、筆頭侍女であり最も信頼する側近であるマリスの姿も、同じように磔にされている。その身体に纏うものは何も無く全裸であり、さらに身体のいたるところから血を流している。

 もう……その身体が既に冷たくなっている事は、少女の目からも直ぐに理解出来た。

「利用価値が無くなったてさ。もう 終わったんだよ。リーザスはね」
「う、ううっ……」

 少女は、涙を流していた。守るべき主を失ってしまった事への絶望。そして、何も出来なかった自分への絶望。それらが彼女を襲っていたのだ。

「……安心しなよ。直ぐにあんたも後を追わせてやる」

 ニヤリと再び笑ったミネバは、軽く手に力を入れていた。それははっきりと判る。

 ゆっくりとゆっくりと、……除々に力を入れていっているのだということが。死ぬその瞬間まで意識を残そうと言う絶妙な力で。

「か、か……ふっ……」
「お? 死んだか……? いや、まだか。やるねぇ……。ただの鼠にしちゃ大したもんだ」

 苦しむ少女の状態を楽しみながら、ただ只管責めていくミネバ。目的は命じゃない。ただ、苦痛で歪む姿を見る事。それを理解するのに時間は掛からなかった。

「(だ、だれか……た、たすけ……)」

 必死に酸素を取り込もうとし、そして 懇願をするが、まるで意味が無かった。それを察し、ただ邪悪に顔を歪めるだけだ。

「誰も助けは来ない。終わりだ。……全て、ねぇ」

 ミネバがそういったその瞬間だった。


 世界は光り輝いた。暗黒、暗闇しか見えなかったのに、突然眩いほどの光に包まれた。

 その光は、ミネバを消し去り、そして磔にされていたリアやマリスの身体を優しく包み込んだ。ゆっくりと、体中に着けられた傷は消え去り、その身体には生気が戻っていく。

『……助けは来る』
「ッ……」

 ミネバが消えたことで、宙に飛ばされてしまい、落下を続けていた少女を誰かが抱かかえていた感覚がした。それはとても温かい感触。少女は、思わず手を伸ばした。

 光の向こうへと、手を必死に伸ばした。……願ってる未来がその先にあると思ったから。

『よく……頑張ったな。かなみ。……もう大丈夫だ』


 聞こえてる感じてる。少女は、かなみは ずっと泣いたままで、その光を抱きしめた。






~アイスの町・ユーリの家~


 かなみは、ゆっくりと目を見開いた。

 あの温かさは現実のものだったのだろうか?
 夢とは淡いものであり、目を覚ますと殆ど覚えていない事が多かったのに、はっきりと思い出すことが出来た。

「(ここ……は?)」

 目を開いたその天井は見慣れないものだった。

 目で周囲を見た所、部屋の大きさは……4畳半~6畳間と言った所だろうか。清潔感があり、とても綺麗な印象がある。天窓からは日光が射し、部屋全体が温かく感じる。温かいけれど、頭はひんやりしててとても気持ちが良い。

「ん、しょっと……」
「……??」

 声が聞こえてきたかと思えば、頭の熱が更に冷めてきて気持ちよくなってきた。どうやら、頭がひんやりとするのは、額に濡れタオルを置いてくれているからのようだ

「む~……。もうちょっと絞った方がよかったかな? お水がついちゃうよ」

 かなみが意識を取り戻しているのに判って無い様子で、ぎこちない手つきで介抱を続けていく。かなみの額のタオルは、確かに水気が随分残っているようで、残った水が流れ落ちていた。

「あ、あなたは……?」

 目を覚ましたかなみは声を掛けた。
 自分がここで介抱されている事に何とか理解は出来たようだ。

「わっ!」

 見てみると、大きな帽子をかぶった女の子だった。声を掛けられ、そして目が合い驚いたようだ。だけど、にこりと笑顔を見せてくれた。とても可愛らしい笑顔で、こちらも元気になるというものだ。

 そして、目を覚ましている事がわかるや否やしゃがんでいた身体をぴょんと、飛び起こすと。

「おにいちゃぁんっ!! お姉ちゃん、起きたよ~~!!」

 大きな声で、とて、とて、と音を立てながら走っていった。

――……お兄ちゃんと言うことは、兄と一緒に住んでいるのだろうか?

 かなみはそう思っていた。
 ならば、あの光景は幻だったのだろうか……と、今もかなみは思う。夢だったのはわかる。だけど、思うのはその夢の更に前のもの。確かに見た。探していた、求めてさえいた人が目の前にいたあの光景を。

「(気のせい……だったのかな。でも、それでも会いに行かなきゃいけないから。ユーリさんとランスに……、助けてくれた人にお礼を言って直ぐにいかないと)」

 かなみはそう思うと、身体の状態を確認した。怪我は包帯を巻かれており、とりあえずは問題ないようだ。どうやら、あの時に倒れてしまったのは極度の疲労、そして勿論、負傷からきた様だと冷静に分析をする事が出来た。

 そして、女の子が出て行った方から気配を感じた。
 多分、彼女の兄だろうとお礼を言おうと立ちあがろうとした時だ。

「まだ、無理するな。治療は出来る範囲はもう済ましたが、まだ身体は全快と言う訳じゃないだからな」
「えっ……」

 声が、聞こえた。その声は間違いない。幻じゃない。

「ユー……リさん?」
「大丈夫か? かなみ。一体、何があったんだ?」


 目の前にいたのはあの人だった。会いたかった人……だったんだ。


「ッ……」


 かなみは思わずユーリの身体に飛び込んだ。

「おっ……とと、どうしたんだ? かなみ!」

 飛び込んできた彼女を、ユーリは抱きとめる。かなみは、ただただユーリの胸の中で嗚咽を漏らしていた。

「わっ!……(お兄ちゃん……やっぱし……)」

 ヒトミは抱きついている女の人とユーリの両方を見ながら思っていた。……何を? なのかはヒトミだけの秘密だ。


 そして暫く、泣き続ける彼女を介抱した後。事の顛末をかなみから聞いた。



「す、すみません。ユーリさん。取り乱してしまって……」
「いや……、構わない。そんな事が合ったんだからな。無理も無いだろう」

 ユーリは腕を組んでいた。
 あのかなみの刀の鞘が壊れたのはこの事を示していたのだろうか? 偶然とは思えなかったが、とりあえず 一国の危機だと言う事をさしていたと解釈をした。

「ヘルマン軍が」
「はい……。昨日の深夜。目測でも万は優に超えている程の数の兵の侵入を許してしまい……、リーザスは陥落したんです」
「………」

 それ程の数の兵を誰にも気づかれないように、城内へと侵入させる事など出来るのだろうか?ユーリが当初考えていた事はそこでもあった。リーザスとヘルマンには地形的な問題もあるのだ。

 その国境に高々と聳えるバラオ山脈もある為大規模な事は易々と出来るわけもない。だが、かなみの説明の中で確信する事はある。

「魔人……が」
「はい……間違いないと思われます」

 そう、魔人の存在だ。
 魔人とは魔王の血の一部を分け与えられ、生物・非生物が著しく強化された存在だ。著しくと言葉にすれば短いがその強さは人間とは比べ物にならないものであり、現段階で確認されているのは、24人はいるとの事。

「人間に従っている。いや、手を組んでいると言う時点で、解せない。だが、それ程の芸当が出来ること、かなみが直接見たという事を含めたら間違いないと言わざるを得ないな。中々に厄介な相手だ」

 ユーリはそう言うと立ち上がった。

「それで……ユーリさん、私は……」
「言いたい事は判ってるさ。大丈夫だ。……オレは手を貸す事には惜しまない」
「っ……」

 即答をしてくれたユーリ。嬉しい反面、本当に良いのかとも思ってしまった。今回は相手が巨大すぎるから……。

「心配しなくて良いさ」

 ユーリは俯き気味のかなみの頭を軽く叩いた

「偽善だと思うか? それらしい理由が欲しいか?」
「い、いえ! ユーリさんの事をそんな風になんて思うはずも……」
「ああ、そう思ってくれてるのは嬉しいよ。かなみは大切な友人だ。助ける事は惜しまない。それに、リーザスが落とされた以上 ここも安全とは言いがたいからな」

 ユーリはそう分析もしていた。相手の目的はまだ確定ではない。

 かなみの言う魔人の目的はカオスと呼ばれる何からしい。だが、ヘルマン側の進行がリーザスだけで終わるとは思えないのだ。近隣の町や村、自由都市にも及ぶ可能性も十分にありえる。

「ユーリさん……宜しくお願いします」
「ああ、任せておけ。……次はアイツだな。まぁ一筋縄ではいかないと思うが」
「ゔ……確かにそうですが、リア様が待っているんです。何としても協力してもらわないと、リア様が可哀想です……」
「そうだな。国の存亡時に出てくる名前だ。それ程にまでランスの事を想ってるのは……まぁ、オレからしたら一目瞭然だったから、不思議じゃないが」

 ユーリは、リアのランスの惚れ込み様もしっかりと見ている為、納得は出来ていた。それでも、国家の危機でランスの名前が出るのは凄い事だろう。……ユーリの名前も出ていたのだが、かなみは伝え忘れていたようだ。

「あ、あの……ユーリさんの事も……」
「ん? まぁ アイツと一緒にいた期間での出来事だったからな。それでだろう?」
「う……」

 かなみは説明をしようとしたが……、リアとマリスに言われた事を言うわけにもいかない為、黙っていた。

「兎に角、ランスの所へ行こうか。さて、ヒトミ」
「うんっ!」
「元気良く返事をしてくれたのに悪いが、今回は留守番を頼めるか?」
「ええーーっ!!」

 ヒトミは驚き声を上げていた。
 以前までの仕事とは違い、今回の事件は規模がでか過ぎるのだと言うのが最大の理由だ。

「判ってくれ。流石に、今回ばかりは危険すぎるんだ。一緒に連れてはいけない。行く場所は戦場に等しいんだ」
「うぅ……、私邪魔なの……っ?」

 ユーリの言葉を訊いて、ヒトミは悲しそうな表情をしていた。確かに、ヒトミ自身も事の大きさは理解しているつもりだ。女の子モンスターだ。……魔人の脅威も十分に知ってるんだ。
 でも、それ以上に怖いのは……《お兄ちゃん》を失ってしまうんじゃないかと言う事だった。

「ヒトミの事を心配に想っても、邪魔なんて想うわけ無いだろう? ……ヒトミには《家》を守ってて欲しいんだ。オレが帰ってくる大切な場所だからな。……必ず帰ってくる」

 ユーリは軽く家の床を叩くとそう言って笑っていた。

 ヒトミが本当に心配している事を理解していたようだ。……本当に優しいんだとヒトミは想うと。

「うん……。判った。お兄ちゃんのお家は任せて! しっかりと守るっ! ……だから」

 ヒトミはユーリに小指を向けた。

「絶対に帰ってきてね……、絶対だよ?」
「ああ。約束する」

 ユーリのその小指を絡ませた。帰ってくる場所なのだからと、ユーリはヒトミに強く誓った。




 そして、ランスの家へと向かう道中。

「あの……」
「ん?」

 かなみはユーリに聞きたい事があったのだ。それは勿論、さっきの女の子。玄関から外に出て、姿が見えなくなるまでずっと手を振っていた。とても可愛らしく、理想の妹だなとも思えたけれど……よくよく見てみると。

「あのコは、その……幸福きゃんきゃんですか?」
「ああ、そうだよ」
「うぇっ!? ほ、本当だったんだっ!? な、なんで女の子モンスターがユーリさんの……? それも幸福きゃんきゃんっ!?」

 かなみは、また驚き声を上げていた。
 モンスターである事、それも希少種であり 経験値を大量にくれる幸福きゃんきゃん。驚きの事実が一気に大量に迫ってきた気分だ。

「ああ、説明するよ。だから、ヒトミの事を、狙うような真似はしないでくれよ?」
「し、しませんよっ。だって、ユーリさんを慕ってるんですし、それに私の事も助けてくれたんですから……」

 かなみはそう答えた。
 幸福きゃんきゃんと言えば出会えた事自体が幸運。出会えた以上は倒して経験値!というのが一般常識だからだ。その愛らしさから、そこまで手荒な事はしたくないと想うけど。

 その後はヒトミとの出会いをかなみに説明をした。
 マルグリッドの迷宮深くに潜っていた事実も驚きだったけれど、前世の記憶を保持したまま女の子モンスターになったと聞いたことも驚きだった。その境遇は……可哀想の一言では片付けれないほど凄惨なものだと思う。彼女にとって、幸福だったのはユーリと言う人物に会えたからだと、かなみは強く思えた。自分も、同じだから……。

「……変な下心とかは……無いよね?」

 かなみは、先頭を歩くユーリを見てそう口ずさんでいた。
 女の子モンスターに手を出そうとする人間も……いないことは無い。彼女達にとって、人間との接触、交配は毒でしかないから 彼女達から好意を持つ事は中々無い。きゃんきゃんは、誰とでも仲良くなろうとするから例外だと思うが、それでも交わられる事の危険性は判ってるはずだから。

 だからこそ、そんな下心を考えてるなんて思いたくない。

 でも、ヒトミちゃんは女の自分から見ても、とても可愛らしいコだと思う。……だから、ちょっと心配だったりするんだ。

「ん? どうかしたか?」
「い、いえっ! 何でも無いですヨ!!」
「ん、なら良い。さて、ランスの家に着いたぞ。……以前キースに場所を聞いてて良かったな。まあ偶々だったが、結果オーライだ」

 ギルドにて、偶々ランスの話題となった時があって、彼が住まう場所も聞いていたのだ。

 まさか、自分からいくことになるとは思ってもいなかったが。

「いるでしょうか……?」
「間違いない。アイツは一度稼いだら、金がなくなるまでだらけるそうだからな。キース曰く、もうそろそろ金欠だそうだ」

 キースのその推測は、大正解なのである。








~アイスの町・ランスの家~


 ランスの家では朝っぱらだと言うのに、シィルの艶っぽい喘ぎが響いていた。そして、勿論ランスの責め言葉も。

「いくぜ! 飛び出せオレ様の熱い情熱ハイパーアターーーーック!!」
「あぁぁぁんっ!!」
「あぁ……えがったぁ……」

 ランスは、盛大に放出すると、そのままシィルの胸を揉みしだいていた。シィルは料理中だったのだけれど……、そこはランスらしいと言えばそうだろう。行為後も冷めやまないままに、ランスは言っていた。

「おーい、メシはまだか?腹が減ったぞ……?」
「あぅ……、ランス様があんな事をするから冷めてしまったんですよ……暖めなおしですから、もう少しかかります」
「なんだと! オレ様はメシが喰いたいのだ、早くしろ!」
「もう少しですから、ランス様待っていてくださいね……それより、胸から手を退けて下されば……」
「メシができたらどける!それまでは、気持ち良いから触る。空腹を紛らわせるのだ!」
「ひんひん……」

 ランスにとって、【食欲<性欲】なのは 周知の事実?だろう。その後も、シィルは 胸を弄られたまま、器用に料理の続きをしていった。時折緩急をつけられて揉まれてしまうから……手元が狂いそうになっていたけれど、何とか出来ていた。

 その時だった、不意に家の扉がノックされ、音が響いてきた。

 誰かが扉を叩いているようだ。

「ら、ランス様、お客様です」
「無視しろ、無視。そうすれば諦めて帰る」
「あ……、でも借金取りの方では?」
「ちっ……、もう直ぐメシだと言うのに、借金取りだったら殺ーす!」
「そ、それはあんまりでは……?」
「てい!」
「ひんひん……」

 ランスは本当にやりかねないから、それとなく止めようとしたんだけれど、返ってきたのは拳骨だった……。

「でも、ランス様、そろそろキースさんの所に行って仕事を貰わないと生活が出来ませんよ」
「また、その辺のアイテムや家具でも売れば良いだろ。金目の物を売ろう」
「あ……でも、売れる物はもう大半売ってしまいましたから、本当にお金がありませんよ」
「うるさい! 金、金とセコイ事を言うな!」
「ひんひん……」

 シィルとしたら、本当の事を言ってるだけなのだが……、ランスには気に喰わないらしく、只管シィルの頭をチョップしていた。いつまで立ってもランスが出てこないから、早く出ろと言わんばかりにドアが強く叩かれた。

「うるさい奴め、帰れ 帰れ オレ様は留守なのだ!」
『……そんなにでかい声が聞こえてきてるのに、留守は無いだろうが』
「むっ!?」
「あ、この声は……」
 
 ランスとシィルのやり取りは相当に大きな声だったらしく、外にも聞こえていたようだ。部屋を見渡してみると、窓を開けている為、そのせいで声が外へと漏れていたのもあるだろう。

「がはは! これは飛んでオレ様に入る下僕の金だ!」
『だから、聞こえてるっつーの! 馬鹿言ってないでさっさと出てこい。……急用だ』
「ランス様、仕事があるのかもしれませんよ? ユーリさんが、(その、ランス様を頼る程ですから……)」

 シィルはそう言うけれど、本当は無いと思ってる。ユーリの実力は良く知っているからだ。それに、レベルの異常さもあの時に聞いているのだから。

「がはは! オレ様の為に金と更にぼろい儲け話でも持ってきたと言う事か」
「ら、ランス様……」

 いつまでたってもユーリの事を下僕の位から変えようとしないランスを見て思わず呟いてしまっていた。だけど、信頼はゼッタイしていると確信は出来る。

 なぜなら、ランスは基本男の人と話す事は稀。仕事で仕方なく以外だったら、それこそ攻撃するのも日常茶飯事なのだけれど、ユーリに対しては何も無いというくらいだ。
 ……口は悪いのだけれど。


 そして、ランスの家に訪問してきたのは2人。

 1人は勿論話しを普通にしていたユーリ。もう1人はリーザスのかなみ。……勿論、ランスは覚えていなかった。ユーリはやれやれと頭を振りながら説明をしようとしたが、シィルは覚えていたから説明をしていた。

「ふむふむ、思い出したぞ? ユーリのヤツにあっさりと負けたへっぽこ忍者ではないか」
「……ユーリさんに敵うわけ無いじゃない」

 かなみはランスの言われ様に少し腹を立てたが、相手が相手。仕方ないと思っていた。それは、妥協をする事だと判ってはいたけれど、あの事が、あの敗北が無ければ自分はここまでこれていないと思っていたから。

「がははは! そうか、オレ様に処女膜を破って欲しくてきたわけだな?」
「相変わらず明後日の方向に向いてるな……? お前さんは」
「む、オレ様の明晰な頭脳にケチをつけると言うのか?」
「あぅ……ランス様、さっきまで私と……」
「がはは、朝に一発抜いてはいるが、無限のパワーのオレ様は無敵なのだ!」
「無限のパワーとやらはこの後の話の件にとっておいてくれ」

 ユーリはとりあえず、ランスに今回の事を説明をした。
 時折かなみの話も加わって、リーザスの城が今どうなっているのかを説明した。

「もぐもぐ……うむ、シィル、中々美味いぞ?」
「あ、はい。ありがとうございます、嬉しいです!」
「ちゃんと話を聞いてたのっ! ランスっ!!」

 かなみは事の重大性を全く判ってくれないランスに業を煮やしたようにそう言っていた。まともに話を聞いてくれていないのだから仕方ないだろう。……ユーリが一筋縄ではいかないと言っていた事は大々々……∞正解なのである。

「もぐもぐ、勿論、判っているぞ? オレ様の女のリアがピンチなのだな。で? オレ様に何をどうしろと言うのだ?」
「リア様を助けて欲しいのです。ランスの名前をリア様は何度も言ってました。……助けに来てくれるのを待っているのですよ」

 仮にもランスの女と言う事は間違えていないだろう。
 リアはそれほどまでにランスの事を好いているのだから。だから、簡単にはいかないと思うけれど、断りは……とかなみは思っていたが。

「オレ様には関係がないな、もぐもぐ……リアは確かにオレ様の女だが、リーザスがどうなろうと知った事じゃない、もぐもぐ……何より面倒だ」

 帰ってきた言葉は清々しいまでの拒否だった。ユーリはとりあえず、判っていたのか 更にため息を吐いていた。

「そ、そんな……それじゃああまりにもリア様が可哀想です」

 あまりの事にかなみは悲しそうな顔をしていた。あの最後の時も、リアがランスの名前を言っていた事を思うと……かなみはそういわずにはいられないのだ。

「やだ。と言うか、リアの勝手だろうが、それは。あいつの我が侭を訊く筋合いはない。それに、今時何の見返りも無く人助けをするやつなんて、自分の優越感に浸りたいだけの偽善者しかいないぜ。で、勿論、オレ様は正義の味方で英雄だが偽善者ではない!」

 ランスの物言いに思わずユーリは、そんな事を言わずに引き受けてくれたと言いたかったが、矛先がユーリの方に向かってしまうと考えたかなみは、寸前で口を噤む事が出来たっようだ。

「ランス様……可哀想ですよ。なんとか力になってあげましょうよ。このままじゃ、王女様が……」
「ヘルマンや魔人ごとき、。オレ様の敵じゃないが、やだ!」
「あ、そうだわ! かなみさん、リア王女を助けると沢山、ご褒美がもらえます……よね?」
「む?」

 シィルのそのナイスパスを受けたかなみは、こくりと頷く。ランスの事に惚れているリアだ。今回の事が無くても、金くらいなら喜んで差し出すだろうとも思えるのだ。

「あ……! はい! それは勿論です。リア様を救って下さった暁には、ランスに沢山の財宝を用意させていただきます。約束できます」
「ほうほう、財宝は当然、一生遊んで暮らせるだけをもらおう! そうだな……、来年のリーザスの国家予算の七割くらいが妥当だろう」
「……一般人で七代は遊んで暮らせると思うぞ? 大国リーザスの国家予算だったら」
「がははは、オレ様は一般人の常識では計れないのだ!」
「ま、そりゃそうだ」

 ユーリは一応つっこんではいたが、ランスのセリフには十分すぎるほどに説得力があったから黙った。

「あ~あと、それと何か決め手になる物が無いと動く気にはなれないな。う~~ん、もう一押し無いとオレ様は動かないぞ~?」

 ランスはイヤらしい顔をしつつ、かなみの身体を嘗め回すように見た。……見られたかなみは、大体を察する。ランスが何を求めているのかは……この男の性格を考えれば直ぐに判る。

 シィルも、思惑から大分外れてしまい焦っていた。
 ランスの事が好きな彼女からしたら、他の女の人と行為に及んでしまうのを見るのは辛いのだから。

「う……わ、わたしは……」

 かなみは言葉に詰まる。
 国の事を、リアやマリスの事を考えたら選択の余地など端から無い。でも……自分の貞操は、好きな人と、そう思うのは皆同じ事だろう。だからこそ……嫌悪感は拭いきれないのだ。
 何より、その好きな人というのが直ぐ傍にいるのだから。

「……まぁ、ぶっちゃけると、ランスがいかないって言うのなら。別にオレ1人でも問題は無いがな。最近はバッティングしていただけだし」
「……なにぃ??」

 ユーリの言葉に、少なからずかちんと来たようだ。何を言い出すのかと、シィルとかなみは驚きながらユーリを見た。

「ただ、良いのか? ランス」
「何がだ! 下僕の癖に偉そうに」
「だから誰が下僕だっての。……リーザスには、お前さんの好きな女の子は沢山いるぞ? そのコたちが、ヘルマンの兵達に襲われてるかもしれないなぁ……」
「む……」

 ランスは、腕を組み考え込んでいた。金とかよりこの方が一番効果的なのだ。

「早く助けてやら無いと、泣いてるぞ? その可愛いコ達が」
「むむむ、世界中の美女はオレ様のものだ! 泣かして襲うの等オレ様が許さんぞ」
「助けたら、それ相応の礼もしてくれるだろうな。……お? そういう事なら、考えてみたらオレが救っても同じ事か」

「「なっっ!!!」」

 この言葉に2人が同時に声を上げていた。
 ユーリは位置的にかなみの前にいて、ランスにも近かったから、反応したのはランスだけだと思っているようだ。

「ふむふむ、そうだったそうだった。ランスには、今まで散々ガキ扱いをされてるからなぁ……、オレの方が歳上なのに。ガキじゃないと言う所も、リーザスに広めるのも悪くないか」
「えええっ!!」
「なんだと!! 貴様、オレ様のものを盗るつもりか! 下僕の癖に!!」
「俺はランスの下僕じゃ無いしな~……、ランスがご主人と言う訳じゃないから、義理はないし。 別段オレが助けて、あ~んな事やこ~んな事を、シて貰っても良いか。ご無沙汰なのは事実だし」
「貴様ぁぁ!! 貴様にはやらん!!!」
「………」

 ランスは、丸腰だと言うのに、つかみかかってきそうな勢いだ。


「ん? なんでランスが怒るんだ? ランスは行かないんだろう? なら別に、良いじゃないか。リーザス以外にも、可愛いコはいるだろ?」
「ふざけるな! オレ様がいつ行かないと言った! お前なんぞに美女達をくれてやるぐらいなら、リーザスだろうが、メーガスだろうがオレ様が纏めて救ってやる!! お前はオレ様の後ろでいれば良いのだ!!」

 はい、これでランスはもう行くことを確定させたようだ。

 それに、ユーリについて来いと言う事は、ウラを返せば一緒に行くという事。性格は置いといて、この男は十分過ぎるほどに戦力になる。分散させるのは、これからの事を考えたらマイナスの面がかなり大きいのだ。ランスが持っている技能、それは、才能レベルなどはまるで関係の無い、技能なのだから。

「やれやれ……」

 やっと行く気になったようで、ユーリはとりあえず安堵をしていた。やる気を出したランスは早速支度を始めている様子だ。この分だと、予想していた当初よりも、大分短縮出来た気がする。
 それに、かなみの話を聞いたらランスも連れて言った方が良いのは間違い無いだろう。

「ゆ……ユーリさん……」

 何故かかなみは悲しそうな表情を……、と言うか今にも泣きそうな顔をしていた。

「なんでそんな顔をするんだよ……、ランスがのってくれたんだ。喜ぶトコだろ?」
「あ、は、はい!! そうですよね!! (……そう、冗談で、ランスをのせる為に……よね?)」

 聞くのが怖いようで、かなみはユーリにそう言えなかった。ランスはというと、ナイス勢いで準備が終了していた。まだ、色々と話さなければならない事は多々あるのだが……。少しばかりのせ過ぎたようだ。

「シィルちゃんも、とりあえずは良かったんじゃないか?」
「あ、はい。ユーリさん」

 シィルは、恥かしそうに頷いた。
 ランスは間違いなくかなみの身体を狙っていた。それを快く思わないのはシィルだから。

「ユーリさんは、やっぱり優しいです」
「まぁ、ランスののせ方が、多少上手くなってるだけだよ。時間にしたら、そんなに付き合いが長い訳じゃないが……。内容が濃かったからなぁ」

 ユーリはそう答えた。

 シィルが言う優しいの意味。それは自分の事もあるが、かなみの事もあった。かなみが誰の事が好きなのかは一目瞭然だから。
 でも、等の本人が気づいていないのが何とも……。

 ランスの事は判りやすい。難易度で言えば、高い順《S・A・B・C・D・E・F》で現したら間違いなく《F級》だろう。かなみは《E級》と言った所(シィルから見たら)だけれど、ユーリには気づかないようだ。
 つまり、ランス程ストレートでなければ気づかない。……勇気を持たないと難しい相手だと言う事。

「ぅぅ……」

 かなみもそれは重々承知のようだった。だからこそ……、前途多難だと思えてしまったのだ。初恋が成就される日は限りなく遠い……、比べる事自体間違えているが、リーザスを解放するよりも遠く感じているかなみだった。

 そして、暫くしてランスが戻ってきた。

「おい! 貴様ら、さっさと行くぞ! ユーリ、貴様はオレ様が使ってやろう! そら! きりきり働け」
「ちょっと落ち着け……、色々と言わなきゃならん事があるんだよ」
「む?」
「これを……」

 ランスはとりあえず、ユーリが先に行こうとせずに、座っているのを見て少しは落ち着いて話を聞けるようになったようだ。……本当に単純と言うか素直と言うか。

 その間にかなみはランスに白い盾を渡した

「む? なんだ、この盾は?」
「これは、リーザス王家に伝わる聖盾です。これはこの間にお渡しした聖剣、聖鎧とあわせて使って下さい」
「そうか、そうか、このオレ様に盾などは不要だが、くれるのなら使ってやろう!」

 ランスはそう言うとかなみから盾を受け取っていた。この時……かなみは違和感を覚えていた。以前のカスタムの件でランスに渡した筈の鎧と剣を持ってきていないのだ。慌てて用意してきた筈だから(ユーリの作戦で)忘れたのか?と思ったかなみは。

「あの……ランス」
「なんだ?」
「聖剣と、聖鎧は……?」
「そう言えばそうだな。お前の装備はオレが買ってやったイナズマの剣とかですらないじゃないか。いつも通りと言うか、スタートに戻ると言うか……」

 ユーリはそう言って苦笑いをしていた。ランスと初めて仕事を共にしていた時の最後の装備と、カスタム事件時の最初の装備。その性能の差があまりにも有りすぎるから、初期に戻った?フォーマット?リフレッシュ??と思う程だ。

「がはは、アレはオレ様のものだから、どうしようがオレ様の勝手だ」
「だ、だから、その聖剣と聖鎧は……?」
「む? 盾ならあるぞ?」
「剣と鎧!!」
「あれはだな、売った」

 ランスのその一言がかなみを凍りつかせた。口をパクパクとさせながら唖然とする。

「なんだ? フェ○でもしてくれると言うのか?」
「う、うううっ!!」
「おお、する事がそんなに嬉しいか、なら 望みどおり」
「売ったーーーーっっ!?!? えええぇぇ!! 王家からの贈り物をっっ!?」

 かなみの声が部屋中に響きわたる。もうちょっと近ければユーリの耳に後遺症が残りかねない程の声量だった。

「うるさいな、が、中々豪華だったから高く売れたぞ、なぁシィル」
「あ、はい。セットで確か2,000GOLDで売れました」
「………」
「……なぁ、かなみ。確かその装備は」

 ユーリの言葉にかなみはゆっくりと頷くと……。

「ななな、何故そんな事をっっ! どうして売ったのですかっっ!!」
「オレ様がする事にいちいち文句を言うんじゃない。それにオレ様の持ち物を売ろうが捨てようがオレ様の勝手だろうが」

 ……まぁ確かにランスの言い分には間違いはない。心情的には納得しかねるが。

「あ、あの……実はお金が無かったので仕方なかったのです。公共料金の滞納があって……かなみさん、ごめんなさい……」
「コラッ! 余計な事を言うんじゃない!」
「あ……ああぁぁぁ、リーザスが、リーザスが滅んでしまう……」
「かなみ、とりあえず落ち着け……ランスが態々遠くにまで行って武器を売ったとは思えない。このアイスの町の武器屋に売ったんだろう。返してもらえば良いだろ? 金額だって、2,000Gだ。早々手が出せる額じゃない。残ってる可能性は高い」

 今にも崩れ落ちそうなかなみにそう言うユーリ。その言葉を聞いて少し安堵したのか、かなみは落ち着きを徐々にではあるが取り戻しつつは合った。

「む? あの装備に何かあるのか?」
「勿論ですよ……、リーザス城に攻め込んできたのはヘルマンだけじゃ無かったの。奴等の中に魔人がいたのよ」
「魔人……」
「そ、そんな 魔人がどうして?彼らは確か仲間割れで戦争をしている筈なのに、こっちにくる余裕なんて今は無い筈だって……」
「ん。さすがシィルちゃん。博識だな。それは間違いないな。魔人を二分にさせる勢力のの争いだ。人間界に感けている場合じゃ無い筈なのは間違いないが……その奴等の狙いが」
「はい。……奴等の狙いはリーザス城の地下に隠されているカオスなのです」
「かおす? なんだそれ?」
「それは、私にもわかりません。ただ……」
「む?」
「リア様とマリス様が魔人達の狙いはカオスだとおっしゃってました」

 かなみはカオスの詳細については何も知らない。それはユーリも聞いているから、推察するしかないのだ。

「基本的に魔人は人類の敵でしかない存在だ。その魔人が手を組んだ以上は利害が一致したとしか、もしくは何かを手に入れる為に利用するかの2つだろう。リアたちがカオスだという以上はそのせんが濃厚だろうな。間違いなく」
「ふん。ならばもう無意味なのではないか? リーザスは陥落し、リアたちも捕まったんだ。そのカオスとやらは、魔人が手に入れたんじゃないか?」
「……そのカオスは強力な封印術で隠されてます。そして、その封印を解く鍵が」
「お前さんが武器屋に売った聖シリーズの装備だって事だ」

 ユーリが指を指してそう言う。ランスは、不快そうだったが、とりあえず頷き。

「ふむふむ、なる程。なら、駄目では無いか、もうそれ、ここに無いんだから」
「誰のせいですか!!」
「……かなみ、落ち着けって。もう無いと決まった訳じゃない」

 ユーリはやれやれとかなみを宥めていた。明らかにランスはかなみをからかって言ってそうだが。
 他人事の様に言うランスもランスだけど……

「カオスの詳細はわかりません。ですが、リア様は私に言いました。魔人を倒すものだと。そしてランスになら使いこなせると」
「その言葉から推察するに、カオスと言うのは武器の可能性が高いな。魔人をも倒せるほどのものだ」

 兎に角聖装備シリーズを集めなおさなければならないのが判ったランス。間違いなく面倒くさい事だとランスはげんなりとしていたが、ある事を思い出していた。

「そうだ、ユーリ。貴様なら突破できるのでは無いのか? 猪口才にも前回も、そのまた前も突破していたではないか」
「そうですよね。志津香さんの屋敷の結界も超えてますし」
「えええ! ほんとですか?? あ、そういえば……以前リーザスの城でも……」

 ランスにしては珍しく覚えていたようだ。シィルは、当初ユーリに魔法を教わろうと思っていたため、覚えていたようだ。かなみは、あの時 ユーリと敵対していた時に、リアの部屋までの迷宮結界を通ってきた事を思い出したようだ。

「出来なくは無いとしか言えないな。……が、100%とは言えないな。高位の結界なら尚更だ。100%と言えない以上は、聖装備シリーズを買い戻した方が確実だ。このまま行って、出来ませんでした。じゃすまないだろう?」
「なんだ、使えん」
「だから、ランスが言わないで!!! ユーリさんは、ちゃんと考えてくれてるんだから!!」

 ランスの物言いにユーリの変わりにランスに怒ってくれてるかなみだった。100%と言えない以上、聖装備を持って言った方が安心だろう。カオスを封印している場所にまで言ったらもう 後戻り不能地点なのだから。

「とりあえず、武器屋に行きましょう。ここから近い場所にありますから」

 最終的にシィルのその発声から行動開始する事になった。ランスはと言うと、面倒くさそうにしていたが、渋々行くことになった。……初めにユーリに触発されていた筈だが、あっという間に忘れてしまったのだろうか……?

 さて、リーザスの運命は?
 聖剣、聖鎧は??

 彼らの運命や如何に……


「ま、既にあの武器防具が無ければそこでアウトの可能性が大いにあるな。がはは!」
「笑うなぁ!!誰のせいだって思ってるの!!」


 最終的には名前こそは呼び捨てだったが、最低限の敬語を使ってたかなみだったが、タメ口になって言っていた。


 これが自然な感じもするから良いとユーリは思ったりもしたのだった。




















〜人物紹介〜


□ ユーリ・ローランド (3)

Lv49/222
技能 剣戦闘Lv2 抜刀術Lv2 冒険の知識Lv1 ???Lv3(結界破壊or透過?) ???Lv?(結界破壊or透過?)

マルグリッド迷宮、そしてカラーの森と続いた上でのリーザスの一件へと向かった童顔冒険者。
総合すれば、結局明らかに前回、前々回よりも遥かにハードな仕事の量なのだが、当人はそれを気にした様子が無い様。自宅にヒトミがいる事はもうキースの耳に入っており、「結婚してないのに子持ちになっちまって」と何度かからかわれた模様。
ハイニさんには随分世話になっていて、キースより彼女の事の方が遥かに信頼しているとか。

勿論、ヒトミがいないのを見計らって鏡の前で顔のチェックは習慣である。
……バレているのだけれど。


□ ランス・クリア(3)

Lv10/∞
技能 剣戦闘Lv2 盾防御Lv1 冒険の知識Lv1

ユーリが冒険をしている間も勿論、ぐうだら生活を続けていた鬼畜冒険者。
カスタムの事件で20後半にまでレベルが上がった筈だが、これまた恒例と言えるレベルダウンである。今回リーザスの美女の処女を守る?為に立ち上がった。

……最終的には忘れていそうだが、女の子の事に関しては実は忘れてない事も十分にありえるのである。


□ シィル・プライン(3)

Lv10/60
技能 魔法Lv1 神魔法Lv1

勿論まだまだ、一緒にいます。ランスのパートナー兼奴隷。カスタムの件でかなりレベルが上がったのだが、勿論今回もランスと共に仲良くレベルダウン。
かなみとは既に和解しており、彼女の為に協力は惜しまずに賛同を決意していた。
……ランスと自分の仲を考えてくれてるユーリを見て最近はお兄さんだと(表情は見ないようにして)感じるようになってきたとか。

因みに、ランスの家にユーリ達が行った時、カスタムの事件で戦い粉々に壊れた筈の水の彫像が飾られていたのをユーリが見つけて、「凄いな……」と褒められたのが嬉しかったとか。


□ 見当かなみ (3)

LV 27/40
技能 忍者LV1

 リア王女の直属の忍者。
カスタムでのユーリとの再会後、忍者刀を受け取ってくれた事に舞い上がってしまい鍛錬が疎かになりそうだったが、何とか立て直して、親友と共に、鍛錬を続け腕を磨いてきた。
そして、その親友が副将になった事を自分の事の様に喜び、更に研鑽を共にしていくと誓っていた。

……ユーリに出会ったら、以前に感じた過去最大級の悪寒の正体を探ろうかと考えていたが、今回の事件ですっかり頭の中から消え去っていたのである。


□ ヒトミ(3)


今回は事件の規模も大きく 危険も遥かに増す為、ユーリの家でお留守番をする事になった幸福の少女。かなみを見て、「また女の子が……」と思ったのは間違いなく、ぶっちゃ気、天然の女誑しだと思っている。……が、優しい為別に問題なしとも。
ユーリの家に住み、ハイニの世話にも良くなっている事から、彼女の事も大好きになっていた。

なんと、まだランス達との面識が無い。
つまり、一番怖いのはリーザス解放戦に連れて行くことより、ランス達と出会ったらどうなるのか、なのである。

















 
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