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焼け跡の天使

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4部分:第四章


第四章

 そのまま先に進むと人が集まっていた。小さい声だが活気もあった。
「活気・・・・・・何だあれは」
 イワノフはその活気に気付いた。そうして何かと思った。
「今のこの国に。何を見ているんだ」
 そうは思ったがそれでも気になった。もっとはっきり言えば興味を持ったのである。
 それでそこに行ってみた。見れば食べ物を配っていた。
「食い物か」
「そうさ、食い物さ」
 そこにいた一人が彼の言葉に応えた。見れば明るい笑顔になっている。
「美味いぜ」
「美味いのか」
「ああ、雑草とか鼠とかよりずっとな」
 そうも彼に言ってきた。明るい笑顔で。
「美味いぜ。オートミールだ」
「オートミールか」
 それを聞くと自然と口の中に唾液が溜まる。それを感じて彼は我慢できなくなっていた。さっき食べたパンの分はもう減ってきていた。気付けば空腹がまた彼を支配しようとしていたのだ。
「どうだい、あんたも」
「ああ、頂くか」
「皆食べてるぜ」
「皆か」
 見ればさっきよりもずっと人が集まっていた。彼等もまた笑顔でそのオートミールを食べている。集まりの中心には鍋があり東洋風の大きな椀にオートーミールを入れて人々に配っていたのであった。湯気まで出ていてその温かさもまた魅力的に見えた。
「なあ」
 そのオートミールを配る者達に声をかけた。見ればここの人間ではない。
「!?」
「あれ、こっちの言葉がわからないのか」
 見ればアジア系の人間だ。それはわかる。
「何処の国の人間なんだ、あんた達は」
 それでも言ったがやはり今声をかけた相手からは返事はない。ひょろっとした感じの人のよさそうな青年だが返事はないのであった。
「あっ、彼はまだこっちの言葉わからないので」
 その隣の黒い髪の若者がイワノフに声をかけてきた。
「すいません、何でしょうか」
「ああ、あんたはこっちの言葉がわかるのか」
「はい、大学で勉強しましたので」
 その黒髪のアジア系の若者はそうイワノフに答えた。
「それで日常会話程度でしたら」
「そうか。それじゃあ聞くが」
「はい」
 お椀を受け取るとそこにオートミールが入る。白いミルクの中に大麦がある。それも尋常な量ではない。しかもそこには鶏肉や茸、野菜まで入っている。少なくとも彼が最近食べたような薄いオートミールなぞではなかった。全くの別物であった。
「あんた達は何処から来たんだ?」
「日本からです」
 黒髪の若者はこう答えてきた。
「日本!?」
「ええと、ユーラシアの果てにある国です」
 そう彼に説明する。
「島国で。御存知ないですかね」
「学校で習ったかも知れないが忘れた」
 彼は首を捻ってそう述べた。
「悪いがな」
「そうですか」
「まあそれはいい。どうしてこの国に来たんだ?」
「ボランティアです」
 若者はまたイワノフに答えた。
「ボランティア・・・・・・」
「簡単な話でお助けに参りました」
 また述べた。
「些細なことですけれど」
「じゃあこのオートミールはそれか」
 彼はここまで聞いて話を理解した。
「そのボランティアで」
「この国のお話は聞きました」
 若者は戸惑いながら、だがそれでもしっかりとした声で彼に言うのだった。
「僕達、何もわかっていないかも知れません。けれど」
「助けに来たっていうのか?」
「そうです」
 またイワノフに言うのだった。何か戸惑いがちなのは何故だろうと思いながらもイワノフは彼の話を黙って聞いていた。
「いけませんか、それは」
「別にそうは言わないが」
 思いもしない。ただオートミールが嬉しいだけだ。
「いいんですね、それじゃあ」
「まあな。食えるのは事実だしな」
「有り難うございます、そう言ってくれると助かります」
 彼は今のイワノフの言葉に笑顔になった。
「僕達も」
「そんなに嬉しいのか」
「さっきも言いましたけれどここの話は聞いていました」
 彼はまたそれを言う。
「それでも予想していたよりずっと酷くて。どうしようかって思っていたんです」
「どうしようかか」
「僕達に何かできるかなって。けれどそれも」
「それも?」
「喜んでもらえるのならやりがいがありますね」
「そうだな」
 イワノフは熱いオートミールを口にした。その熱さと旨さを口の中で味わいながら答えるのであった。
「少なくとも自分では何もせずに他人を罵ってばかりの奴よりはずっといい」
「ですよね。僕もそう思います」
「けれどな、言っておくぞ」
 イワノフは言う。若者を斜めに見ながら。
「ここで食ったからといってどうにかなるわけでもない」
「どうにかなるわけでも?」
「そうだ。何もかもがなくなった」
 自分の国のことを述べる。わかっているとはわかっていてもあえて言うのだった。
 
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