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イリス ~罪火に朽ちる花と虹~

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Interview5 大遅刻ファースト・コンタクト
  「退屈しないでしょう?」

 彼らは現在分かる情報で「イリス」に探りを入れ始めた。

「蝕の精霊イリス、か……人間形態を取れるとなると大精霊クラスで間違いない。今確認されてる大精霊は、四大精霊で、炎のイフリート、水のウンディーネ、風のシルフ、土のノーム。氷のセルシウス。雷のヴォルト。精霊を束ねる主……マクスウェル。言い伝えも加えると、光のアスカ、闇のシャドウ、冥界の王プルート。そのイリスも大精霊と仮定すると、どこかしらに伝承があってもおかしくないはずだけど。蝕、ねえ」
「わたしも聞いたことないなあ。エレンピオスにしかいない大精霊……にしてはこっちで働き出してからそういう話聞かないし。ねえ、ジュード。今日はバランさん、いないの?」
「いや、いるよ。リーゼ・マクシアからの親善使節団の案内中。もしかしてバランさんに聞こうと思った?」
「バレたか」
「これでも長いこと幼なじみやってるからね」

 朗らかに言い合うレイアとジュードに色めいた空気はない――と思いたい。




 エルは、ルドガーとジュードたちの話し合いを聞きながら、一人ふて腐れていた。

 ルドガーたちはイリスが「何か」ばかりを話し合い、イリスが今「どこにいるか」を話題に上げることはなかった。不毛な意見交換だ。ここにいてもエルの欲しいイリスの手がかりは手に入らない。

 そう判断したエルは、ルルに「しーっ」と指を立てつつ、自らの小柄さを生かして、ジュードの研究室から脱走した。

 脱走――したはいいのだが。

 エルにも行く宛てがあったわけではない。なのでエルは、足の赴くまま、気持ちの赴くままに施設を歩き、登り、降りた。
 もちろんそんなことをすれば結果的には。

(まよった……)

「ナァ~」
「へ、ヘイキだし。すぐ帰るんだから」

 エルは大股で進み始める。ルルも付いて来る。ちなみに、反対方向である。

「あの、どうかしたの?」

 急に話しかけられたエルは、ルル並みの俊敏さで飛びずさった。

「え、あ、あのっ」

 女の子だった。童話の中の木の精霊(ドライアド)がそのまま出てきたような、エルより少し年上だろう少女。

「ここの職員さんのご家族ですか? ひょっとして……迷っちゃった?」
「エル、迷子じゃないしっ」

 女の子はきょとんとする。エルはますます真っ赤になった。引っ込みがつかない。

「た、たんけん! タンケンしてるの! ここ広いし、一緒にいる人たちがオトナの話してるから、だからエルだけタイクツでっ」
「探検ですか。それは――」

 女の子はニコリと笑った。

「楽しそうですね。わたしも混ぜてくれませんか?」
「えっ」
「どうせならガイドさんがいる探検のほうが退屈しないでしょう?」

 女の子が指さしたのは、彼女と同年代の集団、それに施設の説明をしている職員らしき白衣の男だった。

 ここで断ると、エルはまたルルとふたりきりに戻って、ルドガーの下へ帰れなくなるかもしれない。
 それは、困る。
 ルドガーはイリスに繋がる人で、イリスはカナンの地に繋がる人だ。
 カナンの地がどこにあるか知るためには、ルドガーのところへ帰らなくてはならない。

「そこまで言うんなら、イッショに行ってあげてもいいよ」
「はい、一緒に行きましょう……ええっと。わたし、エリーゼっていいます。あなたは?」
「エル。エル・メル・マータ。この子はルル」
「ナァ~」
「エルにルルですね。仲良くしてください」

 エリーゼは大人びた顔でエルに笑いかけた。エルはつい彼女の笑顔に見惚れたが、それが恥ずかしいことに思えて、エリーゼより先に一団と同じ方向へ歩き出した。そんなエルに、エリーゼが苦笑していたとも知らずに。




「はいはーい。ちょっと天気が悪くなってきたみたいだから巻いて行くよ~。質問があったらスピーディに言ってちょーだい」
『『『はーい』』』

 行儀よく返事をするのは、エリーゼと同年代の少年少女。しかし、エルからすれば年上の集団である。ぴったりと混ざるのには抵抗があった。

 最後尾についたエリーゼの、さらに後ろから、エルは付いて行った。

 小さな雷鳴が、生じた。

「ひぅっ」

 エルは思わず先を行くエリーゼの背中にしがみついていた。

「雷、こわいんですか?」
「ぁ、あ、ぅ」

 エリーゼが言葉を続ける前に、先より大きな雷鳴が轟いた。
 巨大な光のフラッシュは、エルの心の中にもフラッシュのようにいくつもの光景を瞬かせた。


 ――トリグラフ中央駅10時発の列車――カナンの地――約束―― 一緒に来るか――ホントの約束は目を見て――いっしょにカナンの地に行きますっ――××を壊す仕事なんてあるわけ――わたしが必ず××××××を連れて――お願い、エルを――思い出なんてまた作れば――約束より大事なものがある――俺は××××にエルを助けてくれるよう――

 エルは両手で頭を抱えて蹲った。

「あああああああああああああっっ!!!!」
「エル!? しっかりしてください! エル!!」
「ナァ~!」



 3度目の雷鳴の直前、二人の少女が消えたことに案内役のバランが気づくのは、このすぐ後の話。 
 

 
後書き
 タイトルは言わずもがなルドガーとジュードの出会いのタイミングです。エリーゼとエルは正しい?タイミングで会っているのにねえ。

 そしてここでエルの意味深さをさらに深める描写をして自分で自分の首を絞める作者orz ……いやまあ拙作でのエルが何者なのかはもう決めてあるのですが。

 そしてお待ちの方がいるかは分かりませんが。
 次回からイリス、本格参戦です。 
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