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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epico5彼方より蘇る破壊者~Ancient Metallic Disaster~

†††Sideはやて†††

編入初日、わたしとルシル君、シャルちゃんはたくさんの友達が出来た。それと一緒に、出来たばかりの友達を失った。武塔亮介君。八重刀梅ちゃんのことが好きらしい武塔君は、刀梅ちゃんと仲良くしてるルシル君にヤキモチを焼いて喧嘩を売った。嫌な空気のまま、1学期中の行事の説明や新しい教科書の配布と続いて、わたしらの登校初日は終わった。

「――それじゃあ、木花さん、五十鈴さん。号令を」

「「起立・・・礼! ありがとうございました!」」

前期の委員長に選ばれた咲耶ちゃんと依姫ちゃんの号令に従って、「ありがとうございました!」みんなが起立してお辞儀した。わたしは立てへんから座ったままお辞儀。先生が「それじゃあ、また明日ね」そう言って教室を後にした。その途端、「「ちょっと、亮介君! 待って!」わたしの前の席に座る刀梅ちゃんが、走って教室から出て行こうとした武塔君を呼び止めた。

「なんだよ」

「なんだよ、じゃないでしょ! 謝って。ルシル君に酷いことを言ったこと、ちゃんと謝らないとダメだよ!」

「うるさいな! 本当のことだろ!・・・おい、行くぞ」

武塔君は他の男子生徒を数人連れて教室から駆け出てった。そんな武塔君に向かって女子のみんなが「何あれ」「勝手に怒りだして」「気にすることないよ、ルシル君」「自分が非力なのが悪いんじゃん」「悔しかったら自分も刀梅ちゃんにやってあげればいいのに」って口々に非難。

「あー、いいよ。実際、言われたことのほとんどがその通りだし。この髪も顔立ちも女子寄りで、シャルの見せた写真データも、な」

「あぅ、ごめん。まさかこんな事になるなんて・・・」

ルシル君や他のみんなから視線を受けたシャルちゃんが珍しくしゅんってなって落ち込んだ。刀梅ちゃんも「私も悪乗りし過ぎちゃったから。ごめんなさい、ルシル君」ルシル君の目の前まで来て、深く頭を下げた。続けて「わたしもごめん」天音ちゃんや「わたくしにも非はありますわよね」咲耶ちゃんも頭を下げた。

「まぁ、もう済んだ事だから、そんな泣きそうな顔をしないでくれ。な?」

「だけど、仲直り・・・」

「そのことについても、俺が何とかするから。はい、今日は解散!」

ルシル君がパンパンと手を叩いてそうやって促すと、みんなが思い思いに鞄を手に取って教室を後にしてく。刀梅ちゃんも「私、仲直り手伝うから何でも言ってね。それじゃ、また明日」クラスメート数人と一緒に教室を出てった。
それから他のみんなもルシル君だけやなくて、「はやてちゃん、シャルちゃん、また明日」わたしとシャルちゃんにも挨拶をくれたから、「うん、また明日」挨拶を返して、教室を後にするみんなの背中を見送った。

「ルシル君、はやてさん、シャルさん。このような空気の中なのですけど、この後わたくしとお付き合いして頂けますか」

みんなと挨拶を交わしてると咲耶ちゃんがそう言うて歩み寄って来た。ルシル君が真っ先に「あー、ごめんな。そのことなんだが――」そう答えようとした時、「迎えに来たわよー!」アリサちゃんが元気いっぱいな声で教室に入って来て、遅れて「お待たせー♪」すずかちゃん達も入って来た。

「あら、アリサさん。2組になんの御用かしら」

「2組やアンタじゃないわよ、用があんのは。シャル、はやて、ルシル。迎えに来たわよ」

「待ちなさい。これからはやてさん達を学校を案内するのですから、先に帰って頂けます?」

「はあ? それを決めるのはアンタじゃないでしょうが。こっちは朝から約束してんのよ」

アリサちゃんと咲耶ちゃんは鼻先が触れそうなほど顔を近付けて睨み合った。

「あーもう、ほら。やめようよ」

「アリサちゃん。なんでそうケンカ腰になっちゃうの?」

すずかちゃんとなのはちゃんがアリサちゃんを引き離しに掛かって、「咲耶。悪いけど今日は・・・な」ルシル君が咲耶ちゃんの右肩をポンっと優しく叩いた。わたしも「ごめんなぁ。また明日、お願いしてもええかな?」手を合わせてごめんなさいする。

「・・・仕方ありませんわね。今日は引き下がりますわ」

「ていうか、学校案内ならあたし達がするわよ。親友なんだし」

「他クラスの方は黙っていてくださいな。クラスメートを案内するのなら、同じクラスの者が行うのが道理ですわ」

「でもやっぱ気心の知れた親友の方が良いんじゃない?」

「先程から親友、親友とくどいですわよ。はやてさんとルシル君に限ってはわたくしの方がお付き合い歴は長いですわよ」

「あっそう。でも付き合いの濃さで言えばあたし達の方が上よ。ていうか、アンタの付き合い歴なんて合計すれば数十時間程度でしょ? 病院で会うくらいなんだから。だけどこっちは毎日会ってるし、お泊りもしたし、付き合い歴で言えば何百時間単位よ」

「っ! それは・・・」

アリサちゃんの言葉に口を噤んでたじろいだ咲耶ちゃんが、「憶えてなさい、アリサ・バニングス!」涙声で捨てゼリフ的なことを吐き捨てて鞄を手に取った後、教室の前の出入口から出ようとした。

「咲耶! また明日な。今日はありがとう」

「咲耶ちゃん。これからよろしくな」

ルシル君に続いてわたしも挨拶しながら手を振る。すると「またね、咲耶。ありがと♪」シャルちゃんも笑顔で挨拶して大手を振った。さっきの泣きそうな表情から一転、「・・・はい! ごきげんよう♪」咲耶ちゃんは笑顔になってくれて、1回お辞儀した後で軽やかな足取りで教室を後にした。

「アリサ。さすがに今のは言い過ぎじゃない?」

「咲耶、ルシルのフォローが無かったら泣いてたよ?」

フェイトちゃんとアリシアちゃんから非難を浴びたアリサちゃんが「だって・・・」たじろいだ。うーん、なんでこうなったんかなぁ。そうしてわたしらもまた教室を後にして、バス停を目指した。

†††Sideはやて⇒ヴィータ†††

「だっはー。疲れたぁー」

「今日はなかなかにきつかったな・・・」

航空武装隊同士の模擬空戦を行うために第14管理世界ウスティオに赴いたあたしとシグナム。午前中にウスティオ中央区ディレクタスのど真ん中に広がる超巨大湖――グレースケレ湖の沖合8km付近にある架空戦場人工島メガラニカで模擬空戦をやったんだけど、相手がまぁ強かったわけだ。シグナムはまんまと罠に嵌って孤立させられるし、あたしは撃墜回数1回を食らうし。

「今回やりあった向こうの教導隊の班長、強かったよな~」

あたし達が所属してる第2212航空隊は戦技教導隊・第2班に率いられて、教導隊1班率いる第1013航空隊と模擬戦。勝敗は、2212航空隊の負け。ほぼ泥沼だったけどな。戦力差は互角。敗因は、教導隊・1班の戦術が一枚上手だったってことかな。
そんで今、模擬空戦を終えたあたしとシグナムら2212航空隊や1013航空隊、それに教導隊は、ウスティオ地上本部の展望カフェとかで休憩中だ。ちなみにここの地上本部はグレースケレ湖の畔に建っていて、今居るカフェは湖を見渡せる絶好のポイントだ。

「ロッキー・サブナック一佐か。ミッド式魔導師という括りだが・・・」

「ベルカ騎士みてぇだったよな。アリサやフェイトみたいな」

あたしを撃墜したサブナック一佐。何かしらの近接格闘技と射砲撃の複合戦技の使い手だった。そうだな、一番近いのはアルテルミナス・マルスヴァローグか。アイツの戦技にミッド魔法を追加すれば、サブナック一佐の戦技になる。ま、そんなことが判ってもなんら意味ねぇけどさ。

「確かに、な。・・・管理局に勤めて改めて自覚することが多くなった。私もまだまだ未熟者だと。もっと学び、成長しなければ。・・・心が躍る。私は、幸せ者だ」

シグナムはそう言いながら首から提げた待機形態の“レヴァンティン”に触れた。あたしも制服のブラウスの襟元に手を突っ込んで待機形態の“アイゼン”を取り出す。シグナムの言う通りだ。成長できる今を幸せに思う。

「相席よろしいですか?」

改めて夜天の守護騎士(あたしたち)の現状がとんでもなく幸せなものだってことを噛みしめる。そんな時にあたし達にかけられた声。あたしは“アイゼン”から声の主へと顔を向ける。あたしとシグナムを見下ろしていたのは2人の女。

「おう。いいぞ。座れよ、フィレス、セレス。いいよな? シグナム」

「ああ、もちろんだ」

シグナムにも確認を取る。ま、断るわけねぇけど。何せ片方――セレスはあたし達と同じ2212航空隊所属で、さらにはあたしやシグナムと同じ第2分隊員だからな。あたし達の許可を聞いて、「ありがとうございます」「失礼します」2人は小さく頭を下げて、ケーキやティーカップが乗ったトレイをテーブルに置いてから空いてる椅子に腰掛けた。

「つうかよ、セレス。お前、休んでおいてなんでウスティオ(ここ)に居るんだよ。お前が居なかった所為で、あたし撃墜されたんだぞ」

12歳っつう若さながらもセレスは剣の騎士として結構な腕を持ってる。シャルと同格くらいか。だからセレスが居たら、模擬戦だってもっと事を上手く運べたはず。思い出したらリベンジしたくなってきた。バトルマニアじゃねぇのにな。

「すみません、ヴィータさん。家の仕事で休まざるを得なくて」

「確か、お前やフィレスはミュンスターコンツェルンの・・・」

フィレス・カローラとセレス・カローラ。名前から見て判るように姉妹で、フィレスが姉、セレスが妹だ。2人ともシャルの友人で、今ではあたしら八神家やなのは達とも友人関係になってる。
そんな2人は、管理局と聖王教会の両方に籍を置いてる騎士でもある。そんで、管理局運営に必要な資金の出資の大半を賄うミュンスターコンツェルンのトップ、カローラ財閥の令嬢。時折、そっちの仕事もするとは聞いてたけどさ。だからってこの大事な日にそりゃねぇよ。

「はい。今日はウスティオに在る子会社への視察だったんです」

「だから局の制服じゃなくてスーツ姿なわけな」

「お前も随分と大変な道を歩んでいるな、セレス。局に教会に会社とは」

「好きですから♪」

セレス・カローラ。第2212航空隊所属の古代ベルカ式騎士。歳は12歳っつったかな。階級は一等空士。一応は先輩だ。そんなセレスの事情は判ったとして、「フィレスは機動一課の仕事か?」古代遺失物管理部・機動一課の課員のフィレス。制服姿ってことはやっぱ仕事だろうな。

「グレースケレ湖の湖底に遺跡が在るんだけどね。そこにロストロギアがあるって話で、一課が助力要請したスクライア一族がロストロギアを発掘。一課は発掘の手伝いと護衛。ちなみに私の分隊は休憩中だから、こうしてのんびりティータイム」

フィレス・カローラ。機動一課所属の古代ベルカ式騎士。歳は18歳だっけか。階級は二等空尉。そんなフィレスが、疲れてます、って言いたげに首をコキコキ鳴らした。シグナムが「随分と疲れているようだな。しっかり休んでいるのか?」って声を掛けた。

「私の分隊、夜勤(ナイト)シフトで、少し寝不足なんですよ。ふわぁ。失礼」

「ぶっ通しで発掘してんのか?」

「ううん、夜はちゃんと休むよ。でも警備しておかないと。最近、また増えたの。ロストロギア荒しが」

フィレスの愚痴は聞いたことのあるような話だったから、「もしかしてリンドヴルムか・・・?」あたしは真っ先に思い浮かんだ連中の名前を告げた。すると「正解。ここ数ヵ月、鳴りを潜めていたんだけど、最近また活動を始めてね」ビンゴだった。鳴りを潜めてた期間を訊いてみると、あたしらパラディース・ヴェヒターとの戦後からがスタートだった。

『さすがに部隊2つを立て続けに潰されちゃ滞るわな』

『新たなメンバーを引き入れ、戦力となるように育てる期間だったのかもしれんな』

そういや、あれから全くと言っていいほどに仕掛けて来ないよな。流石に管理局員になっちまったから諦めたのかも・・・って、んなわけないか。今でも堂々と管理局を敵に回してんし。

「あ、シグナムさん、ヴィータ。午後からは私も参戦しますから、一緒に頑張りましょう!」

模擬空戦は午後も行われる。午前の部じゃ負けたけど、今度は勝って見せる。セレスが差し出して来た右拳へと、「ああ」あたしとシグナムも拳を差し出してコツンと突き合わせた。その時、フィレスが「えっ!?」急に立ち上がったからあたし達はビクッてなった。

「お姉ちゃん・・・?」

「なんだよ、フィレス。驚かせんなよ」

「ごめん、話はあとで! 機動一課・スノー分隊隊長フィレスから各員へ! スクランブル!リンドヴルムのメンバーが索敵圏に侵入! 真っ直ぐグレースケレ湖に進行中! ゲイル分隊・フレア分隊・アース分隊と合流し、空戦班はリンドヴルムを迎撃・逮捕! 陸戦班は遺跡のゲートウェイエレベーターと内部を警備!」

フィレスが自分の部下に通信を繋げながらカフェの出入り口へ駆けだした。今回のリンドヴルム迎撃・逮捕は機動一課の仕事だ。けど本音を言えばあたしも出たかった。連中とは因縁もあるしな。だからいつか対リンドヴルムの任務に就いて、絶対にミスター・リンドヴルムをとっ捕まえてやる。

「お姉ちゃん。頑張って・・・!」

展望カフェのパノラマウィンドウに近寄って、グレースケレ湖上空をすっ飛んでくフィレスや他の隊員の姿を見守る。そんで湖上で始まった機動一課の空戦班10人とリンドヴルムの私設部隊8人の空戦を、あたし達に続いてカフェに居た他の局員たちも見守り始めた。
数で言えば機動一課の方が多い。遠目だからよくは見えねぇけど、フィレスが他の隊員より頭ひとつ抜き出てるのは判る。いくら相手が武器型ロストロギアでも、フィレスら一課員の腕には及ばなかった。次々と撃墜していく。

「さすがお姉ちゃん!」

残り2人となったところで、「うおっと!?」それは起きた。グラグラと揺れ始める足元、っていうよりは地上本部自体が大きく揺れ出した。地震だ。揺れが徐々に大きくなり始めたから片膝立ちすることで転倒を防ぐ。

「なんだ、おい、あれ!」

局員の誰かがパノラマウィンドウの外を指さした。あたしも外、湖面へと目を向ける。湖面にはデケェ渦が巻いてて、その中心から「なんだ!?」いやに太い、青白い砲撃みてぇなもんが発射された。そんでその砲撃は最悪なことに空戦をしていたフィレスたち一課員を呑み込んだ。砲線が途切れた後、フィレス達が次々と湖面に向かって墜落してくのが判った。

「いや・・いや・・・いや・・・いやぁぁぁぁぁーーーーーっ! お姉ちゃん! お姉ちゃん! お姉ちゃん! おね――っ!?」

「「セレス!?」」

フィレスの撃墜を直に目の当たりにしたことでセレスが気絶した。床に倒れる前にシグナムがセレスを抱き止める。セレスの悲痛な叫び声で、今の光景が現実なんだってことを理解した局員たちが「救援隊をすぐに回せ!」「援軍の要請を!」一斉に騒ぎ出した。

「おい、渦から何かが出て来たぞ!」

「なんだアレは!?」

「巨人!?」

セレスから湖へと目を向ける。渦の中からデケェ全身甲冑姿の巨人が這い出て来ていた。

†††Sideヴィータ⇒シグナム†††

突如として渦より放たれてきた砲撃はフィレスら機動一課の空戦班を撃墜。そして渦から姿を現したのは、全長15mほどの銀色の甲冑とインバネスコートのような白色の外套に包まれた巨人。我々第2212航空隊、そして第1013航空隊、さらには教導隊の班長2人が協力して巨人の制圧任務に就くこととなった。

『こちら第2212航空隊隊長、ジョシュア・エルグランド二佐。遺跡のさらに地下から出現したとされているあの巨人も、おそらくはロストロギアだろう。リンドヴルムの動きからして連中の目的はあの巨人と見ていい。・・・回収できないように機能停止させるぞ』

『第1013航空隊隊長のジータ・アルテッツァ三佐です。一課の空戦班に捕まっていたリンドヴルムの私兵隊が撤退、および撤退幇助の新手が接近中とのことです。追撃班と攻撃班、遺跡から脱出したスクライア一族の皆さんと機動一課員の救助班、3つのチームに分けます』

『第2212航空隊の第1から第3班は攻撃班。第4班は追撃班。第5班は救助班だ!』

『第1013航空隊も班分けします!』

私とヴィータ、そしてセレスの第2分隊も攻撃班に選ばれた。1013航空隊は、第1班が攻撃班、第2班が追撃班、第3から第5班が救助班となり、教導隊の班長両名、サブナック一佐、第2班の班長ガウェイン・クルーガー三佐もまた攻撃班となった。

『攻撃班は徹底的に攻撃を浴びせろ! 攻撃班(アタックチーム)・・・交戦(エンゲージ)!!』

追撃班(パシュートチーム)救助班(レスキューチーム)・・・ミッションスタート!』

エルグランド二佐とアルテッツァ三佐の号令と共に、最初の砲撃以降なんの動きも見せない巨人へと攻撃を開始する我々攻撃班13人。そして撤退を始めたリンドヴルムの逮捕するための追撃班、湖面にて救助を待つ発掘隊を救う救助班もそれぞれ行動を開始した。

「撃て、撃て、撃て、撃て!」

巨人を包囲するかのような陣形を取り、一斉に射撃や砲撃を発射していく。私も同僚に遅れることなく、「空牙!」“レヴァンティン”を横薙ぎに振るって魔力斬撃を飛ばし、「おらぁ、行けッ!」ヴィータも “グラーフアイゼン”で魔力弾を打ちつけて発射するシュワルベフリーゲンを6発と打ち放った。

我々の攻撃が一直線に巨人へと向かい、そして着弾した。爆発に呑まれる巨人。巨人は攻撃に晒されても動きを見せず、直立不動のまま。それから1分ほど我らは攻撃を続けたのだが・・・。ダメージが入っていないことを我々に示すかの如くその偉容をまざまざと見せつけて来る。甲冑どころか外套すらにも微細な傷や汚れが付けられないとは。

『おいおい、この感じ、なんか憶えがあんだけど』

『奇遇だな。私も、この理不尽な防御力には憶えがある』

何度目かの空牙を撃ち終えた時、ヴィータからそう思念通話が入ったため、私も同じ考えをしていたことを伝えた。圧倒的な攻撃力と防御力を備えた、“エグリゴリ”・レプリカ。そう、ゼフォンやミュールといったアノ機械兵器と同じ・・・。

『各員、警戒! マントが開いていくぞ!』

エルグランド二佐からの思念通話が攻撃班全員に回った。巨人が羽織っていた白い外套がバサッと音を立てて広げられた。そして知る。それは外套などではなく、「翼・・・?」だったのだと。4対8枚の翼は大きく左右に広げられ、その表面が青白く光った。直感に頼らずとも理解できる。あれは、攻撃の前兆だ。

『各員、回避準備! 何かしらのアクションが来るぞっ!』

サブナック一佐からの警告が頭の中にけたたましく響いたその直後、巨人の両腕が勢いよく持ち上がり、10本の巨大な指先を我々へと向けた。指先には半球状の赤いクリスタルが有り、そのクリスタルが強く発光。と同時に予想される射線上より急速離脱した。

――天上の閃光(ラージョ・デ・シエロ)――

そして十指の先端のクリスタルから発射される青白い砲撃群。攻撃時の予備動作がハッキリして、さらに我々はいつでも回避行動へ移れるよう警戒していたおかげで、全員が直射砲撃を回避しきった。そして巨人は、その巨大さをなんでもないと言うように翼を羽ばたかせることなく静かに空へと上がった。

――天上の閃光(ラージョ・デ・シエロ)――

『各員、魔法を物理破壊設定へ変更!』

『その場に留まり続けるな! 常に動き、的にならないように注意を払え!』

『各員、得意魔法で集中攻撃!』

『近接班は頭部を集中的に狙う! 射砲撃班は両腕と翼を最優先で破壊してほしい!』

各隊長・班長の指示が飛ぶ。近接班の指揮官となったサブナック一佐が、十指から放たれる砲撃の合間を縫って巨人の頭部へと向かって突撃していく。剣の騎士である私や鉄槌の騎士であるヴィータも近接班となる。ゆえに『ヴィータ、行くぞ』迫る砲撃を躱しながらヴィータへとそう告げる。

『おうよ! 鉄槌の騎士ヴィータと鉄の伯爵グラーフアイゼンに壊せねえモンはねぇっ!』

私とヴィータもサブナック一佐の後に続くと、『先の模擬戦が楽園の番人(おまえたち)の全てではないと期待するぞ』サブナック一佐からそのような個人的な思念通話が送られてきた。私は『ええ』と、ヴィータは『こういうデカブツ破壊こそがあたしの本領だ!』と応じた。

――勝者の眼光(ルス・デ・グロリア)――

面甲の目の部分に空いている細いスリットの奥、ちょうど眼球部分になる位置が発光した。それは正しく巨人の目なのだろう。そしてそれは攻撃でもあった。スリットの奥から発射される2本の砲撃。私はその砲撃を横移動することで躱し、即座に接近する。

「紫電・・・一閃ッ!」

兜の額部分の窪みに収められている巨大な球状のクリスタルへと攻撃を仕掛ける。燃え盛る“レヴァンティン”を容赦なく振り下ろした。一撃で破壊できずとも少なからず傷は付くだろうと思っていたのだが、「うぐっ・・・!」逆にこちらにダメージが入った。その頑強さに柄を握る両手が痺れ、しかも何かしらの障壁が働いているのか数mと弾き返されてしまった。

「何やってんだよ、シグナム! だらしねぇぞッ!」

――ラケーテンハンマー――

急襲突撃用の形態を取った“グラーフアイゼン”による一撃が、先ほど私を弾き返したクリスタルへと直撃した。しかし「いってぇ・・・!」ヴィータもまた弾き飛ばされてしまった。
続けて、「別の個所を狙え!」サブナック一佐がガントレット型のストレージデバイスによるアッパーで巨人の顎下を殴り上げ、「フィストカノン!」拳より零距離砲撃を発射した。ヴィータを撃墜したのもアノ攻撃だった。

「硬いな・・・! これは骨が折れそうだ」

ふるふると右手首を振るサブナック一佐。どうやら今の攻撃で手首を痛めてしまったようだが、「だからと言って退けはしねぇが」ガツンと拳を突き合わせ、集中砲火を行う射砲撃班を薙ぎ払うかのように腕を振るった巨人の首へと攻撃を仕掛けた。

「ヴィータ、首を狙うぞ。頭部を斬り飛ばす!」

「装甲部分よりかは潰しやすそうだよな・・・!」

――勝者の眼光(ルス・デ・グロリア)――

目から放たれる2本の砲撃を回避し、巨人の首の付け根部分へと最接近する。根元ではすでにサブナック一佐が装甲に向かって拳や蹴りを打ち込み続けていた。私たちも根元に降り立ち、巨人が首を動かすことで唸りを上げる駆動音のうるささに顔を顰める。
この巨人の首は旋回と見上げる機能があるだけのようで、首を下に振られて頭部と胴体に挟まれて圧死するという悲惨な目には遭わずに済みそうだ。

「とっととぶっ壊そうぜ。首の装甲は薄そうだし。アイゼン、カートリッジロード」

「ああ。サブナック一佐、お手伝いします」

「おう。任せたぞ。この装甲もクリスタルと同じ妙なバリアが張られている。気を付けろ」

こうしている間にも射砲撃班はいつ撃墜されてもおかしくない砲撃群の中を翔けている。すぐにでも破壊しなければ。“レヴァンティン”を鞘に収め、カートリッジをロード。破壊力ではなく切断力重視の一撃をお見舞いしてくれる。

(ん・・・? 何かしらの文字が書かれているな・・・)

ふと、首を護る滑らかな装甲表面に文字が書かれているのに気が付いた。目を凝らしてよく見てみる。

「・・・A、M、T、I、S、・・・ア、ム、ティ、ス、と読むのか・・・? モデルナンバー・・・TA0109・・・BERGEL、MIR・・・バーゲル・・・、ベルゲルミ・・ア・・・いや、ベルゲルミルか・・・?」

A.M.T.I.S. Model number:TA-0109:BERGELMIR。そう記されていた。それがこの巨人の名前、なのかもしれん。万が一に備え、その文字を記憶していると、「ぼーっと突っ立ってんなよ、シグナム!」ヴィータに叱責されてしまった。すまん、と謝罪してすぐさま攻撃に移る。

「紫電・・・清霜!!」

鞘内に溜めた魔力を爆発させ、“レヴァンティン”の超高速居合いを行う。元々の切断・破壊力を備えた斬撃に、速度を上乗せすることでその威力を格段に上昇させる剣技だ。

「ぐぅぅ・・・っ! ヴィータ! サブナック一佐!」

斬れない。目に見えない何かしらの障壁によって衝撃が完全に逃がされた。だがこれで終わりにはしない。弾き飛ばされるより早く2人に合図を出す。真っ先に「ラケーテンハンマァァァーーーッ!」ヴィータの一撃が“レヴァンティン”の間近に打ち込まれる。さらに「おぉぉぉらぁぁぁぁッ!!」サブナック一佐の上段回し蹴りがヴィータの反対側付近へと撃ち込まれた。

(僅かに抵抗が弱まった・・・!)

障壁から伝わってくる抵抗力が緩んだのが“レヴァンティン”の柄を持つ右手から伝わって来た。ヴィータやサブナック一佐も気付いたようだ。ヴィータはカートリッジをロードし、「ぶち貫けッ!」ブースターの噴射力を増加。サブナック一佐は両拳で連打。そして私は鞘に魔力を纏わせての打撃、間髪入れずに「紫電一閃!」を叩き込んだ。

「「「っ!!」」」

バキン、と砕ける音が鳴った。先程まで我らの攻撃を拒んでいた障壁が砕けたことを意味する音だった。“レヴァンティン”が、“グラーフアイゼン”が、サブナック一佐のガントレットが、ようやく装甲へと辿り着いた。ガキィンと金属音が響き渡り、装甲に傷を付けた。いける。そう確信した、その時・・・

――語り継がれし神の審判(トルエノス・デ・ラ・トラディシオン)――

一瞬の閃光、視界が真っ白に染まり、それと同時に鼓膜が破られるかと思えるほどに強烈な爆発音が我々を襲った。

(な、んだ・・・何が・・起きた・・・? それよりも、私は今・・・立っているのか? 座っているのか・・・?)

視覚や聴覚、三半規管をやられたことで何も見えず、聞こえず、今の自分の体勢すら判らなくなっていた。

(身体は・・・動く。レヴァンティンは、握っているな。今の私の体勢はなんだ・・・?)

触角や身体機能には問題ないようで、目に見えないながらも自分の身体を動かす。それで判ったのは、私は仰向けで倒れているということだった。うつ伏せになり、身体を起こした直後、「なに・・・!?」地面――ではなく巨人の胴体が傾いてしまったことでごろごろと転がってしまう。

(このままでは何十mという高度から湖に落下してしまう!)

空は飛べるが、視覚や三半規管がダメな以上は空間把握が出来ずに墜落や、巨人からの攻撃の危機に晒されるだろう。

(それに、ヴィータとサブナック一佐はどうした!? 無事なのか!?)

2人の姿も声も捉えられない。どうすればいい。解決策が出るより早く私は中空へと投げ出されてしまった。目が見えない。それがこれほどまでに恐ろしいものだとは。浮遊感から落下感へと変わる。墜落だけは免れなければならないため飛行ではなく浮遊の魔法を発動するより早く、「ん・・・?」誰かに抱き止められたのが判った。

『シグナムさん、大丈夫ですか!?』

失念していた。思念通話でヴィータとサブナック一佐に確認を取れば良かった。焦っていたとはいえ基本的な魔法を忘れてしまうとは、とんでもない無様を晒してしまったものだ。自己嫌悪もそこそこに、『お前も無事で何よりだ、フィレス。助かったよ、ありがとう』私を助けてくれたフィレスに礼を返す。

『ヴィータ、サブナック一佐は無事ですよ。ただ・・・巨人と戦っていた航空隊の皆さんが撃墜されました』

『なに!?』

視覚機能が元に戻り始めている中でフィレスから話を聴いた。首の根元に居た時に我らを襲ったアノ閃光と爆音の正体。それは稲妻状の砲撃が8枚の翼から発射されたことで起きたものだった。
無数に枝分かれした砲撃は巨人の全方位1km圏内を襲い、エルグランド二佐らは躱すことも防ぐことも出来ずに墜とされてしまったとのことだ。そして今、巨人と戦っているのは意識を取り戻したセレスと首都航空隊の面々だそうだ。

「(ようやく視覚機能が正常になったか)もう大丈夫だ、降ろしてくれ」

全ての感覚を取り戻せたことでフィレスに降ろしてもらい周囲を確認。ヴィータやサブナック一佐の無事の姿をしっかりと視認する。そして「なんだ、あれは・・・!?」巨人へと目をやり、その光景に目を疑った。

――氷柱弾雨(セリオン・エクサラシオン)――

氷で出来た全高10m級の六角柱6本が巨人へと降り注ぎ、巨人を押し潰した。我々の攻撃を受けてよろけることさえしなかった巨人がいとも容易く湖面に伏せられた。フィレスが「あの魔法でさえも傷が付かないんですけどね」嘆息した。

「知っているのか? そもそもあの魔法は・・・まさか、セレスか!?」

「・・・カローラ家には、古代ベルカ式の魔法とデバイス以外にも、また別の魔法が代々受け継がれているんです。それが・・・」

「あの氷結系の魔法というわけか・・・!」

「はい。まぁ、強力な分、負担も代償も大きいですけど。・・・そろそろ私も参戦しないと。シグナムさんはもう少し休んでいてください」

そう言ってフィレスが巨人と戦うセレス達の元へと飛んで行った。そして、セレスと同じ氷の六角柱を8本と創り出して落下させ、起き上がろうとしていた巨人をまた押し潰した。

――制圧せし氷狼(インバシオン・ローボ)――

――氷星の大賛歌(カンシオン・デ・コンヘラシオン)――

遠目でハッキリとは見えないが、フィレスが狼を無数に放って巨人に突撃させ、セレスが砲撃を放ったのは判った。続けて首都航空隊員が砲撃を撃っていくが、カローラ姉妹のように通用することなく弾かれている・・・ようだ。巨人もカローラ姉妹を標的にして、負けじと十指から砲撃を放つ。

『シグナム! 手伝わなくていいのかよ!』

『あ、ああ!』

ヴィータの思念通話に頷き返し、カローラ姉妹の援護に向かうことを決意。“レヴァンティン”の柄を握り直し、2人と巨人の元へとヴィータと共に向かう。

「(シュツルムファルケンでの狙撃なら、少しは通ってくれるはずだ)・・・っ!?」

「っ!? なんだか知んねぇけどやべぇ!」

とんでもなく強大な魔力反応、そして濃い殺気。それらが巨人の頭上にある雲の奥から放たれてきた。私はすぐさま『フィレス、セレス、首都航空隊各員、その場から離れろぉぉぉーーー!』思念通話を巨人と戦闘中のカローラ姉妹や隊員たちに通す。

――轟風暴波――

そしてそれは起こった。上空から湖面へと向かって途轍もなく強大な爆風が吹いた。離脱を始めていたカローラ姉妹や首都航空隊を吹き飛ばし、そして・・・我々も吹き飛ばした。

 
 

 
後書き
グーテン・モルゲン。グーテン・ターク。グーテン・アーベント。
新年2発目の今話は、シリアス編の第1話となりました。そしてANSUR本編シリーズから「A.M.T.I.S.」の1機が登場です。A.M.T.I.S. Model Number/Type Artillery-0109/BERGELMIR。第一章にチラッと出した覚えのある機体で、当時の設定資料を読み直したところ、たまたま目に入ったので登場させました。読まなかったら新しい機体を出す予定だったので、コイツはなかなかに運の良い機体です(笑)
さて。エピソードⅢは日常編と事件編をごちゃごちゃにして投稿しますので、いきなり日常編になったり、事件編になったりとしますが、ご了承のほどを。
 
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