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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
  疑心好奇

「な、なんだったのー!あれー!!」

ぶんぶん両腕を振り回す従姉に重い溜息を返しながら、一行は薄暗いドームを歩いていた。

ここに足を踏み入れたときに感じた、舐るような、刺すような無数の視線はもう感じられない。軽く目を閉じ、《超感覚(ハイパーセンス)》も試してみたが、まるでダメ。ユウキにも試みてもらいはしたが、結果は同じ。まるでキツネにでもつままれたかのようなもどかしさと、少なくない不気味さを抱きながら足を動かす。

先ほどとは打って変わった両者の様子を、控え室全体に偏在している予選参加プレイヤーの敵意にでも当てられたのだろう、と綺麗に勘違いをしたリラがくるりとこちらに向いて器用に後ろ歩きをし始めた。

「そんなに心配しなくても大丈夫よ。ここにいる奴らはほとんどがお調子モンなんだから」

まったく悪びれなく、声もはばからない少女の声にこちらを注視する瞳が若干細められたのを感じる。

り、リラちゃん!と大慌てでミナが止めに入るが、既に時は遅し。平均身長がありえないほど低いパーティーを覆いつくすほどの影が一行を包み込んだ。

「オイオイ、随分とナマ言ってくれんじゃねぇの。お嬢ちゃんよォ」

ねぶるような野太い声と共に話しかけてきたのは、マルチカム迷彩を施された戦闘服(ACU)をはち切れんばかりに押し上げる大きな腹を持った大柄な男だ。同迷彩が施されたベレー帽が頭の片隅にちょこんと引っ掛かっていて、少し垂れ気味の頬に左右それぞれ真っ赤な長方形が殴り書きされているのが印象的だった。

こちらを威圧するように、黒光りするアサルトライフルの銃身を手のひらにぺしぺしと当てている。

それを一瞥したリラは、さもバカにしたように音高く鼻を鳴らした。

騒音(ライオネット)のパイツァーね。使用武器はL85 IWとサブにMP18・・・・・・」

「おぉ、俺のこと知ってんのかい?」

得意げに口端を吊り上げた男に向けられた少女達の双眼は、しかしどこまでも冷ややかで冷淡だった。

「はッ、ンな骨董品ものの短機関銃(サブマシンガン)振り回してまでBoB(ここ)に参加するバカの(ツラ)くらいは嫌でも頭に残るわよ」

「し、失礼すぎるよリラちゃん。あの銃はサブマシンガンじゃなくて、サブマシンガンの祖先!歴史的な価値はすごいんだから!あの銃に謝って!」

わぁーったわよ、と唇を尖らせるリラだが、まるで悪びれた様子はない。ミナに至っては、冗談ではなく本気で眼前の男を意識外に弾き出している。挑発以外の何物でもない双子の言動に、パイツァーという名前らしい巨漢は額の辺りから小枝をへし折るような異音を連発させながら、威圧するように体を前傾させた。

リラはその視線を真正面から受け止め、あまつさえ二倍くらいの鋭さをもって睨み返す。

「ちょっと。邪魔なんだけど」

「……殺す」

「勝手に死んでろ、クソブタ」

ぶちっ。

確実に、本格的に、何かが千切れた音がした。

あーぁ、と一部始終を見守っていたユウキは、ふとこの場面で静観視している相方を不思議に思い、ふと己の隣を見ると――――

「うっ」

思わず出るうめきが止められないような輝かんばかりの圧倒的な笑顔をさんさんと顔に張り付ける少年がいた。

「いやあ、楽しくなりそうだねー」

「ほ、ホント……だね」

心が折れそうになりながら、《絶剣》と呼ばれる少女は思わず突っ伏そうとする膝を必死に押しとどめた。

いや、本当になんで来たんでしょうね。

乾いた笑いを漏らす従姉を見やり、レンは少しだけ周囲に耳を巡らせた。

聞こえてきたのは、失笑。しかもどうやら、リラとミナに喧嘩を売ったパイツァーに対して、笑いが漏れているらしい。当の本人が頭に血が昇って聞こえていないのは幸か不幸か。

ますます面白くなってきたなあ、と笑みを色を深くする少年の眼前で、ようやく双子と巨漢の対峙に仲裁を入れたプレイヤーがいた。

ごつごつと大柄な体躯と無骨な顔を持つ男性(メイル)だ。肩から下げた大ぶりのアサルトライフルを鳴らしながら、パイツァーの幅広の肩に気軽に肘を置く。

「おいパイツァー、お前も怖いもの知らずだな。コイツらにケンカ売ったら後が怖ぇぞ」

「ダインさん、俺がこんなジャリどもに負けるとか思ってんですか!?」

憤る巨漢をどうどうとなだめすかせ、ダインという名らしき男はひらりと踵を返した。

「じゃあまたなガキども、()()()本戦で会うのを楽しみにしてるぜ」

笑い声とともにパイツァーを引き連れて去っていく背中を、今度は何も言わずに見送った少女達は一瞬顔を見合せた後に、音高く舌打ちをした。

一瞬、どう話しかけようかユウキはオロオロしていたが、えほんと咳払いひとつ。

「さ、さっきの人は、知り合いなの?」

「冗談!」

「前回のバレット・オブ・バレッツで十八位に入った実力者だよ。……どうせ運任せだろうけど」

普段臆病気味なミナまでこの言い草なのだ。よほど彼女らのBoB本戦出場への執念は強いと見える。そこまでこだわる理由はいったい、とそこまで脳裏で巡らせていたユウキは、ふと小さな疑念を思い起こした。

黒峰邸で聞いた一つの音声ファイル――――死銃の肉声から、なんとなく男性アバターだという固定観念があったのだが、なにもその考えがあっているという根拠はどこにもない。この世界での女性は、ほとんどがゴツい戦士のような身体だ。そのせいも相まって、相当声も野太いのではなかろうか。いやそれ以前に、これだけ科学技術一辺倒の世界観なのだから、変成器があっても不思議でも何でもない。

第一、あの再生された音声の中に入っていた声は、男女の区別が曖昧な、どこか非人間的な金属質のノイズが混じった声だった。男であるなどと決めつけるのは間違いなのだ。

そのことを踏まえると、目の前で腹立たしげに鼻を鳴らす少女達が死銃という可能性もなきにしもあらず、ということになる。

今回、この世界に来るにあたってのレン達の仕事は死銃の正体を突き止め、その殺人行為に心意――――インカーネイト・システムが絡んでいるかを《確認》することだけだ。

シゲさんは殺人方法を突き止めろ、などと言ってはいたが、彼とて本当のところ怯えていたのだろう。なぜならそれは、今世界でもっとも関心が集まり、いまだ解明されていない分野なのだから。

心意(かそう)生命(げんじつ)を殺せるか否か。

それは、今現在世界中の科学者達が立証させようとしている"仮想が現実の肉体に与える影響"の、言わば究極だ。茅場晶彦が史上初めて仮想世界を実現して丸三年と少し。技術(テクノロジー)の最奥を抱えたまま彼は逝ってしまったので、いまだその答えは不明瞭なままだと聞く。

まだ若い自分達より圧倒的に長い年月を過ごし、悲しいまでに残り時間がないシゲクニにとって、死とはもはや実感のこもるに値するリアルになっているのだろう。

しかし、それは今のレン達も同じだ。いつ死銃から致死性の心意攻撃が放たれてくるともしれない。使用者からの熱波たる心意は、サーバ内のいかなる事象をも想像の上に塗り替える。その前では安全フィールドなど存在しない。防壁があろうとなかろうと、それがシステム的なものである限りインカーネイト・システムはその上に想像という名の事象を書き込むからだ。

そのため、現在自分達が最も警戒しているのは、心意による奇襲攻撃。ただそれだけだ。

必然、警戒の対象はGGO全プレイヤーといっても過言ではない。

なぜなら、心意にはその容姿も、性別も関係ない。必要なのは行使者の内からほとばしる魂の熱だけなのだから。

油断なく周囲を睥睨しようとしたユウキは、その己の行為に気が付いて顔をしかめた。

疑い。

疑念。

疑惑。

普段自分がもっとも浮かばないような――――否、忌避している感情だ。

別に、人を疑うことはいけないことだなどと、聖人君子のような文言を垂れるつもりはない。しかし、人を疑うことは、その人を信用していないということと同義だ。そんなことは……したくない。

鬱々とした決意をもって隣を見たユウキは、直後に後悔した。

隣に立つ一見すると少女に見える少年の、長い前髪の奥にあった瞳は笑っていなかった。口元は少女達の続く愚痴に合わせて苦笑の色を形どっているが、その大きな瞳だけは欠片さえも感情の揺らぎが反映されていない。

ぽっかりと。どこまでも続く穴の洞を覗いているかのような、果てしない虚無。

いけない、と少女は危機感を抱く。

不安定になっている。それも、かつてないほどに。

ALOの一件からまる一年。できれば、このまま穏やかに時間が過ぎ、仮想世界での陰惨な思い出が風化していくのを願っていた。しかし、この時間はどうやら間違った方向に作用してしまったようだ、と《絶剣》と呼ばれる少女は思い知らされる。

長らく《鬼》を忘れていたところに、殺す殺されの話が舞い込む。

否応なく、彼は興味を持つだろう。しかしそれは、同時に己の中で居眠りするソレと再び向き合うことになる。

―――それに、レンは耐えられるの……?

思案げにもう一度少年を見やると、今度はその視線に気づき、小首を傾げてくる。その顔に作り笑いを返すと、少年は何か思うところがあっても飲み込んで笑い返してくれた。

直後。

「「――――――ッッ!!」」

同時に、レンとユウキは勢いよく振り返った。

感じたのは、よく見知った気配。

慣れすぎ、そして親しみ深い――――だがどこか底の見えない、そんな存在感。

「な、なんで?」

「は、はは」

二人の視線の先にあるのは、つい先ほど自分達の乗って来たエレベータ。重い重低音を響かせながら、太いケーブルが稼働しているのが、昔ながらの鉄柵越しによく見えた。

やがて、鉄柵の扉が左右に裂かれ、二つの影を吐き出した。

一人は、明るい水色の髪にサンドカラーのマフラーを目深に巻きつける女性(フィメール)アバター、街中で会って双子が食って掛かった―――正確にはあやされた―――プレイヤー。名前は確かシノンといったか。

そしてもう一人は――――

「よ、ユウキ……だよな、うん。お前もGGOに来てたのか」

馴れ馴れしく諸手を上げてこちらに笑顔を振りまいているのは。

その気配はまず間違いなく――――

「……ところで、レンの姿が見えないんだけどどこに……」

軽く周囲を見回したそのプレイヤーは、初めて唖然とするユウキの背後に隠れた位置に棒立ちになっている小さな者達に気づいたらしい。

あんぐりと口を開けたレンが思わずといった風に伸ばした人差し指は、奇しくも全く同じ動作で返されていた。

「「……だれ?」」

互いを指し合う女性のような男性アバター達――――レンとキリトは、唖然としてそう言った。 
 

 
後書き
なべさん「ほいほい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「やっと原作組が本格的に参加か…。長かったなあ」
なべさん「ここから予選…本戦…先は長いですな」
レン「せいぜい頑張れ」
なべさん「はい、自作キャラや感想を送ってきてくださいね」
――To be continued―― 
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