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劇場版・少年少女の戦極時代

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ドライブ&鎧武 Movie大戦フルスロットル
  高司舞を救うことが何を意味するのか?



 鋼鉄の花の足下にようやく辿り着いた碧沙と光実を迎えたのは、異様な怪人の群れだった。

(胸に数字のないナンバープレート……って、城乃内さんが戦ったっていう怪物?)

「階段の上に登ってて!」

 碧沙は慌てて近くのらせん階段を登った。

「光兄さん、そいつら、インベスじゃない!」

 ヘルヘイムにまつわるモノ特有の甘ったるい香りがしない。
 むしろ、漂うにおいは、幼い頃に一度だけ会った機械人間のジローのものに近かった。

 光実が戦極ドライバーとキウイの錠前を出した。

「変身!」
《 ハイーッ  キウイアームズ  撃・輪・セイヤッハッ 》

 キウイを丸ごと模したアームズが光実の頭上から落ち、常とはまた別の龍玄へと変えた。
 龍玄は両手のキウイ撃輪を、走る間も惜しいとばかりに揮いながら、怪人の群れへ突っ込んだ。

『邪魔だっ――ハァッ!!』

 龍玄はキウイ撃輪ごと2回転、3回転。撃輪から生じたソニックウェーブで半径約5メートル圏内の怪物を斬り、爆散せしめた。

 龍玄はブドウの鎧に換装し、ロックビークルを投げてローズアタッカーを展開させた。

『後ろに乗って!』

 碧沙は答えず、すぐさま階段を下りて駆け寄り、ローズアタッカーの後ろに乗って龍玄の腹に両腕をきつく回した。




 碧沙たちを乗せたローズアタッカーが、ついに鋼鉄の花に突入した。

 龍玄はまるで舞が囚われた場所を知っているかのようにローズアタッカーを右へ左へ、時には上へ走らせた。乱暴な運転に、碧沙はとかく龍玄にしがみついているしかなかった。

 もちろんタダで通してくれるほど敵も甘くはなく、怪物は幾度となく兄妹の前に現れた。
 龍玄はそれらの怪物をブドウ龍砲で正確に撃ち抜き、一度として停まることはなかった。

 ついに碧沙たちは、白く壁が光る青い回廊――舞が囚われたポットが目視できる場所まで辿り着いた。


『! 危ない!』
「えっ」

 龍玄が碧沙の脇腹を荒く掴んでローズアタッカーから飛び降りた。
 直後、壁から弾丸が放たれ、一瞬前まで彼女たちがいた空間を撃った。
 あのまま乗っていたら、と考え、背筋が粟立った。

「高司さんは」

 舞は何かの溶液で満たされたポットに、長い黒髪を揺らめかせながら沈められている。

『僕の後ろから離れないで』
「う、うん」

 龍玄が一歩を踏み出した。
 その一歩が敵の射程圏内だったのだろう。回廊の壁からそれこそ無数に青いケーブルが射出された。

『どけぇ!!』
《 ブドウスカッシュ 》

 初めはブドウ龍砲でケーブルを撃ち落としていた龍玄だったが、あまりのケーブルの多さを捌き切れず、四肢を拘束された。
 龍玄の体が浮き、縛られた手からブドウ龍砲が落ちた。

 碧沙はとっさに落ちたブドウ龍砲を拾い、ポットに向けた。
 龍玄が拘束された今、このトリガーを引けるのは碧沙しかいないと思ったからだ。

『ダメだ、碧沙!!』

 びくっ、とトリガーにかけていた指が手ごと震えた。

『その銃の反動はアーマードライダーじゃなきゃ受け止めきれない! 兄さんが言ったろ! 自分を粗末にするなって!』
「で、も…でも、わたしっ…これくらい、しか…!」

 舞と紘汰に運命の重さを押しつけた。発端は碧沙なのに、碧沙は何の罰も受けずに今日まで生きてきた。生きてきてしまった。

『それでもダメだ』
「光、兄さん?」
『大丈夫。信じて。僕はお兄ちゃんだから』

 ぎりぎりでふり返った龍玄は――光実は、笑っているように、見えた。

 龍玄のブドウの鎧が弾け飛んだ。
 締め上げていた鎧がロストしたことで、ケーブルから一瞬だけ龍玄は解放された。碧沙の手の中のブドウ龍砲も粒子化した。

 緑のライドウェアだけになった龍玄は、前転してケーブルの束を抜け出し、再びブドウの錠前を戦極ドライバーにセットする。

(変身の中間解除! これで光兄さんは逃げ出せて、武器も光兄さんの手に戻る。そうなれば)

 換装を完了した龍玄がブドウ龍砲を構えた。すでにエネルギーチャージは終わっている。

『いっけえええええ!!』

 ブドウ龍砲から放たれる、龍の息吹。
 それはポットだけを的確に破壊した。

 割れたポットから、白いドレスの舞が落ちてきた。
 龍玄が走り、舞が地面にぶつかる前に舞を受け止めた。そこで光実が変身を解いた。

「兄さん! 高司さん!」

 碧沙は沈黙したケーブルの束を踏み越えて走り、光実たちの近くにしゃがみ込んだ。

 舞がうっすらと目を開け、光実と碧沙を順に見た。

「ミッチ……ヘキサちゃん……」
「高司さんっ」

 舞は、微笑んだ。

「やっと高司さんを救えた――」
「うん。やっと、だね」

 光実が碧沙の、一本線の傷のある掌を握ってくれた。碧沙は光実の手を握り返した。

 ――遠い日の知らずの罪を雪げたかは分からない。それでも、やっと、あの日から停まっていた何かが、碧沙の中で息を吹き返した。


「あ」

 そこでようやく、光実と手を繋いでいたことに思い至った。

 全身が沸騰するように熱くなった。

 すぐにでも光実の手を振り解きたかったが、理性で羞恥心を押さえつけて堪えた。ここで離したら、次はいつ素直になれるか分からない。

「久しぶりだね。手、繋ぐの」
「光兄さんの手、熱い」
「さっきまで変身して戦ってたんだから、許してよ」
「貴兄さんの手と同じ感触がする」
「そう?」
「――ありがとう。高司さんを救ってくれて」

 碧沙と光実は、何年かぶりに、心から笑い合った。 
 

 
後書き
 碧沙、勇気を出して光実に歩み寄りました。結果はもちろん(*^^)v

 拙作本編では、舞の死因に光実でなく碧沙が絡んでいるからこそ、貴虎も光実も妹の心を解放するためにこうして戦ったわけです。
 碧沙自身の手によるものではなかったですが、他ならぬお兄ちゃんが舞を助けてくれた。そのことでやっと碧沙も楽になったでしょう。 
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