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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico31-A乙女の恋路を邪魔する奴は首チョンパ❤

 
前書き
乙女の恋路を邪魔する奴は首チョンパ❤/意:せっかくの楽しい時間を邪魔する奴は、首を撥ね飛ばされても文句は言うな、というたとえ。 

 
†††Sideルシリオン†††

海鳴市郊外の山中にひっそりと建つ、俺たち機動一課・臨時特殊作戦班――通称・特戦班の本部である家・・・というか、合宿所みたいな。学校からその家への帰り路の途中、『ねえ、ルシル君』なのはが念話を使って呼び掛けてきた。

『どうした? なのは。念話まで使うなんて』

『この会話を聞かれるわけにはいかなくて』

なのはの視線の先には『シャル・・・?』が居た。シャルには聞かせたくない話。とりあえずなのはの話を最後まで聴くことにした。

『うん。えっとね、明後日なんだけど、何の日か知ってる、かな?』

『明後日・・・? 今日は11月16日・・・。あぁ、シャルの誕生日か』

11月16日。前世のシャルロッテ、そして現世のイリスの誕生日。前を歩くシャル、そして彼女と楽しそうにお喋りしているアリサ達を見る。すると俺の視線に気づいたのかアリサが横目で俺を見、『協力してもらうわよ』ウィンクしてきた。どうやらなのは達は、サプライズパーティを行うようだ。

『もちろん協力させてもらうよ。シャルをあっと驚かせてやろう』

去年もなのは達に祝ってもらっただろうが、今年は俺たち八神家、それにルミナ達も一緒だ。派手に祝ってやろうじゃないか。人数も足りているし、金銭的にも十分すぎるだろう。

『バースデーケーキはもちろん翠屋だよね』

そう言うすずかに、なのはと念話が繋がっていないシャル以外が『異議なし』同意を示す。するとなのはは『にゃはは。いつもご贔屓にしてもらってありがとうございます♪』満面の笑みを浮かべた。

「――でさ、なのは・・・って、なに? なんでそんなすっごい笑顔になってるの?」

シャルがなのはに話を振るべく振り返り、彼女が笑顔になっているのを見て小首を傾げた。なのははビクッと肩を跳ねさせ「な、なんでもないよ! うん!」下手くそすぎる話題逸らし。あからさまな動揺に俺たちは冷や汗ダラダラ。シャルはなのはに歩み寄り、「んん~?」下からなのはの顔を覗き込むような体勢になる。

「あ、う・・・にゃはは。ホントに、なんでもないんだよ・・・?」

おそらくみんなの心情は一致している。きっと、苦しい、だ。なのは、わざとか?って、そう思えてしまうほどに目が泳ぎ過ぎだ。しかしシャルは「そっか」深くは追及せず、「さっきの話なんだけど――」振ろうとしていた話の続きを始めた。なのはがそれに応じている中、『なのは・・・』アリシアがなのはを呼んだ。

『わぁーん、ごめんなさーい! あまりに急だったから!』

『えっと、ほら。なのはは嘘を吐くのが苦手だから、しょうがないよ』

フェイトがフォローに入る。まぁ、何はともあれシャルに気付かれることはない・・・とは言い切れそうにない。シャルはこういうイベント事には鼻が利く。ましてや自分の誕生日となればなおさら。おそらく気付いている。だが、あえて気付かないフリをしていると見ていい。そう。大事なのはサプライズをするんじゃなく、そのサプライズの内容だ。

(なのは達も理解しているだろうな)

去年も祝ったことだろうし。だからこそ去年以上のサプライズでなければ。そうして俺たちは家に着くまでどんなプレゼントにしようか、被らないようにしようとか、俺をプレゼントにしようとか(アリシア、ふざけんな♪)、それにはやてが膨れっ面になったりとか、そんなことを全て念話で話した。残りは帰ってからでも夜中にでも決めよう。

「「「ただいまー!」」」

家に着くと、はやてとシャルとアリシアが元気のいい挨拶と共にスライド式の玄関扉を開けた。遅れて俺、なのは、フェイト、アリサ、すずかで「ただいま」と挨拶。すると「おかえりなさい!」真っ先に俺たちを出迎えてくれたのは、海鳴温泉で助けた名無し――今ではジョン・ドゥと呼ばれる少年だった。

(しっかし。どこか懐かしい空気を放っているんだよな、ジョン。どこだったかな~)

脳裏にチラホラと過る懐かしさ。ジョンを含めた特戦班と一緒に暮らすようになってから、ジョンに抱く懐かしさ?のことをずっと思い出そうとするも未だ思い出せず。最近では思い過ごしだと諦めかけている。

「うん、ただいま、ジョン君♪ エプロン付けてどうしたの?」

「えへへ~♪」

誰もが見て判る通りジョンはすずかに好意を抱いている。が、すずかは気付いていない。まるでなのはとユーノのような関係だ。あの2人は、というか、なのはが鈍すぎるからなぁ。ユーノはユーノでアプローチを仕掛けず、伝わらなくても良い、なんて言う始末。それに比べたらすずかはこういう恋愛系の感情には聡いかもしれないから、まだ望みはありそうだ。少なからず大切に思っているようだしな。

「僕さ、シャマル先生たちと一緒にクッキーを焼いたんだ! あとで一緒に食べようよ!」

「そうなんだ! うん、一緒に食べようね♪」

すずかとジョンのやり取りを微笑ましく見守っていると、「おかえりなさい、みんな!」シャマルを筆頭に八神家、そして対神秘戦力のルミナ、ベッキー先輩、セレス達みんなからの挨拶が家に溢れる。リンドヴルムという、危険性の高い連中とぶつかっても変わらない空気が好きだ。

「ルシル。時間があったらまた対神器戦に付き合って」

そんな中でルミナが俺にそう言う。俺が“エヴェストルム”(いちいちアルタを付けるのも面倒だ)を手にしたあの日、ベッキー先輩との魔術戦を繰り広げ、満身創痍だったが引き分けに持ち込めた。さすがに今の俺に、ベッキー先輩に勝つだけの神秘を俺個人では引き出せなかった。
まぁ、そんな騎士ではなく魔術師・神器持ちとしての俺にルミナは以前(イリスの聖祥小転入許可を貰う為に行った戦闘)よりさらに強く興味を持つようになり、とことん俺を打ち負かしたくなってしまったようだ。

(正直、あんまり神秘を消費したくはないんだけどな~)

シャルとの契約メンタルリンクのおかげで、大事な一戦の時は多少の無茶も出来るようにはなったと思う。しかしシャルを魔術師化させるためにいちいちキスするのはどうかと思う。シャルやイリスは喜ぶが、はやてがそれはもう恐ろしいわけで。入院中、クラナガンの悪夢の際にシャルと2度キス(どちらも必要な行為だった・・・だったんだよorz)したことがはやてに知られ、それはもうおっそろしい笑顔を見た。

「セレスじゃダメか? 対神器もいいけど、対魔術も結構重要だぞ」

「ちょっと待って、ルシル君。魔術師化の代償は本当にキツイんだって。魔術師化するのは本番だけにさせて」

名指しされたセレスが焦りだす。カローラ姉妹はヨツンヘイム皇族の血筋で、基本的な能力として自在に魔術師化できる。対神秘戦では重要な戦力だ。しかも先の次元世界の生まれ変わりであることで、魔術師としてはかなりレベルが高い。が、自在に魔術師化できるとは言え、なんのデメリットも無いわけじゃない。それこそが、セレスが模擬戦をしたくない理由。

「もう冬だから。さすがにアイスもかき氷も1kgと食べたくないよね・・・」

「はぁ・・・。まったくだよ。魔術師化する代償が、冷たい物1kg摂取するなんて・・・。夏でも辛いよ」

フェイトの話にセレスが肩を落とす。どういうわけかカローラ姉妹は魔術師化するたびに、アイスやかき氷と言った冷たい物を口にしないといけない。飲み物でもいいらしいが、余計に腹に溜まるということでかき氷を第一に食べるようだ。

「私なんかよりベッキーさんの方が良い相手になるんじゃ」

「私ですか? 神器は持っていないので、ご期待に添えられるかは判りませんけど・・・」

俺たち八神家が所属する捜査部・特別技能捜査課の先輩捜査官であるベッキー先輩。神属ヒエラルキーの下位であるとは言え、現代では破格の神秘である精霊を扱えるスキルを持っている。しかも5体。大戦時なら勝てただろうが、今の俺個人ではまず勝てない。実際に証明されたしな。

(この神秘を失った時代でありながらも精霊と共に生きるベッキー先輩には、魔術師として最大限の敬意を表したい)

「ベッキーは強すぎだからダメ。ルシルかセレスくらいがちょうどいい」

「強すぎる、ですか・・・」

強すぎるから。そう言われてヘコむベッキー先輩。聞いた話だと、ルミナとベッキー先輩とセレスは、自分より強い男子に護られたい願望あるんだと。しかし3人は局内でも強者に入る分類。その中でも一番強いと称されたことでショックを受けようだ。外見は護ってあげたいか弱そうな女の子。しかしその強さは異常。

(彼女たちを護れるような同年代の男子局員なんて居ないだろう。正に夢見る乙女なわけだ)

「いいでしょう? ルシル。今後の対神器を想定した戦いをしたいの」

ルミナの両手首に漆黒に艶めく一対の腕輪・“ツァラトゥストラ”が出現する。実際に見て、打ち合ったことでハッキリした。アレは、“第四偽典”だった。アルテルミナスの前世、“霊長の審判者ユースティティア”のナンバーⅩⅥ:終極テルミナスの武装。元“界律の守護神テスタメント”として手にした、漆黒のケルト十字――“第四聖典”が堕ちた姿だ。ソレが腕輪として存在している。そして、ルミナのスキルを全面的にコントロールしている。

「(聴けばルミナは孤児で、物心つく前にはツァラトゥストラを持っていたそうだが・・・)いいよ、判った。付き合うよ」

「クスクス♪ ありがとう!」

全てに引っかかりを覚えてしまう。ルミナの出生、喪われたはずの“第四偽典”の腕輪化、それにルミナの特徴的な笑い方。クラナガンの悪夢以前は、あぁ、似ているな~、くらいだった。しかし今の彼女の笑い方や声は確実にテルミナスに近づいている。それに不安を覚えてしまう。これが杞憂で済めばいいんだが。

「やれやれ。この前みたいに庭にクレーターは作らないでくれよ」

鞄をリビングのソファに置いて庭へ出ようとした時、シャマルやジョンが焼いたクッキーを頬張るはやて達に混ざっているシャルが「ねえねえ、ルシル」俺を呼び止めてきた。

「誕生日プレゼントなんだけどさ。わたし、ルシルとの1日デート券が欲しい!」

「・・・・っ、馬鹿か、お前は!」

サプライズとは。真剣にそう考えるのが馬鹿馬鹿しいほどの爆弾を寄越してくれたよ、この娘は。見ろ、後ろに居るはやて達の顔を。全員がポカーンとしているだろうが。ルミナやセレス、ベッキー先輩ですら口を半開きにしていた。

「だって~。今の内にリクエストしておかないと絶対にクソ真面目なプレゼントにするでしょ、ルシルってば。文系が弱いからそっち系の事典とか辞書とかプレゼントされそうだし。先制しておかないと」

図星だった。シャルは、頭は良いのにどれだけ勉強しても国語の凡ミスが目立つ。だったらドリル系でもプレゼントしようと思っていた。もしくは勉強を見てあげようか、とも。

「いや、だからって・・・」

チラっとはやてを見る。下手に請け負うものなら背後から刺されてしまいそうな危険性が生じるかもしれない。最近のはやては嫉妬と言うかヤキモチと言うか、そういうのを隠すことなく顕すようになってきた。
それが可愛いやら辛いやら。先の次元世界でのフェイトのように、俺なんかを好きになってくれて嬉しい。けど、彼女の想いに応えられないこと、叶わない恋だということを認めさせるのも辛い。幸せを知った今だからこそ、余計に。

「わたしは気にせんよ。シャルちゃんが主役の誕生日やしな。うん、ルシル君、ここはリクエストに応えるべきやない?」

ニコニコ笑顔を浮かべながらクッキーを食べるはやてだったが、左手に持ってるクッキーを粉々に砕いていて、その欠片が本来の30cmほどの姿でテーブルに座るリインの頭にパラパラと降り注いでいた。リインは黙って受け入れ、なのはがそっとリインを助けてあげ、パッパッと頭のクッキーの欠片を優しく払った。そんなはやての前でシャルのリクエストを受けていいのだろうか。ちょっと怖い。

「ね? いいでしょ? 1日くらいだもん。はやてもいいよね?」

「ええよ~」

「決まり♪ 誕生日の翌日は日曜日だし♪ デート場所は、わたしの地元で良いよね」

あれよあれよと話を進めていくシャル。地元と言うことはザンクト=オルフェンか。あんまり海鳴市から離れたくないんだが。ジョンの方を見ると、「彼は私たちが護るから大丈夫」セレスが鎖に繋がれた剣のアクセサリーを俺に見せた。ハート2と言う、リンドヴルム・ドラゴンハートの副隊長によって破壊されたデバイス、“シュリュッセル”。ソレをドクター達の最新技術によって再生された。

(ハート2との戦闘映像も無し、神器がどんなものか、どういった戦い方をしたのか、シグナム達に訊いても、気が付けば負けていた、だからな~・・・)

「私も付いていますから、安心してシャルさんと、その、あの・・・」

顔を赤らめるベッキー先輩。色恋沙汰は苦手なようだ。まぁとりあえず「判った。1日デートをプレゼントする」シャルのリクエストを受けることになった。するとはやてのクッキーを食べる速度が上がった。となると、ヴィータ達からの非難の視線が集中するわけで。

『ルシル、二股はいけねぇよ』

『サイテーですぅ、ルシル君』

『目の前でシャルちゃんとのデートの約束なんて・・・』

『ルシリオン。さすがにそれはいかんだろう』

視線に続いてお叱りの言葉が。じゃあどうすれば良かったんだ。はやての目の前だろうが別の場所だろうが、受けることにはなっていた。どちらにしろ、シャルと出掛けることが当日になって判ることになる。つまり結局は・・・

(逃げ場なし。シグナム達から非難を受けるわけだ)

しかしまぁ、なんらかのフォローくらいはしないといけないよな。俺ははやての側に歩み寄り「はやて」彼女の背後に立つ。はやては少しばかりそっぽを向いて「デートコース考えとかなな」ムスッとした声でそう言い放った。

「はやて。事件が片付いて落ち着いたら、久しぶりに2人で出掛けよう」

はやての耳に顔を近付けてデートのお誘い(まずい。いつかはやてかシャルに刺されるかも・・・)をすると、「ひゃん!?」はやてが変な声を上げた。しまった。耳に息を吹きかけてしまったか。恥ずかしさ、そして「うんっ♪」喜んでくれているのか顔を真っ赤にしたはやてが俺に振り向き、満面の笑顔を見せてくれた。

「あああああ! ルシルがはやてにキスしたぁぁぁーーーー! わたしとのデートの約束直後で他の女の子にキスとか、ありえ――」

「違う! ちょっとした内緒話をしただけだ! なぁ、はやて!」

「うえ!? あ、うん、そうやよ~♪」

機嫌を良くしたはやて、それにシグナムとヴィータとシャマル。プンプン怒るシャル。顔を赤くして俺たちを見るリインとベッキー先輩、それになのは達。微笑んでいるルミナとセレス。何とか場の空気を和ませる(シャルは度外視でいいや)ことが出来た。

(俺のプレゼントは決まったが、バースデーパーティの演出はまだ未決定。それを考えないとな~)

とりあえずはやて達みんなと相談しないと。

†††Sideルシリオン⇒イリス†††

ドキドキわくわく。今日はルシルとの初デートなのだ。わたしが今いるのは、ミッドチルダ北部はベルカ自治区ザンクト=オルフェンの南区ウィンザイン。ザンクト=オルフェンは、わたし達フライハイト家と、それに連なる六家が管理してる領地で、聖王教会の本部が在ったり、わたしの実家も在る。地球で言う西洋建築って呼ばれる街並みで、ルシルはいたく気に入ってくれてるの。だからデート場所にここを選んだ。

「ふんふふ~ん♪」

自分の格好を改めて見る。冬とは言っても日本ほど寒くないから、そんなに厚着しなくても問題なし。白のシャツに黒のセーター、チェック柄のミニスカート、そしてクリーム色のチェスターコート。冬仕様のデート服であ~る。続けて手鏡で髪の乱れを確認。

「髪の乱れ無し、服装もバッチリ♪ 約束の時間まで・・・あと30分。早く来過ぎた~orz」

今日は緊張や興奮で朝4時に起きたし。ちなみに寝たのは深夜0時。昨日は丸1日バースデーパーティだった。楽しかったなぁ。料理は全部なのは達が作ってくれたもので、味付けは個人で違うから飽きないし面白かった。

「でもまさかビデオレターとはね~。あれには驚いたな~」

今年のサプライズはなんとビデオレター。わたしの知人・友人の録画メッセージビデオだった。なのは達はわざわざここザンクト=オルデンの聖王教会本部にまで足を運んで、父様や母様、教会騎士団のメンバーにコンタクトを取って録って来てくれた。とても嬉しかったな~。

「すまない、待たせてしまったか? シャル」

「あ、ルシル♪ ううん、ぜ~んぜん待ってないよ♪」

灰色のダウン、黒のニット、白のシャツ、黒のカーゴパンツっていう格好のルシルが手を振って駆け寄って来た。やばい、デートっぽくてこの時点で最高すぎるんだけど。にやけるのを止められそうにないから、もう笑顔でそう答えるしかなかった。どうか気持ち悪いって思われませんように・・・って、もう以前から手遅れか?

「そうか。それでどうする? デートコースと言っても、ザンクト=オルフェンにはさほど詳しくないぞ。君の家や聖王教会本部の在る中央区アヴァロン、St.ヒルデ魔法学院の在る南区ウィンザイン、ミミルさんの研究所が在る北区カムラン、シュテルンベルク家の在る西区カールレオン。いずれも訪れたことはあるが、地理は全く把握していない。東区ナウンティスなんて掠ってすらいない」

「(ルシルの口からデートって! 今、ハッキリとデートって言った! ヒャッフ~♪)別にハッキリとしたコースなんて要らないよ。その都度に決めようよ❤ じゃ、早速ぅぅ~~・・・レッツゴー♪」

ルシルの右手を取って歩き出す。さてと、まずはどこへ行こうか。やっぱりアヴァロンに行こうか。って、そう言えばなのは達みんな揃ってのザンクト=オルフェン観光まだやってない。まぁ、本番前の練習としておこうっと。

「まずはバスでアヴァロンに行こう。あそこは見るものたくさんあるし、ベルカ文化が色濃いから色々と楽しめると思うよ」

「判った。判ったから手を離してくれ」

「やだ♪ デートなんだから手を繋いでいようよ♪」

なんなら聖王教会本部にも案内しちゃおう。そういうわけでバスの停留所へ向かう。その道中、ウィンドウショッピングを楽しむことにした。デートが出来る時間は午前9時から午後5時まで。今日中にミッドから海鳴市に帰ることが出来る時間帯。その間なら何をやっても良い。

「――ねぇねぇ、ルシル! 見て見て! このぬいぐるみ、アルフとザフィーラに似てる♪」

ファンシーショップのディスプレイには可愛い服が飾ってあって、その下には動物のぬいぐるみが並べられてた。その内の2つが子犬フォームのアルフとザフィーラにそっくり。あの2人、同じ狼の使い魔(ザフィーラは守護獣って言い張るけど)なんだし、しかも互いに鍛え合うライバル。なかなか良い雰囲気なんだよね。さすがに男女云々にはならないだろうけど。

「どれどれ? ぷはっ。確かに似ているな。青と橙の子犬。もしかしてあの2人をモデルにしたんじゃないかってレベルで似ているな」

「だね~。向かい合って鼻ちょんしてる~」

「鼻ちょんは猫の挨拶だよな・・・?」

「それじゃあキスしてるんだよ♪」

動物がキスしてるのを見てるとほのぼのする。ルシルも猫好きだから同意してくれると思ってチラッと見てみると、何か微妙な表情をしてた。どうしたの?って訊いてみると「想像した」と一言。あちゃあ。わたしは純粋に動物のキスだけの想像だったけど、ルシルは先にアルフ達の名前を聴いて、そっちの2人の姿で想像したわけだ。

「えっと。忘れるために、私とする?」

そう言いながら自分の唇に人差し指を当てて見せると、「意味が解らん」即却下を食らった。残念。とりあえず店を後にして次のお店へ。次は普通の洋服店。ディスプレイされた服をルシルと眺める。そうだ。良い事を思い付いちゃった。

「ルシル、ちょっと見てこうよ」

「え? あ、あぁ、買うのか?」

「ううん。見るだけ~♪」

店内に入って、他のお客さんをぬって真っ直ぐレディースの子供服売り場へ。鼻歌交じりに子供服を眺めてく。そして目に留まった物を手に取って「ちょっと待ってて♪」試着室へ。ルシルは「出来れば早く」って、周囲をキョロキョロ。大丈夫。男の子の服を着てても後ろ髪が短くても、女の子っぽい顔だから他の女性客は気にも留めてない。そもそも男の子って言っても10歳の子供。そんな子がレディース服売り場に来ても警戒されないっしょ。

(こういうのもデートっぽいよね~)

セレス達がドはまりしてる少女漫画(わたしは少年漫画の方が好きかな)を借りて予習してきた。今のわたしに敵は無いのだ。着てる服を試着室のハンガーにかけて下着姿になる。そして持ってきた白のニットにシフォンフレアスカートを着て、頭にベレーを被る。準備が出来ればカーテンを開けて「どう?」ルシルに訊ねる。

「へぇ。禄に見ずに持って行ったからどんなふざけた格好になるかと思いきや、なかなかに似合っているじゃないか」

「マジ!? それじゃ一式買ってこうかな!」

ああもう、嬉しすぎてにやけ顔が止まらない。締めたカーテンの向こう側のルシルから「荷物になるからあとでいいんじゃないか?」って言われたけど、もし帰りにこの一式が購入されてたらアウトだから、「ううん、買ってく~」買えるうちに買っておくことにした。

(そんじゃ次のやつに着替えようっと~♪)

元の服に着替えてから試着室を出て、さっき着てたのを「ごめん、持ってて」ルシルに手渡して、次の服を探す。上はニット系で決めて、今度はチュールスカートで攻めようか。お目当ての服を探し出して試着室へ。そこで着替えて「コレはどうかな?」ルシルに見せる。

「むぅ・・・。素直に認めたくないが――」

「認めてよ」

素直になろうよ、今日くらいはさ。プクッと頬を膨らませて見せると、「あはは。だな。うん、似合ってる」ってルシルが微笑んでくれた。もう最高すぎる。それから何着か選んだり、ルシルに選ばせたり(ルシルのセンスはちと古い)。

「じゃあ、この四式でいいんだな」

「え、あ、うん」

「支払いを済ませてくるよ」

「え、でも・・・。いいの?」

「基本的に俺が買うよ。君の誕生日プレゼントだ。まぁ、高過ぎる物は買えないけど、服くらいは買うよ」

「ありがとう❤」

服四式をルシルに買ってもらった。そのお礼としてわたしは・・・

「ほらほら、ルシル。試着室へどうぞ~♪ わたしがルシルの服を見繕ってあげる♪」

「いや、嫌な予感しかしないからいい。どうせ、レディース服を持ってくるんだろ」

ギクッ。

「ほら見ろ。はーい、出るぞ~」

「あ~ん。イジわるぅ~」

そそくさと店を出るルシルの後を追いかける。ひょっとして今ので一気にレッドカードで、今日のデートはこれにて終了・・・なんてことはないよね? 店の外に出ると「ほら、次に行くぞ」ルシルは待っていてくれた。しかも怒ってるわけでもなく、ただ、しょうがない奴だ、って風に呆れてる感じ。

「(ホッ。良かった~)ん。じゃあ、変に時間潰すより目的地にササッと向かおうか」

下手にルシルをイラつかせてデートそのものが潰れないために少しは自重しよう。というわけで、改めて中央区アヴァロンへ向かうバスの停留所へ向かう。ザンクト=オルフェンを走る公共交通車両は、ミッドの効率重視の一般的デザインを採用してなくて、クラシカルなデザインばかり。今から停まろうとしてるバスも2階建てのクラシカルバス。

「アヴァロンに付いたらわたしがエスコートするよ」

「ああ、任せるよ」

料金を払った後(これはわたしがルシルの分も払った)、屋根の無い2階に上がる。すでに何人かのお客さんが居て、わたしを見るなり小さくお辞儀してくれたから、わたしもお辞儀返ししながらルシルと一緒に階段近くの席に座る。

「やっぱり有名なんだな、フライハイト家は」

「聖王教信者の人なら、って付くけどね。ザンクト=オルフェンに住むベルカ人全員が聖王教の信奉者なわけじゃないし。まぁでも、挨拶くらいはするし、されるよ」

「有名人は大変だな。地球で言う芸能人クラスだろ」

「あー、母様が父様と婚約・結婚・妊娠した時やわたしが生まれた時もアヴァロンでちょっとしたお祭りがあったって聞いたし」

「実質的にザンクト=オルフェンの統治者だからなぁ、フライハイト家は。当然と言えば当然か」

いつかわたしとルシルとでそんなお祭りが開かれればいいなぁ。でもここではそう言わない。今日の最後で、ね。流れてくザンクト=オルフェンの景色をルシルと一緒に眺める。冬の風がわたしの髪を靡かせる。けど心がポカポカだからちっとも寒くない。そうして20分くらいかけて中央区アヴァロンへ到着。ここまで来ると完璧にベルカ文化の、ルシルが好きな街並みになってくる。

「――よーし! エスコートしちゃうよ!」

またルシルの手を引いて石畳の街路を往く。アヴァロンは聖王教信者が多く住んでいるから、「おかえり、イリスちゃん!」とか、「お? もしかしてデートかい?」とか、「こりゃめでたい♪」とか、「坊主、イリスちゃんを泣かしたら容赦しねぇぞ」って、わたしとルシルに温かな声を掛けてくれる。

「いや、俺は――」

「一応、わたしの旦那様候補なの❤」

将来の夫って表現は控える。ホントはすごく言いたいけどね、しかも大声で。周囲の人から感性が起きる。幸せに!っていうお祝いの言葉がたくさん。祝福してもらえるほどにわたしはみんなに愛されてるって、改めて自覚できる。だから叶えたい。ルシルと夫婦になるって夢。

(はやてには悪いけど、わたしは諦めない)

勝たせてもらうからね、はやて。

「あっ。ねぇ、ルシル。ちょっとお腹空いてこない?」

「ん? あぁ、そう言えば・・・」

「じゃあさ。カリーヴルスト食べようよ! ベルカ文化定番のファストフードだよ」

「カリーヴルスト・・・、カレーソーセージか」

ちょうど近くにファストフードのスタンドを発見。小さい頃、うちの双子メイドのルーツィアとルーツィエと一緒に食べに来たことが何度もある。懐かしい。ヴルスト――ソーセージを焼く香りがもう堪らない。ルシルも「いいな。食べて行こう」って賛成してくれた。早速お店へゴー。店主のおじさんはわたしを見て「おお! 久しぶりだね、イリスちゃん!」笑顔を浮かべてくれた。

「おじさん! カリーヴルスト2つ!」

「あいよ! そっちの・・・お嬢さん?」

「坊主ですね、生物学上では」

「ほら、やっぱり間違えられた~♪」

「ほっとけ」

膨れるルシルを指差して笑う。店主のおじさんは「悪いな、坊主! ヴルストとポテトをサービスしておくよ!」トレイに乗せられるカリーヴルストとフライドポテト。普通のソーセージとポテト量の1.5倍増。割り勘(どっちが払うか揉めたから)でお金を払って、トレイを持ってテラス席(しか無いけど)へ。

「「いただきます!」」

カリーヴルストは名前の通りカレーソーセージで、ソーセージにカレーパウダーとケチャップを掛けただけって言う単純なモノなんだけど、これがまた美味しい。フォークでソーセージを突き刺してパクッ。

「ん~~~~♪ 美味し~い~♪ おじさーん、美味しい!」

「うん。美味い! とても美味しいです!」

「そいつは良かった!」

ガッハッハ、って大笑いするおじさん。今度はなのは達も連れて来よう。きっとなのは達も喜んでくれるはず。みんなでわいわいしてる様を想像するだけで楽しい。鼻歌交じりでポテトを食べてると・・・

「ほら、シャル。あーん、だ」

「っ!!!???」

わたしは自分の目と耳と、そして頭を疑った。信じれない。あのルシルが、あの堅物のルシルが、あーん、だなんて。幻視? 幻聴? 幻想? けど目の前のルシルは確かにソーセージ1つをわたしに向けて差し出してるし。

「え、あ、う、あの、え、ええ?」

「あーん、だよ。食べないなら良いけど・・・」

「ぅあ! た、食べる!」

下げられそうになるルシルの持つフォーク。慌ててパクッとソーセージを食べる。どうしよう、味が判らなくなっちゃうほどに幸せすぎるよ。デートっぽい、恋人っぽい、もう最高!

「じゃ、じゃあ、今度はわたしがしたげる!」

フォークでソーセージを突いて「ル、ルシル、あーん!」フォークを差し出す。ルシルはなんの抵抗も無く「あーん」ソーセージを食べてくれた。ヤバい、今思えば関節キスだ。何度も直接キスしてるのに、すごくドキドキする。

「もう1つどう――」

「た、食べる!」

若干食い気味に答える。ルシルは、今度はポテトを突き刺したフォークをわたしに差し出した。あーん、と口を開けて顔を近付けさせて、口を閉じようとした時、ひょいっとフォークが下げられた。よく知るイジワルのあれだ。

「あはははは!」

「も、もう! ルシルのイジわる!」

「いやいや、すまん、すまん。こういう場合は1度はやっておかないといけないと思ってさ」

そう言って笑うルシルは、自分の分のカリーヴルストの残りを食べ続け始めた。ルシルから進んでしてもらえるなんて思いもしなかった。と、ここでハッとする。ルシルらしくないって言うか、どうもわたしに都合が良すぎるんだよね。もしかして・・・

「偽者・・・?」

「???」

考えられる。誰かがルシルの格好に変身してる可能性がある。いやでも。さっきの洋服店じゃ進んで服のコーデを褒めてくれたし。今日は本当にわたしを第一に考えてくれるのかもしれない。

「(そうだよね、やっぱり。ていうか、ルシルに変身して演技できる子なんて、まず居ないし)うん、きっとそうだ」

「なんの話をしているんだ?」

小首を傾げるルシルに「なんでもな~い♪」そう返して、わたしも残りのソーセージとポテトを食べた。

 
 

 
後書き
スラマト・パギ。スラマト・テンガハリ。スラマト・ペダン。
今話は久しぶりの日常回をお送りしました。シャルへの誕生日プレゼントと言う名目のルシルとシャルのお子様デート。シャルは今、幸せです!が、サブタイトルの通り、問題も発生するわけで。頑張れ、シャル。そしてルシル。Nice boatな某クソ野郎にならないように気を付けろ!
 
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