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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第2章 反逆の少女たち
  第14話 四魔女の一角:マリア・カスタード



~カスタムの町 地獄の口~


 この場所はかつては、ただの廃坑だった。
 だが、四魔女達が、それぞれ迷宮を構え、住人が地上に出られないように封印をかけた時からその場所からモンスターが湧き出すようになったのだ。

 その事から、住人達はそこを≪地獄の口≫と呼び畏れるようになったのだ。

「成程……、恐らく魔力で迷宮を生み出した、か。 異空間故にモンスターも出るんだろう」

 ユーリは、その場所を見てそう呟く。

 まだ、入り口付近だというのに、モンスターが多数あらわれたのだ。

《ミート・ボール》 《ハニー・スライム》 《グリーンハニー》……etc

 熟練された冒険者であれば、大した問題ではないが、戦う事の出来ない住人にとっては、十分脅威足りえるのだから。
 そして、何よりも数が多い事。

「地獄の口……、名の通りです……凄い数です」

 シィルも特別、強モンスターはいないが、その数に驚き目を見開いているようだった。シィルの得意な魔法でもある炎の魔法 ≪火爆破≫を連発するが、大して減らないのだ。炎を押し退けて、次々と湧いて出てくる。

「うがーー、鬱陶しい! とっとと蹴散らして魔女達をお仕置きするのだ!!」

 ランスは、がむしゃらに剣を振りまくる。てきとーに振っている様に見えるが、見事に当たる当たる。一撃の破壊力も強いから、このくらいのモンスターは殆ど一撃で粉砕しているのだ。 戦闘勘が半端じゃなく高いのだろう。

「いや、楽だわ」

 ユーリは、そう言って笑っていた。
 先ほどまで、迷宮を見る事に集中していた為、まだ 臨戦態勢に入っていなかったのだ。……まぁ、この程度のモンスターなら問題ない事は事実だが。

「おい! 馬鹿者!! 下僕の分際で主人に戦わずとは何事だ!!」
「誰が、下僕だ!! ったく……判ってるよ」
「あぅ~……手伝っていただけたら嬉しいです」

 ランスもまだ余裕があるようだが、面倒を嫌うこの男にとって、戦っていないユーリは許せない様子のようだ。シィル自身は、結構大変そうだ。
 一応、フォローをしておくと、ユーリとランス・シィルでモンスター達を分けていた。ユーリが最初に相手をしていたモンスター達は倒したから、今手が空いているだけであって、戦っていない訳じゃない。

 ランスは兎も角、シィルに迷惑はかけるわけにはいかないから、ユーリは剣の鞘に手を添えた。そして、そのまま剣を抜き、水平上に一閃。

 そのまま、ハニーやこんばんは達が一気に斬られて絶命する。

「ふぁぁぁ……(やっぱり、早いです……。剣を抜くところ、見えませんでした。)」
「初めからやらんか!」
「戦ってなかったのは、ほんの数秒だろうが!」

 口は災いの元と言うが、ちょっとでも≪楽≫と言ってしまった代償なのだろうか。……つまり、非常に面倒だと言う事である。

 とりあえず、粗方始末し更に奥へと入る。

 当然、迷宮内を照らす灯りなどある筈もないから、外の灯りが届かなくなれば、迷宮に待っているのは暗闇だ。

「そろそろ、必要ですよね。明るくします」

 シィルは、周囲を確認すると呪文を唱える。
 唱え終えた後、小さな太陽が現れて、迷宮内を明るく照らした。

≪見える見える≫と言う初級魔法。

 光りが届かない洞窟や、こう言った迷宮では非常に役に立つ魔法だ。

「これで随分と奥が見やすくなったな。ありがとう、シィルちゃん」
「い、いえ……。(ユーリさんも魔法を使う筈なのに……?)」

 シィルは首を傾げつつそう思っていた。
 以前、ランスを眠らせた≪スリープ≫を使った所を見ているシィルは、少し不思議に思えていたようだ。確かに種類が違う魔法だけど、スリープに比べれば本当に初級のものだから

「ふん! オレ様の奴隷ならば当然の事だ! がははは!」

 ランスはそう言うと、シィルの胸を揉みまくった。
 シィルは突然胸を触られ驚いてしまって軽く悲鳴を上げていた。

「おいおい……、シィルちゃんは本当に優秀な魔法使いだぞ? もっと大事にしてやれよ」
「ふんっ! こいつはオレ様の奴隷だ! だからどう扱おうが全くもって問題ない。余計な事を言ってないでさっさと奥へ進むぞ!」

 そう言って、ランスは胸を揉むのを中断し、奥へと大股で進んでいった。
 とりあえず、行為は終わったようだが、シィルにとってはその行為自体は求められていると言う事だから、恥かしくても多少ならまんざらでも無いようなのだが。

「あ、ありがとうございます」

 シィルはユーリと目が合うと、ランスに聞こえない程の小さな声でお礼を言っていた。シィルの事を大事にしろ。と言ってくれた言葉が純粋に嬉しかったようだ。ユーリは、そんなシィルを見て軽くウィンクをした。
 シィルもそれを見て、微笑む。これ以上ランスに何か言われても嫌なので、早足で後を追いかけた。

更に奥へ進むと……。

「ランス! まて、止まれ!」
「オレ様に命令を……って、んぎゃ!!」
「きゃっ!! ら、ランス様っ!!」

 突然、地面がなくなっている事にランスは気づいていないようで、そこへ足を踏み入れていたのだ。勿論、穴があるというわけではなく……。

「あんぎゃぁぁぁ!!」
「きゃあああっっ!!」

 かなり急角度な坂道である。

「あのバカ……、シィルちゃんを道連れにするなんて酷いだろう」

 ユーリは、ランスの行動に苦言を呈していた。
 そもそも、絵的に男が女を庇ったり、その逆だったりすれば、綺麗な絵だが、これはちょっと見てられない。

「っとと、のんきに構えていられないな」

 ユーリは、即座に下り坂へ飛び込むと、上手くバランスを保ちながら、すべり降りた。

 ランス達に追いついて見ると……。

「あばばばば!!!」
「きゃ、わきゃきゃきゃ!!」

 電撃のトラップに引っかかり、痺れていた。どうやら、侵入者迎撃ように仕掛けているトラップのようだ。こういう時は、レンジャーや、リーザスで出会った忍者のもつ技能があれば最高だ。
 だが、無い物強請りしても仕方がない。

「距離があるな」

 当然だが、電撃のトラップ発生装置はランス達も向こう側。
 そこへ行くには雷撃を通っていかなければ、解除するなり、破壊するなりは出来ないだろう。

「……問題なし」

 ユーリは、剣を鞘から出すと、鍔元から切っ先までに闘気を込める。

「煉獄・斬光閃」

 纏わせた煉獄の一閃。
 ランス達の隙間を縫うように剣閃がトラップにまるで吸い寄せられるように伸び……。そして、真っ二つに両断した。
 そして、動力源を絶ったからこそ、その雷撃のトラップも停止した。

「は、はぅぅぅ……し、痺れましたぁぁ……。ら、ランス様、いたいのいたいの、と、とんでけー……ぁう……」

 シィルはまだ痺れは取れてないようだが、必死にランスに回復を施していた。
 ランス自身も、そこまでダメージは負ってはいないものの痺れ自体は防ぐ事が出来ないため。

「ぐぬああ!! なんじゃ、なんでこんなとこに、こんなもんが置いてるんじゃ!!!」

 当然だが、怒っていた。
 怒る前にせめてシィルに礼を言えよとツッコみたい。……ああ、ツッコみたい。

「ほ、まぁ 元気そうだな」

 ユーリは、二人の姿を見て軽くほっとしていた。
 これが、致死性の高いトラップであれば、ここで負傷者が出てもおかしくないからだ。とりあえず、シィルが無事で、シィルの力でランスも問題なさそうだ。

「おいコラ! 助けに来るのが遅い&なぜ、知らせなかったのだ!」
「馬鹿言え! ちゃんと言ったのに、ずんずん進むからだろうが。それに、ちゃんと助けたんだ。文句ばっか言うな」
「下僕ならもっと早くにくるものなのだ!」
「だから、誰が下僕だっつの!」

 相も変わらず口喧嘩を続ける二人であった。

「あはは……」

 シィルも苦笑いをしていた。
 自身に回復を施した後、シィルはユーリに頭の中で感謝をしていた。今言えば、まさに火に油状態になってしまうのが判るからだ。

 この2人がかみ合えば……、どんな依頼もこなす事が出来る。

 そんな凄い2人と一緒にいられる事。それが、何処か嬉しいようだ。まぁ、これからもランスが好きなのは間違いないようだが。






 その後、モンスターにまた遭遇し、合計で数時間戦いが続いた。懐中時計を確認し、時刻は深夜を指している。

「時間も時間だ。この辺りでキャンプを張らないか?」
「む! 馬鹿者! 誰が好き好んで男と一緒にキャンプしなきゃならんのだ!」
「誰が『一緒に』っていったか馬鹿! 俺だって、んなのは ゴメンだ!」

 とりあえず、モンスター達もいない安全地帯だと言う事は確認し、キャンプを其々ではっていた。
 勿論、その道具はユーリの……じゃなく、今回はシィルついてきているから、ちゃんと準備は万端である。勿論ランスとシィル。ユーリは別々にでだ。

 ……当然だ。

「……」

 ユーリは身体を横にして考える。
 この迷宮を作ったのは、彼女達。この場所で出会えれば間違いないと判断できる。
だが、なぜ≪彼女≫がこんな事をするのだろうか。
 ユーリは必死に思い出していた。

 過去の記憶を。

『……ーっ! ゆーっ! わ……をお………くなっ!』

 少しづつ……少しづつだが、思い出す。記憶の扉を開ける鍵を、探す。あける。

『ふふ……、とって……仲良……よね』
『……来、たの……みだ』
『……あり……とう……わた……を、助……くれ……』

 必死に思い出そうとするが、どうしても、思い出すことが出来ない。まるで、記憶を虫に食い荒らされたように、穴だらけになってしまっているのだ。

「だめ……か」

 ユーリは、もう考えるのをやめた。
 写真を何度も眺めて思い出そうとするんだけど、どうしても断片的にしか思い出すことが出来ない。……その声は、覚えているんだけれど。

「もう、考えても仕方ないな。……ここで判ればいいんだがな」

 そう呟くユーリ。《彼女》に会う事さえ出来れば。

「……それに、アスマーゼさん達の事も気になるしな」

 ユーリがまた会いたいと思ってる人たちの1人が、魔想夫妻の事だから。そう考えているときだった。

「あぁっ……! ら、ランスさまっ! や、やめてください、こんな所でっ……、と、となりにユーリさんもいるのにっ!」
「がはは! オレ様がヤリたいのだ! エロボイスは、特別サービスとして、明日金を請求してやろう! がはは!! よーし、いくぜ!! 秒間300回ピストン!」
「あ、あんっ!!」
「イクぞーーっ!! シィル~~!!」
「あぁぁぁぁっ………」

 外は、迷宮。
 周囲は石の壁に囲まれている為、音が反射して随分響き渡る。

「……、なんで 頼んでも無し、聞いただけで金とられにゃならん」

 ユーリは、やれやれと、苦笑いをしていた。全くお盛んな事だ。休憩と言う意味をわかっているのだろうか……。体力を持っていかれるのに。



 その後、とりあえず更に数時間休憩をとった後、迷宮の探索へと戻っていった。当然、ヤッてた事で金を盗ろうとしたランスだったが、聞いてない。の一点だけを貫き、払わなかった。
 ……当然だ。

「やれやれ……ん?」

 ユーリは、道の先の通路に違和感を持っていた。
 迷宮は全体的に人工的に作られたものではなく、自然のそのもので構成されているものだが、妙に作為的なものを感じるのだ。

「がははは!! 待ってろよー! オレ様がお仕置きしてやるからな!」
「ら、ランス様っ! 足が速いですっ!」

 ランス達は、異に返した様子は無く、そのままずんずんと進んでいく…。慎重と言う言葉を知らんのか?そこには何かあるぞ、と脳内で考え言葉にしようとしたが……、直ぐに≪それ≫は発動していた。

「む?」
「な、なんでしょうか」

 突然、地面が揺れ始めたのだ。そして、それに同調するように。

「ら、ランス様! か、壁が!!」
「ぬぁぁぁぁ!!! 今度は何だというのだ!!!」
「だから、トラップだよ! ちょっとは慎重になれっての!!」

 ユーリは、ランス達に迫り壁を見てツッコミつつも行動に移した。壁を全て破壊するか?と一瞬考えたが反動で、崩れたりしたら本末転倒だ。

「……ちっ!」

 ランスは必死に壁を支えているが、このトラップの方がランスのパワーより強力のようだ。ユーリも加われば、突破口が開けるかもしれないと、飛び込んだが。
 その行為は杞憂と終わる。

「む……。止まったぞ! がはは!! オレ様のスーパーレジストパワーがこの窮地を救ったようだな!?」
「は、はぅぅ……助かりましたぁ……」

 ランスは、突然止まった壁を見て笑いを上げていた。
 正直……後10秒程遅けかったら危なかったと思える。なのに、ここまで言えるのは流石としかいえないが。

「違うだろ、機械仕掛けの作動音が聞こえてきた。……この近くで誰かが操作しているようだ」

 ユーリはあたりを視渡したら、通路の傍にある部屋が突然開いた。

「そうよ。危ない所でしたね。ごめんなさい。さっきの部屋の罠は、モンスター撃退用に用意したものなの。本当にごめんなさいね。怪我はありませんか?」

 青く長い髪の女性が部屋から出てきたのだ。

「うむ。大変な目にあったのだが、可愛いから許す! がははは!!」
「変な人ね。でも無事そうでよかったわよ」

 慌てている様子だったが、ランスの様子を見て安心したようだ。そのまま 慌てて部屋へと引っ込んでいった。

「……ランス、さっきの子だが」
「うむ! 美少女だな? オレ様の為にここに来てくれたんだろう、オレ様のご褒美と言うヤツだ!」
「んな分けないだろ。……あの写真の姿は少女だが、似てないか?」
「なに?」
「あ……、青い髪。ひょっとして……」
「ああ、四魔女の1人、《マリア・カスタード》だな、幼い頃の写真しか見ていないが、それでも似ている。……と言うか、本人だろう。こんな場所にいると言う事を含めても」
「で、でも、私達を助けてくれました。他人の空似の可能性はありえませんか?」

 シィルがそう言うが、このモンスターがいる迷宮で悠長に暮らしていられる所から考えても本人だろう。だが、確かに彼女がランス達がかかっていたトラップを解除しているのも事実だ。そして、ユーリはその部屋へと向かった。

「本人に聞くのが早いだろう? 確かにシィルちゃんの言うとおり、オレ達を助けてくれた。悪い人間じゃなければ、話は早いんだが」
「馬鹿者!! お仕置きをするのはオレ様の役目だ! ええい! オレ様も行くぞ! 横取りするな!」
「はいはい……」

 そのまま、ランス・ユーリ、そして、やや後ろからシィルが部屋へと入っていった。




~迷宮≪地獄の口≫ 研究室~


 入り口を開いて見ると……、何故か、迷宮には不釣合いな研究室がその姿を現した。ここは本当に洞窟内か?と首を傾げてしまいそうになる程だった。
 机や棚の上にはビーカー・試験管が立ち並び、色とりどりの妖しい薬品が入っており、明らかに有毒では無いか?と思えるような気体を発生させていた。まぁ、これまた似合わない設備の換気扇を伝って、屋外?へと排出されているようだから問題なさそうだ。
 いやに、発展していると思える。間違いなくここの設備は町よりも。

「ここは……、駄目か。ヒララ鉱石以外の材料は」

 先ほどは頭だけを出した状態だったから、その全体の姿は見えなかったが、白衣を身に纏ってる姿で、魔女と言うより、研究員と言う方がしっくりくる姿だった。彼女は、開発の技能を持つため、今は魔法よりもそっち方面へと力をつけている。ここで、研究していたのは、新しい兵器の開発。魔法の才能を持たない戦士でも、魔法使いと同等の火力を持った遠距離攻撃を可能とする脅威の新兵器を開発していたのだ。

「うふふ。もし、これが完成すれば、戦闘の歴史が全てひっくり返るわね。……間違いないわ」

 妖しい。怪しい。
 後姿だが、その言葉だけで、どんな顔をしているのか大体は想像がつくと言うものだ。絶対に笑っている。それも目を輝かせて。


「怪しいのは、間違いないですが……、やっぱり魔女には見えませんね」

 シィルはその後姿をみてそう呟く。彼女もそう思っていたらしく、容姿からそう判断したようだ。

「……まぁ、普通はそうだろうな。だが、油断はしない事を進める。シィルちゃんも、まさか学園で仲良くなった人に襲われたなんて、その時は思いもしなかっただろう?」
「はう……。そ、そうですね」
「何? そんな事があったのか! 貴様! なぜ、知っているのだオレ様の奴隷のことを!」
「……もう忘れたのか。あのリア王女達と対峙する時に、言っただろうに」
「ぐ……、馬鹿者、リアの話はやめろ」

 ランスは苦虫を噛み潰したような表情をしていた。どうやら、彼女の名前は禁句のようである。相当追い掛けられたようだから。

「はぃ……確かに大変でしたから」

 シィルもその時の大変さを思い出しつつそう言っていた。つまり、それだけ長く鬼ごっこをしていたようだ。大変なのは、ランス達だけではなく……。

「……かなみも大変だったんだろうなぁ」

 ユーリが労うのは、忠臣を目指すリア王女の側近のかなみの事。
 あの時は笑顔で別れたが、その後、リアを追い続けていただろう姿を思い描いて苦笑いをしていた。

 そのかなみが苦労しているであろう想像は、文句なしの当たりである。

 ランスも、リアに結婚を迫られたのに随分と引きずっているようだ。シィル自身もげんなりしている様子。

 ……もう一度言おう。苦労していたのは、ランス達だけでなく、かなみも同様だったのだ。


~リーザス城 王女の間~


 殆ど、同時期。
 かなみは、マリスとリアに進言し、訓練を続ける時間を増やす事を許可した為、この場所にはまだ来ていない。王女の間にいるのはリアとマリスだけだった。

「へっくしゅんっ!!」

 盛大にくしゃみをするリア王女。

「リア様、大丈夫ですか? ……お身体が思わしくないようでしたら今すぐにお休みになった方が……」

 マリスは、心配そうにリアを見てるが、リアは軽く手を挙げて、問題ない事を伝えた。

「ううん、大丈夫。でも、それよりもダーリンの居場所は? わかったの?」
「はい。それは大丈夫です。かなみの調査の結果、現在ランス様は仕事でカスタムの町を訪れているようです」

 マリスのその言葉に一気に目を輝かせるリア。
 ここ最近ずっと、彼女はランスを探していたのだ。つまりは、自称:未来のリーザス王を。

「申し訳有りませんリア様。……先の件ですが、もう少し時間がかかります」
「えーー、今すぐに出発したいのに」

 頬を膨らませているリア。
 脚をせわしく揺すらせている所から、ほっとけば、1人ででもいきかねない状態だ。……勿論、そこまではしないが。多分。

「リア様。≪あれ≫を持たないで良いのであれば、今すぐにでも出発できますが……」
「それは絶対に駄目、だって、あれを届けたらダーリン絶対にリアの事、褒めてくれる筈! それにリアは王女だもん。手ぶらに会いに行くなんて真似、恥ずかしくてできないわよ」

 ……リアはランス中心で回っているようだ。
 それに、マリスはランスに会いに行くために、王女としての仕事を全て丸投げする事を全く問題視していない。

 そして、マリスはリア中心で回っているんだ。

 これでは、かなみは大変だろう……。と、考えるが彼女はただ、必死に頑張るだけなのだ。
 真の忠臣となる為に、それが茨の道だろうとも。

「ぶぅ……、それで 少々ってどのくらいなの?」
「そうですね……、公務としては5日程。軍内部での打ち合せ、備品発注検討。……全てを含めてたら、更に伸びる可能性も」
「……駄目、待てないから三日以内。私のサインがいるものは片っ端から持ってきなさい」
「畏まりました」
「……ひょっとして、短くされるのを見越して、多目の期間を申告したでしょ?」
「いえいえ、とんでもございません。私がリア様に嘘をつくなど」

 半分以上期間を短くしたのに、涼しい顔で了承したマリスをリアは



 そして、こんなに後ろで話をしているというのに、全く気がつかないこの少女。集中力は驚嘆に値すると言うものだ。訝しむリアにこれまた涼しそうな表情でマリスは返していた。勿論、リアに嘘を言わないのは当然であり正しい。

 マリスは≪5日程≫としか言っていないからだ。

 つまり、1~5日の間と言う事。そして、《伸びる》とは言っても《可能性》と言う言葉も含まれているから、それなりに集中してこなし 人員を総動員させれば訳はない。以前までのリアの要望を叶える為の事例に比べたら 全く問題にならないのだから。

 流石に明日と言われれば、我慢してもらうしかなかったが、3日なら問題ないのだ。

「早うしの準備自体は整っておりますので、持ち出し許可が下り次第直ぐにでも出発する事ができます」
「うん。わかった。可能な限り急いでね、マリス」
「勿論でございます」
「待っててね! ダーリン! もう直ぐにリアが貴方に会いに行きます!!」

 ランスを想いながらうっとりとした様子で天井を見上げるリア。その様子を微笑ましげな表情で見ているマリス。……リアの中の妄想でのランスの表情は妙に美化されているのは言うまでも無い。

 マリスは、後ろのカーテンの方をみた。
 どうやら、≪彼女≫も帰って来てるようであり、話も聞いているみたいだ。

「かなみ。貴女も準備を怠らないように」
「はっ!!」

 カーテンの裏から間髪いれずに返事が返ってくる。マリスの考えは間違いは無く、かなみもリアとマリスが丁度話を開始する時。リアがくしゃみをする少し前に帰ってきていたのだ。

 ……自分は忍者。忠誠を誓う主君の影として常に傍で仕える。

 そして……心も支えれるようになってみせる。それが、真の忠臣と言うものだ。これは、受け入りだけど。

 そして、かなみはこの時、主君が目当てにしている人物とは別の男の事を考えていた。……もう、主君の目当てにはまるで眼中にない。

「(……ふふ、ユーリさんもカスタムにいるの、知った時、初めてランスに感謝したなぁ……)」

 思い浮かべる姿は、ランスでは決してなく。

 “バキッ!!”← 想像の中のランスの絵をハンマーで壊してる

 ユーリである。
 自身を正してくれた恩人であり、大切な人であり……初めて1人の女の子として、見てくれた人でもある。

「(ユーリさん……今の私はあなたからみたらどう思いますか?……私、頑張っているつもりですけど、うぅ……褒めてくれるかなぁ。な~んてっ///)」

 顔が緩んでしまうかなみ。
 両の頬を両手で挟みつつ 想像して悶えてしまう。

「かなみ。カーテンの裏でも丸わかりですよ。あからさまにそわそわしない」
「ひゃ、ひゃいっ!!!??」
「……ダーリンっ! ダーリンっ!! 待っててね~! 直ぐにリアが行くからね~♪」

 マリスから指摘されて思わず声を上げるかなみだった。ちなみに、そんな問答はまるで耳に入っていないリア。

 
 あの日からリーザスは裏も表も平和な日々が続いているのだった。







~迷宮≪地獄の口≫ 研究室~


 ランスは突然身体を震わせていた。それは、となりで見ていたシィルにもわかったようだ。

「ぶるぶる…… なんだ……? 急に悪寒がしたな……」
「だ、大丈夫ですか? ランス様」
「……ま、想像はつくな」

 得体の知れないものを感じ、震わせているランスと心配するシィル。そして、自分の事以外には鋭いユーリであった。

 こんなに賑やかに騒いでも、目の前の少女、恐らくはマリアであろう女性には通じていなかった。

「すまないが」

 このままでは埒が明かないため、ユーリは肩を叩き声を掛けた。

「あーもう! うるさいわね~~!! って、ああ、っそうだったわね。」

 後ろをめんどくさそうに振り返る少女だったが、姿を確認して思い出したように身体全体をこちらに向けた。

「貴方達、助手志願者よね? 今日から早速取り掛かって欲しい事があるんだけど! これが完成したら世界の戦争の形が変わる程の発明があるの!」

 喜々と語る少女。目が光っているようにさえ見える。

「(助手志願者じゃないのだが……。まぁいい)ところで、その研究と言うのは?」
「え! やっぱそーよね? 気になって気になって、仕事なんて手に付かないわよね? しょうがないわねー、説明をしてあげるわよ」

 まるで、待ってました!!と言わんばかりの表情だった。
 ランスはランスで、やり取りは聞いてこそ無かったものの、漸く悪寒から解放されたようで、こちらに近づいてきた。

「む? そこまで凄いものなのか?」
「そうよ! そうね……簡単に説明するけど、魔法って言うのは才能ある人しか使えないでしょ? それに、高威力のものなら、それも一握りの才能ある人しか使えない。だから、魔法を使えない人は自身の意思に関係なく、戦士になったり 軍師になったりしてる。ぶっちゃけ、接近戦ばかりをしているのが今の現状。……で、もし 戦士にも魔法使いと同じだけの破壊力を持った遠距離の攻撃。つまりは後衛攻撃が出来るようになったとしたら……どう?」
「……十分に脅威だが、遠距離と言えば魔法だけでなく、弓、投擲等を使う者もいるんじゃないか?それに、遠距離技もあるし」

 ランスは勢いに圧されてしまって、仰け反りそうになっていたが、ユーリはそう返していた。比較的、ランスの方へと行ったからだろうか?
 それもあるだろうが、ただ、純粋に疑問に思ったようだ。自身にも遠距離の技があり、弓兵は各国に戦士に劣らず無数に存在するからだ。
 ……だが、ユーリの言葉を嘲笑うようにし、やれやれと腰に手を当てていた。

「ま、確かにそう言う例外もあるわ。……でも、わかる? 弓だって、力が必要よ? 射抜く力がなきゃ威力なんて上がらないし、それに必殺技にまで昇華する為にはやっぱり、限られた才能を持つ者のみって事になるでしょ? 結局は魔法と似たり寄ったりじゃない。私が言ってるのは、一部の人間じゃなく、全ての人間。才能も努力も一切必要しなく、誰にでも使える遠距離攻撃手段。それを可能とする新兵器を開発してるのよ!」

“ばんっ!”と、研究室の白板を叩きそう言う。
 まるで、出来の悪い生徒に教えている先生のようだ。

「努力を必要としない……か。だが、それはやや傲慢なんじゃないか? 怠惰をむさぼれば、当然鈍るものだ。なのにそれとは……俄かには信じがたいな。修練をしてきた者としては」
「ふふふ、まっ、そうよね? でもっ! これは、無茶を可能にする! 不可能って壁をぶっ潰す!! 私はそういった研究をしてるって言ってるのよ! で、これが完成したら……うふふふっ!」

 光っていた顔から、燃えている顔へと変わっていた。バックに炎が燃え上がっているのも見てわかる。……精神力で、イメージを具現化するのは大したものだ。
 最近どこかで見た気がするが、気にしないでおこう……。

「ふん。このオレ様が最強なのは決まりだが、そこまで言うのなら見たくはなるな。どういったものなのか、オレ様に見せてみろ。その兵器とやらを」
「それが、残念。まだ秘密なの。だって、完成してないし。詳しい質問も、まだ駄目よ。私が欲しいのは弟子なんかじゃなく、手伝ってくれる人手、助手なんだからね」
「んん? 何のことだ! このオレ様を助手扱いとは無礼だな!」

 ランスは、少女に助手と言われてプライドに障ったようだ。
 この男もシィルを連れているから、自分を下と見られるのに我慢できないようだ。

「あ……聞いてなかったか?」

 ユーリもスムーズに話しに加わってきたから、てっきり初めの言葉を聞いていなかったようだ。

「……あれ? 助手希望じゃないって事? だったら、なんなの? アンタ達」
「……こちらとしても、質問をしたいな。勿論兵器の事じゃない。……君の名は?」
「おいコラ! 誰に断ってナンパをしている!」
「私? 私はマリア・カスタードだけど?」
「おい! オレ様を無視するんじゃない……ん? マリア?」
「あ……」
                      
 ランスは漸く、名に気づきシィルも一瞬固まる。
 マリアもその表情を見て、単なる人間じゃない事に気がつく。そもそも、この場所は危険なのは当然、普通の人じゃまずこの場所までたどり着けない筈なのだ。

「……ひょっとして、敵なの?」
「ああ! その通りだ! オレ様他奴隷・下僕は住人達から依頼されて四魔女を退治しに来たのだ!」

 ランスはずばーーーんっ!っと指を指すが、奴隷と言う言葉は、もう軽くスルーをするユーリ。

「……前の方は置いといて、お前達を捕らえに来たのは本当だ。本当に君が町をあんな風にしたのなら、な」
「ふーん。……ご苦労様です。えっと、四魔女?でしたっけ? 私は違いますよー。彼女達ならもっと奥です。どうぞ、私は忙しいので、お引取りください」
「うむ。そうだったのか。それは仕方ない……って、わけあるか! 今、名前名乗っただろうが!」
「マリア・カスタード。違いないな。それでも否定するのなら、町までご同行願うが?」
「……ふん。誤魔化しが効かなかったか」
                      
 誤魔化せると思っていたのかいなかったのか……、案外図太い神経の持ち主か。……マリアは苦言を呈す。ランスはあわや、引っかかりそうになっていたが、踏みとどまっていた。

「全く、私は忙しいって言ってるのに。邪魔だから早く出てってください。さもないと、警備のハニーたちや、グリーンハニー。ダブルハニー達を呼ぶわよ?」
「がはは! 割れ物をいくら呼んでもオレ様の敵では無いわ!」
「と言うか、何故ハニー?」
「ハニーに拘りでもあるのですか?」
「いや、なんかあのコ達から寄ってきてね。別に拘っているわけでもないわよ」

 ハニーが寄ってきたと言う言葉を聞いて、納得する所はある。
 なぜなら、ハニー種はメガネっ娘が好きと言うのは冒険者の間ではかなり有名な話だ。まぁ、ランスの言うとおり、割れれば直ぐに死ぬ連中を呼んだところで大した問題でもないのだ。
                           
「さあ! 観念してオレ様にお仕置きされろ!」
「誰が!」
「……それより、フィールの指輪。知ってるよな?どこにあるんだ?」
「1つは私が持ってるわよ。ほら」

 ランスの言葉には反抗を示したが、ユーリやシィルの言葉には素直に聞く娘であったが、それよりも簡単に指輪を見せたことに動揺を隠せられなかった。確かに翳した指には青い光りを放っている指輪が填められていたからだ。

「(……確かに、強大な、力を感じるな。……だが、何処か禍々しい気配もする。なんだ?これは……)」
「ああ、成程。この指輪が目的ってわけなの。……悪いけど、渡せないわよ?」
「がははは! そう言って引き下がるわけあるか! お仕置きだ! とーーー!」

 ランスはもう我慢できない!と言わんばかりにマリアに飛び掛った。

 まだ、考え纏めている最中だったユーリを置いといて。

 そして、ユーリがそれに気づいた時にはもう遅い。
 指輪が更に輝きを増した。それと同様にマリアの魔力も上昇していくのがわかる。さっきまでは感じられなかったのに、肌で感じられる程の魔力だ。

「助けておいてアレだけど、悪いけど死んでもらうわね」

 突如現れたのは荒れ狂う荒波の様な水柱。それも、レベル的には中級のもの。初級であれば、問題ないとしていたが……よもやこれ程とは思っていなかった。

「なな! これは中級魔法です!」
「迫激水!!」
「……不味いな。煉ごッ(早い!!)」

 水の柱が滝となり、3人に襲い掛かる。場所も最悪。洞窟の中の部屋と言う閉ざされた場所での巨大な水柱。逃げ場は最初から無く、驚きの為、初動の動きが向こうに分があった為、防ぎきる事が出来なかった。                          

「うがぁぁ!! 水ぅぅぅ!?!?」
「きゃあああっ!!!」
「むぅっ!!」

 激流に飲み込まれてしまった為、なす術も無く部屋の外にまで押し流されてしまった。水浸しの部屋を掃除しつつマリアはため息をする。

「はぁ……部屋はメチャクチャだし、時間は無駄になるし……。……敵以外で誰か手伝ってくれないかなぁ。こうなったら、弟子にしてもいいから」

 せっせと片づけをして、また研究に戻っていった。
 
 

 
後書き
〜人物紹介〜


□ リア・パラパラ・リーザス(2)

言わずと知れたリーザス王国王女。
リーザスの一件で、ランスに怒られてランスに惚れてしまっている。
ランスの為ならどんな事でもなんでもすると、決めてしまっている程ほれ込んでいる。
つい以前までののマリスとさほど変わらないとも思える。
兎も角、もうじきカスタムへとやってくるのは間違いないだろう。


□ マリス・アマリリス(2)

リア王女の側近にして筆頭侍女・陰の実力者……。二つ名が沢山ある才女。
今日もリアの無茶な要求をサラりと受けている。
そこだけをみれば、変わっていないようにも見えるが……。リアが酷い事をしなくなったから、以前に比べたら大分違う。
リア王女同様、直にカスタムへと出発する予定。

□ 見当かなみ(2)

今日も忠臣目指して頑張ってます。
一途な女忍者。
最近の彼女は可愛くなったと、周囲に思われている程、あからさまである。
今回のランス捜索の任務だが、言われ即座に行動に移し調査をしたが内心では、偶然でもユーリに出会えれば?と思い行動を開始していた。
その過程で、ランスとユーリの2人を見つける事が出来たのは彼女にとっての僥倖である。
カスタム行きをリアと同じ位楽しみにしている模様。
何故かとは言わないようだが、バレバレである。


〜魔法紹介〜


□ 迫激水

氷系水類の中級魔法。術者の後ろに水の柱が竜の如く立ち昇り、滝となって相手に襲い掛かる。
威力よりも脅威なのは水量である。密閉空間であれば、それだけ危険であり……勿論本人も危険だから、ちゃんと考えて使用しなければ危ない。

□見える見える

ミニ太陽を生み出す初級の魔法だが、ダンジョン等の光りの届かない場所では重宝される魔法である。

 
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