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グーラ

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3部分:第三章


第三章

「また行くのかい?」
「ああ、店も聞いたしな」
「どの店なんだい?」
「今から行くよ。一緒にどうだい?」
「そうだな」
 ふと興味が沸いた。そこの酒を飲んでみるのも悪くないと思ったのだ。
「じゃあ案内してくれ」
「女の子はいいかい?」
「ああ、いつも通りさ」
 彼は返した。
「あの娘とな」
「今日もか」
「もう他の娘はいい」
 こうも述べた。
「彼女さえいれば」
「わかった。じゃあそうしな」
 スレイマーンとしてもここまで思い入れているのならもう無理は言わなかった。
「ただな」
「何だ?」
「あまり無理はするなよ」
「何、大丈夫だ」
 そうは答えても顔色は悪いままであった。
「この程度じゃな」
「そうか。じゃあな」
「また酒かい?」
「今日は少しだけれどな」
「まあそっちもまた今度な」
「またな」
「ああ」
 こうしてマムーはまた夜の街に消えていった。それが終わった翌朝、彼はさらにやつれた姿になってしまっていた。
「・・・・・・おい」
「いやあ、昨日もよかったよ」
 二日遊んだだけとはとても思えなかった。こけた頬にくまがはっきりと浮かんだ目。それでいてその目は赤く血走っている。まるで幽鬼のようであった。
「一晩中さ」
「本当に一晩かい?」
「何を言っているんだよ」
 マムーは友の言葉に眉を顰めさせた。
「一晩じゃないか。わかってると思うが」
「いや、何か」
 マムーのやつれようはとてもそうは見えなかったからだ。まるで暫く飲まず食わずで苦しんだかの様な顔になってしまっていたからだ。
「なあ」
 そのうえで友に言った。
「今日は休んだらどうだ?」
「夜をかい?」
「それだけじゃない、店もだ」
 見るに見かねて忠告した。
「このままじゃ本当に死ぬぞ」
「何言っているんだ、働かないと生きていけないだろ」
 マムーはそう反論した。
「それに夜だって」
「それだけは止めておけ」
 スレイマーンは真剣にそれを制止した。
「御前このままだと本当に死ぬぞ」
「二日遊んだだけで何を言っているんだ」
「鏡見たのか!?」
 いい加減らちがあかないのでそう言った。
「自分の顔を見てみろ」
「鏡ですか」
「そうだ、それからよく考えるんだ。今御前が何をしているのかをな」
 彼は言う。
「わかったな、それで」
「全く。心配性だな」
 マムーは何故友人がそこまで言うのかわからなかった。自分では何もないのだ。
「俺はこの通りピンピンしているぞ。何を怖がっているんだ」
「鏡はいいのか」
「ああ、いいよ」
 この時鏡を見ていれば運命は変わったかも知れない。だが彼はそれすらも断った。それで彼の運命は決まってしまったようなものであった。
「別にさ」
「それで今日もか」
「ああ、バグダートのムスリムの生活さ」
 マムーは言う。
「昼は必死に働き、夜は豪勢に遊ぶ」
 スレイマーンはそれを聞いてもう言っても無駄かと思った。頷くだけになっていた。
「わかった。じゃあそうしな」
「そうさせてもらうぜ。また夜な」
「ああ」
 それでこの日は終わりだった。スレイマーンはその日の夜は遊びに出ずに家でゆっくりと休んだ。次の日の朝に異変が起こったのであった。
 店がある市場に行くと。店の者達が何かと騒いでいたのだ。
「何があったんだい?」
「あっ、これは旦那様」
 雇われている若い男達が主人の顔を見てほっと安堵した顔になった。
「いいところに来られました」
「いいところ?」
「はい、実はこいつ等が色々聞いてくるんですよ」
「旦那様は何処かって」
「旦那様!?」
 その言葉にいぶかりながら使用人達の指差す方に顔を向けた。するとそこにいたのはどれも見知った顔ばかりであった。
「君達は」
「どうも」
「お騒がせしました」
 彼等は申し訳なさそうに頭を下げる。見ればマムーの店の者達であった。
「どうしたんだい、旦那様がどうとか」
「いえ、実は」
「うちの旦那様のことなんですけれど」
「うん」
 ここは彼等の話を聞くことにした。
「昨日から戻られないんですよ」
「昨日からか」
「お家にもおられませんしここにも。若しかしたらと思ってここに来たんですが」
「いないみたいですね」
「そうだな、僕は見ていない」
 スレイマーンはそれに答えた。
 
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