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ランス ~another story~

作者:じーくw
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プロローグ



この世界はひとつの巨大で強大な1つの生命力・魂だけだった。

その姿は、巨大な白い鯨に酷似し、片側3枚ずつの鰭はそれぞれが12枚の翼からなる72もの数の翼。全長は2kmを軽く超える。その世界においては圧倒的な生命力。
広大な世界で存在するその魂は自我を、自らの意思を持っていた。


その存在……名を≪創造神 ルドサラウム≫と言う。


孤独を、退屈を、平穏を 嫌いその自分の娯楽の為に、まず初めに大陸を創造した。それだけでは寂しく退屈なので、自らの生命力の一部を千切って生物を作り出した。

その分身とも言える存在は、後にこう称される。
 ≪超三神≫と。

 創造神に仕える存在。その名の通り、三体の分身とも言える存在。名を≪プランナー≫≪ハーモニット≫≪ローベン・バーン≫。

 創造神 ルドサラウムの娯楽の為に三柱の分身体は管理役の神・天使。観察対象のメインプレイヤー・敵役のモンスターなどを用意していった。

 
 それらの全ては分身であり、そして 自分の主人でもあるだろうかの存在の娯楽の為。


 故に……、その世界の全て、全てはルドサラウムの気分1つなのだ。
 生み出したメインプレイヤー・モンスター達のことは二の次とも思っていない。勿論彼らには自我が有り、感情も……ある。痛みだって感じる。何も感じない機械なんかじゃない。そう言う風に作られた存在だった。
 いつの時代にも、血が流され、苦しみ、嘆くプレイヤー達。

 その長い長い歴史の中で、唯一世界統一に成功し、世界に平穏を齎したメインプレイヤーがいた。

 そのメインプレイヤーの名が《ドラゴン》。

 強靭な身体と生命を持つ存在。そして、頭脳明晰でもある。
 その優秀すぎる、とも言える存在が、超三神達が生み出した、常に混沌を生み出すシステムを見抜いたのだ。

 故に、世界統一を果たし、平和へと導く事が出来た。

 だが、それは上から見ている者達の存在を知った訳ではない。ただ、システムの欠陥に気づき、対策を練っただけに過ぎない。……それを決して赦さないのが、創造神(ルドラサウム)だった。

 ドラゴン達は、……彼らは平穏に成功したが故に悲惨な最期を迎える事となる。

 彼らが見抜いたシステム。……世界を未来永劫混沌へと誘う存在の魔王のシステム。

 それは、魔王を倒せばその倒した者が次の魔王となるもの。そして、次世代の魔王となれば魔王と成る前にあった筈の理性は殆どが失われる。魔の王の血を持つものは精神が邪悪となり、どの様な残虐な事でも好んでするようになるからだ。だから、争いは絶える事の無い様に三超神が調整していたのだが……。そのシステムの弱点を見抜き、魔王を打ち滅ぼすのではなく、倒さずに封印する事を思いついたのだ。


 それが、メインプレイヤーとして生まれたドラゴンだった。


 魔王 vs ドラゴン

 それは後に最終戦争(ラスト・ウォー)と呼ばれる戦争。

 長い年月の末に、現魔王は倒され、地下深くに封印された。そして名の通り……その後にドラゴン達の戦争は一切起きなかった。ドラゴン達は、戦いの果てに世界統一を成し遂げたのだ。



 そして、その代償に起きたのが、創造神(ルドラサウム)による≪虐殺≫、全て消去(デリート)する事だった。


 ルドサラウムは悲劇と混乱の観賞をこの上ない愉悦とする歪んだ精神の持ち主。苦しみ、憎しみ、哀しみ等の負の感情を心地よく思い、それを生む死や破壊を好む。故にドラゴン達の世界統一。戦争の起こらない世界が何よりも嫌った。

『なら、どうするか……? 決まってるよ』

――神の結論。それが、虐殺。全ての消去(デリート)である。

 空を埋め尽くす無限とも言える数の≪エンジェルナイト≫。神・天使達がドラゴン達を残らず虐殺していった。それはもう戦いとは呼ばない程のものだった。ただの一方的な虐殺。

『面白いからこそ、ココにいても良いの。だけど、そうじゃないのなら……皆惨たらしく殺して欲しいの。生きていてもつまらない連中でも死ぬときは面白いと思うんだ』

 空を覆うエンジェルナイトにそう言うルドサラウム。それはまるで善悪の区別がつかない子共のソレだ。無邪気な子共が何の躊躇いも無く玩具を壊す様に。虫をバラバラにする様に。 ……初代メインプレイヤーであるドラゴン達はゆっくりと、惨たらしく、殺していった。

 それは、メインプレイヤー達から、神へと昇格を果たした者達にも及んだ。……その天の裁きと言う名の虐殺が過ぎ去った後、ドラゴン達は殆ど全滅したのだった。

 そして、その後に生まれてくる新たな種……新たな玩具。今度の玩具は平和などは逆立ちしたって作れないだろう。その存在はドラゴンや魔人達に比べてあまりにも非力。

――たった100年足らずで死ぬ存在。

 そう……新たなメインプレイヤーは≪人間≫と呼ばれる存在。






 生み出される存在によっては理不尽極まりない。
 残虐非道・悪逆無道・残忍酷薄……正に鬼畜の如き所業。無邪気に行っているから更に性質が悪い神々。そして、この世界を創った全知全能と言っても差し支えない存在のルドサラウムが知りえない存在も生まれているのだ。

 そう、初の≪イレギュラー≫である。

 この三超神を作る過程で意図せず生まれた存在がいた。

 それが後に悪魔王を名乗る≪ラサウム≫。
 
 まだ4つの魂しか存在しえぬ この世界で最初に生まれた≪イレギュラー≫だった。創造神の元から生まれた筈の歪みだが、ラサウムは 分身体であり ある意味では親と言っても差し支えないルドサラウムの世界を転覆せんと心に秘めていた。

 だが、力では圧倒的に劣っている為、まだ手が出せない。故に、新たな世界をラサウム自身で創造した。その世界こそが後の≪悪魔界≫。神さえも関与する事が出来ない独立した世界となっていった。

――……これは、僅かな期間で発生した初めのイレギュラーである。

 どんなシステムを用いても、どれ程まで趣向を凝らそうとも。どれだけ、管理を強化使用とも。必ずどんなシステムでも存在するのがバグ。即ちイレギュラーだ。



 始まりは小さな綻び。……そして、それは徐々にそれは大きくなってゆく。



 それは、長い期間に無残に滅ぼされたドラゴン達の魂の叫びからなのか……?
 知りえてはいないとは言え、常に苦しめられ、未来永劫弄ばれ続けるメインプレイヤー達の魂の叫びなのか……?

 それは誰にも判らない事だった。

 ただ、そんな中でも判る事はある。

 何度でも言うが、どれだけ完璧なシステムを作っても……、どれだけ監視し、管理。コントロールしたとしても……。必ず綻び、バグと言うものは起こると言う事。

 想定外。と言う自体は起こり得ると言う事。

 それは…… 神達にすら想像さえも付かない出来事。







GI0998


~大陸北西部 聖森~


 周囲に広がるのは広大な森林。……だが、ただの森林ではない。邪気が、何処かに漂っている気がする薄気味悪い森。
 だが、それだけではない。……純粋、とも言えるモノも孕んでいる。いや、正と悪の境界線が判らない。そんな気配も、感じる。 そして、間違いなくその境界線上の悪の方に位置する存在。

 云わば純悪とも言える存在がいる世界。

「……どうやら、これまでのようだ」

 周囲を見た男は、立ち尽くし……そう呟いた。

 その姿は最早満身創痍と言って差し支えない姿だった。

 身に付けている簡易な鎧には所々にひび割れ。割れた部分からは血が流れ出ている。人間の血は全体の1/3程抜ければもう死に至ると言われているが……、これは明らかに致死量を超えている量。その上まだ、滴り落ち、流れ出ているのだから。

「そんなっ……! ま、まだよ、ここまで、ここまで頑張ってきたじゃないっ しっかりして、あなたっ! 早くここからッ!!」

 その言葉を聞いても、認めたくない。結末が判っている上でも、認めたくない。そう縋りつくように叫ぶ女性。
 ただ出来るのは、手を握り締め 諦めるのは早いと何度も言い聞かせる事だけだった。
 
 だけど……、男は首を振った、手遅れだと言う事、それは誰よりも判っている事だったから。……傷は致命傷。もう、長くは生きられない。自分の身体の事は自分がよく判る。

「リサーナ……」

 縋りつくその女性にそっと手を伸ばし頬に触れる。言葉には出来ないほど、この女性から貰っているんだ。何度言っても言い足りない。でも、1つだけ、1つだけ選べるとしたら。残せる言葉を、かける言葉を選ぶとしたら。

――……この言葉しかない。

『こんなオレを、愛してくれて、ありがとう』

 そう言うと、背を向けた。もう、あまり時間が無いのだ。自分の時間も……彼女の時間も、そして この状況も。

「……ここはオレがしんがりに立つ。……逃げるんだ」

 男は刃こぼれを起こしている刃を鞘から引き抜いた。

「ッ!!い、いや……嫌よ……!1人は、いやっ……一緒じゃなきゃっ……」

 何度も何度も首を左右に振る。行きたくない。1人じゃ嫌だと。だが、男は笑いを浮かべた。

「1人じゃないさ。オレは見守っている。……例え魂は≪アイツ≫の元へ還って逝ったとしても。オレはおまえを。お前≪たち≫を見守っている。……必ず」
「ッ……」

 リサーナは自身の腹部に手を当てた。そう、自分は身篭っているのだ。この戦いの世界で……愛する男性との愛の結晶。子を授かっているんだ。

――自分ひとりの命じゃない。

「頼む……生き延びてくれ」

 男は最後に一筋の涙を流す。……指先でぬぐい取ると、何かを素早く呟いた。

 指先には、光が宿り、そして彼女の身体を包み込む。

「……行け」

 最後には頭の中まで、魂にまで響くかのような声で、彼女の身体を押した。これが、本当に最後なのだ。彼女は……そう思った。この温もりを感じる事が出来るのも、最後だと。

「ッ……ッ……!!」

 涙を流しながらリサーナは……駆け出した。ここに残ると言う事は、彼の思いを踏みにじる事になる。それが判っても、どうしても後から後から、流れ出てくるのは涙だ。
 幾ら拭っても拭っても流れ出てくる。

 走る最中にも、思い出すのはあの日々。

 辛い事もあったけれど、幸せだったあの日々。

(……を、頼んだ)

 男は決して振り返らない。

 もう……、そこまで≪光≫はきているのだから。

『漸く捕らえたぞ……。陰なる者よ』

 光を放ちながら聞こえてくる声が低く場に響く。

『同胞達が殺られた痛み……その全てを貴様に返してやろう!』
『そうだ……。貴様1人か? もう1人いた筈だ。……逃がしたのだろうが。最早無駄だ。誰一人ここからは逃げられない』

 次々と集まってくる光たち。もはや光、などとは形容したくない。……暗黒だ。闇と光が逆転したかの様な存在。
 眩しい、闇だ。

 その闇は森一面に広がっているかのようだ。……無限とも思える。

「生憎……だったな」

 刃こぼれした剣を肩に担ぎ、ニヤリと笑ってみせる。それは決して虚勢じゃなかった。虚勢の類ではない、と言うのはその眼に宿っていた。

「あいつらは決して殺れねェ……≪アイツ≫の資質は長い歴史上……随一だ。お前ら如きじゃ殺せねぇよ。運命がそれを許さねぇんだよ」

『死に底無いが何を言う。』
『精々足掻け!お前の後に直ぐに追わせてやるさ!』

 その次の瞬間には、一斉に光が男の身体を包み込んだ。




――……いつだった?これはどこから始まった? 代々受け継がれているこの戦いの記憶の奥底が、深遠がまるで見えない。だが、この世界の真実だけは鮮明に見える。なのに、戦いの記憶だけは曖昧な部分もあって……まるで記憶の層が虫食い状態になっているようだ。



――……否、記憶は見える者と見えない者がいるのだろう。


 だが、オレは見えた。脈々と受け継がれてきたこの魂を。何度転生しても、≪アイツ≫の元へ戻っても、この場に降り立っている。……そして、もう≪次≫は無い。そう確信できる。何故だかはわからない。だが、≪アイツ≫はこれまでとは違うんだ。

 ()も、間違いない。と断言してくれた。



「……受け継がれてきた刃が貴様に、貴様らに牙を向く時だ」


 
 光を物ともしない裂帛の気合が、光を蹴散らした。

 瞬きをする事すら許されない薄く、そして細い時間の切れ目で。確かに聞こえた気がした。



――……人とは強い、モノだな。 悠久の時を経て、……お前の様な人間に会えるとは思わなかった。また、また 会いたいモノだ。お前とは。

 

 それを訊いた、と認識した瞬間、口元が緩んだ気がした。……自分は、笑っているのだと、認識した。 


『オレよりも、アイツの方が優れている。……また会える』
 



 そして、その戦いは。

 それは最後の足掻きに思われたのだが。()達は、数時間の死闘の末に男を討ち取る事に成功した。だが、それは決して 無傷ではなかったのだ。

 一体多数なのに。圧倒的に有利。数の暴力だと言うのにも関わらず、残ったのは悪あがきと思っていた筈なのに、光たちは多大被害を受けた。

 そして耳から離れない≪あの言葉≫だけだった。



――受け継がれてきた刃が牙を向く。








――そして月日は流れ、19年後――




 これは、新たに生み出された人間と言う種族を中心に紡がれる物語。

 今は破壊と混沌の時代。今の時代は英雄を求めていた。

 時代が求める資質を備えた人物が2人。

 だが……、その英雄たる資質を持ち備えていた1人は。

 とっても自分勝手で

 とってもスケベで

 それはとても正義とは思えない男。

 そして、もう1人。

 悠久の時を経て、世界に降りたった者。

 かの者が命賭して守り抜いた忘れ形見。

 受け継がれてきた刃を持つ男。



 これはそんな2人の英雄の物語である。



 
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