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ソードアート・オンライン ~紫紺の剣士~

作者:紫水茉莉
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アインクラッド編
  5.パーティー

第18層主街区《コルデー》。様々な色の岩石を使用しているこの街は、あっという間にこの層が攻略されたせいもあってあまり人気がない。そんな街の転移門前で、俺はあの5人を待っていた。今の時間は9時50分。待ち合わせ時間は10時。そろそろ来てもおかしくはない。
――――だが。
10時を過ぎ、5分、10分経っても、奴らは来ない。俺をからかいたかったのか、それとも単なる遅刻か。どっちにしろ、許されることではないが。
帰ろう。
そう思い、今まで座っていた石造りのベンチから立ち上がった瞬間だった。転移門から、次々と人が吐き出された。その数、5名。
「ゴッメーン!遅刻しちゃった!あぁ、帰んないで!」
先回りをされた。バタバタと大急ぎで此方へ一番に駆けてきたのは、やはりミーシャだった。他の四人も後に続く。
「ホントごめん‼タクミが中々起きなくってさ、ベッドから落としてやっと起きいひゃっ!」
「ミーシャ、余計」
タクミが左手を突きだし、羞恥と怒りがない交ぜになった声音で言う。ゴメンゴメン、とさして反省していなさそうな様子でミーシャが返した。
「朝から騒がしくて申し訳ないッス。装備の説明、した方がいいッスか?」
「・・・あぁ、頼む」
「了解ッス‼」
どうやら、ナツは気の利く人間のようだ。口調は少しおかしいが。ギルド云々の話をするときはまずこいつからにしようと心に決め、俺は5人の装備に目を移した。
まずはギルド《夜桜唱団》のリーダー、ミーシャ。武器はシンプルな片手用直剣に円盾(バックラー)。防具はブレストプレートに革のグローブだ。
ナツ。武器は片手槍にタワーシールド、防具はフルプレート。きっと壁役(タンク)なのだろう。
タクミ。武器は細剣(レイピア)。防具はフルプレートとはいかないまでも、金属装備をつけている。
シルスト。武器は短剣。防具は全てレザー系。
最後に、アン。
「主武装が、円月輪(チャクラム)なのか?」
「え、うんそう・・・驚いた?」
「いや、驚いてはいない」
円月輪(チャクラム)を扱うには投剣スキルと体術スキルの2つが必要である。レベル上げの効率が悪そうだと思っただけだった。アンはちょっと困ったような顔をしている。他に持っているのは投擲用ピックと短剣、防具は金属装備が少なめだった。
俺の武器は両手剣、防具はかなり軽めのブレストプレートとガントレットを着けているぐらいだ。
「ふむふむ。じゃあ、君は壁役(タンク)攻撃役(アタッカー)、どっちがいい?」
「どちらでも構わない」
ミーシャの問いに、俺は機械的に答えた。元々俺はソロだ。どちらもやっていかないと生きていけない。
そんな俺の無機質な回答にミーシャは気分を害した様子もなく、ニッコリと笑った。
「そっか!じゃあ君には壁役(タンク)を頼んでもいいかな?」
「了解した」
「よし、じゃあ行こうか!今日も頑張ろう!」
ミーシャの掛け声に合わせて、タクミ以外の3人がオーッ!と片手を上げた。俺はなにも言わなかった。


・・・そういえば、まだどこへ行くのか聞いていない。


***


「2連続パンチくるよ!ナツ、お願い!」
ミーシャの呼び掛けに、ナツは盾を一瞬持ち上げて答えた。直後、相手のモンスター≪sapphire・golem≫―――サファイア・ゴーレムの強烈なパンチが炸裂する。迷宮区の中だけあって、この前フィールドで戦っていたものと威力は桁違いだ。ナツは1発目はしっかり耐えてみせたが、2発目で思いきり押し込まれそうになる。その瞬間に、俺は両手剣ソードスキル≪カタラクト≫を繰り出した。ナツがしっかり耐えたこともあり、ゴーレムは大きく後ろにノックバック。俺は叫ぶ。
「スイッチ!」
「シーちゃん、タクミ!」
ミーシャに言われるまでもなく、シルストとタクミは動いていた。短剣ソードスキル≪ラピッド・バイト≫と、細剣ソードスキル≪スウィープ≫がゴーレムの岩石を抉る。さらに、ナツの後方から円月輪(チャクラム)が飛来。恐るべき精度でクリティカルポイントの目を切り裂いた。
「ぐるるぅっ!」
ゴーレムが若干悲鳴じみた声を上げ、身体を丸めて防御姿勢を取った。こうなれば攻撃してもさして意味はない。
「よし!次の防御姿勢とられる前に倒すよ!」
ミーシャが威勢良く叫んだ。それぞれが思い思いの形で返し、俺も剣を握り直す。既にゴーレムのHPはレッドゾーンだ。
ゴーレムがグッと腰を落とす。突進の構えだ。ぼんやりと光る両眼が動き、俺を見てピタリと止まる。
「アルト!」
いつの間にか名前を呼ばれているのは今は置いておいて、俺は気を引き閉めて石造りの壁際に移動。今の俺の筋力値では、奴の突進を完全に止めることはできない。
「ぐるっ!」
ゴーレムが凄まじいスピードで走り出す。
「・・・・・・ふっ!」
軽く息を吐き、俺は全力で右斜め前方に跳んだ。ギリギリでゴーレムは俺の横を通り抜け、壁に激突した。
「今!」
すぐに動かないミーシャ逹に声を掛けると、全員ハッと我に帰って、ソードスキルを思う存分ゴーレムに撃ち込んだ。HPはゼロになり、ゴーレムは青い欠片となって爆散した。
ばしんっ!と背中に軽い衝撃が走る。ミーシャだ。
「すごいねアルト!今絶対当たったと思ったよ!私ならナツの影に隠れるか全力で逃げるかしてたよ!」
ナツやアンが頷く。シルストが僅かに首をかしげつつ、俺に問いかける。
「あれ、なんかコツでもあるん?今のあたしじゃ絶対無理だわ」
「あれくらい練習すれば誰でもできる。タイミングの問題だ。あと、迷宮区に来るなら予め言っておいて欲しい。それに」
振り返り、俺はミーシャを見た。
「すぐに人を叩くな。いつから名前を呼び捨てで呼ぶのを許した?」
「まぁまぁ別にいいじゃない、細かい事は!睨まない睨まない!」
「・・・叩くなっていうのは同意」
「た、タクミに言われたくないもんね!」
そのまま激しくなりそうだった口論をアンがやんわり納め、俺達は再び迷宮を進み始めた。その間、俺の意識は、少しだけ別の事にとらわれていた。



―――――――――睨んでいたのか、俺は。


 
 

 
後書き
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