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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~漆黒の剣士~

作者:月神
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第20話 「T&HエレメンツVS漆黒の剣士」

 
前書き
 見直すときにどれがどの話か分からなくなってきたので、今回からタイトルを付けていくことにしました。これより前の話にも付けていくつもりですが、可能なら執筆を進めたいので良いタイトルを思いついた方は教えてもらえると助かります。 

 
 ディアーチェちゃんの計らい? によって、私達は夕食のあるダイニングに向けてグランツ研究所の所員の方々とデュエルを行った。予定では次のデュエルで最後だ。

「やっと次で終わるわね」
「そうだね。まったく手が出ないわけじゃないけど、所員の人達凄かったね」

 フェイトちゃんの言うとおり、対戦した所員の人達は作ってる側だからか今の私じゃ考え付かないような動きを取ってきた。色んな動きを見ることが出来て楽しかったし、何より勉強になった。

「うん、動くポジション取るのが上手い人もいたよ。あんな風に動けたらなぁ……」
「私はあの槍を持ったお姉さんが印象的だったわ。少し躊躇っただけで接近されてやられちゃったし。マンツーマンでの対応も今後は必要よね」
「だね。でも……ひょんなことから上手くタイミングがあったりして」

 なのはちゃんとアリサちゃんは難しい顔を浮かべながら唸っている。やることは見えてきたけど、その解決策というのは簡単に浮かぶものでもない。それは私だけでなくなのはちゃん達も同じようで、肩を落としたり「むきー!」と声を上げている。

「まあ……みんなもうお腹ペコペコだもんね。無意識に動いたりしちゃってただろうし」
「うん。次で最後だし、ご飯を食べた後でみんなに相談してみたらいいんじゃないかな?」
「そうね。みんな、次でラストなんだから全力で行くわよ!」

 次で終わりということもあって、全員拳を突き上げながら元気良く声を出す。疲れや空腹はあるけど、この団結力なら最後は良い感じに終われそうな気がする。
 次の相手がどんな人なのか、どういうデュエルを行うか話し合いながら先に進んでいると、角を曲がった先にショウさんが壁に寄りかかっていた。

「あれ、ショウじゃん。どうしたの? あっ……もしかして、わたしに会いたくなって来ちゃったとか?」
「5人の中で言えば、お前には1番会いたくないな」

 切れ味鋭い返事にアリシアちゃんは両手で胸を押さえる。見た目はあれだけど、私達よりショウさんと年齢が離れていないこともあってこのような漫才染みたやりとりができるのだろう。
 ショウさんのほうは少し嫌そうな顔をしてるけど……多分演技だよね。そうじゃないとアリシアちゃんが可哀想だし。

「もう、今のわたしは疲れてるんだよ。少しくらいデレてくれたっていいじゃん」
「これから戦う相手に笑顔振り撒いてどうするんだよ」

 ショウさんの言葉に私だけじゃなく他の子達の表情も固まる。聞き間違いでなければ、今ショウさんは私達とデュエルすると言った気が……。

「あ、あの……私達の最後の相手ってショウさんなんですか?」
「ああ。ただ……疲労と空腹で無理ってことならしなくてもいい。このまま奥に進んで食事にしよう」

 優しげな声で言われた内容は、今の私達にとっては非常に魅力的なものだ。だけど、私はショウさんとデュエルがしたいと思った。
 ショウさんとはこれまでに何度かデュエルをしたことがあるけど、それはあくまでチーム戦の手伝いって感じだった。多分今回が初めてショウさんって存在にぶつかるデュエルになる。
 実力はシュテルちゃんレベルだって話だけど、今の私じゃシュテルちゃんの底を知ることはできない。だから多分私――ううん、私達とショウさんとの間にはいくつもの差があるんだと思う。
 勝てるかどうかは分からない。でも、やりたい。
 誰もがそんな気持ちを抱いているのか、私達は真っ直ぐにショウさんを見つめた。

「確かに疲れてるしご飯も食べたいけど」
「せっかくショウさんとデュエルできるんだから」
「やらないなんて選択肢はないわよね」
「ショウさん、全力全開で行くので」
「よろしくお願いします」

 以心伝心したかのように順番に気持ちを伝えた私達に、ショウさんは優しげな笑みを向けてくれた。なのはちゃんやフェイトちゃんは何だか顔を赤くしてるけど、ふたりの気持ちは分からなくもない。
 ショウさんってあまり笑ったりする人じゃないから、今みたいな顔されるとドキッとするよね。まあ私達がいつも女の子ばかりでいるから男の人に慣れてないだけかもしれないけど。
 ただ……なのはちゃんは助けてもらった日からショウさんのこと意識してるよね。フェイトちゃんは性格なのか、昔から付き合いがあるみたいだし特別な想いがあるのかはっきりしないけど……まあこういうのは見守るのが1番だよね。

「じゃあ、元気のあるうちに始めようか」

 そう言ってショウさんは近くのシミュレータのある部屋へと向かう。私達をすぐあとを追い、それぞれシミュレータに入ってブレイブホルダーを胸の前に抱えた。
 次の瞬間には、私達は制服からそれぞれのバリアジャケットに姿を変え、四方を崖で囲まれた平地に舞い降りる。障害物の類は存在しておらず、純粋なデュエリストの腕が試されるフィールドだ。
 少し遅れて私達よりも頭ひとつ分ほど高いデュエリストが現れる。やや長めの髪と鋭い瞳は共に漆黒。黒革のようなロングコートに身を包み、手には指貫きのグローブ、足にはブーツ。背中には一本の長剣型のデバイス。《漆黒の剣士》という通り名にふさわしいアバターだ。
 ショウさんは静かに背中にある剣に右手を伸ばしてゆっくりと抜き放つ。ただの開戦の準備としか言えない動作だったが、私は気が付けば両手を握り締め身構えていた。

 ――これが……本当のショウさん。

 ショウさんのこれまでの印象は、どこか不器用そうで表情に乏しいところがあるけど、優しいお兄さんといったものだった。
 デュエルのときも敵対している私達を気にしてくれていたため、感じる雰囲気もどこか優しいものだった。
 でもこうして敵として向き合って……実力がある程度高まった今だからこそ分かる。
 ショウさんはただ剣を持って自然体で立っているだけ。一見隙だらけに見えるけれど、迂闊に攻撃すれば次の瞬間には返り討ちに遭っているビジョンしか見えてこない。
 体から発せられている圧力は凄まじく、もしも自分ひとりでこの場に居たとすれば、気が付いたときにはデュエルが終わっている……なんてことになっていたかもしれない。それくらい個人的な力量の差を肌に感じた。
 直後。
 1発の魔力弾が静寂を破る。それは真っ直ぐにショウさんへと向かい……漆黒の長剣に斬り裂かれた。

「いきなり顔面を狙うなんてえげつないな」
「あっさり斬ったくせによく言うね。けどまあ許してよ。みんな疲れもあってショウの圧力に怖気づいてたみたいだし」
「小さくてもお姉さんだな」
「小さいは余計だよ」

 アリシアちゃんは頬を膨らませる。これまでに何度も見た光景に緊張は薄れ、私だけじゃなく他のみんなの顔にも笑みが現れる。
 突然発砲するから驚いたけど、私達のためにやってくれたんだ。やっぱり私達より早く生まれてるだけに、こういうときは頼りになるなぁ。

「みんな、ショウなんかさっさとやっつけてご飯を食べよう!」
「そうね。あんまり長引かせてたら空腹で倒れそうだな。一気に決めちゃいましょ!」
「アリサ、焦りは禁物だよ。さっきの攻撃、不意打ちに近かったはずなのに簡単に防がれた。私達よりも格上なのは間違いないよ」
「でもそれで怯んでたら勝利なんてものは訪れないよ。胸を借りるつもりで、全力全開で挑もう!」
「うん、私は精一杯サポートするね!」

 大きく頷きあった私達は、それぞれ行動に移った。まずアリサちゃんはショウさんに向かって真正面から接近。フェイトちゃんは横に回りこむようにしながら移動する。ふたりから意識を遠ざけるべく、アリシアちゃんが銃を構えた。

「ショウ、行くよ!」

 アリシアちゃんは次々と魔力弾を放って牽制する。が、ショウさんは迫り来る魔力弾を全く力感のない動きで全て叩き斬る。かなり重量のありそうなデバイスに見えるのに、あれだけ滑らかに斬撃を放てるのは彼の努力の賜物か。
 しかし、ショウさんがどんなに優れたデュエリストでも目の前で爆発が起これば一瞬視界がゼロになる。そのタイミングでアリサちゃんは見事に飛び込んでいた。

「そこっ!」

 アリサちゃんの剣型デバイス《フレイムアイズ》の先端がショウさんの胸部を捉えた――

「っ……!」

 ――ように思えたが、ショウさんは圧倒的な反応速度で体を捻ってアリサちゃんの攻撃をかわす。彼の動きはそれだけに留まらず、素早く体勢を整え剣を構えた。回避から攻撃までのタイムロスがなさすぎる。

「やらせない!」

 気合のこもった声と共にフェイトちゃんが間に割って入り、漆黒の長剣を受け止めた。だが体重の差からか、フェイトちゃんのほうが押し返される。
 でも動きが止まった。このタイミングで……!
 私は動きを止めようとショウさんの足元を凍らせ始める。あともう少しで足を取れる! と思った矢先、再び彼は超反応を見せ、強引にフェイトちゃんを押し返すと、剣を地面に突き立て跳躍した。
 前にフェンサータイプはトリッキーな機動が持ち味と教わったが、ショウさんの動きはこれまでに見たどのフェンサータイプよりもトリッキーだ。
 だけどあんな無茶な避け方をした直後なら、そう易々と連続で回避行動は取れないはず。

「ディバィィン……バスター!」

 私達の中で最も火力のあるなのはちゃんの砲撃がショウさんを狙い撃つ。簡単に直撃をもらってくれるとは思えないが、少なくとも今浮かんでいる彼の顔には焦りのような感情が見える。
 だが――次の瞬間。
 ショウさんの瞳には諦めではなく抗いの意思が宿っていた。
 彼は迫り来る桃色の閃光を見つめながら可能な限り体勢を整え、右腕を引き絞るように肩に引き付ける。それとほぼ同時に漆黒の刀身に集束されていた魔力が弾け、紅蓮の炎へと姿を変えた。
 ショウさんの愛用している魔法《ブレイズストライク》。時として一撃で勝負を決め得る威力を秘めているだけになのはちゃんの砲撃を食い破る可能性は高い。

「う……お……!」

 かすかに漏れた雄叫びと共に真紅の流星が宙を翔ける。なのはちゃんの砲撃とは全く関係のない方向に。
 狙いをミスしたのかと思ったが、今のショウさんは空中に居る。強力な魔法というのはそれ相応の反動があるもので、撃ち出す方向とは逆向きの力が働くものだ。踏ん張りを効かせずに放てば、必然的に体はその方向へと進み始める。
 結果から言って、ショウさんはブレイズストライクの反動で砲撃の範囲から脱出した。ただ反動が強すぎるあまり、すぐに止まることはできず、何度も地面を転がる。
 人によっては無様な避け方だと言うかもしれないが、なのはちゃんの砲撃は防御魔法を使ってもなかなか受け止めきれるものではない。攻撃範囲から逃れるのが最も効果的だ。だからといって、普通のデュエリストはあの状況下で回避という選択肢は取れないだろう。
 私達が呆然と立ち尽くす中、ショウさんは剣を地面に突き刺して制止を掛け体勢を立て直した。こちらの動きに注意を払いつつ剣を地面に刺したまま立ち上がると、体のあちこちを叩き始める。

「やれやれ……ついこの間始めたばかりだって言うのに。……これは俺も本気でやらないと勝てそうにないな」

 本気。
 その言葉に驚愕と動揺が走る。
 デュエルが始まって間もないが、ショウさんの実力の高さは充分に理解させられた。先手を譲ってもらえたことで有利に運べたわけだが、あちらから攻められたらどうなるか分からない。
 なのに彼にはまだ余力があるというのか。もしそうならば、私達の勝てる可能性は限りなく低くなる。
 そんな私の思いとは裏腹に、ショウさんは左手を背中のほうに伸ばし始める。すると左肩あたりに新たな剣が出現。それをしっかり握ったかと思うと、ゆっくりと鞘から抜き放った。
 刀身部分は薄く、レイピアほどではないが細い。刃の色は1本目の剣とは対照的に純白であり、眩い光を放っている。柄の部分は青味がかった銀色。簡潔にこの剣を表現するなら『やや華奢で美しい剣』といったものになるだろう。
 ショウさんは突き刺していた漆黒の剣を右手に取る。左右の手に握った漆黒と純白の剣をクルクルと回転させ――握り締めたと思った直後、一気に切り払った。

「……行くぞ」

 低い声が耳に届いたかと思うと、ショウさんは右足を大きく踏み出し、まるで砲撃で撃ち出された如き速度でこちらに迫ってきた。



 
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