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緋弾のアリア-諧調の担い手-

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第三話




時夜side
《幼稚園・多目的ホール》
AM:9時3分


今現在、俺は両親とは別れて、幼稚園内に存在するホールの様な施設にいた。
既に入園式は始まっており、壇上に目を向ければ、この幼稚園の園長先生が挨拶をしている。

……相変わらずだ。

何処の教育機関においても、代表の挨拶というものは上辺だけの事なのに無駄に長い。
否応なしに、眠気へと誘われそうになる。
出来るものならば、今すぐにでもサボりたい。…色んな意味で。


「……かったるいな」


俺のボソッ…と呟いた声は、周囲の音に掻き消された。

俺の周囲では、未だに落ち着きの無い子供達が興味津々と言った具合に溢れている。
マイク越しに広がる園長先生の声、そして無邪気な子供達の声。

それらが不協和音となって、何処か煩わしく思う。

俺が前世の記憶を継続して転生している為に、周りの子供と精神年齢が合わないのは当然だろう。

まぁ、前世のこの頃の俺もこの様な具合だったのだろうか?特に記憶にはない。
だが、そうだとすれば、俺もこの目の前の光景に目を瞑らなければならないだろう。

それに、俺が落ち着かない理由がもう一つある。
視線を嫌々と来客・父兄達の座る席に向ける、すると丁度目が合ってしまった。

お父さんはビデオカメラを携えながら手を振り、お母さんは優雅に手を振っている。
出雲を出る際に、お父さんはルナお姉ちゃんに俺の晴れ舞台を録画してくる様に言われていた。

……まぁ、あの親バカのお父さん達が忘れるわけがないとは思ってたけど。

一寸の隙もない様にビデオカメラを構え、カメラを連射する如くシャッターを切る。
それらに何処か、不思議と監視されている様な錯覚に陥る。

周囲の親達もビデオカメラやカメラを携えているが、家の親が嫌な事に抜きん出ている。
俺は、それに控えめに手を振り返す。そして、バレない様に軽く溜息を吐いた。


「……ハァ」

「どうかしたの、時夜くん?」


溜息を吐くと、お隣から声を掛けられた。
周囲の子供達とは違い、落ち着きを持った将来はイケメンへと成長するであろう容貌の少年が視界に映る。

俺と同じく今年から年中としての入園になる子で、この幼稚園に来てから、この世界に転生してからの初めての友人だ。

胸に付けられた名札にはひらがなで、“しらぬい りょう”と書かれている。

その幼いながらの風貌と名前で、俺は確信した。
緋弾のアリアの原作キャラである、不知火亮であると。

何の因果かは解らないが、俺は亮と同じ幼稚園へと入園した。
そして、まだ姿は見ていないし同姓同名かも知れないが、もう一人原作キャラがいる事も確認済み。


「…いや、何でもないよ亮」

「そうかい、もし具合が悪かったりしたら言ってね?」

「大丈夫だよ、心配しなくても」


そんな風に互いに名前で呼び合う程度には、この短時間で打ち解けている。
亮とそんな言葉のやり取りをしていると同時、園長先生の話も終わり、入園式も無事に終了した。






1







式が終わった後。父兄同伴の中、担任の先生の下。
自身に宛がわれたクラスである、ゆり組みでの園児同士の軽い顔見せも終わった。

入園式からここまでの経過時間が1時間半と言った所。
長い様で短い時間は、漸く終わりを告げた。


「それじゃあね、時夜くん」

「うん、またな亮」

「次に会うのは…確か来週だね?次に会う日が待ち遠しいよ」

「ああ、俺もだよ」


バイバイ…と手を振って帰る亮に、俺も見えなくなるまで手を振り返す。
それを時夜は気付いていないが、両親が温かい目で見守っている。

そうして、この世界での初友達の亮とも別れた後の事だ。
不意に、お父さんに後ろから両肩に手を置かれた。


「時夜、初日から上手くお友達が出来たみたいだな?」

「…うん、亮って子だよ。直ぐに仲良くなれたんだ」

「…そっか、良かったよ。なぁ、時深?」

「そうですね、時夜は育ちが独特でしたからね。しっかりお友達が出来るかどうか心配でした。……もしかしたら虐められたりするんじゃないかと」


時深はそんな息子の姿を見て、安心する様に、そっと息を吐く。

母親の思考に心配症だとは思うが、否定出来ない部分もある。特に虐めに関してだ。
俺の前世でも、園児同士の虐めというものはランクは低いがよく報道等で放送されていた。


「…俺は大丈夫だよ、何かあったら直ぐ言うからさ」

「…そうだ、時夜に何かあったら情報科や探偵科の総力を挙げて対処するしな」


……果たしてそれは大丈夫と言えるのだろうか?
国家権力の無駄使いとしか思えない。家の親も親バカとは言え、そこら辺は弁えてると思ったのだが。

…激しく不安だ。
もしそんな事態に陥って、次の日に園児が数人消えていたりすると思わず、ゾッ…とする。


「とにかく、俺は大丈夫だから。そこまで気にしなくてもいいよ」


そう釘を刺しておかないと、本当にやりかねないのが恐い所だ。

うん。
とにかく、俺もそんな状況に陥らない様に上手く立ち回ろう。






2






「………」

「時夜、大丈夫ですか?」

「……うん、なんとかね」


お父さんの背中におぶられた俺へと、そうお母さんが心配そうな声音で訊ねてくる。
幼稚園を出た後の事、再び東京の街中を歩いていた俺は人混みに具合が悪くなった。

どうやら、俺は相対的に見てこの大都会とは相性がとことん合わないらしい。
だが、これから暫くは此方で暮らす事になるのだ、早めになんとか慣れるしかないだろう。


「…お父さん、まだなの?」

「うん?もうちょっとだ、もうすぐ着くよ」


俺は背中越しに、お父さんへと問い掛ける。
それにお父さんは前を向きながら、そう答える。

現在俺達はお父さんが用事があるという事で、都会のテナントビル郡の連なる場所を歩いていた。
そうして路地裏へと歩みを進めて漸くして、その場所へと到着した。


「着いたぞ、時夜。…大丈夫か?」

「……んっ、大丈夫」


そうして背中から降ろされた俺は、既にグロッキー状態であった。
そんな俺の様子を見て、お父さんがそう口にする。

だが、見え透いた強がりだがそう言葉にする。


「そうか、直ぐに終わるからな。終わったら直ぐに帰ろう」


そうして、お父さんは小規模ながら小洒落た扉を開く。
建物の外観からして、何かのお店だろうか?

俺はお父さんの後に続く様にして、お母さんと後に続く。


「よう、俊博」

「ああ、凍夜か。久しぶりだな、大体一ヶ月振り位か?」

「そうだな、元気だったか?」

「まぁ、ボチボチだな」


お父さんは室内にいた、少々小太りな男性へと声を掛ける。
室内を見れば、洋菓子が並べられ、ショーケースには美味しそうなケーキが並んでいる。

それらに目移りしていると、お父さんとその男性は話に花を咲かせていた。


「ご無沙汰しています、俊博さん」

「おお、時深のお嬢ちゃんも久しぶりだな。相変わらず綺麗だ」

「ふふっ、お世辞として受け取っておきますね」

「……おい、俊博。人の妻を口説くとはいい度胸してるじゃないか?」


ドスの効いたお父さんの声が敵意を持って男性へと向けられる。
俺的には、お父さんのそんな声は生まれて初めて聞いた。

まぁ、人前で自分の妻を口説かれるのは見ていて良い気分ではないだろう。


「…いや、まぁ…んっ?」


そのお父さんの軽い殺気の混じる視線に、男性は気圧されて、視線が宙を見据える。
そこで漸くして、その人の視線が俺へと向けられた。


「初めまして、倉橋時夜と言います。いつも、両親がお世話になっています」


そうして、俺はペコリ…と頭を下げる。
何事も、第一印象が大切だと、俺は前世の親に口を酸っぱくして言われていた。
既に習慣着いた為に、一部の隙もなくそう頭を下げる。


「…あぁ、これはどうもご丁寧に」


今度は別の意味で気圧されたのか、男性の思考が一瞬凍結して、その声がどもる。
まるで何が起こっているのか、理解出来ないかの用に、呆けた顔をしている。


「……凍夜、もしかしてこの子が以前話に出ていたお前の所の子供か?」

「おう、本人からも自己紹介があったと思うが、俺達の子で時夜って言うんだ」

「あぁ、確かに二人の面影があるな。…しっかし、出来た息子だな。凍夜とは大違いだ」

「…どういう意味だ、俊博?」

「…そのままの意味さ。おじさんの名前は綾月俊博だ。よろしくな時夜くん」

「はい、よろしくお願いします綾月さん。」


俺は再び、親交の意を込めて頭を下げる。
そんな俺に対して、綾月さんはその行動を直に制する。何でも、そこまでされるとむず痒くなるとか。


「時夜、俊博さんはこの近所では有名な“綾月洋菓子店”という、このお菓子屋さんを経営しているんですよ?」

「凄いんですね……んっ?」


母の告げた知識に純粋に頷く。
前世においても、俺は料理系統のスキルは壊滅的だった。

故に、こうした一つの芸術品の様なお菓子を作るパティシエには感嘆の意を覚える。


綾月さんの後ろから、ひょい…っと顔を出した少女と不意に目が合った。
その少女は目線が合うと、綾月さんの後ろに隠れてしまった。

だが、その髪型故かツインテールの片方が隠れていない。
頭隠してツインテ隠さずとは、正にこの事か。


「…綾月さん、その後ろの子は?」

「んっ?ああ、おじさんの娘だよ。芽衣夏」


後ろにいる事に気付いていなかったのか、振り返る。
そうしてその子を、芽衣夏と呼ばれた少女を前面に押し出す。


「…ちょっと、このバカ親父っ!」

「ほら、芽衣夏お前も挨拶位しなさい」

「…綾月芽衣夏」


そう不機嫌そうに告げると、少女は店の中へと隠れてしまった。
もしかして、嫌われちゃったのかな?


「…あぁ、アレは少しシャイな所があってね。見た所、同じ幼稚園なんだ。まぁ、仲良くしてやってくれないか時夜くん?」


俺の心を見透かした様にそう綾月さんが告げる。


「はい、解りました」


仲良く出来るのであれば、そうしたい所だ。
これが俺と彼女、倉橋時夜と綾月芽衣夏の何とも言えないファーストコンタクトだった。






3







綾月洋菓子店でケーキを受け取り、俺達は外界の自宅へと帰宅した。
お父さんの用事とは、俺の顔見せと、俺の幼稚園の入園祝いのケーキを受け取る事であった。


「…しっかし、立派な家だね」


俺は家の外門の前に立ち、その外観を見据える。
今では珍しい武家屋敷の様な厳格な門に、その中に広がる広い日本庭園、そして自宅である日本屋敷。

とてもじゃないが、凄いの一言に尽きる。凄すぎて、逆に言葉がそれしか思いつかない。
閑散とした現代日本の住宅街に、この一軒だけが時代を取り残されたかの様に存在している。

この屋敷はお母さんが設計を手掛けたらしいのだが、一体どれだけのお金が動いているのか。
逆にそれを考える事が怖い位だ。

色彩豊かな和花の咲く庭園を歩きながら、俺は玄関の扉が開くのを待つ。
インターホンを鳴らしたので、留守番をしているリアが応接に現れる事だろう。

……それにしてもだ。

俺は屋敷へと目を向ける。その中から多大なマナを感じ取る。
俺はそれに思わず、思わず冷汗を掻くが、両親は気にした様子はない。


「お帰りなさい、主様。御二方」


玄関の扉が開く。そうして、碧銀色の髪を靡かせて、リアがその姿を覗かせる。
それぞれ互いに、帰宅の挨拶を済ます。そして、家へと漸く帰宅する。


「如何でしたか、幼稚園の方は?」

「ああ、早速友達が一人出来たよ」

「それは大変喜ばしい事です」


玄関へと入ると、それは顕著であった。
目には見えないながらも、膨大なマナが屋敷内に満ちている。

玄関で靴を脱いでいると、不意に見慣れない民族衣装の様な装飾の靴が目に映った。
そして、それとは意外性に欠けるが女性物のフォーマルシューズ。


「なんだ、もう来てたのか」

「…意外と早かったですね、二人共着くのが」

「……んっ、誰か知ってるの?」

「主様も知っている方達ですよ?」


両親は訪れているマナの持ち主達の事を知っている様だ。
俺が知っている?俺はリアの言葉に首を傾げる。一体誰だろうか。

両親に続く様に、居間へと入る。
そして二人の見慣れた女性が目に映る。


「あっ、来た来た!久しぶりだね、時深!凍夜!…時夜くんもまた大きくなったね!“リコ”もそう思うよね?」

「…二人共お久しぶりですぅ、“ユキナ”の言う通り、大きくなりましたねトキヤ」


一人はピコピコハンマーを片手にした赤髪の活発そうな少女。
そしてもう一人はおっとりした口調とは裏腹に露出の多い着物を着ている黒髪の少女。


「…ユキナお姉ちゃんに、リコお姉ちゃん?」


俺は本来この時間樹に存在しない二人の女性に思わず目をパチクリ…とする。
俺は答えを求める様に、両親へと視線を傾ける。両親はドッキリが成功したかの様に顔を見合わせている。

永遠神剣第二位“縁思”の担い手、 縁思のユキナ。
そして永遠神剣第三位“破壊”の宿り手、破滅の導きパウリコスカ。

その二人の永遠存在が何故、この世界にいるのかと。


「二人共、時夜の幼稚園の入園を祝うのに態々来てくれたのですよ」


俺の心内を代弁するかの様に、お母さんがそう言葉にする。


「そうですよぉ…時夜のおめでたい日なのだから、例え邪魔する物があれば世界ごと破壊してでも来ますよ」

「…あ、ははは…ありがとうリコお姉ちゃん」


リコお姉ちゃんなら本当にやりそうだから怖い。


「それじゃ、主賓も来た事だし宴を初めよっか!」

「そうだな、ケーキも受け取ってきたし」

「料理は私が僭越ながら用意させて貰いました」

「当然、プレゼントも用意していますよぉ」


それぞれがそれぞれに目配せをして、阿吽の呼吸を見せる。
どうやら、知らされていなかったのは俺だけだったらしい。

あれやこれやと、すぐさま用意が始まる。
……まぁ、こう言ったサプライズも悪くはないだろう。

思わず自然と笑みが零れる。
……本当に、俺はこの世界に来て良かったと思う。

それが例え、一度の間違えだったとしてもだ。


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