| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ウルキオラの転生物語 inゼロの使い魔

作者:銭亀
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第4部 誓約の水精霊
  第5章 水の精霊

農夫が愚痴を言いたいだけ言って去って行った後、モンモランシーは腰にさげた袋から何かを取り出した。

それは一匹の小さなカエルだった。

鮮やかな黄色に、黒い斑点がいくつも散っている。

カエルはモンモランシーの掌の上にちょこんと乗っかって、忠実な下僕のように、まっすぐにモンモランシーを見つめていた。

「カエル!」

カエルが嫌いなルイズが悲鳴を上げて、ウルキオラに寄り添う。

「趣味の悪いカエルだな」

「趣味が悪いなんて言わないで!私の大事な使い魔なんだから」

どうやらその小さなカエルが、モンモランシーの使い魔らしい。

ウルキオラはこいつと同類なのか?、と思うと何とも言えない気持ちになった。

モンモランシーは指を立て、使い魔に命令した。

「いいこと?ロビン。あなたたちの古いお友達と、連絡が取りたいの」

モンモランシーはポケットから針を取り出すと、それで指をついた。

赤い血の玉が膨れ上がる。

その血をカエルに一滴垂らした。

それからすぐに、モンモランシーは魔法を唱え、指先の傷を治療する。

ぺろっと舐めると、再びカエルに顔を近づける。

「これで相手は私のことがわかるわ。覚えていればの話だけどね。偉い精霊、旧き水の精霊を見つけて、盟約の持ち主の一人が話をしたいと告げて頂戴。わかった?」

カエルはぴょこんと頷いた。

それからぴょんと跳ねて、水の中に消えていく。

「今、ロビンが水の精霊を呼びに行ったわ。見つかったら、連れてきてくれるでしょう」

「そうか」

ウルキオラは答えた。

「やってきたら、悲しい話をしないとな。彼女思いの話でもしようかな。かなり古いけど、失恋の話がいいかな?」

ギーシュはうーむ、と首を傾げた。

「悲しい話?なんでそんなのするのよ」

「だって、水の精霊の涙が必要なんだろ?泣いてくれるようなことをしなければならんだろう」

「馬鹿なの?」

「バカか?」

ウルキオラとモンモランシーの声がハモる。

ギーシュは、え、え?、と二人を交互に見る。

「無知だな。水の精霊の涙は通称だ。涙そのものではない」

ウルキオラは屑を見るような目で見つめた。

本の知識は絶大なものである。

ルイズはウルキオラが自分の相手をしてくれないので、寂しそうに顔をウルキオラの背中にすりすりと擦りつけている。

ウルキオラは無視を決め込んでいる。

「だったら水の精霊の涙はなんなんだい?」

ギーシュが尋ねた。

「水の精霊は……、人間たちより、ずっと、ずっと長く生きている存在よ。六千年前に始祖ブリミルがハルケギニアに降臨した際には、既に存在していたというわ。その体は、まるで水のように自在に形を変え……、陽光を受けるとキラキラと七色に……」

そこまでモンモランシーが口にした瞬間、離れた水面が光り出した。

水の精霊が姿を現したのである。




ウルキオラが立っている岸辺から、三十メイルほど離れた水面の下が、眩いばかりに輝いている。

まるでそれ自体が意思を持つかのように、水面がうねうねと蠢いた。

それから餅が膨らむようにして、水面が盛り上がる。

ウルキオラはその様子を見つめている。

まるで見えない手にこねられるようにして、盛り上がった水が様々に形を変える。

巨大なアメーバのようなその姿であった。

確かにキラキラ光っていて綺麗だが……、どちらかというと気持ちが悪い。

湖からモンモランシーの使い魔のカエルがあがってきて、ぴょんぴょん跳ねながら主人の元に戻ってきた。

モンモランシーはしゃがんで手をかざしてカエルを迎えた。

指でカエルの頭を撫でる。

「ありがとう。きちんと連れてきてくれたのね」

モンモランシーは立ち上がると、水の精霊に向けて両手を広げ、口を開いた。

「私はモンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ。水の使い手で古き盟約の一員の家系よ。カエルにつけた血に覚えはないかしら。覚えていたら、私たちにわかるやり方と言葉で返事をして頂戴」

水の精霊……、盛り上がった水面が……、見えない手によって粘土がこねられたようにして、ぐねぐねとかたちをとり始める。

その様子をじっと見ていたウルキオラは、驚いた。

水の塊が、モンモランシーそっくりの形になって、にっこりと微笑んだからだ。

それから無表情になって、水の精霊はモンモランシーの問いに答えた。

「覚えている。単なる者よ。貴様の体を流れる液体を、我は覚えている。貴様に最後にあってから、月が五十二回交差した」

「よかった。水の精霊よ、お願いがあるの。あつかましいとは思うけど、あなたの一部を分けてほしいの」

水の精霊はにっこりと笑った。

「笑ってくれたぞ!OKみたいだね!」

ギーシュは大声で叫んだ。

しかし、その口から……、というか、どこから声が出ているのかはわからないが、出てきたセリフはまったく逆だった。

「断る。単なる者よ」

「そんな……」

モンモランシーは目線を地面に落とした。

そんな様子を見て、ウルキオラが前に出た。

「水の精霊とやら」

「ちょっと!ウルキオラ!やめなさいよ!怒らせたらどうするの!」

ウルキオラのあまりにも敬意の籠っていない言葉にモンモランシーは激昂した。

ウルキオラは無視を決め込む。

水の精霊は、ウルキオラをじっと見つめている。

そして、驚愕する。

水の精霊の様子に、ギーシュとモンモランシーはポカンとした。

「お主、まさか…我と同じ精霊か?」

水の精霊の言葉に、モンモランシーとギーシュはウルキオラの方を向いた。

「ど、どういうことだね!ウルキオラ!」

「あなた…精霊なの?」

しかし、ウルキオラは二人の質問など耳には入っていなかった。

ただただ、水の精霊を見つめている。

そして、胸のファスナーを少し、下した。

首下に、黒い穴が見える。

「俺は精霊ではない。虚だ」

モンモランシーとギーシュは、ウルキオラの穴を見て、それぞれの感情を露わにした。

「な、なんだね!その穴は!は、早く治療しなければ!!しし、死んでしまうぞ!」

「なんでそんなところに穴が開いていて生きてるのよ!」

ギーシュはあたふたして、地団太を踏んでいる。

モンモランシーは、一歩後じ去った。

「虚?聞いたことのない名だ」

「だろうな。俺はこの世界の住人ではない。まあ、人ならざる者としてはお前と同類だ」

水の精霊は、少し考えた後、言った。

「よかろう。我の体を分けてやろう。人ならざる者よ」

「そうか」

ウルキオラは服のファスナーを上げた。

「しかし、条件がある。人ならざる者よ」

「なんだ?」

「我に仇名す人間を、退治して見せよ」

一行は顔を見合わせた。

「退治…だと?」

「さよう。我は今、水を増やすことで精一杯で、襲撃者の対処にまで手が回らぬ。その者どもを退治してくれれば、望み通り我の一部を進呈しよう」

「いいだろう」

こうしてウルキオラは、なぜか水の精霊を襲う連中をやっつけることになってしまった。




水の精霊が住む場所は、遥か湖の底の深く。

襲撃者は夜になると、風の魔法で空気の玉を作って、水の中に入り、湖底にいる水の精霊を襲うという。

ウルキオラたち一行は、水の精霊が示したガリア側の岸辺の木陰に隠れ、じっと襲撃者の一行が来るのを待ち受けた。

ギーシュは戦い前の景気づけなのか、ウルキオラの隣で持ってきたワインをあおっている。

そのうちに歌いだしそうなぐらいテンションがあがってきたので、ウルキオラに小突かれた。

ルイズと言えば、ウルキオラがモンモランシーとばかり話しているので、相当ご機嫌斜めだった。

私よりモンモランシーがいいのね、好きなのね、いいわよ勝手にすれば、でも嫌いにならないでね、うわーん、とかわあわあ泣いたり怒ったり、喚いたりしたので、疲れてしまったのか、今は毛布に包まり、くーくー隣で寝息を立てている。

まるで子供のようだ。

薬のせいなのだろうが、ひどく恋に落ちると、誰でもそんな風になってしまうものなのかもしれない。

「へー、そんな種族が存在していたのね~。それで、その十刃ってのは一が一番強いんでしょ?」

モンモランシーがウルキオラに尋ねた。

ウルキオラはモンモランシーがしつこく自分の種族について聞いて来るので、仕方なく話したのだ。

「ああ」

「それで、あなたは何番なの?二番とか?」

ウルキオラはしばらく考え込んで、胸のファスナーを下した。

左胸にその答えが記されていた。

「四だ」

モンモランシーは目を見開いた。

そして溜息をつく。

「あんたで四って……恐ろしいもんだわ」

モンモランシーは頭に手を当て、やれやれといった身振りをした。

ウルキオラは目を伏せ、溜息をついた。

まったく、このハルケギニアの人間は、訳のわからん連中でいっぱいだ。

二つの月が、天の頂点をはさむようにして光っている。

深夜だ。

ウルキオラは探査回路を発動した。

モンモランシーは、そんなウルキオラの様子が怖くなったのか、震える声で呟いた。

「とにかく、私は戦いなんて大っ嫌いだから、あなたに任せたわよ」

「安心してくれ、モンモランシー。僕がいる。僕の勇敢な戦乙女たちがならず者共を成敗してくれる」

ワインでへべれけに酔っぱらったギーシュが、モンモランシーにしなだれかかった。

「いいから寝てて、お酒臭いし」

「安心しろ。お前に期待などしていない」

ギーシュは赤い顔で反論したが、ウルキオラは無視した。

ルイズの寝顔を見つめた。

「待っていろ」

小さく呟いた。




それから一時間も経った頃だろうか。

岸辺に人影が現れた。

人数は二人。

漆黒のローブを身に纏い、深くフードを被っているので男か女かもわからない。

しかし、ウルキオラはまだ飛び出さない。

あらわれた人物が、水の精霊を襲っている連中だと、決まったわけではない。

しかし、その二人組は、水辺に立つと杖を掲げた。

間違いないな、と思い、ウルキオラは立ち上がると、木陰から飛び出した。

連中までの距離はおよそ三十メイル。

虚の力と、イーヴァルディーの力を発動させたウルキオラにとっては、1秒もかからない。

しかし、ここで思わぬ乱入者が現れた。

木陰に隠れたギーシュが、魔法を唱えたのである。

二人組のたった地面が盛り上がり、大きな手のような触手となって、襲撃者の足に絡みついた。

「バカが…余計なことを…」

ウルキオラは悪態をついた。

敵の反応は素早かった。

背の高い方の襲撃者は、地面が盛り上がるのと同時に呪文を詠唱したらしい。

杖の先から溢れた炎が、二人の足をつかむ土の戒めを焼き払う。

小さい方の人影は、呪文を詠唱したギーシュに向け、風の魔法を放った。

ウルキオラは素早く身を捻り、ギーシュの前に立つと、その魔法を片手でかき消した。

「た、助かったよ…」

「失せろ…邪魔だ」

ウルキオラの言葉通りに、ギーシュは奥に避難した。

その直後、ウルキオラの体に衝撃が走った。

以前、片手で受け止めた記憶がある。

エア・ハンマーだ。

間髪入れずに、氷の矢が飛んでくる。

ウルキオラはそれを虚弾で迎え撃った。

氷の矢はバラバラにはじけ飛び、虚弾の余波が、小さい方の襲撃者を襲う。

氷の矢を迎え撃ったので、威力が落ちていたのか、吹き飛ばしはしたが、致命傷には至っていないようだ。

背の高い方のメイジが、ウルキオラの場所めがけて巨大な火の玉を放ってきた。

ウルキオラはそれを右手で受け止め、握りつぶした。

黒い煙が、ウルキオラの周りを覆った。

ウルキオラは響転で素早く移動した。

小さい方の襲撃者は、既に体制を立て直し、呪文の詠唱を始めている。

ウルキオラが決着をつけようと虚閃を放とうとした瞬間、ウルキオラと襲撃者達の間の空間が爆発した。

この魔法は……、ルイズか?

「ウルキオラをいじめないでーーーーーッ!」

ルイズの絶叫が月夜に響く。

ウルキオラは目を見開いた。

ルイズは自分を助けようとしたのか?

寝ていたというのに…。

微笑する。

馬鹿な奴だ…俺が負ける訳がないだろう。

ウルキオラは襲撃者に向き直る。

人間にしてはなかなかやる。

一人一人の力は大したことないが、連携がうまく取れている。

だが、大したことではない。

響転で襲撃者との距離を詰めようとしたその瞬間……。

二人組がぴたりと動きを止めていた。

ルイズの絶叫で、何かの気づいたらしい。

それからばっと被ったフードを取り払った。

月明かりに現れた顔は……、

「キュルケ!タバサ!」

邪魔と傍観しかしていなかったギーシュが叫ぶ。

「お前たちか」

ウルキオラは襲撃者の正体に、戦いの意欲を削がれてしまった。

「あなたたちなの?どうしてこんなとこにいるのよ!」

キュルケも驚いたように叫んだ。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧