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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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■■インフィニティ・モーメント編 主人公:ミドリ■■
壊れた世界◆生きる意味
  第六十話 生きる意味:マルバ&シリカ

 
前書き
【これまでのあらすじ】
マルバの仲間であるミズキは,茅場晶彦との壮絶な戦いの果てに死んだ.しかし,カウンセリングプログラムと融合することで,彼は人知れずこの世に二回目の生を授かっていたのだ.マルバとミドリ(生き返ったミズキ)は再び一緒に行動するが,マルバはかつてのミズキを現在のミドリにどうしても重ねあわせてしまい,苦悩する.ミドリはそんなマルバから逃げ出して,新しい仲間と共に行動を開始する.その中で,新しい仲間の一人であるストレアが実はコンピュータプログラムであったことが判明し,そしてミドリはゲームクリアの果てにミドリとストレアは存在自体が消去されるということを知ってしまう.
彼らが生き残る道は,プレイヤーのゲームクリアを阻止して,この牢獄世界を永続させることだけなのだろうか…… 

 
 マルバとシリカ、ミドリとストレアの二組が互いにテーブルを挟んで向かい合った。マルバたちがミドリを冷たい視線で見つめ、ミドリは身を縮こまらせた。
「悪かったって……」
 ミドリが何回目か分からない謝罪の文句を唱えると、マルバとシリカは互いに目配せし合い、ようやく視線に込めた冷たさを和らげた。
「あのさ、勘違いしないでほしいんだけど、僕たちは君を心配してたんだからね? どんな事情があったにしろ、せめて理由くらい伝えていって欲しかったよ」
「それについては一応書き置きを……」
「あんな『自分探しの旅に出ます』なんてたった一言の書き残しであたしたちがミドリさんの考えを理解できると思ってたんですか? もう、ミドリさんはもっと慎重な人だと思ってたのに……」
 ため息をついたシリカに対し、ミドリはもう一度謝った。
「もういいです。ミドリさんにも思うところがあったんだなってわかりましたから。それで、今日は一体どうしたんですか? もしかして、戻ってくる気になってくれたんですか?」
「悪いが……そういうわけじゃないんだ。本当にすまないが」
「あっ、責めてるんじゃないんです。ミドリさんが元気にやっていてくれてるなら、それが一番です。一緒にいた最後の方、ミドリさんなんだかとっても辛そうでしたし……。今もなんだか辛そうですけど、一体どうしたんです?」
「……自分探しの旅はもう終わったんだが、今度は別の問題が出てきちまってな。その解決のために君たちの力を借りたいんだ。そのために、俺はストレアと一緒にここに来た」
 マルバとシリカがストレアの方をちらりと見た。彼女もユイと同じMHCPだということだが、やはり言動は人間にしか見えない。

「聞かせてもらっていいかな。……君たちは一体何のために攻略をしているの?」
 ストレアの問いかけに対し、シリカとマルバは再び視線を合わせ、少し考え込んだ。
「百層をクリアするため……っていうのは建前ですね。ただ下層で何もできずに震えているのは嫌だったから、だからわたしはマルバさんについて来たんです。わたしはマルバさんと一緒に居たくて、マルバさんを理解したくてここまで来たということもあります。あの時から、私の思いは変わっていない……と思います」
「僕もまあ、百層をクリアすることにそんなに意味があるとは思ってない。――明確に言葉にするのは難しいけど、僕は生きるために戦っている」

 生きるために戦っている。ミドリとストレアは、そしてシリカも、目を見開いてマルバを見つめた。マルバは慌てて説明を加えた。主にシリカに対して、であるが。
「ってそんな泣きそうな目で見ないでよ、シリカ。前の僕とは違うんだよ。あー……みんなにも説明するけど、以前、僕は百層を目指して、このSAOを攻略するために戦った戦士として名を残したいと思ってたんだ。道半ばで倒れたとしても、それはそれで意味がある人生だろうってね。死力を尽くした結果の死なら甘んじて受け入れようって思ってたんだ」
 この考えはキリトの死生観にも共通するところがある、とミドリは思った。シリカは目尻に滲んだ涙を拭うと、少し心配そうにマルバの話の続きを待った。マルバはシリカが拳を握りしめているのに気づき、その拳を自らの手で包み込んだ。大丈夫だから、と励ますように。

「前に、サチに対して語ったことがある。『人が生きる意味は、自分が生きた証をこの世に残すことだ』ってね。その考え自体は今も変わらないよ。でもね、未来ばかりを見てもダメだって気づいたんだ。あとで昔話として語られる人物になったら僕は満足できるかって考えたら、そうじゃないって思った。なにせ、その頃にはとっくに死んでるからね。そう考えたら、生きる意味なんて無いんじゃないかって思うようになった。でもさ……そんなのって悲しいじゃない? だからさ、僕は自分の生きる意味を僕が生きる時間、せいぜい八十年そこそこに求めることにしたんだ。そうやって考えていた時、答えをくれたのは君だったんだよ……シリカ」
 シリカは「えっ、あたしですか?」と驚き、ミドリたちも興味津々にマルバの話に引きつけられている。この場はマルバの独壇場だった。

「そもそも生きる意味って漠然としすぎてるでしょ。だからさ、僕はまず『生きる』ってどういうことなのかなって考えたんだ。生きるってどういうこと? 呼吸していれば生きているのか? 歩いてれば生きているのか? 食べて寝て、日中はぼーっとしている……そんなのは生きていると言えるのか? ――僕はそうは言えないと思う。人間にとって生きるとは、もっと違うことだと思うんだ」
 その時、ミドリがぽつりとつぶやいた。
「人間は考える葦である――」
「そう、その通り。人間は考え、それに従って行動する――つまり、人間の人間としての行動には必ず理由がある。そうじゃなきゃ人間とは言えないと思うよ。僕はとりあえず、生きるっていう漠然としたよく分からない行為について考える前に、まず人間の行動のいくつかを例に考えてみた。例えば――そう、勉強するという行為はどうだろうか?」

 マルバは一旦言葉を切った。全員がとりあえず自分にとっての『勉強する意味』を思い描くのを待ち、彼は言葉を続ける。
「僕は何のために勉強するのか? ……とりあえず、学校でいい成績をとるため。なんていうか単純だし微妙な答えだけど、それじゃ旅行する意味は? 読書する意味は? 歌を歌う意味は? サッカーをする意味は?」
 彼は再び言葉を切ったが、今度は全員が考えるのを待たずに再び話し始める。
「……全部全部、細々とした小さな『意味』に結び付けられているよね。それじゃあ、こういった細々としたことを全部まとめてみるとしよう。勉強すること、旅行すること、読書すること、サッカーすること……これらは、『生きること』の一例だったよね。それじゃ、そういった行動に結び付けられた目標を一つの言葉に表すと、どうなるかな」
 マルバはまた言葉を切り、今度は誰かが何かを言うまで待った。その場の皆はずいぶん長い時間考えこんだが、戸惑いながらも、その問いに最初に答えたのはシリカだった。
「……『理想のわたし』、だと思います。将来、なりたいと思う『わたし』」
「そう、そういうことだよ。だからさ、僕が考えた『生きる意味』っていうのは――」
「――『自分の理想像に近づくこと』、なんだね」
 ストレアがマルバの言葉に被せるように答えた。マルバがストレアの方を見ると、彼女はが何かとても大事なことに気づき、いたく感動しているのが分かり、彼は少し戸惑った。彼にしてみれば、百人いれば百人異なるだろう『生きる意味』の一例を挙げただけのつもりだったのだ。

「だからさ、ええっと――なんの話だったっけ。ああ、そうそう、何のために攻略を進めるか、だったね。ずいぶん遠回りしたけど、僕はようやくこの質問に答えることができる。僕は、自分が生きるために攻略を進める。これはつまり、理想の自分に近づくために攻略を進めてるってこと。そして僕の理想は――君だよ、シリカ」

 シリカが再び「ええっ、私ですか!?」と先程より大きな声で叫んだ。
「どうして! あたしよりマルバさんのほうがよっぽど――」
「人間味がなくて、理屈ばっかりの、頭でっかち」
「冗談やめてください! 中層で死ぬはずだったあたしを助けてくれたのはマルバさんじゃないですか! あたしはあの時までずっと、自分でこうやって先に進む力だって持っていなかった! あたしが始まりの街で震えてた間もずっと攻略を続けてたマルバさんがあたしを尊敬するなんておかしいですよ!」
「いや、冗談じゃないよ? 事実僕は君に会うまで、アスナも真っ青の『攻略の鬼』だったからね。見た目はそうじゃなかったかもしれないけどさ、君の言ったとおり、あの頃の僕はこの世界で生きる意味を果たして死ぬ気満々だったんだ。君が居なかったら僕はここには居ない。あの時から、僕の目標はいつも君だったんだよ。僕は君のようにまっすぐに、自分らしく生きたいのさ」
「マルバさん、バカですよ! 尊敬するならもっと他のがいるでしょう、こんなどこにでもいるようなあたしを目標にしてなんの意味があるんです!」
「僕は君がいいんだよ、シリカ。他でもない君がね」
「まだ言いますか! ああもう、マルバさんがこんなバカな人だったなんて思いませんでした、このバカ! バカバカばかぁ……!」
 バカバカバカと連呼していたシリカだったが、次第に涙声になり、罵倒の言葉も勢いを失っていった。誰かに無条件に信頼され、肯定されることが、どんなに安心感をもたらすものなのかということをシリカは初めて知ったのだった。しがみついてきたシリカの頭をマルバは優しく撫でた。


 ……さて、誰かを忘れていないだろうか。
 目の前で突如として繰り広げられたラブロマンスに対し、ミドリとストレアは気まずそうに顔を見合わせた。わざとらしくごほんごほんと咳をしてみるも、全く効果がない。ミドリは仕方なく声を張り上げた。
「おうい、お二人さん。聞こえるかい」
「――え? おわぅあ、ミズキ……じゃないや、ミドリ、ごめん。忘れてた」
 マルバは慌ててシリカから離れ、ミドリたちに正対した。
「俺達も十分聞きたいこと聞いたからもう帰るわ。だからごゆっくりどうぞ、と言いたいところだが、あいつは――アイリアは今どこに居る?」
「街に出かけてますよ。ミドリさんが来たってメールしたからすぐ帰ってくるはずです」
「そうか。それなら下の階で待たせてもらう。それじゃあな」
 ミドリたちは今度こそにやにや笑いと共に退出し、すっかり雰囲気を壊されたマルバとシリカはこれ以上イチャイチャする気にもなれず、互いに苦笑しあった。


 一方のミドリたちは、階下でマルバたちの話を聞いた感想を話し合った。
「どうだった?」
「そうだな、キリトやアスナともまた違った『生きる意味』だった。ストレアは何か気づいたか?」
「――『自分の理想像に近づくことが生きる意味』。もしそうだとしたら、私の目指すものは何なのかなって気になった。私がなりたい『私』について考える必要があるかな、って」
「なるほど……」
 頷いたミドリに対し、ストレアは昨日ミドリが話したことについて尋ねた。
「ねえ、ミドリ。君は昨日言ってた『大事なこと』って何なのか分かった?」
「……もう少しで言葉になりそうなんだが。俺達の生きる意味、俺達はなんのために生きるのか――それを考えれば、『俺達が生き残り、プレイヤーが救われない』か『俺達が消え、プレイヤーが開放される』かの二択じゃなく、何か別の、第三の選択肢が生まれそうな気がするんだ」
「第三の、選択肢……」
 ストレアがミドリの言葉をつぶやいたちょうどその時、扉が勢い良く開き、アイリアが駆け込んできた。

「よう」
「……あんたって人はぁッ!」
 アイリアが見たこともない剣幕でミドリに詰め寄り、思いっきり平手を張った。
「いッ――てぇ! いや痛くはないけどよ! いきなりすぎるだろう!」
「自業自得よ! あんた私が一体どれだけ心配したと!」
「悪かったってッ、うわぁぶつのやめてくれッ! いてぇ! お前なんかシリカに似てきてるぞ!」
「うるさいよッ! だいたいあんな手紙一つでなんの説明もなしに行くなんて、こっちのこと少しでも考えたの!?」
「だーから悪かったって言ってるだろーが! ちょっともうやめろ! ストップ!」
 ミドリがアイリアの手を握り、振り下ろされた手を受け止めた。するとみるみるうちにアイリアの目に涙が滲み、ミドリは言葉を失った。
「しんぱい、したんだからぁ……!」
 自分にしがみついて泣くアイリアの姿に、ミドリは今更ながら後悔の念に襲われたのだった。 
 

 
後書き
お久しぶりです.久しぶりすぎて忘れられているかもしれないマルバです.
この作品を通して,私は自分自身に「生きる意味」を問い直しました.そのとき思いついたいろいろなことを,作品に登場するキャラクターに喋ってもらっています.
なんだかどんどん複雑な話になっていて,ついていってくださる方も少なくなってきた気がしますが,今後もぜひよろしくお願い申し上げます! 
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