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ソードアート・オンライン ~紫紺の剣士~

作者:紫水茉莉
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アインクラッド編
  4.夜桜唱団

・・・何故、こんな事になっているんだ。
ぼんやりとそんなことを頭の隅で考え、ため息をつく。
俺が今いるのは、21層のとあるNPCレストラン。目の前に広がるのは、いつもとは違う異質な光景。
つまりは、
「ちょっとミーシャ!それうちの!」
「あ、そっか。ごめーんシーちゃん!」
「肉ばっかり食べたら駄目だよアンさん」
「う~んゴメン。でも美味しくて・・・」
「・・・此処は栄養なんか関係ないからいいんじゃないの、ナツ」
「そッスか?」
・・・一体何なんだこの状況は。本当なら、いつも通り1人静かに飯にする予定だったのに。深い溜め息を吐き、俺は目の前にあった酒―――この世界ではアルコールは1滴たりとも体に入らないが―――を煽った。
そんな俺が見えていたのか、パーティーリーダーらしい少女がパッと立ち上がった。
「ちょっと遅くなったけど、今から自己紹介するね!私はミーシャ、このパーティーのリーダーだよ!んで、こっちが」
「シルスト!よろしく!」
淡いオレンジ色の髪をポニーテールにしたシルストが、少女改めミーシャの言葉を引き継ぐ。次に立ち上がったのは、短い金髪をツンツン逆立てた男、というよりは少年。
「ナツッス。よろしく!」
妙な言葉使いだったが、今は置いておく。
「タクミ、宜しく」
隣からぼそっと声が聞こえた。右側を見ると、眼鏡をかけた少年―――タクミが、じーっと俺を見ていた。
最後に、黒髪を肩まで伸ばした少女が、わざわざ俺の側に寄ってきて言った。
「アンです。よろしくね。あなたの名前は?」
「・・・アルト」
・・・何が《宜しく》なんだ?と思う。
「では改めて!アルト君!私たちのギルドに入らない?」
「断る」
「ええっ!?」
断られる事を予想していなかったのだろうか。がくっ、とミーシャがよろめいた。シルストが、やれやれと言いたげに首を振る。
「まぁ当たり前じゃね。いきなりギルドに入らないって言われてもね」
シルストの言葉に、アンやナツもウンウン頷いた。まあ、当たり前だ。
「な、なんで?」
「いきなりギルドに誘われて入る奴がどこにいる。」
「むむ・・・」
口をへの字に曲げてミーシャが唸った。まだ俺をギルドに引き込むつもりなのか。そもそも、ギルドの説明すら聞いていない。
「・・・ミーシャ、先にギルドの説明」
「あ、そっか!忘れてた!」
タクミ以外の3人がずっこけた。どういう神経をしてるんだ、このミーシャという女は。他のメンバーはさぞかし苦労するだろう。
そんな3人の行動を全く意に介さず、ミーシャはストレージを開き、何かアイテムをオブジェクト化した。
「私達は夜桜唱団!今のメンバーはこの5人・・・だけだけどね」
入ってくれるよね?と言いたげな流し目を俺に向けてくる。素知らぬ顔でスルーしていると、ミーシャはややむすっとした表情をしつつ、オブジェクト化したアイテム―――フーデッドローブをぱんっと音を立てて広げた。背中のちょうど真ん中に、金色の糸で1輪の桜と、それを取り囲むように舞う花びらが刺繍してあった。
「これが夜桜唱団のマークね。そして、私達の目的はズバリ!この世界を、楽しむことです!」
「・・・は?」
思わず、声が出てしまった。
「本気で・・・本気で言ってるのか?」
「え?そうだよ?攻略組の皆もそうでしょ?」
首をかしげるミーシャを見て、俺は絶句した。
今攻略組にいるプレイヤーは、どちらかと言えば置いていかれたくない、誰よりも上に立っていたいという思いで攻略に参加している奴等が大半のはずだ。かくいう俺も、決してこのゲームを楽しんでいるわけではない。そもそも楽しめない。このゲームはデスゲームなのだから。
なのに、こいつは、あっさりとそういった。シルストやナツも、全く否定しない。まじまじとミーシャの目を見つめるが、そこに他意、ましてや悪意は見られない。
つまり、本気なのだ。
ミーシャの話は続く。
「確かに、変なこと言ってるっていうのは自覚してるよ。でも、今私たちが生きてるのは、この世界なんだよ。たとえ全ての物がポリゴンだったとしても」
ミーシャの指が、彼女の左斜め上を指す。そこにあるのは、きっとHPバーだ。
「私たちの命が、可視化されたHPだとしても。なら・・・」
「何故だ」
「え?」
「何故、誘った」
俺の、限りなく文字を省略した問い掛けに、ミーシャは一瞬声を詰まらせた。しばらく悩んだようだったが、どこか決心したように答える。
「君が、この世界を生きているように見えなかったから」
ちょっと、ミーシャ!と咎めるようなシルストの声が聞こえた。だがそれをきれいさっぱり無視し、ミーシャはただ俺を真っ直ぐ見つめてくる。
「ね、私達のギルドに入らない?」
「・・・断る。俺にメリットがない」
「ナツが作るご飯とギルドホームが付いてくるよ?」
「ちょ、何言ってるんッスか先輩!」
「何が付いてきても、入らない」
―――それに、俺とあんたたちは、住む世界が違う。
そう、言いかけていた。
そんな俺の思考を遮るように、ミーシャが俺の目を覗き込むように見た。
「独りは、危ないよ」
「・・・・・・」
俺はミーシャから目を逸らした。それでも、ナツやタクミが俺を見ている。

もしかしたら。

もしかしたら、俺が信じられなくなってしまったものを、この人たちは、持っているのだろうか―――。

「分かった」
「えっ!?じゃあ・・・!」
「まだ入るとは言っていない。今度あんた達とフィールドに同行して、技量を見る。決めるのはそれからだ」
「う~ん・・・まあそれでも良いや!ありがとう!」
ニカッ、と効果音がつきそうなぐらいの勢いで、ミーシャは笑った。
先輩の押しの成果ッスね、とナツが言い、シルストとアンがウンウン頷いているのが見えた。


 
 

 
後書き
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