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仮面ライダー真・智代アフター外伝

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四話「とも」

 
前書き
久しぶりにシンと智代は、ともの故郷の施設を訪れます。しかし……?

 

 
揺れる電車の中、俺は窓から移る街の風景を宥めていた。隣には智代が座って俺の肩に寄り添っている。未だ、違和感があるものの、俺は徐々に朋也なんだという自覚を持ち始めていた。
今、俺たちが電車へ向かっているのは、智代が俺の記憶を呼び覚ますために前世の朋也であった頃の思い出の場所へ連れていくといくらしい。
そして、俺に会わせたい少女がいるそうだ。向かう先は山奥の精神病を抱えた人たちの住む集落、そしてその場所で今でも生活している少女とは……?
                     *
智代のアパートにて、

「とものところへ連れてく!?」
河南子の声が部屋中に響いた。
「お隣に迷惑だよ?河南子……」
隣でノートPCをやっている鷹文が注意する。
「で、でも……シンオッサン……じゃなかった、今の朋也のことを知ったら、ともちゃんは……」
当初、河南子と鷹文も俺が朋也だなんて信じがたかったようだが、智代の説明によって徐々にだが信じてくれるようになった。
「……それで、これからどうするの?」
鷹文は、今後組織にばれてしまった以上追われる身となる智代と朋也が不安になった。
「警察に行ったほうがいいんじゃないかな?」
警察へ行って組織を逮捕するならまだしも、ついでに朋也の正体もばれてしまう。そうなったら余計にややこしくなり、最悪の場合朋也は智代と離れ離れになる恐れがある。
「とにかく、私と朋也はひとまず留守にする。それと、シンが朋也だとわかった以上、彼の記憶を呼び戻さないといけないからな?」
「じゃあ、記憶を取り戻すために先輩と旅するってことに?」
「そうなるな……」
「シンオッサン! 先輩に変なことすんなよ?」
「朋也って言わないのか? まぁ……好きにしろ」
ため息をついて俺は智代と共に、その「とも」という少女が住む集落の施設へ向かった。
                      *
「……ここか?」
目の前に広がる集落は、大小の畑に囲まれて中央に木造の建物がそびえている。そして、その隣に同じ木造で建築された小さい建物も見えた。
「ああ、ここがとものいる施設だ……」
「……」
俺は、妙に懐かしさがこみ上げてきた。初めて見る景色にしては見覚えのある場所である。
「さ、こっちだ。予め私が連絡をしておいた。ともも待っているぞ?」
「……ああ」
俺は、抵抗を持ちながらも彼女の手に引かれて集落へ向かった。まず、この集落を管理しているという施設長の女性の元へ向かった。あの中央にある木造建築だ。

「あら? いらっしゃい」
一人の女性が事務室から出てきて俺たちを出迎えてくれた。客室のソファーに座らせてコーヒーを出し、これまでのともの成長を話してくれた。一様、俺のことは朋也の双子の弟と伝えているらしい。
「……本当、御兄さんにそっくりね?」
「あ、はい……」
俺は、苦笑いした。
「……あなたの御兄さんは、この施設のために自分が重傷を負ってでも、ともちゃんのために必死になてあの校舎を建ててくれたの。あの子は、今もあの校舎で勉強をしているわ?もう小学生なんだし、そろそろ近くの学校へ行ってみるよう誘っているのに、この校舎じゃなきゃ嫌って言って聞かないの」
「……よっぽど、気に行っているんですね?」
俺は、その校舎に思い入れがあるようだと感じ、微笑んだ。そして、その校舎が気にかかる。
「あの……よろしければ、校舎をのぞいてもよろしいですか?」
「ええ、もちろんよ? ちょうど、ともちゃんも勉強を終えて帰ろうとしているころだし。来てくれたらとても喜ぶわよ?」
その俺の言葉に施設長は喜んで案内してくれた。
校舎は、田舎の学校としてはとても小さい建物で、教室は一室しかない。それでも自然に囲まれた風景がとても絵になり、幻想的で美しく見えた。そして、そんな教室の窓際から一人の少女がノートに黒板のを写し書きしていた。
「とも……!」
ふと、俺は少女の姿に懐かしい面影を感じ、彼女の名を口にした。
「……?」
ともは、背後の気配に気付いてふと振り返った。そこにはいつも会う施設長と、自分の義母となった女性、そして……
「ぱ、パパ……?」
既に他界した義父であるも、それでも目の前に現れた時は、彼の死など等に忘れ、血相を書きながら教室から飛び出してきた。
息を切らして、俺の元へ駆け寄る少女はそのいたいけな瞳で俺を見上げた。
「……」
俺も、どこかに感じる懐かしさを引き出して、少女を見た。
「ともちゃん? こちらは、朋也さんの御兄さんよ?」
「……」
やはり、父ではない。現実に戻った彼女は我に返ると、静かにお辞儀をした。
教室の席に座って、ともはシンと楽しげに会話をしていた。彼女自身も、最初は朋也の兄ということに抵抗を感じていたが、兄の面影と風格が、彼女に親近感を与えた。
「本当の親子のようだな……?」
智代は、シンと手をつないで歩くともを見て微笑ましい光景に感じた。
「そうね? あんなに笑ったともちゃんは久しぶりに見たわ……」
――この微笑ましい光景がずっと続いていたら
智代は、そう思った。もし朋也がシンとして蘇らず、あのまま生き続けていれば、きっととももあのように朋也に懐いて一緒に遊んでいただろう?
「智代!」
シンが、ともに手を引かれてこちらへ歩み寄ってきた。
「どうした?」
「ともが、俺と散歩したいっていうから、ちょっとそこまで一緒に歩いてくる」
「ともと?」
「ママ、いいでしょ?」
そうねだるともを見て、智代は不安を忘れて許可した。
「わかった。けど、あまり遠くへ行かないようにな?」
と、智代はそれだけ言うと、森の道へ入る二人を優しく見守った。
――ああやって見ると、本当の親子のようだな?

「ねぇ、おじちゃん?」
森の中、ギュッとシンの手を握りしめるともは、無表情で歩くシンの顔を見上げた。
「ん……なんだい?」
ともの可愛らしい声にシンは顔を下ろした。
「ママと……仲がいいの?」
「ママ……?」
「智代ママのことだよ?」
「智代? アイツ、結婚してたのか?」
「ううん? 智代ママが私を拾ってくれたの。本当のお母さんは不治の病で余命を告げられて、そんなお母さんは、私に悲しい思いをさせたくないって言うから、私を智代ママのところに預けたの」
「……」
いろいろと深い事情があるようで、なぜかシンは自分とつながりが深いように思えた。
「それで、ママとはどうなの?」
「智代とか……」
一様、同居という形で一緒に住んでいるが……ここはどうこたえるべきなのかシンは選択に戸惑った。
「……」
ジッと真剣な眼差しでこちらを見つめるともに、シンはさらに焦らされる。
「それはな……」
「……」
「その、普通… … かな?」
とりあえず、中間を取った答えを出したが、
「そう、なんだ……」
ともは、無表情になり、そう呟いた。
「……」
しばらくは、気まずい雰囲気と沈黙が少し続いた。しかし、時期に口を開いたのはともだった。
「おじちゃん……なんだか、パパみたい」
「俺が……?」
「うん、おじちゃんを見ていると、なんだかパパが生き返ったみたいに見えて……」
「そうか……」
もし、シンが本当に記憶を取り戻していたのなら、彼はともに朋也であることを明かすだろう。しかし、記憶がない以上、下手に喋ることはできない。
「久しぶりに養子ちゃんと出会えた気分はどうだい? 朋也」
「……!?」
ふと、背後から何の気配もなく忍び寄り現れた青年にシンは振り向いた。
「この間は、智代を無事に救い出したね? それどころか、初号機を倒してステージをクリアするなんてさすがだよ?」
「何故、お前がここに……!?」
「何故って……次のステージのボスは、この僕だからさ?」
と、親指を自分に向けてにやける青年に、シンは険しい表情で見つめる。
「で、どうする? 初号機を倒したんだから、俺は容赦しないよ……?」
残忍に笑む青年に、シンは身構えする。
「おじちゃん……」
嫌な雰囲気に包ま、ともは震えながらシンの後ろへ隠れた。
「……とも、お前はすぐに智代の元へ帰ってろ?」
「お、おじちゃん……?」
「早く!」
「……!?」
シンの叫びに、ともは驚いて逃げるかのように智代の元へ戻った。
「じゃあ……やろうか?」
邪魔者が居なくなったところで、青年は姿を変えた。その姿は、自分と同じ瓜二つのバッタを象った姿だった。しかし、シンのように緑色ではなく、体全体は黒く染まっていた。
「……!!」
シンは、身構えしてあの化け物の姿へと変身する。肌色の皮膚が引き裂かれ、肉が割れるようにメキメキと嫌な音を立て、そして額に二本の触覚が生え立つ。
「ウガァ……」
シンは、変身を終えて同じ姿となった青年をにらんだ。
「じゃあ……行こうぜ!」
青年がそう言い切った刹那、瞬間に青年はシンの懐へ迫り、彼の鳩尾へ拳を与えた。
「グゥ……!」
緑色の血を吐き出してシンは吹き飛ばされ、後ろの大木に叩き付けられた。
「くっくっく……その程度とは言わないよねぇ?」
「く、くそぉ……!」
起き上がると、俺はすぐさま反撃に出て飛びかかる。しかし、俺の攻撃は奴に軽々と交わされてしまった。
「それで実力かい? もっと僕を楽しませてくれよぉ!?」
背後から回り込んでからの蹴りで、俺は再び木へ叩き付けられる。奴との戦いには、圧倒的な差が存在した。このままでは勝てない。俺は……今度こそ死んでしまうのか?
「朋也!?」
ともの助けを聞いて、智代が血相を書いて駆けつけに来た。しかし、そこは既に修羅場となっている。
「智代! 危険だ、逃げろ!?」
「智代……?」
ふと、化け物の青年が智代へと振り向いた。そして、彼女を見た途端青年は変身を解いて元の若者の姿へと戻った。そんな彼の姿を智代は目を見開く。
「そ、そんな……まさか、お前が!?」
智代は、出す言葉を失いかけた。目の前の青年、髪は染めていなくとも学生時代から朋也の悪友として長い付き合いを得てきた友人、その彼が目の前で、それもあのよのような斯様な姿で彼女の前に現れたのだ。
「久しぶりだね? 智代……」
青年は彼女の名を口にした。
「春原……」
智代は、懐かしい名を口にする。
「どうして、お前が……?」
信じられない。夢でもているのだろうか? 智代は何度も目の前の現実を疑った。しかし、悪夢ではない。現実だった。
「……理由など、どうだっていい。今の俺は、人間じゃない……今の俺は、ただの化け物だ」
春原は、そう言うと木の上に飛び乗って姿を消した。
「ぐ、うぅ……」
起き上がるシンも、元の人間へ戻り、鳩尾を抱えながら起き上がる。
「シン! しっかりしろ!?」
智代は、苦しむシンを抱え起こした。
「大丈夫だ……それよりも、ともは?」
「おじちゃん……?」
「とも!?」
俺は、木の影から身を隠していたともを見た。そして、彼女の目が普通ではないことも知る。
「……」
ともは、泣きそうな顔で怯えていた。やはり、変身を見られてしまったのだろう。
「とも……」
俺が、ともへ手を伸ばそうとした途端。
「!?」
ともは、二人に背を向けて逃げだしてしまった……
「……」
智代は、そんな彼女の姿を見て、今にも泣きそうなほど胸を痛める。もちろん、あのような幼気な少女に悍ましい姿をさらしてしまったのだ。俺も、心の底から傷ついてしまう。

「シン、私からともへ事情を説明しておく。お前は……戻って手当てを受けるんだ?」
「ああ……」
おそらく、智代がともへ事情を話してたって、何の意味もないとおもう。しかし、あのまま放っておくわけにもいかず、騒ぎにならないようにうまく説明しないと。
その後、俺は智代と共に施設へ戻った。施設長が血だらけになった俺を見て驚いたが、そこらへんは適当な理由を付けて誤魔化した。
「とも……私の話を、聞いてくれないか?」
「いや……一人にして?」
「とも……」
智代は、しばらくたってともの部屋へ行ってみたが、ともは鍵をかけて、誰とも会いたくないと言い張って泣いていた。
「シンおじさんのことなんだが……」
「……」
しかし、布団にもぐって両耳を塞ぐともには何を言っても聞いてくれなかった。
「……とも? これだけは言わせてくれ? おじさんは…・・・・『お化け』じゃない」
「……?」
僅かに聞こえた智代の一言が、ともの目を丸くさせた。
「言いたのはそれだけだ。じゃあ、お休み……」
そう言って、智代はともの部屋から離れて行った。義母が最後に発したその一言が、妙にともの心に沁みついた。
――わかってる。智代ママの言うことはわかっているのに、でも……どうしたらいいか、わからないの!
今の叔父と、どう触れ合い、どう接していいのか、そしてあの恐ろしい姿を受け入れることができない事実に、ともは苦しんだ。

「当分、口をきいてくれないだろうな……?」
通路を歩いてため息をつく智代の前に、「よう?」と、表情を曇らせながらシンが出てきた。
「シン……?」
「智代……」
しかし、シンは浮かない顔をしていた。それは当然であると智代もわかってはいるが……
「どうした?」
「今日、お前が言った『菅原』ってやつのことだが……」
「菅原、そうだな? 私が言っていたな……?」
「俺の記憶に関係する人物なのか? でも、どうしてそいつがあんな化け物に?」
やや、感情的になる彼に智代は落ち着いて話した。
「落ち着いて聞いてくれ? とりあえず、別の場所へ行こう?」
智代は、俺を連れて休憩室の広間へ向かい、そこでソファーに座りながら彼女の話を聞いた。
菅原陽平、俺の友人らしく始めは不良だったが、現在は平凡なサラリーマンとなって生活を送っている。そこまでが、智代が知っている情報だ。その後どうなったかは連絡が取れないらしい。
「菅原はな? 最初、お前と一緒に私に絡んできた男子だったんだぞ?」
「ほお……?」
「それでな? いろいろとバカなことをやっては騒ぎを起こして……でも、お前との絆はとても深かった……」
「だが、それがどうして……?」
「わからない。ただ、あの会社が関与していることだけは確かだ……」
「菅原も、その会社の連中による実験で俺みたいに?」
「詳細はわからないにせよ、今後は注意せねばならないな……?」
「……」
シンは、腕を組んでしばしの間を置いた後、再び口を開けた。
「智代……?」
それは、とてもじゃないがいつもの彼とは違ってとても暗い表情をしていた。
「どうした?」
浮かない彼の顔に、智代は心配げに尋ねる。
「俺……帰るよ?」
「シン、何を言っているんだ?」
「……あんな醜い姿を見せちまったんだ。それに、その『菅原』が、また俺を狙いに来るかもしれない。そん時にともや施設の人たちが巻き込まれたりしたら……」
「しかし! お前は、それでいいのか!?」
智代は、感情的になってソファーから立ちあがり、そんなシンを見る。
「だが……本当にこれ以上俺がここに居たって何の意味もないだろ?」
「ともが……ともが、お前を誤解しているんだぞ? 世にならざる者だと思われているのだぞ!? それでいいのか!?」
「どう言い訳をすればいいんだ……!」
と、今度はシンが少し怒って返す。
「私が……私が、何とかする! だから、お前はもう少しここに居てくれ?」
「……」
だが、いつまでも表情を曇らせるばかりのシン。そんな彼を智代は悲しい目で見つめると、そっと彼の首へ両手を回した。
「智代……?」
次の瞬間、智代は思いっきり心を胸へ抱き寄せた。彼女のぬくもりとほのかな香りが伝わってくる。
「お前は化け物じゃない。とももきっとそれをわかってくれる。だから、今はあの子を信じてくれ?」
「……」

翌日、智代は再びともに会うため、彼女の自室を尋ねた。
しかし、彼女はずっと部屋へ閉じこもっている。
「とも、私だ。開けておくれ?」
「……」
「……とも、これから私と一緒にピクニックへ行かないか? ともの大好きなケーキも用意してある。さ、気分を変えて部屋から出てきてくれないか? 私も、せっかくともに会いに来たのに、ともがこんなんでは私も寂しい。なぁ? 一緒にピクニックへ行こう?」
「……」
すると、しばらくして扉がゆっくりと開いて中からともが出てきた。
「とも……」
智代は、彼女を連れて外へ連れ出した。ケーキの入ったバスケットを下げて彼女と手をつなぎながら、森の道を歩いた。
「……なぁ? とも」
「……?」
「ともは……シンおじさんのことが嫌い、か?」
「……」
ともは少し黙ったが、少し間を置いてから彼女は答えた。
「嫌いじゃ……ないけど」
「とも? シンおじさんは、ああ見えて『正義の味方』なんだぞ?」
智代は、ニカっと笑んでともにそう答えた。
「おじちゃんが……?」
「そうだ! いいか……」
智代はこれまでに起こった出来事を手に汗握る内容に所々作り替えてともにシンの話を語った。
「……そ、それでどうなったの!?」
ハラハラさせられながら、ともは智代の話を夢中で聞き続けた。
「ふふ……悪い人たちに連れ去られた私を、颯爽と駆けつけに来たのが、あのシンおじさんだ! おじさんはあの姿になって、私を誘拐した悪い奴らをやっつけたんだぞ?」
ともは、智代の話を無我夢中で聞いていた、半信半疑であるが自分の大好きな義母が言うのだから信じても大丈夫かと思ったのだ。
「さて……それじゃ、ピクニックへ行こうか? シンおじさんと」
「う、うん……」
やや、抵抗があるもののともは智代と共にシンのもとへ向かった。
施設の玄関にはシンがバスケットを片手に二人を待っており、智代らが来たところで彼の緊張は高まった。
「来た……か」
シンは、バスケットを智代へ手渡したついでにともを見た。
「……」
しかし、まだ抵抗があることでともは智代にしがみついたまま、こちらへ歩み寄っては来ない様子だった。それでも、怖がろうとはせずにただジッとシンの顔を無表情で眺めていた。
「じゃ……いこうか?」
智代がともの手を取ってその後ろをシンが歩く形となり、三人はここ一帯が見渡せる丘へと向かった。
移動する中、ともはちらりほらりとシンのほうへ振り向いてくるが、やはり表情は変わらずにジッと見ているだけだった。
「……よし、ついたぞ?」
智代は丘のてっぺんにつくとそこへで弁当を広げると、三人は芝生の上に敷いたシートの上に座るり、昼食をとった。
だが、やはり食事に会話が生まれず、気まずい雰囲気に包まれながら弁当を食べる羽目になる。
「その……シン?」
「……?」
もっさもっさと握り飯を頬張るシンに、智代はこの沈黙を打ち破るために何か、どうでもいいが、話しかけた。
「ともは……ことしで小学校の上級生になったんだ。あと、好きな教科は国語らしいぞ?」
「へぇ……」
と、シンはともへ振り返り、ともは少しだけビクッとする。
「国語……得意か?」
やや、微笑んだ様子でシンは問う。
「う、うん……」
ともは、あどけない表情でも頷いて答えた。
「シン、お前は体育が得意じゃなかったか?」
と、智代。それに、シンは頷いた。と、いうよりももとよりこういう肉体ゆえに得意なんてものじゃない。
「そうだ! ともは、一度も肩車を誰かにしてもらったことがなかっただろ?」
「え?」
「丁度いい機会だ。シンおじさんに肩車してもらったらどうだ?」
「え!?」
智代の提案に、ともは当然驚いて親を見ては目を見開いた。
「智代……さすがに、それは」
シンも、そこまでやらなくてもと智代を制止するが、それでも智代はともにシンの肩車を進める。
「……」
しばらく黙り込むともであったが、それでも勇気を決して少女はシンの元へ歩み寄ってきた。
「シン?」
と、智代も後を押す。
「……」
シンも、黙ったまま仕方がないということで、片手でともを軽々と持ち上げた。
「うわ……」
最初はやや驚いた表情だが、初めての経験でやや笑んでいるともに、シンはやや微笑むと、次に彼女の両足を自分の両肩へかけさた。
「どうだ? とも、肩車の眺めは?」
一緒に微笑む智代を見て、ともも少しほど安心を得た。
「とも、掴まってろ?」
と、シンは肩にまたがらせたともと共に丘の周りを歩いた。最初は少し恥ずかしく思ったが、それでも次第とシンに対して明也との懐かしさがこみあげていった。
――シンおじちゃんの匂い……パパの匂いにそっくりだ
そんな、懐かしさに包まれたともは、自然と居心地を感じだす。時間がたつにつれて、ともは次第とシンに懐き始めた。
「ふふ、ともはシンのことが気に入ったみたいだな?」
そのあと、笑いながらシンと遊んだともは疲れ切って、シンの膝の上で寝てしまった。
「ああ……」
シンは、自分の膝の上で眠る幼気な少女の前髪をそっと撫でた。
「お前に、全ての記憶が戻れさえすれば……」
そうなれば、自信をもってシンは明也となり、とものことも思い出してくれるはずだ。
「だが……俺は違う。今の俺は……岡崎明也の皮をかぶった、化け物さ」
「シン……」
しかし、彼は強化人間であることは変わりない。そんな苦悩する彼の横顔を、智代は見守ることしかできない。
「シン!」
思い切った智代は、立ち上がると、シンの前へ出てこう告げた。
「……もう一度、結婚しないか?」
「は……?」
「お前が明也だったころ、最後にお前と結婚の約束をしたんだ。でも、それは叶わずしてお前は行ってしまった……だから、こうして巡り合えた今度こそ、あの時交わした約束を果たしたいんだ」
「……」
シンは黙った。それは、記憶のない彼にとっては混乱することでもあるが、しかし確かな記憶を探れば、何かをやり遂げたいという思念が込みあがってくる。
――俺が、果たしたいこと……
すると、シンもともを抱えて別の場所へ寝かせると、彼も静かに立ち上がり、智代の両肩に自分の両手を添える。
「俺が、果たさなくてはならないこと……」
そして、一瞬のフラッシュバックが彼の頭をよぎった。
『智代、結婚しよう……』
「ッ……!?」
そして、その残像は次々に蘇っていく。
『いいじゃないか? 記念日となる日を増やしていこう……それは全部私たちが二人で過ごした記念だ』
『取り柄がないことなんてない。お前は私を幸せにできる。それがお前の取り柄だ……』
『……明也、私に嘘をつくな。お前がどんな逆境にあろうと、私は味方だ……一人で抱え込むな、いつだって私たちは一緒だ……』
『パパー!』
『ウッス!』
『明也兄ちゃん!』
数々の人の顔が俺を見つめ、そしてともとの出会いと別れ、それらが俺の記憶を呼び覚まそうとする。
「う、うぅ……!?」
「し、シン!?」
急に頭を抱えだして苦しむ彼に智代は戸惑うも、そのうなりは時期に止み、徐々に苦しみが薄れていくシンは、目を見開き、智代を見つめた。
「智代……」
「シン……大丈夫か?」
「ああ……」
シンは、両手を頭からは離して智代を見つめた。そして、風に前髪を揺らされながら、彼はその一言を智代へ告白した。
「……一瞬だが、岡崎明也の記憶が過った」
「……!?」
「俺が……お前とあのアパートで同居していたこと、ともとの出会いと別れ、河南子や鷹文のことも……」
「シン……」
それは喜ばしいことなのだろうか、しかし、完全に記憶を取り戻したこととなれば、それは違った。
「だが、まだ明也だということが実感できない……」
「シン、いいんだ……」
智代は微笑みながら目頭を熱くした。

その夜、俺たちは貸してもらった部屋で一夜を過ごすことにした。ともは俺たちと一緒に寝たがっており、途中まで彼女を寝かしつけてから、こっそりと自室へ運んでいった。
正直、俺は智代と二人きりに寝床でいたかったからだ。
「シン……いや、明也? 来てくれ……」
「智代……」
互いの肌を、体を重ね合わせた俺たちは、長い夜を過ごした。
早朝には、ベッドの上に互いの脱ぎ捨てた衣類が散乱しており、布団の中には互いに身を寄せ合う二人の男女がいたのだ……
「シン……」
「智代……」
目覚めに口づけをかわそうとしたのだが、それは突如舞い込んだドアの激しいノックに妨げられてしまった。
「シンさん!? 智代さん!?」
施設長の女性だった。
「は、はい……!」
急いで衣類を着整える二人は一呼吸してドアを開けた。
「二人とも、ともちゃんを見ませんでした!?」
「いえ……どうかしたんですか?」
嫌な予感を察知した俺は表情を曇らせた。
「ともに……何かあったんですか!?」
俺の問いに施設長はある一通の手紙を俺に差し出した。その文通を広げると、そこには俺と智代にとって衝撃の内容がつづられていた。
『シンこと、明也へ。前回は智代の邪魔で決着がつかないまま結果ドローとなったが、このまま引き下がるわけにはいかない。フェアじゃないことはわかっているけど、ともちゃんを人質にさせてもらったよ? 返してほしければ、僕を倒して、ともちゃんを救い出してみなよ? 懐いているんだろ? あの子、お前に……』
――春原……!
春原の仕業だということは一目でわかった。そして、奴のいきそうな場所もこの文通に書かれていた。前回戦ったあの場所だ。
「シン……」
不安な表情を浮かべる智代に、俺は振り向いた。
「智代、お前はここに居ろ? これは俺と奴との問題だ……」
俺は突っ走って施設を後にした。
場所はあの時、ともと一緒に散歩で歩いた森の中だ。奴の気配を頼りに森の奥へ進んでいく。
「よぉ? 明也……」
そこには、大木に縛り付けられたともの隣で両腕を組みながら立ち尽くしている春原の姿が居た。
「春原……!」
ともを人質にしたことに対し、俺は激しい怒りに燃える。
「ま、ようやくターゲットが来たことだし? ともちゃんはもういいや?」
すると、春原はとものほうへ振り返ると、彼女を縛る縄を引きちぎり、解放したのだ。
「おじちゃん……!」
俺の胸へともが呼び込んで泣き出した。
「春原、なぜだ……?」
「僕は、ただ単にお前と戦いたいだけさ? そのために、ともちゃんにはお前を連れてこさせるためのアイテムとして使っただけだよ?」
「……お前も、研究所の回し者だな?」
「まぁね……でも、これが終われば俺は普通の人間に戻してもらえるって鬼守のやつと契約したんだ」
「奴は約束を守るような男じゃない! 俺たちは、奴らに利用されているだけだ!!」
「さぁね? でも、僕はどうしても、芽衣の……妹の、家族のもとへ帰らなくちゃならねぇんだよッ!?」
「!?」
次の瞬間、春原は変身して、真っ先に俺の腹部へ先手を打った。
「ぐはっ……!」
俺は飛ばされてダメージを受ける。
「おじちゃん!?」
ともが俺の元へ駆け寄るが、俺は彼女を睨んでともを制止させた。
「来るな……早く、智代のもとへ戻るんだ!?」
「……!」
しかし、ともは帰ることができず、木の裏側へ身を隠した。
――おじちゃん……!
ともは、ただシンの身だけを案じた。
俺は、強化人間へと変身し、春原との第二ラウンドへ挑んだ。しかし、格闘戦は俺より奴のほうが上だ。俺の攻撃をガードしたり交わしたりなどして、反撃してくる。俺はその攻撃をガードすることで精いっぱいだった。
「やめろ! 春原……目を覚ますんだ!?」
「もう覚めているよ! それどころか、冴えてるね!!」
「ぐぅ……!」
奴のこぶしが俺の肩を直撃するが、俺はそのダメージと引き換えに、奴の腹部へ拳を与えた。
「ぐふっ……!」
ようやく与えた春原へのダメージ、しかし奴は笑っていた。
「いいねぇ……もっとやろうよ!?」
「くそっ……!」
その後も奴との肉弾戦は続いた。しかし、俺は奴の戦い方に何かを感じた。それを疑いと見て扱わず、俺は捨て身の覚悟で奴の真っ向から突っ込む。
「ウガアァ!!」
そして、俺は奴の拳を腹部に受け貫通されたが、それと同時に俺は奴の心臓を拳で貫いた。
「う、うぅ……!」
春原の口元から緑色の吐血が起こし、その血がどろどろと流れ落ちる。
心臓の胸元から拳を抜き、さらに血が流れる。春原は、そのまま草むらへ倒れると、変身が解かれ、本来の人間の姿へ戻った彼は、見下ろす俺を見つめた。
「春原……お前、何故俺の急所を狙わない?」
そう、戦っているうちにわかったが奴は俺の急所を外して攻撃していた。最初から殺す気はなかったかのように思えた。
「へへ……ダチを殺すほど俺だって鬼じゃないさ」
「じゃあ……なぜ?」
「俺は……俺は!」
春原は、大粒の涙を乗せてこう叫んだ。
「……俺も、智代のことが好きだったんだ!」
「……」
「……覚えているか? 学生のころから俺たちは一緒になって智代をからかってただろ? こんな不器用な俺だから、こういうことしか彼女に表現できなかったんだ。それなのに、お前は俺とは違って智代と親密になって、果てに彼女はお前を選んだ。俺じゃなくて……だから、智代を手に入れたお前が羨ましくて、憎かった……けど、お前は俺のたった一人のダチだ。優柔不断だよな? 俺って……」
「春原……教えてくれ?」
俺はそんな彼がなぜこのような人生を歩んだのかを問う。
「なぜ、お前はこんな体になる道を選んだんだ?」
「……へへ、カッコ悪い話さ? 仕事をクビにされて、行き場を失った俺は、大金と引き換えに人体実験をする企業の噂を耳にして、疑いもせずに奴らの元へ行っちまったのよ? そんでもって、このありさまさ……それからというもの鬼守のいうことを聞き続けたら、元の体に直してやるっていうから、こんな化け物染みたからだなんておさらばして、芽衣のいる実家へ帰りたかった……!」
そう、吐血を続けながらも、春原は自分の最期だとしり、力の限り俺にこう言い残した。
「頼む……鬼守の研究所を、ぶっ潰してくれ……もう、俺たちのような犠牲者を出さないために……!」
「春原……」
「生きて帰って来いよ? お前じゃなきゃ……智代は幸せにできないんだから……」
だが、その瞬間。数発の銃弾が森の中に響いた。そして、春原は息を引き取っていた……
「!?」
引き続き、銃声は次々に起こり、いくつもの銃弾が俺に降り注いだ。しかし、俺にとって銃弾の群れなどスローすぎて余裕だ。
目の前には機関銃を抱えた数人の兵士がこちらへ銃口を向けていた。彼らは俺に対して現状の攻撃は無効と知ったのか、銃撃をやめてそそくさと撤退していった。
「春原……」
変身を解いた俺は春原の元へ再び歩み寄る。数発の銃声がトドメとなり、春原はこうして息を引き取った……しかし。
「ぱ、パパ……」
木の陰から、ふら付きながらともが歩み出てきた。それも、腹部から血を流して……
「と、ともっ……!?」
俺は彼女の元へ駆け寄ると、倒れそうなその体を抱きとめた。先ほどの銃撃に巻き込まれてしまったのだ。
ともは、急所を撃たれていた。おそらく……手遅れかもしれない。
「パパ……」
「とも……?」
「パパ……なんだよね? シンおじさん」
「とも……」
銃弾で腹部を負傷しながらも、ともは続けた。
「最初会った時、パパと同じ匂いがしたから……優しくて温かなパパの匂い……」
「もういい、しゃべるな! 早く、智代のところへ……」
「パパ……ともね、とものパパが、明也パパで……本当に、よかった……」
「とも……!?」
ともは、血まみれになった手で、ふるえながらも俺の頬に触れた。
「幸せに……なって、ね……パパ、マ……マ……」
俺は、ともの最期の声を聴き、そして泣き叫んだ。その叫びが森中を響き渡らせる。これが、悲しみというものなのか、怒りというものであるのか、憎しみというものであるのか……

「とも……」
その後、ともは火葬されて実母の墓の隣に埋葬された……
俺たちは新しくできた墓の前で立ち、悲しみに暮れる智代との隣で、俺は一つ決意を固めた。
「智代……俺は行く」
「明也?」
「俺は……春原の望み通り、鬼守達の研究を、潰す!」
「明也!?」
「もう……俺と同じような目に合う人間を増やしたくないんだ!」
「し、しかし! 明也!?」
「すまん……!」
突如、智代の後頭部から鈍い音と共に、彼女の意識は次第に遠のいていった。
「と、明也……!」
後頭部の後ろ首に手刀を撃ち込まれ、智代は俺の足元に倒れた。
――とも、春原、お前たちの仇は俺が必ず……!








 
 

 
後書き
鬱です。救いようがないです。ついに次回は最終話を迎えます。 
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