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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第16話 指輪の真実



 四魔女であるマリア・カスタードとの一戦を終えたランス達。

 その後に待ち構えていたのは勿論お楽しみタイムだ。

「がははは! 勝ってお持ち帰りーとは言ったが、ガマンできーん! ここでヤらせて貰おう!とーーっ!」
「いぃやーーーっ!!!」

 意識は既にマリアは取り戻していた。
 だが、取り戻さなかった方がよかったのでは?と今更だが思ってしまう。取り戻された瞬間、ランスが襲い掛かってきたのだから……。

「やれやれ……、シィルちゃん。とりあえず 今のうちに休んでおきなよ。まだ後3人もいるんだから」

 ユーリは、シィルにそう言っていた。
 まだ、部屋から出ていないが、シィルはランスの方を悲しそうな瞳で見つめていた。いつもの事、そういえばそうなのだが、やっぱり……。

「……大丈夫だ」
「……え?」

 シィルは、ユーリの言葉を聞いて 顔を見上げた。そこには、まだ幼……とと、笑顔のユーリがいた。

「自分ごとには気づきにくいかと思うが、外から見てみれば一目瞭然だ。ランスがシィルちゃんの事を特別に想っている事は」
「えっ……!? で、でも……私は。奴隷、ですから……」
「……いろんな意味で 複雑、だよなぁ……。やっぱ、無責任だな」
「い、いえっ! それでも 私は嬉しいです! そう言っていただけるだけで!」
「はは……。まあ言うしか出来ないが、俺は嘘は言わない。本当にそう見える。だが、今のランスの性格を変えるのはちと難しいと思うぞ? シィルちゃんがよく判ってると思うがな。 何よりも根気がいる。 ……ずっと傍にいてやれば良いと思う」
「……は、はい!」

 シィルは最後には笑顔で返事をしていた。

 以前、ネイには言ったが、この男の性格を直し 且つ1人の女性の夫婦になるのは、それこそ わんわんに言葉はおろか、学問を教える程に難しい事だろう。

 ここまでくれば、魔法で操る以外には、ないとさえ思える。ランスを想う人からすれば、決して取らない方法だ。

 ……そんな事はシィル自身もしたくはないだろう。

――いつかは、真に自分だけを見てくれる日が来ればどれだけ幸せだろうか、今は、傍に仕えているだけでも、幸せを感じているのに。


「おい!貴様ら!!」

 ランスは、マリアの身体を弄びながらこちらを見ていた。

「何をしておるのだ! ユーリ! 貴様、シィルに色目を使っているのではないだろうな!?」
「……何をどう見たらそうなるんだよ。逆に教えてくれ、ランス」

 他の女を抱こうとしているのに、嫉妬をするのは中々出来るものじゃない。ランスは、やっぱりシィルと楽しそうに話をしている事が気に食わないようだ。

「むむ! よーし! ユーリ、お前にはこの先の迷宮の調査を命じーる!」
「ん? 調査?」
「ら、ランス様……、ユーリさんはさっき戦ったばかりで、今直ぐには……」
「馬鹿者! オレ様が出来ると買っているのだ。よもや出来ないとは言わないだろうな? ユーリ」

 ランスはそう言う。
 本心では、シィルの反応が怪しくて離したいだけなのだろう。

 正直、見え見えの甘甘だ。

 ユーリは、両手をすっと上げると。

「大丈夫。戦ったって言っても楽勝だし?」
「ぅぐっ……。」

 ユーリはわざとマリアに聞こえる程の大きさの声でそう言う。さっき、子供と言われた事……音に思っているようだった。

「でも……」
「大丈夫だって、帰り木持ってるし、何より……より、判る。判ったんじゃないか?」
「え?」

 シィルは首をかしげた。
 ただ純粋に、戦いが合って直ぐに奥に行くのは危ないのでは?と思っていただけであったが、ユーリは違った。

「(……ランスが君を想ってるってこと。話しているだけで嫉妬する程にな?)」
「っ!! ぁ……///」

 軽くユーリは、耳打ちをする。
 シィルは、少し身体を震わせつつ、更に頬を紅潮させた。

「(……やれやれ、この娘も結構鈍感だな)」

 ユーリはそう思いながら、ランスに言われたように奥へと進む。


 ……だが、ユーリもはっきり言えば、人のこと言えないのである。

 他人の事はわかっても、自分の事はわからない……そんなものだろうか?




「へっくしゅん。」
「へくち……。」
「くしゅんっ!ですかねー……?」



 とある場所で、くしゃみをしている人たちがいた気がするのであった……。

 そして、今後……恐らく増えていく事だろう。それは近い未来に。







 そして、ユーリが奥へと向かっていく時の事。研究所から ワンブロック程離れた所だが、盛大に聞こえてくる。

『いーーやーーーっ!! でかいーーーっっ!!』
『がははー!! これがオレ様のハイパー兵器だーっ! お前の発明品よりも強力だぞーーっ!』
『うきゃああっっ!!』

 あっという間にマリアの叫び声と、ランスの訳が判らない声が響き渡る。正に、これからお楽しみが始まるのだろう。(ランスだけの)

「はぁ……、あれじゃ確かにシィルちゃんも可哀想ってものだな」

 ユーリは、マリアの絶叫に似た声とランスの声を聞きながらそう思っていた。
 まぁ、なんでランスの事を好きになったのかも軽く疑問に思うが、それは置いておくとする。恋は盲目とも言う。何より、今の時代が……、と言うのも恐らくは、あるのだろう。

「それより……。」

 ユーリは、歩きつつ目を閉じた。何度も思い起こすのだ。

 そう、この場所に来た事がある…? と言う既視感(デジャビュ)

 曖昧な記憶。カスタムと言う町に、来た事があるのかどうか。

 自分の記憶の中の優しい声。それの1人は絶対に、母だ。
 そして、惣造、アスマーゼ。そして、曖昧な記憶の中の少女。首から上は全く思い出せない。残された写真の中の少女なのかどうかも、判らない。でも、間違いなく、心の何処かで引っかかっている。だから、ひょっとしたら、その少女が今回の件の……。

 そして、それともう1人。

「……エレナ」

 ユーリは、頭の中で今何処にいるかも判らない少女の事を思っていた。
 この少女は、名前と容姿ははっきりと覚えている。
 
 淡い青の長い髪に花を愛でているその姿。幼いのに花が大好きだといわんばかりに見つめていた姿。

「無事、だと良いが……」

 そう呟くユーリ。
 今何処にいるのかは判らない。とある事情があり、今は離れ離れになってしまっている。だが、きっと無事だと思っている。……そう思いたいんだ。

「ん……」

 ユーリは、思い切り両頬を叩いた。今は目の前の事をしっかりとこなすだけだ。

「残ってるのはエレノア・ラン、ミル・ヨークス、そして……」

 ユーリは、軽くフードの先を摘み深く被る。
 俯かせながら呟くのは、四魔女のリーダーである1人。

「魔想……志津香」

 あの夫婦と同じ性を持つ魔女。

 そして、その容姿。……もう、そうとしか思えないのだ。

「悪い事をしてる……そうならば、止めるのが 恩を返す、と言う事だろうな。それに…… 会えるかもしれないから」

 ユーリは拳を軽く握り締めた。






~カスタムの町~


 ランス達が丁度迷宮内にいる時。チサは町中を歩いていた。

「よし……、全部必要な物は買えたし。うんっ大丈夫。お父様にも元気になって貰わないと」

 メモ帳を見つつ買い物籠の中を確認していた。その中はどうやら、食材。夕食の材料が入っているようだ。だが、2人分にしては多すぎる量。

「うん……。今回の冒険者さん達も、無事に帰ってきてくれたら、振舞わないとね? これくらいしか、私は出来ないし。それに、お父様、ランス様がいる時、驚くほど元気になってるんですもの!」

 以前の冒険者達は音信不通となってしまっている。
 チサは、今回はきっと帰ってきてくれると、思いを込めて彼らの分の食料を確保していたのだ。自分達の町の為に……、帰らぬ人になってしまうのは悲しすぎるから。後は、ランスと思い切りはしゃぐ父の顔も思い出す。
 病気が逃げ出しているかのように、はしゃいでいるんだ。

 あの人たちは、町だけじゃなく 父も助けてくれてるんだと思える程だった。

「ぁ……」

 チサは笑顔のままで、帰っていたのだが、ある場所に通りかかったその時、その笑顔が曇った。

 その場所とは、廃墟となっているラギシス邸。

 今でも崩れそうな廃墟であり、それでもまだ聳え立っている。……そして、この場所の周囲は他の場所と比べても格段に人通りが少ない。それは、あの四魔女達がいつ戻ってくるのかわからない状況だから 住人達はこの場所を避けるように遠回りしているのが現状なのだ。当然、それはチサにも言われている事、だが 彼女だけは違う。通れば、注意されてしまうけれど、それでも彼女の足は無意識にこの場所に立ち寄ってしまうのだ。

「……なんでなの。マリアさん、ランさん、ミルちゃん、志津香さん。どうして……、私、私……」

 悲しげな瞳で、あの頃の彼女達に問いかけるように語りかけるチサ。
 町長の娘と言う立場もあるため、町を苦しめている彼女たちを率先して退治する事を謳わなければならない。
 それでも、心の底では、彼女達を疑いきれずにいた。脳裏にあの頃の笑顔と楽しそうな雰囲気、幸せそうな顔が浮かぶから。酒場のエレナの言っていた彼女達を信じている人物の1人がチサなのだ。

「っ……!?」

 突然だった。一瞬背後に何かがいると感じたチサ。
 だが、振り返ることも出来ず、ここで目の前が真っ暗となり意識を手放してしまった。





「……あら? これっ。」

 その数分後、同場所にて、カスタムの教会のシスター・ロゼが通りかかり、道の真ん中に落ちていた買い物籠に気がついた。住人が皆避けて通る道を、平然とした様子で歩くのも流石であろう。
 彼女は、あの2人と違って別段彼女達への想いがあるわけではない。

 ただ、単純にこの場所が通った方が近いからだ。

「買い物籠……、これって確かあのコがいつも使っている物じゃん」

 近づいて中を覗き込んで見ると……、その中にはぎっしりと食材が詰まっている。この荷物を忘れるのは考えにくい。なのだが、周囲には誰もいない。

「……神隠しにでもあったみたいね。……ま、神って、結局は 当てにならないし」

 シスターの言葉とは思えない一言だが、彼女も突然消えてしまったであろうチサの事が少なからず気がかりなようだ。

 こうして、町長の娘、チサは消息を絶ったのだった。







――……そして、消息を絶ったのはチサだけではなかった。







~迷宮≪地獄の口≫第二研究室前~



 マリアとの情事を終えた後の事だ。
 マリアの指で妖しい光りを放っていた指輪が突如として抜け落ちたのだ。その事に呆然としてしまうマリア。

「フィールの指輪……、これまで、何をしても外れなかったのに……」

 マリアは、外れた指輪を眺めながらそう呟いていた。だが、その言葉の真意が解せない。

「指輪を外そうとしていた? それは、どういうことだ?」

 話が食い違っているのだ。ラギシスの話と。
 確か話では、魔女達が指輪をラギシスから奪い、強大な魔力を手に入れたからこそ、反逆を行ったのだ。

「……終わってるみたいだな?」

 ユーリが、遠目でそう言う。
 勿論、入る前に部屋の雰囲気や声を聞きもう既に終わっている事はわかっていたのだが、とりあえずそう聞いていたのだ。

「がはは。ガキにゃわからんだろうがな。中々、マリアはグッドだったぞ!」
「だから、誰がガキだ! 歳を言えばお前より上なんだぞ!」
「えええっ!!??」

 その言葉にマリアがビビッていた……。確か、子供がどうのこうのと言っていたが、まさかそんなに??と想ってしまっていたのだ。ランスの歳の事を知ってるわけじゃないが……。

 ……とりあえず、大事な話があるからこの後の展開を割愛させていただく。
 いつも通りなので。


「……ふんっ。どーせ、どーせ……」
「ご、ごめんなさい、ユーリさん。私はてっきり……」

 てっきりの先の言葉を言わないだけ、マリアは気遣ってくれているのだろう。 それ自体、とても痛いのだが。

「がははは!」

 ユーリは、いつも通りとは言え、まいどまいどとは言え、やっぱり答えるようだ。いじけてしまっていて、マリアは、気にしている事が丸判りだったから、フォローをしている。そして、ランスはいつも通り空気を読まずに爆笑をしていた。

「そんな事より! 指輪がどうのこうのと言って無かったのか? やっと外れたとか何とか、って」
「話を逸らせるな、がははは! っと、言いたい所だが、オレ様もそれは気になっていたのだ。どう言うことだ?」

 ユーリとランスがそう聞いた。
 要約すれば、ランスとの情事で指輪が外れたのだろうと言う事。外そうとしていたことは判った。

「……まぁ、ランスのアレな性格でも、今回は良い方へと向いたみたいなんだな」
「誰がアレだ!」
「ふふ……」

 2人の言い合いを見て軽く笑ってしまうマリア。
 その表情は明らかに戦っていたあの時とはまるで違う。雲泥の差だ。穏やかな顔つきになり、口調も何処か優しくなっている。

「だが、町に、町の人に及ぼした行為だけは 目を瞑るわけには行かないぞ」
「うん。それは判ってる。町の事も聞いたし……これだけ迷惑をかけたんですもの。償いはちゃんとするわ。町に尽くすから。……でも、それでもラギシスだけは許せそうに無いの。……絶対に」

 明らかに穏やかになっていた彼女だが、ラギシスの話となれば明らかに変わった。殺意まで伝わってくる様子であり、相当恨みを持っているように見受けられる。ここも、町の人たちとの情報と食い違っている。

「ラギシスを許せない? それは一体どう言う事だ。お前達が あの幽霊ジジイに反逆して、指輪を奪い。そして殺したのではないのか?」
「違うっ!! それには事情があるの。……でも話したら長くなるけど」
「ふむ。マリアは可愛いし、あのむさ苦しいジジイよりは、信用できるな! よし、話してみろ!」

 疑問を聞くユーリと、俯くマリア。ランスはいつも通りだが やはり女の絶対的な味方とだけ言っていた。可愛い子限定だとは思うが。

「ランス、こんな所で立ち話もなんだ、一度戻らないか? 落ち着いた所で話したほうがいいだろ?」
「む? オレ様に命令をするつもりか?」
「いやいや、ただの意見だ。美少女の味方なら、こう言うかな? と思っただけなんだが?」
「むむ、確かにオレ様は全世界の美少女を抱く男。即ち美少女の味方と言う事だ……がはは! そう、その通りだ。よし、一度戻ってもう一度ヤルぞ!」
「ぅぇ!!??」
「……アホ、先に話だ話」
「先も何ももう嫌よ! すごく痛かったんだから!!」

 3人の話はまとまり、一度帰ることにした。
 ……マリアは、よほど痛かったのか、それを思い出して思わずへたり込んでしまっていた。

「所でシィルちゃんはまだ外なのか?」
「シィルなら、部屋の外でまだ待機させてある。よし、アイツに帰り木をださせねばな。貴様は利用料金1回につき10,000GOLDだ!」
「……一般相場の100倍かよ。お断りだ。自分で持ってるし」
「チッ……」

 ランスはまた集ろうとしたようで、それが失敗して舌打ちをしていた。それは当然なのである。

 そして、研究室から出た時の事だ。そこで待機している筈の、彼女の姿が何処にもない事に気がついたのは。

「おい、シィル! ……む? シィル?」

 ランスは第二研究室の扉を開け、その先にいる筈であるシィルの名を呼ぶが、一向に返事が返ってくる気配は無い。

「……この感じは」

 ユーリは、傍の地面に手をつけた。
 所々に不自然な跡が付いており、その空間自体もおかしくなっている。マリアは、直ぐに何があったか気がついた。

「大変! これ、テレポートウェーブの跡よ! 迷宮に出来る空間の裂け目で移動してくるから巻き込まれたみたいね」
「っ……てれ…ぽーと」

 ユーリは一瞬脳内に、一瞬だけフラッシュバックを起こしていたが、直ぐに頭を振った。今はその事よりも、消えてしまったシィルの事が気がかりだから。

「何? と言う事は……」
「あなたの相棒さんは、どこかにワープさせられたみたい」
「な、なんだとぉぉぉぉ!!??」

 まさかの事態にランスは叫びながら立ち上がった。

「強制ワープ装置だからね。突然発生したとしたら回避するのは仕掛けた人じゃないと無理ってくらい一瞬なの。」
「な、なんてことだ……。シィル……」

 ランスは、力が抜けたかのように勢い良く立ち上がったのに、座り込んだ。
 普段のランスからすれば、見て取れないほどの落ち込みぶりのようだ。その変貌振りにマリアも驚きを隠せず、自分を無理矢理襲い、処女も奪われた(結果的には良い方向へ行ったが。)為、正直良い印象は抱いてなかった。
 だが、仲間が飛ばされた事を聞いて落ち込む姿を見たら、悪い人ではないのかもしれない。と言う新たな印象を得ていたのだ。
 マリアはそっと、その肩に手を置いて慰めの言葉をかける。

「げ、元気出してよ。大丈夫だって、きっと見つかる筈よ」
「……あいつに、あいつに」
「ランス……」

 慰めの言葉も聞こえないのか、と思ってマリアも座り込み視線を合わせ顔を見ると……。

「あいつに有り金を全て持たせたと言うのに――!! シィルの馬鹿野郎ーー!! オレ様の許可もなくいなくなりやがってー!!」
「……え? ええ!?」

 耳を疑う言葉だった。と言うより、いったい何を言っているのか判らなかったようだ。

「ええぃ シィルめ! アイツが帰り木も持っているのだぞ!? こうなったら。お仕置きしてやる、SMだ! 縛って吊るしてあーして こーして、 ひぃひぃ言わせてやるからなー!!」
「って、あのコの事心配してたんじゃないの!!」
「当然だ! オレ様が奴隷の心配などする筈が無いだろ。心配しているのはアイツの持ってるものだけだ!」
「……最低」

 当然の如く平然と言ってのけるランスにマリアは呆れ果てていた。折角好印象を持ったと言うのに、水の泡だろう。

「ねぇ……アイツっていつもこんな感じなの? ……あれ?」

 マリアは、ユーリにそう聞くが、中々返事が返ってこない。地面を、テレポートウェーブの跡を凝視たままだ。
 

 ユーリは、頭を振って 脳裏に映し出されるその映像を、今は考えまいとしたのだが……、どうしても 出来なかった。


『来――……駄目ッ!』
『すま……い。逃げ……!』
『ッッ!! アス……さんっ!惣……さんっ!!』


 一瞬だった。だけど、強烈なまでに、頭の中に印象づける幼き日の記憶。

 テレポートウェーブの事は知っているし、見たことも有り、のまれたことだってもちろんある。だが、なぜ、ここまで揺さぶられるのかが判らなかった。

「しっかりして! どうしたのっ!」

 マリアが強くユーリの身体を揺さぶった。
 何度も呼んだのに、まるで時が止まっているがの如く動かなかったからだ。以前までの彼女ならこうはいかないだろうが、今の彼女は違うのだ。

 マリアの声と、身体を揺らせてくれたおかげでユーリが気がついたようだ。

「っっ……、ああ すまない」
「ちょっと、アイツがあんなんだから、貴方がしっかりしないと、あのコだって大変じゃないの?」
「ああ、そうだな」
「ってコラ! しれっと何言ってるのだ! マリア!」

 ランスも聞いていたようで、マリアにそう言っていたが、今の印象から考えたらそういわれても仕方がないのである。

「じゃあ、一度町に戻って今後の方針を決めましょう。事件についての詳しい話もそこでするわ」
「よし! それでいいだろう! シィルめ、待っていろ。がははは!」
「あの時、シィルちゃんを1人にすべきじゃなかったな。……失策だった」
「馬鹿者! シィルなど、オレ様に掛かれば楽勝で見つけられる! それに、オレの様の奴隷はそんなやわでは……、と言いたいが まあ、死なない程度にはやわじゃないのだ!」

 ランスはそう言って笑っていたが、誰がどう見ても、ユーリと2人にするのを心配していたとしか見えない。マリアもそれは判っていたようで。

「ほんっと、素直じゃないのね」
「そう言うヤツだ。……が、ヤル時はヤル男だ。……いろんな意味でな」
「そのいろんな意味、が 私には正直いらなかったわよ。……痛かったし」

 マリアは思い出したくもなさそうに頭を振り、内股にしていた。初めての痛みは やはり苦痛だったのだろう。自業自得だ、とも言えるが それはマリアから全てを訊いた後にしたほうが良いだろう。

 そして、一行は一度 町へと戻る為に帰り木を使い帰還したのだった。

 ……勿論、帰り木はユーリの物であり、ランスはさっきまで言ってた言葉は勿論忘却の彼方。ユーリもその事は重々承知であった為、別に突っ込んだりはしてなかった。
 時間の無駄だから、と思っても仕方がないのである。







~カスタムの町 酒場~


「は~い! いらっしゃ~~い! ……あれ? 皆良かった~! 無事みたいだね? ……あれれ? あのゴッドオブへヤーのコは一緒じゃないんだ? それにそっちのコートの人は新顔さんかな?」

 酒場に入ると、エレナが元気に声を掛けてくるが、直ぐに首を捻っていた。それもそうだろう。シィルがいなくなり、その代わりにコートを身に纏った人物を連れているのだから。何よりも迷宮から帰ってきて仲間が入れ替わる自体に若干驚いているようだ。

「がははは、あいつは役立たずだからな! 迷宮に捨ててきてやったわ!」
「……その発言、酷過ぎじゃない」
「本心じゃないって、っとと、それより宿泊用の奥の部屋空いてないか? もしくは、団体客用の大部屋でも構わないが」
「あーはい。大丈夫ですよ。奥の部屋があいてます! では、三名様ご案内です!」

 今は酒場兼宿屋を営んでいる。本来はカスタムの町にはちゃんとした宿屋はあったのだが、地下に沈んだ後、モンスターの襲撃で今は建物自体が崩れてしまったのだ。その事があってから、元々は宴会場、酔った客の介抱用として利用していた部屋を簡易宿として、依頼を受けてくれた冒険者達に開放していたのだ。

「狭い! 狭すぎるぞ!」
「そこまで言うか? 8畳はありそうな部屋だぞ?」
「オレ様に相応しくない部屋だ。よし、ユーリ。デカイ部屋買え」
「無茶言うな。買えってなんだ! そこら辺でアイテム買ってこいとは訳が違うぞ」
「あー、その辺りはカンベンしてくれない? 元々用途が違う部屋だし、でもユーリさんが言うとおり8畳はあるから。前のバード冒険団もここを利用してたし」

 エレナが言うのはバード冒険団の話。ネイ自身はもう、この町にはいないようだ。

「ネイは大丈夫なのか?」
「ええ、彼女は沢山アイテム屋で、冒険必需品を買っていってたし、自分の町に戻る為の公共機関を利用するお金もあるって言ってたから大丈夫でしょ。……でも、メチャ不機嫌だったよ? 何したの? ユーリさん」
「俺は何もして無い。とばっちりを受けかけただけだ」
「がははは!!」

 ユーリの言葉の裏で盛大に笑うランス。結局何をしたの?とエレナは聞く。

「がははは! ナニだ。勿論!」
「はぁ……」
「そ、それじゃあ、ごゆっくり~」

 エレナは、ランスの言葉を聞きそそくさと出て行った。
 あの怒り方は今でも目に浮かぶようだった為、かなり印象に残っていた。その原因が《ナニ》 その意味もだいたい把握。
 
 ……とりあえず、仕事に戻った方が良さそうだと、エレナは戻っていったのだ。

 そして、エレナが出て行った後、部屋に入ってこれない様に、施錠をする。
 今この場にいるのが誰なのか……、それがバレてしまえば、町は恐らくパニックになってしまうだろう。

「ふぅ……、部屋でこれは暑かったわ」

 マリアはそう漏らしながらコートを脱ぎ去った。
 そう、町をこんな姿にした犯人の1人がのうのうと、町を歩いている姿を見れば、街中がパニックになってしまうのは、簡単に想像が出来るのだ。だからこそ、フード付きのコートを羽織り変装をしていたのだ。

「暑くないの? その格好」
「……慣れた」
「がははは。必死に暑さに耐えてるのだな! 良いではないか! 素顔くらい ばーんっ! と晒してしまえば」
「……うるさい」

 ランスがまたまた、空気読まない発現をするから、早々に話を進める。


「それじゃあ話を頼めるか? ……そうだ、まずは、自己紹介からだな。オレはユーリだ。見て判ると思うが冒険者をやってる」
「オレ様は、空前絶後の超英雄のランス様だ。そして、今どっかに飛ばされているのが、無能のバカのシィル」
「あのね……、もうちょっと言い方ってのがあるでしょう。……まぁ、とりあえず始めましょうか。私の事はもう、知ってると思うけど、マリア・カスタードよ」

 苦言を呈するマリアだったが、ランスにはもう無理だと早々に諦める。

 なぜなら、ユーリとの言い合いも何度も見ているし、彼と言う性格ももう知っているつもりだからだ。それより、何よりも今は事件の全貌を話す事が大事だと判断したのだ。

「私達は、町の守護者になる為にラギシスに魔法を教わっていたの。……その辺りの話は聞いてるの?」

 マリアがそう聞く。
 勿論、その辺りの話はあのラギシスの言葉と寸分も違ってないのだ。問題はその後の話だ。

「それは聞いている。……食い違いがあるのはその先の事だ」
「……そう、わかった。細かい所は省くわね。……聞いた感じじゃ、ラギシスに都合の良い話に変換されてるみたいだし。……私たち4人は必死になって修行したわ。私とランは、町を守りたかったから、ミルは強い実姉に憧れてて、そして 志津香は純粋に魔力を求めて。……いや、あのコは何か別の事の為に魔力を求めていたって感じだった。……でも、一貫して同じなのは、皆がこの町の事が好きだって事。その想いは一緒だったわ」
「聞いてる話がまるで違うではないか。頼りにならん情報だな」

 ランスが眉をひそめる。マリアが言ってる言葉が本当ならば、何故彼女達は町を地下へと沈めたのだろうか。好きだ、守りたい、といっていた町を沈め、 迷宮のモンスターの脅威に曝している。それの行為はまさに本末転倒であろう。

 ランスはまるで見当が付いてないみたいだ。

 だが、ユーリ自身は 大体の想像はつく。全ては逆なのだと言う事が。

「あ、自慢になっちゃうけどね? ここ数年の徹底した修行の甲斐もあって私達は強くなったわ。生半可な冒険者には引けをとらないくらいにね」
「がはは、何を言っておるのだ。オレ様にコテンパンにヤラれたではないか。あの程度で魔女を名乗るとはおこがましいわ」
「ちょっと! 茶化さないでよ。(……薄っすらとだけど、ユーリさんが敗因だって覚えてるけどね) えっと、それでね、事の始まりは今から半年前、ラギシスは私達に卒業証書だといって全員に1つずつ指輪を渡したの。それが、この指輪」

 マリアは右手を差し出し、握っていた手のひらを開く。そこにあるのは、今だ青い輝きを失っていない指輪。先ほどマリアの指輪から外れたフィールの指輪だ。

「と言う事は、お前達が盗んだのではなかったのか?」
「ちがうっ!! ラギシスの方から渡してきたの! 『これは魔力の上がる指輪だ、町の守護者となったお前達が持つのに相応しい』 そう微笑みながら渡してきたのよ……、でもこの指輪は着けてはいけない物だったのよ」
「着けてはいけない物……成程な、だからか」

 ユーリが腕を組み判ったように頷いた。

「おいコラ。下僕の癖にわかったつもりでいるんじゃない。説明せんか!」
「……ちょっとは、自分で考えろっての。ラギシスが自分自身に着けなかった理由を考えていたんだよ。……そんなに魔力が上がるのなら、なぜ自分は着けなかったのか、とな。……あの規模で上がるのなら、たとえ4人がかりでも、そう簡単に負けたりしないだろう」
「それはあると思うわ。……そこから判ると想うけど、全てはアイツが元凶なのよ!」
「ふむ。あのむさ苦しいジジイか」

 元々、聞いた事もなく、且つ効果が伝説級の効果を持つ指輪。
 そんな代物を一個人が保有していると言う事は、やはり不可解である。ユーリが先ほど言ったが、魔力が数倍も上がる指輪であれば、まずは自身に着けてみたいと思うのが魔法使いとしての心情だろうとも思えるのだ。町を守ると言う意志があるのなら尚更だろう。

「それよりも、その指輪だ。着けてはならない、と言うのは呪いの類がかかっているのか?」

 指輪の効力、数倍にあげると言う言葉自体は疑わしいものだった。
 ……が、実際に戦ってみて感じた魔力の高さと初級魔法の連発、中級魔法の高速詠唱。更には上級魔法まで使いこなす技量。それを感じてしまえば、疑いようのない事実だと思えた。
 だが、装着者であるマリアが≪着けてはいけない物≫と言っている以上、何かしらのデメリットがあるのは、自明の理と言えるだろう。

「その通りよ。……発端は、志津香が気づいてくれた事からだった。彼女が偶々ラギシスの部屋の前を通りがかった時に、アイツの独り言を聞いていたから。それを聞いた時、私達は唖然とした……」
「ええぇい! 勿体ぶるんじゃない! さっさと続きを話せ」
「……この指輪は、魔力を与えるだけじゃない。……装着者の魔力を吸い上げて成長する恐るべき指輪だったの!」

 マリアが忌々しそうに、自身の手の中にあるフィールの指輪を睨む。

「……与えるのに奪う?」
「着けてる間だけ、ね。でも これを外した瞬間にその装着者の魔力を根こそぎ持っていってしまうの。指輪の力が最大になるのは10人分の魔力を吸い取ったとき……4つの指輪は、既に9人分の魔力を吸い取った状態だったわ」
「成程な。……最後の10人目として選ばれたのが君達か」
「そう。……アイツは、最後の媒体になる4人の魔法使いを探す為に、器から作り上げる為に、魔道塾を開いたのよ」
「ほぅ。ラギシスは育ての親でもあったんだろう? つまり、あいつは指輪を回収する為だけにお前達を育てていたと言うわけだな?」
「そう、その通りよ。そして事実を私達は知ってしまった……。許せなかったの。私達は信じていたのに……」

 マリアは唇を噛み締めていた。
 親も同然に慕っていたのに、裏切られるのは身を切られるような苦しみだろう。……そして、裏切る側の人間の真意がわからない。……判りたくない。

 あの時に言っていた言葉の全てが嘘だったのだ。
 利用していたとは言え、少しも情が沸かなかったのか?

 と憤怒する思いだ。
 マリアを見ていたらその思いが強くなる……。

「……それが、反逆へと繋がるんだな」
「ええ。そう。魔力の溜まりきったこのフィールの指輪を4つ全て着ければ、無限の魔力が手に入るとラギシスが言っていたの。ラギシスは、私達の魔力を奪う為、時が来たら指輪を必ず奪いに来る。……それは、私達の魔力喪失に繋がる事。町を守る為に魔力つけたのに、それを失うわけにはいかないし、何より皆ラギシスが許せなかった。だから戦いを挑んだの」
「そして、四魔女側が勝利、と言う事だな。がはは。利用していた癖に、逆に殺されるとは、まったくアホなジジイだ」
「だが、地下に沈んだ、と言うのは? お前達の意志ではないのか?」
「それについては、詳しくは判らないの。……でも、推測するに、多分戦いの衝撃を受けたからだとしか」

 全てが辻褄が合う。
 ラギシスたちの話も勿論辻褄は合うが、疑念が晴れない思いも強い。……が、マリアの話には疑念を晴らす説得力があり、そして辻褄も合っている。100%マリアの話を信じるわけではないが、現時点で、どちらを信じるか……と言われれば、もう後者しかないだろう。

「ラギシスにはまた、話を聞きに行かなければならないな」

 ユーリがそう口にすると、マリアの目が見開かれた。信じられないと言った表情で見開いてる。

「……? どうかしたのか?」
「……待って、『ラギシスに話を聞きに行く?』って、どういうこと!? アイツが生きてるの? 確かに殺したはずなのに!!」

 マリアが驚くのも無理は無い事だ。人間の幽霊など結構稀少なもので、見た事あるという人など殆どいないだろう。
 こんな田舎町では尚更だ。

「そうだな。言ってなかった。……生きているか? と聞かれれば、首を横に振る。アイツは確かに死んでいる。……が、地縛霊となって自分の屋敷に今も漂っている」
「……なるほど、なら後で見に行かないとね。……今度こそ、消滅させてやる。成仏じゃ生温いわ……。」
 
 マリアの目に明確な殺意が篭る。……無理もない話だ。

「事の経緯はわかった。次だ次」
「次?」

 ランスが珍しく話しを進めた。元凶はラギシス。それはもう判った。次は彼女達についてだ。

「なぜ、迷宮の中なんぞに引きこもったのだ?」

 その事だった。が、その事に関しても想像がつく。≪着けてはいけない指輪≫ その真意はまだ、何かがあると言う事だろう。

「……指輪の影響がある、と言う事だな?」
「ええ。この指輪には人を悪の方へと惑わせる力があるのよ。気がついたら、私達は迷宮を築いてやってくる冒険者達を返り討ちにしていたわ。……町から女の子を攫っていたのも私達。こんな地下迷宮を築いて、好きな町を、町の皆を苦しめて……、私達は一体何を……。他の3人も心の中では絶対に苦しんでる筈なの!早く、志津香たちも救わないと!」
「えげつない指輪だな。……渡した人間の本質が見えるといったものだ」

 ユーリはそう言うと、眉を顰めた。
 魔力が上がる魔法使いにとっては正に夢のアイテム。だが、その代わりに奪われ、且つ善悪の区別が付かなくなる。……存在してはいけない代物だろう。

「話が早いではないか。ぐふふ……、指輪のせいで悪い事をしてるなら、外してやれば良いんだろう?悪い事しているからお仕置きをするつもりだったが、まぁ することは変らん!」
「はぁ。まあ、そうなるな。……指輪を外すと魔力がなくなる。が、そんな事悪いが考えてられないな、さっきまでのマリアを考えたらな」
「ぅ……、悪かったわよ」
「責めてるわけじゃないさ。それだけ危険な物だって事だ。……魔力を奪ってでも、指輪は外す。それで良いよな?」
「ええ。状況が状況だし、これ以上町に迷惑をかけるわけにはいかないしね。でも、この指輪は普通には外せないみたいなの」
「呪いのアイテムにはありがちなモノだな。一方通行の鍵付き扉がかかっていると言う事か」
「がはは! オレ様がずばーっと外してやったがな?」

 あくまで、偶然の事なのだが、ランスは得意気になって腰に手を当てていた。

「多分ね。ラギシスが後からかけたものかもしれないけど。実は悪い心に侵されて行ってる時って判った時、私とランは魔力を失ってもしょうがないって想って指輪、外そうとしたの。でも、指から外れる事は無かった」
「ふむ……、なら外す方法は……」
「オレ様だな!!」

 ランスは得意気な顔をしつつ、自身を親指で指差した。

「がはは! オレ様とヤった後に、指輪が外れた。結論は、オレ様のハイパー兵器に聖なる力が宿っていて、そこから発射された皇帝液が呪いの力をも打ち破ったのだろう! がははは! さすがはオレ様だ!」
「はぁ……ンなわけ無いと言いたいがな」
「あっ! そっか……」

 ランスの話を聞いて呆れている様子だったが、ユーリとマリアは心当たりがあるようだ。

「がはは! 当然だ。なんと言ってもオレ様の皇帝液「って違う!」何ィ!?」
「いや、だからそうじゃないけど。Hをした事が指輪を外す条件だったって言うのは当たっていると思うの。……ちょっと口に出すの、恥ずかしいけど、私あの時が初めてで、その……」
「低級呪いで、そう言う類のものがある事は知っていた。……呪術Lvもそこまでは必要とされないものだからな。習得するのも容易いだろう」
「そう、なんだ……。なら、間違いないわね。後はあの指輪の特性って言うのもあるかも。処女の人間じゃないと魔力を吸えない……とか。だからあの時、自動的に外れたんだと思うの」

 ランスが一緒だからか、処女と言う言葉自体に何処か変な偏見を抱きそうになっていたが、よくよく考えると、処女と言うのは古来から儀式に使われる条件の一つ。今でも信仰心の強いシスターは、純血を神に捧げる。と生涯貫く者もいるのだから。

 そして、話を途中から黙って聞いていたランスは、難しい顔になりながら、口を開く。……真剣な顔をした時こそ、この男は高確率で、ずっこけ発言がでるものだ。それは、期待を裏切らない結果となる。(期待してない!)

「成程……と言う事は、残りの3人も処女と言う事か?」

 ズバリ、と真剣そのものだ。
 どこに真剣になっているんだ。と言いたい。……ああ、言いたい。

「真面目な顔をしたかと思えば……」
「馬鹿者! これは重要な事ではないか。処女じゃなきゃ駄目だ。とかガキ臭いことを言うつもりは全く無いが、雪が積もったら誰かが踏む前に自分の足跡を着けたくなるだろ? もしくは、初めて凍った水溜り。最初に割りたくないか?」
「はいはい……」
「あ、その例えは、判る。ちょっとだけだけど……、判っちゃう自分がなんか、嫌だな……」

 てきとーにいつも通りに話を流すユーリに、たとえ話を理解して何処か譜に落ちないマリアだった。そして、ランスは確認をすべく再びマリアに聞く。

「で、3人は処女なのか?」
「んー。私の知る限りじゃ多分。ランも彼氏いたって聞いたことないし、志津香もそう。何より簡単に身体を許すような性格じゃないから。あ、ミル。あのコは絶対ありえないわ」
「がはははは!! よーし、俄然やる気出てきたぞ! 3人ともズバッ! と奪ってしまえばいいのだからな! むふふふーー!! これは随分と面白い展開に……いやいや、大変な事になってきたぞ」
「10人中10人が答える。絶対にそう思ってないだろってな」

 ユーリはため息を吐いていた。
 まぁ、事件を早く終わらせる為にと考えたらランスがやる気がある方が良いだろう。シィルを助けると言う意味でも。

「仕方ない。正義の為にオレ様が苦労をかけてやろう! うむ、これも世の為人の為と言うヤツだ
 流石は超英雄のオレ様」
「まー別に、処女奪うって言うのなら、別にランスじゃなくたって良いんだけどね」
「なにぃ!?!?」

 水差された事でランスは笑顔を一瞬でやめていた。

「ユーリさんだって、良いって事じゃない? えと、19歳なんだし、大人大人!」
「……歳を強調されるのは何処か引っかかる点があるが、本人の意思ならおれは構わない。無理矢理に、であればさすがに躊躇うがな。……でも、指を落とすのに比べたら随分とマシだろう」
「それはそうよ。女の子の身体に一生ものの傷を作るわけにはいかないでしょ? その点処女だったら、いつかは経験するもの、だし?」
「ふざけるな~~!! 3人はオレ様のもの。3人の処女はオレ様のものだ! よーし、そうときまれば早速鼓動開始だ! まずは、何よりあの大うそつきの糞オヤジだ!ラギシス邸に向かうぞ!」

 ランスはやや慌てて扉の方へと向かう。
 恐らくだが、マリア言っていた『ユーリでも構わない』宣言。ガキで童貞であれば、焦る、慌てる仕草をしてもいい筈だが、サラっと返したあの感じ。いつか、言っていた自分は経験者と言う言葉が嘘ではないと思えるのに十分だったのだ。

 だから、ユーリよりも早くに行かなければならないと強く思っていた。
 ユーリより早いもしくは同時にが一番なのだ。そして、扉のノブに手をかけたその時、マリアがランスのマントをひっぱった。

「お願い。私も、連れて行って」
「戦えるのか?」
「ラギシスの件なら、オレ達に任せておいていいぞ? マリアの、マリアたちの分も返してくるつもりだ。……操っていたアイツが一番の悪だ。マリアたちが責任を感じることは無いぞ」

 ランスが戦えるかどうかを訊き、ユーリは、借りは代わりに返す、そう言っていた。

 今のマリアは指輪を外した為、魔力を指輪に持っていかれた状態だ。そして、先ほどとまるで人が違うから、そちらに目を向けていた為、気づきにくかったが、今のマリアに魔力が殆ど感じられなくなっている事がわかったのだ。

「……違うの。確かに操られていた。でも、町をこんな風にしたのは私達。だから、私も皆を、町を救いたいの。……お願い。足手まといにはならないから」
「……」

 マリアの必死な懇願。
 目はとても澄んでおり、その瞳はユーリとランスを正面から捕らえていた。瞳の中に恐らく写っているのは残りの魔女たちだろう。
 早く解放してあげたい。と強く願っているのだ。マリアの目を見た二人は軽く頷くと。

「行くぞ! ユーリ、マリア。オレ様の足を引っ張るなよ!」
「ああ、シィルちゃんの事も忘れるなよ。お前さんの事を1番想ってるんだから。そして操られている3人も助ける。町も助ける。……それが一番良い形だ。宜しく頼むマリア」
「うんっ! ありがとう2人とも! よろしくね!」

 マリアは笑顔で2人にそう言っていたのだった。

 そして、3人はラギシス邸へと向かう事にする。
 マリアに関しては、元に戻ったとは言え、まだ変装する必要がある為暑いのは少々我慢しつつフードを再び羽織っていた。

 そして、店主に話をつけ、酒場を出た矢先の事。

「ん? あれ、もう使い終わったの?」

 店の外でいたエレナと出会っていた。どうやら、店前の掃除をしていたようだ。

「ああ、とりあえず用は済んだからな。すべき事もある。とりあえず、使わせてくれてありがとう。店長にも伝えているよ」
「あ、うん。大丈夫大丈夫!空いてる時ならいつでも使ってよ!」

 箒を片手に、掃除をしていた手を止めてエレナは笑顔でそう言っていた。ランスとユーリの後ろに隠れるように付いてきているのがマリア。
 エレナは、そのマリアをチラリと目線を向けた後、ランスの方を向き口を開いた。

「それで、また迷宮に潜るの?」
「うむ! 魔女達にはきつぅ~~いお仕置きをしてやらんといかんからな! がはは!」
「……後3人だよね? 頑張ってね!」
「ッッ!?」

 エレナの言葉を聞いて思わずマリアは動揺し、身体を揺らせていた。ユーリは頭を一掻きした後、エレナの方を向き。

「まあ、そうじゃないかとは思っていたよ」
「当然! 私達が何年の付き合いだと思ってるの? ……カスタムは田舎町なんだし、住人同士のつながりって結構深いんだからね?」

 どうやら、先ほど案内された時に何かを感じ取っていたようだ。
 本来であれば、店主には勿論依頼人でもある町長に報告に行くのが筋だが、そうしなかった。……冒険者と一緒にいると言う事もそうだし、何より彼女達が迷宮に篭っている間。こんな事は一切無かったんだ。

 この冒険者達が彼女を連れ出してくれた。そして一緒にいる。……もう彼らを信じられるから。そして、マリアの事も、ずっと信じていたんだから。

「ちょっと待ってね」

 エレナは足早に酒場へと入ると、カウンター席の奥の棚に置いてある小瓶を1つ手に取る。冒険者に簡易宿として提供していた時、置くようにしていた物だ。それを片手に、マリア達の方へと戻って手渡した。

「はい。……回復役だよ。一緒に行くつもりなんでしょう?」

 マリアは手渡されたが、まだ動揺を隠すことは出来ない。

「あ、う……、その……」

 上手く口が回らない。
 その姿を見ただけで、エレナは満足そうだった。……訳があるんだと、核心できるからだ。

「詳しい事情は後で良いわよ。……他の皆を必ず助け出してきてね」
「……うん。エレナさん。ゴメンね。そしてありがとう……」

 フードで顔を隠しながら嗚咽するマリア。そのマリアの頭を優しく撫でるエレナ。こんなに傷ついているんだ。……そんな人はきっと彼女達だけではないと思える。

 エレナが言っていた『住人同士のつながりは深い』と言う言葉。

 彼女達を信じている者はまだ、いる筈。帰りを待っている人も。

「……町長に事情を早めに説明する必要があるな」
「がはは、あの親バカが理解出来るかどうかわからんが、俺様は美少女の味方。そのくらいはしてやろう!」

 ランスは、がはは! 笑いと共にそう言うが、ランスと町長では一悶着も二悶着もありそうだから、早々に自分からした方が良いとユーリは思っていた。


 そして、暫くの間。マリアが落ち着くまで、2人は待っていたのだった。




 
 

 
後書き
〜人物紹介〜


□ マリア・カスタード

Lv13/35
技能 新兵器匠 Lv2 魔法Lv1(水魔法「封印中」)

カスタム四魔女の1人である水の使い手。魔道士ラギシスに育てられた経緯はあるが、裏切られた事を切欠に、他の魔女達と協力し、反逆した。
現在は、指輪の呪縛から解放され、他の3人を救う為にユーリ達と行動を共にしている。
魔力に関してだが、技能は持ち合わせているものの、指輪を外す際にその殆どが奪われてしまった為、封印状態となってしまった。
……が、それに補って余りある才能が兵器開発。
カスタムが大陸一の科学力と呼ばれる所以は、マリアの存在があってからこそ……と言うのはもう少し後の話である。



□ 魔想志津香

Lv??/??
技能???Lv?

カスタム四魔女のリーダー。
ユーリはその姿を見た瞬間から、あるフラッシュバックが続いている。
ここ、カスタムの町には来たことが無い。とずっと思っていたが、それは違うと思い出した。
彼の思い出の品。写真に写っていた笑顔の女性と歳以外は瓜二つである。
真偽を確かめる為に、ユーリは彼女と会う事も重要視している。

□ エレナ???

時折、ユーリの口から出てくる名。
ちなみに、ここカスタムにいる看板娘のエレナとは別人の模様。
いつ……出てくるのか、それは遠い未来の話。


□ ロゼ・カド(2)

Lv4/20
技能 神魔法Lv1

カスタムの町の自他共に認める淫乱シスターであり、町一の変人。神への信仰心は皆無であり、最近は自身の面白センサーがびんびんに働いているのに、結果が伴わない為、首を傾げていた。ランスやユーリと出会う日も、そう遠くはないだろう……。
さて、どうなるか……。




〜技能紹介〜

□ 新兵器匠

特殊な新兵器を開発する才能。Lv2ともなれば、歴史上に名を残せるほどのものである。


〜装備品紹介〜

□ フィールの指輪

赤、青、黄、白の四色ある指輪であり、ラギシスが卒業証書として4人に渡したもの。だが、その正体は填めたものの魔力を数倍に高める強力な指輪だが、その反面永く填めていると使用者の精神をゆがめて邪悪に蝕む副作用もある。そして、指輪を外す為には処女を失わなければならない上、魔力を奪ってしまう殆ど呪われたアイテム。
因みに処女以外が装備しても全く効果は無い。


〜魔法紹介≪魔法装置≫〜

□ テレポート・ウェーブ

対象者を決められた場所へワープさせる魔法装置。主な用途として、敵を分断させたり、自らの逃亡用などに使用される。尚、テレポート・ウェーブ自身に罠を仕掛けることも可能。 
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