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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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■■インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ■■
壊れた世界◆生きる意味
  第五十九話 生きる意味:キリト&アスナ

「久しぶり……だな」
「お前なあ、久しぶりなんてレベルじゃないぞ。連絡絶ってからもう一ヶ月経つじゃないか、一応心配してたんだぜ。まさかシノンとパーティー組んでいるなんて……」
 キリトがちらりとシノンを見やると、シノンは肩をすくめた。
「口止めされてたのよ。知人との関わりを一旦絶って、自分を見つめなおしたかったんだって」
「『自分探しの旅に出ます』ってのは方便じゃなかったんだな……」
 キリトは呆れと感心がないまぜになったようなため息をつき、ミドリはむっとして言い返した。
「方便だと思ってたのかよ。俺はいつだって真剣だぜ」
「わかったわかった、疑って悪かったよ。それで、わざわざ訪ねてくるなんて一体どんな用なんだ?」
 ミドリがちらりとシノンに視線を送ると、彼女は心得ているといった調子でひらひらと手を振って部屋を出て行き、入れ替わりにアスナが入ってきた。部屋にはキリトとアスナ、ミドリ、そして先日から妙におとなしいストレアが残されている。
「あれ、しののんは話ししていかないの?」
「ああ、ちょっとな。聞かれたくないというより、彼女がそばにいると冷静に話を聞けない気がするものだから……」
「……ミドリ、ひょっとしてしののんのこと――」
「は? いやいやいや、そういう意味じゃないぞ、断じて!」
 ミドリが赤くなって反論するが、アスナとキリトはそんなミドリをにやにや笑いながら見つめた。ストレアがミドリをちらりと見たので、ミドリははっとして咳払いをした。
「ええと、それで本題に入りたいんだが――」
「そうね、ミドリとしののんの関係については今度じーっくり聞かせてもらうことにしましょう」
「勘弁してくれよ……。本題だが、かなり個人的なことを聞かせてもらうが、いいか」
「当然、内容によるわね」
 本題に入ると、アスナはさっと笑いを引っ込めて鋭い目つきになった。さすがは血盟騎士団副団長といったところか。

「君たちが戦う目的について、聞きたい」

 ストレアが伏せていた顔を上げた。キリトたちは思いも寄らなかった問いかけに対し戸惑い、顔を見合わせる。しかしキリトがすぐに答えを返した。
「ゲームクリアのためだ。百層をクリアし、現実世界に戻るために戦っている」
「それは全プレイヤーの開放ためか、それとも自分が現実世界に帰るためか」
 ミズキの畳み掛けるような問いに対し言葉に詰まり、キリトはアスナの方を見た。アスナが代わりに答えようと口を開きかけたが、しかしキリトは片手を挙げてそれを制し、力強く答える。

「どちらでもない。俺がアスナと一緒にいるためだ」

 アスナも頷き、自分も同じ考えだと示す。ミドリとストレアは予想だにしない答えに驚き、固まった。アスナがキリトの発言に補足する。
「私たちは今この場所で一緒に暮らしている。これはとても幸せなことよ。でも、この生活がいつまでも続くわけがないことも事実なの。現実世界では今、私達を救出するために様々な処置が取られているはず。本当に意識があるかどうかすら正確には分からない人たちに対して、決死の特攻――つまり、ナーヴギアの分解による救出作戦が実行される可能性もある。それは大げさだとしても、ベッドに縛り付けられている私達の健康だっていつまでも維持されるはずがないのよ。現実の体が病気にかかったとしても、具合の悪さを説明できない、感じることすらできない今の私達なんてまともに治療できないんだから。だから、私達はこの仮想世界を出て、現実でずっと一緒にいるため、ゲームクリアを目指しているの」
「そのとおりだ。俺たちはいつ死ぬかも分からない状況にいる。しかし仮に今死ぬとしたら、きっと後悔しか残らないだろう。だから俺は最後の一瞬まで、二人の未来のために戦い続けたいと思う。自分のできることを続けて、その道の半ばで死んだのなら、少しは後悔も薄いんじゃないかってね」

 ミドリは嘆息した。これが彼らの思いの丈なのだ。
 今度はストレアが質問をした。
「それじゃあ、ミドリの質問と重なる部分もありそうだけど……二人の生きる意味について、教えてほしいんだけど、いいかな」
 シノンからストレアの正体について説明を受けていたキリトたちは、ストレアがこのような問いを発すること自体に驚きはしなかった。単なる興味によるもの、つまり人間を理解しようとする行動だと誤解したのだ。
「俺の答えは、生きる意味なんて無いってところだな。俺たち人間はせいぜい80歳そこそこまでしか生きられない。人間という種自体の寿命に対して、圧倒的に短いんだ。だからこそ、俺は生きたいように生きる。どうせ意味のない人生、せっかくなら俺も周りも幸せな気持ちでいられるように過ごすのが一番だ」
 キリトの答えはいかにもキリトらしい答えだったので、ミドリは少し安心した。
「なるほど、ずいぶんと近代的な考え方なんだな。アスナはどうなんだ?」
「私は……『意味』っていうのが主観的なものだと思うから、キリトくんみたいに客観的に捉えるのは私の感覚とは少しずれてる。ある言葉が指す意味が場面場面によって違うのと同じように、意味っていうのは特別な、特殊なもので普遍性のあるものじゃないと思うの。だから、意味っていうのは誰にとっても同じ、客観的なものじゃなく、人によって違う、その人固有のもの、主観的なものだと思う。――だから私の生きる意味は、『私が私らしくいること』。他のいろんな人とは違う、『私らしさ』を持ち続けること。それが私の生きる意味よ。私の人生は他の誰にも決めさせない、私自身が進路を定めるんだ。そうやって生き続けることが、私の人生の意味よ」
 アスナの答えもアスナらしいものだった。主観的でありながら、他者を納得させる論理性を持っていた。
「ウェーバーっぽい考え方だな。主観的な意味を考える、か。……ありがとう、参考になった」
 ミドリとストレアが感謝して頭を下げると、キリトたちはほっとため息をついた。鋭い質問に思わず息を詰めていたのだ。
「それじゃ、お茶にしない? なんか妙に疲れちゃった」
「済まないな、考えにくい質問ばかりぶつけちゃって」
 いいのよいいのよ、と言いながらアスナはお茶とお茶菓子を持ってきた。それから小一時間、ミドリはシノンとの関係についてアスナから矢継ぎばやに質問を浴びせられたのは言うまでもない。


 その晩、ミドリとストレアは再び話し合った。
「なんていうか……すごかったね。あの二人」
「ああ。ゲームクリアに対する目的意識自体はあまり切羽詰まったものじゃなかったが、なんとしてもクリアするっていう強い意志があったな」
「それに、この世界に生きる意味についてしっかり考えてたね」
「そうだな。現実世界に普通に生きている時は生きる意味なんて考えないものだ。きっとこの世界に囚われた時に、生きる意味を考えたんだろうな。そうじゃなければ、こんな上層まで上り詰めることはなかっただろうから。俺たちみたいに、上層に降って湧いたような奴とは覚悟が違う」
「……ミドリは、生きる意味を量れた?」
 しかし、ミドリはストレアの質問に対しては苦笑を浮かべた。
「死ぬ覚悟ができたかっていうのと同じ意味だよな、それ。無理だよ。あいつらに比べて俺は弱い、生きる価値だって小さいだろうさ。でもな、だからって死ねるか?」
 ストレアも首を横に振った。ミドリは続けて言う。
「でも、キリトの……っていうよりアスナの話を聞いて、俺は何かに気づきそうな気がしたんだ。何か、すごく大事なことに」
 それは何? とストレアは視線で尋ねた。しかしミドリは答えない。答えがうまく言葉にできないからだ。

――そう、もしかして俺は……何か大きな勘違いをしているんじゃないだろうか。生きる意味の重さを量るのが大事なんじゃなくて……大事なのは、生きる意味……そのもの……? 
 

 
後書き
まあまあいいことがあったので推敲して投稿しに来ました。次回の投稿はいつになるか分かりません。
今回も『重要な話ほど短くなるの法則』が適用されております。たった3200文字程度しかありません。私の小説の平均文字数は4000超えてることを考えると、この話がいかに短いかわかりますね。ちなみに次回も重要な話ですが、今度は4800文字を超えます。今回と平均してちょうど一話あたり4000文字くらいですね。

春から書く予定の新しいシリーズの予告編を『つぶやき』に書きますので、SAOの二次創作ではありませんが、もし興味がある方がいましたら御覧ください。 
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