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焼け跡の天使

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5部分:第五章


第五章

「何もかもがな」
「そうですか」
「まあここで食べるものが手に入ったのは有り難い」
 それは素直に頷いた。
「けれど。どうなるのかは」
「そこまでは僕達は」
「別にあんた達を責めているわけじゃない」
 それは否定した。
「だがな。ここまで壊れたんだ。もう何をすることも」
「できませんか。どうしても」
「俺はそう思う」
 その考えは変わらない。変えようがないと彼自身思っていた。
「それでもやるのならいいがな」
「ですか」
「ああ、これな」
 食べ終えたお椀を若者に差し出した。
「とりあえず有り難うな」
「どうも」
「じゃあな。またな」
「どうされるのですか、これから」
「何とか暫くは生きることができる」
 腹がふくれたせいだ。実に現実的な言葉であった。
「とりあえずまた歩いてみるさ」
「そうですか」
「ああ。だからな」
「またどうぞ」
「日本には感謝するさ」
 最後にこう言うのだった。
「このことはな。ずっとな」
「有り難うございます」
「礼はいいさ」
 だがそれにはやはりつっけんどんに言葉を返すだけであった。
「どうせそのずっともほんの少しの間だけだからな」
 そう告げてまた前へ歩いていった。歩くだけの体力は充分に回復したがそれでも気持ちが晴れることはなかった。だがそれもすぐに変わるのだった。
 前にあったものは。彼が思いもしなかったことだった。
「何をやってるんだ、今度は」
 それを見てまずはこう言った。
「一体」
「見ればわかると思うけれど」
「御前、どうしてここに」
 後ろに少女がいた。今度は思わずそちらに顔を向けた。
「ここに来るのがわかっていたから」
 一言でそう述べるのだった。
「オートミールを食べてここにか」
「ええ」
 イワノフの問いにも答えてみせてきたのだった。
「その通りよ」
「まさか。それがわかっていたのか」
「わかっていたわ」
 また言うのであった。
「全部ね」
「じゃああれか」
 イワノフはそれを聞いて少女に言葉を返すのだった。
「俺にあの中へ入れっていうのか」
「入るわよね」
 強制はしない。そのかわりにこう言うのだった。
「貴方はそうするわ」
「そうだな」
 自分でもそれを否定しない。そうしたいという気持ちが心の中から湧き出てきているのをはっきりと感じていたからだ。どうしようもないまでに。
「瓦礫をどかして」
「建物を建て直している」
 二人はそれぞれの口で述べ合う。
「それだけのことだけれどな」
「けれど。それが何なのかはわかるわよね」
「わからない程俺は馬鹿じゃないつもりだ」
 それが彼の返答だった。
「何もなくなってもまだ」
「なくなったら作り直せばいいの」
 少女は静かにイワノフに述べた。
 
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