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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  Entry

ガンゲイル・オンラインの央都《SBCグロッケン》の、さらに中心に屹立する巨大な金属質のタワーがある。

前後に長い流線型のフォルムを持ち、ところどころからアンテナのような円板やレーダーのようなドームが突き出しているそれは、《総督府》――――通称《ブリッジ》と呼ばれ、ちょうど新規プレイヤーの初期出現地点に設定されている《メモリアル・ホール》の反対側に位置している。

(ブリッジ)という名の由来は、《SBCグロッケン》街名の由来にも繋がる。

そもそもSBCグロッケンの《SBC》というのは《宇宙戦闘巡洋艦(スペース・バトル・クルーザー)》の略で、《総督府》たる巨大なタワーがブリッジと呼ばれているのは、遥か過去にはそのタワー部が艦橋の役目を負っていたことにも一因するかもしれない。

イベントのエントリーなど、ゲームに関する手続きはすべてここでするらしい。

壁際に数十台も並べられている、縦長の機械。コンビニに置いてある、ATMやコンテンツベンダーを兼ねたマルチ端末によく似ている。

《バレット・オブ・バレッツ》のエントリーを済ませ、覗き見防止用のパネルから出てきたレンは、小さく息を吐きつつ軽く周囲を見渡した。

内部は、かなり広い円形のホールだ。

いかにも未来的なディティールの施された円柱が、十字の列を作って遥か高い天井まで続いている。周囲の壁には大画面のパネルモニタがぐるりと配置され、色々なイベントの告知から、実在企業のCMまでが薄暗いホール内に原色の光を投げかける。

ALOでは世界観を壊すということで、たちまちのうちに取っ払われる広告ではあるが、不思議とこの世界では近未来な雰囲気と相まって異様に馴染んでいる。しかし今だけは、その大部分が《第三回バレット・オブ・バレッツ》のプロモーション映像やら宣伝やらで占められてしまっている。

それだけ人気の大会――――いや、イベントという訳だ。確かに一般的なネットゲーマーから見れば、ゲーム内最強の地位はさぞ憧憬の的だろう。

頭を巡らしていた少年の隣のブースから、若干後ろめたさそうな表情でユウキが出てきた。

その心境の理由をいち早く察したレンは、極力抑えた声を紡ぐ。

「ユウキねーちゃん、まさか全部入力したとかじゃないよね」

「大丈夫、してるわけないよ。ただ、景品ってのにちょっと……」

後ろ髪を引かれるとはこのことだろう、という風な従姉の姿に重い溜息を吐き出す。

GGO№1プレイヤー決定戦《バレット・オブ・バレッツ》には、当然優勝者に与えられるのは栄誉や名声だけではない。キャラメイクアイテムや銃などの内部アイテムはもちろん、なんと現実世界で実際に貰える品があるのだという。

そのため、現実世界での住所や氏名などを入力する必要性が出てくるわけだ。しかし、自分達はこの世界に、いやこの大会に心底から遊びに来ているのではない。

《死銃》なる謎の殺人者が心意の力を振りかざしているのか、それとも未知なるテクノロジーを使用しているのかはまだ定かではないが、それでもゲーム内でリアル情報を晒すことは考えるまでもなく賢明な行為だとは考え難い。後背の憂いは針の先っぽ分くらいでも断ち切っておくべきだ。

「僕だって優勝賞品が気にならないって言うのは嘘になるけど、それでも死んじゃうよりはマシでしょ」

「そりゃまぁ、そうだけど」

ぶーたれる少女に対して思わず頭を抱えたくなってきたレンは、そこでちょうど選手登録が終わったらしきリラとミナに視線が合った。

「早いわね。そんなに急いで打ったら、打ち間違いがあるかもよ」

にひひ、と意地悪く笑う彼女には悪いのだが、早かったのはあまりにも入力することがなかっただけだ。打ち間違いどころか、打ち間違うような箇所を探すほうが難しいくらいだ。

「ところで、この後はどうするの?」

「控室で予選開始を待つの、付いて来て」

ミナの微笑につられ、向かったのは総督府一階ホールの正面奥へと向かった。その窓際にはエレベータが何台も並んでいて、一番右側の下降ボタンが小さな掌で押される。

すぐに扉がスライドし、少女達はするりと中に踏み込むと、今度は【B20F】のボタンに触れた。どうやらこのタワーは、上にも下にも長いらしい。リアルな落下勘と減速感が訪れ、やがてドアが開く。

その向こうの暗闇を見た途端――――レンとユウキは思わず目を見開くのをかろうじて堪えた。

一階ホールと同じくらい広い、半球形のドームあ。証明はギリギリまで絞られ、所々に設置された、鉄枠に覆われたアーク灯が申し訳程度の光を放っている。

床や柱、壁はすべて、黒光りする鋼板か赤茶けた金網。ドームの壁際には、武骨なデザインのテーブルがずらりと並んでいる。そして天頂部には、巨大な多面ホロパネル。しかし今現在画面は漆黒に染まり、ただ【BoB3 Preliminary】という文字と、残り二十八分弱となったカウントダウンだけが真紅のフォントで表示されている。

そして、それらのテーブルや、床から延びる鉄柱の傍にたむろする多くのシルエット――――プレイヤー。

彼らはゲームの中にもかかわらず、陽気に騒いでいるものはまったくいない。数人ずつ固まって低く囁きを交わすか、あるいは一人で押し黙っているかのどちらかだ。彼らが、間もなく開始されるBoBの予選参加者なのは明らかで、光沢のないヘルメットや分厚いフードの下からこちらへとまっすぐに放たれる、執拗なまでに情報を探ろうとする鋭い視線がそれを物語っている。

無数の射るような視線を受けながら、しかし少年と少女が気圧されたのは別の理由だった。

「レン……これって…………」

「あぁ。……どうやらアタリだ」

見つかった、と。

少年は、その少女のような華奢さが見受けられる顎に冷や汗を滴らせながら、そう言った。

視線、視線、視線。

しかし、それらの視線をすべてなきものにするような圧倒的な《異物》が、そこにはあった。

本来、レン達はなるべく派手な行動で件の《死銃》なるプレイヤーに接触するため、BoBに出場しようとしていた。一回目がGGO内最強のプレイヤー、二回目が最大のスコードロンの長。《死銃》が強いプレイヤーしか相手にしないのは明白だからだ。

しかし、レンとユウキは心のどこかでやはり油断をしていたのだ。自分達は仮にも、"あの"SAOを、最強たる六人の一角に収まった状態でクリアした者なのだ、と。

それは確かに正しいだろう。《六王》の地位は実質、それを表すようなものなのだから。

だが、二人は大きな思い間違いをしていた。

いつの時代も、強者が永遠に強者たりえたことなどない。同様に、どれほど栄華を極めたものでも、いつかは堕ちる。

盛者必衰。

広いドームの()()()()()から濃密な殺意が暴風のように打ち寄せてくるのを感じ、ユウキのノドが鳴った。

いる。

否、()()()()

確かシゲさんからもたらされた情報によれば、二人のプレイヤーをこのGGO内で銃撃したのは一人という話だった。

だが、これは何だ?と《絶剣》と呼ばれた少女は思った。

―――この視線の数は……なに!?










十四時五十一分。

遥か遠くで一組の男女が走り始めたちょうどその頃、総督府にゆらりと入ってくる一つの影があった。

伸長はそれほど高くはない。アメリカ原産のゲームゆえに、与えられるアバターも高身長高体重高筋肉が多いGGOではあるが、そのアバターは百七十に届くか届かないかという高さだった。しかし、全体的にひょろりと細い横幅のせいで、どことなく実質的な数値より高く見えてしまう。

装備もまた変わっていた。

アバター素体を外気に触れさせないとまで言える、頭の先から足首まで覆い尽くすボロボロのギリースーツ。しかし通常では密林(ジャングル)などで敵に見つからないように草や木の葉などに似せた細工をするところを、それとは真逆の砂漠戦闘時に使用するサンドイエロー一色に塗り替え、表面は砂にでも見せかけたいのかザラザラとした触感の布が使用されていた。

また、ただでさえ目深に下ろされたフードによって見にくい顔は、全面型のガスマスクによって覆われていた。

だが、いかなるカスタマイズによってか、それは一面のっぺりとした仮面のようになっており、普通なら視野を確保するために設けられているゴーグルはなく、かわりに引っ掻いたような小さな二つの切れ目がその役割を果たしているようだった。ガスマスクの要である吸収缶(キャニスター)はどこにあるかと言えば、マスクの右側面に追いやられていた。その大きさもそこまで大きいものではない。

さらに目を引くのが、そのマスクに施されたペイントである。目を出す切れ目を中心に派手な赤と青の原色で毒々しく彩られ、鼻があろう中心にはピンポン玉くらいの真っ赤なボールが一つくっついていた。

マスクだけを見れば、十人が十人ピエロだろうと答えるようなものだ。それにしては着ている服は全然それっぽくはない。

ネットで頭のネジが多少緩むかブッ飛んでる輩などキリがないので、ホールにいたプレイヤー達は最初こそ目を剥いて注視していたが、特に何のアクションも起こさずに空間を静かに横切っていくソレにやがて興味を失ったかのように目線を逸らした。

「どう?」

ホールの奥まったほうで足を止めたそのプレイヤーは、誰ともなくそう言葉を紡ぐ。ガスマスクのせいか、ひどくくぐもって男か女かはまったく分からない。

返事は、すぐに返ってきた。しかも、一つではない。《そこかしこ》から滲み出るように、次々と声が放たれる。しかし、どの声にも妙な金属質エフェクトがかかっていて、ひどく耳に障った。

『見ツけた』

(ミつケた)

"見ィつけたァア"

キシ、キシシ、キシシシシ、と。

梢がこすれ合うような音を立てて、ソレ()は嗤っていた。

そう、と満足げに呟き、その黄色マントは後ろに向き直った。

そちらには誰もいない空間なのだが、明らかにその無機質なゴーグルは見えざる何かをとらえていた。

「やっと……やっとこの時が来た」

〔ぜ、ぜッ剣は…ドウする、の?〕

⦅黒ノ剣士サまも来テる……ぞ⦆

ふむ、と道化師の仮面が思慮深そうに言葉を口内で転がした。

「黒の剣士は放って置いてもアレが勝手に相手をしてくれる。大したことじゃない」

絶剣は?と問うてくる無数の瞳に、くすくすという汚れたいらえが返される。

直後、放たれた言葉は端的かつどこまでも酷薄だった。

「潰せ」

御意、と数十人は重なる声が消滅すると同時、ピエロはおもむろに懐に手をやり、一本の試験管を取り出した。何の変哲もない、細長いガラスでできた試験管。

その底部には、光さえも呑み込むかのような闇をそのまま切り取ってきたかのような小さな黒い金属片が放り込まれていた。それは時折思い出したかのような震えを発し、一定間隔で内部から血のごとき毒々しい真紅の光を発していた。まるで、震えは鼓動、光は瞬きのようである。

あぁ、と。

ピエロはそれをマスクの頬に摺り寄せ、恍惚の声を出す。

「もう少し、もう少しの辛抱。どうか我慢してね……――――」

震える唇は二つの音を形作ったが、それを聞く者はもうそこにはいなかった。 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「とうとう200話ですか」
なべさん「とうとう200話だよ!大台だぜ!」
レン「よくもまぁ……。まぁこれも人徳なのかね」
なべさん「そう何を言いたいかというとその通り!ここまで来たのも読者様の皆々様のおかげでございます!」
レン「これからも『無邪気』をよろしくね」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!!」
レン「……ところで『無邪気』ってどれくらい続くの?」
なべさん「…………………(;´・ω・)メソラシ→」
――To be continued―― 
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