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ランス ~another story~

作者:じーくw
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第1章 光をもとめて
  第2話 鬼畜戦士と童顔戦士



~リーザス城下町~


 ランスとシィルそしてユーリの3人。はリーザス
 助けだした彼女の方は、まだ回復したとは程遠い状態な為まずは宿屋へと目指していた。無事に身体も回復したら、親御さんの所に、と考えているのだ。それに、今は夜も深いから。

「いや、本当に助かったよ。シィルちゃんがいてくれたお陰で。オレじゃこうはいかないからな」

 シィルが、彼女の隣につき、時折ヒーリングをかけてくれるのだ。ヒーリングは基本的に傷を癒す神魔法なのだが、その暖かい治療の光は精神を落ち着かせてくれるのだ。そして男達に嬲られた場所の治療も兼ねている。

「いえ。そんな……」

 シィルは照れている様に頬を赤らめた。
 ランスと共に行動してから、他人に褒められると言った機会が激減しているから思いの他恥かしかったようだ。

「おいコラ! オレ様の奴隷に色目を使うとは良い度胸だな!? 童顔の癖に!」

 ランスはその事にも腹が立つようだ。
 流石に今の気を失っている彼女を抱くのは流石に気が引けるし、報酬を分けてくれるとは言っても、『格好よく助けられなかった』と言う事と、『先を越された』と言う事が重なっているんだろう。

「誰が童顔だ!!」

 ユーリがムキになってそう言うけれど、この手の相手には何言っても無駄だ、と直ぐに悟る。だから。

「はぁ……別にそう言ったつもりは毛頭無い。 事実、オレにはヒーリングは使えないし、ヒーラーと組む事も滅多にないから素直にそう思っただけ、だ。オレは思った事は口に出易いらしくてな。遠まわしだが、アンタに魅かれてるんだな。と思ったんだよ。シィルちゃんは優秀な魔法使いだし 慕っている様だしな」
「む? がははは それは当然だ! オレ様の器は正に世界一! そして、オレ様だからこそ、その奴隷が有能なのは当然! 何せ、オレ様が主人だからな!」

 ユーリは、ここまでの付き添いで大体のランスの扱い方を理解したようだ。基本的に女性関係での横槍・所有物(失礼だろう!!)への手出しは逆鱗に触れるようだ。
 そして、褒めると直ぐに天狗になり、機嫌も あっという間に良くなる。そして、機嫌が良くなったらさっきまでの、イライラ感も何処吹く風だ。

 だが、この時 シィルはランスのある変化も感じていた。
 褒める等の行為で機嫌がよくなるのは、基本的には女性(美人)の時だけだ。男に言われてもそっけなく返すだけなのだけれど。

「…お? 宿屋に着いた様だな」

 そして、町のやや南西に位置する場所で宿屋を見つけた。魔法も良いが、暖かいベッドで安静休息を取る事も何より良いだろう。それは3人とも了承しており、彼女をこの場所へと連れてきていたのだ。

 宿屋の中に入り、空の受付カウンターにある呼び鈴を鳴らす。すると、まるでプチハニーが爆発(と言っても、実際には爆発せず音だけで、音も勿論実物ほどではない。)したかのような音が響き……、そして奥から女性が出てきた。営業スマイルばっちりで受付をしてくれる。

「お泊まり、ですか?」

 着物を羽織っている和風美人と言える女性だ。勿論 顔見知りでもあるユーリは事情を説明し、休める部屋を頼んだ。

 部屋は問題なく手配できたのだが。一先ずユーリも 元々宿泊しているこの旅館。自分の部屋へと向かっていった。……ランス1人だが、大丈夫だろうと判断して。
 
 女将は早足で戻ってくると、ランスの元へ。

「ふむふむ。ああいう美人は着物を半脱ぎにさせて、恥ずかしがる所を…… という訳で、キミも中々美人だな? オレ様は、最強の冒険者、ランス様だ。どうだ? 今夜この旅館で一発ヤらんか? オレ様の素晴らしさを教えてやろうではないか!」
「ら、ランス様……」

 ずいっ!っと、訳が判らない妄想の後、詰め寄るように直球どストレート。突然の事だと言うのに、やんわりと回避するのはここ、旅館 氷砂糖の女将だJAPAN風の建物にJAPAN風の成立ち、この辺りでは珍しい。それが 此処の人気ともなっている。

「ランス様、ですね。こちらの女将をしております、堀川奈美と申します」
「奈美さんか、良い名だな。オレ様のことも堅苦しく呼ばなくていいぞ」
「はい。では ランスさん、で。これに記入をお願いしますね、ランスさん。そちらは、奥様、でしょうか」
「あ……、え、えへへ……」

 シィルは、奈美に奥様と呼ばれて嬉しいのか、頬を緩めていた。それを訊いたランスは、シィルにゲンコツを落とす。

 奈美は、着物の袂から宿帳を取り出した。そして、一晩の金額を伝える。一泊 示して10GOLDだ。

「よし、シィル。さっさと払え」
「ひんひん……、判りました。ランス様」

 シィルがせっせと宿代を払った。そんな様子をちょっと驚きながら見ていた奈美だが、シィルの表情を見て、察した様だ。軽く笑いながらため息を吐き。

「では、こちらに記入をお願いします。ランスさん、でよろしいですので、お願いします」
「サインか、よしよし。さらさらーっと」

 そのサインを見た奈美は、一礼をすると。

「どうぞ、ごゆっくり……。何かご用がございましたら、お気軽にお呼び下さいね」

 そして、奈美は丁寧な仕草で、気品溢れる優雅さをまるでみせている、と思える様に部屋を後にした。




 一方、その頃のユーリはと言うと。

「ん。……まぁ 大体の事件の全容は把握した。 パリス学園はそれなりの規模の学園だ。信頼も厚い。……なのに、ここ最近では 頻発しているな、行方不明者が。……黙殺しているとしか思えない。そして……」

 大きな学園であり、お嬢様学園として知られている学園、大切な娘を気兼ねなく預けられると言う場所だからこそ、信頼も厚い。そして、金に糸目をつけない人も多い。だからこそ、今回の依頼は法外な額を支払ってくれるのだ。
 そんな相手が、ギルドに依頼をよこすと言う事は。

「学園関係が、当てにならない。学園よりももっと上が関与している可能性が大、だ。……下手をしたら……」

 そこから先はあまり考えたく無い事でもある。面倒な仕事になるからだ。途中下車をするつもりは毛頭ないが。
 と、そんな時だった。
 突然、“どたーんっ!”と言う音が響き渡ったのは。

「んん? 何だ?」

 こちらの部屋にも響くそれなりの衝撃音。恐らく隣の部屋から、だろう。ユーリは考え事をしていたから、なにも訊いてなかったけれど、ちょっと 耳を澄ませてみると。

『ごめんなさい。私、柔術を嗜んでおりまして、つい反射的に……』

 声がはっきりと訊こえた。その人は、奈美だ。

「……JAPAN出身と言っていたから、な。……そう言えば、アイツも言ってたっけ? 『美人さんだからって、襲っちゃうと、投げ飛ばされちゃうぞー!』って。 何を馬鹿な事を、とは思ってたが、これは強ち 冗談って訳じゃなかったか」

 襲うつもり等は毛頭無いけれど、その実力の高さは伺える。なぜなら、相手はあの男、ランスだからだ。
 ……あの男の性格を大体把握していたユーリだったけれど、『ここまで的中するのは、ある意味ではほんと、面白いな』 と呟いていた。
 ランスだ、と言う理由は、奈美の後に声が訊えてきたからだ。

『ぐ、ぐむ……、なかなか、やるな…… だがっ! 諦めないぞ。……いたた』
『ら、ランス様、大丈夫ですか? いたいのいたいのとんでけー!』
『あとで、湿布をお持ちしますね』

 と。
 こんな身体を休める場所で、怪我するなんて、如何にもらしい。

「ほんと、シィルちゃんは、大変そうだ。……大変そうだけど、時折楽しそうにしているけど」

 ユーリは、軽く笑いながらそう言っていた。
 そして、その後、ユーリも奈美を呼ぶ。

「丁度良かったですよ。ユーリさん」
「ん?」

 三つ指ついて現れる奈美は、一礼をしつつ ユーリに話しかけた。

「お預かり物を、承っております。つい今し方、受け取りました」
「あ、そうだったな」

 奈美から、小包を貰った。その小包にはマークが付いており、何処からのモノなのかは直ぐに判る。

「……前に買いに行った時 『あとでサービスをする』、って言ってたけど、マジだったのか」
「ふふふ、でも 熱心な店員さんでしょう?」
「色々とお節介もしてくるがな。それに、いつ行っても あの店の光景は慣れない」
「ふふ……。あ、申し訳ありません。ご用がありましたか? ユーリさん」

 奈美は再び三つ指をつきつつ 頭を下げた。

「いや、一応侘びを、と」
「はぁ、侘び、でございますか」
「アイツの、隣のアイツの事だ。……同じギルド所属だし、それに性質は一応察していたんだけど、言うの遅れたから。一応今はオレの連れだ。悪いことをした」

 ユーリはそう言うと、軽く頭を下げた。旅先で、ひょんな事から出会っただけの間柄なのに、こう言う事をしている自分が何処か不思議だ。
 ……ユーリは、色々と思うとこがあるんだけど、アイツ、ランスには、何か人をひきつける様な何かを感じる。
『……後に本当に大物になっていそうな気がする』と。

「ふふ。熱烈、でしたね。ですが 謝って頂く程のコトじゃありませんよ。ユーリさん」
「そりゃ良かった。それに、柔術を嗜んでいるとは 恐れ入ったよ。……流石 JAPAN出身と言った所か」
「お褒めの言葉、有り難く受け取りますね。 ユーリさんも、ランスさんの様に情熱的であれば……、ふふ」
「……からかわないでくれ」
「ごめんなさい。ただ、あの子の事を見ていたら……」
「ん?」
「いえ、何でもありません」

 奈美は、何処か意味深な微笑みをしながら、そう言っていた。そして、ユーリは一枚の紙を渡した。

「これは……?」
「ああ、すまないが隣の男に渡してくれないか? オレが直接行くと、色々とモンクを言われそうなんだ」
「ふふふ、そうですか。承りました」
「ありがとう」

 そして、奈美は笑顔のまま、了承してくれて、そして出て行った。
 ユーリは その後 手渡された小包を確認。

「うどんに、焼きぞば。……バライティ豊かだ事」

 ユーリは、顔を引きつらせながら笑っていた。それなりに中身を確認すると、帰り木や世色癌。と必需品もあったので、とりあえず 手持ちには それらにして うどんやら焼きそばやらの 食べ物系は こちらの旅館においてもらう事にした。

 その後、あの紙に書いた場所で、ランスを待つ事にするのだった。




~ピストロ酒場・ふらんだーす~




「おっ! そうだ。金が余っていると言うのならば、貰ってやっても良いぞ?」
「……一体どう言う会話の流れでそう言う話しになる? 確かにこの場は構わんとは言ったが、やるつもりはない」

 ランスは上機嫌でそう言っていた。
 ここに来た時、『オレ様を呼び出すと言う事は、それなりの~~』っという感じで話しが進んだ。

 ユーリは、ため息を吐きながらやんわりと断った。

 笑ってしまうのは、本当に清々しいまでの唯我独尊だからだろうか、これも情報通りだ。
 そして、次々と料理や酒が運ばれてきた。

「奢って貰うのは良いが、報酬分け前とは別! 判ってるな?」
「……念押ししなくて良いって。大丈夫だ。これくらい何でもない」

 ジョッキを片手にランスは更に念を押した。 
 その言葉にやれやれとため息を吐くユーリ。本当にため息を付く事が多い。このやり取りを見ていたら、確かに彼が相応の歳だと言う事は見て取れるが、如何せんアンバランスである。

 ……何がか?とは言わないが。

「むぅ……、酒自体はまぁまぁだが、料理がいただけん。マズイ。何だ?これは!!これがへんでろぱなどオレ様は認めん!」
「酒場ってのは大体こんなもんだろう? それに、酒が入れば皆味なんて気にしないって。あ、シィルちゃんも、遠慮は要らないよ。沢山食べて良いから」
「あ、ど、どうもすみません。いただきます」

 ランスは、料理を批評しユーリは妥当だという。
 シィルはやはり、まだギャップに呆気にとられている様だ。酒場事情に詳しく、出てきた酒も普通に呑んでいて、赤くなってはいない。厳密には若干紅潮しているが、酔っている様にも見えない。

(……でも、何だか不思議です)

 シィルは、ランスとユーリの2人を見てみる。
 
 まだ続くのは、悪態をついているランスと軽く回避するユーリ。似てない性格なのに……、何処かが似ている気がするんだ。

 そして、何処か≪同じ≫様な気もする。

「むぅ……ああ、マズイ。シィルに作らせるか?」
「へぇ……。 シィルちゃんが作るへんでろぱは美味いのか? それは興味があるな」
「何ィ? あれは全部俺のものだ! やらんぞ?」
「……言うと思った。ただ 興味がある、と言っただけだ。奪う真似はしないって」

 やれやれとしているユーリと、美味い具合に幌酔っているランス。 

(やっぱり、お2人は仲が……。ああっ!! 御酒……薄めてもらうのっ!)

 シィルは考え事をしていたせい+この酒場に来るのが初めてだった事のせいで、忘れていたのだ。

 ランスは、酒には非情に弱い。

 そもそも、好きと言うわけではなく、雰囲気と格好付けで飲んでいる癖もあり、味なんて解らない。なのに、あのピッチでこれ程の度数の酒なんか呑んだら……。

「だ~~~っはっはっはっは!!」

 突然、笑い声が一段階増した。ケタケタと笑い出し、脚をバタつかせる。

「……?」

 さっきまで悪態ついていたランスの突然の大爆笑に不自然に思ったユーリ。その顔も尋常じゃない程赤い。まるでペンキか何かを赤く顔を塗った様だ。

「大丈夫か?」

 だから、ランスにそう言うけれど、ランスは何も聞いていない様子だ。 

「オレ様は英雄だァァ! どんどん酒、もってこ~~いっ!! だ~~はっはっは!!」
「……。大体判ったが、随分早くないか? 潰れるの」

 ユーリは、この二回目の感じで解った。
 なんて事は無い。普段酒場にいればよく見かける光景の1つだ。思いっきり酔っ払っている。

 2秒前までは正気だったのに、それにジョッキもまだ一杯目。突然の豹変には驚くものがあるが……。

「ああっ……ランス様! お、お水を!」
「シィル~~、ヤルぞ! 今ヤルぞ!! 直ぐヤルぞ!!」
「きゃっ!!」

 シィルは慌ててランスを介抱しようとするが、悪酔いに拍車がかかっているランスを止められる筈も無く、そのままシィルにもたれかかり、更には服を脱がせ始めた。

「ら、ランス様っ! こ、こんな所では…! あ、あうっ……//」

 顔を赤らめながらシィルは必死に左右に首を振った。
 ランスのことは好意を持っているのはよく解るが、流石にここまで人前では抵抗がかなりあるのだろう。でも、諦めている感じも出ているから、決して初めてではなさそうだ……、この程度の羞恥は。

「ふぅ……。しょうがないな……」

 ユーリはため息を1つ。
 ほろ酔いで、気分もよくなってきたが……、嫌がる女性を放っておくのも、酒が不味くなると言ったものだ。

「“スリープ”」
「だ~~~はっはっ………は……zzz」

 ユーリが手を翳したその瞬間、ランスは眠りコケ、シィルにもたれかかる状態で眠ってしまった。

「あ、あれ?? きゃっ! お、重いですっ! ら、ランスさ……あれ?」
「やれやれだ。この裏側が、旅館の氷砂糖だが……、仕方が無い」

 ランスを肩に担いだユーリ。
 シィルにそのまま体重をかけていた為、鎧の重さ分も含めて殆どがシィルにかかっていたようで、直ぐにユーリはランスを担いだのだ。

「シィルちゃん、そろそろ行こうか。ランスはオレが運ぶよ」
「あ、は、はいっ」

 シィルは思った。

――……何度目だろうか?自分が驚くのは。

 とだ。確かに、はっきり見たわけじゃないけれど、目の前で起こった現象。
 あのランスを一瞬で眠らせたのは、高難易度魔法のひとつである≪スリープ≫。この魔法の習得自体は、簡単なモノだが、だが満足に効果を得られる。即ち攻撃として使える魔道士は技能Lv2はいるであろう程のものだ。
 ランス自身も魔法の類は何度か受けており、酔っているとは言え常人より遥かに耐性はある筈なのに、一瞬で。

「マスター。勘定はココに」
「ああ、まいどぉ」
「また、いらしてくださいね」

 払うと同時に、ここのマスターの自慢の看板娘の彼女がいい笑顔を見せてくれる。

 ユーリは宣言通りに奢ってくれた。
 この事に関してもシィルは再び頭を下げて感謝をしていた。





 そして、ランスを旅館にまで運んだユーリ。
 部屋に付属されている布団にランスを寝かせ、そしてシィルの方に向いた。

「ああ、そうだ」

 思い出すようにしながら話しをはじめた。
 そもそも、ただただ飲み会をする為に、奢った訳じゃない。本題を忘れそうだったんだ。

 正直、外で話そう、この旅館だったら、目の前のシィルと色々シそうだったから、外の酒場に、と思っていたのだが、実際何の為に酒場に行ったのか……わからん。

「この件の情報だけど、シィルちゃんに伝えておくよ」
「え! ……でも」
「まぁ、主人を差し置いて、っとは思うかもしれないけど、正直。ランスより君の方が覚えてくれてると思うし、紙にでも書いて渡しておくから、中身の重要な部分とかを教えておくから、それでフォローしてあげてくれないかな?」
「あ……はい。ありがとうございます」

 そして、今回の件の事についてを話しだした。

 色々な目撃情報を確認すると、あのヒカリが攫われた夜に、何かを見た、と言う情報があった。
 自分の信頼する情報屋に問い合せていたのだ。因みに、熱心な対応をしてくれている《彼女》は、色々と別仕事が入っている様でいなかったが、情報の質は問題ない。

「『装束に身を包んだ何者かを見た』 と言う情報が有力だそうだ」
「装束、ですか……」
「ああ。目撃は一瞬の事だったそうだ。あっという間に消えたと。……そんな事芸当が出来るのは、レンジャー……、忍者だな」

 ユーリは推測を話した。ここ、リーザスに忍者の類がいるのは珍しい事だ。それは忍者の起源はJAPAN大陸にあり、門外不出が原則。破れば抜け忍とされ、本家から命を狙われるのだ。勿論見つかり次第極刑。

 故に、いたとしてもおおっぴらには活動などしない。
 それに≪抜けた≫のなら、足を洗うのが殆どだと聞いているからだ。


話しは少しそれ始めた為元に戻す。

「つまりは、ヒカリの誘拐。営利目的じゃない、と言う事を差し置いても、その忍者が絡んでいる以上は、何かデカイ≪闇≫が絡んでいる可能性が濃厚のようだ。忍者が単独でそんな大胆な事をするのは考えにくい。……背後にいるだろう、雇っている者か、或いは主、と言う者が。 だから、これからは協力した方が良いって思うんだが……、ああ、これはシィルちゃんの一存では何とも言えないか」
「はい……。私もユーリさんの案はとても良いって思いますし、私は賛成もします。……ですが……」

 シィルは俯き、そして寝ているランスの方に視線を向けた。

 全ての決定権はランスにあるからだ。

 絶対服従の魔法も自分には契約の際にかけているし。……そんなもの無くても、彼女は好意を持っているランスの意志に背くような真似は極力したくないから。

「おいおい! 貴様ら!! 何を勝手に話を進めているのだ!!」

 そんな時だ。 
 背後から大声が聞こえてきた。慌てて、振り返るシィル。
 まさか、こんなに早くに目が覚めるとは思ってもいなかったからだ。

「復活、早いな……。ふぅ、慣れない事する時は段階をおく方が良い……ようだな」

 ユーリはランスを見ながらそう呟いた。眠っている時間、やはり 魔法使い(ソーサラー)と比べるべくもないから。

「ええぃ! こうしてやる!!」

 ランスはグリグリ~~っと両拳をシィルの頭に挟み込む。

「ひんひん……ん?」

 シィルはいつもより力が弱い事に気がつく。
 そして、若干目を瞑っていたのを開け、ランスの表情を見た。
 まだ、その顔は赤く……、何処か辛そうにしている。

 そこから導かれるのは、≪二日酔い≫だろう。

 飲んでからそんなに経っていないのに……。

「……ぬぅく。まさか、この空前絶後の英雄であるオレ様が、二日酔いなどで……」
「ああ、ランスが飲んでいたのはあの店でも最高級の一品。高額だが、それ以上に濃度もかなり高めらしくてな。それをあそこまで飲んだんだ。並大抵じゃないって皆言ってたぞ?どんな酒豪も酔い潰れ、一度寝れば1日は覚まさないらしい。……だから、生産を止め、アレが最後の一本だったらしいぞ」

 ユーリは少し考えてそう答えた。

「むぅ? ……ならば、仕方ないか。寧ろ直ぐに目を覚ましたオレ様が凄すぎるようだな!身体の強さが違うと言う事なのだ! がははは!」

 ランスは辛そうでも、必死に虚勢をはきながらそう答え、胸を張った。

 ……勿論、これはユーリのプラフ、ハッタリ、ネゴシエーション、と言う事だ。
 ランスの性格を捉えて、気分良く二日酔いになってもらった方が話が早いと思ったのだ。こう言っておけば、ランスは虚勢を張り続けるし、それが常人を遥かに超えた事だと伝えれば、やる気もでるだろうから。

「ああ、流石に寝ているランスをたたき起こして情報を教えるのもしのびなくてな。そこでシィルちゃんが、少しでもランスの為にと、メモを取ってくれてたんだ。……何ともまぁ良く出来た、優秀なパートナーだな、羨ましい限りだ」

 ユーリはシィルの方を一瞬向いて、軽くウィンクをする。話しを合わせるようにとの意味もあり、ランスのご機嫌もとる意味もある。
彼女も褒められたら嬉しいだろうとも思うからだ。

「む、む? ま、まぁオレ様の奴隷だから当然だ。……む? パートナーではないぞ! 奴隷だ、奴隷!」

 ランスは、誤魔化しながら、乱暴にシィルの頭をぐりぐりと撫でた。先ほどとは違い、それは内心褒めてくれている事にシィルは伝わったようで、良い笑顔でだった。

 そして、ユーリのほうを向いて、バレ無いように、頭を短く下げていた。

「そこでだ。助けたグァンは無事、家に帰れたから、一先ずその件は終了だ。これからは、ヒカリの誘拐の件に集中する。情報をリーザスで探るつもりだ。だが、この一件。絡んでいるモノが大きそうだから、協力した方が良いと思うんだが……どうだ?」
「何? オレ様は男などは組まんぞ。」
「オレは何事も一番良い選択肢を選ぶんだ。……まぁ、時と場合、状況によって多少は変化するが。ランスの腕も相当なものだと、一目見ただけで解る。あの≪酒≫を飲んで即効で復活してるのも驚嘆だしな」
「当然も当然。なんといっても、オレ様は空前絶後、この世の奇跡。超英雄だからな!」

 いくら二日酔いで普段の調子じゃなくても、やはり聞いた事のある情報は間違いないようで、そう簡単には首は縦に振りそうに無いが、もう少しだと判断した。

 そして、ユーリはもうひとつの情報も切り出した。

「それに、これはランスにも利害があるんだ。報酬を確実に手に入れるのなら急ぐ必要がある。っと、その前にこれ、飲んどけ。へパリゼーだ」
「えっ? それはどういう……。」
「よし! 貰えるのなら、貰ってやる!  って、それより! 勿体振らずに理由を話せ!俺様に打算的な考えは通用しないぞ!!」

 ランスはそう息巻いているが、嘘をつけ、と言いたいのを我慢して続けた。

「キースのギルド所属なら、知っている筈だ。ラークとノアの2人を。」
「げ。あいつらか? ……まさか、参戦するつもりじゃないだろうな?」
「そのまさか、だ。基本的に、と言うか誰が見ても、この件は法外な報酬だからか、興味を持ったようだ。……まぁこの金額なら誰でも興味を持つだろう。兎も角、今やってる仕事が終わり次第こちらに来るのは時間の問題。オレが現にそうだからな」

 正しくは少し違うが、似た様なモノだからランスにそう伝えた。
 その話を聞いたランスは嫌な顔をする。

 それは無理も無い事なのだ。あのギルドであの2人の名は結構有名だから。
 ランスは認めていないが、美男美女コンビで人気は勿論、エースと称され周りの評価は鰻上りなのだ。周りの評判が良いと言う事は当然風当たりが良くなるから、ギルドマスターであるキースも信頼している。

 ……あの2人が参戦してくるようであれば、更に暗雲が立ち込めてしまうのは良く解るのだ。ただでさえ、金額の100%が手に入らない状態なのに。

「ぐぐぐぐ……、オレ様のプライドか……、確実な金か……」

 必死に天秤に懸けるランス。
 更に止めの一言がユーリから発せられる。

「オレとしては、2人を待っても良いとは思っているのだが、効率は良くは無い。アイツ等が今している仕事を考えたら、戻るのにも時間がかかるだろう。それに、オレの場合は、キースを通してから、ではなく、依頼主直々の話しだったからな。……早く解決したいと言う思いもある。そして、報酬は山分け。確かに金は減るとは思うが、元々が高額だから大した事は無いと思うし、何より時間も削減できる。 ……悪くないと思うんだが、どうだ?」

 ランスは、返事を返さず腕を組み考える。
 普段の彼であれば、即座に断っているだろう。それは確信できる。だけど、今は金は必要な時期なのだ。遊んで暮らす為にも、借金をさっさと返す為にも。

 やがて、頭の中の天秤の勝敗は決した。

「むぅ……しょうがない! が、報酬が山分けならば、それはシィルも勿論入るのだろうな? それが、条件だ」
「? それは元々そう思っていたぞ? 彼女も共に仕事をするんであれば、だがな」

 そして、条件は元々無いようなものだったため、あっさりとユーリは了承。これで晴れて一時的、暫定的ではあるが、協力関係となった。

「これから暫くよろしく頼む」
「はい。よろしくお願いします」
「ふん。男と仲良くするつもりなどサラサラないわ」

 シィルは素直に返事するが、ランスはやはりそうだった。
 だが、これでもかなりの変化のようでシィルもやっぱり驚いている。今のランスの金銭面での問題点はシィルも勿論知っているから解るのだが、それをふまえて上でも、と言う事だ。だが、これには勿論、それだけじゃない理由がある。


 ≪理由≫と言うにはあまりにも拙いもので、本人も気づいてはいない。


 ランスは、自身も気づかない内で、ユーリに何かあると感じていたようだ。だが、それはどう表現したら良いのかがわからないのだ。

 それはユーリも勿論同じ。

 だからこそ、ここまでの侮辱(顔)も忘れて、更に報酬を3割強まで削られても彼を仲間に欲した。
 そうしなければ、ならない。そう強く感じたからだ。


 それが何故なのか。
 何故、この2人なのかを知るのはこれよりさらに先にの事になる……だろう。








 そして一週間後。


~リーザス城下町 パリス学園~


 それはリーザスの中心部、リーザス城城門から中央公園を挟んで正面にある赤い屋根の大きな建物。
 この学園は世界中に分校を持つ学園であり、尚金持ち向けの名門校。
 そして男子禁制でるから格調高いお嬢様学校でもある。 別名:リーザス城

「シィルさん。早く、次の場所、結構離れてるから急がないと遅れちゃいますよ?」
「あ、はい。どうもありがとうございます」

 そこには、シィルがいた。

 経緯を説明すると、あの協力関係が成立したとき、ランスが立てた計画のひとつがシィルの潜入捜査である。シィルはその言葉に喜びも見せていた。
 奴隷商に掴まり碌に行けなかったから、学校には行きたかった思いがあるからだ。
 喜びを露にしていたシィルにランスが突っ込みを入れる。
 でも、それでも嬉しいものは嬉しいようだ。

 そして、シィルは持ち前の優秀さを武器に学園入学審査をあっさりと突破。
 楽々潜入成功をしていたのだ。学園と言われるくらいだから、年齢も勿論15~18でなければならないが、シィルは十分適正年齢であり、持ち前の人柄もある為、あっという間に場に馴染んでいた。これは才能といって良いと判断したいほどだ。

 因みに、通常であれば、ここに入学する為に必要な経費は50,000GOLDはかかるらしい。特待生であれば、1000GOLDで済む。
 ランス達の手持ちが500弱だったから、半分はユーリが払っていた。全額払え、と勿論ランスに言われていたが、そんなに持ち合わせてない、と言う事で渋々応じていた。



 そして、ある程度聞き込みも出来たかな?と思った矢先。


『すーふぃー すーふぃー』


 シィルにしか聞こえない特殊な音。因みにわんわんを調教するために使うものと似ている様だ。

「ッ!? す、すみません。ちょっと気分が悪いので保健室にいってきます」
「あ、わかりました。大丈夫? 一緒について行きましょうか?」
「大丈夫です。気分が良くなったら、直ぐに教室へ戻ってきますので、申し訳ありませんが先生にはそう伝えて置いてください」

 シィルは即興だが、淀みなくそう説明。それは直接頭に語りかけてくるものだから、回りには聞こえない。シィルはランスと合流する為急ぎ足で抜け出した。

 そして、言われたとおりの場所にランスはいた。
 裏口にある昇降口の傍の茂みだ。

「お待たせしました! ランス様」
「遅いぞ、馬鹿者。それで、何か解ったか?」

 呼び出されてものの数分でシィルは合流した。
 この笛にはタイムラグは殆ど無いから、時間も数分なんだけれど……、ランスは苦言を出す。まぁ、それもいつも通りだと、シィルは謝罪を口にする。
 そしてその後に情報を伝える。

「ヒカリさんですが、学園長のミンミン先生から特別生徒に任命された優秀な方だったようで、えっと 特別生徒と言うのは学費が免除になったり、卒業後の就職先を優遇してもらえたり……」
「そんなどうでも良い情報はいらん。大事なのは行方、だ。他には何かないのか?」
「……それが、行方に関してはさっぱりで」
「ええぃ! 使えんヤツだ! そんな奴隷にはこうしてやる!!」
「ひんひん……。痛いです ランス様……」

 いつも通りにランスはシィルにお仕置きをする。
 傍から見たら理不尽極まりないお仕置きだ。「痛い」と口には出しているが、ほぼ文句のひとつも言っていないシィルを見ると物凄く健気な娘だと誰もが思うだろう。
 シィルは頭の痛みを我慢しつつ、もう1つ報告をする。

「あぅ……、そうでした。私もミンミン先生から特別生徒に……「下らん情報はいらんと、言っているだろうが!」はう~~!!」

 更に挟み込む両拳に力をいれ、グリグリとお仕置きするランスだったが、ある程度したら解放は勿論した。
 今回は若干いつもよりは長く感じたシィルだったが、とりあえず解放された事に安堵し頭を摩った。ランスは、鼻息を荒くしていたが……冷静になってシィルの姿を見てみるといつもと違う服装になっているのに気がついていた。
 所謂学生服。純白の制服を着ている。

「ふむ……ほうほう……」

 顎に手をあて、品定めをするようにシィルを眺めた。その視線に気づいたシィルは。

「あ、ランス様。この学生服。似合っていると思いませんか?この服気に入っちゃいまして…」
「ふん。馬鹿者。似合ってなぞない。赤点、欠点、落第点、だ」
「しくしく……、すみません」

 因みにランスは、新鮮で良い と内心では思っていた。付け上がるから、と言う理由で口にはしない。いつもの奴隷服の方が露出度は高い、が。

「まぁ、いつも通り寛大なオレ様だから、単位はくれてやろう! その為の授業……、そこの茂みで一発ヤるぞ! シィル!」
「……えっ!私、これから授業で…。」
「馬鹿者!これはオレ様直々の保健体育。即ち性の授業だ。大切な授業だろう?下らんのよりよっぽど為になるぞ! がはははは!!」

 シィルの事を食い入るように見ていたランス。
 普段から同じようにしているのだけれど……、シィル相手には素直になれないのだろうか? シィルはと言うと、やっぱり ランスの言う事は絶対なので、見つかるかもしれない場所で、ビクビクしつつも、言う通りに 身体を差し出していた。


 更に数十分後……、艶々とさせながら出てきたランス。
 まぁ、勿論一発で終わる筈もなく、回数にして四発もしたようで、勿論後始末は大変だ。

「あぅぅ……、ランス様酷いです……」
「がははは! グッドだ!引き続き、しっかりと調査をしておけよ!」

 4発も抜いたから、所謂賢者タイム、すっきりしたようで、ランスは学園を後にした。

 それを勿論律儀に見送ったシィルは、ランスが見えなくなったところで、素早く行動に移す。直ぐ傍にある水道水を使い、身体に付いた白濁液をさっと洗い流しながら服も同じく洗い流す。
 長く時間をかけていられないので、《炎の矢》を更に小さくさせた《プチ炎の矢》を使用し、器用に服を乾かす。

 この手際のよさを見れば解る……。こういった状況は日常茶飯事なのだと言う事が。だが、学園での事は勿論初めてだから、いつもよりシィルは焦っていた。

 全てを整え、教室に戻った時には、動悸がして息切れもあり……結局保健室へ戻されてしまったのだった。



















~リーザス城下町 中央部~



 リーザス城下町の中央部でユーリは街中を散策していた。
 学園での情報はシィルが探ってくれて入るが、忍者の情報を得た情報屋で再び新たな情報を得ようとしていた。

「……仮に学園内部と繋がってるとなると、ふむ。背後にいるのはこの国の上層部の可能性もあるな……」

 学園での不祥事。それをもみ消し、否、協力しているとすれば……?
 先生は勿論、学園の長も加担している可能性も十分に考えられる。この国の学園は一教育機関と言うだけではなく、金持ちの令嬢が入学する程のモノだからかなり大きい存在なのだ。

 それを自由に操れるとなると。

「仮想の敵は大きく。だな……。想定外をなるべく無い様にする為に」

 パンドラの箱を開け、そこからどんなモノが出てきても動じない精神を持っている事。
 それは成否に大きく影響するのはこれまでに何度も合ったからだ。

 そしてユーリは懐中時計を取り出し、時刻を確認する。

「ランスとの合流時間もまだまだ先だな……、もう少し探るか」

 そう言うと、ユーリは人ごみの中へと溶け込んでいった。 現在はもう既に夕刻だが人通りはそれなりに多い。それも流石世界一豊かと称されるリーザスならではだろう。


 そして、この後決定的な情報を耳にすることになったのだ。

 
 

 
後書き
〜人物紹介〜


□ ラーク

Lv18/35
技能 剣戦闘Lv1 冒険Lv1

キースギルド所属の冒険者。ノアと言う女性の相棒がいて、彼女と共に幾つもの事件を解決した文句なしの一流の冒険者である。(ランスには毛嫌いされている。尚理由は彼女のノアがいる為。)その名は、自由都市の中で広まっている。


□ ノア・セーリング

Lv15/33
技能 神魔法Lv1 教育Lv1

キースギルド所属の冒険者。ラークと言う男性の相棒がいて、彼と共に幾つもの事件を解決した文句なしの一流冒険者である。
2人ともユーリとは親交があり、彼を含めた3名で大きな依頼をこなした事もある。
代表的なものは魔獣カースAを退治した実績がある。



〜技能紹介〜


□ スリープ

対象に眠りをもたらす状態異常魔法。実は雑魚敵全般が使う事が出来るが、使う事と使いこなす事はまた別の話。
それなりに修練を積んでいなければ満足な効果は得られず、且つ成功率も大幅に下がってしまう為、何気に高難易度の魔法である。


□ 炎の矢

指先から熱い炎の矢を飛ばし炎の塊を敵にぶつける魔法。
魔法使いであれば大なり小なり大抵は扱える初歩の初歩だが、鍛えれば威力も向上し且つ技の出も早い為、優秀な魔法となる。
プチ炎の矢の様に威力を調節したりする事も出来る。


ランスによると、近い未来……、誰かさんが誰かさんに向けて よく発射する光景が日常茶飯事になる占いが出たとか何とか。(自分の事だとは思っておらず、もう忘れている模様。)
 
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