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昼は天使、夜は悪魔

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第二章


第二章

「登下校の時とかな」
 ほんの些細なデートだ。高校生によくある話だ。
「してるぞ」
「じゃあ今度は本格的なデートでもしてみろよ」
「本格的な?」
「そうだよ。休日に街に出たりしてな」
 そうしたデートを勧めるのだった。そっと囁いて。
「そういうデートはしたことないだろ?一回やってみろよ」
「本格的なデートか」
「それをやってこそ本当のカップルなんだよ」
 彼はこう言って恵一に勧める。
「だからな。今度彼女に言ってみな」
「ああ、わかった」
 恵一は彼の言葉に素直に頷いて答えた。
「それじゃあ今度の休みにでもな」
「ああ、ただし言っておくぞ」
 彼はここで恵一に忠告してきた。
「何をだ?」
「御前の趣味に合わせるなよ」
 デート全体を指し示しての言葉だった。
「俺の趣味じゃ駄目か」
「彼女の趣味に合わせろ」
 こう言うのだ。
「最初のデートでは女の子を立てるんだ。いいな」
「そういうものなのか」
「そういうものかって御前知らなかったのか」
 実は彼が女の子と付き合うようになったのはこれがはじめてなのだ。だからこそ舞い上がっているという一面もある。とにかく彼は今何も見えなくなっているのだ。
「そういうものなんだよ」
「そうか、わかった」
 あらためて彼の言葉に頷いて答える。
「それじゃあ彼女の趣味に合わせて」
「趣味はもうわかってるよな」
「勿論だ」
 好きな娘のことはすぐに何でもわかる、そういうことだ。人間好きな対象のことはそれこそどんな手段を用いても知ろうとする。彼もそうしたことでは同じでそれこそ必死に彼女のことを知ったのである。主に彼女の女友達から聞いて。その時もかなり暴走していて皆から引かれていたが。
「それこそ何でもな」
「何でもか」
「そうさ、眼鏡の好みまでな」
 そこまで調べていると豪語してきた。友人達もそれを聞いてまずは納得するのだった。やはりかなり引くものがあったが。
「そうか、ならやってみな」
「ああ。まずはだ」
 早速シュミレーションに入る。それと共に彼女にも声をかける。彼女の名前は橘弥生という。この名前も彼に言わせれば可憐で最高の名前になる。とかく彼女に首ったけな恵一だった。
 彼女の方はよしだった。デートの申し入れを笑顔で受ける。それもその筈でそもそも彼女から告白してはじまった交際だからだ。その相手からデートを誘われて断る。娘もまずいない。
 かくしてその休み。待ち合わせ場所は彼女行きつけのアクセサリーショップ。赤とピンクにそれにフリルヒラヒラの如何にもといった看板が乙女チックを醸し出している。
 そこに大男が立っているというのも異様な光景だった。しかし彼はそれでも待っていた。ここで待ってそれからすぐに店の中へ行くつもりだったのだ。彼女に合わせて。
 暫くしてその彼女がやって来た。ふわふわとした草色のロングスカートに白いシャツ、淡いピンクのカーディガンだ。靴下は清楚な白だ。そしてその丸眼鏡と黒く長い三つ網。そういったものを見ただけでもう恵一はその目をハートマークにさせてしまうのだった。
「待った?岩尾君」
「いや、全然だよ」
 その大きな身体を弥生にたなびかせるようにして答える。
「僕も今来たところだよ」
「そう、よかった」 
 弥生は彼のその言葉を聞いてまずは微笑む。
「私自分が遅かったんじゃないかって思って驚いたのよ」
「あれ、時間は丁度だけれど」
「それでもよ」
 その清らかな顔で微笑んでの言葉だった。
「岩尾君がもう来てるから。そう思って驚いたのよ」
「そうだったんだ」
「ええ。ところで」
 ここで弥生は話を変えてきた。
「何?」
「この店ね、私大好きなのよ」
 その顔が今度はにこやかな笑みになる。少女そのままの屈託のない笑みだ。恵一はその笑みを見てまたメロメロになるのだった。
「そうだったんだ」
「そうなの。ここを待ち合わせ場所にしてくれて有り難う」
「ううん、ただ何となくここにしようって思っただけだから」
「何となくなのね」
「そうだよ、何となく」
 こう答えるが真実は隠している。
「だから気にしないで」
「そうなの」
「そうだよ。じゃあ中に入るわよね」
「ええ」
 恵一の言葉にこくりと頷いてきた。
「それじゃあ」
「橘さんはどんなアクセサリーが好きなの?」
 恵一は店に入る時に弥生にそれを尋ねた。木が碁盤の目の様にガラスを入れたその扉の向こうには様々な品物が二段のテーブルや壁にかけられているのが見える。大きい品物もあれば小さな品物もある。またそういったものを見て楽しむ女の子達の顔も見える。
「ブレスレットとかペンダントかしら」
「ペンダントが好きなの」
「そうなの」
 恵一の言葉にこくりと頷く。
「銀色のが特に」
「ふうん、そうなんだ」
 それを聞いて納得した顔になるが実は違っていた。これも先に彼女の女友達の何人かから聞いて調べていた。だから今のやり取りは彼の情報収集からシュミレーションしての計画的なものである。ただしそれは当然ながら彼女にはあくまで秘密である。
 
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