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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第24話 真実を掴む為に



~カスタムの町 酒場~


「兎も角、オレは何処かの国に所属するつもりは今は無いんだ。だからこそ、比較的自由にやらせてもらってるギルドに所属してるんだからな。すまないが諦めてくれ」

 ユーリは、マリスとリアにそう伝える。
 目的を遂行する為に……、まずはある≪モノ≫を一つにしなければならない。何処の国にも属さない自由の力だからこそ、気兼ねなく動く事が出来るのだ。パイプが繋がっている上に自由な戦士、それが一番好ましい状況。
 あくまで理想像。高望みをするつもりはない。……この世に生を受けた以上 行く付く所にまで行く道中も、精一杯楽しみたいから。

「そうですか……それは残念です。ユーリさんが望むのなら、本当に将軍の地位ですら、惜しくはなかったですが……」
「……それも拙いだろ? いきなりぽっと出の男が軍のトップに躍り出たら確実に不平不満が続出するのが目に見えている。……それに生憎オレは人見知りでな。上に立つ器も無けりゃ、纏める力も無い」
「(え……? ユーリさんってそうですかね?)」

 ユーリの言葉に首を捻るシィル。
 人見知り?あって直ぐに軽く打ち解けたような気がするけれど、と。

「貴様の何処が人見知りだ! ガキがそんな訳ないだろう」
「誰がガキだ!! この歳下が! ちったぁ歳上を敬えってんだ!」
「がーっはっはっは、ムキになる所がガキなのだ、がはは!!」

 相変わらず、ランスとユーリは楽しそうに口喧嘩を繰り返す。この強さ、レベルの高さを知っても尚、変わらずに接するランスも流石だといえるだろう。ダブルスコアを喰らっているのだから、普通に考えたら、ランスがユーリに勝てる道理はない。
 が、ランスにも レベル以上の何かを秘めている事はわかる。

「はぁ……私も、ユーリさんに来て欲しかったんですが……」

 かなみは、ユーリを見てそうぼやいていた。
 想い人が傍にいるだけで、きっともっともっと強くなれるって思えるから。それに……可能性は絶対にあるって思える。他にも、想ってる人がいるって事が。

「かなみ、そこまであからさまに表情に出したら、バレバレですよ」
「ふぇっっ!! わ、わたしまた、声にっ!!」
「ふふ、今回は出てませんよ」

 かなみは、飛び上がっていたが、これはマリスの策略だったようで。
 本当に表情に出やすい為、忍者としてはどうかと思う所もあるが、とりあえず今の所ユーリ限定だから大丈夫だろうと判断をしていた。

「そんな事より、他の用事があったんじゃないのか? ああ……ランスに会う為だけにかな?」

 リアなら、それでも不思議ではない。
 あの日のランスとの追いかけっこ。時刻は夕方だったが、依頼が着ている場所へと向かっている最中にも声が聞こえてきたんだから。相当なご執着になってしまったんだろう。
 だからこそ、ありえる話なのだから。

「ええ、この日の為に、リア様の為に仕事を終わらせてきましたので」
「……大したものだな、公務ってのは、そんな簡単じゃないだろうに」
「リア様の為ですので」

 マリスは本当に簡単そうに話しているが、王室業務は絶対にそんな単純なものでは無いだろう。経済から軍議に関してまで。どこまで携わっているかどうかはわからないが、マリスが筆頭侍女と言うのは知っており、噂では政治を司っているとも聞いた事がある。
 そのマリスが言う以上は、本当に終わっているんだろう。

「あ、ダーリンにお土産があるんですよ!」
「なに?」

 リアは、かなみに合図をすると素早く後ろにおいてあった風呂敷を開いた。

 その中から出てきたのは剣と鎧。

 一目見ただけで判る。相当なものだと言う事が、手入れも行き届いているようで、美しい光沢を放っている。一国の王女が持ってくるのに相応しい代物なのだろう。

「これ、リーザス王国に古くから伝わる秘伝の聖剣と聖鎧よ! リアだと思って大事に使ってね? ダーリン!」
「うむ! 貰えるものなら何でも、全て貰ってやるぞ! がはは!」

 ランスは笑いながらリアから剣と鎧を受け取って早速装備をしていた。身体にもフィットするようで、問題なさそうだ。

「おお、成程な。これは良さそうだ。よし! シィル。もうこれは要らんから 売ってくるのだ」
「あ、はい」

 そう言ってランスは今まで装備していたモノをシィルに渡した。

「ダーリン! リアは貴方が振り向いてくれるその日まで、いつまでも待つからね!」
「だーーーだから、そんな日など来ん!! 1人に縛られるオレ様では無~い!」

 ランスはそう言うとそそくさと、シィルを連れて出て行った。
 自分から襲うことは多くても、ここまでアプローチを受ける事は流石に今までに無い事なのだろう。
珍しいランスの姿が見れたとユーリは思っていた。ただ……、恐らく次行くのはアイテム屋。武器を売りに行くんだろうと考えたユーリは。

「はぁ……ま、別に良いけど」

 軽くため息をしていた。
 そもそも、あれは自身が買ってやったモノなのに、あっさりと売るとは。そこはランスだからだろうとも思える。それに、剣や盾は兎も角、聖鎧はランスには似合わないと思う。
 だって、真っ白だから。とりあえず、誰も口にしていなかったから、ユーリも口を噤んだ。

「心中察します……ユーリさん」
「いやいや、ああ……そうか、かなみも知ってるんだったな? リーザスでも武器をオレが買ってやったって事」
「あ、はい……畏れながら 見させていただいてましたので」

 かなみは、頭を掻きながらそう言っていた。ユーリもどこかで見られているだろうとは思っていたのだ。それが、このかなみだったんだろう。

「ま、見た目は兎も角、あれほどの極上品を持ってれば、もう無いだろ。ある意味感謝だ。腕は立つくせに装備が無茶苦茶なんだよ。アイツは」

 そのまま苦言を呈するユーリだった。だが、かなみは解せない所もあるようだ。

「そもそも、ユーリさんはそれ程までの高レベルなのに、どうしてあの男と手を組む必要があるんですか?」

 その事なのだ。
 彼ほどのレベルの持ち主ならば、1人でいても全く問題ないと思えるのだ。だが、ユーリは軽く真剣な顔つきになる。

「……かなみ、冒険者をあまり舐めない事だ」
「っ!」

 かなみは身を反射的に引き締めなおしていた。

「レベルが全てじゃない。ランスも言っていたが、アイツはレベルだけじゃ計り知れないものがあるのは間違いない。……それに、人数がいた方が、仕事が速く終わるだろう? ……早く依頼者を安心させてあげられる。……それだけの事だ。ランスだったら、途中でくたばったりする様な心配もしていないからな」
「……申し訳有りません。浅はかな考えでした」

 かなみは、すっと頭を下げていた。
 ユーリは、自身が尊敬している、……想っている人は こう言う人だからこそ好きになれたんだと、思いなおしていた。

「それに、アイツには何処か不思議な感じがするからな、……何処か同じ匂いもする」
「なななっ!! そこだけは同意しかねます!! ぜんっぜん違います!」
「っとと」

 ユーリの手をがしっと握り締めるかなみ。
 あんな女ったらしな上に評判最悪な男とユーリを一緒にされたくない。たとえ本人が言ってたとしてもだった。

「ははは……、ありがとうな、かなみ」

 ユーリは笑顔でそう答えていた。……かなみは至近距離で見てしまった為 一気に顔を紅潮させた。

「い、いえ……だ、だってユーリさんは私の目標……ですからっ//」

 必至に立て直しつつ、かなみは頭を下げた。ユーリも軽くそれに手を振って答えた。

 正直、くすぐったい気持ちはある。
 
 目標と呼ばれたことなど、これまでに無かった事だからだ。

「ユーリさん」

 そんな時、マリスがユーリを読んだ。ランスはどうやら、あの鎧や剣が気に入ったようで、何度も鏡の前でポーズを取り夢中になっている様子だ。

「ん? どうした?」
「先ほどの件ですが、リア様から許可が下りました。戻り次第直ぐに処置いたします」
「本当か……、すまないな。無理を言ってしまった」
「まぁ、ユーリさんには借りがあるからね」

 リアもユーリの元へとやってくる。
 ランスの前の彼女ではなく、政治家としての彼女が目の前にいた。2人は、政治では相当な腕の持ち主だ。

「それに、借りが大きくなってくれば……、ユーリさんを迎え入れたいって思ってるんだけどね? 実は」
「その点は悪いな。さっきも言ったが軍の中で亀裂が生まれるぞ? 素性もそうだが、目だった功績も王国内では無いオレがいきなり上に立つと」
「それをふまえても、優秀な人材が欲しいのが正直な話なんで、リーザスの軍は将軍より以下の戦力が極端に落ちてるので」
「丁度世代交代の時期でもあるのです。それは各国の猛者も同様で。……頭一つ抜けた人材は喉から手が出るほど欲しいものなのです」
「……」

 リアとマリスの発言に複雑な表情を浮かべるかなみ。
 各国の名立たる猛者、それをユーリも知らないわけではない。そして確かに歳老いている者も多い。世代交代の時期と言うのは各国共通だろう。そして情報戦も水面下で行われているのだとも思える。

「贔屓目には出来るかもしれないが、当分は予定にないと思ってくれないか? それじゃあ、オレもそろそろ行く。まだ 仕事は終わってないのでな」
「はい。お気を付けて。ユーリさんには何もお持ちできずに申し訳ありません」
「いや、貰ってる」

 マリスの言葉にユーリは首を振った。

「さっきの条件を飲んでくれたのもそうだ。それに、あの武器防具でランスの戦力も上がった。……申し分ない程だよ」
「で、でも……」
「それにな」

 ユーリは俯かせたかなみの頭を軽く叩いた。

「目的はランスだとは思うが、それでもこんな激励。冒険者であるオレにはあまり無い事だ。この事だけでも気合が入るってもの。後、目標って言ってくれてるヤツの前で情けないことは出来ないし、言えないからな」
「あ/// ま、待ってください!」

 かなみは、急いで懐から、一振りの短刀を取り出した。

「こ、これ……ユーリさんにはきっと、不必要だって思いますけど、な、何かの役に立ててもらえれば……そ、その、わ、わたし……の」

 かなみは必至に言おう言おうとするが、言葉が上手く言えないようだ。
 リアがランスに言ったように……『自分の事だと思って、自分の代わりに連れて行って』といいたかったんだけど。そこまで大胆にはなれなかった。

 ユーリは、差し出された刀を見て、呟く。


「……リーザスの王女の側近、忠臣を目指す者の一振りの短刀。心強い事この上ない。心身ともに支援を頂いた。……ありがとう。大事に使わせてもらうよ」

 そう笑顔で言い、ユーリは酒場から出て行った。

 その姿を見送る3人。リアもマリスも再び政治家の顔に戻すと呟く。

「あの男が人見知り? ダーリンが言うようにとてもそうは見えないわね。……キースギルドか、あの小規模ギルドに置いておくには本当に惜しい人材だわ。……圧力をかけて……、は無理か。自由都市圏内のギルド、町だし。いざこざが起きるわね」
「戦闘力、交渉力、状況判断力、指揮力。どれをとってもS級クラスかと思われます。戦闘力に関してはまだまだ未知数の力を隠している可能性も。……それに、こちらの秘密も黙認してくれていますが、握られているのも事実。……贔屓と言わず、出来ればリーザスで抱え込みたいのですが」
「……理由はまだ判らないけど、リーザス以外の国にも付くつもりは無いのは信じられそうね。でも、それを踏まえてもうちの傍に置いておきたいわ。意志の強さも並じゃないし、簡単じゃないって思うけど、定期的に接触とアプローチはしておいて」
「畏まりました。リア様」
「っ……//」

 マリスは、リアの支持に頷いた跡に、まだ呆けているかなみに視線を向ける。
 受け取ってもらった事が嬉しくて仕方ないが、セリフを最後まで言えなかった事は残念で、表情が上手く作れない様子だ。

「ふふ、かなみ。まだチャンスはあるわ」
「っ!!」
「それに今は受け取ってもらえた事だけを喜んで良いと思うわよ」
「あ、はい! ……って、ち、ちがっ! わた、わたしはそんなことりゃっ……」
「舌 噛んじゃって……、可愛いわね。そうだわ。アプローチは、かなみにしてもらいましょうか。ユーリの事懐柔しちゃってくれる?そうね~……この町にホレ薬とか無いのかしら?」
「ほ、ほれっ!!?? そ、それは、私には……」
「冗談よ。冗談。ふふふ……」

 かなみは終始慌てていた。
 ホレ薬……、確かにそれがあれば……、と考えなかったか?と言われれば首を縦にふれない。ユーリは顔の事を凄く気にしているからこそ、かなり鈍感。顔が可愛いからと、とらえられてしまっている傾向にこれまであったんだろうと思える。

「(そ、そんな、私は普通に恋をしたんだから……いつか自力で振り向いて……で、でも、効力ってどれくらい?? 少しくらいなら……、って私は何をっっ!!)」

 かなみは頭をぶんぶんと振りつつ、悶えていた。
 
「考えてるの、丸分かりですね」
「ユーリ事の諜報は無理ね。この分じゃ」

 口に出さずとも何を考えているのか丸判りな彼女であった。真の忠臣への道は長く険しい……。

 そして、リアの一言。

 ≪この町にホレ薬は≫の一言。

 これが波紋を広げる事になるのだった。


「ふ~ん……、やっぱな」


 階段下でいた女がいた。
 こう言った話題を聞きつけるのに適した耳を持っている者。性のつく行為が大好物で 一度狙ったら最後まで!が心情の性豪。

「早いうちにお近づきになりたいヤツだね。特にかなみってコは。いつでも在庫は余しとくよ……?」

 ≪彼女≫はニヤリと笑うと、そのまま酒場を出て行ったのだった。






~カスタムの町 情報屋~


 ユーリは次に情報屋へと足を運んでいた。真知子の妹、今日子の事を聞く為にだ。
 ランが正気に戻った以上、彼女もここに帰ってきていてもおかしくないのだから。

「あ、ユーリさん。お疲れ様です。この度は本当にありがとうございます。ランさんまで助けていただいて」
「なに、まだ後1人残っているだろう? 最後の1人が」
「はい。それでも私はユーリさんを信じてますので」

 真知子はそう言うと頭を深く下げていた。
 彼女にとっても、町に光りが戻り、大切な仲間が戻った事を喜んでいるのだ。表情には出辛いと本人は言っているが、もういい加減長い付き合いだから大体はわかる。

「あと、今日子さんの事だが」
「……あのコならもう、この町にはいませんよ。もうココには入られないとかって」

 真知子はやや呆れた様子でそう言っていた。それを聞いたユーリも同じような表情をする。

「アイツか……」
「ええ、きっとそうでしょう。本当に馬鹿よね。男の子なんてよりどりみどりなのに。でも、ご心配しないで。きっと暫くしたらまた帰ってくるから」
「よりどりって……まぁ、真知子さん達ならそうかもな。だが、変なヤツには絡まれないようにな?」
「……それは、勿論ですよ」

 真知子はやや眉が上がったが笑顔を崩さずにそう返していた。

「ユーリさんっ!!」
「うおっ!!」

 突然、背中に衝撃を感じていた。そして、腕を回されてがっしりと抱きつかれているみたいだ。

「優希か?」
「はーい! リーザスの情報屋、色条優希です! ユーリさんに会いたくて来ちゃいました!」

 ぱっと手を離して、くるくると優雅にまわる。

「どうやってココに。それにどうしたんだ?」
「ぶ~、だからユーリさんに会いにって言ってるじゃない。情報屋の情報網を甘く見ちゃ駄目だよ? 冒険者を甘く見ないようにっ!」
「むぅ……確かにそれはそうだな、少し甘く見てた、って ソレとコレとは違うだろ? オレに会う為に んな危険な事するか。マジなら今後はやめろ」

 ユーリは軽くチョップをした。
 優希は、まだまだ若い情報屋だ。あまり無茶をするのは頂けない。以前も襲われた経験もあるのにだ。

「あうっ……、じょうだんだよ。真知子さんとの情報共有で一度会いに来たの。ユーリさんに会えたのはとても嬉しいけど、ちゃんと安全にうしバスに乗ってきたんだよ? あ……えへへ、でも 心配してくれてありがとう!」
「ん。出会いを考えたら心配にもなるからな」
「白馬の王子様! だよね!」
「そんな良いもんじゃないだろうに……」

 目を輝かせている優希を軽く撫でるユーリ。真知子も微笑ましそうに見ていた。

「あ、ユーリさん。そういえば聞きたい事があるのですが」
「ん?」

 真知子がそうユーリに聞く。今朝方の占いの事を……確認する為だ。

「女の子に会いませんでしたか? このカスタムのコ以外で」
「へ?」
「あ、私もそれ、聞きたい! どうなのっ!?」

 優希も乗り気で身を乗り出してきた。何がなんだか判らない事だったが……、何故知っているのかも気になったのも事実。

「まぁ、ほんのついさっき、な? それがどうかしたのか?」
「うわぁぁんっ!! やっぱりぃぃぃ!!」
「ふふふ、私の腕もまだまだ落ちていなかったのね」

 優希はなんでかパニックになっていて、真知子は笑っていた。話を聞けば、真知子がそう占ってユーリに≪出会い≫の相が出たとの事。精度チェックをしたかった為に聞いたとの事だった。
 だとしたら……疑問も残る。

「なんで、優希はそんなに慌ててるんだ?」
「ぅ……、や、別に何でも無いヨ?」
「慌てますよ? なんていったってユーリさんにこいw「わぁぁっ!駄目ですっ」ふふふ……」
「??」

 何やら楽しそうにしているが……とりあえず まだする事があるから。

「とりあえず、まだ仕事が残ってるから、またな? 真知子さん、優希」
「はい。吉報を待ってますよ」
「あ、う、うんっ! またねーユーリさん!」

 慌てる優希を尻目に、ユーリは情報屋を後にした。それをしっかり見送って、出て行ったのを確認すると。

「も、もー 真知子さんっ!?」
「あら? 私の考えに賛同してたんじゃ?」
「ゔ……で、でも まだ心の準備ってのがあるのっ!! 女の子なら、やっぱり自分だけを見て欲しいのに~~!」
「うふふ。確かにそれは理想よね? でも、難易度が遥かに高いわよ?私の占いもまだまだ現役みたいだし、今日子がいればよりいっそう判りそうだけど」
「うぅ……」

 最初に真知子が言っていたの≪出会いの相≫なら、どれだけ良かった事か……。
 ユーリに出たのは出会いではなく≪女難の相≫。そもそも出会いの相なんて、今即興で作った相だ。

「会ったって言う女の人って……どんな人なんだろう?」
「さぁ……でも、良い人なんじゃない? ユーリさんの魅力を判る子だし、それに判る事はあるわよ?」
「え~なにが??」
「私達と同じように悩んでる人って事! あ~、悩みを共有できるコが増えるのは良いかもね?」
「うううう……、真知子さん! 悩んでないでしょ!」
「だって、私にも愛してくれるなら、ユーリさんが他の誰かを愛しても構わないからね」
「ぶぅ……私の事も、愛してよ~」

 そこまで開き直る事が出来るのかな。とも思える内容だった。











~迷宮≪地獄の口≫入口~




 最後の魔女を救う為に。迷宮前へと足を運ぶ。そこにはもうランス達が来ていた。

「おいコラ! 遅いぞ? ユーリ!」
「私達が来たのはついさっきですよ?ランス様」
「コラ!」
「ひんひん……」

 いつも通り?のやり取りをしているランスとシィル。ユーリも軽く笑った後、腕を回した。

「さぁ……とっとと捕まえるか。助けてやらないとな、志津香を」
「む! オレ様の女を呼び捨てとはどういうつもりだ!」
「いつ、お前のものになったんだよ」
「魔女達の処女はこのオレ様のもの。それは宇宙が出来た時から決まっている事だ」
小宇宙(コスモ)レベルかよ!! って、アホなこと言ってないで、さっさと行くぞ……と言うより、志津香がいる層、判ってるのか?」
「がはは! 勿論!!」

 ランスは腰に手を当てながら堂々と構えて……。

「知らん!!」
「だろーよ」

 一言一句、違わず ご期待通りの答えが返ってきた。

「それをオレ様の為に探すのが下僕としての勤めだ!」
「久しぶりに聞いたなぁ、下僕って! 誰が下僕だコラ!」
「あ、ふ、ふたりとも、落ち着いてください……」

 必至に宥めようとしているシィル。傍から見ても良いトリオなんだと、思える。シィルは、仲の良いコンビだって思っていたが……シィル自身もその輪の中に入っている事を、彼女は気づいていなかった。
彼女がいるから、ランスはいつもの2割り増しで騒がしいと言う事も。

 そんな時だ。

「あ、あの……すみません」

 1人の女性が迷宮前に来たのだ。

「おおっ! 美女発見! がはは、オレ様の激励にきてくれたようだな! ならば、一発……」
「って、ランじゃないか。ほら、用があるみたいだ。いきなりそれヤメロって」

 きていたのは、四魔女の一角のエレノア・ランだ。彼女は、今役所で町の為に外交を担当していると聞いていたが……

「どうしたんだ? 仕事で忙しそうだと思ったが?」
「馬鹿を言うな、オレ様の為に来てくれたに決まっているではないか! がはは!」
「……襲った相手に言う言葉じゃないって思うがね」
「そ、それは……私も同じなので。そ、その……ごめんなさい。皆さん。……シィルさん」
「い、いえ……私は、気にしてませんので」

 ランとシィルは何処か俯き気味に話をしていた。
 指輪に操られていたランがシィルを襲っていた事を思い出しているようだ。心優しい彼女だし、何よりも、本当の性格はそんなHな事、聞いたりしただけで、顔を赤らめてしまうような性格。してしまった事を思い出しただけで、悶えてしまいそうになるのだ。

「それで、本当にどうしたんだ?」
「あ、はい。志津香の事で……気になる事があるので」

 ランは、真剣な顔をして話し出した。

「がはは、心配するな! 四魔女は必ずオレ様が無事にコンプリートしてやる!」
「あぅ……そ、それは宜しくお願いします。指輪から解放出来るのはその方法しか無いので」

 ランは顔を赤らめつつもランスに頼んでいた。だが、伝えるべき事はそれじゃない。

「……ランス。真面目な話のようだ。ちゃんと聞いたほうがいいぞ?」
「馬鹿者。オレ様だって、いつも大真面目だ大真面目!」
「ラン。志津香の事で何か情報があるのか?」

 ランスの事はとりあえず置いといて、ランに聞いていた。話に入れば、ちゃんと聞くだろう。……多分。

「あの結界が、私達の魔力でじゃなく。志津香1人で維持していた、と言う話はしってますか?」
「……ああ。マリアから聞いたよ。驚いた。あの規模の結界維持を1人でやっていたんだからな。間違いなく相当の使い手なんだろう」
「ふん。オレ様の手にかかれば。さくっと解決だ。処女もGET! コンプリート! がはは!」
「ら、ランス様……」

 その情報は、マリアから聞いている。何度考えても、脅威的な魔力だと言う事は判ると言うものだ。たった一人で町一つを封印、結界の維持をするんだから。ランスは、相変わらず自信満々で志津香の処女を狙い、そしてシィルは複雑そうにしている。

「はい。間違いなく……彼女が私達魔女の中で最強です。その魔力は残りの3人を合わせても、敵うかどうか判らない程です。その彼女がこの段階で結界を解いたと言う事は。結界維持に費やしていた魔力を他に当てたと言う事なの。……彼女が何をしようとしているのか、それは私達にも判らない。ひょっとしたら、もっと恐ろしい事を……」

 ランは表情を落とす。
 自分もその事に関わっていたと罪悪感もまだ彼女の中で大部分を占めているんだから。

「大丈夫だ」

 ユーリは笑ってランの肩を叩いた。

「志津香が何をしようとしているのかは判らないが。急ぐ必要があるのはわかった。態々すまない。自分の仕事もあるのにな」
「いえ……、私の責任ですから。すみません。志津香の事宜しくお願いします」
「おいコラ!志津香はオレ様が助けるんだぞ! 志津香の処女はオレ様のだ」
「助けるつもりなら、そんな風に言うなって」

 そう言うと、三人は再び迷宮≪地獄の口≫へと入っていった。

 ランスは知らないようだが、ユーリは志津香のいる層の事は聞いている。生きとし生けるものにとって、生存する事が困難なエリア。灼熱地獄。溶岩が煮え滾る第5層。

「……ユーリさん」

 ランは、ユーリが見えなくなるまでずっとずっとこの場で残っていた。口に出すのは、ユーリの名前。……ユーリだけ??


 女難の相はまだまだ、続くのだった。
 

 だが、それは 彼女にとっては災難。ユーリにとって、イコールか? と言われればそうでもない。……その道が困難な道だと言う事。茨の道である事だった。

 忘れ去られる可能性を孕んだ少女なのだから。


 その名は≪エレノア・ラン≫


「くすん……。はやく、町の復興に行かないと」

 何処か、感づくことがあったのか。涙を拭いながら役所の方へと帰っていった。



 ランス君。彼女達をコンプリートすると言っていたが、心に関しては今の所2勝1敗。結構良い勝負だぞ。

 そして、最後は魔想志津香。

 彼女は一体どっちに転ぶ!?
 片方は、鬼畜節操無し。片方は、童顔鈍感。


 運命や如何に!!




「……変な予告されたような気がするが……」
「どうかしたんですかユーリさん……??」
「ふん、暑さで頭やられたんじゃないのか?」
「まぁ……そう思ってもおかしくない暑さだな」

 ユーリがそうぼやいても仕方が無いのだ。そうココは灼熱地獄。







~迷宮≪地獄の口≫志津香の迷宮~



 正に、元の名前である地獄の口に相応しい場所となっている。外気温だけでも40℃は悠に超えているだろう。そして、通路の下には溶岩が広がっている。
 そこは本当の地獄の入口に繋がっているだろう。

「ふぅ……」
「灼熱地獄じゃないか!! ええぃ! シィルも擦り寄って来るな!余計にもっと暑くなるだじゃないか!」
「こんな所に拠点を構えたのか。……この暑さをものともしないんだろうな志津香は」

 シィルとランスがじゃれ合っている時、ユーリは迷宮の奥を見ていた。そこには巨大な屋敷がもう既に見えている。あれが恐らくは志津香の屋敷なのだろう。

「ええーい! 暑いではないか! 暑いのは嫌いだぁぁ!! 何とかしろ、シィル!」
「は、はぅぅ……ら、ランス様落ち着いてください」
「あんま叫ぶと余計に暑くなるぞ? モンスターもいるんだ、ちょっとは落ち着け」

 暴れるランスを宥めているシィル。ユーリも苦言を言っているが、中々収まる気配は無い。モンスターの1匹でも現れれば 集中するか?と一瞬思ってしまった。
 そして、その願いは届いてしまったのだった。

「……金とりの群か」

 羽音が聞こえてきたかと思えば、複数の金とりが迫ってきていたのだ。黄金に輝くこかとりすの上位種、だが残念ながらGOLDが取れたりはしない。そして、モンスターは一種類だけではなかった。空に金とり、そして地に……

「きゃ、きゃあああっっ!!」
「シィル!?」

 シィルの叫び声が突然響き渡った。
 目の前にいたのは、唐傘オバケの様な姿をしているモンスターが3匹……唐傘の中をあけてるヤツもいて、その中は裸コートだった。

「それに変質者か。まんまの名前のモンスターだな?」
「おぞましいものを見せるんじゃなーーい!! こらぁ! シィル、あんな変なもんを見るんじゃない!!」
「は、はぅぅ……見たくて見たわけじゃ……」

 シィルは多大なるダメージを受けてしまったようだ。全女性の敵と言うヤツだろう。

「アイツはオレ様が血祭りに上げる! あの変なとりはお前がやれ、ユーリ!」
「お? シィルちゃんの為に頑張るってか?」
「馬鹿者が!! あんな汚物をいつまでも見たく無いだけに決まってるだろうが!! ラーーンスアタァァック!!」

 “ちゅどーんっ!!”
 ランスアタックが、変質者三人中二人を吹き飛ばした。溶岩地帯に落とされてしまい、そのまま黒煙を上げながら溶かされてしまった。

「まぁ、そこは同意だ。シィルちゃん元気の薬だ」
「あ、す、すみません……」

 ユーリはダメージを負ってしまったシィルに回復薬を渡した。シィルはそれを受け取ると一気に飲みほす。どうやら、本当に深刻なダメージのようだ。……渡したのは正解でだろう。

「さて……煉獄」

 ユーリは、次は自分の番だといわんばかりに、剣に闘気を溜めた。相手は空を飛ぶ敵。

「斬光閃」

 光を纏った飛ぶ斬撃。
 その一撃は金とりの羽部分を正確に切り落とすと、空を飛べなくなり落ちていった。

「複数だからな、威力は落としても連撃にする方が良いか」

 ユーリは、剣を握り締めながら新たに煉獄を発動させた。

「えい! 雷撃」

 その時だ。シィルが後ろから魔法で援護をしてくれた。雷属性が金とりの弱点であり、即座に絶命し下に落ちる。

「ナイスだ」
「あ、はい! ユーリさんのお薬のおかげです!」
「おいコラ! シィル! こっちも援護しないか!」
「あ、はい!!」

 シィルは慌ててランスの方へと向かった。その後姿を見てユーリは言った。

「あの変質者の姿を捕らえないようにしろ、ランスの後ろから攻撃魔法をするんだ」
「わ、わかりました!」

 ユーリの言葉通りシィルは、ランスの後ろに隠れつつ援護をした。……勿論、ランスがそんなの許すはずも無く、イジワルからかシィルに後2,3回程変質者を見せて多大なるダメージを与えられたのだった。

「は、はぅぅぅ………ユーリさん……ごめんなさいぃ、回復薬を無駄に……」
「無駄じゃないって、シィルちゃんは重要な戦力なんだ」
「がはは、そうだ! どんどん使って良いぞシィル!」
「お前も今度から買え」
「馬鹿言え、何度も言ってるだろうが 下僕のものはオレ様のもの。オレ様のものはオレ様のものだ!」

 ランスは、そう言って更に笑っていた。暑いと言うのを忘れたようでとりあえずは良かった……のだろうか?

「全く……、無茶をさせるなよランス」
「がははは、シィルは鍛え方が足りないんだな? さぁ! 今から特訓だ!」
「ひんひん……」

 ランスが服を脱ぎ去ろうとする。

「アホなことしてないで早く行くぞ……」

 と、一応は言ったんだけど、ランスは止まらないようだ。

「先に言ってるからな?」
「がははは!!」
「ひんひん……ランス様ぁ…痛いですぅぅ」

 聞いていないようなので、とりあえずユーリは先へと進むことにした。本当にやばい時はランスはやれるだろう。シィルも様々な魔法を使える優秀な魔法使いだ。
 だから、自分1人いなくなった所で特に問題ないだろう。……だが、正直それは言い訳だ。ユーリは単独行動はこれまでにとらなかった。パーティを組んでいる以上は迷宮ではなるべく取らないようにしていたのだが、焦る気持ち、はやる気持ちが彼を普段しない行動へとさせていたのだ。

「………」

 そして、ユーリは巨大な屋敷の前へ立っていた。

 もう、暑いのさえ考えられなかった。ただ、脳裏に浮かぶ光景だけに集中していたのだ。




『ありがとうございます……、あなた方のおかげで助かりました』
『いえ、困ったときはお互い様でしょ?ねぇ あなた』
『ああ、勿論だ。いつまでもいてくれて良いんだよ』




 夫妻に助けを求めている女性がいた。快く引き受けてくれる夫妻。人見知りのようで、後ろに隠れてしまっている男の子。


『ここが、家だと思ってくれて良いのよ。私はアス●ーゼ、こっちは夫の●造。宜しくね』
『本当にありがとうございます。私はリ●ーナです』


 ユーリは目を再び開ける。
 目の前に広がるのは巨大な屋敷。志津香の屋敷だ。

「ここが……、あの場所だと?迷宮の中に移動させた。……のか」

 ユーリはそのまま、扉に手を触れた。押しても引いてもビクともしない。機械的な仕掛けではなく、どうやら 魔法的な結界を張っているようだ。

「魔法の結界で良かったな。……手間が省ける」

 ユーリは笑った。手をゆっくりと扉から離す。そして、手の回りに薄っすらと光が現れる。その光りを翳しながら錠に触れた。すると……鍵がひとりでに外れ、屋敷の扉を開くことが出来たのだ。

「ふぅ……、ランス。悪いな」

 軽くランスに謝罪の言葉を言った。
 志津香の屋敷の扉は自分が越えたらまた再び扉が閉まっていた。あの時の簡易結界と同じで、一度開いたくらいでは複数を通す事は出来ないようだ。怒っているランスの姿が目に浮かぶのだ。

「な、な、な……なんだ? あの男……、志津香様の結界を越えた??」

 後姿を見ていたのは風の戦士。なぜか、枯れ木のように痩せ細っており今にも崩れ落ちそうな男だった。





「ぐああ! ユーリのヤツ!! 勝手に先に行ったな!」
「い、いえ……ユーリさんは先に行くと言ってましたが……」
「なら、何故言わんのだ!? この、こうしてくれる!」
「ひんひん……痛いです、ランス様……」

 言ったけど聞いてくれなかった、とシィルは思っていたが、もれなくゲンコツが再び落ちてきそうだった為、口を閉じた。だが、シィルは疑問に思う事もある。こんな安易に単独行動をどうして、ユーリがとるか判らなかったのだ。

「(以前も……ランス様が他の人と……その時も待っていたのに、今回は……)」
「ええぃ!ユーリめ!志津香の処女はオレ様のものだぞ!抜け駆けするつもりか!!」

 ランスは、急ぎ足で目の前にある巨大な屋敷まで進んでいた。シィルもその後に続き、目の前にまで到着した。

「あ、駄目です。鍵がかかっていて開きません。ですから、ここにはユーリさんは着ていないと思いますが」
「なにぃ!? ここは志津香の屋敷だろう! そんな鍵など、オレ様がぶっ壊してくれるわ!!」

 ランスは、扉の鍵を目掛けて剣を振り下ろすが、簡単に弾かれてしまい、傷一つ残っていない。その扉自体も同じようで、全く傷が残らない。扉のガラス部分でさえ割れないのだ。

「なんなのだ!! ここは!」
「これ、結界が張ってます。間違いないです」
「ええぃ! それを早く言わないか! 無駄に体力を使ったではないか!」
「ひんひん……すみません、ランス様」
「シィル、他に出入り口が無いか調べるのだ!」

 ランスがシィルにそう指示を飛ばすが、周囲にある入れそうな場所は全て入ることが出来ない。全体に結界がかかっているようだ。

「ぐぅむ……」
「ユーリさんはココじゃない場所にいったんじゃないですか?」
「いーや、アイツはここの筈だ。どーせ、オレ様がヤっているのを見てムラムラきてしまったのだ!むっつりガキだから、言葉に出来ずこうして抜け駆けの形をとるしかなかったのだろう!」
「そんな……ユーリさんに限ってそれは……」

 ランスの言葉を信じられないシィルだった。これまでの姿を見ているからこそだ。だから……十中八九 何かがあったと考える方が妥当だろう。

「君達はさっきの男の仲間なのかい?」

 その時だった。後ろから声が掛けられたのだ。慌てて振り返ってみればそこには男が立っていた。鎧も着てる、剣も持っているなのに一切強そうには見えない。なぜなら、もやしの様にやせ細っているから。

「何なのだ? 貴様は」
「これは失礼した。私は風の戦士、シィルフィード。この層を支配している志津香様の部下だ」
「そうかそうか、男は邪魔だ。そこをどけ」
「私はシィルです。よく似た名前同士、よろしくね」
「ああ、こちらこそ」
「おいコラ! 紛らわしい名前しやがって、オレ様の奴隷と似たような名前にするんじゃない」
「しかし……名前がシィルフィードなんで」
「よし! 貴様の名は……目障りそうだからな、これからは≪クズ≫だ。そう、クズと言う愛称で呼んでやる事にしよう。ありがたく思え、がはははは!」
「ひどい……」

 痩せ細って今にも死にそうな男が更に沈んでしまい、このままでは呼んでも反応が無いただの屍になってしまいそうだ。

「おい、それよりクズ、さっき、男がどうとか言ってたが、ソイツはどこに言ったのだ?」
「ああ、彼なら志津香様の館だよ。結界を越えたからびっくりしたんだ」
「なにぃぃぃ!! なぜ、止めなかったのだ!! 貴様!」

 ランスはシィルフィードを思いっきり蹴飛ばした。

「ぐえええ! そ、そんなの無理だよ。気がついた時には入っちゃったんだから」
「使えんクズだな! もう剣の錆にしてくれるわ!」
「ひぃぃぃ」
「ああ……、私と似た名前の人が酷い目に……」

 ランスはぶんぶんと剣を振り回していたが、ある事を思いついた様で剣をとめていた。

「おい、貴様 志津香の屋敷に入る方法を知っているな? 知らなくてもいいぞ、ただ 首が飛ぶだけだ」
「は、はい! 知ってる、知ってます! だから止めてぇ!」
「はぅぅ……ユーリさんがいないと、ランス様が……」

 止める人がいないから、もう檻の外に出された猛獣状態になってしまっているようだ。
 その後、ランスはシィルフィードもとい、クズさんに鍵についてを聞き出した。どうやら、この先にいるラルガと言うサッキュバスに鍵を奪われてしまったようなのだ。ラルガは、志津香がこの辺りにあまり現れなくなったのをいい事に、勢力を持ち、やりたい放題をしたようだ。

「ふむふむ、成程……つまりはその鍵をラルガから取り戻せば良いのだな?」
「あ、ああ……だが、ラルガには人間には勝てないと思う、私も挑んだのだが このざまだ」
「それは単にお前が無能だっただけだ。オレ様なら勝てる! それで、ラルガの館は何処だ? 言わないと……」
「言う言うって!! ラルガの館はこの先だ。入るには二回ノックして、一呼吸を置いてから3回目のノックをすれば扉が開く。間違えると開かないから」
「よし、ならばさっさと行くぞ」
「……へ?」
「オレ様の下僕が許可無く志津香の所へ向かったのでな! 早く追いかけねばならんのだ。盾男が必要なのだ」
「盾男って俺??」
「他に誰がいる? 来ないのならそれでも良いぞ。ただし、首と胴がお別れをするだけだ」
「ひぃぃぃ!! い、行きます!行きますから!!」
「ら、ランス様……」

 こうして、新たな仲間?が出来た。
 シィルフィード。じゃなく クズ。当然、モンスターが出れば 即座に戦わし、シィルが必至にカバーをしてあげていた、名前が似ていると言う縁も在った為に、死なせるのには忍びなかったようだ。シィルのフォローもあり、クズも死ぬ事も無く ランス達はラルガの屋敷へとたどり着く事が出来ていた。







~迷宮≪地獄の口≫ ラルガの館~


 そして、ラルガの館に入ったその時だ。

「な、なんだ? この香りは! エロエロムード満天では無いか」
「は はぅぅ……」
「ぅぅ……もうココには近づきたくなかった……」
「お前まだいたのか?もう要らん、とっとと失せろ」
「ランス様……ひどいですよ……」

 ランスは、クズを蹴り上げてラルガの館から追い出していた。シィルもその行為に思わず言ってしまったが、直ぐに口を噤んだ。死ななかっただけでもよかったと思っていたのだ。そして、部屋の忠臣に美しい娘が立っていた。衣類を纏っておらず、妖艶な雰囲気を発生させ続けている。
 そして、その背後には無数の女の子モンスターねこ。ラルガのねこも佇んでいた。

「ランス様、用心してください! サッキュバスです、性の魔女です!」
「ほほう、君がラルガか?」
「そうです。私がこの地区を支配する者です」

 その声は色っぽく聞いているだけでランスは思わず涎を垂らしてしまう程だった。だが、ランスはそれをぐっと堪えて一歩前に出る。

「要件はわかってるな? 志津香の屋敷の鍵を返してもらおうか?」
「いいわよ。ただし、私をイかせる事が出来たらね」
 
 ラルガからのまさかの条件を聞いたランス。そこまで言われたら我慢する必要は無いと判断したようだ。

「ラッキ―――!! いただきま――――す!!」

 ランスは一目散にラルガに飛び掛って……その30分後にあのシィルフィードと同じような姿へと変えられてしまっていた。









~志津香の館 一階~



 ユーリは屋敷の中を探索した。
 そこには風の戦士やメイドがいたが、問題なく一蹴する。ユーリは目を瞑った。鮮明に見えてくる光景、目の前に広がる過去の記憶の光景。それが再び続いていた。

『ははは、ここは随分と広いだろう? 3人じゃちょっとばかり寂しくてね?』
『そうよ。志●●もまだ小さいから 君達が来てくれて本当に良かったって思ってるのよ』

 優しく微笑んでくれる二人。まるで、我が子の様に愛情を注いでくれているのがよくわかる。

『こら、●ー●。走っちゃ危ないでしょ?すみません。うちの子が』
『良いんですよ。子供の内はしっかりと遊ばないと』

 それは勿論自分自身の母も同じだ。父親を亡くし、そして色々あって、それでも守ってくれてたんだから。



 そして、ユーリは再び目をあけた。

「……この記憶は、多分 2,3歳と言った所か、よく思いだせたものだ」

 そう考える。幼い頃の記憶は曖昧なものだ。だが、鮮明に浮かび上がる光景でもある。母親の顔、優しかった夫妻の顔。だが、1人の顔だけがまるで霧がかかったかのようになって見る事が出来ないのだ。

「記憶が混濁しているから。と考えるべきか」

 エレナの表情が見れないのだ。

「エレナはここにはいなかった。そう考えるのが自然か……、どうしてこんなに曖昧なんだ、俺の記憶は」

 やや苛立ってしまっている自分がいるのがわかる。だが、冷静さは直ぐに取り戻していた。頭は冷やして心は熱く。それが重要だから。そして、一室の扉をゆっくりと開けた。その部屋は、本で埋め尽くされており、まるでちょっとした図書館の様になっている。床にも所々散らばっており、机の上にも積上げられている状態だ。

「何か調べ物をしていた……か? ゼスでも有名な著者が書いている魔道の本が多数あるな」

 ユーリが目を通した本。
 それは《ミステリア・トー》が執筆している魔道の本だった。分野としては攻撃主体のもの。恐らくはLv2の魔法の才覚が無ければ発動する事が出来ないであろう高難易度の魔法が事細かく記載されていた。

 そして、ユーリはある一冊の本へとたどり着いた。

 それは、机の上にありつい最近まで読んでいた形跡もある。何より、開きっぱなしになっている。

「時空転移魔法、時の流れを遡る魔法と言うわけか、そんな魔法がこの世に存在しているなんて……いや、聖女モンスターに時を司るものがいたとあったな。だが、人間がそれを……?」

 ユーリは、唖然としつつその本の内容を読んでいく。
 誰が書き記したのかは、廃れている為判らないが方法が詳しく記載されているのだ。故に、試す事は出来ない事は無い……。だが、その方法が口には出しづらい方法だった

「環状列石を使用し空間に莫大なエネルギーを集める。75KDのエネルギーに代用するものが女性の最高潮、か……、志津香がなぜ女性を攫うのかこれで理解できたな。……集めるために町を封印、そして解いた理由は集まりきったから。辻褄は合うな」

 ユーリは、そう言うと再び本を手に取った。他にも何かかかれていないかどうかを確認する為だ。そして 最後のページを捲ったときだ。本に違和感を感じた。

「何だ……? これは……」

 最終ページの筈なのに、何故かまだ他にページがある様な感じがしたのだ。気のせいかと思い、またペラペラと捲って最後のページを開くが……違和感が拭えない。

「……封印されているページがあると言う事か?」

 ユーリは、試しに本に手を翳した。光りの膜が手に宿り……そして、目には見えなかったページが現れた。

「隠されたページか、何が書かれて……」

 ユーリは、そのページの文字を読む。ユーリの視線が下へさがる事に、読んでいく事に表情が強張っていく。

「……クズが」

 ユーリは思わずそう言ってしまっていた。確かにこの本を活用すれば、過去に戻る事が出来るだろう。だが、……最後の一文に書かれている言葉が最も残酷な言葉だ。

 なぜ、≪この文≫が封印されていたのだろうか。

 恐らくはこれを書いた者の趣向だと思えた。使用者を弄ぶかのような最後の一文。

「志津香の所へ……行くか」

 ユーリは本の最後のページを破くと懐へと仕舞いこんだ。どうやら、この封印は一度解除すると普通のページに戻るようなのだ。そのまま、ユーリはその先の結界も解き、環状列石のある部屋へとたどり着いた。ここから、過去へと飛ぶ事が出来るのだろう。

「彼女が過去を変えたいと思うその理由は……オレには一つしか思い浮かばない」

 ユーリは、環状列石を眺めながらそう呟く。そして思いつく限りの最悪の予感が頭を過ぎっていた。

「まさか……、嘘だよな」

 誰に尋ねるわけでもない。
 彼の目的の一つでもあるし、これからも続けていくと考えている事。それは、大恩のある人への恩返しだ。出来る事は何も無いかもしれない。だけど、恩を受け取ったのなら返さなければならない。
それはユーリの信念でもあるのだ。

 ……その大恩人にもう会えないのか? 母親も救ってくれた人達に……?

「……何があったと言うんだ」

 ユーリは環状列石を起動させる。
 真実を見極める為に、そして……《彼女》に会うために。
 
 
 

 
後書き
〜モンスター紹介〜


□ シィルフィード

志津香に仕えている風の戦士の1人。またの名を≪クズ≫ ランス命名。 因みにモンスターと言うわけでもないが、サッキュバスのラルガに生気を吸われて酷い姿になっていたから、もうモンスターだろ?と判断し、こちらのカテゴリーに入れさせていただきました。
最後にはランスに蹴り跳ばされてはいるが、一応まだ生きてはいる。

□ ラルガ

サッキュバスであり、性の魔女とも呼ばれており、ラルガのねこと言う彼女に絶対服従、忠実な部下のモンスターも従えている。ランス相手にもその威力は健在でありものの30分でシィルフィードと同じようにカラカラにしてしまった。
……過去に破れた経験があるらしい。
ランスの運命や如何に。

□ 金とり

金色の光りを輝かせる鳥類のモンスター。勿論、ゴールデンハニーのような高価な身体ではない為、金儲けは出来ない。こかとりすの上位種モンスターでもある。

□ 変質者

姿は唐傘オバケそのものだが、脱ぎ去るとその下はただの変態。
惜しげもなくそのいちもつを見せ付ける為、耐性の無い女の子が見てしまったら多大なダメージを食らってしまう。
因みに、シィルは瀕死に近い重症を負ってしまった。
 
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