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ソードアートオンライン 無邪気な暗殺者──Innocent Assassin──

作者:なべさん
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GGO
~銃声と硝煙の輪舞~
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あの少女はシノンといって激レアな対物狙撃銃というカテゴリのライフルを繰るスナイパーで前回のBoB予選にて自分達の頭をどちらも吹っ飛ば(ヘッドショット)しやがったあんにゃろー、というのが憤怒の表情を浮かべ、肩を怒らせて帰って来たリラが奥歯に衣を着せようともせずに言い放った言葉だった。

言葉にこそ出さないが大人しいミナの目も静かに燃え盛っていて、再戦を強く望んでいるらしい。そんなに手ひどく敗北したのだろうか。

いまだ銃器での戦闘というものがよく分からないレンとユウキは首を傾げる。

「っと、ここよ」

しばらく薄暗い路地や複雑に分岐した隘路を歩くこと十数分、そろそろ東西南北の感覚すら怪しくなってきた時に、やっと先頭を疲れも見せずに歩いていたリラが足を止めた。

立ち並ぶビル群に詰め込まれるように、その店はそこに在った。

コンクリートやガラスで装飾された大型の建築物が立ち並ぶ中、逆に目立つ小ぢんまりとまで言える平屋の建築物である。窓はなく、これでドアがなかったら冗談抜きでコンテナか何かだと思ったかもしれない。

「ここ、なの?」

建物というのにも疑問符がつくようなその威容に、さすがにユウキの言葉にも若干の戸惑いの色が混じる。

「そうよ、あたし達がよく使ってるNPCの店。買い取ってくれる金額も、売ってる品質もそこそこいいし、結構重宝してんのよー」

「え、プレイヤーじゃない店なのに、買い取り金額が変動するの?」

「そ、そうだよ。だから、買い取り金額が高いトコを見つけたら、普通はそこだけで売買をするようになるの。一種の顧客って感じかな」

所在なさげに解説してくれるミナの補足説明も反芻しながら、レンは感心していた。

店によって、いやこの場合はNPCによって売買レートが設定されているとは新しい要素だ。SAOでは、その基幹であるカーディナル・システムがほぼすべての金銭ルートを独自に精査し、インフレなどの前兆などは事前に摘み取られてきた。

よって、(おそらくではあるが)無駄に経済を混乱させるだけだという判断を下され、NPC各店にそれぞれ固有の売買パターンを割り振ることなどしなかったのだ。

ふんふんと頭を振る少年をよそに、女性陣はさっさとその店の中に入ってしまっていた。

だが、慌ててその後を付いていったレンが見たものは、店ではなく――――

「え?か、階段?」

ドアをくぐった先に、陳列棚やショーケースなどは一切なかった。剥き出しのコンクリートで四方を固められている中、やけに大きな地下への階段が口を開けていたのだ。

「店はこの下よ」

ニッと勝気な笑みを浮かべ、軽快な足取りとともに双子の姿が階下に消える。

眉根をひそめながらレンとユウキは顔を見合わせた後、意外に不安定な階段を甲高い音を伴って降りていく。カン、カン、と静かな金属音が、打ちっぱなしのコンクリートに反射する。

途中、一度折り返した先にあったドアを開けた一行を最初に出迎えたのは、鉄臭い潤滑油の香りだった。一辺が二十メートルはあろうかという広すぎる空間。しかし、その広大さが人ひとりがやっと通れそうな通路に変貌してしまっているほど、大小様々な段ボールや木箱が色あせたボロ布を被って積まれていた。

「こ、これ全部銃なの……?」

「弾薬とか手榴弾とかもたくさんあるけどね。だいたいはそう」

はえ~、とぐるぐる辺りを見回しながら通路を歩くレンは、積載された木箱の隙間に何かを感じ取る。

思わず立ち止まると、当然その後ろを進んでいたユウキはその小さな背中にぶつかった。

「わぁっ、と。レン、急にどう…し……た…………の」

ユウキは己の声が急速にフェードアウトしていくのを自覚しながらも、眼前の光景から目を離せなかった。

そこにあったのは、連なる木箱と全く同じ型の立方体だ。ミナの言葉を信じるとすれば、その中に入っているのはいかつい鉄の塊のはず。

しかし、眼前の木箱の上部から生えていたのは――――

「か、顔……いや頭?」

「頭……だね」

真っ白な髭の生えた、経た年月の長さを感じさせるシワを幾重にも刻まれた老人の顔である。いやに尖った禿頭には、これまた尖った三角帽が乗っかっていた。

場違いにレンは、ALOにはないドワーフという妖精を想像した。小柄な体に似つかわしくない強大な力を持ち合わせる、伝説の小人を。

世界観すら揺らめかす、そんなものの人形の、しかも頭部がなんでこんなところに?

首を傾ける少年少女を数秒間静かに見つめ返していたドワーフ(の頭部)は、突如として《顔をしかめた》。

「おいこりゃッ!見とらんでとっとと助けんかいジャリども!!」

「「しゃ、喋ったッ!!?」」

生きてんのコレ、と極めて素直な驚愕をあらわにするレンとユウキの肩越しに、リラと呼ばれる少女が顔を覗かせる。

「あ~おじじ、そこにいたのね。また売りに来たわ、買い取ってちょーだい」

のんきな声とともに伸ばされた手が木箱からにょっきり生えた小人の頭を、乗っかっている三角帽ごと鷲掴みして野菜か何かのように一息に引っこ抜いた。

頭だけだと思っていたのは、どうやら体の部分をすっぽり布で覆っていたためらしい。頭に合致する超小柄な二等身が頭部に続いて出現する。

そこで、レン達は小人(ドワーフ)という第一印象が間違っていなかったことが分かった。

ずんぐりむっくり、という言葉がこれほど似合う体型もないだろうという、小さいがそこそこ横に伸びている身体。その割に決して子供には見えない立派すぎる口髭。

どこからどう見ても、サイバーパンクなGGOには欠片にも似つかわしくない、昔ながらの生粋のドワーフである。

摘み上げられた小人はレンの肩越しに少女を一瞥した後、ベッと唾を吐き出した。

「チッ、また来やがったのかオメェらはヨ。……まぁいい、持って来な」

とことん不機嫌そうな面相を崩すことなく、そのドワーフはリラの手をすり抜けて着地した後、その小柄な体も利用してスルスルと荷物の間を駆け抜けていく。

「「……………………」」

「あ、あれでも店主なんだよ」

弱気なミナの補足に耳朶を震わしながら目を離すとすぐに見えなくなる小人の背を、積み重なる箱のタワーをかき分けながら苦労して追いかけた。

するとすぐに視界に、一目でドワーフ専用と思える小さなカウンターが現れた。おそらくこうやって目にしない限り、普通にスルーしていたかもしれない。

よっこらせ、とこれまた小さな丸椅子に腰かけた老人は一度豊かすぎる顎髭をつるりと撫で、改めて流し目を寄越してきた。

「さっさと出さんかい。わしもヒマと違うんじゃ」

「はいはい、っと」

気軽な口調でトレードウインドウを開き、売却するアイテムを次々とその中に放り込んでいくリラを遠目に見ながら、レン達は手近にあった古ぼけた木箱に腰かけた。

「ねぇミナねーちゃん、あのおじーさんってさ……」

「うん、正真正銘NPCだよ。世界観ブチ壊しだけど」

「ふぅん……」

なんというかその……ずいぶん個性的なノンプレイヤーキャラクターである。

SAOでも数多くのNPCが街や村に配置されていたが、彼らは一律して『Aと問われたらBと返す』というただそれだけの存在だった。理解できる文言の幅はあまり広くもなく、込み入ったり複雑な比喩表現などを用いると首を傾げられるだけで答えてくれない。

そのため、彼らの大部分は明確なキャラ付けなど成されてなく、あくまでその他大勢(モブ)という域に収まっていた。

―――ここまで濃いNPCも珍しいな~。

確かにSAOやALOでも、クエスト開始NPCなどはキャラが濃いことはままあった。しかし、眼前のドワーフ店主の頭上には、クエスト開始のキーキャラである証の【!】マークも、進行中である【?】も点灯していない。

つまりこの、終末的SF世界観であるGGOにあるまじきファンタジックな佇まいの小人は、本当にただの武具屋店主というカテゴリに入っているということである。

レンの表情から言いたいことを察したのか、傍らに座るミナは苦笑した。

「私達も最初は何かのクエストかなーとか思ったんだけど、全然そんなこともないんだよね。フラグっぽいことも言わないしさ」

どうやらレンが思ったことに、この少女達も至ったらしい。しかし一行にクエストないしはイベントが起こる気配すらないため、最終的に諦めたようだ。

確かに、何か起こりそうで何も起こらない場所やNPCというのは存在するものだ。

思い出したくもないが、SAO第二十階層には《狼ヶ丘》という場所があった。そこも、鬱蒼とした大森林の中、ぽっかりと開けた小高い丘という目立ちすぎる立地条件であるが、結局何も起こらなかったのだ。

まぁ場所とNPCの違いはかなり大きいのはある。地形やマップデータというのは、製作者のセンスが多分に発揮されるものだ。マップの隅にさも意味ありげに置かれた巨岩や大河は、その実考えなしに置かれた場合が多い。

この店主もその口なのか。はたまた――――

終わらなそうな思考のループを続けていたレンは、肩を叩かれることによって意識を引きずりもどした。

「レン?終わったみたいだよ?」

「ん」

目線を戻すと、どうやらいい取引になったようでリラとミナの双子達が諸手を挙げてハイタッチしていた。そうとう高い値段で売り払われたようである。

次は大会登録かな、いやその前にまたあの迷路みたいな街を歩くことになるのか、と今からげんなりとした気分を浮かべながら木箱から立ち上がり、背伸びをしていた少年に年輪の入った声がかかった。

「おい、そこの」

「……僕?」

「違う、その隣の娘っこじゃ」

違った。声がかかったのは隣で同じく背伸びをしていた従姉のほうだ。

きょとんと自分の顔を指さすユウキに、大きく首肯を返しながら小さな老人は髭に包まれた口を開く。

「オメェさん、その銃で本当に満足してんのかい」

「え?いや……確かに慣れてはいないけど、そのうち馴染むかなって」

「馬鹿モン、オメェに(それ)は絶対に馴染まねぇよ。慣れる慣れない以前の問題だ」

はぁ、と生返事を返すしかできない少女の言葉に、ドワーフの主人は音高く鼻を鳴らすと、二等身のその体を座っていた椅子から重々しく立ち上がらせた。そのまま背後にあった木箱――――に見えた棚に近寄り、その段を一つ一つ引き抜いていく。

やがて何の気なしに放られたのは、一見して金属の棒のように見えた。ゴツい黒光りする金属の円柱。

直径三センチ、長さは二十五センチほどだろうか。何かの機械ないしはそのパーツのように、表面には意味ありげなサイバーっぽい輝線が走っている。片側には登山用のカラビナに似た金具が下がり、もう片方の端は少し太くなっていて、何かを射出するためのものだろうか、中央には円錐状の大きな穴が開いている。

銃にしてはいささかのっぺりしすぎているような気がする。握りも、引き金(トリガー)らしきものも見当たらない。筒の側面上部に、小さなスイッチが一つ見えているだけだ。

それが都合二つ、ユウキの手に収まった。

「これは……?」

「オメェさんに似合った武器じゃ。ま、使うか使わんかはわしの知ったことじゃないがの」

またもや鼻息を吐き出し、もといた椅子に座り直した小人は、もはや何も言わなかった。時折かくかくと首が前後に揺れるだけで、身動きすらしない。死んでるんじゃないだろうな。

設定された会話プリセットを終了したということだろうか。それにしては特定のプレイヤーに肩入れしすぎな気がしなくもない。それほどにこのドワーフの会話に違和感はなかった。

この感じは、もうNPCというよりも人工知能(AI)に近いのではないのか、

「おー、それコーケンじゃん」

「あ、ホントだ」

「こ、コーケンってなに?」

眉根を寄せる少女にニッと笑いかけ、リラは空中に指で文字を描く。

「光の剣、って書いて光剣。正式名は確か…………何だっけミナ」

「《フォトンソード》だね。だけどみんなレーザーブレードとか、ビームサーベルとか適当に呼んでるよ」

「ていうことは、それって剣なの?でもGGOってFPSなんじゃ……」

ユウキの手の内にある二つの金属棒――――光剣を指さすレンに、リラは澄まし顔で肩をすくめた。

「銃剣だって立派な剣よ。くっついてるのが銃口ってだけ。なら生粋のレーザーソードの一つや二つあってもおかしくないでしょ。世界観が世界観だし」

GGOは、最終戦争後の荒れ果てた遠い未来の地球という世界観設定で成り立っている。銃器にもレーザーガンというカテゴリがあるので、その延長線上にレーザーソードがあっても別段違和感はない。

納得するレンの隣で、少女はまるでトランペットを見る少年みたいなキラキラした目でその金属棒をためすすがめつしていた。

とりあえず二つのうち一つは床に置き、残ったひと振りを右手でしっかり握り直す。親指を動かしてスイッチを入れると、ヴゥンという低い振動音とともに、紫がかったエネルギーの刃が一メートル強ほど伸長して周囲を照らし出した。

「ほわぁ……」

ヴォン、ヴン、と軽く手首を振り、その度に感嘆の声を上げるユウキは、たぶんもうこちらの声など聞こえないだろう。

感動に浸る従姉に苦笑しながら、レンはまじまじとその刀身を眺めた。

実体のある刀などの刃と違い、方向性はない。円形断面の細長い筒のようなものだった。全体的にどこか、コンサート会場などで観客側がブン回すケミカルライトのでっかいバージョンのようにも見える。

「すごいねーこれ。当たり前だけど、ホントにかっるいかっるい」

「ま、まぁ、せいぜい軽いぐらいしかメリットない武器だから。値段も結構張るし、使ってる人は少ないんだ」

確かに、レーザーというくらいなのだから刀身部分が光子で構成されている訳で、当然そこに重量は発生しない。そのため、その重さによって生じる慣性の法則や遠心力なども正常な値を示さなくなるだろう。

―――でも。

()()()()六王(じぶん)達にとってはハンデどころか道端の凹凸にすらならない。

そう結論付ける少年の思考を裏付けるように、目と鼻の先の空間で圧倒的な輝線の嵐が巻き起こった。

あまりに圧倒的な剣速は、音すら遅れさせた。

数瞬遅れ、アバターの前髪が真夏の空気のような熱風に煽られて跳ね上げられる。淡いサファイアのような二つの瞳が外気に晒された。待機中の酸素が焦げた際に発生するオゾン独特の刺激臭が、うっすらと鼻腔をくすぐる。

網膜に幾重にも重なった光の残像が映る中、少年は口角を大きく吊り上げた。

口からこぼれ出るのは、単純な確認。

「気に入った?」

置いた一振りも加え、計二振りとなった光の剣を戻し、腰に付属のカラビナで吊るした《絶剣》と呼ばれる少女はいつものように――――誰よりも見慣れた太陽のような笑みを浮かべた。

「もちろんッ!!」 
 

 
後書き
なべさん「はい、始まりました!そーどあーとがき☆おんらいん!」
レン「世界観壊すようなキャラ出すなよ……しかもこの人今後絶対出ないだろ」
なべさん「……うん、いや、まぁそうなんだけどもね」
レン「ともあれ、やっと武器が決まったって訳?僕の分は?」
なべさん「それはおいおい」
レン「気になるなあ」
なべさん「はい、自作キャラ、感想を送ってきてください!」
――To be continued―― 
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