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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第26話 祝賀会と出会い話



 後は、カスタムの町に戻り 全ての事情を説明するだけだが、まだする事はあった。そう、志津香達に囚われてしまった娘達である。彼女達の救出も依頼の内容に入っているから。
 あまりにメインの封印された町の解放と魔女の印象が強すぎるから、忘れがちだが、ユーリは忘れていない。……ランスは忘れてると思うが。

「さてと……、さぁ カスタムの娘達の解放に行こうか。確か見て無かったのはこっちだったな」
「あ!ちょ、ちょっと!!」

 志津香はある事を思い出したようで、慌ててユーリをとめようとするが……、時は既に遅かった。左右に広げられた扉の先には巨大な試験管の中にいる女の子たちがいた。

 いたのは間違いないが、この状況は想定外だった。

 まるで 生き物、触手が女の子達の秘部に刺さっており、或いは胸部にくっついており、時折振動し、時折まるで吸い出している様に動き、彼女達は淡い喘ぎ声を上げていた。その頬は赤く染まっている。何やら液体に浸かっているから、大丈夫か? と思っていたが、志津香が言った通り、傷一つつけられていない様だ。

「………」

 ユーリは、とりあえず絶句していた。
 確かに、ここには女の子達がいた。間違いなく彼女達がカスタムから攫われた少女達だろう。そして、攫ったのは志津香本人だと認めている。
 そっちの気があるのか?と志津香を疑ったが……、直ぐにある事を思い出していた。

「ああ……確か最高潮(エクスタシー)が原動力になるとか、ならないとかって書いてたな……」
「って、いつまで見てるのよ!!」

 志津香は慌ててユーリの今度は脛目掛けて蹴りを放った。そこは弁慶の泣き所。そんな所に喰らったら悶絶ものだろう。しかも完全に気が抜けている所に貰ったから。

「っててて……」

 ユーリは足を摩っていた。

 その間、志津香は慌てて彼女達を試験管の中から解放する。
 ボタン1つで解放できるようで、瞬く間に触手は外れ、試験管内に溜まっていた培養液は排出される。そして、1人1人、志津香の手で抱かかえるようにしながら 出していく。が、如何せん数は多い。

「手伝おうか?」
「向こう向いてなさい!! また蹴られたいのッ!!」
「……はい。了解しました」

 思わず敬礼をしてしまいそうになるほどの声量、そして剣幕だった。
 故にユーリはそのままずっと後ろの扉と睨めっこするしかできなかったのである。

 そして暫くして、志津香は全員を試験管から出し、服も着させた。

「ふぅ……。皆、本当に御免なさい」

 志津香は、意識を取り戻した彼女達に頭を下げていた。

 ユーリは、壁の方を向いているから、志津香の顔は見えない。だが、その声は僅かに震えているのは判る。心から謝っていると言う事も。

 そして、目を覚ました少女達もいきなりの事で状況が飲み込めていない様子だ。そもそも、今の今まで自分達は……夢を見ているだけだった。それも、イヤらしい夢。ある意味では気持ちいい夢だった。
 攫われていた当初は、もう殺されるのではないか、と強い恐怖を味わっていたが……攫われてみたら、そうでも無かったのだ。

「い、いえっ……/// 良いんですっ」
「は、はぅぅ……///」

 彼女達はみんなまだ火照った状態の様で身悶えていた。それも仕方ない事なのだ。そのエネルギーを抽出する為に、彼女達には淫乱になってもらう必要があった。
 だから、幻覚を見せ続けていたのだから。

「彼女達の身体の方は大丈夫そうだな」
「まだ早いわよ!」
「いてっ。な、なんでだよ。服も着せているみたいじゃないか」
「そ、それでも駄目よ!」

 志津香は、この火照った姿の色っぽい女性達をユーリを見られるの自体が不快だったようだ。だが、こんなのいつもの自分じゃないと強く否定もしていた。……そう、再開したばかりだからこうなったのだと。
 もう暫く時間が立てば、元に戻るだろうと強く、つよーーく思っていた。

 
 その志津香の 思いは恐らく外れなのである。

 そして、丁度その時だ。

「どぉぉぉりゃぁぁぁ!!! ラァァンスアタァァァック!!!」
「えいっ! 火爆破っ!!」

 怒声と共に炎と巨大な衝撃が後方の扉より現れた。

 その的は巨大なストーン・ガーディアン。巨体が吹き飛ばされ、扉を突き破ってきたのだ。


「……いきなりだな。危なかった、こっちに来なかったらオレも吹き飛ばされてた」

 ユーリはそれを見てため息をしていた。

 確かに厄介な敵だったが、ランスとシィルの2人ならば問題は無いだろうとも思えていたのは事実だ。逸る気持ちを抑えられなかったが、そこはしっかりと見極め、そして信頼もしていた。

「一体なんなの……?」

 志津香は埃が舞っていたので、口元に手を当てながらそう言っていた。そこに現れたのは、大きな口を開け、剣を肩にかけていた戦士風の男と、魔法使いの女の子の2人だった。

「がはは! 所詮は石人形だろうが、オレ様の敵ではないな! がはははは!!」

 大声で剣を突き上げて勝利宣言をしている男。魔法使いの女の子は肩で息をしていた。

「はぁ……つ、疲れました……」

 どうやら、ランスの事も必至で回復させながら自身も魔法で攻撃をしていた為魔力をかなり消耗してしまったようだ。

「シィルちゃん。お疲れ様。ほら」

 ユーリは竜角惨、そして元気の薬を手渡した。体力と魔力の両方を回復させるのにはコレが最適なのだ。

「あ、ユーリさん。ありがとうございます! んぐっ んぐっ んぐっ……んん!!?」

 シィルはあまりにいつも通りの感じのやり取りだったから、何の不思議にも思わずに、あまりに自然に受け取り飲んでしまっていたのだが……ユーリはいなくなってしまっていた人であり、探していた人(シィルのみ)だった為、思わず噴出しそうになったのを必至に堪えた。

「ゆゆ、ユーリさんっ! ご無事だったんですか!?」
「ああ、ゴメンゴメン。勝手に単独行動をして」
「いえ、無事でよかったです。私もランス様も心配を……」
「コラ! 誰が心配だ!」
「ひんひん……」

 シィルの頭にゲンコツを落としたランスだった。それもいつも通りの光景だ。

「ふん! 下僕が勝手に先へ行った事は後だ、おいユーリ! 志津香の処女は奪ってないだろうな!!」

 ランスはずばーっと指をさしながらそう聞いていた。
 あまりにもストレートな物言いに、志津香は呆れ果てた目で男を見ると。

「……コレ(・・)がさっき言ってたヤツ?」
「ああ、ランスだ。コレ(・・)でも頼りになる男だ」
「正気?」
「コラコラ! お前ら、誰がコレだ。何失礼な……こと……を?」

 ランスは、目の前の光景に言葉を一瞬失っていた。

 ランスにしてはとても珍しい光景である。だが、それは勿論一瞬。次の瞬間にはワナワナと身体を震わせて言う。

「何ぃぃ!! ユーリ!! 貴様なぜこんな美少女達に囲まれておるのだ!! それも何処かイヤらしい少女達じゃないか!! さては、乱交パーティをしていたな! オレ様のものに!!」
「だから、何をどう考えたらそう言う結論に至るんだ? まぁ、確かに表情を見たら、少なからず連想は出来るかもしれんが、服着てるだろ。……お前は相変わらず明後日の方向に一直線だな」

 ユーリはため息を吐きつつそう言っていた。志津香も呆れ果ててものも言えない様子だったが、口を開いた。

「ユーリ、仲間は選んだ方がいいわよ? 絶対」
「まあ、悪いヤツでは無いさ。一応以前の仕事でも依頼者を救っているしな」
「だからケンカを売ってんのか! それより、どの娘が志津香なのだ? まさかとは思うが乱交に参加しているのではないだろうな!?」
「だから、なんでそうなんのよ。私が志津香よ」

 自分の名前が出た為、志津香はとりあえず返事をしていた。ランスはその姿をジロジロと全身くまなく見た後、ニヤリと八重歯を出しながら笑う。

「がはは! 美女ではないか! 性格は難有りそうだが、その方が燃えると言うものだ!」

 イヤらしい手つき、目つきで志津香を見ているランス。
 どうやら、とりあえず最後の魔女の1人を見つけ且つ美人だった事から機嫌が直ったようだ。だが、勿論それも一瞬だった。なぜなら、志津香の指にある筈のものが無いのだから。

「なな、無い!! 無いではないか!! 指輪が!!」
「ん、コレの事?」
「あ、フィールの指輪です。外れてるんですね」

 志津香は懐から指輪を取り出してランスに見せた。ものの見事に指輪は外れている。

 そして、外れる条件はただひとつだ……。

 シィルはその事実を見て、何処か嬉しそうな表情をしていた。ランスが抱かなくても良いと言うことなのだから。

「貴様ぁぁ!! オレ様の志津香の処女を奪いやがったな!? 下僕が主人のものを奪い且つ、乱交パーティをするとは、万死に値する行為だぞ! 極刑だぁぁ!!」

 ランスは激怒をあらわにした。
 このままでは本気で斬りかかって来る勢いだ。シィルが必至に宥めているが全く効果は無いようだ。

「頭の螺子が何本か外れてるどころか、最初から螺子が無い勢いね」
「はは……、否定できないな。……兎も角、いい加減ランスはそのテンションをやめろ。今に説明する」
「なんだと!?」

 ランスは、剣を構えてはいるが、とりあえず聞く耳はまだ持っていたようだ。それは志津香の初見の印象、性格を見たからと言うのもあるかもしれない。こう言う女は中々自分から許すとは思えず そして、本人も否定しているのだ。

「指輪を外す為に処女を失う以外に方法はあったみたいなんだよ。志津香ほどの魔法使いなら解呪も出来るみたいでな」
「む? それは本当だろうな……」
「別に信じなくたって良いんじゃない? 事実は変わらないし、アンタが信じなくたって別に構わないし」

 志津香はそっけなくそう言っていた。
 だが、ランスは志津香の感じと、ユーリは一応下僕だから必至にそう言う下僕を信じてやるだけの器はは見せる必要があるだろうとランスは考えていたのだ。ランスはニヤリと笑って志津香の前に立つ

「いーや、確かめさせてもらうぞ」
「どうする気?」
「勿論、オレ様のハイパー兵器で処女かどうかを確認するのだぁぁ!! と――!!」
「……粘着地面」
「んがっ!! がべっっ!!」

 志津香が処女かどうか、それを行為で確かめようとしたランス。
 勿論、それを許すはずが無い志津香はため息混じりに粘着地面を発動させた。ランスは飛びかかろうとしたが、地面に足がくっ付いてしまって、飛びかかる事が出来ず、そのまま前のめりに倒れてしまったのだ。
 ……つまり、最初は足の裏がくっついていただけなのに、今は正面全てが。

「なな、う、うごけんぞ! なんだこれは! シィル! 何とかしろ!」
「あ、これは粘着地面です。ランス様、じっとしていて下さい」

 シィルはべチャリとくっついてしまっているランスを必至にはがそうとしていた。でも、当然……全面くっついている状況でそう簡単にいくわけでも無く。

「いたたっ! こらっ! シィル! そっと剥がさないか! オレ様の偉大な皮が持っていかれてるではないか!!」

 肌が露出していた場所も例外なくくっついており、無理に剥がせば身体の皮も剥がれてしまうのだ。
 その姿を冷ややかに見ているのは、志津香。自分自身が放った魔法のせいで、こんな光景になってしまっているのだが。

「……もう一度、言わせてもらうわよユーリ」
「ま、何を言うか検討が付くが……いいぞ?」
「仲間は選んだ方が良いわ、絶対に」

 呆れ果てつつ再びそう言う志津香。ユーリも今回は何も言い返さずただただ苦笑いをしていた。

「それで、帰り木は持ってる? 彼女達も早く町へと連れて帰ってあげないと」
「ああ、持ってるよ。ほら」
「ん」

 志津香は帰り木を受け取ると、そのまま使用した。転移空間が現れ、町への入口が出来る。ここへ入っていけば直ぐに町へ戻れるだろう。
 少女たちは次々と入っていき、残ったのはランス達を含めたユーリと志津香の4人だけ。

「おいこら! とっとと剥がさないか!!」
「ら、ランス様っ、じっとしていてくださらないと、難しいですっ」
「奴隷の癖に主人に口答えするんじゃない!」
「ひんひん……」

 文句一つ言わずにせっせと剥がしているシィルにランスはそう言う。
 初めてみた志津香してみれば、女の子にそんな風に言うランスが不快にしか思わないだろう。シィルがランスの事を想っているのを知らないから。

「さ、あのコ達も無事戻れたみたいだし、バカは ほっといて私達も戻りましょ」
「そうだな。町に送れたとはいえ、それは迷宮入口付近に送っただけだ。モンスターがいないと言い切れないし ランスを剥がすのにも時間がかかりそうだ。悪いけどシィルちゃんにランスは任せよう」

 ユーリはシィルに耳打ちをする。

「(……ある意味では良かった結末じゃないのか? シィルちゃん)」
「(は……はいっ!)」

 シィルは強く頷いていた。
 ランスはくっついているから、殆ど身動きがとれず、会話も聞こえていなかったようだ。

「コラ!! 勝手に帰るんじゃない! コレを解いてけ!」
「いやいや、英雄であるランスの手にかかればこの位、簡単、楽勝だろう? 逆に手を貸すほうが無礼じゃないのか? いやー 流石はランスだな。この粘着力は半端ないと言うのに。……まさに世界の超英雄か?」
「む! ……むむ! がはは、そう、オレ様こそが超英雄ランス! この程度、貴様の手を借りんでも突破してやろうではないか!!」

 あっという間に良い気分になるランスだった。

 姿はとても格好悪いのに。志津香の方を見て軽くウインクすると、早足で帰り木の方へと足を運ぶ。

「さぁ、さっさと行こう」
「はぁ、随分操縦が上手いのね、これで町に戻ってもあいつは暴れたりしないって事かしら?」
「まぁな。いい気にさせておいたら後々が楽だ。とりあえず 流石! と英雄! を連呼して酒でも飲ませれば暴れたりはしないだろ。暴れられたらいろんな意味で面倒くさい」

 してやったりのユーリだったのである。志津香は、だが少し気にかかることがあった。

「……それより、さっき あのコと何話してたの?」
「ん?」

 ユーリは何を言ってるか直ぐには理解できなかったようだ。だが、大体判ったようで。

「それは、町に帰ったら言うよ」
「……絶対によ」
「はいはい」
「はいは、一回!」
「はーい」

 こうして、ユーリ達もカスタムの町へと戻っていった。そして、このやり取り……ユーリは、どこか懐かしくも感じていた。


 志津香の性格、それに一つ追加しようと思う。

 それは独占欲がかなり強いと言う事だ。意中の相手が、少し 他の女の子と話すだけでもアウトなのだろうか……?

「そんなんじゃないわよ!!」
「うおっ! な、何がだ?」

 突然の突っ込みに戸惑うユーリ。
 どうやら、ユーリを想うコは皆天の声にツッコミが出来てしまうと言う技能が追加されるみたいだ。……なんの役に立つのだろうか。



 その後の取り残されたランス達は、必至に少しずつ粘着地面攻略に勤しんでいた。シィルはいろいろと罵倒されていたのだが、それでも嬉しそうに粘着を解いていったのだった。
 








~カスタムの町 迷宮前~


 その場所は普段は人通りの無い場所だった。
 それは当然だ、迷宮の入口であり モンスターが出てくる可能性も高い場所。今は魔女達の拠点となっているのにも付け加えて、よりいっそう人が寄り付かなくなっている場所……の筈だったが。

「し、しづかぁぁ~~っっ!!」

 帰り木で到着した途端に志津香は誰かに抱きつかれた。
 突然の事に目を丸くしていた志津香だったが、誰が抱きついてきたのか直ぐに判ったから目を穏やかにさせていた。

「マリア……、それに皆も。心配かけて御免なさい。もう、大丈夫だから」

 そう言って、志津香はマリアの背中を叩き、落ち着かせていた。心底心配で、志津香の姿を見た瞬間、気持ちが緩んでしまったのだろう。
 そして、マリアに続いて ラン、ミルとミリ、エレナ。そして、騒ぎを聞きつけた町の人達の殆ど皆が駆けつけてくれていたのだ。

「……ははは」

 遅れて出てきたユーリは思わず笑顔になっていた。皆、初めこそは魔女達を憎み畏れていた。もう、その事が嘘みたいだ。皆が魔女と呼んでいた彼女達を囲み、そして良い笑顔だった。

 志津香も例外ではない……。

「(……今日だけはオレも考えるのを止そう)」

 今日知った事実。
 過去の非情な事実を今日だけは考えるのをやめようとユーリは想っていた。今は、皆の笑顔を曇らせたくないから。そして、志津香の笑顔も。

 心では決して笑っていないとは思うけれど、ラガールの事で頭がいっぱいだと思うけれど、今日は……。

「ユーリさんっ!!」

 皆が志津香の方に駆け寄っていたのだが、ランが後ろにいたユーリの事に気づき、走ってきた。その顔はあの時のランとは同じと思えない程、笑顔で満ちている。

「あ、ありがとう……、本当に、志津香も……たすけてれくて……」

 ランの目から一筋の涙が流れ落ちた。
 心優しい彼女は、自分のしてきた事も悔いていたが、それと同じくらいに志津香の事も考えていたのだ。ユーリは軽く手を振った。

「当然の事をしたまでだ。それに……」

 ユーリは、志津香の方を見た。
 まだ、仲間や町の皆に囲まれて少しぎこちないが笑顔を見せている彼女。ユーリは強く思う。

 志津香に≪また≫会えて良かった……と。

「……どうかしましたか?」

 ランは、涙を拭いながらユーリにそう聞く。

「いや、ただ4人とも皆無事で良かったなと思っただけだよ」

 そう言って笑っていた。

 その笑顔をきっと、ランは忘れないだろう。それはランだけじゃない。ミリも、真知子も、トマトも。 彼を想っているコ達は皆、その笑顔を忘れない。

 この時、彼の顔をからかう者など1人もいなかった。……一部を除いて。

「あ~はっはっ、ほんっとに大したもんだよね~! アンタって。そんな可愛い顔してやる事がいっつもハンパないんだから」

 ロゼだけがそう言っていて笑っていた。ゲラゲラ笑いながら背中をバシバシと叩いていた。
 結構力があるようで、ユーリの背中は少し悲鳴を上げているのだった。











~カスタムの町・宴会場≪町長の屋敷≫~




「さぁ~~!町を救ってくれたランスさん、ユーリさんを囲みまして~~」

 息を、めいいっぱい吸い込んだチサが一声から、始まるのは大宴会。

「かんぱ~~いっ!!!」
「「「「かんぱ~~~い!!」」」」

 それは、ランスとユーリの成果を祝った宴。

≪ランスさん ユーリさん ありがとう町を救ってくれて。カスタムの町復興祝勝会≫

 その垂れ幕が上から下ろされて、スタートした。
 会場は、町一番の大きな建物、町長の屋敷が選ばれたが、町の住人の全員が参加した為、当然全員が入れるはずも無く、酒場とここの屋敷の二箇所で飲み食い放題の祝勝会を始めていた。当然、主役がいない場所でのスタートもありえないから、とりあえず、乾杯は町長の屋敷で行い、その後ランスとユーリは第1と第2へと分かれる事にしていた。

 殆ど町の全体が宴会場の様なもの、だと思える程騒がしかった。

「ランス様、良かったですね」
「がははは! これだから正義のヒーローはやめられないな! お前もそれなりに頑張ったので褒めてやろうではないか!」
「本当にシィルちゃんもお疲れ様、いつもながら大変だよな……いろんな意味で」
「いえ……、確かに大変ですが、楽しい事もあるので!」

 ユーリのその言葉にシィルは笑顔でそう返していた。
 確かに冒険には危険がつきもので、いつもいつも危ない目にあったりもする。だけど、ランスの傍にいられる自体が、役に立てる事自体が彼女にとっては幸せなのだ。

「おいコラ! シィル。オレ様に酒を注がないか」
「あ、はい! ランス様っ」

 シィルは慌てて酒を取りにいっていた。勿論ランスの酒は大分薄めているようだ。

「あまり飲みすぎて潰れるなよ? まだ始まったばかりなんだから」
「がははは! ナニを言うか! この超英雄のオレ様が少々飲んだくらいで潰れるか! 馬鹿者」

 とか何とか言いつつ、ランスはもう既に始まる前からいくらか飲んだみたいで、顔を赤くさせていた。……いつまでもつ事やらとユーリはため息を吐いていた。

「さて……と」

 ユーリは、しばらくした後、手筈どおりに第2の会場へと向かう事にした。
 ランスの性格を考えたら、≪第1≫と名がつく方から動かないだろうからだ。その点別にユーリは拘りは無いから。

「おーい! ユーリー!」

 会場から出たその時、ミリに呼び止められた。

「ん?」
「オレもあっちで、飲もうと思ってな? 一緒に行くぜ」
「ああ、わかった」

 ミリと一緒に第2会場である町の酒場へと歩き出した。

「もうとっくにあっちでは始まっててな。ふふ、ロゼと真知子の飲み合いさ」
「ん……、真知子さんそんなに飲めたのか……」
「ん? あれ? 知らないのか? 真知子は酒豪だぜ。 この町では5本指には入る」
「成程、で その5本指には、勿論ロゼも入るんだよな?」
「ああ、言わずもがな。オレとロゼ、真知子が並ぶよ」
「……あっちに行くのが怖くなってきたよ」

 ユーリはそんな会場に向かって、自我を保てるのか?と心配しているようだ。少なくとも酒豪のトップ3が第二会場にいるのだから。

「何言ってんだ? 真知子に聞いてるぞ。ユーリ、お前もかなりイケル口なんだろ?」
「さぁ……どうだろうな」
「謙遜すんなって、……ったく、マジで良い男だな? お前は」
「……ミリが 酔ってるだけだろ?」
「本心だって。この程度で酔うかよ」

 ミリはユーリの肩に腕を回しながら歩いていった。

 そして、数分後 酒場へと到着する。扉を開けたと同時に。



「「「「ゆ~りさんっ!! ありがとう~~!!」」」」



 最大級の賛辞の言葉と共に、クラッカーが会場内を舞った。
 あまりの声の大きさにまるで耳の鼓膜が破れそうだ……と、頭を抑える。そして、隣でいたミリはいつの間にか、笑顔で両耳を塞いでいた。
 どうやら、判っていたようだ。

「幾ら何でも、不意打ちはきついぞ……オレも酒は入ってるんだから」
「ふふ、町を救った英雄ならコレくらい耐えられるだろ?」
「いやー、第二会場を抑えてて良かったですかねー? 正に天国と地獄の分かれ道って感じですかねー??」

 トマトはそう言いながらはしゃいでいた。
 この場にいるの主な者、勿論 町の住人は多数いるが主に前で占めているのは真知子、ロゼ、トマト、ミリ、エレナだった。

「地獄って、言いすぎじゃないか?」
「そんな事ないですよー? 何たって、ユーリさんがいないんですから~」

 ジョッキを片手にトマトは腕を回していた。
 どうやら、腕と同じ位の勢いで酒も回っているようだ。顔もその名前に負けないくらい、赤く染まっているのだから。

「うふふ、トマトさんはユーリさんが来なかったら どうしよう、どうしようって言ってましてね? 不安を紛らわせる為に飲んでいたんですよ?」
「何をオレに そんなに期待してるんだか……、まぁランスが来たらと思えば仕方ないのか?」

 ユーリは苦笑いをしつつそう言う。

 あの男の性欲は町の皆にはもう周知済みの事だから。町の娘も何人かヤったと言っていたし。

「……本当に鈍感なんですね」
「ま~、ユーリだし? 私も散々からかいまくったからね~! そんじょそこらの魅惑の誘いだって、微動だにしないわよ? サッキュバスだって敵わないってね!」

 ロゼはゲラゲラ笑ってそう言っていた。
 ジョッキを一気に開けつつ、次の酒を注いでいる。ペースは全然乱れずもう何杯飲んでいるか判らないとの事だった。この町の男性陣は情けない……、もうこの場で進んで飲んでいるのは女性陣だけなのだから。

「そうだ。本格的に酔いつぶれる前に聞いておかないといけませんね? ユーリさん」
「……ん? 何がだ?」
「もう忘れてしまったんですか? ロゼさんとの事ですよ。ユーリさんとロゼさんの出会い、の ことです」
「あはは~、な~に、私とユーリの出会いを気にしてたの? 真知子は?」
「ただの好奇心ですよ」
「ああ~~~それはトマトも聞きたいですかね~~、それ聞くまで寝るわけには行きませんよ~!」
「そんなに性欲に塗れたユーリの過去、《可愛い顔してアソコは野獣! 最強 僕のキカンボウ伝説ユーリ!≫を聞きたいのかな~?」
「変なタイトルつけるな、それに誤解を生むようなタイトルも禁止だ!」

 ユーリはまたまた、何処から取り出したのか判らないハリセンでロゼをひっぱたいていた。皆冗談だと、想っているだろうと、楽観視していたユーリだったが……。

「それは、是が非でも聞かせて貰いたいですね」
「……ユーリさん」
「ユーリさんとなら、トマト。感じる事が出来るですよー!!」

 信じ込んでいる人物が多数存在するようだ。

「こりゃ、早く話さねぇと大変なんじゃないか? ユーリ」
「絶対に楽しんでるだろ……ミリ。はぁ……わかったわかった。だが、オレに何を期待してるか知らないが、そんな色っぽいものじゃないぞ? それに面白い話でもない」
「いーからいーから、皆酔ってるし、話半分に位にしか聞いてねぇって」
「わかったわかった……」

 ユーリは両手を上に上げつつそう言う観念したと言う所作だ。ユーリが大体こう言う仕草をする時は偽ったりはしないだろう。日が浅いミリやトマトなら兎も角、真知子はよく判っていた。

「いーやー、はずかしーわー(棒) 私のあられもない過去を話すなんてー(棒)」
「ふふふ。棒読みで言っても説得力ないですよ? ロゼさん」

 真知子のツッコミも冴え渡る中……
 ユーリは彼女との出会い、そしてある教団の闇の部分を話し始めた。聞いているのは4人。少ないほうが好ましい。世の常識が覆されるかもしれないからだ。


 決して素面で聞く事無かれ……、世の中にある闇の一部を。












~????????~


 1つの大きな会議テーブルを囲い4人の人物がその場所ではいた。

 彼らはこのルドラサウム大陸最大の宗教団体の幹部の4人であり 日夜布教活動についてを話し合っていた。それは時には金に物を言わせ、時には実力行使で、……手段を問わない方法で布教を続けていく。
そして、その他にも活動は多々あるが、それらの功績によって点数が加算され、あるテストで有利になるのだ。

「く……カカカカ、こ、今回の件だが、わ、ワシに一存するが良い…!」
「おや? 何か良い手があるのですかな?」
「………く、かかか……ッ」

 1人の老人の発言に皆の視線が集まる。
 妖しく笑っているその姿、議題に上がっている事を完遂する絶対の自信の表れが出ているようだった。故に、質問をした男はこれ以上の質疑はしなかった。

「私は、エンロン司教の事は信頼できます。故に今回の件、任せてみようと思れるのですが、皆はどうお考えですかな?」
「……私は依存は無い」
「同じく」
「く、かかか、ま、任せてもらおう」

 そう言うと、その老人の世話係である希少種女の子モンスターのイヤシンス。
 既に生体維持装置無しでは 生存する事すら困難な為、身の回りの世話は全て彼女たちが行っているのだ。

 齢にして161歳と言う超高齢。

 薄く開いた瞳の中には欲望の塊の様な眼光をさせている。イヤシンス達は、彼の車椅子を押しながら部屋から出て行った。

「それでは、我々も解散いたしましょう。良い報告を願いまして」

 男の1人がそう言うと、席を各々が立ち上がり去ってゆく。

「(ふん……彼は次回のテストに向け、既に始動した、と言う事か 法王も今は謁見中……あの生きる屍を掌握するのは造作も無い。それに成功すれば良し、失敗すれば尚良しの二段構えですからね。一応あんなバケモノでも、今の所は、最大のライバルですから)」

 4人中最も権力を持っていると言われている壮年の男性。
 その表情は決して笑顔を崩さない、まるでそれは貼り付けられたかのようだとも捕らえられる。そして、男は一笑すると、姿を消した。







GI1014 8月



~ゼス王国領土 パリティオランの町~




 そこは、北は翔竜山、西には魔人界。

 2つの凶悪な土地に隣接する町。だが、そこでは独自に気づき上げた神を祭り上げていた。嘗て、天使にも悪魔にもなる事を拒んだカラーに救われた町。ドラゴンに襲われた時に天より現れたそのカラーに救われた町。

 故にこの町 パリティオランでは AL教は布教しておらず、独自にそのカラーを神と崇めているのだ。
 それはもう先々代も前のカラーの女王の話。

「か……カカカカ! い、い、異教徒を、重んじる……とは、AL教布教の妨げ……にな、る! 布教率を、上げるには、手っ取り早いのぉ……」

 ニヤリと笑いを浮かべる老人。
 小規模の町とは言え、人口を考えればそれなりにはいる町。その一つが≪不幸な事故≫で潰れたとすれば……?

「か、かかか……!!」

 笑いが止まらない様子だ。
 不幸な事故と言うのは表向きの話。この町には元々危うい状況なのだ。

 魔人界と翔竜山に囲まれていると言う時点でいつ何が起きてもおかしくない町だ。魔人、魔物、そしてドラゴン。不安要素は幾つもあるのだから。

「けけ、決行は、あ、あ、明日……だ。各々、じゅ、準備を、怠るな。ワシ、は 吉報を待つ……とする」
「……はっ」

 テンプルナイツの面々は命令どおりに頭をすっと下げていた。
 決して今回の事を納得して遂行している者だけと言うわけではない。事前の調査では、あの町には女子供も多数暮らしており、何もしていない。

 滅ぶ理由がまるで無い。

 ただ……そのカラーを崇めると言う事を決してやめないと言うだけだった。

「(……私は、どうすれば良いのだ)」

 自身の手が震えているのが判る。どうしようもなく震えている。
 他のメンバーはどうなのだろうか、自身の出世の為、もしくは逆らえば宗教裁判にかけられても不思議ではない為、自分の命と家族の命を守る為、そして この行為をなんとも思っていない者。

 ……大多数が後者、命を奪うことをなんとも思っていない連中で構成されている部隊だ。

 自身の手を血で染めるのになんの躊躇も持たない者達。

 だが、例外は1人いる。

「はぁ~あ、なんで私がこんな場所にいるのかしら?」

 頭が痛いといわんばかりにそう言っている女が1人。彼女はロゼ・カド。

 教会のシスターであり、今回はヒーラーとして本部から動向させられたメンバーだ。本来ではこの場にいるのは場違いであり、カスタムの町勤務の筈なのだが、ヒーラーが全て出払っている・仕事先でのトラブル。その偶然に偶然が重なって白羽の矢が立ったのか彼女だった。
 AL教団一の不良シスターと名高い彼女だ。当然ながら、上司を敬ったり、そんな危害は全くない。

「あ~申し訳ないけど、あたし、汚れ仕事、一っ切っ! 引き受けるつもりないから。ただ 傷治して欲しい人だけ、来てくれたらぱぱっ! とやっちゃうだけだからね。だから ご利用は計画的に」

 面倒くさそうにそう言う彼女。
 ただの一シスターが、テンプルナイツのメンバーにこんなでかい顔などは普通出来ない。だが、誰も口出しできないのにはわけがある。
 彼女は悪魔と契約していると言う噂がたっており、その悪魔の実力が未知数なのだと言うこと。

 噂が噂を呼び、誰も彼女に手が出せなくなってしまっているのだ。普通ならば、その時点で粛清の対象になるのだが、何故か上からのお達しが来ないのも不思議な所のひとつである。



 そして、決行前日の夜。
 男の1人が、夜空を眺めながら酒を飲んでいる彼女の隣へときていた。


「ロゼ……」
「あら、なにかしら? まさか 戦いの場に来て、人恋しくなっちゃったわけ?」
「……」
「わかってるわよ。何にも言わなくても」

 ロゼは、ニヤリと笑っていた表情を潜めて真剣な顔立ちになる。

「確かに今回のはあのエンロンのジジィが勝手にやりだした事。……トータスなら賛同しそうだけど、他の2人が賛成で過半数を得なきゃ可決出来ない。あの壊れた法王のおっさんも無頓着だし。今回の事例が行き過ぎてるのは重々承知よね」
「なら……私はどうすれば……あの町には幼子もいるんだ。その全てを、全てを炎で浄化せよ。……全てを灰にせよ、と言うのが指令だ。……私の、私達の手で」
「……ま、私がするわけじゃないから軽口しか言えないって思われるかもしんないけど、それが嫌ならあんたが司教まで上り詰めて、内から変えてやれば良いじゃない。なんなら、エンロンとトータス。下衆2人を蹴落として、更にはあの壊れた盛んな法王様もご一緒にチーンと焼香を上げれる状況にしたら良いんじゃないかしら?」
「………」

 沈黙が流れる。
 ロゼも軽口とは言っているがその瞳の奥は真剣だった。

「……すまなかった。弱気になってしまったな。私はもう何度も手に染めていると言うのに」
「次からは無料じゃないからね。上手い酒とGOLDを持ってくるのね。ロゼさんの懺悔室代金は高いのよ?」

 そう言って肩を軽く叩いた。そして、その肩をぎゅっと掴む。強く……。

「今は耐えなさい。としか言えないわ。このイカれた世界、結局は、神も悪魔も同じって事なのよ。ただのカードの裏と表。何が正義、何が悪。そんなの誰にもわかんないんだから。勝った方が、生き残った方が正義になるとも言うかもね」

 ロゼはそう言うと、宿屋の中へと消えていった。残されたのは男1人。

 不思議だ。

 彼女とは何度か話をしている。
 そして何度も救ってくれている。……めんどくさそうにしているが、彼女がその気になれば、何処までも行けるだろうと思える程の器を持っていると強く思う。

「……私よりも、な」

 この男はテンプルナイツの一員だが、その中でも最も司教に近いと呼ばれている。まわりの信頼もあるのだ。望んで受ければ次回辺りに……。
 だが、自分より相応しい者はいるだろう。
 
「明日は、暑い日になりそうだ……」

 そう言うと、男も宿屋へと消えていった。








~ゼス王国領土 パリティオランの町~




 それは、予定通り。だが、町の住人にとっては 突然起きた。

「う、うわぁあぁ!!なんだっ!!!」

 突然、町を取り囲むように火の手が上がったのだ。炎は瞬く間に勢いを増し、周囲の建物に燃え移る。町を囲む様に燃え上がっているのは、周囲の空を見れば一目瞭然だった。

「み、みんな!! 起きろぉぉ!!!」

 1人の男が櫓に登り 鐘を打ち鳴らした。
 その音に気づいて皆が家から飛び出してた。

「何、何が起きてるというのだ!? 炎がこんなにっ! まさか……ドラゴンが!?」
「い、いえ、そんな影は見当たりません!」
「だが、それ以外に何があるというのだ!? この強大な火の手、他に説明が……」
「今はそれよりも町の住民の避難が先決です! い、いそいで指示を!!」
「う、うむ!」

 町を預かる町長とその秘書。
 迅速な対応を取ることが出来た。確かに勢いは凄まじかったが、井戸もある為、消火用の水も確保できる。そして、強力な使い手か?言われれば首を横に振るが、魔法大国ならではであろうが、魔法使いも大多数いる。火消しをしながら突破口を開けば脱出する事は十分に可能だった。

 ……だが、その先が一番残酷な未来が待っているのだった。

「……始まったようね」

 ロゼは、その火の手が上がるのを見ていた。確かに間違っているとは思っている。だが、自分の命を懸けてまで、とめてやろうと言う気概は彼女には皆無だ。

 それは、誰しもが同じコトだろう。

 極貧の隣国で飢餓に苦しんでいる者がいても、裕福な国の住民は手を貸さない。……そんな事が出来るのなら、この世界で同種族間で戦争など起こらないだろう。

「はぁ……、でも、目覚めが悪いのは事実。何人かこっちに来たら無料で治療してあげましょうかね」

 ロゼはそう呟いていた。


 町の住人が強力し合って遂に突破口を開いたその時だ。

「………」

 その脱出先に無数にいる人影がいた。夜の闇の中、炎の光で照らされた闇の衣を纏っている姿。
まるで、悪魔のように佇んでいた。炎の光ゆえに、その影を妖しく揺らせながら。

「異教徒共よ……、貴様らは生きているだけで大罪だ。神の名において裁きを与えてやる」

 その衣の下では下衆びた笑みを浮かべているようだった。

「な、なんのことだ? 何かの間違い……ぎゃああっ!!」

 その神と言うなの、悪魔の剣が、逃げ惑う市民の胴に突き刺さった。

「神の裁きを受けよ!!」
「ひ、ひぃぃぃ!!」
「た、たのむ、ま、町には子供たちが……! その子たちだけは見逃してくれっ!」

 次々と斬られていく、住人達。それを見た1人がそう懇願した。まだ 幼い子供達も多く町に残っているのだ。 だが、そんな懇願を訊いても、剣を振るうのを止めない。ただ、その甲冑、仮面の奥で、嗤っているのは判った。

「悪魔の子を? 冗談であろう」
「っっ!!」
 
 無慈悲と言う言葉が一番しっくりくる。
 悪魔の姿と形容したのは間違いではなかった。攻撃魔法は、殆ど火を消すのに使ってしまい、もう魔力も残っていない。だから……攻撃をすることも叶わないのだ。

「わ、私達が、一体何をしたと……」

 目の前で何人かが切られていく姿を見て思わず涙を浮かべて膝を落とす少女。
 彼女は町の教会のシスターであり、治療を施しながら何とかここまで来られたのだ。だが……そこで待っていたのは……、悪夢の光景だった。

「……神の裁きだ。異教徒よ」
「っ……そ、そんな」

 裁き?何が裁き……?
 ここの町の皆は、歴史を忘れず、感謝を忘れていないだけの人たちだ。カラーと言う種族は様々な国に狙われている存在。それなのに、嘗て我々を助けてくれたのがカラーだった。
 だから、この町ではその神を祭った宗教が布教された。

 それだけで……裁きがあるのか。

 あまりにも理不尽な出来事だった。

 だが、もう考えている時間はなさそうだ。その凶刃がもう目の前にまで迫ってきているんだから。

「ッ!!!」

 反射的に目を閉じていた。
 目の前に死が迫っているのを……直視することなんて出来なかった。この連中の剣は、老若男女関係ない。男だろうが、女だろうが、剣を振るっているのだから。

 だが……幾らたっても痛みは訪れない。だから、片目をあけたところ……。

「ぐ……が……」

 その衣を纏った男の腕が宙に舞っていた。

「ぎゃああああ!!!」

 そして、時間軸がずれているかのように遅れて悲鳴が響き渡っている。後ろには誰かが立っていた。
 
 フードを被っていて、その素顔は見る事は敵わない。

「な、なにぃ! 貴様、何者だ!!」
「これから死ぬ輩に名乗る必要あるのか?」
「我々は神の使者であるぞ!! 貴様!!」
「ご生憎……。……オレは神が嫌いだ」

 男は剣の柄を握ったと殆ど同時だ。町を蹂躙しているメンバーの3人を一気に斬り伏せた。

「あ、あ、……」

 その光景を見たシスターは、混乱して、動くことが出来ない。

 男は、その自分の手を強く握り引き上げる。

「ちっ……。火のまわりが早い。早く避難しろ、まだ、町には何人も残っているのだろう!」
「は、はい!!」

 それは、有無を言わさぬ迫力だった。
 畏れて動けない自分に活を入れてくれて、立たせてくれた。そして、使命を思い出させてくれていた。

 避難路を確保し、皆を必ず逃がすと言う使命を。

「ここから東だ。ゼス宮殿まで兎に角 逃げろ。奴らは、オレが止めておいてやる」
「わ、わかりました!」

 誘導に従い、住民は一気に動き出した。その目立った行動をあの連中は見逃す筈も無い。だが……。

「うぎゃああ!!」
「ぐぎゃあああ!!」
「がはぁぁぁ!!」

 瞬く間に斬られ物言わぬ身体となってしまうのだから。……だから、何も問題なかった。






 離れで待機していたロゼは思わず絶句する。

 確かに何名かは抜けてくるだろうと思っていたが、人数が多すぎるのだ。町の住人の全員が着ているのではないか?と思える程の数。

「……失敗したって事よね? ざまぁみろってね」

 確かに絶句はする光景だが、……正直な所、内心では喜ぶロゼ。 
 これで、町の住人が完全に避難できればこの辺りでは警戒されてしまい、二度と同じコトは出来ないだろう。
 正体を隠しているとはいえ、何処から襤褸が出るか判ったものではない。つまりは。

「エンロンのじじぃのあの汚い顔面におもっくそ、泥がぶち当たったって事。ははっ! いい気味ね、でもアイツは無事かしらね」

 ロゼはもう笑っていたが、昨夜相談してきた彼については笑えなかった。失敗したと言うことは、何か合ったと言うことなのだから。その時だ。

「……お前も連中の仲間か?」

 突然背後から声が聞こえてきたのだ。いつの間にここまで接近されたのかわからない。気づいたら接近されていた。それも、ここまでの強大な殺気を携えて。

 流石のロゼも驚きを隠せられない。

「ストップ! 私は関係無いわよ。ただのシスター」
 
 両手を挙げていた。ロゼは、武力など持っていない。戦える力が無い。ダ・ゲイルを呼寄せると言う手があるから、0 と言う訳ではないが、この相手では荷が重すぎる。いや、無理だと思った。直感したのだ。

「ただのシスターがなんでこんな所に?」
「勝手に派遣されたんだから仕方ないじゃない。誰が好き好んで態々カスタムからゼスにまでに。正直、来たくなんかなかったわ」
「……」

 両手を挙げるロゼ。
 尋常じゃない力を感じたが、不思議とロゼは殺されると言う類の予感はしなかった。殺すつもりなら有無言わずに斬られると思えるからだ。

「嘘じゃないわよ? 勿論、ALICE様に誓って」
「……わかった」

 とりあえず、強大な殺気を沈めてくれた事を感じたロゼは安心する事が出来た。

「ふぅ……」

 その言葉を聞いてあげた手を下ろした。

 そして、ロゼは振り向く。そこには男がいた。殺気こそは 収めた様だが、まだ 警戒は完全に解いてはいないようだ。

「私はロゼ、カスタムって町でシスターをしてるんだけど、なんでかここに派遣された哀れなAL教のシスターよ」
「……」
「あら? だんまり……? 名乗ったから教えて欲しいって思うんだけど」
「ああ、すまないな。見極めていたんだ」
「何を?」
「アンタの目を見て……人間性をな」
「ははぁ、それでどう見えたのかしら?」
「いろんな意味で掴めない。……が、お前は嘘を言ってるようには見えない、ってな。嘘は言ってないが肝心な所は隠してるイメージもある」
「あはは、すごいわね、アンタ。目だけでそこまでわかるのかしら?」
「ああ」

 男は軽く笑っていた。
 ここまで余裕があるのかは、もう町の住人の全てが退去できているからだ。位置的にはここは最後尾。住人を狙うにはこちらから追いかけなければならない。
 
 しんがりに立つつもりだったが、もう粗方狙ってくる者達は一掃できたようだから。


「それで、名前、教えてくれないの?」
「ああ、そうだな。オレの名はユーリ。ユーリ・ローランドだ」

 そう答えて男はフードを取った。
 その素顔を見てロゼは今度は本気で驚いていた。

「うっそ……、メチャ若いじゃない? 10代?」
「……」
「一応白状しとくけど、派遣されたってのは ヒーラーとして、あいつらの補佐をしろって言われたここに派遣された。でも、するつもりなんか毛頭無かったから関係無いって言ったの、その代わり、逃げてきた町の住人で怪我してる人を治してたのよ。それは、さっき ここを何人か通ったから、その人達に聞いたら裏が取れるわ」
「………」
「まぁ、アンタなら、ユーリくんなら、それくらい察してるとは思ったけど 世の中には凄いコがいるもんね~……。やー ほんとびっくりだわ」
「…………」
「あら? なんで黙ってるの?」
「これ……」

 男はギルドカード、身分証明書を差し出した。僅かにだが震えている手。ロゼはある事に直ぐ気づいたが、表情は全く変えなかった。

「ん? ああ、これ……へぇ、ギルドに所属してるんだ? へー やるわね~その歳で、ふんふん……。な~るほど、ぷぷっ 童顔乙! って事かしら?」
「うるさぁぁぁい!!!!」

 顔を真っ赤にさせて怒るユーリ。そして、それを見て笑うロゼ。

「きゃーー おこったーーこわーーい(棒)」
「こんのーー!! 訂正しろっっ!!」
「え~~でも、私 間違ってないでしょ? 私よか若いし~~、それに10代ってのも間違ってないでしょ?」
「ぐ……ぐむむむむ……」

 そう言われれば確かに間違いない。確かにロゼは『10代?』 としか言っていない。やや過剰に接してしまったのは、自分だ。……だが、ロゼがゲラゲラ笑うもんだからこうなってしまう。

「お姉さんの方が、1枚上手みたいね? ユーリちゃん?」
「ちゃんはやめろ!!」
「きゃーー、ごめんなさいーー(棒) ならそんなユーリに良いことをしてあげよう」

 ロゼは、指をぴんと上げた。

「はぁ……はぁ……ん?? なんだよっ」
「直ぐにでも大人の階段を上らせてあげましょう! これで童貞(予想)ならぬ童顔卒業!」
「誰がするかぁぁ!!」
「い~じゃない! 最近 悪魔のダ・ゲイルとヤってないんだし? 姫始め手伝ってよ~」
「いやじゃぁぁぁ!!」

 ユーリは反射的に逃げていった。フードを深く被って。

「あははは、ひっさしぶりにあんな面白いヤツ見たわ。強いのに、あんななんて マジで可愛いわね」

 ロゼが笑っていたその時だった。

「ロゼ……」

 後ろから、声が聞こえてきた。聞きなれた声だ。

「……無事だったようね。私と同じ悪運強し」

 何処かほっとしているロゼがここにいた。

「……彼に斬られなかっただけだ。くたばり損なっただけだ」
「ユーリが見逃してくれたって事? 敵には容赦なさそうな感じがしたけど、そうでもないのかしら?」
「いや、他のメンバーは皆やられたよ。凄まじい手練だった、ただ……私の目を見たと思ったら剣を収めて去っていったんだ」
「………」

 ロゼはそのセリフを聞いて思い出していた。ユーリが言っていた言葉を。

「目を見たら人間性がわかる……か。本当みたいね」
「……なんだ、何か判ったのか?」
「いーえ、アイツは悪いヤツじゃないわよ。どう考えても今回の悪はエンロン側。うち等だし」
「そう、だな……だが、報告はしなければなるまい」
「コレで、遠のくわね? 出世から」
「命あっただけでも良しとするさ。……ロゼの言うとおり、内部から変えるには時間がいくらあっても足りないと思えるからな」
「ふふ、期待してるわよ? あの妖怪ジジィを退治しちゃって」

 男は何も返さず……そのままの足取りで去っていった。本部に戻る為に。


 男が去っていった数分後。

「……さてと、おーいユーリ? いるんでしょ、出てきたら?」
「………」

 ユーリは木陰から姿を現した。

「お前って実はかなりの使い手だったのか?」

 気配を察しられたのか?はたまた何の魔法なのか?とユーリは考えていたが……。

「いんや? 言ってみただけよ? あれで、誰も現れなかったらそのままだったけど、ちょっと遅れてユーリが出てきてたら赤っ恥ものだったわ。いやぁ、危なかったわね~」
「………」

 この時、ユーリは強く思っていた。
 この人には、性格では決して勝てないと言う事を。

 これが、ロゼと言う人物との最初の出会いだった。









LP0001 10月



~カスタムの町 酒場~



 話をまともに聞いているのはミリ、真知子の2人だった。
 トマトは、難しい話だと途中でKOされてしまい眠ってしまっていた。エレナは仕事を優先させてた。酔っ払い達から中々解放されないから、完全に聞き逃していた。

「……それって、話しちゃ不味いヤツじゃねーの? AL教の闇って」
「流石に……言葉が見つかりませんね」

 真知子とミリはそう言っていた。酔いもすっかり冷めてしまっているようだ。

「だから、言ってるでしょ? あんなの大したもんじゃない所か、場所によっちゃ最悪なんだって。ね? やる気なんて出るわけないでしょ?」
「……ロゼに言われたら、ちょっと 完全同意するのもあれだよな」

 ミリはそう答えていた。
 確かにどんな組織にでも闇は存在するだろう。今回であっても、町の住民の1人ラギシスが黒幕だと言う自体もあったから。
 だが、それでもロゼのそれを全部同意はちと難儀だ。

「話す前に言っただろうに……面白い話じゃないと。まぁ特殊な例だと思ってくれ。AL教で言えばロゼの様に」
「え~? 褒めてる?」
「褒めてないわ!」

 ユーリはやれやれとしていた。ロゼも楽しそうに絡んでいる。その2人を見ていたら、闇だろうが光だろうがどっちでもいいと2人は思えていた。

「わりぃわりぃ、辛気臭くなっちまったな?」
「ロゼさんとの過去、ありがとうございました。さ、飲みなおしましょう」

 折角の楽しい宴の席で暗い話?(後半からは微妙だが)をさせた償いとして、再び酒を皆で呷った。ミリと真知子は楽しい宴に戻したのだ。
 ロゼたちもそれに応じ……飲み合い第2ラウンドへと入っていった。

「その後ね~、ユーリと一発ハメちゃってねぇ~。いや~獣だったワ」
「ヤってないわ!!」
「ななな、なんと!! ユーリさんっっ!! そんな事をしてたんですかねーー!!」
「うぉっ! トマトが突然起きた!?!?」
「くすくすくす……、それは流石に無いですね。もうちょっと上手い言い方の方がいいですよ?」

 そして酒と共に、場が一斉に沸いていった。





《AL教の闇》


 ユーリは、あえてこの場ではそれ以上言わなかったが、これはまだほんの一部であり、深淵の底には更に凶悪な何かが蠢いている。
 
 ……いつか、その獰猛な何かが牙を向けてくる日が来るかもしれないと言う事を。

 
 

 
後書き
〜人物紹介〜


□ ローレ・エンロン

Lv10/33
技能 召喚魔法Lv2

AL教司教の1人。歴代司教最高齢更新中の脅威の161歳。それは殆ど「生ける屍」状態である。
生命維持装置つきの車椅子に座り、体中の至るところに管を通している。
召喚魔法の技能はかなりのもので、常に希少種であるイヤシンスを従えている。
功績を出し、法王になる為には手段を選ばない非情さももっている。

彼や、他の司教、AL教関係については、この先出てくるのは当分後になるだろう。

さて、彼は何歳まで更新できるのだろうか……


□ テンプルナイト・リーダー(名前不明)

Lv28/44
技能 剣戦闘 Lv1 盾戦闘Lv1

AL教テンプルナイトのリーダー。周囲からの信頼も厚くそれはテンプルナイトのメンバー達でも同様。ロゼにはよく悩みを打ち明けており、AL教一の不良シスターと呼ばれている彼女を唯一信頼・信用している人物でもある。
ユーリとも一戦交えている。

彼も出てくるのは当分後の話になるだろう。


〜その他〜


□ ゼス王国

大陸中央南部に位置する三大国の一角。発達した魔法技術の恩恵で何不自由ない住み良い国となっているが、魔人界と隣接しているから、一概には言えない。
マジノラインと呼ばれる山脈に構築された巨大な魔法要塞線があり、世界を隔てているとは言っても、時折感じる壁の向こうの禍々しさを感じる事ある為だ。
ユーリも何度か立ち寄り面識も多少あるが、それは後の話。


□ パリティオランの町

AL教の布教がされていない町であり、それが理由で魔物(ドラゴン)の仕業を装い消されそうになったしまった町。
現在では復興はまだである為、首都にて避難生活を余儀なくされている。
幸いにも、魔法使いが大多数だった為、≪ある問題≫は起こらなかった。

〜魔法紹介〜

※ 前話では、文字数関係で 載せられなかったので、こちらに。


□ 火爆破

敵の足元から猛烈な炎の柱が沸き起こる炎の攻撃魔法。炎の矢より高威力であり、広範囲魔法の為優秀な攻撃魔法のひとつである。志津香が好んで良く使う魔法のひとつでもある。
炎属性:初級魔法に分類

□ ファイヤーレーザー

両手から追尾能力のある炎の柱を打ち出す強力な炎魔法。それは貫通属性も含まれており、生半可な防御力の相手なら炎で焼くまでも無く貫き絶命させる。
炎属性:中級魔法に分類


□ 光の槍

その名の通り、槍の形をした光を撃ち放つ光輝の魔法。単数攻撃だがその分威力は有り、貫通属性も含まれている。
光属性:中級魔法に分類


□ ライトニングレーザー

雷系の強力な魔法であり、ファイヤーレーザーとは属性違いで威力は同等。
貫通の属性もあり、雷属性故に高確率で相手を麻痺させる事も出来る優秀な魔法。
雷属性:上級魔法  
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