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東方大冒録

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けねもこの救出。

 
前書き
慧音と妹紅を何とかしようとします。 

 
「くっ!!」

妹紅は必死になって慧音から逃げていた。
なぜ、自分の顔を見るなり、今まで見せたことのない顔をして追いかけてくるのだろうか。いつもの慧音がおかしくなっているのなら、自分が何とかしなければいけないはずなのに、なぜか慧音からは逃げたほうがいい、逃げなければいけないと直感で感じてしまった。

「くそっ!! どうすればいいんだよ……!!」

何もできず、逃げるしかない。こんなのは嫌だ。誰でもいい。何とかしてくれ!!

そう願った。すると、その願いが届いたのか。

「お前の願い、確かに受け取ったぜ!!」
「霊符『夢想封印・集』!!」

妹紅にとって聞き覚えのある女の声と、今まで聞いたことのない男の声が聞こえてきた。それと同時に、8つの光の玉が慧音に向かって襲い掛かり、

「ちょっと失礼!!」
「うわぁ!?」

妹紅は誰かに抱きかかえられて、家の脇に連れていかれた。





ひとまず霊夢に慧音を任せて妹紅を捕まえた暗基は、すぐそこの民家の脇に妹紅を連れて行った。妹紅をおろして、妹紅に声をかける。

「大丈夫か妹紅?」
「あ、あぁ。大丈夫。それよりアンタは……? ていうかなんで私の名前を知ってるんだ?」
「おれは暗基零。おれの姉貴の暗基優理亜がやらかした事の後始末をするために幻想入りした男だ。名前を知っている理由は、企業秘密的な感じでいてくれ」
「えっ!? 優理亜の弟なのか!?」

優理亜の弟と聞いた妹紅は思わず叫んだ。が、ほかのものと違ったのは、

「なんとなく、心配なさそうな気がする。アンタを信じよう」
「本当か!?」

自分のことをすんなりと信じる反応を見せてくれたことだ。暗基は説明を始める。

「信じてくれるなら、ささっと説明するぞ。いま妹紅を追いかけていたのは狂った慧音じゃなくて、優理亜が作った偽物。おれたちはマガイモノと呼んでいる。そして、マガイモノの能力は、本物の能力に付け加えて、優理亜の能力も一緒に付与されてる。だから、今のままのお前だと、すぐに偽物にされる可能性があるからまともに戦えないぞ」
「そんな!? じゃあなんで霊夢は今の慧音のマガイモノだったか? あいつと戦えてるんだよ!?」
「妹紅の疑問はもっともだな。それはおれの能力で強引に戦えるようにしているんだ。あいつも本来はまともに戦うことはできない。おれは霊力を開放する程度の能力と、ありとあらゆるものを普通とみなす程度の能力の二つの能力を持ってるらしくてな。霊力のほうは一時的に対象物の霊力を開放することで、身体能力、生まれ持つ能力を強化するのと同時に、おれと同じように、相手のありとあらゆる能力に対抗できる。そして普通とみなすほうは相手の能力を問答無用で無効にすることができるんだ。だから、今回の異変には最適なんだとさ」
「なんだよその対マガイモノ特化の能力、笑っちまうよ……」

妹紅は暗基の話を聞いて、思わず力のない笑いが出た。だがそれも一瞬だけで、妹紅はすぐに決意を持った眼をして、暗基に言った。

「じゃあ、零!! 私に霊力開放をしてくれ!! 自分の手で慧音を助けたい!!」
「お、おおぅ……」
「早く! 頼むよ!!」
「わ、わかったから、わかったから!! とりあえず離れろ近い!!」
「あ……、悪い悪い。とにかく頼むよ!」
「よし、背中を向けてくれ。開放する」

そして、暗基は妹紅に霊力開放を施した。

























「せやぁっ!!」
「ふん!」

霊夢は慧音のマガイモノ相手にてこずっていた。暗基の霊力解放のお陰で、なんとか戦うことができているとは言っても、夢想封印を叩きつけてもマガイモノはあまり怯む様子が見られない。それほど、幻想郷の住人の攻撃は無効化してしまうのがマガイモノであるとでもいうのか。そう思いながら霊夢は暗基が来るのを待っていた。

「零!! まだなの!?」
「はいお待たせしましたよ、っと」
「私も戦うぞ!」
「全く、遅いわよ」

そこに、暗基と妹紅がようやく姿を現した。マガイモノは、暗基を見るなり興味を持ったように話しかけてきた。

「ほう、貴様が優理亜様の弟君(おとうとぎみ)か。ただ1人、我らに対抗する力を持つ者だそうだな」
「なりたくてなった訳じゃないけどな。本物を返してもらうぞ、慧音のマガイモノ!」
「やってみるがいいさ。はっ!!」

慧音のマガイモノが両手を合わせる。すると、慧音のマガイモノの両脇から、新たなマガイモノが召還された。
それは、満月の時以外はあり得ない、角を生やした、ハクタクの力を解放した状態の慧音と、妹紅のマガイモノだった。

「うわ!? 偽物が増えた!? しかも私のも!?」
「驚くことじゃない。さっきも言っただろう? マガイモノも優理亜の能力を受け継ぐってな」
「そういうことか……。だが、慧音をもとに戻すためだ。文句は言ってられないな!」
「そういうことだ。霊夢はハクタク状態のマガイモノ、妹紅は人間状態のマガイモノを頼む。行くぞ!!」
「わかったわ」
「ああ!」

そして、暗基たちはマガイモノたちとの戦闘を始めるため、それぞれ担当のマガイモノをおびきよせた。











「はっ!!」
「ふん、なかなかやるではないか」
「偽物なんかに褒められても、うれしくもなんともないわ!!」

ハクタク状態の慧音のマガイモノと戦っている霊夢は、マガイモノに褒められても何一つうれしくなかった。

「ひどいものだな、せっかく褒めてやったというのに」
「アンタを倒せてから褒めてほしいわね」
「違いないな。旧史『旧秘境史 -オールドヒストリー-』!!」
「またそれ!? もう飽きたわよ!」

ハクタク慧音のマガイモノは、先ほどから『旧秘境史 -オールドヒストリー-』しか使ってこない。霊夢はそれを、『貴様なぞこれだけで十分だ』と言っているように思えて、正直いらだちしか感じていなかった。そこまで、私たち本物をなめているのか。そんなにもなめられているのか。考えているうちに、イライラがどんどんたまっていく。しかし、そんな中でも、しっかりと冷静に弾幕を回避しながら、確実にマガイモノに弾幕を打ち込む。しかし、そこに拍車をかけるかの如く、ハクタク慧音のマガイモノが煽ってきた。

「どうした? その程度か? やはり我々は、博麗の巫女を超えるだけの力を持っているということだな。しょせん我々には、勝つことは出来んよ。諦めろ」
「……、はぁ?」

ぷっつん。

その言葉を聞いた霊夢は、ブチ切れてしまった。そして、そこにタイミングよく、

「霊夢! 加勢させてもらうぜ!」

魔理沙が来てくれた。霊夢は無表情で魔理沙を見るなり、魔理沙に言った。

「魔理沙。あれ(・・)、やるわよ」
「……、まさかあいつ、そんなに強いのか?」
「いいえ、そうじゃない。単純に私がキレただけ。あいつは塵にしないと私の気が済まない」
「……。あわれ、マガイモノよ」

魔理沙は、思わずつぶやいてしまった。まさか、霊夢をブチ切れさせてしまうとは。そして、まだ実戦で試したことがない、自分たちの合体技の実験台にさせられるとは。

「ふん、口だけはもう飽きた。さっさとかかってこい」

そのセリフに対し、魔理沙は、ハクタク慧音にさらっと伝える。

「ハクタク慧音! 悪いがお前たぶん何も感じずに終わると思うぞ!」
「なに? って、これは!!? う、動けない……!?」

ハクタク慧音のマガイモノが気が付いた時には、すでに身体中に御札が貼り付けられていて、どういうわけか全く動くことができない。

「それが解けるなら、アンタに勝つことはあきらめようと思ってたけど、解けないようで安心したわ。言っとくけど、それ、パワーバカな勇儀と、その他の力が尋常じゃない紫に試しても解けなかったから、たぶんアンタには解けないわよ」
「なんだと!?」
「そんな様子だったら、これから私たちがぶっ放す技は、避けられないだろうなぁ」
「ぐっ……!?」

魔理沙がのんきに言ったあと、霊夢は両手に多数の御札を構え、魔理沙はサブウェポンとミニ八卦炉にエネルギーを溜め始めた。

「アンタ、さっき言ってたこと、その状態で言えるかしら?」
「く、このぉ……!!」

ハクタク慧音のマガイモノは、無駄だと分かっていてもまだもがこうとしている。だが、そうしている間にも、合体技の準備は終わったようで。

「そんじゃ」

魔理沙の声のあと、

「消えなさい」

冷酷な目を向けて、霊夢が言い放ち、

「「幻砲『魔光乱舞』!!!」

二人同時にスペル名を叫ぶ。そして霊夢は霊符『夢想封印・散』と夢符『退魔符乱舞』を、魔理沙は恋符『ノンディレクショナルレーザー』と恋符『マスタースパーク』を同時に放つ。そしてそれが一つになり、凶悪なレーザーになってハクタク慧音に襲い掛かった。




































「ふぅ、終わりね」
「お疲れさん」
「あとは零に任せておけば問題ないでしょ。ところで咲夜は?」
「あぁ、妹紅と慧音が戦っているのを見つけたから、そっちを任せた」
「じゃあ、そっちのほうに加勢しましょうか」
「あぁ。ぜろは多分一人で大丈夫だろ」

そして2人は妹紅の行った場所へと向かった。






「さて、慧音を返してもらおうか!!」
「なにを言っているのかわからないな妹紅。私が慧音だよ」
「今さらふざけたことを言うな!! それに私が知ってる慧音は、私に対してそんな冷たい目なんか見せない!」

妹紅は吼えた。目の前の、自分の信じている者の偽物を相手に。

「ほぉ、そうなのか。じゃあ、お前の名を気安く呼ぶのは、よろしくなかったか」

そう言いながら、慧音のマガイモノはスペルを唱える。

「嘘像『ダウト・オブジェクト』!!」
「!?」

だがそれは、慧音のスペルではなかった。慧音のマガイモノが、一瞬にして6体に分離したのだ。そしてそいつらは、妹紅の周りをおおい囲った。


「ぶ、分離しやがった!? てか、それお前のスペルじゃないだろ慧音!! 零の言っていたことは本当だったのか!!」
「ふふふふふ……。さぁ、我が『ダウト・オブジェクト』、今のお前に破ることができるなら、破って見せろ! 妹紅!!」
「ぐっ……、めんどくせぇ!! 一気にまとめてぶっ潰せばいいだけの話だ!!」

そう叫ぶと妹紅は、スペルカードを構え、それを唱えた。

「時効『月のいさはかの呪い』!! まとめてくたばれ!!」

そして、妹紅はスペルを一気に放ち、周りにいる慧音たちをまとめて薙ぎ払った。見ると、慧音のマガイモノの姿さえもまったくなくなっていた。

「やっ、たか?」

妹紅がつぶやいた瞬間。

「ふふふ……。甘い、甘いぞ妹紅!!」
「んなっ!?」

どこかから慧音のマガイモノの声が聞こえた。妹紅はあたりを見回すが、あたりには何も見当たらず、人すらも見当たらなかった。

「なんだ!? どこだ!?」

そしてきょろきょろ見回しているうち、自分の足元から少しずつ音が聞こえてきた。

「くっ、そういうことか!!」

妹紅はそう叫ぶと同時に後ろに向かって大きくジャンプした。それと同時に、慧音のマガイモノがも校の立っていた場所から這い出して、無数の弾幕を放ったのだ。

「くそ、性質の悪い攻撃してくれるじゃないか!」

妹紅が叫ぶと、慧音のマガイモノは本当に驚いた顔をしながら妹紅に告げた。

「なかなかいい耳と感覚を持っているな。このスペルカードを使ったら、戦闘中の相手の感覚を普段の半分にするものなのだがな」
「そういえばあまり聞こえないと思っていたら、それが理由だったのか!?」
「その通りだ。ほかにもこんなものもあるぞ?」

慧音のマガイモノはそういうと右手で拳銃の形を作り、スペル名を言った。

「嘘銃『ダウト・ショット』!」

すると、慧音のマガイモノの手からは、とても指一本から出しているとは考えられないほどたくさんの弾幕を放ってきたのだ。

「う、うわっ!!」

妹紅は必死になって回避しようと試みるが、とても回避できる量ではなく、かなりの数をくらってしまった。しかし、くらったはずなのに、

「あれ? 痛くない……?」

まったく痛みを感じなかった。すさまじい数の弾幕をくらったはずなのに。

「へへ、そんなものなのか? お前の攻撃は!!」

妹紅は慧音のマガイモノを挑発してみる。しかし慧音のマガイモノは妹紅の挑発に対して、涼しい顔をしているだけだった。むしろ、なにか楽しんでいるような顔をしている。

「な、何がおかしい?」

たまらず妹紅は慧音のマガイモノに問いかけてみる。すると、慧音のマガイモノの口から、とても考えられないセリフが発せられた。

「そのスペルカードは痛みを伴わない。そのかわり、対象者の行動を制限するのさ。どうだ? そろそろしゃべるだけの力はあるにしても、腕、足、体中のどこを動かそうとしても、体が言うことを聞いてくれなくなってきているんじゃないか?」
「!?」

妹紅は慧音のマガイモノの言われるがままに腕、足、その他体中を動かそうとしてみるが、まったく動いてくれなくなっていた。慧音のマガイモノはさらに言う。

「どうやら、優理亜様の弟君は我らの能力に対して絶大な威力を見せてくれるようだが、スペルカードは関係ないようだな」
「くっ……、零の能力、不完全じゃないのか……!?」
「どうやらそのようだな。それじゃあ、終わりにしようか。本物の妹紅よ」

慧音のマガイモノが妹紅に少しずつ近づいてくる。逃げようにも、体がマヒしているために全く動くことができない。

「嘘劇『ダウト・ミュージアム』」

慧音のマガイモノがまたしても何かスペル名を言った。すると、妹紅から、すべての感覚がなくなった。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚、口が動いているのかすらも分からなくなった。

「せめて、何も感じることなく、そちらの言うマガイモノの妹紅の所有物にしてやる」

慧音のマガイモノは、何も感じることができず、何をどうしていいのか全く分かっていないために死にかけたゴキブリのようになっている妹紅を見ながら、妹紅に手を触れた。

「さらばだ。我が友のお……」

さらばだ。我が友の親よ。慧音はそういったはずだった。しかし、現実は違った。慧音のマガイモノが気付いた時には、すでに自分の身体中にナイフを叩き込まれ、目の前が暗くなっていったのだ。

「い、一体……、なに、が……?」

それが慧音のマガイモノの最期の言葉となってしまった。











「はぁ、遅かったかしらね」

咲夜がたどり着いた時には、もうすでに妹紅の負け寸前の状態になっていた。咲夜は妹紅のほうを請け負って本当に良かったと思っていた。自分が能力を使っていなかったら、また最低でも魔理沙ほどのスピードがなかったら、きっと妹紅を助けることはできなかっただろう。そう思えてならなかったからだ。

「ほら、立ちなさい。竹林の不老不死」

咲夜が妹紅に声をかけた瞬間、妹紅は、

「!? 聞こえる!! 見える!! 動ける!! 触った感覚がある!! やったぁ!!!!!!」

咲夜にはまったく理解できない言葉を発しながらすさまじいスピードで立ち上がった。そしてきょろきょろと見回し、咲夜が立っている姿だけを見つけ、咲夜に走り寄った。

「久しぶりだなメイド! あんたが助けてくれたのか?」
「まぁそんなところかしらね。ところであなたほどの実力者が随分と無様な姿だったけど、一体何があったのかしら?」
「あぁ。あいつのスペルが、慧音本来のスペルじゃなくて、マガイモノが使えるスペルカードだったんだよ。そいつをくらうと、くらった相手の何かを奪われるみたいでな。私は自分の感覚すべて奪われたんだ」
「その結果があのザマだったわけね? 恐ろしいわ……」
「まぁ、そういうことだ。私も正直恐ろしくて仕方なかった」

二人が会話しているうちに、

「おーい!! さくやー!! もこうー!! だいじょうぶかー!!」
「おっ、あの声は魔理沙か?」
「そのようね。どうやらうまく霊夢と合流できたみたいね。良かった……」

霊夢と魔理沙が飛んできた。それはすなわち、しっかりともう一人いた慧音のマガイモノを倒してきたということを意味していた。そして2人がたどり着くなり、魔理沙は話を始めた。

「その様子だと、もう終わっちまったみたいだな。良かった良かった!」
「傷もほとんどないみたいだし、割とさっさと終わったみたいね?」
「あぁ。だけど、咲夜が来てくれなかったら、私は負けてたよ。恥ずかしい限りだ……」
「まぁ、あのザマだとねぇ?」
「それを言うなよ咲夜……」
「それについては聞かないでおきましょ? 早いとこ、零のところに行きましょう?」

霊夢が提案するが、それに対して文句を言ったのは、咲夜だった。

「やめておきましょう? 今の妹紅は体力を大きく消耗している。あなたたちはいいのかもしれないけれど、妹紅に関しては今回戦うのは初めて。慣れていないことをたった一人でしたのだもの。それに、偽物はしばらくたつと復活するらしいし、私たちの休憩もかねて、少し休みましょう」
「それもそうかもな。よし、私たちが倒してきた奴とまた相手することを考えて、休んどこうぜ」

そして、霊夢たち4人は、その場で休憩することにした。
































一方、暗基は、妹紅のマガイモノを相手にしていた。

「くっ……、私の仲間がやられちまったみたいだな……」
「お前、それ、ラッシュかましあってる、相手を、目の前にして、言う、つもりか!?」

暗基と妹紅のマガイモノは、某オラオラvs無駄無駄のごとくパンチによるラッシュ比べをしている状態だった。どうしてこのような状況になったのかというと、妹紅のマガイモノがいきなり炎を拳にまとって殴りかかってきたため、それに応戦するためにソウル・インファイトでパンチをしているうちに、このようなラッシュ比べの形になってしまったのだった。かれこれ3分間も休むことなくラッシュ比べをしていたため、暗基は体力的に軽い限界が来ていたのに対して、妹紅には途中で会話を挟むほど、まったく疲れの色が見えてこなかったため、暗基は軽く恐怖を感じていた。

「いい加減ラッシュ比べも飽きたな」

妹紅がおもむろにそんなことを言うと、同時にラッシュのスピードを急速に上げた。そのあまりのスピードに暗基は耐えることができずに、

「ぐおぉぉぉ……!!? もう、むり、だ……!!」
「ふん、ここまで耐えたのもなかなかだけど、くたばりな! 弟君(おとうとくん)よぉ!!!」

ラッシュをもろに食らう羽目になってしまった。

「があぁぁぁぁぁあああああああ!!!!?」
「ははははは!!! そのまま吹き飛べ!!!」

そしてそのまま吹き飛ばされて、すでに誰もいない民家の壁をぶち破り、やっとのことで勢いが止まった。今まで生きてきた中で、感じることなどまずありえない様々な痛みが暗基を襲っていた。

「がはっ……。何か所か……、骨、イっちまったか……。まさか、こんな状態になるなんてよぉ……」
「なにをぶつぶつ話してるんだ?」
「なっ!? もう近づかれた!!?」

何とか立ち上がろうとした暗基であったが、すでにすぐ上に妹紅のマガイモノが迫ってきていた。妹紅はおもむろに暗基の首をつかむ。

「ぐっ……!!?」
「アンタの実力は、そんなもんなのかい?」
「ごほぁ!!?」

そして思いっきり腹パンチを見舞った。

「いくら能力が私たちを倒すのに特化した能力だったとしても、それを扱うに伴った実力がなかったら、宝の持ち腐れだよなぁ!!」
「ぐほっ!? ぐあっ!?」

休むことなく殴り続ける。暗基の意識がだんだんと遠くなっていく。

(やばい……、アニメでボコられたりアクション映画でボコられたりっていうのは、こんなにも酷いもんだったのか……)
「ほらほら! 何とか言ったらどうなんだ!!」
「……」
「もう意識をなくしたか。つまらないな」
「!」

妹紅のマガイモノは暗基を思いっきりそこから投げ飛ばした。暗基は投げ飛ばされた衝撃で意識を取り戻した。空が、赤くなってきていた。もう夜が近い。

「ぐぅっ……、マジで無理がある……」

暗基は体を動かそうとする。すると、指だけは何とか動いてくれた。

(指は動くが、つま先すらも動かないな……。もう終わっちまうってのかちくしょう……)

思わず考え付く最悪の未来が頭をよぎるが、ふと思いついたことがあった。

(そういえば、右ポケットのなかに何も書いていないスペルカードが一枚入っていたはずだ……。今思いついたスペルを反映させて、それをあいつにぶち当てれば……!!)

暗基は、たった今思いついたスペルを新しいスペルカードに吹き込んで、それを使って妹紅のマガイモノをぶっ飛ばすつもりだった。ただ一つ問題だったのが、指が動くのはいいが、それがポケットに手が届かせるのが、自信がなかった。

「さて、そろそろ終わりにするか」

すると、妹紅のマガイモノはスペルカードを取り出しながら近づいてきた。

「そういえば、慧音たち(・・)からの情報によれば、アンタの能力は、優理亜様のスペルカードに対しては意味をなさないらしい」
「……、だから、どうした……?」
「ニブいなぁ、アンタの頭は……。能力のことを少し考えてみなよ」
「……、おい、まさか……!?」

能力のことを少し考えろ。その言葉で、暗基はすべてを悟り、それに対して妹紅のマガイモノは笑って答えた。

「わかったみたいだな。その通りだよ!」

妹紅のマガイモノがスペルを唱えようとする。しかし、その瞬間。

「おせぇよ」
「?」

突然、ほぼ死にぞこないになっている暗基がそんなことを言い出した。それを聞いてしばらく黙っていたが、妹紅は声を上げて笑い出した。

「ははははははははは!!! 死にぞこないが何を言いだのかと思えば、遅い? アンタ、自分の状況」
「よっぽどわかってないみたいだな、バカじゃねぇのかってかい?」
「!? なぜ私が言おうとしていたことを!!?」

暗基は唐突に妹紅の言おうとしていたことを言い当てて見せた。それに対して妹紅は驚きを隠せなかった。暗基はへらへらと笑いながら続ける。

「なんでってかぁ? そりゃあ……、なぁ」

そして暗基は、突然目つきと顔つきを変えて、

「てめぇを一撃で叩き潰す方法が思いついたからだよマガイモノ」

そう告げた。

「は?」

妹紅のマガイモノは、なぜそんなことを言われたのか全く分からなかった。その様子を見て、暗基は小さく笑うと言った。

「自分の体、見てみなよ?」

妹紅のマガイモノは言われるがままに自分の胴体を確認すると、そこには、

「なっ!? 拘束されている!!?」

暗基のファンネルによって拘束されていた。

「ふぅ、何とかうまくいった」
「い、いつの間にこれを!!?」
「いつかって? そうだな……、お前、笑ったとき体を少し反らしたよな。その時だな」
「なっ、あの一瞬にか!?」

妹紅のマガイモノは、驚きを隠せなかった。体を反らしたほんの一瞬。その間に動けなくなるほどに拘束できるとは、全く予想できなかったからだ。暗基は、先ほどよりは少し体を動かすことができるようになったため、立ち上がろうとしながら話す。

「さぁて、ここからは、おれのターンってやつだな」
「!!?」

そして暗基はポケットから新しいスペルカードを取り出し、思いついたスペルを唱えた。

「『ソウル・ショット -ACT1(アクトワン)-』!!!」

すると、暗基の横に、妹紅のマガイモノを拘束しているファンネルよりも小さめなファンネルを出し、それが妹紅のマガイモノを貫いた。すると、

「ぐあぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!?」

暗基が思っていたよりもすごく苦しんだ。見ると、身体中にひびが入っている。

「なんだ……、これは……!!?」
「このスペルこそ対マガイモノに特化したスペルだ。おれの霊力を直接相手に叩き込んで、致命傷を与える。そしてこのスペルは面白くてな、さっきおれ、ACT1って言っただろ?」

暗基は続けて言いながら、そのスペルカードを唱えた。

「ACT2があるんだぜ? 『ソウル・ショット-ACT2(アクトツー)-』!!」
「や、やめ……」

妹紅のマガイモノがやめろと言おうとするが、それはすでに遅かった。暗基のファンネルが放った霊力が、妹紅のマガイモノに直撃した。すると、

「う、うあ、あ、ああああああああああああ!!!!!?」

しばらくもだえ苦しんだ後、妹紅のマガイモノは、爆発してしまった。



























「うっひょー、気持ちいいくらいに爆発したなぁ。さて、忘れないうちに封印と、もう限界だから霊夢たちを呼ぶとするか。ファンネル、よろしく頼むぞ」

暗基はファンネルに頼んでもうぼろぼろになっているカバンから封印の札を取り出してマガイモノを封印し、霊夢たちを探してもらい、そのまま道に倒れこんでしまった。 
 

 
後書き
はぁ、やっと終わった。やっと書き終わったこの話。どんだけ時間かかってんだくそ……。とにかくすみません。

ちなみに、『ソウル・ショット』は、ACT1は外傷、ACT2は内部からの破壊です。どちらも人間に放つと大変なことになります。また、合体技の幻砲『魔光乱舞』は、とにかく代表格の技で叩きのめしたいなと思い、強い技たちで合体技にしました。

それはそうと。次回、暗基の休む暇もなく、永遠亭に突撃します。 
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