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仮面ライダー真・智代アフター外伝

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三話「朋也」

 
前書き
今回は研究所の組織がついに本性を現します。 

 
小鳥のさえずりが外から聞こえてくる霧のかかった早朝、築数十年の古いこのアパートの一室には容赦なく冷たい空気が入り込んでくる。
「うぅ……」
そんな冷たい部屋で布団のぬくもりこそが唯一の救いだ。まだ、寒さの残る冷たい部屋から自分を温もってくれる布団と離れたくない。
「ああ……」
目が覚めて唸る俺は、隣で眠っている智代を見た。彼女の寝顔は可愛い。こんな美女と同じ布団で寝ているなんて夢のようだ。
……だが智代とは、まだ会って見ず知らずの、それも当初は襲われかけたのに、こんな俺とよく添い寝するものだ。いくらなんでも無防備すぎるとおもうのだが……
「さて……」
今日は智代よりも先に起きてドアから新聞を取り出した。新聞を読むのはそこまで好きではないが、あれ以来噂がプツリと途切れた連続殺人事件のことが忘れられず、俺は未だにその新たな情報を得るまで新聞を毎朝読むのが癖になり、それが日課になっていた。
そう、俺が智代の家に来てから半月が経った。最初は遠慮があったが、今では日々楽しく俺は彼女と生活を共にしていた。だが、一つ気が重いのは俺が「ヒモ」という存在になっていることだ。
いつも彼女が働いて、俺が家事などを担当している。当初、俺が働きたいと希望したら彼女は慌てて否定した。「私は大丈夫だが、お前を知らない周囲の人間が、お前の「怪力」を見たら騒ぎになるぞ!」と、いうことで断念することに……
あ、ちなみに言い忘れていたが、俺はあのバッタへ変わらなくても、超人的身体能力と人並み外れた怪力を引き出せることができる。さすがに、力はバッタのときの半分しか引き出せることができないが、それでも使うときは十分に便利だ。
「やはり、ないか……」
今回も新たな情報を得られることはできず、俺はため息をつく。
「おや、もう起きていたのか?」
背後から智代が起きてきて俺の隣に座った。
「ああ……」
俺は彼女に振り向かず、見落とした記事がないかもう一度新聞を読み直していた。
「まだ、あの事件のことを気にしているのか?」
新聞を読む俺を見て智代はそう尋ねた。
「ああ……」
「そうか……」
智代は朝食の支度をし、俺は朝食ができても新聞を読み続けていた。新聞が顔を覆い、箸でおかずを突かせながら飯を食った。
「シン、行儀が悪いぞ?」
「ん、ああ……」
行儀が悪いといわれても、俺はそのまま食事を続けた。智代が食器をかたずけているときも、俺は新聞を読むのをやめなかった。
「シン?」
台所から智代が俺に振り向いた。
「どうした……?」
「明日の休日、付き合ってもらいたい場所があるのだが、いいか?」
「別に構わないが?」
「なら、明日朝食を終えた後に出かけよう。なに、遠方までは出向かない。この町の近くにある場所だ」
そう言い終えると、智代はOLのスーツに着替えて玄関で俺にこう告げる。
「留守の間は頼んだぞ?それと、河南子が遊びに来ても決して彼女についていくなよ?」
「あ、ああ……」
そう、前回河南子が俺のもとへ再び現れて前回のリベンジだと言って俺をゲーセンへ連れ出した。そのあと、智代にこっ酷く叱られたな?
智代は出かけ、俺はさっそく流しへ行って食器を洗い出した。最初は力のコントロールができず、よく食器を割っていたが、今では大体のコツをつかむことができ、皿を割ることは少なくなった。
こうして、研究所から脱走して外の世界で生活をしていると、妙に懐かしさがこみ上げてくる。
今頃、研究所の連中は必至で俺を探しているころだろう?俺は、もうしばらくこの生活が続いてほしいと強く思った。
                    *
研究上にて、
シンが研究所を脱走して以来、施設ではシンの捜索に全力を注いでいた。
半月前、サイボーグソルジャーと交戦し、彼に致命的損傷を与えたシンについて、彼のデータを徹底的に解析をし直すことになった。
「非常に、信じられない事実だ……」
つい半月前まで脱走した失敗作のシンはサイボーグソルジャー初号機との戦闘により驚くべき戦闘結果を出していた。それは、ベッドに横たわるサイボーグソルジャー初号機が記録したデータと彼の懐のアーマーにできた深い凹みが証明していた。
「やはり、シンは成功例なのでは……?」
そう部下の研究員がつぶやくが、それを否定したのはリーダーであった。
「いや、シンは失敗例だ。余計な感情を持ち合わし、マスターの命令に従わず自分の意思で暴走する失敗作なのだよ」
そういって彼は席から立ち上がると、皆へこう告げる。
「今後我々の課題はシンの捜索及び抹殺となる。今回、初号機に重傷を負わせたシンのデータを徹底的に解析し、次こそ初号機でシンの抹殺を遂行せよ!」
その一言で各研究員はお互い気を引き締めあった。
作業は昼で一時中断し、交代で食事をとることになり、そのなかで今回新しく入ってきた二人の研究員が通路で互いに愚痴っていた。
「ったく……上司のやつら、俺たちを好き放題にこき使いやがって!」
「そうだよな?だいたい、ああいう雑用作業は事務員にやらせるだろ普通」
そんな二人の歩く通路の突き当りからは帳簿の書類を小脇に抱えて歩く智代の姿が見えた。彼女は偶然研究員たちの話し声が聞こえ、その内容に耳を傾けてしまった。
「……いくら性能試験とはいえ、サイボーグソルジャーで人を殺して実験するのはどうかとおもうよ」
「そうだよな?それも、襲う相手が女性ばかりだなんてどういう神経してんだ?」
「おそらく、体力ともに力の弱い相手と認識して襲っているんだろ?」
どういうことだ……!?
智代は、二人の研究員たちが話す内容にシンが追っている殺人事件が出てき、それも真相からしてあの化け物が殺人事件の真犯人だということが判明した。なぜ、彼らが事件のことを……
「それにしても、シンのやつも可愛そうな奴だな?生き返った途端、化け物にされちまってよ?」
化け物?シンのことか!?
連続殺人事件、そして彼女が出会った謎の青年「シン」、この二つの存在が二人の口から出たとき、智代は身を潜め、息を殺し、彼らの話を聞き続けた。
「あいつって、最初は普通の人間だったんだろ?それが、新型のサイボーグソルジャーを生み出すための実験体になったんだろ?」
「そうさ、でも生きた人間だと後々面倒だからって、死んだ人間の体から作らせたらしい。どうやって蘇生させたかは知らないが……」
「葬儀のときに遺体をすり替えたのかな?」
「おそらくそうだろ?遺族には申し訳ないことをしたもんだ。遺骨も埋葬されていないからっぽの墓石へ、墓参りしにいくんだからな?」
「ところで、シンの本名だが……なんていう名だ?」
「さぁな、そこまで俺たちみたいな下っ端には伝えられていないから知らないな」
その後は、別の話へ切り替わり、研究員達は地上の食堂へと向かった。
「そんなことがあったのか……」
智代は、唐突に訪れた衝撃の事実に目を丸くしていた。自分の勤め先がシンと、彼が気にする殺人事件の真相に関わっていたとは。
智代は、このことをシンに話すべきか悩んだ。しかし、それ以上に彼の正体について気になり始める。
「……」
だが、智代は先ほどの話はなかったかのように黙って通路を歩き出した。今更シンにそのことを伝えたとして、彼が混乱して暴走してしまう恐れもある。ここは、彼自身が真実にたどり着くほうがいいのかもしれない。
                       *
「シンオッサン?」
一方智代のアパートでは、河南子が鷹文から奪った合鍵を使ってシンのもとを訪れていた。シンは関わらないため新聞を広げて彼女を無視する。
「おい、ちょっとはコッチ向けよコラ!」
そういうなり、こちらへ向けるシンの背を軽くける彼女に、シンは不愛想に答える。
「ゲーセンにはいかねぇぞ?」
「別にもういいよ?河南子が負けたってことにしておくからさ?」
「じゃあ、何の用だ?」
「先輩が留守だし、暇だからシンオッサンで遊ぼうと思ってさ?」
「俺は物じゃねぇぞ……?」
だが、俺は彼女自らここへ来てくれたのは好都合として、新聞を置くと彼女へ振り向きこう尋ねた。
「河南子……岡崎朋也について話してくれないか?」
「あぁ?何でオメェなんかに話さなくちゃいけねぇんだよ!」
当然不機嫌になって河南子はそっぽを向く。しかし、俺とて俺に関係する人物のことならば是非知りたい。頼むから、生意気な態度を取らずにこっちへ向いて話してくれないだろうか?
「冷蔵庫のアイス、食っていいから……」
今夜風呂上がりに食おうと思って買ってもらったアイスを代価に俺は河南子と交渉する。
「……まぁ、アイスの種類は?」
「カリカリ君のオレンジソーダー味……」
「この河南子、ひと肌脱いでやろうじゃありやせんか!」
そういうなり、彼女はあっさりと話してくれるようになった。ってか、こいつは本当に単純だな?
それから彼女から得た岡崎朋也についての情報だが、彼女が言うには、朋也と智代とは高校からの付き合いで朋也は、悪友と一緒に彼女へ絡みだしたことが始じまりだったらしく、このころから彼は智代と徐々に親密になっていき、そして朋也が高校を卒業したころには智代と本格的に交際しだしたのだという。
そのほかにも、朋也はリサイクル店で働いていたことや、智代の父親の隠し子である「とも」という少女をしばらくの間、智代と共に預かった話もある。そして、トラウマを抱えていた鷹文の心を救ってくれたことも話した。最後は病死したというが、詳しいことは話してくれなかった。おそらく話せばつらくなるだろうし、俺もそこまでは問い詰めることはしなかった。
最後に、彼女は朋也の性格を話した。馬鹿で、スケベで、智代一筋……最後のほうは認めるが、最初と二つ目はどうも不愉快だ。
「……て、とこっかな?」
河南子は話し終えて、ゴロンと横になってアイスを食べ始めた。
「そういうことか……で、俺がその「朋也」ってやつに似ているんだな?」
「そういうこと」
「……」
俺はしばらく黙り、朋也という存在について考える。ただ、顔が同じ人間なんていくらでもいるだろう?だが、その朋也という名前は初めて聞く名前にしてすごく馴染み深く、懐かしみのある名前であったのだ。
「でぇ?シンオッサンは朋也の知り合いか何か?」
「え?」
アイスを加えながら河南子は俺に振り向く。
「……俺が、記憶喪失なのは智代から聞いているか?」
「まぁ、一様」
「その朋也っていう名前に心当たりがあるんだ。初めて聞く名のようで、とても馴染みのある名に感じるんだ……」
「なんだかキモ……」
そう河南子が顔をゆがませる。確かに大の男がそんなことを言うとそういう風に思われるかもしれない。
「クックック……ちがいねぇ」
俺も笑いながらそう思った。
さて、これで朋也に関する情報は得たが、俺の記憶につながる話はあまりなかった。では、残るは朋也と最も親密な関係にある恋人の智代に聞くしかあるまい。
「そういえば、鷹文とは一緒じゃないのか?」
俺は適当に思ったことを尋ねた。
「別に?最近は部活とか忙しいからね、会う機会つったら朝学校で一緒に登校するぐらいッスね?」
「ふぅん……」
部活か……そういえば鷹文は今も陸上部をやっているそうだな?最初はパソコンオタクだったらしいが、陸上部でのトラウマを乗り越えられて無事に復帰したという。もちろん朋也のおかげで。
「でさぁ?河南子がアイス食べ終わったら……」
「外には出ないぞ?」
俺はきっぱり断った。
「ちぇっ……ケチ!ちょっとぐらい良いじゃん?」
「これ以上智代に説教されるのは嫌なんだ」
「へぇ~?ひょっとして、シンオッサンは先輩のこと好きだったりするんスか?」
そう河南子はからかってくるが、俺はあいかわらず無反応でかえす。
「あいつには朋也っていう恋人がいたんだろ?もうこの世にはいないにせよ、俺が彼女に手を出したら、朋也から大切な人を奪っちまう気がするし、智代だって悲しくなるに決まっている。だから、俺は彼女に興味はない」
俺はそうキッパリと答え、河南子はつまらなそうな顔をして、そっぽを向く。
「でもさ……シンオッサンはそう思っていても、先輩はどう思っているかはわからないよ?」
しつこいように河南子はまだ絡んでくるのか?
「くだらねぇ……仮に彼女が俺のことを好きになっても、あの世にいる朋也は浮かばれねぇだろうが?」
「でも、アイツだって本当は先輩の幸せを願っているんじゃないんスか?それに、先輩はシンオッサンを何日も居候させてんじゃん?それってシンオッサンがアイツに凄い似てんだからじゃない?」
「河南子、お前は何が言いてぇんだ?」
「別にぃ?ただ、このまま記憶が戻れば、シンオッサンは出て行っちゃうんしょ?先輩を置いて」
「ああ、そうだ。ここは智代と朋也の家だ。俺がここにいつまでも長居する資格はねぇよ……それに、俺は朋也の代わりは無理だ」
「……先輩のこと、どう思ってんの?」
唐突に何を言うかと思えば、俺はそんな彼女にキッパリこう答える。
「嫌いでもなければ、好きでも無い。ただ、彼女は俺の恩人ゆえにこうして尽くしている。ただ、それだけだ……」
「……」
すると、アイスを食い終わった河南子は立ち上がると、突然俺の脚へ蹴りを入れだした。
「痛っ……何すんだ?」
「あんたさ、先輩のことを空気とか思ってんの?」
「は……?」
俺は、彼女が何を言っているのかわからなかった。
「あたしと居る時の先輩は、いつもシンオッサンのことを話してんだぞ?」
「河南子……オメェは俺に何をさせてぇんだ?」
俺も彼女の屁理屈な行動に苛立ち、わずかに睨んだ。
「先輩は……いつも一人ぼっちなんだぞ?ああ見えて、先輩は河南子よりすんげー武道家だけど、本当は心が弱ぇから朋也の死を未だ引きずってんだ。河南子からアイツの話を聞いて、ちったぁ慰めてやろうっていう気にはならねぇのかよ!」
河南子は、そういうなり俺の胸ぐらをつかんだ。しかし、俺の表情は変わらずそのまま胸ぐらをつかむ彼女の両手をつかんで離した。
「俺は、智代の過去には関係のない存在だ。そうやってお互いの傷をなめ合う役目は同じ過去を持った人間でなくては意味がないと思うが?」
「そうだけど……だけどよ!?」
「河南子、悪いがもう帰ってくれ?気分が悪いんだ……」
そういって俺は彼女に背を向けて畳の上に寝そべった。
「ああそうかよ……この冷徹野郎!」
そう河南子はバタン!と、ドアを閉めてアパートから飛び出していった。
彼女が飛び出してから数分後、智代が帰ってきて河南子のことを俺に聞く。
「ただいま……さっき、河南子が泣きながら走り去って行ったが、何かあったのか?」
「さぁな……」
俺は何もなかったかのように、そう答えて手元にあった新聞を広げた。
「いつも、家事をしてくれて助かる」
スーツの上着を脱ぎながら綺麗に現れた流しや居間を見て彼女は礼を言う。
「居候させてもらってんだ。これぐらいはさせてくれ?」
「そうか、ありがとう」
上着を脱いでちゃぶ台で一息つく智代は、横たわる俺に明日の件で尋ねる。
「今朝も言ったが、明日付き添ってもらいたい場所がある。お前にも合わせたい人物がるんだ」
「ああ、別に構わねぇよ?」
「じゃあ、今日は明日に備えて早めに寝ておくか?」
「そうだな……」
智代が風呂に入っている間、俺は二枚の布団を敷く。おそらく俺が使っている布団は前に朋也がつかっていたのだろう?こうして堂々と彼の布団を使っていると、まるで俺が智代を奪ったかのように思えて心が痛い。
「先に寝ないで待っていてくれたのか?」
パジャマに着替えてきた智代は窓辺から夜空を見る俺に歩み寄る。
「なんとなく、夜風に当たりたくてな……」
智代がきたことで、俺は窓を閉めて二人は布団へ入った。明日に備えて早く眠りにつこうと思うが、俺は河南子から聞いた朋也のことと、彼女が俺に訴えたあの言葉が気にかかり、どうしても眠ることができずにいた……
                        *
翌朝、俺と智代は朝食を終えた後、彼女にある場所へ連れてこられた。そこはとある墓地だった。
そんな墓地の中で智代はある墓石の前に立つ。墓石には「岡崎朋也」と刻まれていた。
「会わせたい人って……」
「ああ、朋也という私の恋人だ。三年前に、病でこの世から去った……」
「彼については、河南子から聞いたよ?」
「河南子から?」
「ああ……」
「……」
しばらく、智代は口を閉ざしたのちに、再び口を開いた。
「……シン、実はな?私がどうしてお前を家においているかというのは、お前が朋也に似ているからだ。瓜二つ、いや……生き写しといってもいいぐらいに、お前と朋也はそっくりなんだ」
「……すまないが、俺はあんたのいう朋也にはなれない」
「わかっている。けど、これからもずっと一緒に暮らすことはできるはずだ?」
「朋也を、裏切ることになるぞ?」
「そうだ……覚悟している。だから、今日は彼にそれを告げるべくお前と共にここへ訪れたのだ」
なるほど、そういうことか。どうりで今日の智代はいつもと違って目が必死なわけだ。
「だから……シン、あとはお前次第だ。頼む、答えてくれ」
そう悲しげに智代は問うが、俺はどう答えればいいのかわからなかった。彼女の気持ちは嬉しい。しかし、俺は化け物ゆえにいつ暴走して彼女の傷つけてしまうかわからない。場合によっては、朋也の愛するこの人を、俺が殺してしまうかもしれないのだ。
「シン……」
「智代、俺は……」
とにかく、今の気持ちを彼女へ伝えるしかあるまい。俺はそう答えようと口を開けた刹那。
「あ、すまない……電話だ」
彼女の懐からケータイが鳴りだした。会社からである。
「すまない。少し席を外すぞ?」
そういって、彼女はこの場から離れる。俺は、そのうちにいい答えを考えだしておこうか?
「……」
だが、どうすればいい?空にたそがれ、彼女にどう答えればいいのか悩んだ。
「よぉ……?朋也」
「……?」
背後から聞こえた若い青年の声に俺は振り向いた。その青年は俺のことを「朋也」と呼んだ。
「久しぶりだな、元気だったか……?」
黒いスーツにサングラスをかけた、いかにも怪しげな青年だが、俺はその青年に見覚えがあった。彼とは初めて会うはずが、なぜか懐かしさがこみ上げてくる。
「お前は、誰だ……?」
「おやおや?もう忘れちまったのかぁ?高校のころからの親友だったじゃないか?」
「すまないが……人違いじゃないのか?俺は朋也ではなくて……」
「シンというのは、単なるコードネームでしかない……」
「!?」
青年は、俺の正体を知っていた。俺は目を見開き青年をにらむ。
「何者だ……!?」
「おいおい、そんな怖い顔するなよ?今お前と話がしたくて智代には少し席をはずしてもらった。なに、危害を加えたりはしない」
「……要件は何だ?」
「別に、俺はただお前に会いたかっただけさ?しっかし……新型のサイボーグソルジャーがお前だとは、驚いたよ?後遺症が原因で死んだとは聞いたが、まさか実験体になって生き返っていたとはね?」
「お前は……俺を知っているのか?」
「ああ、お前の友達だからね?」
「なら、教えてくれ!俺は……誰なんだ?」
「どうすっかな……?」
青年は、勿体ぶるように俺から背を向ける。
「頼む……!俺は、いったい何者なんだ!?」
「どうしても知りたいかい?」
「……?」
青年は俺へ振り返ると、ニタリを笑んでこう述べた。
「じゃあさ……ほかのやつを倒して僕のもとまで来れたら、話してもいいよ?」
「お前は、まさか……!?」
「そう、お前が抜け出した研究所の回し者さ?そして、お前の同類でもある」
「俺と同じ化け物ってわけか……」
「化け物とは心外な?サイボーグソルジャーって呼んでくれないか?」
「連続殺人事件のもう一人の犯人はお前なのか?」
俺は、同じ化け物と知ってあの時の夜に戦って追っ払った化け物のことを思い出した。
「いや、あれはサイボーグソルジャーの初号機。性能は中々のものだが、正体は僕じゃない。それと……あの事件はすべてこの僕が関与しているものであって、お前には何のかかわりもないよ?」
「……」
しかし、俺はホッとした気にはなれなかった。こんな怪しげな青年が自らを主犯格と告げてきたら、誰だって落ち着きはしない。
「あれ?どうしたの、あんなに事件のことを気にしていたのに」
青年が俺の無表情な顔を除く。
「今知りたいのは、俺の記憶だ…」
「じゃあ、初号機を倒して僕のもとまでたどり着け、そして僕と戦って勝てたら話すよ?」
「……いいだろう」
俺の一言で、青年はフッと笑いその場から立ち去って行った。彼が居なくなったと同時に智代が電話を終えてこちらへ戻ってくる。
「すまない、待ったか?」
「いいや……」
「シン……?」
智代は、俺の険しい顔を覗き込む。
「あ……?」
そんな心配する智代に俺は我に返った。
「どうした?何かあったのか?」
「いや……何でもないよ」
「……その、先ほどの答えだが」
そういえば、同居についての件で問われていたのを忘れていた。そうだな……?
「……すまないが、もうしばらくだけ時間をくれないか?」
答えはそれだ。先ほどの青年と出会ったことで、俺は必至で自分の記憶を取り戻したいと思った。
「俺も、まだ知りたいことが残っている。それまで待ってくれるか?」
「……」
智代も、少し黙ったが時期にほほ笑んでこう答える。
「わかった……すまない。いきなり、こんなことを聞いてしまって」
「ああ……」
気まずい雰囲気に見舞われながらも、俺たちは家へ帰った。それから夜まで俺は智代と口を利くことはなかった。やはり、彼女の期待に応えられない返答をしたためだろうか?
とにかく、この雰囲気で休みの日は終わりを迎えた。
翌日、智代は出勤し俺は一通りの家事をする。昨日のことがあって俺は新聞を読むのはやめた。
「ねぇ!シンオッサン」
夕暮れ時、毎度のように河南子が遊びに来ている。幸い今日は祝日のため学校は休みだから大丈夫だが、彼女は今日もう一人客を連れてきた。
「シンさん、この間はどうも」
その客とは、鷹文であった。彼とは河南子の捜索以来である。
「今日は部活が休みなのか?」
「はい、ゆっくり自宅で過ごすつもりが河南子に連れ出されてしまいまして……」
「そりゃあ、災難だったな?」
「あぁ?だって鷹文の野郎が家ん中でするっていったら部屋に籠ってエロゲーしかすることねぇじゃん?」
と、河南子が呆れた口調で言うも、当然鷹文はありもしないことを俺に聞かされて全否定する。
「ちっがーう!パソコンで海外の友達とメールのやり取りをしているんだ!!」
「なるほど、しかし、海外の友達っていうのが気になるな?彼女かも……」
最後のところだけ河南子の耳元でささやくと、河南子は鷹文の胸ぐらをつかんで問い詰めだした。
「んだと!?おい、どこの女だ!?国はどこだ!?何人だ!?金髪か!?銀髪か!?ペタンコかボインか!?」
「ちょっ!何なの!?やめろって……」
(こいつらと居ると暇じゃなくていいぜ……)
そう心の中でつぶやく俺は、にやけながら二人の様子を見て楽しんだ。
だが、そんな面白い最中に玄関からノックが響いた。
「おい、客だぞ?」
俺が二人へいうも、今の二人はそれどころじゃないようだし、代わりに俺が玄関へ向かった。
「はい……?」
俺はドアを開けて客の顔を見たが、
「よう?昨日はどうも」
そこには、墓地で出会ったあの青年であった。
「お前は……!」
彼のお気楽そうな顔を見て、俺はにらんだ。
「なぁ?いい加減そんな怖い顔するのやめてくれない?」
「何の用だ……」
「特にこれ言って用はないけど……智代、ひょっとすると危ないかもよ?」
「なに……?」
俺の目はさらに険しくなった。
「彼女が勤めてる場所が、お前が抜け出した組織だよ?お前の秘密を知って、狙われるかもね」
「……っ!?」
「じゃ」
青年は、言うだけ言うと俺に背を向けてアパートの階段を降り始めたが。
「どうして、俺に伝える?」
俺は、彼を呼び止めてそう問う。
「……別にぃ?たださ、俺も彼女が気になるわけよ?」
「……?」
気になる?智代をか?だとしたら、こいつは智代と何か関係のある人物かもしれない。
「それじゃ、行くか行かないかはお前次第だぞ?ひょっとすると、お前を誘い出すための連中の罠かもしれないんだし」
そして、青年は階段を下りて姿を消した。
俺は、こうはしていられないと、たとえ奴らの罠だとしても智代のもとへ行くことを決意する。
「鷹文、しばらく留守を頼む!」
俺は鷹文に留守を頼んで階段を飛び降りて研究所へ走り出した。
「シンさん?」
声だけ聞こえた鷹文は、首をかしげていた。
                        *
そのころ、智代は仕事を終え自宅へ帰宅中であった。今日は残業もなく定時に終わったのではやくシンのもとへ帰れるとご機嫌であったが、
「……!?」
そんな彼女の背後を、一台の車が勢いよく通り過ぎたと思ったら、車は彼女もとに引き返して目の前でブレーキを立てながら止まると、突然車から幾人もの男たちが現れて彼女の体をつかんだ。
「な、何者だ!?」
彼女の質問に答えることなく男たちはその大きな手で智代の肩をつかんだが、
「……!?」
智代は武道を駆使して次々と自分につかみかかろうとしてくる男たちを投げ飛ばしていく。
「ええい!面倒な女だ」
一人の男が放った麻酔弾が彼女の肩に当たった。
「か、体の力が……!?」
麻酔弾の針から流れる麻酔液が彼女の体を回り、体力を奪っていく。
「手こずらせおって……車に乗せろ?」
投げ飛ばされた男たちは身なりを整えると、智代の肩を担いで後部席へ乗せた。
「わ、私をどうするつもりだ……!?」
車内で横たわる智代は意識が途絶える寸前にそう問う。
「……君は、秘密を知りすぎた。シンのことも、岡崎朋也のことも」
「しゅ、主任……?」
助手席に座っているのは、自分が知る会社の主任鬼守義郎であった。
「君のような美しい女性は、できるなら消したくなかった。だが……シンの秘密を知ってしまったからには生かすことはできないのだよ?」
「き、貴様……シンのことを知っているのか!?」
突如口調が変わった智代に、鬼守の目が彼女へ振り向く。
「そうだ、そしてシンは……バイオ技術で蘇生された岡崎朋也でもあるのだ」
「と、朋也が!?」
その、衝撃的の事実に智代は言葉を失った。
「そうだ、確か……君の恋人だったかね?いやはや、偶然とは実に恐ろしいものだ」
「お前たちが……お前たちが朋也を!?」
彼女は怒りと悲しみに満ちた目で鬼守をにらみつけた。
「おやおや?礼を言われるならまだしも、睨まれるようなことをしたつもりはないのだがね?何せ、君の大切な人を生き返らせてあげたのだよ?ただし、普通の人間ではないがね」
「貴様……貴様ぁ!!」
「もういい、車を出せ?人目のつかないところでこの小娘を殺して遺体はコンクリートで固めて海に捨てておけ?」
非情な鬼守の指示に部下の男たちは従い、車を動かした……が。
「ん……!?」
ドライバーの男が先ほどからあくせりを踏んでいるのだが、車は一歩も前に進まない。
「どうした?」
鬼守が、そんなドライバーを不審に思い、尋ねると。
「さ、さっきから……前に進まないんです!」
「なに……?」
故障ではない。どれ」だけブレーキを押し付けても、タイヤがこすれる音が響くだけで、まるで何かに車体を掴まれて動けないかのように……
「ま、まさか!」
鬼守は確信した。そして、そんな彼の表情を窺う男たちも懐から銃を取り出して窓から様子を窺う。
「……」
しばらく、不気味な沈黙が続く中、フロントガラスからこちらを見つめる何者かの出現によってその静けさは突き破られた。
「し、シンだと!?」
鬼守が、そう叫ぶ。目前にはバッタ状のバイオソルジャーとなったシンがボンネットの上から見下ろしていた。
「撃て!撃ち殺せぇ!?」
鬼守の指示に男たちはフロントガラスへ一斉に銃を発砲するが、打ち砕かれたフロントガラスから緑色の腕を伸ばしたシンがドライバーを引き摺り下ろす。
そして、次々に男たちはシンに投げ飛ばされて勝ち目はないと鬼守を置いて逃げ出していく。
「智代を返せ……!」
「ぐぅ……!」
鬼守は、動けない智代を担いで太い片腕が彼女の細く白い首へ絡め、懐から取り出した拳銃を彼女の額に当てて人質に取った。
「来るな!それ以上動けば、彼女の命はないぞ!?」
「……!?」
俺は、弱みを握られ身動きが取れなかった。下手にでも動けばあの男は本当に引き金を引くかもしれない。
「……!」
悩んでいる中、横から新たな影が俺にとびかかった。その姿は、初号機だ。
「くそっ……」
俺は、邪魔して襲い掛かる初号機と格闘し、その隙に男は智代を連れて車へ乗り込み逃げ去った。
初号機は、片手の刃物でシンに襲い掛かる。それも、先の戦闘のときよりも攻撃の素早さが違う。
「早い……!?」
刃物から間合いをとるためジャンプを繰り返しながら後へ下がって距離を稼ぐシンだが、攻撃もすばやければ動きもすばしっこい初号機によってすぐさま距離を詰められ、初号機の刃物がギラついた。
振り下ろされた刃はシンの片腕を切り落とそうとするも、ギリギリよけたことでシンの肩を傷つけることしかなかった。しかし、傷跡は深い。
「……!」
肩をやられて動きが鈍ったシンへ初号機は更なる追い打ちを仕掛ける。
「ぐあぁ!」
初号機の刃がシンの体を次々と傷つけていき、シンは苦戦を強いられてしまう。
(このままでは確実に殺される。何か策はないか……!?)
しかし、俺が考えている時間さえも相手は待ってくれない。奴の刃物が俺の脇腹を傷つけてそこから緑色の血が垂れ流れた。
「やっべぇ……」
あと少しずれていたら急所は間違いなかった。くそ!ここで俺は死ぬのかよ!?智代も……大切な人も守れないまま俺はここで朽ち果てるのか……?
「まだだ……」
だが、俺には負けられない。大切な人を守り、そして奪われた記憶を取り戻すまでは、俺は負けられないんだ……!
「グアァッ―――!!」
縦割れの顎が大きく見開いて俺は理性を失うかのように夜空へ野蛮に叫んだ。執念のままに俺は初号機へとびかかる。
初号機の刃が迎え撃つが、俺は刃を平手で弾いて払いのけ、懐へ蹴りを入れた。それも最大の重い蹴りを食らわせる。
「グギッ……!?」
急所を命中したのか、初号機は途端に苦しみだして体中から火花が散りだした。耐えきれなくなった奴は膝が落ち、さらに苦しみだす。
「ガウゥルル……」
唸りながら、俺は初号機へ歩みよると、両手が初号機の頭をつかむ。
「グアァ!!」
そして、その頭を思いっきり引き上げて、激しくちりばめる火花と共に初号機の頭部はジリジリと引きちぎられていく。
俺は、その引っこ抜いた首を手掴んで暗闇の路地へ放り投げた。
「ハァ……ハァ……!」
どうにか勝ち、智代を人質に逃げた男を追う。智代の匂いがまだ残っているため追跡は可能だ。
                        *
暗い路上を一台の車が走っていた。フロントガラスや周囲の窓はグシャグシャだが、走るスピードは変わることはなかった。
「シンのやつ、今頃初号機の餌食になっているころだろう……」
そうほほ笑むドライバーの鬼守だが、その予想は大きく裏切られる。
それは、突如前方に一人の影が現れたのだ。しかし初号機の姿ではなく、緑のごつごつした生物的ボディーに頭部からはバッタ状の触手が風に揺れていた。
「な、なにっ!?」
急ブレーキで止まると、鬼守は車から降りて再び智代を人質に取ろうとしたが、そんな彼の間合いにはシンが居た。
「ぐぅ……!」
「失せろ……今なら見逃してやる」
俺は、智代だけ返してくれればそれでいい。自分の正体をこの男から聞き出そうとすることまでの考えは今の俺にはなかった。
「お、覚えていろ……!」
弱虫をかみしめ、鬼守は夜道へと走り去って行った。
「シン……?」
一方、麻酔から覚めた智代は、まだよろけるものの車から出てくる。そこには、バイオソルジャーとなったシンが居た。
「し、シン……!」
彼女はシンの元へ駆け寄り、その不気味は、しかし、ぬくもりの感じる血まみれの懐へ飛び込んだ。
「智代……」
シンも、そんな智代の震えだす体を沈めるかのようにそっと大きな緑の腕で抱きしめてやる。
                       *
「シン……お前は、朋也なのだな?」
「俺が……?」
夜更けの公園で人間に戻った俺は、自分の正体を知った。それは、恐ろしいほど偶然であるも岡崎朋也なのだ。
「……シン、奴らにばれた以上この町にはいられない。ここを出よう?」
智代はそう言うも、俺は彼女と共に逃げいいものだろうか?
「しかし……」
「いずれ、離れて逃げても同じことだ。それに、お前が朋也だとわかった以上、記憶を取り戻してやらないとな?」
「智代……」
「……お帰り、朋也」
彼女は、俺の肩へ耳を添えた。


 
 

 
後書き
次回
「とも」 
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