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イリス ~罪火に朽ちる花と虹~

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Interview5 大遅刻ファースト・コンタクト
  「ジョウトウクだってパパが言ってた」

 ヘリオボーグ研究所に来るまでも、ルドガーは借金に悩まされた。
 ヘリオボーグに入れるだけの返済のため、休みなくクエストに通っては魔物退治や届け物の調達・配達を行った。

 有難かったのはレイアもエルもルドガーに笑いかけ、何でもないという顔で手伝ってくれたことだ。

 クエストのための拠点にした安宿のブラウン管TVや新聞の一面は、どこも「ユリウス・ウィル・クルスニクはテロ首謀者」という見出しで踊っていた。
 現状、冤罪とはいえ兄は重犯罪者。弟は破産寸前の借金まみれ。
 そんな身の上なのに、レイアもエルもルドガーを見捨てなかった。だから、ルドガーは頑張れた。

 そしてついにヘリオボーグへの移動許可が下りたとノヴァから電話があった時。電話を切ったルドガーはレイアとエルをきつくハグしていた。

 3人はついにヘリオボーグに着き、巨大研究所に足を踏み入れる――運びとなるはずだったが。


「もしもし、ジュード? レイアだよ。今、ヘリオボーグ研究所の玄関前。出て来られる? ……え。手が離せない? 分かった。じゃあこっちから行かせてもらうよ。いいんだね? ……おっけー」

 レイアは電話を切って、GHSをポケットに入れた。

「面会許可下りたよ。ジュードの研究室、こっち。行こ?」

 レイアが進むままに、ルドガーとエルは付いて行った。レイアは、複雑な造りであろう研究所をすいすい進む。きっと「ジュード」に会うために何度も通ったのだろう、とルドガーはやけっぱちな結論を出した。

 やがてルドガーたちは一つの研究室のドアの前に着いた。研究室のネームプレートには「Matis Labolatory」と刻印してある。


「ジュード~。来たよ~」

 すると一拍置いて、どさどさどっさー! と、積み上げていた物が崩れたような音がした。

「……大丈夫なのか?」
「いつものこと、いつものこと」

 レイアが笑顔なので、まあ大丈夫なのだろう、とルドガーは思った。ついでに、顔しか知らぬ恋敵に「ざまみろ」とも思った。

 ドアがスライドして、中から白衣の小柄な少年が現れた。

「い、いらっしゃい。久しぶり、レイア……と?」
「前に話したでしょ? ルドガー・ウィル・クルスニクさん。仕事手伝ってもらってるって」
「ああ。そっちの子は?」
「エルはエル。エル・メル・マータ」
「ナァ~」
「と、ルルっ」

 エルはルルを抱き上げた。

 少年はルドガーに右手を差し出した。

「ジュード・マティスです。レイアとは幼なじみなんです。よろしくお願いします、ルドガーさん」
「ルドガーでいいよ。俺もジュードって呼んでいいかな」

 ジュードは破顔した。両者の手が重なる。

「もちろん。じゃあ改めて。よろしくね、ルドガー」
「よろしく、ジュード」

 よろしく、恋敵さん。――ルドガーは心中のみでこっそり呟いた。

「込み入った話になるから中入りたいんだけど……いつも通りね」

 研究室の中を覗き、ルドガーも理解した。
 あちこちに乱雑に文書や資料が積まれ、床までそれが侵食している。

「どこに何を置いたかは把握してるんだけど……」
「それ、片付けられない人のジョウトウクだってパパが言ってた」
「エルのパパは厳しいなあ」

 とりあえず専門書や資料を隅に避けて、座れるだけのスペースを確保した。
 対談形式になって、ルドガーはようやく話すことができた。

 列車テロに巻き込まれてから発現した謎の異能。
 同じチカラを持つらしいのに教えてくれなかった兄。
 そして、蝕の精霊を名乗ったイリス。

「――と。こんな感じだったんだけど……」

 するとジュードは、好奇心でも畏怖でもない――憐憫を、ルドガーに向けた。

「そっか。ここに来るまで本当に大変だったんだね。僕が言うのも変だけど、うん、お疲れ様、ルドガー」
「あ……」

 暖かい。
 レイアといい彼といい。どうしてリーゼ・マクシアの人たちはこんなに暖かく接してくれるのだろう。

 望まない形で借金をしたルドガーでも、債務と移動制限のせいで人が離れていくのは理解できた。もしも知り合いが同じ立場になれば、関わりは避けたいと思う程度には、ルドガーは平易な感性の持ち主だ。

 その視えない壁を、レイアもジュードも易々と越えて来た。

(特にジュードは。結構前から勝手に恋敵だと思って敵視してたから)

「ど、どうかした!? 僕、何か変なこと言った?」
「言ってない。ただ、ちょっと前の俺ブン殴りてえ~、って思っただけ」

 ジュードは首を傾げていたものの、理由が理由だけに言えないルドガーだった。 
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